魔法学校の日常4-1
Added 2018-11-02 17:52:16 +0000 UTCどんな分野にも「天才」と称される者はいる。 大陸東部に位置するゼガゼス魔法女学園の1年生である彼女――ポーシャもその1人だ。 身長は155cmぐらい。 きめの細かい褐色の肌に、癖のあるショートの髪。 胸は女性らしい豊かさを誇る一方、尻は小振りで引き締まっている。 彼女は大陸でもトップクラスの魔力と身体能力を持つザザド族、その中でも一族の宝である「風の槍」を授けられた逸材である。 そんな彼女は今、仲間と共に森の中を歩いている。 今回、彼女たちに与えられた任務。 それは、1体のドラゴン退治だった。 * 森の中を歩くこと約30分。 ポーシャたちは目的地である湖の畔に到着した。 「情報によると、ドラゴンがよく出没するのはあの辺りですね」 茂みに身を隠しながら、ポーシャと同じ褐色肌の少女が湖の対岸を見ながら言う。 彼女の名前は、チタニア。 背はポーシャよりやや高いぐらいだが、胸のサイズで少し、尻のサイズで圧倒的に彼女を上回っている。 髪はポーシャより癖のあるショートヘアで、長く伸びた横髪が肩を撫でている。 顔立ちは整っているが、普段から半眼になっているために、何処か眠そうな印象を受ける。 彼女もポーシャと同じザザド族で、ポーシャの幼馴染みである。 「・・・」 チタニアの傍らで、もう1人仲間である小柄な少女が無言で頷く。 こちらは、ベリンダ。 先の2人とは対照的な新雪のように白い肌と、光の加減で薄い水色に見えるショートの髪。 チタニアに勝るとも劣らないプロポーションで、尻は3人の中で最も豊満だ。 今回、ドラゴン退治を任された3人はゼガゼス魔法女学園の1年生である。 本来なら3年生に任されるレベルのこの任務を任される辺り、彼女たちの能力の高さが窺える。 「過度に接近するのは危険です。此処でドラゴンが来るのを待ちましょう」 「そうですね」 ポーシャの言葉に頷くチタニア。 一方、 「・・・」 ベリンダは何やら2人と違う方向に視線を向けている。 「ベリンダ?」 「何を見ているのですか?」 問い掛けながら、2人はベリンダの視線の先を折ってみる。 「フルーツ・・・?」 ベリンダの視線の先にあったもの。 それは紛れもなくフルーツだった。 端的に表すなら、洋梨型のリンゴ。 形は下の方が膨らんだ洋梨に近いが、皮の色は赤く、リンゴのようにも見える。 「あのフルーツがどうしたんですか?」 ぐううぅぅぅ~っ。 チタニアの問い掛けに答えたのは、ベリンダのお腹だった。 「お腹が空いたんですね」 「・・・」 ベリンダがコクリと頷く。 「自生してるみたいですが、食べられるんでしょうか?」 「・・・」 首を傾げるポーシャとは対照的に、ベリンダは右手に1挺の拳銃を召喚する。 パーツのすべてが透明度の高い氷で作られた美しい古式拳銃だ。 ベリンダがその引き金を絞ると、銃口から氷の弾丸が発射され、直後に氷の拳銃が跡形もなく砕け散る。 彼女の拳銃は単発式で、1発撃つ毎に砕け散ってしまう。 しかし、ベリンダは即座に2挺目の氷銃を召喚し、さらに左手にも3挺目を召喚して引き金を絞る。 彼女が放った都合3発の氷弾はすべてたわわに実ったフルーツの軸に命中し、それらを地面に落下させる。 「・・・」 落下したフルーツを拾い上げ、2人の方に差し出すベリンダ。 「あ、ありがとう」 「ありがとうございます」 2人がそれを受け取ると、 「・・・」 ベリンダは残っていたフルーツを拾い上げ、小さな口をめいっぱい開けて齧り付いた。 「ベリンダ!?」 「大丈夫なんですか!?」 戸惑う2人に対し、 「・・・」 ベリンダは無言でサムズアップしてみせる。 どうやら味はいいらしい。 そんな彼女を見て、2人もおそるおそる手渡されたフルーツを齧ってみる。 「甘酸っぱくて美味しいですね!」 「形は洋梨ですが、味はリンゴですね」 念のため、毒の有無を確認する魔法を掛けてみるが、結果は陰性だった。 安全が確認できたところで、3人は甘酸っぱいフルーツに舌鼓を打つ。 それを完食したところで、 「・・・」 ふいにベリンダが対岸を指差した。 「どうやら来たようですね」 「はい」 チタニアの言葉に頷くポーシャ。 彼女の視線の先で、1体のドラゴンがゆっくりと湖の対岸に降り立った。 一口にドラゴンといっても、その姿は千差万別である。 対岸にいるドラゴンは4足歩行で、体高は約3m。 ドラゴンとしては小型の部類だ。 全身は黒に近い灰色の鱗に覆われ、頭部には捻くれた1対の角が生えている。 背には巨大な翼を纏い、その口には鋭い牙が並んでいた。 「何をしているんでしょう?」 ポーシャの疑問は尤もだった。 『・・・』 ドラゴンは何をするでもなく、じっと湖面を見詰めているのだから。 「いずれにしろ、チャンスです。今のうちに、接近して一気に仕留めましょう」 ポーシャの言葉を合図に、3人は移動を開始する。 隠密活動に慣れた3人はものの数分でドラゴンの傍にある茂みに到着した。 「私の合図で一気に仕掛けます。いいですね?」 蒼い槍を手にしたポーシャの言葉に、チタニアとベリンダはそれぞれの得物を召喚する事で応じる。 チタニアは左手を包む赤銅色のガントレット、ベリンダは氷でできた2挺の古式拳銃だ。 3人が戦闘準備を整えたところで、 『・・・』 ふいにドラゴンがわずかに首を動かした。 「今ですっ!」 ポーシャの合図で、3人は同時に飛び出した。 気心知れた彼女たちは事前の打ち合わせすらせずに、各自の役割を遂行する。 最初に仕掛けたのは、チタニア。 「ハッ!」 気合いと共に、ガントレットを装着した左手を大地に打ち付ける。 それに呼応し、地面から出現した土の触手がドラゴンの足を縫い止める。 「!」 彼女とほぼ同時に仕掛けたのは、ベリンダ。 氷の2挺拳銃の引き金を絞り、そこから放たれた氷の弾丸がドラゴンの翼を瞬時に氷結させる。 準備は整った。 「行きますっ!」 最後に仕掛けるのは、ポーシャ。 風の魔法で飛翔し、ドラゴンの頭上から蒼い槍を突き出す。 ザザド族の宝、風の槍。 その名は伊達ではなく、切っ先で圧縮された空気の体積はドラゴンの10倍。 それが一気に解放され、不可視の巨大な槌となってドラゴンに振り下ろされる。 『!』 このタイミングで、ようやくドラゴンが動いた。 足に絡み付く土の触手を力任せに引き千切り、そのまま倒れ込むようにして湖に飛び込む。 それによって生じた水柱が振り下ろされた風の槌によって押し潰され、身の丈ほどの波となって全方位を襲う。 「っ!?」 慌てて後方へ跳び、波から逃れるベリンダ。 「くっ!」 チタニアも大きな土の壁を生み出して波を防御する。 「すみません、しくじりました」 謝罪しながら、ポーシャがチタニアたちの近くに着地する。 「いえ、今のは私のミスです。もっとしっかり拘束しておくべきでした」 チタニアも申し訳なさそうに頭を下げる。 「しかし、水に潜られると厄介ですね」 「はい」 唯一の救いはあのドラゴンが明らかに水棲タイプではなかった事だ。 もしも水棲タイプだったら、かなりの長期戦を覚悟しなくてはならない。 「仕方ありません。かなりの力技ですが・・・」 ポーシャが槍を水に触れるギリギリの位置に突き立てる。 一見、湖には何の変化もない。 しかし、実際には大きな変化が起きていた。 その態勢のまま3分ほど経った頃。 「行きます。覇ァッ!」 ポーシャが珍しく力強く叫んだ瞬間、驚くべき事が起こった。 なんと轟音と共に、湖が上空へと浮かび上がったのだ。 ポーシャは湖底を風の結界で包み込み、それを器のようにして湖全体を持ち上げたのだ。 「見付けました!」 水中にドラゴンを発見すると、ポーシャは湖底を包む風の結界に小さな穴を空ける。 「!」 そこで、今度はベリンダが動いた。 両手に氷の銃を召喚し、同時に引き金を絞る。 狙いはポーシャが空けた風の穴、正確にはそこから噴き出す鉄砲水だ。 ベリンダの氷弾は瞬時に鉄砲水を凍り付かせ、巨大な氷の階段を作り上げる。 「チタニア!」 「はい!」 ポーシャの言葉を合図に、チタニアが動いた。 氷の階段を駆け上がり、一直線にドラゴンとの間合いを詰める。 ドラゴンとの間合いが縮まるにつれ、彼女の左手に装着されたガントレットが徐々に大きさを増していく。 それが彼女の半身ほどの大きさになったところで、彼女はドラゴンを間合いに捉えた。 一方、ドラゴンも静観していた訳ではない。 顔をチタニアの方に向け、大きく口を開ける。 そこに夥しい量の光の粒子が瞬く間に集束し、眩い竜の息吹(ドラゴンブレス)となって解き放たれた。 鋼の拳と竜の息吹(ドラゴンブレス)。 両者が激しくぶつかり合い、世界は白く染め上げられた。