SamSuka
JUDO(あるいはスサノオ)
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魔法学校の日常4-2

 魚の焼ける香ばしい匂いで、ポーシャは目を覚ました。 「此処は・・・?」 仰向けのまま、周囲を見回す。 どうやら洞窟の中らしく、チタニアとベリンダも自分の両側に寝かされていた。 「気が付いたか」 「!」 ふいに聞こえた声に、ポーシャは勢いよく起き上がり、瞬時に臨戦態勢を取って声の主に視線を向ける。 「ちょうど魚が焼けたところだ。お前らも食うだろ?」 声の主は、焚き火の前に座った女性だった。 背は悠に2mはあるだろうか、かなりの長身だ。 黒に近い濃い灰色の髪を腰まで伸ばしており、整った顔立ちには美しさと同時に力強さを感じさせる。 胸も小振りなスイカほどの大きさがあり、それに引けを取らない巨尻は最高級の桃は見事に引き締まっている。 これらの特徴がはっきりわかるのは彼女が服を着ていないからだが、特筆すべきは他の部分だ。 まず、頭部。 1対の捻くれた角が生えている。 次に、腕の肘から先と脚の膝から下。 どちらも硬質の鱗に覆われ、手足には鋭い鉤爪が並んでいる。 最後に、尻。 長い尾が生えている。 それらの特徴はすべて―― 「ドラゴン・・・!」 その結論に達したところで、即座に起き上がって臨戦態勢を取る。 しかし、 「ご名答。アタシはさっきお前らと戦ったドラゴンだよ」 人間に化身したドラゴンが仕掛けてくる様子はない。 「アタシの名前はボルビ。ドラゴンの言葉で『風』って意味だ。アンタは?」 「私はポーシャ、この2人はチタニアとベリンダです」 警戒しつつも、相手に名乗られたので、こちらも名乗っておく。 「それにしても、驚いたぞ。まさか湖を丸ごと持ち上げるとはな。おかげで、後始末が一苦労だったぞ」 「すみません」 ドラゴンの言葉に、思わず頭を下げてしまう。 確かにさっきのはやり過ぎだった。 下手をすれば、大惨事になる可能性もあったのだから。 「まあ、アタシが何とかしたから気にすんな」 「は、はあ・・・」 「まあ、魚でも食いながら気楽に話そう」 そう言って、ドラゴン――ボルビが串焼きの魚を差し出してくる。 綺麗な焼き色が付いた、立派な川魚だ。 「・・・」 「そんなに警戒しなくても、毒なんて入ってねぇよ」 「ありがとう、ございます」 礼を言って、おそるおそる焼き魚を受け取る。 こっそり毒見の魔法を使ってみるが、毒の反応はなかった。 「今さらだけど、アンタらはアタシを退治するために来たんだよな?」 「は、はい。湖の辺りに人間を襲うドラゴンがいるので、退治して欲しいと依頼されました」 「やっぱりねぇ」 ポーシャの言葉に大仰に頷くと、ボルビは自分用らしき焼き魚に齧り付く。 「言っとくけどな、アタシは人間を襲った事なんてねぇぞ」 「えっ?」 ボルビの口から出た意外な言葉に、ポーシャは戸惑いの声を漏らす。 「人間たちがアタシの姿を見て、勝手に逃げていくだけだ。アタシから襲った事は1度もねぇよ」 「家畜を襲った事は?」 「それもねぇよ。見ての通り、私の主食は魚だ。動物の肉なんて、この辺りに住み着いてから1度も食ってねぇぞ」 「・・・」 どうやら村人たちの話はかなり誇張されているようだ。 「この際だから言わせてもらうと、アタシの食糧を奪ってるのは人間の方だぞ」 「どういう事ですか?」 「湖の周りにこんな実がなってるの、知ってるか?」 ボルビが手に取ったのは、傍らに置かれていたフルーツ。 先程、ポーシャたちが食べた洋梨の形をしたリンゴだ。 「は、はい」 「これはドラゴニアン・アップル。アタシのもう1つの主食で、アタシが此処に来た時に苗を植えたんだ」 そう言いながら、ボルビが手にしたドラゴニアン・アップルを齧る。 「アタシのモンを勝手に採っておいて、アタシの方を悪者にするのはどうなんだ?」 「・・・」 ボルビの問い掛けに、ポーシャは黙り込むしかなかった。 彼女が嘘を言っているようには見えない。 そうなると、悪いのは彼女ではなく、人間の方という事になる。 「・・・すみません」 少し間を置いて、口から出たのは謝罪の言葉だった。 「アンタが謝る事じゃねぇよ。人間がドラゴンを怖がってるのは知ってるからな」 「それもありますが・・・その、私たちもあのリンゴを食べてしまったので」 「そっちも気にすんな。リンゴはいっぱいからな」 ポーシャの行為を笑って済ますボルビ。 だが、 「ん?ちょっと待て」 直後にその顔色が変わった。 「ドラゴニアン・アップルを生で食ったのか?」 「は、はい。いけなかったでしょうか?」 「別に悪くはないんだが、ドラゴニアン・アップルを生で食うと・・・んっ!」 ふいにボルビが言葉を中断し、身体を斜めに傾ける。 次の瞬間、 ブボボボボボボボボボボボボボボボ~~~~~ッッッ!!! 洞窟全体を揺らすような轟音が響き渡った。 「むぐっ!?」 周囲の空気が黄土色に染まった。 そう錯覚するほど猛烈な臭気がポーシャの鼻腔を襲う。 魚が主食なだけあって、かなり濃密な腐敗臭である。 あまりの凄まじさに、たった1発のオナラだとは到底信じられないレベルだ。 当然というべきか、 「むうっ!?」 「っ!?」 そんな臭気が鼻を襲ってくれば、チタニアとベリンダの意識も覚醒する。 「ごほっ、ごほっ、えほっ・・・!な、何ですか、この悪臭(におい)は!?」 咳き込むチタニア。 「!?」 状況を把握しようと、周囲をきょろきょろと見回すベリンダ。 「ドラゴニアン・アップルは生で食うと、もの凄く屁が出るんだよ」 ボルビが背中に翼を出現させ、臭気を吹き飛ばしながら言う。 「ドラゴニアン・アップル・・・?」 「さっき私たちが食べたリンゴです」 「・・・」 ポーシャの言葉を聞いて、ベリンダが申し訳なさそうに頭を下げる。 「ベリンダのせいではありませんよ」 「そうですよ。あの実を食べたのは、あくまでも自分たちの意思なんですから」 「・・・」 2人の言葉を聞き、ベリンダの表情が和らぐ。 それを見計らったように、ボルビが再び口を開いた。 「それよりお前ら、あのリンゴを生で食ったのに、何ともないのか?」 ボルビが翼を畳み、さらに消滅させながら尋ねる。 「そういえば、少しお腹が張ってきたような・・・」 「私もです。ベリンダは――」 「っ!」 ブオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! チタニアの問い掛けに応じたのは、特大の放屁音だった。 物静かなベリンダからは想像も付かないような大音量のオナラ。 その臭気は音に見合うだけの凶悪な腐敗臭と伴って洞窟内に充満していく。 「んぐぅっ!?」 「ぐふっ!?」 「どうやら効いてきたみたいだな。まあ、此処にはアタシを含めてメス、もとい、女しかいないから問題ねぇか」 「ごほっ、ごほっ・・・も、問題大ありですよ。ボルビさんはこの悪臭(におい)の中で、平気なんですか?」 「さっきも言った通り、このリンゴはアタシの主食だぞ?耐性があるに決まってるだろ」 「な、なるほど。そういう事ですか」 ポーシャが頷いたところで、 ボッフウウウウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 今度はチタニアの尻が決壊した。 ベリンダより腐卵臭の割合の強い臭気が立ち込め、洞窟内の臭気がより凶悪なものへと変貌する。 「むぐうううううっ!?」 苦悶の声を上げながら、ポーシャは風の槍を召喚する。 それを振るって風の魔法を発動し、周囲に漂う臭気を吹き飛ばす。 「ふぅ・・・」 安堵の溜め息を吐いたのも束の間、 ぐるるるるるる~っ! 今度は自分のポーシャのお腹が低く鳴った。 「うっ・・・くっ・・・!」 必死に放屁欲求を抑えるポーシャを見て、 「我慢は身体に毒だぞ。さっさとぶっこいちまえよ」 ボルビが呆れ顔で近付いてきた。 次の瞬間、 ぐいっ。 ふいにポーシャの尻、正確にはその中央にある窄まりを何かが軽く押し込んだ。 ボルビが尻尾を伸ばし、尖った先端でつついたのだ。 「!」 そこでようやくボルビの思惑に気付いたが、時既に遅し。 ブボボボボボボボボボボボボボボボ~~~ッッッ!!! ポーシャの尻からも特大のオナラが溢れ出す。 「むぐうううううっ!?」 「っっっっ!?」 洞窟内に再び臭気が充満し、悶絶するポーシャとベリンダ。 一方、 「くっ!」 チタニアは悶絶しながらガントレットに魔力を注ぎ込む。 ガントレットが淡い輝きを放ち始め、程なくして周囲の臭気が徐々に薄まっていく。 さらに、チタニアが何も持っていない左手で何かを投げるような動きをすると、洞窟内の臭気は完全に消え失せた。 「風の魔法で臭気(オナラ)を左手に集めて外へ投げたのか。器用だな、お前」 「そんな事より、いきなり何するんですか!」 感心した様子のボルビに、温厚なポーシャが珍しく抗議する。 「そう目くじら立てるなよ・・・んっ!」 ブボオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ポーシャをなおざりに宥めながら、ボルビが再びオナラを放つ。 「むぐっ!?オ、オナラするなとは言いませんが、せめて事前に言ってもらえませんか?」 「それは悪かったな。出すぞ。んっ!」 ブブブッスウウウウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 悪びれた様子もなく、ボルビが3発目のオナラを放つ。 「むううううううっ!?じ、事前に言えば許される訳ではありませんよ」 「ワガママな奴だな。じゃあ、どうしろっていうんだ?」 「・・・」 どうやら話し合いは無駄のようだ。 「す、すみません、私も出ます・・・んっ!」 ブブブブブブブブブ~~~~~~~~~~ッッッ!!! ポーシャが頭を抱えていると、今度はチタニアがオナラを放った。 しかし、その臭気が辺りに立ち込める事はなかった。 チタニアは左手を尻に宛がい、風の魔法で臭気をガントレットに集めたのだ。 左手に圧縮された、不可視の臭気の塊。 その臭気玉を、 「ハッ!」 チタニアはボルビの顔めがけて投げ付けた。 「むぐっ、いきなり何するんだよ」 直撃を受けたボルビだが、大したダメージを受けた様子はない。 「ポーシャがやられたお返しです」 チタニアがかすかな怒りを感じさせる口調で言う。 「そういう事するなら、アタシにも考えがあるぞ」 ボルビが口角を吊り上げた直後、その姿はチタニアのすぐ目の前にあった。 「っ!?」 反射的に防御態勢を取るチタニアだが、気付いた時には身体が宙に浮いていた。 ボルビが彼女の胴に長い尾を巻き付けて持ち上げたのだ。 「くっ、離してください!」 「すぐに離してやるよ」 そう言いながら、ボルビは尻尾を動かしてチタニアの顔を上下逆さに自分の尻へと押し付ける。 「1発こいた後でな。んっ!」 ブブブッブウウウウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! チタニアの顔を尻に押し付けたまま、大音量のオナラを放つボルビ。 「むうううううううううっ!?」 猛烈な臭気の直撃を受け、チタニアが苦悶の声を上げる。 「私に屁で挑むなんて、100年早いんだよ」 そう言いながら、ボルビは器用に尻尾を使ってチタニアを地面に寝かせる。 「・・・」 解放されたチタニアだが、どうやら気絶しているらしく、ぐったりとしていた。 それを見て、 「っ!」 今度はベリンダが動いた。 両手に氷の拳銃を召喚し、片方をボルビに、もう片方を地面に向けて引き金を絞る。 「おっ」 ボルビが驚きと感心が混ざったような声を上げる。 ベリンダはボルビの足を氷結させて地面に縫い止め、自分は氷結させた地面を滑走し始めたのだ。 アイススケートのように滑らかな動きで間合いを詰め、意図的に作った出っ張りを使って跳躍するベリンダ。 そのまま空中で身体を半回転させ、ボルビの顔にヒップドロップを見舞う。 人間に化身しているとはいえ、ボルビはドラゴンだ。 体重の軽いベリンダのヒップドロップ程度ではビクともしない。 しかし、そんな事はベリンダも百も承知だ。 「っ!」 ブオオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 自分の尻がボルビの顔に直撃したタイミングで、強烈なオナラを浴びせる。 「・・・」 ベリンダ自身が恥ずかしくなるほど強烈な悪臭(におい)の1発だったが、 「甘いぞ」 ボルビは大してダメージを受けた様子もない それどころか、 「よいっしょ」 ボルビはベリンダの身体をひょいっと持ち上げ、そのまま後ろへ放り投げてしまう。 「!」 慌てて態勢を立て直そうとするベリンダ。 しかし、それより早くボルビの尻尾が彼女を捕えた。 「んっ!」 そして、 ボッフウウウウウウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! ベリンダはチタニアと同じ運命を辿った。 「これで2人目、と。どうする?お前もやるか?」 「・・・」 勝ち誇るボルビを見て、ポーシャは無言で風の槍を召喚する。 プシュウウウウウ・・・ッ。 そんな彼女の尻から小さな噴出音がしている事に、ボルビはまだ気付いていないようだ。 「あっ、言っておくけど、町の連中にこんな事はしてないからな」 「わかっています」 シュオオオオオオ・・・ッ。 「そういえば、お前とチタニアってザザド族だよな?何で東国(こっち)にいるんだ?南の部族だろ、お前ら」 「東国の魔法に関する知識も得ようという族長の方針です」 「へぇ、そうなのか」 「・・・」 ムシュウウウウウ・・・ッ。 言葉を交わしている間も、ポーシャの尻からは噴出音がし続けている。 「結構喋ったな。もう屁の準備できたか?」 「っ!?」 ボルビの言葉に、ポーシャが驚愕の表情を浮かべる。 (お、お見通しだった・・・?) そう、ポーシャは会話を交わしながらすかしっ屁を出し続け、それを風の魔法で槍の石突きに集めていたのだ。 (バレているなら、仕方ありません!) 「んっ!」 ブブブブブブブブウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 特大のオナラを放ち、その臭気を槍の石突きに収束させる。 その作業が終わったところで、 「っ!」 地を蹴って一気にボルビとの間合いを詰める。 自分の腸内(おなか)に溜まった、臭気の核爆弾。 それが込められた石突きを、 「ハァッ!」 勢いよくボルビの顔にぶつける。 「むぐっ!?」 今までのオナラでは表情1つ変えなかったボルビが初めて小さく呻く。 しかし、 「これで、精一杯か?」 それだけだった。 「なっ・・・!」 驚愕し、戦意喪失するポーシャ。 そんな彼女の腰にボルビの尻尾が巻き付き、 ブブブッブオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 先の2人と同じ運命を辿った。 *  壮絶なオナラ合戦の後始末を終え、ポーシャたちは事態の収拾に動き出した。 人間に化身したボルビと共に町を訪れ、話し合いの場を設けたのだ。 結果として―― ①人間はドラゴニアン・アップルを自由に収穫してよい。但し、ボルビが食べる分だけは残す。 ②ボルビはできるだけ町に近付かない。必要な時は人間に化身する。 以上の条件が人間とボルビの間で取り決められた。 その1件から1週間後。 「なっ!?」 「えっ!?」 「っっ!?」 学園に戻った3人は驚きの声を上げた。 「よっ、1週間ぶりだな」 ボルビがさも当然のようにゼガゼス魔法女学園の廊下を歩いていたのだ。 しかし、1週間前とは異なり、頭に生えた1対の角を除けば、普通の人間と大差ない姿になっている。 「ど、どうしてボルビさんが此処に・・・?」 戸惑いながらも、3人を代表して問い掛けるポーシャ。 「どうしてって、見ての通りだよ」 ボルビが自分の着ている服を指差しながら言う。 間違いなく自分たちが着ているのと同じゼガゼス魔法女学園の制服だ。 「此処の1年生に編入したんだ。クラスは別になったけど、これからよろしくな」 そう言って豪快に笑うボルビを見ながら、 「「「・・・」」」 3人は同時に溜め息を吐いた。


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