SamSuka
JUDO(あるいはスサノオ)
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魔法学校の日常6

 ゼボロド火山。 大陸中央部に位置する火山で、多種多様な魔法石の産地として知られている。 その広大な火山の麓に、矢筒を背負った少女の姿があった。 何処か少年っぽさを感じさせる凛々しい顔立ちに、短く切られた髪。 背は150cmぐらいだろうか。 小柄ながら、首から下は女性的なラインを描いている。 彼女の名前は、ムフェット。 大陸東部に位置するゼガゼス魔法女学園の2年生である。 管理事務所で受付を済ませ、火山の入口を目指す。 このゼボロド火山は大陸でも有数の魔法石の産地である。 そのため、入山するにもある程度の制限があるのだ。 「此処に来るのも久し振り・・・ん?」 火山の入口まで来たところで、ムフェットは足を止めた。 前方に先客の姿が見えたからだ。 後ろ姿しか見えないが、背は160cmぐらい。 赤みの強い長髪で、つばの広い尖り帽子を被り、先端に赤い宝石の輝く杖を手にしている。 おそらく受付で聞いたもう1人の入山者だろう。 (あの制服は・・・ゼダセ魔法学園の生徒か) 被っている帽子と着ている制服に見覚えがある。 ゼダセ魔法学園は、大陸の南部に位置する共学の魔法学園だ。 ゼガゼスが戦士の育成を目的とするのに対し、ゼダセは研究者の育成を目的としている。 (それにしても、何をしているんだ?) この疑問がムフェットに足を止めさせた理由であった。 先客の少女は何故か火山に入らず、入口にある高さ180cmほどの段差の前をうろうろしている。 (落とし物でもしたのかな?) 「あの・・・」 「!」 声を掛けると、先客の少女が驚いたように肩をびくっと震わせる。 それからゆっくりとこちらの方に向き直る。 そこで、ようやく少女の顔が明らかになる。 年齢は自分より少し下ぐらいだろうか。 可愛らしいながらも気の強そうな顔立ちに、黒縁の眼鏡を掛けている。 何となく委員長や風紀委員が似合いそうだ。 「えっと、驚かせてゴメン。火山に入らないから、どうしたのかなと思って」 「いえ、何でもないです」 「・・・」 こうもきっぱりと言われてしまっては、どうする事もできない。 「それじゃあ、お先に」 仕方なくムフェットはさっさと段差をよじ登り、火山の中に―― 「えっ!?」 段差を登り切ったところで、下から声が聞こえてきた。 視線を向けると、先客の少女が驚きの表情でこちらを見上げていた。 (そういう事か) 事情を察したムフェットが少女の方に手を差し伸べる。 「えっ?」 「私はムフェット。あなたは?」 「・・・パタータよ」 消え入りそうな声でそう答え、少女――パタータはムフェットの手を掴んだ。 *  無事に入口の段差を乗り越えた2人は順調に火山内部を進んでいく。 「じゃあ、パタータは2年生なんだね。私と同じだ」 「えっ?ムフェットも2年生なの?」 パタータが少し驚いたように問い掛ける。 「私は小柄だからね。驚くのも無理ないよ」 「い、いや、そんなつもりじゃ!気に障ったのなら謝るわ」 「気にしなくていいよ。いつもの事だから」 慌てて頭を下げるパタータに、ムフェットは笑顔で応じる。 「ありがとう。それにしても・・・暑いわね」 「確かにこの暑さは何度来ても慣れないよ」 「魔法が使えたらいいのに・・・」 2人のいるゼボロド火山は今なお活動している活火山であり、内部は強烈な熱気が渦巻いている。 しかも、岩石内の魔法石が反応してしまう恐れがあるため、不用意に魔法を使う事ができないのだ。 「この辺りでいいかな」 そう言って、ムフェットが足を止める。 そこは小さい家なら3軒は建ちそうなほど広い空間で、あちこちに採掘した跡が見受けられる。 「パタータは此処に来るのは初めて?」 「ええ、初めてよ」 「私は何度も来てるから、わからない事があれば、できるだけ答えるよ」 「ありがとう」 礼を言いながら、パタータは折り畳みのピッケルを展開する。 「あなた、ピッケルは?」 「荷物になるから持ってきてないんだ」 そう言うと、ムフェットは落ちていた棒状のものを拾い上げた。 「それは?」 「動物の骨だよ。さすがに何の動物かまではわからないけどね」 説明しながら、ムフェットは懐から尖った金属片を取り出した。 「それは?」 「私が使ってる矢の鏃(やじり)だよ。これを骨の先端に縛り付ければ・・・ほら、簡易ピッケルの完成だ」 「そんなので掘れるんですか?」 「鏃が硬いから大丈夫だよ」 ムフェットは自作の簡易ピッケルを勢いよく振り下ろし、大きな岩石の一角を綺麗に割ってみせる。 「ほらね」 「凄い・・・」 半信半疑な様子だったパタータの表情が驚きに染まる。 「いきなりお目当ての物が出てきたよ。今日はついてるようだ」 ムフェットが砕いた岩の断面から、黄色に輝く拳大の宝石――魔法石が出現する。 「透明度も高いし、これは期待できそうだね」 「そうですね」 魔法石の効力を調べるには、専用の設備が必要となる。 そのため、管理事務所で確認してもらうまで、どんな魔法石なのかは判断できないのだ。 「私も負けてられないわね。えいっ!」 気合いと共に、パタータもピッケルを振り下ろす。 しかし、 「あ、あれ?」 ピッケルは岩石の表面に小さな傷を付けただけだった。 「簡単なようでコツが要るんだよ。岩の目をよく見て――」 ムフェットが再びピッケルを振り下ろし、見事に岩石を割ってみせる。 「今回は・・・ハズレだね」 岩の断面に魔法石はない。 正確にはあるのだが、豆粒のように小さいものばかりで、とても使えそうに見えない。 「岩の、目・・・?」 「岩には『石目』といって、割れやすい部分があるんだよ」 「魔法を使えれば、簡単なのに・・・」 文句を言いながらも、パタータ先程より大きくピッケルを振り上げる。 「これで、どうだっ!」 渾身の力でピッケルを振り下ろすパタータ。 その先端が岩肌を捉えた瞬間、 カーンッ! ブバスッ!! 鋭い金属音とそれを上回る大きな破裂音が周囲に響き渡った。 少し間を置いて、周囲に濃厚な硫黄臭が立ち込める。 「ち、違うの!今のは、その・・・」 「気にしなくていいよ」 赤面するパタータにそう言うと、 「んっ」 ムフェットが息みながら尻を後ろに突き出した。 直後、 プオォッ! 彼女の尻からもオナラが噴き出し、周囲に腐卵臭が立ち込める。 「私もちょうど出したかったんだ」 ムフェットが頬を少し紅く染めながら言う。 「ムフェット・・・」 このやり取りで2人の距離は大幅に縮まり、オナラ談義に花が咲き始める。 「やっぱりゼガゼスでもオナ・・・アレは悩みの種なのね」 「まあね。でも、まさかゼダセ(そっち)も同じだと思わなかったよ」 「魔法使いの宿命ね。ところで・・・」 「どうかしたの?」 「実はその、今もちょっとしたかったりするんだけど・・・」 パタータが片手でお腹を撫でながら言う。 「ああ、別に構わないよ。ゼガゼスでは『他人のオナラ(アレ)は黙殺する』というのが暗黙の了解だから。というか――」 ぐるるるるる~っ! 「私もいいかな?」 「勿論よ。んっ」 ブウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 先陣を切るように、パタータが2発目のオナラを放つ。 1発目とは比較にならないほどの轟音が大気を震わせ、周囲に強烈な硫黄臭を撒き散らす。 「むぐっ!?」 「ご、ごめんなさい!大丈夫!?」 ムフェットが苦悶の声を漏らしたのを見て、パタータが慌てて駆け寄ってくる。 「大丈夫だよ。それより私も出すから、少し離れて」 「う、うん」 「じゃあ、出すよ・・・んっ!」 プウゥウゥゥウゥゥウウ~~~ッッッ!!! パタータが離れたのを確認し、ムフェットも2発目のオナラを放つ。 何処か間の抜けた音だが、 「ぐふっ!?」 その腐卵臭の強烈さはパタータのオナラに勝るとも劣らない。 「パタータ!?」 「ごほっ、ごほっ・・・だ、大丈夫よ。これでおあいこね」 「これが本当の臭い仲、かな?」 「そうかもね。んっ!」 ブブブッスウウウウウウ~~~ッッッ!!! ピッケルを振り下ろしながら、また強烈なオナラを放つパタータ。 「むぐっ・・・臭いけど、出しながらの方が調子いいわね」 パタータが岩の断面を見ながら言う。 そこには直径5cmほどの淡い緑色の魔法石が輝いている。 「遠慮せずに出していいよ。その代わり、私も遠慮せずに出すけどね。んっ!」 そう言いながら、 ブブブッフウウウウウウ~~~ッッッ!!! ムフェットも放屁と共にピッケルを振り下ろす。 「本当にオナラしながらの方が調子いいね」 彼女が割った岩の断面からも、白い魔法石が出土する。 透明度は低いが、子供の頭ほどの大きさがある。 その後、 ブボボボオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ボッフウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! 頻繁に放屁を交えながら、2人の採掘は続く。 「結構出たわね」 「魔法石が?それともオナラが?」 「ムフェット!」 「あははは、ほんの冗談だよ。それにしても魔法が使えないと、消臭できないのが困りモノだね」 「えっ?消臭に魔法なんて必要ないでしょ?」 パタータが怪訝そうに首を傾げる。 「えっ?ゼダセではポーションを使わないの?」 「私たちはこれを使ってるわよ」 パタータがポケットから小さなスプレーを取り出し、周囲に振り撒き始める。 「これは?」 「消臭効果のある植物のエキスよ。勿論、魔法は使ってないわ」 「それ、後で作り方を教えて・・・っ!?」 ふいにムフェットが言葉を中断し、素早く背負っていたロングボウを展開する。 「ど、どうしたの?」 パタータが彼女の視線を追うと、洞窟の奥から俵型の物体がのそのそと歩いてきた。 大きさは50cmほど。 背中は硬そうな殻に覆われており、アルマジロとカピバラの中間のような姿をしている。 「何、あれ?」 「シェルマウス。この辺りに棲んでるネズミの仲間だよ」 ムフェットがロングボウを畳んで背負い直す。 危険はないと判断したらしい。 「ネズミなの、あのでっかいの!?」 「大きさは関係ないよ。シッポが太いから、あれはオスだね」 2人が話している間も、シェルマウスの歩みは止まらない。 「何かこっちに近付いてきてない?」 「気にしなくていいよ。シェルマウスは大人しいから」 程なくして、シェルマウスはパタータの足元までやってきた。 「へぇ、よく見ると、意外と可愛い顔してるわね。お菓子、食べる?」 パタータがポケットに入っていたお菓子を差し出すと、 『・・・』 シェルマウスはのんびりとした動きで綺麗に平らげてしまった。 「さて、本来の目的に戻りますか」 それを見届け、パタータは採掘作業に戻る。 ピッケルを高々と振り上げ、そのまま勢いを付けて一気に振り下ろす。 ブオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 「っ!?」 また大きなオナラが出てしまった。 (うぅっ、我ながら臭いのを出しちゃったわね・・・) 周囲に立ち込める硫黄臭を感じながら、心の中で呟く。 すると、 『!』 足元にいたシェルマウスが急に身体を丸め始める。 動きが緩慢なのでわかりにくいが、何となく慌てているようにも見える。 「正直、動物にまで嫌がられると、かなりショックだわ」 「シ、シェルマウスは悪臭(におい)に敏感・・・っ!?」 またムフェットが会話を中断し、ロングボウを展開する。 「どうやらシェルマウスが嫌がったのは、君のオナラじゃないみたいだよ」 「えっ?」 「今日はお客さんが多い日だ」 ムフェットの視線が射抜く先。 そこにいたのは、トカゲのような生物、それも5匹ほどの群れだった。 大きさはシェルマウスの2倍ほど。 全身は岩石のような黒い鱗に覆われ、口には鋭い牙が、手足には鋭い鉤爪が並んでいる。 「マグマリザード。そのシェルマウスと違って、凶暴な奴らだ」 弓に矢を番え、マグマリザードを睨み付けるムフェット。 「パタータ、私の後ろに」 「わ、私も戦えるわ!」 「魔法を使わずに?」 「うっ・・・」 ムフェットの言葉に黙り込み、パタータは大人しく彼女の後ろへと移動する。 『シャアアアアアアッ!』 その隙を好機と見たか、マグマリザードの1匹が飛び掛かってくる。 それを合図に、残りのマグマリザードも一斉に飛び掛かってきた。 だが、ムフェットの対応は迅速だった。 「ハッ!」 彼女が一息で放った矢は3本。 それらで同数のマグマリザードを仕留めると、残る2匹も弓の両端に付いた刃で瞬時に蹴散らしてしまう。 「殺しはしないよ。此処では私たちの方が余所者だからね」 彼女の言葉通り、マグマリザードたちは1匹も死んでいない。 矢は彼らの急所である首筋を掠めさせ、弓は首筋に打ち付ける事で気絶させたのだ。 「怪我はないよね、パタータ?」 「う、うん、大丈夫よ」 「よかった・・・っ!?」 安堵の表情を浮かべるムフェットだが、それは直後に驚愕に変わる。 「どうやら今日の私たちの運勢は最悪みたいだよ」 「それって、どういう・・・なっ!?」 ムフェットの視線の先を追って、パタータも言葉の意味を理解する。 彼女が見据える先。 そこには新手のマグマリザードの姿があった。 問題はその数だ。 『シャアアアアアアッ!』 『シャアアアアアアッ!』 『シャアアアアアアッ!』 10や20ではきかない。 少なく見ても、ざっと80匹はいる。 「何とかなりそう?」 「・・・難しい注文だね」 手元に残っている矢は17本。 単純に1本で1匹倒すなら、この5倍は必要だ。 1本で1体なら。 (やるしかないね) ムフェットが覚悟を決めたのを見計らったように、 『シャアアアアアアッ!』 『シャアアアアアアッ!』 『シャアアアアアアッ!』 マグマリザードの大群が動いた。 単純な数を武器にした、小細工なしの一斉攻撃。 それに対し、ムフェットは卓越した弓術で応戦する。 彼女の放つ矢は正確無比に標的を捉え、1本で数匹のマグマリザードを仕留めていく。 だが、マグマリザードの数は一向に減る気配がない。 「くっ、やっぱり矢の数が足りない。隙を突いて逃げるよ!」 「わかったわ・・・うっ!」」 「パタータ!?」 パタータの口から漏れた呻き声に、ムフェットの注意が逸れる。 それが決定的な隙を生んだ。 「しまっ・・・!?」 気付いた時には、手遅れだった。 数匹のマグマリザードに飛び掛かられ、その重さに耐えきれずに転倒する。 「ムフェット!」 慌てて杖を構えようとするパタータだが、 「きゃあっ!?」 彼女もまた襲い掛かってきたマグマリザードに押し倒されてしまった。 しかし、それが幸いした。 ブボボボボボボボボボボボボォ~~~ッッッ!!! 彼らに押し倒された事で腹部が圧迫され、彼女のお尻から特大のオナラが噴き出したからだ。 『シャアアアアアアッ!?』 強烈な硫黄臭に怯んだのか、マグマリザードたちが彼女から離れていく。 「そこまで臭いっていうの!?」 助かったのは間違いないが、かなり複雑な気分だ。 「ち、違うよ、パタータ。んっ!」 ブブブブブブブブブブブブゥ~~~ッッッ!!! ムフェットがオナラを放つと、やはりマグマリザードたちが彼女から離れていく。 「こいつらは火山ガスに含まれる硫黄臭を嫌うんだ。火山ガスは有毒な場合が多いからね」 「どうせ私のオナラは火山ガスより臭いわよ」 「そうむくれないで。可愛い顔が台無しだよ」 「そういう台詞は男が言うもの・・・あら?」 ふいに2人の持っている通信機が同時に鳴り始める。 「管理事務所からの連絡ね。えっと、『現在、マグマリザードが大量発生中。安全確保のため、魔法の使用を許可します』だって」 受信した文面を読み上げ、パタータが杖を構える。 「どうやら遠慮は要らないみたいよ」 「そうらしいね」 パタータの言葉に頷き、残った矢の鏃を自らの尻に宛がうムフェット。 「んっ!」 ブブブウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! そのまま放屁し、同時に風の魔法を発動して鏃にオナラの臭気を纏わせる。 十分に臭気を纏ったところで、 「ハッ!」 その矢を番えてマグマリザードの群れめがけて射出する。 狙いはマグマリザードが密集している壁。 矢がそこに突き刺さると、鏃の臭気が解放されて周囲に強烈な腐卵臭を撒き散らす。 『シャアアアアアアッ!?』 嫌いな悪臭(におい)を大量に浴びせられ、マグマリザードたちが次々と逃げていく。 それでもまだ30匹ほどが残っていた。 「次で全部追い払うよ」 ムフェットが次の矢を番えようとすると、 「待って」 パタータが待ったをかけた。 「その矢、1本貸してくれる?」 「どうぞ」 「ありがとう」 ムフェットから矢を受け取ると、 ブオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 彼女と同じように風の魔法を使って鏃にオナラを圧縮する。 「もう1発・・・ふんっ!」 ブウウウオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 「ついでに、もう1発・・・ふんっ!」 ブブブッブウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! さらにダメ押しとばかりに、2発目のオナラを追加してから矢をムフェットに差し出す。 「これを使って」 「了解」 パタータから受け取った矢を番え、即座に射出する。 それと同時に、 「ハッ!」 パタータが杖を振るった。 それに呼応し、ムフェットの放った矢が3本に分身してマグマリザードの群れに降り注ぐ。 『シャアアアアアアッ!?』 『シャアアアアアアッ!?』 『シャアアアアアアッ!?』 強烈な硫黄臭を浴びて、マグマリザードが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 「ふぅ・・・」 すべてのマグマリザードがいなくなったところで、その場にへたり込むパタータ。 「大丈夫?」 「生まれて初めて、自分のオナラに感謝したわ」 「私もだよ」 周囲に漂うオナラの残り香を感じながら笑い合う2人。 ずしっ。 そんな時、パタータの背中を衝撃が襲った。 ずっと丸まっていたシェルマウスが圧し掛かってきたのだ。 「どうやらパタータの事が気に入ったみたいだね」 「ちょっ、潰れちゃうでしょ!早く退きなさい!」 『・・・』 パタータの言葉がわかったのか、シェルマウスが彼女の背中から降りる。 しかし、気のせいか、その顔は何処か残念そうに見える。 「そ、そんな目で見ないでよ」 「連れて帰るしかなさそうだね。シェルマウスは保護動物じゃないから、問題ないはずだよ」 「連れて帰るって・・・」 『・・・』 何かを訴えるように、パタータを見詰めるシェルマウス。 「わかった、わかったわよ。連れて帰ればいいんでしょ」 「じゃあ、名前を付けてあげないとね。ラググなんてどうかな?」 「ラググって、確か昔話に出てくるネズミのお化けよね?」 「うん。どうかな?」 「いいわね。よし、今日からあんたはラググよ」 『・・・』 シェルマウスからの反応はないが、文句はなさそうだ。 こうして、ラググはパタータに飼われる事になった。 *  管理事務所に戻った2人は、すぐに採掘した魔法石を鑑定に出した。 「飼育の許可が出てよかったね」 「そうね。これからよろしく、ラググ」 『・・・』 パタータの言葉を聞き、ラググが首を上下に動かす。 「これって・・・もしかして頷いてる?」 「シェルマウスは知能が高いから、そうかもしれないね」 「そんなに利口なの、こいつ?」 パタータがラググの背中をペシペシと叩きながら言う。 『・・・』 当のラググは首を左右に動かして周囲を見回している。 余談だが、2人の採掘した大量の魔法石を此処まで運んできたのは彼である。 10分後。 「結果が出ましたよ」 係員が2人の魔法石を台車に載せて戻ってきた。 「こちらが鑑定結果です」 係員から鑑定結果の書かれた用紙を受け取り、魔法石に振られた番号と照合する。 「思ったよりレアなのがあったわね」 「ああ、苦労した分の元は取れたよ」 「このムフェットが採った魔法石、貰っていいかしら?」 「構わないよ。その代わり、こっちの魔法石を貰っていい?」 「ええ、いいわよ」 魔法石のトレードが済んだところで、必要ない分の魔法石を売却する。 「結構な額になったわね」 「レアな魔法石もあったからね」 「じゃあ、私はゼダセに戻るわ」 パタータが手にした杖を突き立てると、彼女を中心に半径1mほどの地面が円盤状にゆっくりと浮かび上がる。 「ほら、あんたも早く乗りなさい」 『・・・』 パタータに促され、ラググも円盤状の地面へと上がってくる。 「何かあったら、いつでも連絡して。あっ、さっきの消臭スプレーの作り方、後で送るわ」 「ありがとう。助かるよ」 「じゃあ、またね」 パタータが杖を掲げると、彼女たちを乗せた円盤は自転車ほどの速度で飛び去っていく。 その姿を見送って、 「さてと、私もゼガゼスに帰ろうかな」 ムフェットもゼボロド火山を後にした。


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