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アヤワスカ
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真約・黒のマリア 第六話 『鏡の国のマリア』

  三人目の『養父』は、随分変わった人だった。


 『悪魔学の第一人者』と呼ばれる彼は、古今東西からかき集めた様々な呪物に囲まれて、朝から晩まで恐ろしくて不気味な悪魔の研究に明け暮れていた。


 だからだろう。彼は周囲からは人嫌いの偏屈な人物だと思われていた。眼鏡の奥から覗く鋭い眼光。ボサボサの白髪頭。やせ細った体格は、一見すると気難しい人物のように思われた。


 だけど私は、きっとあのカインさえも、彼が不器用な愛情に溢れた人だということが直ぐに分かった。


『私はただ愛しているだけなんだよ。』


 どうして恐ろしい悪魔なんかを研究しているのか聞いた私に、彼は少し困ったような笑顔でそう答えてくれた。


『私には、美しいとか醜いとか、良いものだとか悪いものだとか、そう言うものに一切興味がなくて、その、うまく言えないけれど、目の前にある物がただただ愛おしいんだよ。』


 黒薔薇漱石という人物と暮らした日々は、私の人生の中で、唯一穏やかで温かい時間だった。


 彼は私の事も、ただただ愛してくれた。私がそこにいるというそれだけで、肯定し、敬い、深い愛情を与えてくれた。


 それは、兄、カインに対してもそうだった。


 それなのに、カインは


 アイツは・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


・・・残念だけど、鏡の世界でのかくれんぼはボクの勝ちみたいだね。ほら、君はもうすぐあの恐ろしいジャバーウォックに食べられるんだから。」


 カインの勝ち誇った言葉が終わると、私のカラダは大きな時計台に磔になっていた。


 カインに戦いを挑んだ私は鏡の中の世界に囚われてしまった。物理的な常識が通じない不思議な世界で、私は“鏡の国のアリス”の出てくる少女の様な服装の幼い姿になっていた。


 勿論、ここはアリスの物語のようにメルヘンな世界ではなかった。ここで私は散々に甚振られ、辱められ、嬲られ続けた。


 そして今・・・大きな満月に太った竜のシルエットが浮かんでいる。ソレはバッサバッサと大きな翼をはためかせながら、何の抵抗も出来ない私の元へと飛んでくる。


「うあ・・・ジャバーウォック・・・」


 私をこの世界に引き釣り込んだ悪魔の姿に、私は思わず弱々しい声をあげてしまった。


 鏡の中の悪魔。ジャバーウォック。大きな体と太い尻尾。鋭い爪と長くとがった牙。


 カラダと同じで心も幼くなっているのかしら、目の前の竜がとても恐ろしいモノに映ってしまう。


 悪魔との戦いにおいて、心が呑まれてしまうのは最大の禁忌なのに・・・


 ベロォリ・・・


 あぁぁぁ・・・ジャバーウォックの大きな舌が私のカラダ中を舐めまわすの・・・


「うあ・・・あぁぁぁん・・・」


 念入りに・・・しつこいくらい舐めまわされて・・・あぁぁぁ・・・


「や・・・あぁぁん・・・」


  あぁぁぁ・・・舌が私のカラダに巻き付いて・・・


 それから

 

ゴックン。


 私は竜の悪魔に呑み込まれてしまったの・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


 呑み込まれた私は長い長い竜の喉を真っすぐ落ちて、そして


 ストン


 私は見渡す限り何もない、だだっ広い空間に着地した。緑の地面と青い空。それ以外に何もない、無の世界。


「ぼくノおうちニようこそ。サァ、なにシテあそボウカ。」


 どこからともなく声が聞こえる。


「アナタは誰?どこにいるの?」


「グルグルグル・・・ジャバーウォック。こわクテおそロシイばけものサ!」


 その声と共に、


「あそボウ。」


「あそンデ。」


「あそバナイカ。」


「あそンデクレヨ。」


 カナブンくらいの小さな竜が、小さなジャバーウォックの群れが私を取り囲んだ。


「くっ・・・」


 私は悪魔の力で炎の槍を造り出そうとした。だけど、


 私の手に現れたのはマジシャンみたいな黒い棒。その先から、


 ポン!


 紙吹雪が飛び出してきたの。


「な・・・なんなのこれ・・・あぅぅぅううう・・・」


 炎の槍は造られなかった。だけど悪魔は力を貸した代償に、容赦なく私のカラダの中で暴れ回る。


「グルグルグル・・・ソレガ、きみノ、ちから?こんどハ、ぼくノちからヲみセテアゲル。」


 ジャバーウォック達が一斉に大きく口を開けて、そして・・・


 ゴウ!


 一斉に炎を吹き始めた!


「うあぁあああああああああああああ!!!!」


 小さなジャバーウォックの口から、私をグルリと囲んだ沢山の竜の口から、凄まじい勢いの炎が放たれた。


 一瞬で骨も残らないほど灰になってしまうほどの炎に襲われて、


 でも・・・私は火傷一つ付くことも無い。


 ただただ、凄まじい炎に炙られる苦しみだけを絶え間なく受け続けるしかなくて・・・


「うあぁああああああ・・・あぁあああああああああ・・・」


 全方位から襲ってくる灼熱に叫べば、肺の中も燃やされるような熱風を吸い込んでしまう。だけど私は悶え喘ぐことしか出来なくて・・・


「あつクテくるシイ?」


「ソレジャ、さマシテアゲルヨ。」


 コォオオ・・・


 今度は・・・吹雪のブレスを吐き出して・・・


「はぁぅ・・・あああああああああああ・・・」


 限界を超える灼熱に晒されていたカラダが、一気に凍えていく。


「あぐ・・・あ“あ“あ“あ“ぁ“ぁ“・・・」


立ったまま倒れることも許されずに吹雪をこの身に受け続けている私に、ジャバーウォック達はさらに責めを加えていく・・・


「こんどハ、かぜデひキさイテアゲル!」


 吹雪のブレスを吐きながら、ジャバーウォック達は一斉に激しく羽ばたき始めた。


 その羽ばたきは風の刃を巻き起こして・・・私を切り刻んで・・・


「あぁっ!・・・あぁあああああああ・・・・!!!!」


 風の刃が私のカラダを引き裂いていく・・・引き裂いていくのに、肌にも服にも傷一つ付かない。傷一つ付かないから、私は延々と風の刃に襲われ続ける。


「クネクネシナガラくるシムすがたガすてきダナ。」


「グルグルグル・・・モットくるシメテアゲルネ。」


 ブシュウウ・・・


 激しい羽ばたきと、吹雪のブレスを吐きながら、ジャバーウォック体から紫のガスが吹き出した。

 ガスは吹雪に交じって私に届いて・・・


「んぐぁっ!!」


 最初に感じたのは耐えられないくらいの悪臭。


 あぁぁぁ・・・これは・・・毒・・・毒が・・・私のカラダを犯していく・・・


「あぁぁっ・・・んぁぁ・・・あぁぁぁ・・・」


 カラダがガクガク震える。


「アァ・・・かわイイ、ソノかお。」


「ソノ、スベスベシタはだ。」


「モウがまんデキナイヤ!」


 風の刃も吹雪も毒も、突然急に止んだ。


「はぁ・・・はぁ・・・え?・・・うそ・・・きゃぁああああああああ!!!」


 無数のジャバーウォックが私のカラダに一斉に集って来たの!


 ガブリ!


 指先に噛みつかれて私は、


「痛いっ!」


 そう声をあげたけれど、その時にはもう、それ所の状況では無かった。


 沢山のジャバーウォックが袖から、襟から、そして・・・あぅぅ・・・スカートから、服の中に潜り込んで、


 私の肌の上を蠢いて・・・あぅぅ・・・その時初めて、ジャバーウォックのカラダが粘液でヌルヌルしていることに気が付いたの。


「ひゃぁぅ!」


 あぁぁぁ・・・ジャバーウォックは、ぱ・・・ぱ・・・パンツの中にまで潜り込んできて・・・いやぁぁ・・・そんな所でモゾモゾ動かないで・・・


「んふぅ・・・あう・・・はぁん・・・」


 私はどうしても、甘い声をあげてしまう。足がガクガクして、立っていられなくなって、


「あぁぁああん・・・」


 ドサリ・・・


 まず膝が崩れ落ちて、それから四つん這いの姿勢になってしまったの。


「いや・・・やめ・・・あぁぁあああ・・・」


 エッチな声をあげながら、四つん這いで、お尻をモゾモゾ振っている・・・あぁぁ・・・私は・・・なんてエッチなの・・・


 顔が熱くなって、心臓がバクバクしてしまう。


 ヌル・・・ジュルジュル・・・クチャクチャ・・・


 脚を、お尻を、あそこを・・・音を立てて責められて、私は凌辱されるがままになっている。


「あぁぁ・・・んあぁああああ・・・」


 悪魔の呪いで、性的快楽を苦しみに感じてしまうようになった私にとって、この責めは・・・あぁぁぁぁ・・・どんな拷問よりも辛いの・・・


「いや・・・あぁぁん・・・やだ・・・あぁあああ・・・」


 あぁぁぁ・・・下半身だけで許してくれるハズも無くて・・・袖から入った子達が二の腕を登り、腋を虐めて横腹に・・・襟から入った子達は背中からお腹、首元から胸元に・・・そして・・・


「んはぁあああああっ!!!!」


 あぁぁ・・・一番弱い・・・ち・・・ち・・・乳首・・・に・・・殺到して・・・


「んあぁ・・・はぁっ・・・んやぁああああああ・・・」


 私の反応に気づいたのか、ち・・・その・・・胸の先端への責めが激しくなってくる。


「あふぅ・・・んっ・・・だめ・・・だめ・・・このままじゃ・・・」


 ――いっちゃう!!!――


 その時・・・


 ザリ!ザク!ドス!


 カラダ中のジャバーウォックが私を爪で裂き、牙で噛みつき、角を突き刺して・・・


「あがっ・・・」


 凄まじい痛みに・・・私は・・・


「あぁあああああああああああああああああ・・・!!!!!」


 全身に電流が駆け巡るような激しい激感が爆発して・・・あぁぁぁ・・・


「グルグルグル・・・いたミデ、イッタミタイダネ。」


 耳元で、ジャバーウォックが私を嘲笑う声が聞こえる。


 いや・・・そんなの・・・それじゃぁ私まるで・・・


「きみサァ、ドへんたいマゾドレイニ、ナッチャッタ。ネ。」


「いやぁ・・・」


 言わないで・・・聞きたくない・・・そんな事・・・


 そんな事ない・・・のに・・・

 

 ガブリ!


 カラダ中を噛みつかれて、


「あぁあああああん・・・」


 四つん這いになったカラダをのけ反らせて、エッチな声をあげてしまう。


「モットきもちヨク、サセテアゲルネ。」


「あ・・・あぁぁ・・・こ・・・これ以上・・・何を・・・っ!・・・うあぁああああああああああああ・・・」


 私のカラダに貼りついた無数のジャバーウォックが、その一匹一匹が・・・炎や吹雪・・・それに、電撃や溶解液を・・・吐き出して・・・


「あぅううう・・・あぁあああああん・・・」


 あぁぁぁぁぁ・・・ゼロ距離から放たれる激しい攻撃・・・それを・・・全身に・・・


「んあぁあああん・・・あぁ・・・そ・・・そこは・・・あぁぁあああああ・・・」


 特に胸は・・・幼い胸の先端は・・・より激しく集中的に責められて・・・


「はぁああああああああああん・・・」


 カラダを震わせるほどに、振り落とされまいとするのかジャバーウォック達はより深く爪や牙を突き立てる。


「あぐぅ・・・あぁあああ・・・」


 悶えれば悶えるほどに、責めは苛烈になって、私はまた激しく身悶えてしまう。


「あぁぁ・・・いぁぁぁ・・・・」


 流れる汗が、チュウチュウと吸われ、ペロペロと舐められる。


「グルグルグル・・・マタ、イッタネ。せめラレテくるシメラレテ、ぶざまニエッチニ、イッチャッタネ。」


「あぁ・・・う・・・あぁぁ・・・そ・・・そんなこと・・・あはぁああああああん・・・」


 最初はバラバラだった責めが、次第に統率がとれるようになって、私をさらに追い詰めていく。

 

 お股の恥ずかしい豆を電撃で責められ、震えるお尻を溶解液でドロドロにされ、右胸と左胸を交合に炎と吹雪で責められる。


「やぁぁ・・・も・・・もう・・・あぁああああ・・・」


 壊れてしまいそう・・・いや、いっそドロドロに壊れてしまえれば、どんなに楽だったか分からない。無茶苦茶にされながらも、神経は何故か研ぎ澄まされて、敏感になって、カラダのドコをどうされているのかはっきり分かってしまう。責め苦がしっかり刻まれてしまう。


「マダマダおワラナイヨ。マダマダ・・・マダマダネ。」


「うあぁん・・・ひあ・・・あぁあああああ・・・」


 アリスの服を着た私は、無数の竜に集られながら、四つん這いの姿勢でクネクネと悶え続けたの。


 いつまでも・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


 あぅ・・・あぁぁ・・・うあ・・・あぁぁああ・・・」


 永遠と思われるほど続いた小さなジャバーウォック達の責めが終ったあと、今度は巨大なジャバーウォックの手のひらの上で責めを受けていた。


 ブスリ!


 巨大な指の、長くて鋭い爪が私の胸に突き刺さる。


「あぁああああ・・・」


 それはすぐに引き抜かれ、


「あんっ・・・」


 またすぐに胸に、爪が・・・


 ブスリ!


「うあぁあああ・・・っぁあああ・・・」


 私はもう何度も何度も爪で胸をつらぬかれ続けている。


 だけど、アリスみたいな服にもカラダにも、傷一つ付くことは無い。


 無いけど・・・ううん、傷がつくことが無いから、何度も何度も責められて・・・


「はぐぅ・・・っぁああああ・・・んあぁあああああ・・・!!!!」


 んっ・・・今度は・・・さっきみたいにすぐに引き抜かないで・・・グリグリと・・・嬲るように動いて・・・胸を・・・かき回されて・・・


「くぁっ!うあぁ・・・んくぅ・・・ぁああああああ・・・」


 ズクン!


 胸の中で、爪が大きく鼓動した。


 それから・・・


 ドクン・・・ドクン・・・


 あぁぁぁ・・・・私の・・・血を・・・吸い上げて・・・


「うぁ・・・っぅう・・・あぁあ・・・」


「グルグルグル・・・きみノチ、おいシイナ。モットすワセテヨ!」


 お腹の中に響くような声が、遥か頭上から降り注いだ。


 ズキュウウウウ!!!


 血を・・・血を吸う力が・・・激しくなって・・・一瞬で全身の血が一気に吸われるくらいの・・・激しさで・・・


「ああぁぁぁあああああああ・・・」


 どんなに血を吸われても尽きる事が無い・・・だから私は・・・あぁぁぁ・・・血を激しく吸われる苦しみを・・・いつまでもいつまでも味わい悶え喘ぐことしか出来ないの・・・


「うぁっ・・・くぅ・・・っぁあああ・・・あぁあああああ・・・」


「おいシイ!おいシイヨ!!」


 ブスリ!ブスリ!ブスリ!


 爪が、二本、三本、四本と突き刺さって・・・


「あぐっ!んぁ・・・くあぁ・・・」


 その一本一本が、


 ズキュウウウウ!!!


 私の・・・血を・・・あぁぁ・・・貪って・・・


「うあぁあああああああああ・・・」


 貪られながら、私はカラダを仰け反らせて悶える事しか出来ない。その姿は、まるで胸を差し出しているようで・・・

 

 欲情を煽られた魔獣は、血を吸いながら、四本の爪を滅茶苦茶に掻き動かしたの。


「はぐぅうう・・・あぁぁあ・・・・あぁぁああああ・・・」


 あぁぁぁ・・・悶えるから、喘ぐから、ジャバーウォックが興奮してしまうのに。カラダは責め苦にあっけなく屈してしまって、相手の望むがままに反応してしまう。


「グルグルグル・・・こわレナイおもちゃデあそブノたのシイナ。」


 どじゅうう・・・爪の一本が、熱を帯びて・・・私の胸を内側から焼き始めた。


 ジュクジュクジュク・・・爪の一本が、毒を分泌しだして・・・私の胸を犯すの。


 ヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・爪の一本が、激しく振動を初めて・・・胸を抉るようにして・・・


 バチバチバチ・・・爪の一本が激しい電撃を放って・・・


「う“あぁあああああああああああああああ!!!!!」


 壊れる・・・壊される・・・あぁぁ・・・でも・・・壊れる事が出来ない・・・


 こんなに・・・胸を滅茶苦茶にされているのに・・・


 ズキュウウウウウ・・・あぁぁぁ・・・熱と毒と振動と、それから電撃で私を責めながら・・・激しい吸血は止まらない・・・


「うがぁ・・・あぁぁ・・・あぁああああああ!!!」


「グルグルグル・・・ドウダイ?きみヲコンナニモくるシメタノハ、ぼくクライノものダロウ?」


 高いところから降り注いでくる声に、


「ば・・・馬鹿なこと言わないで・・・うあぁ・・・こ・・・こんなせめ・・・私には日常茶飯事・・・だわ・・・」


 私はそう答えた。


「うそダ!ソンナことアルハズナイ!!」


 熱が高くなり、毒が濃くなり、震動が激しくなり、電撃が力を増した。


「あぁああ・・・うあああああああああああああああ!!!!」


「うそツクやつハ、コウダ!」


 四本の爪が、私の心臓を突き刺した。


「あがぁ・・・うあ・・・ぐあぁあああああ・・・」


 熱を毒を振動を電撃を・・・直接心臓に叩き込まれてしまう。


 それだけでも耐えられないのに・・・心臓から、直接・・・血を・・・吸われて・・・


「あぁぁぅ・・・うあぁああああ・・・あぁああああああ!!!」


「ホラホラホラホラ!ドウダイ?コンナニくるシイせめ、はじメテダロウ?」


「あぁぁう・・・だ・・・だから・・・これくらい・・・いつも・・・」


 そう言うと責めが激しくなるのは分かっている。けど、悪魔の心を揺さぶるにはこうするしかなかった。これだけが、ジャバーウォックに勝って、この悪夢の空間から抜け出す唯一の道だった。


「うそヲつくナァアア!!!!」


 全ての責めが激しくなって・・・心臓を・・・


「はぐぁあああああああああああああああ・・・」


「ソンナことナイ!ナイダロウ!!!コノォーーーーー!!!ソンナことヲいウやつハコウダ!!!」


「あぁぁああ・・・」


 爪に突き刺さったまま、私のカラダは高く持ち上げられた。


 目の前にはジャバーウォックの巨大な顔。


 それは大きく口を開いて、そして、


 パクリ


 私を一口で食べたの。


 ブスリ!!


 太い牙が突き刺さる。


「つぁあああああああ・・・」


 ゴリゴリ!!!


 大きな薄の様な歯が、胸を押しつぶす。


「うぐぅ・・・うぅぅううう・・・」


 べろりねろり・・・


 舌が絡みついて・・・あぁぁ・・・唾液を染み込まされて・・・


 口内で弄ばれて、


 味合わられて・・・


「うあぁぁああっ・・・あぁあああああ・・・」


 散々苦しめられた後で、やっと喉に呑み込まれたの・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


ストン


 また私は見渡す限り何もない、だだっ広い空間に着地した。さっきと同じで、緑の地面と青い空。


 ガサ・・・ガサガサ・・・


 私の目の前に、巨大な蜘蛛が現れた。


「グルグルグルグル・・・ぼくダヨ。ジャバーウォックだよ。ほんきだシタラホラ、コンナふうニへんしんスルことダッテ、できルンダヨ。」


「はぁ・・・はぁ・・・で?・・・それがどうしたのかしら・・・」


「おそロシイデショ?コンナニおそロシイあくま、ぼくクライナものデショウ?」


「別に・・・あなた程度の悪魔、履いて捨てるくらい見て来たわ。」


「ド・・・ド・・・ド・・・」


 巨大な蜘蛛が、震えだした。


「ドウシテソンナこといウノー!!!!!!!???????」


 蜘蛛の口から大量の意図が放たれる。


「うあぁああああ・・・」


 私は避けることも出来ずに、クモの糸にこの身を絡めとられてしまう。


「うぐぅ・・・んくふぅ・・・」


 糸はまるで意志を持つかのように蠢き、私は首から下をグルグル巻きにされてしまう。


「はぁああ・・・うあああ・・・」


 ギュウウウウ・・・


 糸は強く強く私を締め上げる。


 ミシ・・・ミシミシ・・・


 骨が・・・今にも砕けてしまいそう・・・


「あ・・・あぁぁ・・・う・・・あぁあああ・・・」


「グルグルグルグル・・・ドウダイ?おそロシイくもノいとハ。コンナおそロシイせめく、うケタことナイダロ?」

 

「う・・・あぁぁああ・・・だ・・・だから・・・うあぁぁ・・・こんなの・・・締め付けるだけのせめ・・・ あくびがでるほど受けて来たわ・・・」


「しメつケルダケノわケナイダロ・・・いまカラ、うごケナイきみヲ、コノするどイあしデ・・・」


「突き刺すのは・・・さっき散々やったでしょ・・・」


「ジャァ、ジャァ、どくモ。」


「それも・・・さんざんアナタに受けたわ。」


「ジャァ、ねつ・・・ハ、ヤッタシ、・・・でんき・・・モ・・・ヤッタシ・・・エット・・・エット・・・ウワァアアアアアアアアアアン!!!!!ぼく・・・ぼく・・・ドウシタライインダァアアアアア!!!!!!」


 ジャバーウォックが太った竜の姿に戻る。目から噴水のように涙を流しながら、泣きわめいている。


 私をグルグル巻きにしていた糸はいつの間にか消えていた。


「こんな世界に閉じこもっているからよ。」


 私は泣き虫の竜に声をかける。


「自分の世界に閉じこもっているから、何の成長も出来ないのよ。」


 冷たく突き放したつもりだった。散々私を苦しめたんだ。ザマァ見なさい。


 ザマァ見なさいって、思いたかった。でも、思えなかった。


「デモ・・・デモ・・・オそとこわイモン・・・」


 さっきまで私はこの悪魔に苦しめられていたのに、目の前で泣いているのを見ると、泣き止んで欲しい・・・そう思ってしまった。


 ―――目の前にある物がただただ愛おしいんだよ。―――


 三人目の『養父』黒薔薇漱石の言葉を思い出した。


 いいえ、私はまだ悪魔を愛することなんて出来ない。散々私を遊び感覚で苦しめたんですもの。許す気持ちなんて沸いてこない。


 でも、泣いている子を見て泣き止んで欲しいと、ごく自然に思ってしまったの。


「馬鹿ね。お外が怖いのなら、私もずっと一緒にしてあげるから。」


 泣いている竜の頭を胸に抱いて、私はそう言った。


「ほんとうニ?」


 愛することも、許すことも出来ない。ただ、受け入れてあげるくらいなら、こんな私にもできそうな気がした。


「本当よ。」


「わカッタ。ソレジャァ、オそとニいく!」


「“契約”成立ね。」


 ジャバーウォックの体が砕けて、中から光球が現れた。


 それは私の胸に吸い込まれて・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・悪いわね・・・アナタのペットは・・・私が退治したわ。」


 吹き抜けの高い天井。シャンデリア。中央に鎮座する大きな階段。大理石の床に日光を取り入れる大きな窓。艶のある円柱の太い柱が、左右に一本づつ立っている。周囲には大小様々な割れた鏡。


 鏡の世界の大冒険を無事に終えて、私は元のエントランスに戻って来た。


 引き裂かれたセーラー服を着た私の目の前に、カインがいる。


「カイン・・・私は・・・アナタを・・・」


「殺すかい?それは無理だよ。」


 カインはそう言うと、足元に転がっている銃を手にした。ソレは私がカインを撃つ為に作りだした銃。


「だってボクはただの人間だよ?殺人を犯した君が逮捕されたら、放たれた残りの悪魔はどうなるんだい?」


 バン!


 銃口が火を噴き、


「あがぁっ・・・」


 胸に焼けた鉄の棒を差し込まれたような痛みが走った。


「あぁぁぁ・・・」


 うあぁぁ・・・銃で撃たれた私は、胸に手を当てて膝まづいてしまう。


「君は死ねない・・・そうだよね。ほら、こうして何度打たれても何度打たれても死ぬことは出来ない。でも、痛いんでしょう?ねぇ?痛くても痛くても死ねない気分はどんなだい?ねぇ?ねぇ?」

 

バン!バンバンバンバン!!!


 銃口が火を放つたびに、


「うぐっ・・・っあ・・・あ“ぁ“ぁ“ぁ“!!!」


 私は胸を無茶苦茶に撃たれてしまう。


「あ“ぁ“っ・・・っ“あああああ!!!」


 苦しむ私を見ながら、カイン―――本当の悪魔が嗤う。


「フフフフフ・・・ウフフフフフフフ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!マリア・・・マリアマリアマリアマリア!ボクの愛しいマリア。可愛い可愛いマリア!君はそうして成すすべなくいたぶられ苦しめられ責められるのが本当に本当によく似合うよマリア!ホラホラホラホラ!!!!痛いだろう?苦しいだろう?でもまだだよ、ボクはね、ボクはね、ボクはねボクはねボクはねボクはねボクはねボクはね、この時をずっとずっとずっとずーーーーーーーーーーーっと待っていたんだよマリア。さぁ今からが本番だよ。可愛い声で鳴いておくれよマリア。ボクの渇きを癒しておくれマリア!!!」


 カインが何を言っているのか全く分からない。きっとハイになっているんでしょうね。


 馬鹿なお兄ちゃん。


アナタの敗因は、そう言う所よ。


「う・・・うぅ・・・カイン・・・私もね・・・ペットを飼っているの・・・」


 私の言葉に、


「?・・・何を言ってるんだい?」


 カインの表情が曇った。


「大きなカバみたいな子でね・・・形ある物はみんな食べる事が出来るのよ・・・すごいでしょ?」


 カイン・・・幼い頃から私を弄び苦しめた双子の兄。


 アナタは私だけじゃなく、園長先生や、二人の『お養父』さん・・・色んな人の人生を弄び壊してきたわね。


「何を企んでいるのか分からないけど無駄だよマリア。君が今更何をしたところで・・・」


 そして・・・私に・・・アナタにも無償の愛を注いでくれたあの人・・・黒薔薇漱石を裏切って・・・アナタは・・・


「いいえカイン・・・もう私は何もしないわ・・・もう終わったのよ。」


 だから、ここで終わるの。私が終わらせるのよ。


 ミシ・・・ミシミシ・・・


 柱や壁から、崩壊の音がする。


「このお家の壁や柱の『中身』を食べてもらったの・・・もうすぐこのお家は・・・アナタがお世話になっている人には悪いけど・・・でも・・・今はここに誰も人はいないのよね・・・アナタのその言葉が嘘かどうか、暴かせてもらったわ・・・」


 ギシギシギシ・・・


 カインの物語を終わらせる音が、どんどん大きくなっていく。


「ねぇカイン・・・アナタを裁くのに私が『罪』を背負う必要なんかないのよ・・・アナタは・・・この大きなお家に潰されるのだから・・・潰されても私は死なない・・・でもアナタは・・・」


 自分諸共このお家の下敷きにする。狂気の発想かしら。そうね、こんな事思いつくのは、私がアナタの妹だからかしらね。


「くっ!付き合ってられないよ!」


 カインは出口の方へ駆けだそうとする。


 でもね、そのアナタの足を、鏡の中の悪魔、ジャバーウォックが掴んでいるのよ。


「うぐっ!」


 足を掴まれて動けないカインの顔が、絶望に染まる。


 パラパラパラ・・・ギィイイイ・・・


崩壊の音が、福音のように鳴り響く。


「なるほど・・・なるほどね・・・知っていたよ・・・あぁぁ知っていたよ君が強いことくらい。」


 カインが私に語り掛ける。


「何度苦しめても何年嬲っても毎回毎回毎回アナタは諦めることなく最後は私を倒してきたモノね。何度も何度も私を物語の通過点にして・・・あぁぁ・・・その目よ・・・その瞳なのよ・・・綺麗で・・・狂おしいほど愛おしいのに・・・最後には私の事なんか映さなくなって・・・本当に・・・本当に・・・忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々忌々・・・


 カインの断末魔を聞きながら、私は意識が遠くなっていって・・・


 あぁぁ・・・


 私・・・


 もう疲れて・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「あれ?・・・私・・・」


 目が覚めると、そこはジメジメした暗い森だった。


 その世界が現実だとは思えなかった。鏡の中の世界とも違う。この感じは、度々メフィストフェレスによって堕とされる、私を苦しめる為だけに造られた世界に似ている。


「ここは・・・闇の世界?」


「へっへっへ・・・そんな大層なものじゃありやせんですよ。」


 その声に振り向けば、野球帽を被った中年男性と、スーパーのビニール袋を腕から下げた太った中年女性の姿があった。二人とも、ニヤニヤ嗤いながら私を見つめている。


 ゾク・・・


 その視線に背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「へっへっへ・・・マリア様、あたしのこと、覚えてますか?カジノでお目にかかりましたよね。」


 この男の視線は覚えている。私のカラダに刻まれている。


 マモンの牙城のカジノで、私の胸をネットリと見つめたあの目だ。


 私は胸元を手で隠した。


「改めて自己紹介させていただきやしょうかね。あたしらは二人とも、元は名前の無い、とるに足らない悪魔だったんですがね、“あるお方”に名前をつけてもらいまして、それで、まぁ、力を得る事が出来まして。」


 喋る男の横で、女はニヤニヤしながら黙っている。


「あたしの名前は“強姦”。それで、これの名前は“殺人”と言います。へっへっへ・・・ちょいと奇妙な名前でしょう?でもあたしら、この名前気に入ってまして。」


 強姦と殺人・・・二柱の悪魔とどう戦おうか・・・私は思考を巡らせる。


 あまりにも得体が分からない相手・・・まずは出方を待つしかないのかしら・・・


「へっへっへ・・・いやぁ、あたしら、別に戦いに来たわけじゃァありませんで。ちょいと激励をね、しようかと。あたしらに名前を付けてくれた“あるお方”がね、『箱』の完成を心待ちにしてますんで、その事を伝えたいと思いまして。えぇ。」


 口ではそう言っているが、強姦も殺人も、どちらも凄まじいオーラを放ちながら、少しも隙を見せない。


「それではね、アタシらはここで失礼しますね。マリア様も、この扉をくぐりさえすれば、この森から抜け出れますんで。えぇ、簡単でしょ?」


 強姦と殺人の後ろに、大きな扉が現れる。


「あ、そうそう。この森、昼は平和なんですけど、夜は魔物達が現れて危険ですので、えぇ、気を付けて下さいね。」


 その言葉と共に、森に夜が訪れる。


 扉の向こうへ悪魔たちが去って行く。


「待って!」


 私は悪魔を追おうとしたけれど、


 ズドン!


 脇腹に強い衝撃を受けてしまって、


「ごふぅ!」

 

 私はその場にうずくまってしまった。


 ふんふんふん・・・豚の頭をした大きな人が、棍棒を持って私を見下ろしている。


 この子は・・・オークっていう子かしら・・・ゲームで見たような気がする・・・


 ザク!


 背中を何かに引き裂かれて、


「あぁああああああああ!!!」


 私の声が森に響く。


 狼男が、私の背中を引き裂いたのね・・・


 くっ・・・こんな魔物二体くらいなら・・・扉はすぐ傍にあるの。慌てないで対処すれば・・・


 ガシっ!


 高速で飛んできた何かが私の肩を掴んだ。


 大きなワシの様な魔物が、鋭い爪で私を掴んでズルズルと引きづっていく。


「っあ・・・放して・・・う・・・うあぁ・・・」


 扉が・・・遠ざかっていく・・・


 ブン!


 私は茨の茂みに投げ込まれて、


「っぁあああ・・・」


 カラダ中が傷だらけになって・・・


 ジュルジュル・・・ジュルジュル・・・


 茨が私に絡みついてくる。


「シャー―――!!」


 真ん中に大きな口が付いた花が嗤っている。私は・・・茨の魔物に囚われて・・・


「あぁああああああああ・・・」


 鋭い棘が付いた蔦が私を締め上げる・・・


 ヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・


 羽音を響かせながら、蜂の魔物の群れが・・・


 あぁぁ・・・森中のあちこちから、ギラギラした目を光らせて、魔物達が私を苦しめようと見つめている。


「うあ・・・あぁぁ・・・あぁあああああああああ!!!!」


 ―――私の目の前に現れた、強姦と殺人と名乗る悪魔。その悪魔たちが言っていた“あのお方”という存在。


 私の戦いは・・・これから厳しさをましていく。


 ・・・のだろうけど・・・


「うあぁあああああ・・・」


 蜂の魔物が私の胸に毒針を刺した。


 あぁぁ・・・まるで胸を犯すように激しく出し入れしながら毒を注ぎ込んでくる・・・


「はぐぅ・・・ぁぁああああ・・・」


 幽霊のような魔物が、耳元に息を吹きかけながら呪いをかけてくる。


 私は・・・この森を抜けださなくちゃ・・・いけないのに・・・


 私は、この森の中で一番弱い存在。嬲られ責められ苦しむためだけの存在。


 ここから抜け出すまでに、どれだけ責められるのか・・・


 それに・・・ここを抜けて現実世界に戻れたとしても、私を待つのはメフィストフェレスと、私のカラダに封じた悪魔たちによる壮絶な責め。


「はぐぅ・・・うぁ・・・あぁぁあああああ・・・」


 あぁぁ・・・私は・・・もう既に深い地獄に囚われている・・・


 だけど、私は戦わなければならない。この身に百の悪魔を封じるその時まで。


 そして、それが叶った時・・・きっと私は・・・


 私はエクソシスト・黒薔薇マリア。


 闇に堕ちると知りながら、それでも悪魔を払っていく・・・

 


真約・黒のマリア 第六話 『鏡の国のマリア』

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