「やぁ、どうも。地球の皆さま初めまして。私の名前はギガントクルス・・・もっと濁点が多い方が強そうだけれども、『クルス』の部分が優雅で自分では気に入っているんだ。
さて、私の目的は皆様を恐怖と絶望のどん底に叩き落とすこと。何故って?それが、恐怖と絶望の感情が私の大好物だからだ。私はね、自分の好きなモノを沢山食らいたい。ただそれだけなのだよ・・・」
世界中の全てのテレビ、携帯、PC等々・・・ありとあらゆる全てのモニターに、悍ましい異形の姿が映し出された。月明かりに照らされて、ソレは酷くザラザラした声でそう語り始めた。無数の怪獣の顔が寄り集まって出来た姿。ソレが喋る度に頭部の顔が一斉に蠢いている。
その姿は見る者の生理的嫌悪を呼び起こしてしまう。その姿は、声は、例えテレビの電源を消してもPCを落としても、スマホの電池を取り外しても尚そこに映り続け、声を発し続けた。
「手始めに、君たちの希望を破壊することにするよ。」
ギガントクルスがそう言うと、ソレの目の前に仰向けに倒れていたルシアをどす黒い瘴気が包んだ。
「あぁぁああああ・・・うぁああああああああ・・・」
嬌声にも似た苦悶の声が上がる。苦しげに喘ぐ度に、小さな胸が上下する。
「はぐぅ・・・うぁ・・・あぁあああああ・・・」
もう何の力も残されていない赤い女神を瘴気が嬲っていく。灼熱の炎に焼かれる感覚と、凍てつく吹雪に曝される感覚。全身を切り刻まれるような感覚と無数の手で弄ばれるような感覚・・・ありとあらゆる苦しみ・痛み・恥辱がカラダ中の内から外から同時に襲いかかって来る・・・
通常なら一瞬で死んでしまうほど責め苦に襲われて、人類の希望が成すすべなく喘いでいる。
「ほら、いつまで寝ているつもりだい?」
異形のその言葉と同時に、瘴気に包まれたルシアのカラダが起き上がる。まるでどす黒い手に掴まれて無理矢理引き起こされたように。
「んぁぁ・・・くぁぁぁ・・・あぁぁあああああ・・・」
「さぁ皆さんに挨拶をしたらどうだい?・・・と言いたいのだけれど、その様子ではどうも無理みたいだね。この世界を守り続けた赤い女神の最期にしては少々味気ない気もするが、まぁ世の中というのはこんなモノだろう。」
そう言い捨てると、ギガントクルスはルシアに向けて指をさした。その指先からどす黒い光線が、ルシアの胸元のオーヴへと放たれる。
「うぁああああああああああああ・・・」
バチバチバチバチ!火花が飛び散り、ルシアのカラダが激しく明滅する。
「あぁぁああああ・・・もう・・・もう・・・ぁああああああああ・・・」
ピカッ!!!
激しい光を放った後、
赤い女神がいた場所に・・・裸の少女が宙に浮かんでいた。
無理矢理変身解除されたルシアのカラダが、ガクン・・・落ちて地面に叩きつけられる前に、ギガントクルスの手が彼女を掴んだ。
「ひぁああああああああ」
異形の巨大な手に握られて悲鳴をあげる美少女。無数の怪獣の顔にしゃぶられ舐られ噛まれて喘ぐ無力な少女の姿が、人々の目の前に突きつけられる。
「見たまえ!今まで君達を守ってきたのはこの可憐な少女なのだよ。傷つき苦しみ悶え、それでも戦い続けた赤い女神の正体は、この小さな少女だったのだよ。どうだい?泣けるだろう?感動するだろう?そして今この彼女は、その身を嬲られながら最期の時を迎えるわけだ。恥辱と苦痛に満ちた最期をね。」
ゴキ!・・・ゴリゴリ!・・・バキッ!!!
「ぐぁあああああああああ・・・!!!」
カラダ中の骨が折れて砕けて、異形の手の中で少女の悲鳴が上がる。その手の中でビクンビクンと身を震わせながら悶えている。
「おや?これで死んでしまうと思ったのだが・・・もしや君は・・・」
ダダダダダダダダ!!!!
本間隊長の戦闘機がギガントクルスに向けて機銃を放つ。その攻撃が効くとは彼自身も思ってはいない。ただ、苛立ったギガントクルスが彼に向けて攻撃することによりルシアを手放せば・・・
彼女が助かる可能性を1%・・・いや、0.01%であっても上がる見込みがあるなら、自分の命を投げ出すなど安い買い物だ。彼はそう判断したのだ。
だが、ギガントルシアは戦闘機を落とすのに手を使うことなど必要としなかった。
ただ、深く息を吐いただけで、凄まじい濃度の瘴気が戦闘機を包んだ。
「・・・っ・・・!!!」
瞬間、彼は意識を失ってしまった。戦闘機の全ての機能が破壊され、真っ逆さまに地面へ向けて落ちていく。
ふわっ・・・柔らかい手が戦闘機を受け止める。
「なるほど・・・アンタが親玉ってやつなのね。」
隊長の戦闘機を優しく手に持ちながら、ノアがギガントクルスと向き合う。
「あぁぁ、そう言えばもう一個いたなぁ。人類の希望が。」
その声を聞くだけで、ノアの背にゾワゾワしたモノが走る。対峙するだけで放たれる瘴気に、どうしようもなく苛まれてしまう。
「おやおやお嬢ちゃん、まさか私に敵うとでも思っているのかい?」
「うぁぁぁ・・・ノアちゃん・・・逃げて・・・私は・・・大丈夫だから・・・」
必死なルシアの言葉に、
「会話に割り込んでくるのは良くないなァ。」
ガキンゴキンバキン!!!
ギガントクルスの手の力が強くなり、
「あぁあああああああああああ!!!!!!」
ルシアの悲鳴が上がる。その悲鳴にノアは泣き叫びたくなるのを必死に堪えて異形に語りかける。
「見た所、アンタの体は沢山の怪獣の魂?みたいなモノで出来ているみたいね。」
「えぇ。その通り・・・全ての怪獣の力を私はこの身に宿しているわけだよ。」
ギガントクルスは応える。
「ふふふ・・・馬鹿ね・・・怪獣には強いやつもいれば、弱いやつもいるのよ・・・アンタの敗因は、何も考えずにその体を作り上げたことね。」
「どういう意味かね?」
「分からない?・・・致命的な部分に、弱点があるってことよ!」
そう言うと、ノアはエナジーを細い針にして飛ばした。
その刹那、ギガントクルスの脳裏に様々な思案が巡る。
―――どうせハッタリだ。
―――いや、真実を付いているとしたら?
―――構う事はない。私が負けることはないのだから。
―――だが、万一の事があったら・・・
今まで数えきれない次元を渡り歩き、数えきれない世界を壊してきた彼だからこそ、最適解を瞬時に導き出す。
―――どうであれ、防いでしまえば問題ない。
ギガントクルスは、とるに足らないと思われる攻撃を防ぐことにした。念には念を入れて、両手で。
ルシアのカラダを手放してしまうけれど、地面に無様に叩きつけられるだけだから何の問題も無い。
大事なのは、少しの可能性でも徹底的に潰すことだ。念に念を入れて徹底的に叩き潰してすり潰して、深い深い絶望へと落とすのだ・・・
それは確かに最適解だった。
そしてノアは・・・
目の前の異形が最適解を導き出すことを確信していた!!
両手をガードに回すギガントクルス。
ルシアのカラダが離され、落ちていく。
ノアはその瞬間、自分の魂を燃やした。
愛するママから生まれて、そして、闇に落ちてもなお光へと導いてもらえた。そのママの為に、彼女は魂を燃やした!!!
ギガントクルスへと向かって跳び、ルシアのカラダをキャッチした後、隊長が乗る戦闘機とルシアを大事に抱えたまま、
ノアは全速力でその場から逃げた!
魂を燃やして、できうる限りの最大速力で、
彼女は逃げた!
たとえ自分がどうしようともギガントクルスには敵わない。ノアにはそれが瞬時に分かった。
だから、
次に繋ぐためにこの命を使う。
隊長と、ルシアさえいれば、きっと、何とかしてくれるから。
この二人さえいれば、明日の希望が繋がるから!!!
「逃げられると思うのかね?」
ギガントクルスはノアに向けて瘴気を放った!
それはどす黒い雲となり、ノアのカラダを包んでいく。
「はぅ!・・・んぁああああっ・・・くぁああああああ・・・」
ノアはその身を瘴気から守る為の力を、隊長とノアを守る為だけに使った。カラダが侵食されていく。青虫に食べられる新緑のように、カラダが、魂が蝕まれていく!!
「んン・・・くっ・・・ま・・・負けないっっ!!!!」
それでもノアは飛び続けた。
元々は、悪意を持ったモノによって生み出された存在・・・本来なら、この世に生まれることはなかったハズのこの身。
それがここで絶えようとしたところで、それが一体何だというのだ!
ノアに向かってナニカが飛んできた。ソレはどす黒い瘴気で造られた魚。空飛ぶ無数の魚はノアのカラダに噛みついて、物理的に少しずつ食い荒らしていく。
「っっつぁああああああああ・・・」
ふらっとカラダが傾く。激痛に意識を手放してしまいそうになる・・・
突然現れた自分を受け入れてくれた、優しい仲間たちの顔が思い浮かぶ。やたらと子供扱いしてきたアイツ。お洒落を教えてくれたあの人。からかうとすぐに熱くなって面白かった雨宮イノリ・・・そして、不思議と他人とは思えなかった・・・まるで・・・ずっとずっと昔から知っていたかのような、片桐シュン・・・
「セイラーーーーー!!!!」
心の中で、シュンがそう叫んだ気がした。
―――ふふふ・・・間違って妹ちゃんの名前を呼んでいるんじゃないよ―――
そう呟いたあと、でも、そのシュンの声で力が沸いてくるのを感じた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
瞬間・・・ノアは光になって・・・・
そして・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・一週間後、目を覚ました本間隊長が知ったのは、あまりにも悲惨な現状だった。
ギガントクルスと名乗る異形は、世界中のありとあらゆる都市や町、人々の生活するところに現れて、少しずつ破壊を繰り返して去って行く。敢えて全て破壊しないのは、その目的が人類の破滅ではなく、人々に恐怖と絶望を与える事だからだ。
その破壊の様子は、強制的に支配されたモニターに映し出されて、誰もが否応なしにそれを見せつけられることになる。
ピシピシと音がしたらソレが現れる合図。その音と共に空間にヒビが入る。ヒビは段々と大きくなり、そして大きく割けた空間の傷跡からギガントクルスは現れる。そして気のすむまで人々の営みを蹂躪したのち、その空間の割れ目へと入り去って行く。
ソレがいなくなった後は空間の割れ目はすぐに閉じ、跡形もなく消えていく。
人類は今や、ただ生かされている家畜と同じだった。いつ来るか分からない破壊に怯え、強制的に見せつけられる映像に絶望し、疲弊していった。
そこには、もうなんの希望も無かった・・・
「・・・それから・・・ノアちゃ・・・ノア隊員の事ですが・・・」
報告によれば、ノアの命に別状は無いという。隊長よりも早く目覚め、カラダのどこにも異常や変調は見られないという。
その報告を聞いて隊長はホッと息をついた。
「ですが・・・目覚めた彼女は私たちのことを何も覚えていないようで・・・ルシア隊員のことも、自分が変身し怪獣と戦っていたことも、何もかも忘れてしまっているようです。」
そこまで報告した隊員は、キュウと下唇を噛んで、やりきれない表情をした。
ふぅと息を吐き、隊長が口を開いた。
「寂しいですが・・・でも・・・彼女には、ここでの日々を忘れたままでいてくれた方が・・・幸せかもしれませんね。」
そこで一旦言葉を区切ると、
「彼女は信頼できる人物の元に預けましょう。そしてそこで、どこにでもいる普通の少女として、幸せな人生を送ってもらいましょう。」
どこか遠くを見ながらそう続けた。
どこにでもいる普通の少女として、幸せな人生を送ってもらう・・・そのためには、なんとしてでも今ある大きな絶望、ギガントクルスを倒さねばならない。
「ルシアさんは・・・ルシアさんは大丈夫ですか?」
隊長の問いかけに、目の前の隊員の顔が更に曇った。
「命に別状は無いのですが・・・苦しそうに呻いていて・・・ドクターが言うには体内に残留している瘴気の残滓に今も責められているとのことです・・・」
「そうですか・・・」
隊長は拳を強く握りしめて、こう言った。
「今すぐ皆さんを参謀室に集めて下さい。ここからは反撃の時間です。」
穏やかな声の奥に、激しい感情が渦巻いていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
大きなモニターに、幾つものデータが表示されている。最先端のテクノロジーが詰まったモニターを眺める隊員達は、キシキシと音をたてる古いパイプ椅子に座っている。そう広くはない部屋に、ぎっしりと人が詰まっている。本来この参謀室で行われる会議には、少数の幹部クラスの人間しか参加できない。だが、隊長はあえて希望者全員に今回の会議の参加権を与えた。
結果、暖房を必要としないほどの熱気がその場に立ち込めていた。
「・・・以上のデータから推測されるに、目標の潜む空間内部の座標と、こちらの世界の座標が一対一で対応しているわけでは無く、目標は常にある一定の座標軸からこちらの世界の任意の空間に現れるということが分かりまして・・・」
「ちょっといいですか?」
化学班の言葉を遮ったのは、今や戦闘機部隊のエース候補とまでなった片桐隊員。
「なんでしょう。」
科学班の男は少しも嫌な顔をせずに応じた。
「もう少し分かりやすくお願いします。」
その言葉に、科学班の男は二三秒考えてから、
「どこでもドアです。」
と答えた。
「対象・ギガントクルスの住処である空間にどこでもドアが一個あると思って下さい。奴はそのドアを通じてこの世界にやってきているのです。」
「ということは?」
「そのどこでもドアを壊してしまえば、ギガントクルスはもうこの世界にやって来ることが出来なくなります。」
その言葉に、
「おぉーーー!!!」
という声が室内に響き渡った。
「我が班は今、空間固定装置・・・どこでもドアに板を打ちつけて開かなくする装置を、急ピッチで開発中です。」
「それはいつまでにできますか?」
隊長の質問に、科学班の男は胸を張って答えた。
「あと5日・・・いえ・・・3日で完成させます。」
「いえ、10日でお願いします。」
隊長の意外な言葉にその場がどよめく。
「10日間で、その装置を3台お願いします。」
その言葉に、
「はい!」
科学班の男が力強くうなずいた。
「さて・・・問題はいつどこに奴が現れるか・・・ですね。」
隊長の発言に室内の空気が淀んだ。暖房が効いているにもかかわらず、冷たい風が吹き込んでいるかのようだった。
こちらがその装置を用意していても、相手はどこにいつ出現するか分からない。それにまともに対応しようとしたならば、装置が何台あっても足りることはない。
「私に任せて下さい!」
その言葉を発したのはルシアだった。きちんと制服を着ているのだが、顔は火照り汗ばんでいて、息苦しそうである。だが、必死に何でもない様子を装って、今も蝕まれているカラダに鞭打ちこの場に現れたのだ。
「私が・・・私が変身したら、奴はきっとそこに現れます・・・私を殺して、人々を更に絶望させるために・・・」
「ルシアちゃん何言ってるの?あなたそのカラダで戦えるワケないじゃない。」
雨宮イノリがルシアに声をかける。
「大丈夫。私は囮になるだけ。立っていればそれでいいの。その・・・仕事をするのは、どこでもドアを壊す装置。ですよね?」
「はい。任せて下さい。」
科学班の男は、ルシアの目を真っすぐ見てこたえた。
「分かりました・・・ルシアさんと、その・・・どこでもドアを壊す装置を軸に、作戦を立てていきましょう・・・」
・・・人類の未来を賭けた戦いの準備が、ちゃくちゃくと進んで行った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そして運命の日は訪れた。
怪獣に破壊された街。その廃墟に、赤い女神が立っていた。その背後には戦車部隊。そして近くに戦闘機部隊がいつでも飛び立てるように待機していた。
雲一つない爽やかな冬の朝。人類の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。
ピシ・・・ピシピシ・・・
音を立て空間にヒビが入っていく。それと同時に、世界中のモニターに赤い女神の映像が映される。
―――ついにあの赤い女神が破壊されてしまうのか―――
深い絶望と、
―――それでも、あの女神ならきっと何とかしてくれる―――
微かな希望とが人々の心に入り混じった。
だが、今回の主役は彼女ではない。
「今です!」
隊長の指令と同時に、
ブォン!
ビルの残骸に塗れたパラボラアンテナから、青い光一筋空間の裂け目に向かって伸びていった。その光線は細かく波打つように動き、そして空間の裂け目を縫っていく。
クックック・・・その様子を見てギガントクルスは喉を鳴らして嗤った。
「なるほど・・・そういう事か・・・実にいい。実にいいね。足掻けば足掻くほど、その後の絶望は深く、そして実に味わい深いものになるからね・・・」
ガっ!!!・・・異空間から突き出された大きな手が、空間の裂け目の淵を掴む。そして、
「力仕事は嫌いなのだが・・・まぁ、苦手ではないのだよ。」
ギガントクルスはそう言って、縫い閉ざされようとしていた空間を大きく引き割ろうとする。
バリバリ・・・バリバリバリ・・・装置から嫌な音がし始める。青い光線は徐々にほどけ、空間が開いていく。
「第二弾!発射!」
二機目の装置が唸りを上げ、もう一筋の青い光を放つ!
「ふむぅ・・・数を増やせば何とかなると思ったのかね?・・・何とも健気な抵抗だ・・・だが、私の前では全て無意味だ!!!」
一旦は閉じようとしていた空間の裂け目が、また徐々に広がっていく。
―――やっぱり、そう甘くはいかないようね・・・―――
ルシアは一つ深い息を吐くと、
「隊長・・・私が突撃した後、三台目の起動をお願いします。」
そう告げて、赤い流星となり空間の裂け目・ギガントクルスに向かって行く。
―――イノリちゃん・・・嘘ついてごめんね―――
彼女の胸に去来したのは、親友との会話・・・
・・・こうして二人で朝ごはん食べていると、出会った頃のことを思い出すね。」
それは作戦前日の朝のこと。雨宮イノリとルシアはゆっくりと食事をとっていた。二人が暮らした部屋。最近までは、ノアも合わせて三人で住んだ部屋。
綺麗に掃除された部屋を、カーテンを空かして冬の日差しが照らしていた。
「今だから言うけど・・・」
サラダにドレッシングをかけながらルシアが口を開いた。
「最初、イノリちゃんの部屋が汚くて・・・びっくりしたよ。」
「まぁ、昔はそうだったね。」
目玉焼きに醤油をかけながら、イノリが答える。
「今は違うみたいじゃない?」
「そりゃぁ、成長しますから。」
「この部屋の掃除、ほとんど私しかしてないのに?」
「私だって、やろうと思えばやるんだよ。」
イノリの言葉を聞いて、
「そうなんだ・・・ならよし。」
ルシアは笑って、トマトを口に入れた。
「ルシアちゃんさ・・・」
目玉焼きをお箸で器用にご飯の上にのせながら、イノリが言葉を続ける。
「いなくならないよね?」
お味噌汁のお椀を掴みかけたルシアの手が止まる。
「どうして?」
「ルシアちゃん・・・よく言ってたじゃない。自分は怪獣から人々を守る為に生まれたって・・・」
「うん。そうだよ。」
「だからさ、・・・ギガント・・・なんちゃらをバー―って閉じ込めたら・・・怪獣が世界からいなくなって・・・そしたら・・・ルシアちゃんが・・・パ――って・・・消えちゃうんじゃないかって・・・」
イノリの箸が目玉焼きの黄身を崩す。トロッと白いご飯に半熟の黄身が混ざっていく。
ルシアはちょっと言葉に詰まったようになったあと、
「大丈夫。消えたりしない。いなくなったりしないから。」
そう言ってほほ笑んだ。
その表情を見て、イノリは一瞬だけ悲しそうな顔をした後、
「そうなんだ。・・・ならよし!」
と、ほほ笑んだ。
「あ、そうだババゴンヌ!」
「え?なに突然。」
「ババゴンヌに代わる名前、考えたから。」
「えぁ?どうして?あ、じゃなくて、ありがとう・・・でも・・・私別に・・・」
「ババゴンヌも中々いい線いってたと思うんだけど、私ね、名前をつけるのに基本に立ち返ったのよ。」
「あ、うん・・・そうね・・・でも私別に赤い女神のままでも・・・」
「初めてルシアちゃんを見た時、天使がいるって思ったの・・・だから・・・
・・・・・・・・・
・・・ふふふ
そこまで思い出して、ルシアは思わず微笑んでしまった。
―――イノリちゃん・・・私・・・あなたに出会えて本当に良かった・・・だから・・・あなたが守ろうとしているこの世界を、絶対に守る!!!!―――
「たぁああああああああああああ!!!!!」
ズドーーーン!!!!
赤い流星が裂け目から出て来ようとするギガントクルスにぶち当たる!
「うぐぅ!!!」
裂け目を広げようとするギガントクルスの力が弱まる。青い光線の力で、裂け目が少しずつ小さくなっていく。
だが、
「お嬢ちゃん、そんなに私に抱きしめられたいのかね?」
ニョキニョキ・・・ギガントクルスの体から新たに腕が二本生え、グイとルシアのカラダを引き寄せ、その新たな腕で抱きしめた。
「うぁああああああああああああ・・・」
無数の顔に齧られ舐められ吸われ刺されて・・・ただ抱きしめられる、それだけなのに。抱擁は拷問となり、女神を激しく責め立てていく。
ギガントクルスはもうルシアに構う事は考えなくていい。だだ、抱きしめてさえいればいいのだ。
ミシ・・・ミシミシ・・・
空間の裂け目が広がっていく。
だが、それとほぼ同時に・・・
「ま・・・まだまだ・・・私は・・・こんなもんじゃァ・・・ない・・・ないのよぉ!!!!」
ルシアが、自分を抱きしめていた腕をほどこうと力を入れていく。
ボゥ!!!真っ赤な炎が彼女のカラダからたちあがる。
空間の裂け目で行われる攻防。誰しもがそれを見ているうちに、
「頑張れ!!!!」
そう叫んでいた。
「うぐぐ・・・この・・・気合と・・・こんじょぉおおおおおおおお!!!!!!!!」
ギガントクルスの腕を完全に開いて、ルシアは半歩後ずさり、身を低くかがめた。
「いっけぇえええええ!!!!エンジェル・ルシアぁあああああああああ!!!!!」
イノリの叫びが聞こえた。
―――エンジェル・ルシア。いい名前でしょ?―――
胸中に、イノリの笑顔が浮かび上がる・・・
「エンジェル・ルシア・・・素敵な名前ね・・・イノリちゃんが考えてくれたとは思えないほど。」
ルシアの言葉に、
「なにそれ?ルシアって名前を付けてあげたのだって私じゃない。」
むきになったのか、箸をルシアに突きつけて抗議するイノリ。
「そうだっけ?」
「そうよ。」
「そうだったわね。」
「あ、そうだ。ババゴンヌで思い出したけど、駅前に新しいカフェオープンしたじゃない?」
「どうしてババゴンヌで思い出すの?」
「そこでさ、ご飯とおかずが一皿に乘ったワンプレート?っていうの?美味しそうなランチをやっててさ、だから・・・
・・・それは他愛の無い会話。
明日も明後日もその次の日もずっと繰り返されるみたいな、何気ない会話。
それがもう叶わないことをお互いに知りながら・・・それでも明日があるようなふりをして交わした会話。
その思い出。
親友がくれた素敵な名前。
それだけで十分だった。
「たぁあああああああああああああ!!!!!!」
ルシアは真紅の弾丸となり、
ズドン!!
至近距離からギガントクルスに高速タックルを放つ!!!
「うぉぉっ!!」
異形の巨体が倒れ、裂け目の淵から手が離れる。
「今です!」
隊長の指令と共に、三台目の装置が稼働する。
ブォン・・・
三筋の閃光が、素早く空間の裂け目を縫いあげていく。
・・・そして
それは完全に閉じて・・・
「作戦終了です・・・」
隊長の声が重々しく響いた。
それは人類の勝利だった。絶望と恐怖の日々から解放されたのだ。だが、その作戦を成功に導いた特殊自衛隊の隊員達に笑顔は無かった。
それと代償に、永遠に失ってしまったモノを知っていたから。
赤い女神・・・エンジェル・ルシアは人々を守る為に異空間の中へと消え去っていった。
「ひぐ・・・うぅぅ・・・ううううううううう・・・」
イノリのすすり泣く声だけが、青空の下いつまでも響いていた・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「人類を救った気分はどうかな?お嬢さん。」
瘴気と異臭が漂う腐肉空間・・・それがギガントクルスの棲む世界だった。得体の知れない液体が垂れてきて、うつ伏せに倒れているルシアの背中に垂れ堕ちる。
「う・・・うぁ・・・ひぅ・・・」
そこに存在すること自体が、清らかな女神にとってはすさまじい責め苦になってしまう。その空間にルシアは今、完全に閉じ込められてしまった。
「質問に答えたまえよ。無視は良くないなァ。」
そう言ってギガントクルスはルシアの背中を踏みつける。胸が腐肉の地面に押し付けられ、じわっと分泌された得体の知れない汁が彼女のささやかな膨らみを汚していく。
「あぁあああああ・・・うぁぁぁ・・・」
「喘いでいるだけではつまらないなぁ。もうここから出ることは出来ないんだ。せいぜい愉しませてくれよ。」
ドゴッ!ルシアの脇腹が強烈に蹴り上げられる。
「ぐぁ・・・ぁぁぁ・・・」
ゴロンゴロンとルシアのカラダが転がされ、仰向けになった彼女の胸にタラーー―と粘性を持つ液体が垂れ堕ちる。
「ぃぁああああああ・・・」
「君が救った人々が、もしこの光景を見たらどう思うだろうね。自分たちの身代わりに生贄として差し出された赤い女神が、なすすべなく蹂躙されて苦しむ様を。」
「・・・違うわ。」
喘ぎ声しか発さないと思っていた玩具から思いもよらぬ言葉が出てきて、ギガントクルスは少しだけ戸惑いをみせてしまう。
「何が違うのかな?」
「私は生贄じゃない・・・アナタを倒すためにここに来たのよ・・・」
そう言いながらルシアは必死に立ち上がろうとしている。
「そうしないと・・・安心なんかできないから・・・私は・・・ここでアナタを倒すの・・・だから悪いけど・・・なすすべなく蹂躙されて苦しんでなんかあげないわ・・・」
足をガクガクさせながら、ルシアは立ち上がり、そしてギガントクルスに向かって言い放った。
「そして私の名前は赤い女神じゃない。エンジェル・ルシア。それが私の名前よ!!!」
ルシアは・・・エンジェル・ルシアは輝き出して・・・そして・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ふぅ・・・なかなかスリリングだったよ・・・それで?もうお終いかな?」
「ぅぅ・・・あぁぁ・・・」
ギガントクルスの手がギリギリとルシアの首を締め上げる。そのカラダは力なく持ち上げられて、首を絞めつける手を掴むことも出来ない。手を構成する無数の顔が彼女の首を舐めしゃぶっている。
「あぁぁ・・・いやぁぁ・・・」
「さて、君から受けた傷を癒すとしよう。君の血によってね。」
そう口にするギガントクルスは、左胸が肩ごと大きくもげている。エンジェル・ルシアの必死の猛攻でそこまで追い詰めたのだが、それからのあと一歩がどうしても届かなかった。
ピコンピコンピコンピコン・・・
胸元のオーヴの警告音が虚しく響く中、
ゴキュン・・・異形の右手が不気味に脈を打った。
「はぁぁぁ・・・うあぁあぁあぁぁ・・・」
無数の口から噛みつかれ、口吻を突き刺され、ルシアの血が吸われていく。
「ほら、見えるかい?君が必死の思いで付けたこの傷が、どんどん回復していくよ。どうら、命を燃やした行為が無に帰していく気分はどうだい?」
メキ・・・メキメキ・・・ギガントクルスの傷がどんどん塞がっていく。胸が肩が再生され、左腕が生えていく。
やっとの思いで与えたダメージが、全身全霊を込めて放った攻撃が・・・全て無駄になってしまう・・・
「うあぁぁ・・・そんな・・・あぁぁああああ・・・」
ガクガクとルシアのカラダが震える。
ピ・・・ピコン・・・ピコ・・・ピコン・・・
胸元のオーヴの輝きが、今にも消えそうな儚げなものになっていく・・・
回復した左腕で、ルシアの腰を抱き留める。
血を貪っていた右手は首から離れ、指で顎から胸元へと伝い撫でていく。
「んぁぁ・・・いやぁぁ・・・」
腕にカラダを預け、力なくルシアのカラダがくったりとしな垂れる。その胸元のオーヴにギガントクルスの指が嬲るように這いずり回る。
「んあぁ・・・くぁ・・・あぁぁぁ・・・」
異形の指がオーヴをかすめる度に、ピクンピクンとルシアのカラダが反応してしまう。
「んぁっ・・・うくっ・・・」
「それでは次は、君のそのエナジーをいただこうか。」
そう言って、ギガントクルスはその頭部をルシアのオーヴにあてがった。細かい無数の顔がむしゃぶりつき、美しい宝石を汚していく。ジュルジュルと音を立てて、エナジーを貪っていく。
「はぁぅっ・・・んあぁあ・・・ぃぁああああ・・・」
ピ・・・ピ・・・ピ・・・
オーヴの輝きが弱々しくなっていく・・・
「どうした?・・・抵抗しないと、エナジーを吸いつくしてしまうぞ?」
ザラザラした声がルシアを責める。
「うぁ・・・あぁぁ・・・」
腕の中で悶えるルシアに、ギガントクルスは次第に自分が興奮してくるのを感じていた。絶望と恐怖を糧にしたソレが、今や目の前の美しい天使を嬲り苦しめ悶えさせることに夢中になっていた。
欲望の塊になったソレは、自分自身の中に芽生えたある違和感から目を反らした。とるに足らぬことだと無視をした。
「たしか君は、そのささやかな胸を責められるのが好きだったね。」
そう言ってギガントクルスは、右手でルシアの胸を弄び始めた。
「んくっ・・・ぁぁ・・・あぁぁぁああああ・・・」
手のひらの下でビクンビクンと悶える反応に、夢中になって胸を責め嬲る。
「ひぁ・・・あぁぁ・・・エナジーを吸いながら・・・胸・・・胸を・・・虐め・・・ないで・・・んぁ・・・あぁぁああああああああああ・・・」
ルシアが一際高い声を上げた。彼女のカラダはピンと突っ張り、そして・・・
ピコン・・・ピ・・・ピ・・・・・・ピ・・・・・・・・・
オーヴの輝きが完全に消え果てしまった。
「うぁ・・・あぁぁ・・・あぁぁああああ・・・」
エナジーを全て失い、完全に戦う力を失ってしまったエンジェル・ルシア。勝敗は完全に決まってしまった。
だがそれは終わりではない。むしろ彼女の地獄はここから始まるのだ。
「ひぅ・・・ぁぁあああ・・・うぁあああああああ・・・」
エナジーを失い、守ってくれるモノを無くしたカラダは、今まで以上に責めに弱くなってしまう。敏感になったカラダを、容赦なく貪られてしまう。
「うぁぁ・・・あぁぁ・・・もう・・・エナジーでないの・・・でないから・・・あぁぁぁ・・・むね・・・もう・・・いじらないで・・・あぁああああああ・・・」
エナジーを吸いつくしても尚、頭部の無数の顔がオーヴを嬲り続ける。今や両手でルシアの胴を掴んで、親指に当たる部位で乳首をコリコリと弄っていた。
切なげにそそり立つ乳首が、無数の舌や牙で責められ、唾液や消化液、毒液など様々な汁を塗り込まれている。
「んぁぁぁ・・・うぁ・・・くぁあああああああ・・・」
喘げば喘ぐほど、濃い瘴気を吸い込んでしまう。ソレはネットリとルシアのカラダを内側から汚し犯していく。
外から内から責められて、エンジェル・ルシアがドロドロになっていく・・・
あぁぁぁあ・・・
んぁぁぁあああ・・・
いやぁぁああ・・・
も・・・もう・・・やめ・・・あぁぁああああああ・・・
手の中で、ルシアのカラダがクネクネと妖艶に身悶える。切なげな甘い声が、絶えず唇の間からこぼれ続ける。
散々その反応を愉しんだ後、ギガントクルスはオーヴから頭部を放した。
でろぉおおおお・・・唾液粘液・・・様々な液体がオーヴとギガントクルスの間に幾筋もの糸を引く。
「んぁぁ・・・いやぁぁああ・・・」
喉を仰け反らせて悶えるルシア。その姿が異形の嗜虐心を煽る。もう散々楽しんだオーヴの味をもっと愉しみたいと、ギガントクルスは欲望の沼にズブズブとハマっていく。
「あぅう・・・っぁぁああああ・・・」
ルシアのカラダが大きく跳ねる。あぁぁ・・・ルシアは今、両胸からどす黒いエナジーを無理矢理注入されているのだ。
「あ・・・あぁぁ・・・あぁぁ・・・・」
ズクンズクンと穢れたエナジーが注ぎ込まれて行く。胸が内側からどす黒い力に汚されていく。
犯されていく。
・・・ただでさえ弱い胸が、ギガントクルスのエナジーに嬲られていく。
「んくっ・・・っぁ・・・あぁぁぁ・・・いやぁぁぁ・・・」
いやいやと弱々しく顔を振って悶えるルシアの胸元のオーヴが、再び輝き出す。紫色の禍々しい光を放ち始める。
「くふぅ・・・うぁぁ・・・わたしの・・・カラダに・・・なにを・・・あぁぁああああああ・・・」
空っぽのオーヴがギガントクルスのエナジーに占拠され、今やもう彼女を責め苦しめる為だけの存在になってしまった。
戦う為のエナジーを作り出すハズのオーヴが、彼女の全身に禍々しいエナジーを巡らせる拷問具になってしまった・・・
「んぁぁあ・・・あぁぁああああああ・・・」
「クックックック・・・なぁに。君にエナジー吸収される苦しみを、また味わってもらいたいだけだよ。」
「な・・・そんな・・・いや・・・やめて・・・あぁぁああああ・・・・!!!!」
再び異形の頭部がルシアのオーヴに吸い付く。
ジュルジュルジュルジュル・・・
「あぁぁああああああああああ・・・」
無理矢理注ぎ込まれたエナジーを吸収される・・・ただただルシアを苦しめる為だけのその行為に、彼女はされるがままに身悶え喘ぐことしか出来ない。
「ひぁぁぁ・・・んく・・・うぁぁぁぁあああ・・・」
正義のヒロイン、エンジェル・ルシアは今やただただギガントクルスの望むように苦しむだけの、生きた玩具、人形に成り下がってしまった・・・
・・・ハズだった。
必死に動かしたルシアの手が、ギガントクルスの右手に触れた。それは、ただ添えただけ。そんな風にしか見えなかった。
必死の悪あがき・・・その様は、ギガントクルスを更に喜ばせるだけの無意味な抵抗に過ぎない・・・
ハズだった・・・
だが・・・
・・・ジュウ
異形の手が、燃えた。音を立て、煙を上げ、そしてメラメラと炎が上がった。
「うぐぁ!」
悲鳴と共に、ギガントクルスがルシアから手を離す。彼女のカラダは腐肉の地面に叩きつけられる。
「ぐぁっ・・・うごぉお・・・な・・・なんなのだこれは・・・」
燃え上がる右手を、ギガントクルスは自らもぎる。
―――なんなのだ・・・何が起こっているのだ―――
絶対的な恐怖の象徴が狼狽える。本来ならあの程度の炎など、力など、とるに足らないハズなのだ。
押し殺した違和感が、ムクムクと大きくなっているのを覚える。
―――まさか・・・私が恐怖しているとでもいうのか―――
そんな疑念が心によぎる。
―――この感覚を私は知っている・・・記憶には無いが・・・私はこの感覚を知っている・・・―――
あり得ない感情に取り乱しそうになる所を、全ての怪獣を取り込んだ王は推しとどまる。
―――知っているなら、なんら脅威ではない・・・未知ではないのなら・・・私を脅かすことはないのだ―――
「面白い・・・どこからそんな力を?」
ギガントクルスの問いに、よろよろと立ち上がったエンジェル・ルシアは真っすぐ答える。
「はぁ・・・はぁ・・・エナジーは・・・アナタがイヤというほど注ぎこんでくれたでしょ?」
汚れたエナジーをカラダ中に巡らせて練り上げる・・・それはどれほどの苦しみを伴うだろう・・・それを、目の前の女戦士は平然とやってのけたのだ。
「なるほど・・・少々君を舐めていたようだ。・・・もっと念入りに責めるとしよう。」
ギガントルシアがルシアに向かって手を広げると、
コポッ・・・
ルシアのカラダを、球体が包んだ。ソレは巨大な水の球。凄まじい異臭を放つ、汚水と呼ぶのも生易しい穢れた水。
その中に、ルシアのカラダがすっぽりと包まれて・・・
『・・・っ・・・・!!!』
口から泡がコポコポと浮かび上がる。穢れた水にカラダを侵食される苦しみ、呼吸が出来ない苦しみに、ルシアはカラダを弓なりにそらして悶える。
「苦しいかい?苦しいでしょう?でもね・・・君は更に苦しむのだよ。」
そう言って、ギガントクルスは手をギュウと閉じる。
次の瞬間、ルシアのカラダをものすごい水圧が襲う。内臓が潰れ骨が折れるほどの圧力が水牢に囚われた天使に伸し掛かる!!!
『!!!・・・!・・・!!!!!』
水の中で声も出せずに、無力な天使が悶えている。
あぁぁ・・・全て押しつぶされてしまう・・・そのすんでのところで、圧力が一気に弱まる。
『っ・・・!!!!』
圧力から一気に解放されたカラダが悲鳴をあげる。耳鳴りと眩暈に、クラクラしてしまう。そして休むことなく、今度はジワジワと水圧があげられていく。
口をパクパクさせながら、悶えるだけの無抵抗な天使を、少しづつ少しづつ締め上げていく。
コポ・・・
コポコポ・・・
苦しげに眉をよせるルシアの口から、喘ぎ声の代わりに気泡が幾つも浮かび上がっていく。
ミシミシミシ・・・カラダ中の骨が悲鳴をあげる。
「苦しいでしょう・・・苦しいでしょう・・・さぁ・・・カラダが潰される恐怖に晒されたその顔を、私にもっと見せてくれたまえよ!!!」
ジワジワと圧力をかけながら、ギガントクルスが叫ぶ。
好き勝手に圧縮されていくだけの無力な玩具、エンジェル・ルシア。だが、彼女の真っすぐな目を見たギガントクルスは、
恐怖を覚えてしまった!!
なぜだ?なぜだ?なぜ絶望しない・・・ソレが覚えていた微かな違和感・・・目を反らし続けていた違和感の正体はそれだった。
絶対的に抜け出せない永遠の地獄に閉じ込められながら・・・そこで責め苦を受けながら・・・
どうして絶望しない!
どうして恐怖しない!
どうして!!!!!!!!!
「その目で私を見るなぁあああああああ!!!!!!!」
気が付けば、その異形は叫んでいた。
ルシアを呑み込んでいた液体は、どす黒いエネルギー体となり、
バリバリバリバリ!!!!!!!
塵も残さないぞとばかりの激しい電流に似た力の濁流が、彼女を焼き尽くしていく。激しい火花を飛び散らせながら、エンジェル・ルシアを責め苛めていく!
「あぁぁああああああああああああああああああああああ・・・」
苦しいだろう。苦しいだろう。今すぐにでも楽になりたいだろう・・・
―――さぁ、絶望しろ!恐怖しろ!!早く殺して下さいとみっともなく懇願し、その願いを踏みにじられ、深い嘆きと悲しみに満ちた表情を浮かべながら、朽ちてしまえ!!!!!!!―――
ドロォ・・・
ギガントクルスの左腕が溶けて落ちて、力の奔流は止み、どす黒いエナジー体は霧散した。
「な・・・何が起こっているのだ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・花火は・・・もう終わったのかしら?」
カラダ中からプスプスと煙を出しながら、彼女は凛と立っていた。
「な・・・なぜ・・・なぜ・・・貴様はそうして立っていられるのだ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・なぜ?・・・そんなの・・・気合と・・・根性よ!!!!」
彼女の胸元のオーヴは、微かだが、輝きを取り戻していた。
その彼女のカラダが斜めに傾いた・・・いや、傾いたのはギガントクルスの方だった。左脚がドロリと溶けて、その巨体が傾いたのだ。
ギガントクルス・・・ソレは圧倒的な恐怖と絶望で全ての怪獣を従え、身に宿していた。
だが、ソレは気づかなかった。身に宿した怪獣達の魂が、ルシアの姿に希望を見出したことを。希望を見出したそれらは、ギガントクルスの絶望の楔から解き放たれて、そして今、目の前の光の戦士に力を与えているのだ!
「貴様・・・貴様は一体何なのだ!!!!!」
「はぁ・・・はぁ・・・何度だっていうからよく聞きなさい・・・エンジェル・ルシア・・・それが私の名前よ!!!!!」
そう言って伸ばされたルシアの手から、赤いエナジーがビームとなって放出された。
「うぐぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
それはギガントクルスを焼き尽くした・・・
かに見えたが・・・
「私を・・・この私を・・・ここまで追い詰めるとは・・・いいだろう・・・この存在全てをかけて・・・貴様を潰す!!!!!!!」
怪獣の顔で構成された肉体を破壊された異形は、ただただ巨大な肉塊となってルシアに向かい叫んだ。
「・・・なるほど・・・ここからが本番って分けね・・・」
そこに立っているだけで壮絶な苦しみを受けてしまう腐肉空間・・・相手はいよいよ正体を現した、圧倒的な力を持つ異形。
それでも、ルシアは精一杯その顔に笑みを浮かべて・・・そして・・・
「たぁああああああああ!!!!!!!」
ギガントクルスに向かっていって・・・
そして・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
エンジェル・ルシアが恐怖と絶望の象徴・ギガントクルスと共に異空間へと消えてからも尚、人々は怪獣の襲撃に襲われ続けた。
それでも人々は屈することなく、戦い続けた。
月日は流れ、新しい希望が降り立ち、そして・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「私はエンジェル・セイラ・・・逃げも隠れも折れも砕けもしない!見てなさい・・・私は絶対負けやしないんだから!!!」
テレビに映った青い女神が叫んでいた。少女は、それを食い入るように見ていた。
トクン・・・
彼女の中で、何かが目覚めようとしていた。
完全に消えたと思われた灯が、再び息を吹き返そうとしていた。
そして、それは・・・
―――エンジェル・セイラの物語へ続く
アヤワスカ
2020-12-14 09:52:24 +0000 UTCリスワン
2020-12-14 07:29:36 +0000 UTCアヤワスカ
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2020-12-08 00:01:55 +0000 UTC