魔法学校の日常 2
Added 2018-07-11 13:35:42 +0000 UTC魔法使いの女の子。 この言葉を聞いて、あなたはどんな姿をイメージするだろう。 先端に星の付いたステッキを振り回す女の子? それとも、箒に跨って空を飛ぶ女の子? どんな姿をイメージするかは人によって様々だろう。 しかし、 「オラァッ!」 この少女のように魔物を豪快に殴り倒す姿をイメージする人は少数派だと思う。 彼女の名前は、モーナ。 180cm以上はある長身で、アップバンクにした金髪は毛先だけが黒く、キリッとした目鼻立ちからは気の強さが伝わってくる。 胸も堂々のHカップを誇り、尻もそれに負けない見事な安産型という、すべてがビッグサイズの少女だ。 そんな彼女と対峙しているのは、捻くれた2本の角とコウモリのような翼を持った、身長2mほどの魔物たち。 「覇ァッ!」 魔物たちを次々に倒していくモーナの手に、杖や武器の類はない。 あるのは革製の白いグローブのみ。 彼女はそれに赤黒い魔力を纏わせ、己の拳のみで魔物たちと戦っているのだ。 「歯応えのねぇ奴等だな!」 彼女の放った拳が魔物の腹部に突き刺さり、その身体が粉々に砕けていく。 その時だった。 「離れてください、モーナ先輩!」 ふいに背後から彼女を呼ぶ声があった。 「チッ、これからだってのに・・・」 不満げにしながらも、大きく後ろへ跳び退くモーナ。 次の瞬間、彼女のいた場所を含む周囲の地面が大きく盛り上がっていく。 それはみるみるうちに巨大な手の形へと変化したかと思うと、そこに乗っていた魔物たちを握り潰してしまった。 「おっと、1匹逃がしてるぞ!」 そう言いながら、モーナが生き残った1匹に必殺の拳を叩き込む。 最後の魔物が砕け散り、巨大な手が元の地面へと戻っていく。 巨大な手が完全に姿を消したところで、 「やりましたね、先輩!」 1人の少女がモーナに駆け寄ってきた。 彼女の名前は、コーデリア。 背は150cmぐらいで、長身のモーナと並ぶと、かなり小さく見える。 ツーサイドアップにした濃い茶色の髪に、大きな瞳が印象的な可愛らしい童顔。 モーナとは正反対の印象を受ける少女だが、胸や尻はかなり女性らしい大きさである。 尤も、どちらもモーナには2歩ほど譲っているが。 「思ったよりあっさり終わったな」 モーナが大きく伸びをしながら言う。 彼女たちは大陸東部にあるゼガゼス魔法女学園の3年生と1年生である。 言うまでもなく、モーナが3年生で、コーデリアが1年生だ。 この2人がこの森に来た理由は1つ。 補習授業である。 ゼガゼス魔法女学園では補習授業の一環として、近隣の地域の魔物退治を行う事がある。 実技では無類の強さを誇るモーナだが、座学の成績は下から数えた方が早い。 加えて素行も良いとは言えないため、補習を受ける事になったのだ。 一方、コーデリアの成績は実技、座学ともに平均以上である。 素行も悪いどころか、むしろ優良な部類に入る。 では、どうして補習になったのか。 それは先日起こした事件である。 自主練習で作ったゴーレムが暴走してしまったのだ。 2年生たちの活躍で被害は最小限に留められたが、彼女は責任を取る形で補習を受ける事になったのである。 「魔物も片付けた事だし、さっさと宿屋に戻って夕飯にしようぜ」 モーナが返事を待たずに歩き出したので、 「待ってください、先輩!」 コーデリアも小走りで彼女の後に続いた。 * 宿屋に戻ってくると、辺りはすっかり夕焼け色に染まっていた。 2人はシャワーで汗を流した後、部屋で夕食を摂る事にした。 テーブルには、宿代以上にたくさんの料理が並んでいる。 村人たちが魔物退治のお礼として、差し入れてくれたのだ。 「補習も終わったし、明日には帰れるな」 今回の補習は「村で悪さをする魔物の討伐」だ。 1匹残らず倒したのだから、文句はないだろう。 しかし、 「・・・」 コーデリアの表情は冴えない。 「どうかしたのか?」 「その・・・変だと思いませんか?」 モーナの問い掛けに、コーデリアがおずおずと口を開く。 「変って、何がだ?」 「さっき倒した魔物はすべてガーゴイルでしたよね?」 「ああ、言われてみればそうだな」 確かにあの殴った感触は生きた動物の類ではなかった。 「ガーゴイルは人形や彫像に魔力を込めて作るんです。自然発生する事はありません」 「つまり、あいつらを作った黒幕がいる、と?」 「そもそも村人さんたちから話を聞く限り、魔物たちの動きは明らかに不自然です」 「ふむ」 コーデリアの言う通りだ。 村人たちによると、魔物たちは数日に1度ぐらいのペースで村にやってきて悪事を働くらしい。 しかし、問題は悪事の内容だ。 人間を襲う事はなく、せいぜい店の商品をほんの少し盗んでいくか、家の窓を1~2枚割っていく程度なのだ。 どう考えでも、魔物たちが大勢でやるような悪事ではない。 「明日、もう1度調べてみるか」 補習の内容はあくまで「魔物の討伐」であり、「黒幕の確保、あるいは討伐」ではない。 とはいえ、このまま帰ってしまうのも目覚めが悪そうだ。 「帰るのが少し遅くなるけど、別にいいよな?」 「は、はい」 モーナの言葉に、コーデリアが戸惑いがちに頷く。 もしかしたら、自分の意見が却下されると思っていたのかもしれない。 「そうと決まれば、しっかり食っとかないとな。そこの鶏の丸焼き、取ってくれ」 「どうぞ」 「ありがと」 コーデリアが差し出した皿を受け取り、豪快に鶏の丸焼きに齧り付くモーナ。 こうして、2人の補習はまだまだ続く事になった。 * 夕食を終えると、モーナが人目を気にするように宿屋の裏へとやってきた。 (学校じゃともかく、此処だと迷惑になるからな) 心の中で呟きながら、きょろきょろと周囲を見回す。 辺りに誰もいない事と風向きが確認できたところで、 「ふんっ!」 モーナは両膝に手を置いて豪快に息み始めた。 直後、 ブウオオオオオオオォォォ~~ッッ!! 彼女の尻から大音量のオナラが放たれた。 たった1発で周囲の空気が大きく震え、強烈な悪臭(におい)に染め上げられていく。 大量の肉と卵をまとめて腐らせたような腐敗臭だ。 「うっ、いっぱい食ったせいか、いつも以上に酷い悪臭(におい)だな・・・」 宿屋の中で出さなくて正解だった。 自らの判断が正しかった事を確信しつつ、 ブボボボボボボォォォ~~~ッッッ!! 彼女は2発目のオナラを放つ。 足元の雑草が激しく揺れ、周囲に漂う臭気がその濃さを増す。 それでも、 ボッフウウウウゥゥゥ~~~ッッッ!! 彼女の放屁は終わらない。 村人たちの差し入れを完食した彼女のお腹には、まだ大量のガスが溜まっているのだ。 (村人がくれた食べ物、殆ど肉だったからなぁ・・・) ブブブッブウウウウウ~~~ッッッ!! そんな事を考えながら4発目のオナラを放ったところで、 「あっ」 モーナは小さく声を上げた。 「いっけねぇ、ポーション忘れた・・・」 ポーションというのは強烈な悪臭(におい)を消す事のできる薬品――早い話が消臭剤だ。 あれを忘れたとなると、この臭気地獄を放置していく事になる。 自分はいいが、もし他の誰かが嗅いでしまったら気の毒だ。 付け加えれば、嗅がれる事に恥ずかしさがない訳でもない。 「どうすっかな・・・」 モーナが困り果てていると、 「どうぞ」 背後からキャップの付いた小さなボトルが差し出された。 大きさは8cmほどで、透明な容器内には淡い黄色の液体が入っている。 間違いない。 忘れてきたポーションだ。 「ありがと」 差し出されたボトルを受け取り、シャカシャカと振ってからキャップを回す。 後はこれを周囲に振り撒けば―― 「ん?」 いざポーションを振り撒こうとしたところで、ようやく違和感に気付く。 今、自分にポーションを渡してくれたのは誰だ? (まさか・・・) モーナがおそるおそる振り返ると、 「なっ!?」 そこには部屋に戻ったはずのコーデリアが立っていた。 「ちょっ、何でお前が此処にいるんだよ!?」 「落ち着いてください、先輩。誰かに気付かれたら気まずいですから」 「そ、そうだな」 落ち着くために深呼吸しようとして、即座にやめる。 こんな悪臭(におい)の充満した場所で深呼吸したら、鼻が大変な事になる。 「それで、何でお前が此処にいるんだ?」 気を取り直し、努めて声を抑えながら問い掛ける。 「えっと・・・先輩と同じです」 そう言って、コーデリアが自分のお腹を撫でてみせる。 どうやら腹にガスが溜まっているのは自分だけではなかったようだ。 「ご一緒して、いいですか?」 「あ、ああ、好きにしてくれ」 モーナが戸惑いがちに頷くと、コーデリアが彼女の隣に移動してくる。 「あの、私のオナ・・・アレは凄いので、もし臭かったら・・・」 「ああ、それは大丈夫だ。アタシのだって、かなり酷いから」 「そう、ですか。では、失礼します・・・んっ!」 コーデリアが可愛らしい声で息むと、 ぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぉ~~~っっっ!!! 爆発が起きた。 そう錯覚するほど大きなオナラが彼女の尻から噴き出した。 「むぐっ!?」 大量のニンニクを濃縮したような悪臭(におい)。 その威力たるや、周囲に漂っていたモーナの悪臭(におい)があっという間に上書きされてしまったほどだ。 (自己申告しただけあるな。これは予想以上だ・・・) 「大丈夫ですか、先輩?」 「だ、大丈夫だ。私も遠慮なくやらせてもらうぞ・・・ふんっ!」 ブウウウウウウウウゥゥ~~~ッッッ!!! モーナも今まで以上に息んで5発目のオナラを放つが、臭気の勢力図を塗り替えるには至らない。 それどころか、 ぶぶぶうううううううううう~~~っっっ!!! コーデリアが2発目のオナラを放ち、さらに勢力を拡大してくる。 (どういう腹してるんだ、こいつ?) 直に嗅いだ訳でもないのに、視界が大きく揺れるほどの悪臭(におい)。 コーデリアの放った強烈なニンニク臭に、自分の放ったオナラが最悪のアクセントになっているのだ。 だが、此処で倒れる訳には行かない。 先輩としての意地、加えて生来の負けず嫌いが膝を着く事を許さないのだ。 そんな彼女がこの状況で取る方法は1つ。 「ふんっ!」 ブウオオオオオオオ~~~~ッッッッ!!! コーデリアに対抗して、さらなる放屁を続ける事だ。 「ぐっ!?」 ただでさえ強烈なコーデリアのオナラに、自分のオナラまで加わった猛烈な臭気。 多少なりとも耐性のある自分でなければ、とっくに意識を失っていただろう。 「お、お前も結構出るんだな」 「はい。でも、今日はまだ少ない方ですね」 (これで少ない方なのかよ!) 心の中でツッコミを入れるが、 ぶばばばばばばばばばあああ~~~っっっ!!! それで事態が好転する訳もなく、周囲に充満する臭気は濃さを増す一方だ。 (一旦、仕切り直すか・・・) このままでは鼻が保たないと判断し、持っていたポーションを使おうとキャップを回す。 「先輩、ポーションを使うのは最後にした方がいいんじゃないですか?」 「そ、そうだな」 しかし、コーデリアの指摘を受けて断念する。 こういう時ほど、自分の負けず嫌いな性格は損だと思う。 ぶぼおおおおおおおおおおお~~~っっっ!!! コーデリアの何発目かの放屁でモーナが膝を着いたのは、それから10分後の事だった。 * 眠る時の格好は人それぞれである。 現在、モーナは全裸に近い格好で眠りに就いている。 着けているのはショーツ1枚だけで、立派な胸を惜しげもなく晒している。 彼女がこんな無防備な姿で寝ているのには理由がある。 とはいえ、そんな大した理由ではない。 単に寝間着を持ってくるのを忘れただけだ。 「ん?」 ふいに聞こえた物音で、モーナは目を覚ました。 音源の方に視線を向けると、 「ん~っ」 隣のベッドで寝ていたコーデリアがのそのそと起き上がるところだった。 髪は下ろしており、寝間着と思われるゆったりした白いワンピースに身を包んでいる。 彼女はベッドを降りると、何やらモゴモゴと呟き始める。 どうやら何かの呪文のようだ。 程なくして、彼女の手に淡い光を放つ小さな球が出現する。 これは即席の照明を作る魔法で、学校では最初に習う簡単なものだ。 コーデリアはその光球の明かりを頼りに、ふらふらと部屋を出ていく。 (何処に・・・ああ、トイレか) コーデリアが扉を閉めるまでを見届けたところで、再び眠りに就こうと目を閉じる。 しかし、 「やっぱ落ち着かねぇな・・・」 なかなか眠れない。 「ジャガ丸がいないからか」 ジャガ丸というのは、寮に置いてきたぬいぐるみの名前である。 ジャガイモと豚を混ぜたようなブサイクな物体だが、あれを傍らに置いて寝ると不思議と落ち着くのだ。 子供っぽいかもしれないが、本当に子供からの習慣なので仕方ない。 「・・・」 どうにか眠りに就こうと、ベッドの上で何度も寝返りを打つ。 暫くすると、部屋の扉がゆっくりと開いた。 「ん~っ」 間を置かず、寝惚け眼のコーデリアが入ってきた。 彼女は後ろ手に扉を閉めると、そのままベッドに倒れ込んでしまった。 扉から近かったモーナのベッドに。 「お、おい、ちゃんと自分のベッドで寝ろよ」 軽く身体を軽く揺すってみるが、コーデリアは一向に起きる気配がない。 それどころか、 「ん~っ、おっきなマシュマロ・・・」 何やら寝言を言いながら、胸に顔を埋めてくる。 「ちょっ、何処を触って・・・まあいいか」 相手は同性だし、夜中に騒ぐのも迷惑だ。 起こすのを諦め、コーデリアにも布団を被せてやる。 シングルベッドなので少し窮屈だが、2人で寝られない事はない。 (今日はこいつがジャガ丸の代わりか) 「このマシュマロを焼いて・・・チョコとビスケットに・・・」 「どんな夢見てるんだ。というか、アタシの胸を食う気かよ」 噛み付いてこないか警戒していると、 ぶむううぅぅぅぅ・・・っ! ふいに布団の中からぐぐもった音が聞こえてきた。 「おい・・・」 布団まで被せてやったというのに、恩を仇で返された気分だ。 ぶぶうううぅぅぅ・・・っ! 続けて2発目が漏れ出してきた。 「うっ・・・」 布団の隙間から漏れ出てきた臭気がモーナの鼻に届く。 (やっぱり起こそう) 大声を出す訳には行かないので、コーデリアの頭を軽く小突いてやる。 「んっ・・・」 ぶううううぅぅぅ・・・っ! 直後に3発目のオナラが漏れ出してきた。 「ぐっ!?」 強烈な悪臭(におい)に苦悶しつつ、もう1度コーデリアの頭を小突く。 ぶおおおぉぉぉぉ・・・っ! 予想通りの結果だった。 (下手に刺激しない方がよさそうだな) 現状でも十分に臭いが、今なら我慢して寝られない事はない。 夢見は悪そうだが。 方針が決まったところで、眠りに入るべく目を閉じる。 ぐるるるる~っ。 「・・・マジかよ」 今度はモーナのお腹が低く鳴った。 コーデリアが覆い被さる格好になっているので、お腹を圧迫されたのかもしれない。 (こいつもこいてるし、別にいいよな?) ぼっふううぅぅぅ・・・っ! モーナの考えを肯定するように、またコーデリアが布団の中で放屁する。 「んっ」 ブウウウウゥゥゥーーッ!! 「やばっ」 思った以上に大きな音が出てしまった。 「んっ・・・」 小さく声を漏らしたものの、コーデリアが目を覚ます気配はない。 それを確認して、 ブブブブブゥゥゥーーッ!! モーナは2発目のオナラを放つ。 一方、 ぶむむううぅぅぅ・・・っ! コーデリアもそれに呼応するように放屁する。 「ぐっ・・・」 自分のオナラとコーデリアのオナラ。 単純計算で2倍になった臭気が布団の隙間から襲い掛かってくる。 そんな時、 「んんっ・・・あれ?」 コーデリアが目を覚ました。 それだけならいいのだが、そのまま起き上がってしまう。 結果として、 「むぐぅっ!?」 布団の中に溜まっていた臭気が一気に放出され、モーナの嗅覚を蹂躙する。 「すみません、こっちは先輩のベッドでした・・・」 モーナに謝罪しつつ、コーデリアがふらふらと自分のベッドに戻っていく。 まだ半分寝ている状態なのか、モーナが悶絶している事に気付いていないようだ。 「ポ、ポーションを・・・」 ベッド脇に置いてあったポーションへ必死に手を伸ばす。 どうにかそれを掴んで周囲に振り撒いたところで、モーナの意識は途切れた。 * 翌朝、2人は再び魔物と遭遇した現場へとやってきた。 「ふぁ~あ」 「眠そうですね。昨夜はよく眠れなかったんですか?」 盛大に欠伸をするモーナを見て、コーデリアが少し心配そうに問い掛けてくる。 「まあな・・・」 お前のせいだよとは言えず、曖昧に頷いておく。 それに、今はもっと優先すべき事がある。 「此処に何か手掛かりがあればいいけどな」 「そうですね」 周囲を見回すモーナの傍らで、コーデリアが手にしていた分厚いハードカバーの本を開く。 しかし、中には何も記されておらず、どのページもすべて白紙だ。 「魔力の残滓を探ってみますね」 コーデリアが魔導書に触れると、白紙だったページに方位磁石のような図形が出現する。 この本は1種の魔導書のようなもので、彼女が魔法を発動する際に杖の役割を果たすのだ。 「向こうですね」 コーデリアが村の反対側、森の方を指差す。 「よしっ!じゃあ、行ってみるか」 気合いを入れるように両手の拳を打ち合わせ、モーナが森の方へと走り出す。 コーデリアも慌てて彼女の後に続く。 暫く森の中を進んだ2人が辿り着いたのは、岩場の大きな洞窟だった。 「この中か?」 「はい。魔力残滓はこの洞窟の奥に続いてます」 「つまり、この奥に親玉がいるって事だな」 「迂闊に入るのは危険です。少し準備をしてから行きましょう」 そう言うと、コーデリアはテキパキと準備を始めた。 地面に直径1mほどの魔法陣を描き、中心に2つの魔宝石を置く。 「ゴーレムか?」 「はい」 モーナの問い掛けに頷き、コーデリアは魔宝石を核に土で作られた2体の人型ゴーレムを召喚する。 どちらもコーデリアとほぼ同じ大きさで、片方は棍棒、もう片方は剣を手にしていた。 「この子たちに先行してもらいましょう」 コーデリアの提案を受け、2体のゴーレムを先行させて洞窟へと足を踏み入れる。 「此処で間違いないみたいだな」 モーナがそう口にしたのは、洞窟に入って5分ほど歩いた時だった。 今までゴツゴツした岩肌だった壁が明らかに人工的なものに変わったのだ。 それだけでなく、天井にはコーデリアが使ったのと同じ魔法の照明が灯り、洞窟内をぼんやりと照らしている。 さらに何分か進んだところで、 「・・・」 モーナは足を止めた。 「どうしたんですか、先輩?」 「来るぞ」 「えっ?」 コーデリアが戸惑いの声を漏らした瞬間、前方の暗闇から巨大な影が出現した。 それは身長4mはある巨大な石像だった。 一言で表すなら、ワニガメの頭と甲羅を持つゴリラだろうか。 とにかく見るからに頑丈そうな姿をしており、鋭い牙を見せてこちらを威嚇している。 「これもガーゴイルのようですね」 「少なくとも歓迎はされてねぇみたいだな」 モーナが両手の拳を打ち付けながら言う。 「アタック!」 最初に仕掛けたのは、意外にもコーデリアだった。 『ゴォッ!』 彼女の指示を受け、先行していた2体のゴーレムが武器を手にガーゴイルに攻撃を仕掛ける。 しかし、柔らかい土で作られた彼らの攻撃はガーゴイルの強固な身体を傷付けるには至らない。 それどころか、 『オォォォ・・・ッ』 ガーゴイルの腕の一振りで、剣を持った方のゴーレムはあっさりと破壊されてしまう。 「あっ!」 「次は土じゃなくて岩で作れよ!」 そう叫びながら、モーナがガーゴイルに向かっていく。 魔力を纏った彼女の拳がガーゴイルの胸板に突き刺さり、その強固な身体に小さなヒビを入れる。 「っ~~~!硬過ぎだろ、こいつ!」 『オォォォ・・・ッ』 身体を傷付けられて怒ったのか、ガーゴイルが巨体に見合わない速度で指のない拳を繰り出してくる。 「なっ!?」 予想を上回る速度で迫る拳。 回避が間に合わないと判断し、即座に防御の態勢を取るモーナ。 だが、ガーゴイルの拳がモーナを捉える事はなかった。 彼女の前に出現した魔法障壁がガーゴイルの拳を受け止めたからだ。 「ナイスだ、コーデリア!」 後輩のサポートを称賛しつつ、モーナは再びガーゴイルの胸板に拳を叩き込む。 「っ!」 手に痛みが走るが、それが彼女の闘志に火をつけた。 「これで、どうだっ!」 1発でダメなら10発、10発でダメなら100発。 機関銃のような勢いで、モーナはガーゴイルの胸板に次々と拳を叩き込んでいく。 拳1発ごとに胸板のヒビは広がっていき、やがて全身を侵食する。 「今だ、コーデリア!」 「は、はい!」 モーナの呼び掛けに応じ、コーデリアが残ったゴーレムに指示を飛ばす。 『ゴッ!』 指示を受けたゴーレムは地を蹴って跳躍、そのまま手にした棍棒をガーゴイルの脳天に振り下ろす。 直後、 『オォォォ・・・ッ!』 ひときわ大きな声を上げながら、ガーゴイルの身体が崩壊していく。 程なくして、ガーゴイルは小さな石の山へとなり果てた。 「硬いだけで大した事なかったな」 モーナが両手のグローブを外しながら言う。 出血こそしていないが、その手の甲は真っ赤に染まっていた。 「すぐに治療します!」 「えっ?ああ、これか。こんなの大した事ねぇよ」 「ダメです!此処に手を置いてください!」 「わ、わかったよ」 コーデリアの有無を言わせぬ迫力に気圧され、モーナは彼女が持つ魔導書の見開きに両手を置いた。 間を置かず、モーナの手が温かい光に包まれ、すぅっと痛みが引いていく。 「もういいですよ」 「あ、ありがと」 モーナが魔導書から手を離した直後、 『あー、あー、ただいまマイクのテスト中』 何処からか声が聞こえてきた。 「な、何だ!?」 驚いて周囲を見回すが、自分たち以外に人影はない。 「魔法による通信みたいですね」 『ふっふっふっ、よくぞ私のガーゴイルを倒したわね!褒めてあげるわ!』 再び声が聞こえてきた。 姿は見えないが、おそらく自分たちと同世代の女の子のようだ。 「わざわざマイクテストする奴に褒められても・・・」 「しっ!向こうからもこっちの話が聞こえてるかもしれませんよ」 『とにかく!』 どうやら聞こえているようだ。 『あんたたちには私に謁見する権利をあげるわ。そのまま洞窟の奥まで来なさい』 一方的に告げて、通信が途絶える。 「・・・行くか」 「はい」 しらけきった空気の中、2人は洞窟の奥へと歩き出した。 * 10分後。 「よく此処まで来たわね!」 最奥まで到着した2人を出迎えたのは、黒いドレスを纏った少女だった。 背はかなり低く、小柄なコーデリアよりさらに低い。 明るい茶色の髪を腰に届くほど長く伸ばし、前髪は短く切り揃えている。 顔立ちはまだ幼さを残し、可愛らしさより生意気さや憎たらしさを強く感じさせた。 「お前がガーゴイルたちの親玉か?」 「そう、このスーマ様こそがガーゴイルどもの主人よ!ハーハッハッハッ・・・ゴホッ、ゴホッ」 モーナの問い掛けに頷き、高笑いして噎せる少女――スーマ。 「えっと・・・大丈夫か?」 「お水、飲みますか?」 「て、敵に心配されるほど落ちぶれてないわ!」 「面倒臭い奴だな・・・」 真面目に相手にするのがバカらしくなってきた。 「それで、どうしてガーゴイルに村を襲わせたんだ?」 「ふっ、知れたことよ!」 大仰な動作を交えて、スーマが説明を始める。 それを聞き終えて、 「えっと・・・つまり、村人に出来損ないの魔法使いだってバカにされたから、ガーゴイルを使って仕返ししたって事か?」 10分弱に及ぶ長い説明がわずか数十秒に要約できてしまった。 「そうよ!私をバカにするなんて、万死に値するわ!」 「・・・」 村人の判断は正しいと思う。 2人とも同じ感想を持ったが、口にはしないでおいた。 「いずれにしろ、ガーゴイルに村を襲わせるのをやめる気はないんだな?」 「ええ!あいつ等が泣いて謝るまで、やめるつもりはないわ!」 「やっぱり力尽くでやめさせるしかなさそうだな」 話し合いは無駄と判断し、コーデリアが臨戦態勢を取る。 「ふっふっふっ、私をただのガーゴイル使いだと思ってるなら、大間違いよ!」 スーマがパチンッと指を鳴らすと、頭上から2つの球体が落ちてきた。 直径は1mほどで、見た目はビールで作ったゼリーのように見える。 「私の作った最強のスライムよ!さあ、行きなさい!」 スーマの指示を受け、2体のスライムがモーナたちに飛び掛かってくる。 「このっ!」 即座に拳で応じるモーナだが、 「なっ!?」 逆に拳をスライムの体内に取り込まれてしまう。 一方、 「きゃあっ!?」 反応が遅れたコーデリアも両足をスライムに取り込まれてしまう。 「コーデリア!」 叫ぶモーナだが、彼女の心配をしている余裕はない。 右手を取り込んだスライムはそのまま侵食を続け、あっという間に右半身を取り込んでしまったのだ。 「くっ・・・!」 何とか逃れようとするが、抵抗虚しく首から下が完全に取り込まれてしまう。 傍らでは、コーデリアも同じように首から下をスライムに取り込まれていた。 「2人ともいい格好ね!」 スーマがドヤ顔で勝ち誇る。 「くっ!」 思いっ切りぶん殴ってやりたいところだが、自由の利かないこの状態ではそれも叶わない。 「言っとくけど、そいつ等はただ相手の動きを封じるだけじゃないわよ」 「どういう事・・・なっ!?」 自らの身体を見下ろして、モーナが驚きの声を上げる。 なんと着ている服が徐々に溶け始めていたのだ。 「驚いた?こいつ等には、服を溶かす事ができるのよ!」 「こういうのって、普通は男がやるもんだろ!?」 よくわからないツッコミを入れながらも、必死にスライムから逃れようとするモーナ。 しかし、目立った効果は見られない。 「えいっ!えいっ!」 コーデリアも掌に炎や雷を発生させるが、すぐに消えてしまう。 「言い忘れたけど、そのスライムの中では魔法が使えないわよ。さっさと諦めて素っ裸になりなさい!」 完全に勝利を確信しているスーマ。 (何か、何か手はねぇのか・・・) 必死に思案を巡らせるモーナを、さらなる災難が襲った。 ぐるるるるる~っ。 ふいに彼女のお腹が低く鳴ったのだ。 「くっ・・・!」 (ちょっ、このタイミングでかよ!?) 「どうしたの?もう負けを認める気になった?今なら半裸で勘弁してあげるわよ?」 「だ、誰が降参するか・・・」 ニヤニヤしているスーマを睨み付け、精一杯の虚勢を張る。 だが、状況は悪化する一方だ。 既に服の8割が溶けて下着が露わになっており、腸内のガスも出口を求めて暴れている。 先に限界を迎えたのは、後者だった。 ゴボッ!! 肛門が決壊し、腸内の臭気がスライム内に溢れ出す。 (やっちまったーーー!) 心の中で絶叫するモーナ。 しかし、それが吉と出た。 『!?!?!?!?』 突如としてスライムが痙攣を始めたかと思うと、そのまま灰色に変色してボロボロと崩れてしまったのだ。 「「なっ!?」」 状況が呑み込めず、モーナとスーマが同時に驚きの声を上げる。 先に我に返ったのは、モーナだった。 地面を蹴り砕く勢いで跳躍し、3秒と掛からずスーマとの間合いを詰める。 遅れてスーマが我に返った時、既に彼女はモーナによって押し倒されていた。 「さぁて、お仕置きの時間だな」 下着姿になったモーナが見せ付けるように指をポキポキと鳴らしてみせる。 「わ、私みたいな可愛らしい女の子を殴る気・・・?」 「確かに自分より小さい女を殴るのはフェアじゃねぇな」 「そ、そうよね」 モーナの言葉に安堵するスーマ。 何とかボコボコにされるのだけは回避できそうだ。 「ところでお前、どうしてスライムが崩壊したのか知りたくねぇか?」 「へ?」 モーナの口から出た予想外の言葉に、スーマが間抜けな声を漏らす。 「今から教えてやるよ」 モーナが身体を180度回転させ、その豊満な尻をスーマの顔の方に向ける。 「あのスライム、これに弱かったらしいぞ・・・んっ!」 ブブブブウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 「むうううううっ!?」 モーナの放ったオナラがスーマの顔を呑み込み、強烈な腐敗臭が嗅覚を蹂躙する。 「くっさああああああ!?ちょっとあんた、どういう食生活してるのよ!」 「お前に言われる筋合いはねぇよ・・・んっ!」 ブボオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! スーマの抗議を一蹴し、モーナが2発目のオナラを放つ。 「むぐううううううっ!?」 嗅覚に流れ込む臭気の量が倍加し、スーマの絶叫が洞窟内に響き渡る。 「どうだ、少しは反省したか?」 「ふんっ、何でこのスーマ様が反省しないといけないのよ」 「まだ口答えする余裕あり、か」 「嘘!嘘です!だからもうオナラは――」 「んっ!」 ブウオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! スーマの言葉を遮って、3発目のオナラが彼女の嗅覚に襲い掛かる。 時を同じくして、 ゴボボボボォッッ!! コーデリアを拘束していたスライムが灰色に変色して崩壊する。 「先輩!」 「お前も脱出できたか。ちょっと待ってくれ。すぐに終わるから・・・んっ!」 ブブッブウウウウウウウ~~~ッッッ!!! そう言いながら、4発目のオナラを浴びせる。 「っっっっっ!」 耐性がないためか、スーマは身体をビクビクと痙攣させるだけで声も上げない。 「あの、先輩」 「どうした?」 「私もやりたいです!」 コーデリアが珍しく鼻息を荒げながら言う。 どうやら彼女もゴーレムを破壊されたり、服を溶かされたりで、お冠なのだろう。 「じゃあ、交代だな」 コーデリアとタッチを交わし、今度はコーデリアがスーマの顔に圧し掛かる。 いつの間にか、生き残った方のゴーレムが棍棒を捨ててスーマの脚を押さえ込んでいる。 「あ、あんたまでオナラする気?」 「はい!」 「ま、まあいいわ、あんたのなら、あのガサツ女ほど臭くないでしょ・・・」 「行きますよ・・・ふんっ!」 ぶううううううううううううううう~~~っっっ!!! 「むうううううううううううっ!?」 スーマの予想はあっさりと裏切られた。 モーナに引けを取らない、それどころか、数段上の悪臭(におい)が鼻腔を暴れ回る。 「女の子の服を溶かすなんて、許せません!反省してください!んっ!」 ぶおおおおおおおおおおおおおおお~~~っっっ!!! 怒りと共に、2発目のオナラを放つコーデリア。 「っっっっっっ!?」 その直撃を受け、スーマの身体が感電したように大きく痙攣する。 ぶぼぼぼぼぼおおおおおおおおおお~~~っっっ!!! さらにダメ押しの1発を受けて、スーマは意識を失った。 * コーデリアの魔法で服をどうにか修復して2人は洞窟を出る。 そのままスーマを村人に引き渡し、事件は終息した。 「さて、後は学園に帰るだけだな」 宿を引き払ったモーナが大きく伸びをしながら言う。 着ている服は、村の店で買ったものだ。 「あっ、帰ってからのレポートがありますよ?」 「げっ、マジかよ・・・」 コーデリアの言葉を受け、モーナが頭を抱える。 「長々と文章を書くのって、苦手なんだよなぁ~」 「私も一緒に書きますから、頑張りましょう」 「う~ん・・・あっ、そうだ!」 何かを思い出したように、モーナが声を上げる。 「ど、どうしたんですか、先輩?」 「確か此処に来る途中の町に、温泉あったよな?」 「は、はい。ギゴグの町ですね」 「ついでに入っていこうぜ。どうせ1日遅れたんだし、もう1日ぐらい遅れてもいいだろ」 「いや、さすがにそれはマズイと思いますが・・・」 楽しそうに話しながら歩く2人。 立ち寄った温泉で、モーナが酷い目、もとい、臭い目に遭うのはまた別の話。