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真約・黒のマリア 第三話 『悪夢の牙に貫かれる少女』

 カタカタ震える私に毛布をかけてくれながら、婦警さんが優しく声をかけてくれる。


 これは何組目の両親の光景だろうか・・・似たような思い出が多すぎて分からない。


 私が泣いているのを、震えているのを、周囲の人達は養父に襲われたショックからだと思い込んでいる。


 違うよ・・・


 そう言おうとするのに言葉が出ない。


 声にならない声を発しようとする私の目を優しく見つめ、もう何も言わないでいいと声をかけてくれる婦警さん。


 違う・・・違うの・・・


 悪いのはお養父さんだけど・・・お養父さんじゃないの・・・


 本当に悪いのは・・・


 ・・・場面が変わって、私は『アイツ』と対面する。私と同じ顔を涙で歪めて、


「ごめんね・・・お兄ちゃんがもっと強かったら、マリアを守れたのに。」


 そう言って私を抱きしめる。


 周りの大人たちはその光景に感動し、涙を流す。


 違うの・・・違うの・・・


 本当に悪いのは・・・コイツなの・・・


 誰か気づいて・・・


 私の双子の兄は、


カインは、


 本物の


『悪魔』なの・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


 ハッと目が覚めると目の前には夜空が広がっていた。私は自分が地面の上に横になっていたのに気が付く。


 悪魔の気配を感じた私が向かった先にいたのは、ちんけな宝石強盗。憑いている悪魔もまだそんなに力を持ってないみたいだった。


 だから私は油断していたのでしょう。突然スコップで頭を殴られて・・・そして・・・


 目の前で男の人が一心不乱にスコップで地面に穴をあけようとしている。何をしているのかしら。私が声をかける前にその人は、私に気づいて、そして、


「ひぁぁああああ!!!すまねぇ!!!!許してくれ!!!お願いだから、成仏してくれぇえええ!!!」


 頭をこすりつけて、突然そんな事を叫び出した。


 成仏?何を言っているの?人の事をまるで幽霊みたいに。ちょっと失礼じゃないかしら。


 その時、男の人の肩に悪魔の姿が見えた。名前の無い下級悪魔。でも私がさっき見た時よりも、確実に力を増しているのが感じられる。きっとこの人の悪意を食って成長しているんだわ。


「許すもなにも、私はアナタの罪になんか興味はありません。アナタを裁くのは私ではありません。」


 私はそう言って、胸ポケットの聖水を取り出した。すぐさま聖水で矢を造り、悪魔に向けて放った!


「ぐっ・・・ギギギギギぃ・・・」


 頭に矢が刺さった人形がドサリと地面に落ちた。


 絵本やアニメで見たピノキオを、百倍悪趣味にしたような姿。不自然に長い手足、ギョロギョロした目玉。もしこれが絵本やアニメに出てきたら、きっとクレームが殺到するでしょう。私は心の中で、名前の無いその悪魔に、木偶人形と名前を付けた。


「うわぁあ!痛いなぁ。オイラ、もうダメだぁ。」


 木偶人形は口をカタカタさせながらそう言った。その鼻がニョキっと伸びた。


「うひぃぃいい!!なんなんだよぉ前はァ!!!」


 男の人が悲鳴をあげる。


「うふッ。オイラね、悪魔だよぉ~~~~。あのね、お願いがあるんだけどさぁ、ちょっとでいいから、血を吸わせてよぉ~~~。ちょとでいいからさぁ~~~~」


 木偶人形がそう言って、男に向かって飛んでいく。


 そうはさせるもんですか!!


 ザン!


 木偶人形の前に立ちはだかり、聖水で作った剣で切りつける!


 胴体を袈裟切りにされた木偶人形が地面に倒れ込む。


 だけど分る。全然きいてない。


「邪魔です。早くここから立ち去って下さい。」


 男の人に私は声をかけた。この悪魔は、もう人を守りながら倒せるほど弱くはない。人を守りながら戦えるほど、私は強くない。


「うふッ。斬られちゃった斬られちゃった♪アハハハハハハハハ・・・オイラもうダメだぁ~~~~」


地面に転がったまま、頭をグルングルン回転させながら木偶人形が笑う。そして、男の人を見て、


 ニタァアアアアアアアアアアアアアアアア~~~~


 と嗤った。


「早く逃げて!!!」


 叫んだ私の喉元に木偶人形が噛みついた。


「くぅ・・・」


 ここで声をあげたら男の人が怯えてしまう。怯えは悪魔を強くする。だから私は必死に声を押し殺した。


 ジュル・・・ジュルジュル・・・


 噛まれたところからどんどんマナが吸われていく。


「ぁ・・・ぁ・・・くぅ!」


 聖水で出来た剣を、木偶人形の横腹に突き刺そうとした。


 そのすんでのところで、気配を察したのか木偶人形が私からびょんと飛び離れ、頭から地面に着地した。


「うふッ。うふうふッ。お姉さん強いね。オイラとても勝てそうにないや。」


 逆立ち・・・でいいのかしら。頭を地面に着け、足を天に向けたまま悪魔はそう言った。鼻がニョキっと伸びた。


「白々しい嘘は結構です。」


「嘘じゃないよ。オイラ嘘なんかついたことないもん。オイラね、嘘が大っ嫌い。そんでね、お姉さんみたいな、おっぱいの小さい女の人が大好き!!!」


 木偶人形の鼻がすごい勢いで伸びて来た。私はそれを足で踏み折った!


「ふざけるのもいい加減にして!」


 私は折れた鼻を掴んで、それごと木偶人形を高く持ち上げた。


「うふッ。怒った?ねぇ怒ったの?ねぇ?オイラせっかく一生懸命『お世辞』言ったのに酷いなぁ♪」


「もう謝っても許さない!」


 木偶人形の頭を地面に打ちつけようとしたその時、


 スポン・・・木偶人形の顔から鼻が抜けた。


「なっ・・・」


 木偶人形は宙でグルングルンと回ったあと、今度はちゃんと足から地面に着地した。


「うふッ。危ない危ない。もうダメかと思ったよ。」


 木偶人形がそう言って嗤った後、その顔の中央の鼻があった跡が塞がれ、ぴょこんと低い鼻が現れた。


「もう、乱暴だなお姉さんは。そんな乱暴者には、ちゃんとお仕置きして躾をしてあげなくちゃね!」


 ビヨン!


 木偶人形は突然高く跳んだ。まるで足の裏にバネが付いているみたいに。


「だからお姉さん、いっぱいいっぱい痛い思いをしてもらうよぉ~~~~

!!!」


 高く跳んだ木偶人形が、私に向かって急降下してくる。


 キラリ・・・なにか光るモノが見えた。私はそれを躱す。


「くっ!」


 ビリ!


 セーラー服の腕の部分が少し裂ける。


 ズダン!地面に着地した木偶人形が、そのままの勢いでまた跳ねあがる!


 その両手からは鋭い爪が伸びていた。


 勢いを増した木偶人形の動きに私は完全に躱すことが出来ず、腿をスカートごと切り裂かれてしまう。


「うぁぁぁぁ・・・」


 木偶人形は周囲の岩や樹を蹴って、加速しながら周囲を飛び回る。


 ザシュ!


 ズシャ!!


 高速で木偶人形の爪による斬撃が飛び交う。私はその中で、


「あぁぁぁ・・・うあぁぁぁ・・・くぁああああ・・・」


 成すすべなく、ただ切り刻まれ・・・る分けなんてありえない!


 高速で突っ込んでくる悪魔。私は聖水の剣を丸い波動の球に変化させ、木偶人形に向けて放った!!


「ぎぃぁあああああああああああ・・・」


 自ら聖水の波動に突っ込む形になった木偶人形が悲鳴をあげる。


 私は、それで終わったと思った。思ってしまった。


 木偶人形が私の目の前でぽとりと落ちた。


 落ちたように見えた。


 だけど、それはただの方向転換だった。


 空中でダメージを受けた木偶人形はすかさずその場で方向転換をしたのだ。


 すぐ目の前で、木偶人形は両足で地面を強く蹴った。


 そして、私の顎目掛けて高速頭突きをくりだして・・・


「あぐぅううう・・・」


 頭が必殺アッパーを喰らってしまったボクサーのように跳ねた。


 カラダがそのまま後ろに倒れてしまいそうになる、手放しそうな意識をつなぎ止めたのは、


「ひぃいいいいいいいいいいい!!!!」


 さっき逃げてくれたはずの男の人の声だった。


 まだ、倒れるわけにはいかない。倒れそうになるのを必死に堪えた。


「はぁ・・・はぁ・・・ど・・・どうしてまた・・・ここに?」


 そう問いかけた私は、すぐに自分の過ちに気が付いた。


「うふッ。」


「うふッ。」「うふッ。」


「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」


「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」


「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」「うふッ。」・・・・・・・・・


 無数の木偶人形が、狂気のピノキオが、グルリと私たちを取り囲んでいた。


「ど・・・どうして・・・」


 思わず口から漏れ出た私の問いに、目の前の木偶人形が答えた。


「うふッ。そこの人が、オイラの事をいっぱいいっぱい考えてくれたから、オイラこんなにいっぱいになっちゃった~~~」


 そ・・・そんな・・・恐怖を具現化して増えたというの?


 私は思わず男の人をチラリと見た。


 ごめんなさい。完全に私の判断ミスだ。一人にするべきでは無かった・・・


 後悔しても何も始まらない。私は男の人に懐から出した聖水の瓶を投げ渡した。


「その中の水で、アナタの周りにぐるりと円を描いて下さい。そして、そこから一歩も出ないで下さい。いいですね。」


 私の言葉に男の人は何度もうなずき、自分の周囲にぐるりと水をまいた。


「何をやってもむださぁ~~~!!!」


 木偶人形の一体が、男の人の方へ飛び掛かっていった。だけど彼に触れる事は出来ない。特殊な聖水で描かれた円の中には、悪魔は入ることが出来ない。その空間に入ろうとしてもすり抜けてしまうの。


「その円の中にいる限り、悪魔はアナタに触れる事は出来ない。でも、一歩でも外に出たら何も保障は出来ません。」


 これでこの人はきっと大丈夫。あとは私がこのウジャウジャいる悪魔たちを何とか倒すだけ。


「うふッ。まぁいいや。男よりも女の方が美味そうだしな。」


「男甚振っても楽しくないしな。」


 木偶人形たちはギラギラした欲望を隠しもしない。隠す必要が無い。今から力づくで私にその全てをぶつける気なのだから。


「オイラ、お姉さんみたいにおっぱいの小さい女の人が大好きなんだ。」


 そう言った木偶人形の鼻がニョキっと伸びた。


「うふッ。怖い?ねぇ?怖い?ねぇ?ねぇ?」


 その質問に、私は心の中で答える。


 怖くないわけないじゃない・・・私は今までずっと、戦いが怖くなかったことなんて無かった。


 だけど頑張って顔色変えないようにして、口ではこう答えた。


「べつに。アナタ達なんて怖くとも何ともないわ。」


「うふッ。お姉さん嘘つき。嘘つきはねぇ~~~~拷問の始まりなんだよ~~~」


 周囲の木偶人形たちが一斉に大きく口を開けた。


 そして、ビョンと高く跳びあがって、私に向かって来た!


 私は聖水を手に振りかけた。聖水は私の指から滴り落ち、それぞれが細い、でも丈夫な糸を形作る。


 ふわり


 空中を引搔くようなイメージで手を振るう。


 ザン!!!


 宙を舞う糸が、木偶人形たちを次から次にバラバラにしていく。


 頭の中をなるべく真っ白にして、目の前の事に反応するだけの機械に自分を変えていく。


 ザン!


 ザク!


 木偶人形たちが切れる度に、指先に伝わる振動から痛みや悔しさが伝わってくる。


 私はなるべくそれを感じないように心を殺す。


 そこと向きあってしまったら最後、私は戦う事が出来なくなってしまうから。


 私が戦う事が出来なくなったら、誰が『アイツ』を・・・


 誰がアイツを裁くというの・・・


『マリア・・・ボクの可愛いマリア・・・ボクはね、生まれるずっと前の前世の時から、君のお兄ちゃんになりたかったんだよ。』


 アイツの顔と言葉が脳裏によぎった。


―――邪魔しないで!!!―――


 瞬間、怒りに動きが少しぶれた。


 その隙を悪魔たちは見逃してくれなかった。


 ガブリ!


 糸を振るうその腕に、木偶人形が噛みついた。


「つぅ・・・」


 肉をつらぬき骨まで届く鋭い牙が、私の戦う術を奪っていく。


「うぁぁ・・・」


 木偶人形の重さに耐えきれず、腕はだらりと落ち、指先からするりと聖水の糸が抜け落ちていく。


「うふッ。もう疲れちゃったのかな~~~?」


 ガブリ!


 ふくらはぎに木偶人形が噛みついた。


「くぁぁあ・・・」

 

 そして、もう反対側にも・・・


 ガブリ!!


「あぅぅ・・・あぁぁああああ・・・」


 だめ・・・このままじゃ・・・木偶人形たちに一方的に蹂躙されてしまう・・・そうなったら・・・あの男の人のことを助けられなくなっちゃう・・・だから・・・だから諦めちゃいけないの・・・


「くふぅ・・・あがぁぁ・・・」


 ギリギリガリガリ・・・片腕と両脚を齧られ、痛みに悶える私の周囲を、木偶人形たちは楽しそうにグルグル回り出す。


「うふッ。片手と両足・・・次にもう片手をとられたら動けなくなっちゃうね。」


「もしかして、ピンチってやつじゃないの?」


「どうしたのさ。まだ片手残ってるんだよ?」


「今のうちに反撃しないでいいのかな~~~?」


 木偶人形たちが好き勝手にはやし立ててくる。


「い・・・言われなくても・・・」


 私は、本当なら頼りたくなかった切り札を使う事にした。それはこの身に封じ込めてきた悪魔たちの力・・・その力はどれも強く、戦況を一変するだけの力を秘めている。


 だが・・・その代償はあまりに大きい・・・


 私は自由が利く方の手の上に、爆弾を生み出そうとした。自分が吹き飛ばしたいモノだけを吹き飛ばす力。


 だけど、それが作られる前に、


「あぁあああああっ!!!!」


 チュウチュウチュウチュウ・・・木偶人形たちが、私のマナを吸い始めた。あぁぁぁ・・・それによって、造りかけていた爆弾も霧散してしまう。


 考えうる限り最悪の状況・・・悪魔たちは私に力を貸す代わりに、私のカラダを好きなように責め立てる。たとえそれが上手くいかなかったとしても、悪魔にはそんな事関係ないの。


 爆弾の力を持つ悪魔は・・・私の・・・お尻が好きなお爺さん。


 そのお爺さんの手が・・・ああぁぁ・・・私のお尻を・・・撫でまわす感覚が・・・あぁぁぁ・・・


「聞いた聞いた今の。『あぁあああああっ!!!!』だってさ。」


「なんだかエッチな声だなァ。」


 木偶人形の言葉に顔が赤くなってしまいそうになる。


「うぅぅ・・・そんな・・・変な声・・・出してなんか・・・」


 あぁぁぁ・・・でも・・・ただでさえエナジーを吸われ続けて・・・苦しいのに・・・お尻を・・・撫でまわされて・・・


「うあぁぁぁ・・・」


 私は、声を堪えることが出来ない。


「んあぁぁぁ・・・くぁ・・・あぁああああああ・・・」


 ダメ・・・私は・・・戦わなければいけないのに・・・

 

「うふッ。出してなんか・・・なに?」


「もしかして、また嘘をつこうとしたのかな?」


 木偶人形が二体、私の左右のそれぞれの肩に乘っかった。


 お爺さんの手が私のお尻をこねくり回す感覚が、私を苦しめる。


「くふっ・・・んン・・・んぁぁ・・・」


 身悶える私に、


「言ったよねぇ~~~~噓つきは拷問の始まりだって。」


 木偶人形はそう言い放った。


 くっ・・・このままでは・・・決定的なナニカをされてしまう・・・私を絶望の窮地に陥れるような、決定的なナニカを・・・


 マナを吸われているだけなら・・・なんとか振り解けるけれど・・・あぁぁ・・・お尻を・・・あぁぁ・・・だめ・・・ぶたないで・・・また・・・ぶって・・・あぁぁ・・・今は・・・今はダメなの・・・


「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 耳元で・・・恐ろしく大きな声で叫ばれて・・・


 目の前がチカチカして・・・自分が立っているのか・・・倒れているのかも分からない・・・


 世界がグワングワン回っている。頭が割れるように痛い・・・


 戦いの最中だというのに、何も認識することが出来ない。


 キー――――――――――――ンという凄まじい耳鳴りだけが、不確かな感覚に苦しめられる私の中で、唯一激しい自己主張をしている。


 う・・・あぁぁ・・・早く・・・早く何とかしないと・・・


 私は脚に力を込めた。辛うじて自分が立っている事だけは認識した。


 両肩にはまだ木偶人形が乗っかっている。なんとか振り落とさないと・・・


 腕を振り回そうとしたその時、


「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 また両耳から悪魔の咆哮が襲って来た。それは脳に突き刺さり、感覚を呑み込んで行った。


 ドタン!


 背中に衝撃を受け、私は仰向けに倒れたのが分かった。


 早く立ち上がらないといけないのに、グルグル回る世界がそれを許してくれない。私の感覚が戻るよりも早く、木偶人形たちがわたしの手足をギュウと地面に押さえつける。


「・・・。・・・・・・・?・・?」


「・・・。・・・・、・・・・・~~~ま・・・・ては・・・ん・・ぉ?」


 さっきから木偶人形たちにナニカ言われているのは分かる。でも何を言われたのか理解できない。必死に身じろぐけれど、私を押さえつける手を振りほどくことが出来ない。


「それじゃぁ~~~~いっくよぉ~~~~!!!」


 聴力を回復した私の耳に届いたのは楽しそうな声。


 そして、まともに世界が見えるようになった私の目が最初に捉えたのは、高く跳びあがった木偶人形たちの姿。


 次の瞬間・・・


 ドゴォ!!!


 お腹に強い衝撃を受けて、


「うぐぅはぁ!!!」


 声と共に、酸っぱいモノが口の中にこみ上げてきた。


 お腹を踏まれたのだと理解した時には、私の口の周りは吐き出した胃液でベトベトになっていた。


 ドゴ!ズドン!ズダン!!


 木偶人形たちが、私のカラダ中を滅茶苦茶に踏みつけていく。お腹は勿論、胸や・・・股間まで・・・人のカラダを・・・トランポリンにして・・・


「あがっ・・・おぐっ・・・ぐぁ・・・う“ぁ“・・・」


 激しい痛みと衝撃に、汚い声が出てしまう。


「楽しいねぇ~~~~」


「楽しいねぇ~~~~」


 木偶人形たちは面白半分に私を踏みにじる。


「あぐっ・・・がっ・・・う“ぅ・・・」


「ホラホラ、お姉さんこのままだと、おっぱいがペッちゃんこになっちゃうよ~~~」


「それは大丈夫だよ。だって元々ペッちゃんこだからさ。ね、お姉さん。」


 失礼なことを言われるけれど、言い返すことすら出来ない・・・


「おごぉ・・・おぶぅ・・・」


 もう何度目か分からない胃液を吐いてしまった・・・あぁぁ・・・屈辱と悔しさと衝撃と痛みに、涙が出てきそうになる・・・


 でも泣いている場合なんかじゃ勿論ない。


 なんとかしないと・・・自分で何とかしないと・・・このまま玩具にされ続けるだけ・・・


 でも・・・あぁぁ・・・一体どうすれば・・・


「お姉さんのカラダ、『踏みざわり』がすごくいいね。」


「何だよ『踏みざわり』ってなんだよ。変な言葉作るなよ。」


「おいおい、ケンカは止めろよ。ところでお前らさ、どこの『踏みざわり』が一番好き?オイラはねぇ~~~ココ!!」


 ドゴォ!


 骨が折れるんじゃないかと思うくらいの力で・・・あぁぁぁ・・・胸を・・・踏みつけられて・・・


「かはっ・・・」


 う・・・あ・・・呼吸をすることが・・・できない・・・


「オイラもおっぱいが一番『踏みざわり』好きだなぁ~~」


「オイラもオイラも~~~~」


 木偶人形たちが次々と私の胸を踏みつける。


 ドゴン!


 ドゴン!!


 多くの木偶人形が、一気に私の胸を・・・


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


 踏まれるなんて・・・そんな生易しい責めじゃない・・・あぁぁ・・・常に凄まじい圧力と衝撃が、胸を襲って・・


「あぁぁ・・・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああ・ああ・・・」


 私の口は壊れたスピーカーとなって、ただただ哀れな音を出し続ける。


 う・・・あぁぁぁ・・・どうして・・・いつも胸を・・・こんなにも胸を狙われるの・・・


 あぁぁぁ・・・私の胸は・・・ただでさえ・・・弱いのに・・・


 いあぁぁぁ・・・


 このままじゃぁ・・・私・・・負けて・・・しまう・・・


「うがぁ・あぁあぁ・あぁぁぁ・・・あぁぁああ・・・」


 私が苦しめば苦しむほどに悪魔は興奮するのか・・・責めがドンドン激しくなっていく。


「あぐっ・・・がぅ・・・ひぐ・・・あ・あぁぁぁぁぁぁ・・・」


 胸への文字通りの蹂躙はなかなか終わってはくれなかった・・・


「ぐふ・・・うぐ・・・おごっ・・・ぃぐ・・・」


 終わりの見えない責め苦の中、


 ミシ・・・


 嫌な音がカラダの中に響いた。


 それは残酷なまでの終わりの合図だった。


 ボキ!ゴキゴキ!


 あがっ・・・胸の骨が・・・バキバキに砕けて・・・


「あ・あぐ・ア・・ぐっ・・・かはっ・・・」


 自分の意志とは無関係に私のカラダがビクンと大きく跳ねあがった。


「う・・・うあぁ・・・うぅぅ・・・」


 シンとした静寂が訪れた。木偶人形が私の顔を見下ろして様子を見ているみたい。


「死んだのか・・・・?」


 男の人の声が響き渡った。


 木偶人形たちの興味が一斉に彼に向かった。


「うふッ。この玩具壊れちゃったから、お兄ちゃん遊んでよ。」


「ねぇ、お兄ちゃん遊ぼうよ。」


「遊ぼう。ねぇ、遊ぼうよ~~~~」


 木偶人形たちが男の人の方へぞろぞろと向かって行く。


 だめ・・・動かなくちゃ・・・


 動けないとか・・・力が入らないとか・・・そんなの全部関係ない・・・


 私が・・・戦わなくちゃ!


「失礼ね・・・まだ・・・私は・・・壊れてなんか・・・な・・・い・・・わ・・・」


 木偶人形たちが一斉にこっちに振り返った。


 私は必死に木偶人形の方へと這いずっていく。バキバキに砕けた胸の骨は、マナの力と契約している悪魔たちの力でメキメキと修復されていく。


 大丈夫・・・私は・・・まだ・・・負けて・・・ない・・・


「あ・・・あなた達の相手は・・・私・・・だから・・・勘違い・・・しない・・・で・・・」


「うふッ。」


木偶人形たちが笑いながら私の方へと向かって来た。


「うぐぅ・・・」


 私は木偶人形たちを迎え撃つために、必死に起き上がろうとした。


 だけど、


 ドスン!背中に木偶人形が乗っかって来た。


「あぅぅ・・・」


 身悶える暇も無く、背後から首を掴まれて、


 ぎぎぎぎぎぎ・・・私の上半身がエビ反り状に引き上げられる。


 背骨がミシミシと音を立てる。


「あああぁぁぁあああああ・・・」


 視界の片隅で、木偶人形たちの手が変形していくのが見えた。まるでゴツゴツした岩みたいになって、それで、突き出された私の胸を・・・


 あぁぁ・・・また胸を・・・


 ドゴ!


「あぅ!」


 骨が修復されたばかりの胸を、岩の拳で殴られてしまう・・・


 勿論一発では済まない。


 ドゴ!ドゴ!ドゴ!


 何発も・・・何発も・・・


「うぁ!」


「うぐぅ!」


「あぁぁ!!」


 うぁ・・・また・・・悪魔の玩具にされて・・・


 あぁぁ・・・でも・・・私が責められることで・・・あの男の人を守ることが出来れば・・・


 そう思っていたのに・・・


 木偶人形たちに責められながら、私は見てしまった。聖水の円に守られていたハズの男の人が、見る見るうちに、凶悪なピノキオ人形みたいな・・・木偶人形の姿に変化していくのを。


「あぁぁ・・・そんな・・・」


 私は・・・守れなかったの?・・・そんな・・・


「なんなんだよ畜生。何が起ってやがる!」


 男の人が、悪魔の姿で、悪魔の声で叫んだ。


「うふッ。仲間仲間~~~仲間仲間~~~」


 木偶人形が嬉しそうに言う。


「うるさい!オイラに気安く声かけるんじゃァねぇ!!!え?オイラ?俺・・・どうなって・・・うふッ。あれ?オイラ?あれ?」


 男の人の魂が、どんどん悪魔の体に引きずられていく。


「しっかりして!アナタは人間なのよ!」


 私は叫んだ。


 でも・・・その声は届かなかった・・・


「今夜はこの壊れない玩具でいっぱい遊ぼう!」


 私は木偶人形に持ち上げられて、木にお腹を蔦でグルグル巻きに縛り付けられた。


「新入り、しばらくこいつ好きにしていいぜ!」


 木偶人形は、仲間になったばかりの男の人に声をかけた。


「やめて・・・お願い・・・目を覚まして!!!」


 私はそう言ったのに・・・男の人は両手から鋭い爪を伸ばして、私の胸元に飛び込んで・・・


 ザク!!


 セーラー服ごと小さな胸を引き裂いた!


「あぁぁああああああああ!!!」


 胸の傷はすぐに癒えてしまう・・・あぁぁ・・・だから・・・私の胸は凌辱者の責めを・・・相手の気が済むまで何度も何度も受け続けてしまう。

男の人のギョロリトした目が、欲情に滾っている。ニタァと口を歪ませて、醜い笑みを浮かべている。


「や・・・やめなさい・・・」


 私は震える両手で男の人を引きはがそうとした。だけど、鋭い爪は容赦なく私を襲ったの・・・


「くあぁぁぁぁぁあああ・・・」


何度も何度も・・・


「うふッ。うふッ。うふうふッ。」


 悪魔に変化した男の人は、何度も何度も・・・私の胸を・・・引き裂いて・・・


 その度に私は、


「あぁぁああ・・・」


「っあぁぁああ・・・」


「んぁぁああああ・・・」


 相手を悦ばせてしまうとは知りながら、それでも悶え喘いでしまう。


「こいつはたまらねぇぜ!」


 男の人はそう言って、


 ガブリ!


 私の右胸に噛みついた。


「うぐぁぁぁあああああ!!!!」


 ドクンドクン・・・あぁぁぁ・・・マナが・・・マナが吸われていく・・・


 あぁぁぁ・・・私のマナは無尽蔵・・・尽きることの無いマナのおかげで、私は悪魔と戦う際に力を際限なく使える・・・だけど・・・あぁぁ・・・その反面・・・マナを吸われる苦しみを・・・相手が飽きるまで延々と・・・際限なく味わうことになってしまうの・・・


「あぐっ・・・もう・・・もうやめて・・・あぁぁぁぁぁぁん・・・」


 男の人は夢中になって・・・私の胸からマナを吸い続ける・・・


「あくっ・・・んふぁ・・・あはぁっ・・・」


「お前だけずるいぞー!オイラもマナを吸う!」


「オイラもー!」


「オイラもー!」

 

 他の木偶人形たちが騒ぎだして、


 そして・・・


 私のカラダに殺到してきて、腕に脚にお腹に首に・・・あぁぁ・・・カラダ中に一斉に噛みついた。


 ジュルジュルジュルジュル!!!!


 マナが・・・吸われていく・・・


「あぅぅぅ!!うぁぁぁ・・・ひぁああああああ・・・」


 激しく震える私のカラダから振り落とされまいとするのか、男の人が歯をより深く突き刺し・・・爪を刺し込んで来た・・・


「ぐぁぁ・・・うあぁぁ・・・」


 さらに、胸をガジガジと齧られる。


「あぐ・・・くぁ・・・っぅ・・・ひぐっ・・・あぁぁああ・・・」


 カラダ中に貼りついている他の木偶人形たちも、思い思いに牙を差し込み、爪を立て、引っ掻き、私をいたぶって愉しんでいる。


「っぁああああああ・・・」


 責められれば責められるほどに私のマナは甘くなってしまうらしいの・・・あぁぁ・・・責められれば責められるほどに・・・マナを激しく吸われて・・・あぁぁぁ・・・悶えるカラダを・・・爪や牙で責められて・・・ますますマナの吸引が激しくなって・・・


 私は・・・あぁぁ・・・地獄のようなスパイラルに捕えられて・・・


 逃れられない深みまで堕ちていく・・・


「畜生!お前たちばかりズルいぞ!」


 責めに参加できなかった木偶人形たちが抗議の声をあげた。


「ふん!いいもんね。オイラは、中から味わってやる!」


 そう言った木偶人形は、私の目の前で細かく分裂して粉のようになった。


 そして、それは私の口からサラサラとカラダの中に入っていく。


「うぁ・・・あぁああああああああ!!!!」


 カラダの中で分裂した悪魔たちが暴れ回る・・・暴れまわりながら・・・あぁぁぁ・・・内側からマナを吸われていく。


「んぉおぉ・・・うぁぁ・・・あがっ・・・うぁぁぁ・・・」


 自分の大切なモノが、カラダの中から貪られていく・・・生まれて初めて叩きつけられる激感に、私はカラダを突っ張らせて悶えた。


「あ、オイラもそれをやる!」


「オイラも!」


「オイラも!!」


 木偶人形たちが次々と、サラサラした粉状に分裂して・・・あぁぁぁ・・・今度は・・・いやぁ・・・ぱ・・・パンツの中に入って来て・・・


「いやぁぁああ・・・そんなとこ・・・あぁぁぁ・・・やめて・・・あぁぁ・・・そこは・・・汚い・・・いやぁあああぁぁああああああ・・・」


 やぁぁ・・・私の・・・あぁぁ・・・大事なところが・・・犯されて・・・胎内を満たされてしまう・・・それだけじゃなくて・・・お・・・お尻の・・・穴にも・・・おしっこをするところにも・・・悪魔たちが入って来て・・・あぁぁぁ・・・中で・・・激しく暴れながら・・・マナを・・・吸われて・・・


 私は、イヤらしく腰をクネクネと振ってしまう・・・


 だって・・・こんなの・・・あぁぁ・・・こんなの・・・


 耐えられない・・・耐えられるわけがない・・・


「いぐぅ・・・うぅ・・・ぁぁぁ・・・」


「オイラも、中からにする!!」


 私のカラダ中に貼りついていた木偶人形たちがそう声をあげ、サラサラの粉状に変化する。


 そして・・・あぁぁ・・・今度は・・・左の・・・ち・・・ちく・・・あぁぁ・・・胸の先端から・・・中に・・・


「んぁぁああああああああああああああああああああ・・・!!!!」


 カラダの中のいたるところを責められながら・・・一番弱い胸の中まで犯されて・・・もう無茶苦茶になった私は、いわゆる『絶頂』したみたいになってしまった。

 本来なら感じる事なんてあるはずもない感覚に襲われながら・・・私はカラダの内側から休むことなく叩きつけられる性感にも似た苦しみに、ただただカラダを震わせることしか出来ないの・・・


 唯一カラダの外に残った、木偶人形に変化した男の人が、


ジュルジュルジュルジュル・・・


私の胸を吸った。


「ひあぁぁぁあああああ・・・」


 内側からの責めだけで、もう許容量がいっぱいのハズなのに、胸を吸われることもちゃんとハッキリと感じてしまう。


 悪魔と戦う力を得たその時から、私はどんなに滅茶苦茶にされても、身に受ける責め苦の一つ一つをはっきりと感じてしまうようになった。

 内臓を内側から蹂躙され、おしっこの穴やお尻の穴、それにアソコを内側から責め立てられ、胸の中を犯される・・・その一つ一つの責め苦を・・・無数に分裂した悪魔たちが、私の中で何をしているのか、その細部全てをはっきりと感じてしまう。


「はぐぅ・・・はぁん・・・あぁぁ・・・うあぁぁぁ・・・」


 責められることに特化してしまった私のカラダ・・・苦しめられる為だけに存在しているみたいな私のカラダを、容赦なく木偶人形たちが責め立てる。


「あぅ・・・んぁぁぁぁぁ・・・」


 やがて木偶人形たちは、次元を超え、私の精神世界にまで入っていく。魂の奥深くにまで入りこんでいく。


『なんだコレは?』


 木偶人形たちが『ソレ』に気づく。


―――ダメ・・・それは・・・開けてはダメ・・・―――


『うふッ。そんな事言われたら、開けるしかないよねぇ~~~』


 木偶人形たちが、私の中の『パンドラの箱』を開いた瞬間、


「「「ひぁああああああああああ!!!!」」」


 悲鳴が上がった。


『コイツ・・・いったい何柱の悪魔と契約してやがる!!!???』


『なんでこんな大物が、ここにいるんだ!!???』


 木偶人形たちは踏み入れてはならないモノに踏み入れてしまった。開けてはいけないものを開けてしまった。


 私が倒してこの身に封じて来た悪魔たちの存在に、手を触れてしまった。


『うふふふ・・・坊やたち、ちゃんと契約を結んでからここに来なさいな。』


 メドゥーサが、木偶人形たちを次々に石に変えていく。


『今宵はもう働いたというに、世話をかけるでない。』


 名前の無いお爺さんが、爆弾で次々に木偶人形を爆破していく。


『ぐふふふふ・・・これはあまり美味しそうにありませんが・・・仕方がない・・・契約主の為にひと肌脱ぐとしましょうか。』


 ベヘモットが大きく口をあけ、身の程知らずの侵入者たちを呑み込もうとする。


『ひぃ・・・ごめんなさい。オイラ、アンタの契約者だって知らなかったんだよぉ~~~』


『お願いだから・・・食べないで・・・ぐぁぁ・・・』


 私を貪っていた木偶人形たちが、次々と貪欲なカバに食われていく。


『ダメだ!オイラは外に出る!おい!出せよおらぁ!!!』


 辛うじて生き延びた木偶人形たちは混ざり合って一体になり、再び次元を超え肉体の空間へと戻って来た。


 戻って来た場所は、



私の子宮だった。



「うぐっ!!!」


 突然お腹が妊婦さんのように膨らんで、私は目を大きく見開いた。


「かはっ・・・ぐぁ・・・あぁ・・・ぐぁあああ・・・」


 木偶人形が私の胎内で暴れ回る。その激痛に私は息が荒くなる。


 あぁぁ・・・なんて・・・なんて悪夢なのだろう・・・


 こんなにも・・・こんなにも女性としての尊厳を貶められるなんてありえない・・・


「はひぃ・・・はひぃ・・・はひぃ・・・ひぐぅううう・・・」


『だせよ!だせよおらぁあ!!!』


 木偶人形の動きが激しくなる。胎内がボコボコに蹂躙されていく。


「ひぎっ・・・はぐぅ・・・ひぁああ・・・」


 ぶしゃぁ・・・ついに、私は破水して・・・そして・・・


「はぁっ・・・かはぁっ・・・うぁぁあああああ・・・」


 鼻からスイカを出す痛みとは、よく言ったものだと思った。


 本来なら、女性としての最大限の悦びを伴ったハズの激痛に苛まれながら、


 ボテリ・・・



私は悪魔を産み落とした。



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うぅぅ・・・」


 もう汗だくで・・・息も苦しくて・・・もう・・・力が出ない・・・


「食べないでくれよう。許してくれよう・・・」


 木偶人形がみっともなく命乞いをしている。


 可哀そうに・・・折角だから教えてあげる。


「はぁ・・・はぁ・・・逃げられないわ・・・ベヘモットの食欲からは・・・」


 私がそう言うと、


ズォオオオオオオ!!!!


 逃げようとした木偶人形の肩に大きなぽっかり大きな穴が開いた。


 バリバリムシャムシャ・・・何もないところから、何かを噛み砕く音がする。


「いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい・・・食べないでくれよぅ・・・食べないでくれってばよぅ~~~~」


 みっともなく懇願する木偶人形の後ろにうっすらと、巨大なカバが大口を開けているビジョンが現れた。


  バグォオオオオン・・・


 次の瞬間、木偶人形は跡形もなく消えていった。


 ・・・だけどこれで終わったわけでは無い・・・私は、自らの意志とは関係ないとはいえ、身に封じた悪魔の力を使ってしまった。


 だから・・・あぁぁぁ・・・私は・・・悪魔たちに・・・力を使った代償として嬲られてしまう・・・


 クチュクチュクチュ・・・メドューサのヘビに耳を舐められる・・・


 爆弾のお爺さんに・・・また・・・お尻を撫でまわされて・・・


 ベヘモットは、獣臭い息をふんふんさせながら・・・私の口を・・・


 ライオンの頭にコオモリの羽を付けた悪魔は、鋭い爪で私の背中を何度も何度も引き裂いて・・・


 その他の名前の無い悪魔たちもカラダのあちこちを・・・特に・・・あぁぁ・・・胸は集中的に・・・


「あぁぁ・・・うぁぁぁぁ・・・」


 悶える私の胸で、唯一残った、男の人が変化した木偶人形が、


「うふッ。すごいね。あんなにいっぱいいたオイラ達を倒すなんて。お姉さん強いんだね。」


 と嗤った。


「ん・・・くぁ・・・うぅ・・・」


 私はカラダ中を滅茶苦茶に責められ続けて、何も答えることが出来ない。


 でも・・・安心して・・・大丈夫だから・・・


「でも残念。オイラ一人残しちゃったねぇ~~~。もう少しだったのにねぇ~~~。お姉さん、まだ何か出来るの~~~?出来ないよねぇ~~~?だってオイラの中には、まだ人間が残ってるからさ、オイラをやっつけると、人殺しになっちゃうからねぇ~~~」


 元は人間だった悪魔がそう言う。


 でも大丈夫・・・


 あなたがどんなに悪人でも・・・どんなに罪を重ねたどうしようもない人でも・・・あなたは・・・人として・・・ちゃんと人に裁いてもらうから・・・


 私は、契約した悪魔の力をまた借りて、炎の槍を具現化させた。


 もう今夜は、いっぱいいっぱい悪魔の力を使った。それなのにまた悪魔の力を使った私は・・・きっと・・・もうただでは済まないでしょう・・・


 だけど・・・あなたを人に戻すためだから!


 ドス!


 私の胸に貼りついている木偶人形の頭に、炎の槍を突き刺した。槍はその頭を貫通し、私の胸にも突き刺さる。


 ドジュウウううう・・・


 肉が焼ける激痛に、


「あうぅぅ・・・つぁ・・・あぁぁぁぁ・・・」


 私は呻いてしまう。


「心配いらないわ・・・この槍は・・・人間を苦しめる目的で・・・作られた・・・槍・・・だから・・・これで貫かれても・・・人は死ぬことは無いわ・・・ただ熱いだけ・・・だから・・・」


 私の言葉が気に入らなかったのか、それとも熱さに悶えているのか、木偶人形の爪が私の胸を引き裂いた。


 ジュウ・・・


 熱した爪が・・・私の胸の肉を焼いていく・・・


「あぁぁぁ・・・っぁぁぁああ・・・あぁあああああ・・・」


 何度も何度も何度も、灼熱の爪が・・・あぁぁ・・・私の胸を引き裂いていく・・・


 でも大丈夫・・・


 私は・・・どんな苦しみだって・・・受け止めてあげるから・・・


「あぁぁあああああああああ・・・」


 痛みに声が出てしまう。


 カラダがクネクネと動いてしまう・・・


 でも・・・それでも・・・


 私は・・・


 私は・・・


 どれくらいの間、私は爪を胸に受けていたのだろうか・・・


 木偶人形は次第に動かなくなり、そして眩い光に包まれた。


 元の姿に戻った男の人が、半ば私に抱き着くようにしながら、ズルリと地面にずり落ちた。


 それからグウグウと、暢気に寝息を立て始めた。


 私の目の前には光の球が浮かんでいた。これは悪魔の魂。


 私はそれを胸に抱くようにして、そしてこの身の内に取り込んだ。


「う・・・うく・・・ぅぁぁぁ・・・」


 悪魔の魂は、私を苦しめたいという欲望を発しながら魂に取り込まれていく。

むき出しの魂を、むき出しの欲望に犯される苦しみに悶え喘ぎ続けた私が、それから解放されたころには、すっかり夜が明けて、柔らかな朝日に包まれていた。


 遠くで


「きゃぁ!」


 という悲鳴が聞こえた。


 木に蔦でお腹を括りつけられたセーラー服姿の私と、地面に横たわり寝ている男の人の姿を見て、何かの事件があったのだと思ったのだろう。


「大丈夫ですか?」


 という問いかけに答える体力も無い私は、暗い眠りの中に落ちていった。


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


「あら、目が覚めましたか?」


 看護師さんの言葉に、私は自分が病院のベッドの上にいるのだと知った。


「無理して喋らなくても大丈夫よ。あんな大変な目にあったんだもの。犯人はきっと死刑よ。死刑。さもなくば死刑よ。」


 ふくよかな体型の笑顔の可愛らしい看護師さんが言うには、私は妊娠していたところを宝石強盗にさらわれて、山の奥で強姦された挙句、木に縛り付けられて堕胎をさせられた。


 ということになっているらしい。


 イマイチよく分かってない私の表情から、勝手に


「あんな事があったんだもの。記憶が混乱して当然よね。」


 そう判断してくれたふくよかな体型のエクボの可愛らしい看護師さんが、医者を呼びに行くと病室を後にした


 病室に私一人になった。


 その時、


 辺り一面がゾクゾクずるくらいの黒一色染められた。


「おやおや、いけませんねぇ~~~。貴女は、私に毎晩血を吸われる・・・そういう『契約』だったじゃないですか~~~」


 シルクハットに燕尾服。でっぷり太った腹に糸のように細く長い足の悪魔が、いつの間にかベッド横の小さな丸椅子に腰を掛けていた。


「違うの・・・メフィスト・・・これは・・・」


 そういう私の口を手で塞いで、メフィスト・フェレスは言った。


「いいえ。何も違いありません。悪魔にとっては、事情なんてどうでもいいのです。ただ、貴女を責める事が出来る口実さえあれば、どんな難癖をつけても徹底的に責め嬲る。それだけですよ。」


 その言葉が終わるとともに、


 ジャラジャラ・・・どこからか現れた鎖に、私のカラダがグルグルに縛られた。


「うぁ・・・あぁぁああ・・・」


「今宵は・・・おっと失礼。まだ朝の十時でしたね・・・ですから、そうですねぇ~~~本当ならば夜が明けるまで貴女を堪能する・・・と、こういいたいところですが・・・今回は特別に、日が沈みそしてまた夜が明けて・・・明日の朝十時まで、たっぷり貴女を可愛がって差し上げますよ。もっとも、闇の世界での時の進みは、私の気分次第でどこまでも遅くできますがね。」


「や・・・闇の・・・世界・・・?」


 その問いの答えを聞く代わりに・・・私は・・・


 トプン・・・


 辺りを覆っていた黒の中に沈められた。


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


「あぁぁぁ・・・うあぁぁぁあああああああ・・・」


 そこは黒一色の世界・・・私はゴツゴツする岩みたいな感触の地面に横たわっていた。


「苦しいですか?苦しいですよねぇ~~~。この空間は欲望の力を何倍にも、何十倍にもするのですよ。貴女がその身に封じた悪魔たち、その欲望の力も大きくなって、ほら、感じるでしょう?貴女を責め嬲っているのが。」


「あぁぁぁ・・・うあぁぁ・・・あぁああああああ!!!」


 「それにほら、この粘液・・・どっぷりと欲望が詰まった粘液をこうしてちょっとつけるだけで・・・」


 チャポン・・・ナニカ液体のようなモノにメフィストが手を入れ、そして私の胸を撫でた。


「あぅぅ・・・ぃぁ・・・あぁぁああああああ!!!」


 数えきれない数の人に胸を責められているような感覚に、私は身悶えた。


「そうでしょう。そうでしょう。苦しいでしょう。それでは今から、この粘液の中に貴女を落とします。」


 え?・・・うそ・・・何を言っているの?


 混乱する私のカラダがひょいと持ち上がり。そして、


 ザプン!


 ベトベトする粘液の中に落とされてしまった。


―――あぁぁ・・・うあぁぁぁあ・・・―――


 粘液の海に沈みながら、ベットリと全身に絡みつく欲望に身悶える私の耳元で、メフィストが囁いた。


「折角ですから、貴女があの晩受けた苦しみを、また味わってもらいましょう。」


 その言葉と共に、私は全身が切り刻まれる痛みを感じた。


 あぁぁぁ・・・私は・・・この後・・・噛まれて・・・踏まれて・・・あぁぁ・・・それから・・・契約した悪魔たちにも苦しめられるんだったわ・・・


―――うぁぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・―――


 顎をあげて悶える私の首筋に、メフィストは牙を差し込み、そしてチュウチュウと血を吸い始めた。


 あぁぁぁ・・・その責めは・・・いつまでもいつまでも・・・気の遠くなるほど続いて・・・私はベットリとした黒に犯されながら、力なく身悶え続けていた・・・



真約・黒のマリア 第三話 『悪夢の牙に貫かれる少女』

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