魔法学園の日常9
Added 2019-04-10 17:32:13 +0000 UTCゼガゼス魔法女学園。 大陸東部に位置し、多くの優秀な魔法使いを輩出している名門校である。 とはいえ、そこに通うのは年頃の乙女たち。 ずっと勉強ばかりしているという訳ではない。 「♪~♪~」 例えば、今も1人の女子生徒が学園を出て、赤いレンガ屋根の並ぶ街の商店街を歩いている。 背は150cmを少し超えるぐらい。 白に近い銀色のミディアムヘアと、対照的にルビーのような紅い瞳。 顔立ちは少女の可愛らしさの中に、何処か少年っぽさを感じさせる。 一方、首から下では胸が堂々たる存在を放ち、尻もそれに負けない存在感を主張している。 彼女の名前は、カルデネ。 ゼガゼス魔法女学園の1年生である。 「今日はいい買い物ができたッスね~♪」 鼻歌混じりの彼女が手にした袋には、様々な宝石が入っている。 どれも装飾品としての価値は殆どない安物だが、魔法具を作るならこの程度の宝石で十分なのだ。 「後はお風呂でのんびり・・・おや?」 ふいにカルデネが足を止めた。 その視線の先にいるのは、魔法具を売る店の前に立つ1人の女性。 どうやら押しの強い店主に色々な商品を勧められ、困惑しているようだ。 カルデネはその女性に見覚えがあった。 教育実習生のユミルだ。 「たまには生徒が先生を助けてもいいッスよね♪」 そう言いながら、カルデネはユミルに駆け寄っていく。 「こんな所にいたんですか、ユミル先生。ほら、早く行くッスよ」 「えっ!?カルデネさん?」 「じゃあ、そんな訳なんで、私らはこれで失礼するッス!」 困惑するユミルの手を引いて、カルデネはそのまま店頭から離脱する。 「ダメッスよ、ユミル先生。ああいう時はきっぱり『要らない』って言わないと」 「でも、何だか悪い気がして・・・」 「そういう所がユミル先生のいい所なんッスけどね。ところで、先生も今日は買い物ッスか?」 「ええ、消臭薬の材料を買いに来たの」 「消臭薬を?」 ユミルが見せてくれた買い物袋の中を覗き込み、カルデネは首を傾げた。 消臭薬といえば、学園でオナラに悩む生徒たちの必需品であるポーションの事だろう。 しかし、買い物袋に入っている材料はどれもポーションを作るのには使わないものばかりなのだ。 「ごめんなさい。説明が足りなかったわね。これはゼダセで使ってた、魔法を使わない消臭薬の材料なの」 「ゼダセでは消臭に魔法を使わないんッスか?」 ゼダセとはユミルが嘗て通っていたゼダセ魔法学園の事だ。 「ええ、ゼタセでは消臭作用のある植物を調合して消臭薬を作るの」 「へぇ、所変われば品変わるんッスね」 「あっ、そうだ。カルデネさん、これから予定あるかしら?」 「予定ッスか?お目当ての品は買ったんで、後は学園に戻るだけッスね」 「だったら、少し街を案内してくれないかしら?さっきのお礼もしたいから、少しぐらいなら奢るわよ」 「本当ッスか!?ありがとうございます!じゃあ、まずは私オススメの店にGOッス!」 そう言うと、カルデネはユミルの手を引いて歩き出した。 * カルデネがユミルを連れてきたのは、1軒のワッフル屋だった。 そこでワッフルを買い、食べながら街をのんびりと歩いていく。 「どうッスか、先生?此処のワッフルは絶品でしょう?」 「ええ。本当に美味しいわね」 両手に持ったワッフルを豪快に頬張るカルデネに対し、両手で持ったワッフルを上品に食べるユミル。 「先生のは蜂蜜りんごッスか?」 「ええ。カルデネさんのは?」 「両方とも焼き芋バターッスよ」 「や、焼き芋バター?その、大丈夫なの?」 「こういう時に、カロリーの事は言いっこなしッスよ。魔法使いも身体が資本なんッスから」 「いや、カロリーじゃなくて、その・・・」 「ん?」 言い淀むユミルの様子を見て、カルデネは彼女の言わんとする事を理解する。 「アレの事もこういう時は言いっこなしッスよ」 「そ、そうね。ごめんなさい」 ユミルが申し訳なさそうに頭を下げてくる。 「謝らなくていいッスよ。それより、ちょっと言いにくいんッスけど・・・」 「な、何かな?」 「アレを気にして焼き芋を避けたみたいッスけど、リンゴも似たような効果があるんッスよ?」 「えっ!?」 ユミルが驚きの声を上げた瞬間、 「ドロボー!捕まえてー!」 後方から女性の叫び声が聞こえてきた。 「邪魔だ!退け!」 間を置かず、大きな鞄を抱えた黒い服の男がカルデネを押し退けるようにして走っていく。 「カルデネさん!?」 「大丈夫ッスよ」 慌てるユミルに対し、カルデネは冷静だった。 「逃がさないッスよ」 即座に左手をピストルの形にし、逃げた男に狙いを定める。 直後、銃口に当たる人差し指から小さな魔力弾が発射された。 「あがっ!?」 後頭部に魔力弾の直撃を受け、黒い服の男は盛大に転倒して動かなくなる。 どうやら気を失ったらしい。 「見事命中ッスね。威力は落としてあるから、痛いだけで死にはしないッスよ」 カルデネが魔力弾を撃った人差し指をガンマンのようにフッと吹いてみせる。 「私の鞄!」 ちょうどそのタイミングで、鞄の持ち主らしき女性が追いついてきた。 「もう油断しちゃダメッスよ、お姉さん」 カルデネが倒れ伏す男から鞄を取り上げ、女性に手渡しながら言う。 「はい。ありがとうございます」 女性が深々と頭を下げると、それを合図に周囲から惜しみない拍手が送られる。 「本当に凄いですね、カルデネさん」 ユミルも周囲と同じように拍手していた。 「拍手してもらうほどの事じゃな・・・っ」 ふいにカルデネが言葉を詰まらせる。 「あの、どうかされましたか?」 「いえ、何でもないッスよ。じゃあ、私らは用があるんで、これで失礼するッス」 そう言うと、カルデネが返事も待たずに走り出す。 ユミルも慌てて彼女の後を追いかけた。 * 3分後。 「ふぅ、此処なら大丈夫ッスね」 カルデネが足を止めたのを見て、ユミルも両足にブレーキをかける。 そこは商店街の薄暗い裏路地だった。 「急に走り出したりして、どうしたんですか?」 「いや、実は――」 ユミルの問い掛けに答えるより早く、 ブッ、ブブブブウウウウウウ~~ッッッ!!! カルデネの尻から生温かい臭気が噴き出した。 「こういう訳なんッス」 「ごほっ、ごほっ、えほっ・・・な、なるほどね」 腐った卵にニラを加えたような悪臭(におい)に、思わず咳き込むユミル。 「大丈夫ッスか、先生?」 「え、ええ、大丈夫・・・っ!?」 ぐるるるるるるる~っ! 「もしかして私のが呼び水になっちゃったッスか?」 「そ、そんな事はないと思うけど・・・私も一緒にガス抜きしていいかな?」 「勿論ッスよ♪」 カルデネが頷いた瞬間、 ブシュウウウウウウウ・・・ッ。 ユミルの尻からもオナラが噴き出した。 「むぐっ!?せ、先生、すかしは反則じゃないッスか?」 鼻腔を抉るような強烈な発酵臭に、カルデネが抗議を含んだ口調で言う。 「でも、こんな所で大きな音を出したら、誰かに聞かれちゃうかもしれないし・・・」 「だったら、消音魔法を使えばいいじゃないッスか」 「それもそうね」 ユミルは右手に杖を召喚すると、その先端に浮かぶ赤い宝石が淡い輝きを放つ。 それに呼応するように、ドーム状のシャボン玉のような膜が出現し、2人をすっぽりと包んでしまった。 「これでいいわ。この中なら、どんなに大きな音を出しても大丈夫よ」 「さすがユミル先生。では、遠慮なく・・・んっ!」 カルデネが息んだ直後、 ブウウウオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 先程の1発を軽く凌ぐ爆音のオナラが放たれた。 本来なら周囲に響き渡るような大音量だが、ユミルの結界はそれを一切外部に漏らさない。 その高度な遮音性も、 「むうううううっ!?」 オナラの悪臭(におい)に対しては無力だ。 路地裏の湿気も相俟って、強烈な悪臭(におい)がユミルの鼻を襲う。 「そんなに臭くは・・・いや、臭いッスね。先生も私に遠慮せずに出していいッスよ」 「え、ええ。んんっ!」 ムシュウウウウウウウ・・・ッ。 カルデネの言葉に頷き、ユミルが2発目のオナラを放つ。 「むぐっ!?何で遮音結界を張ったのに、すかしなんッスか!」 「ご、ごめんなさい。あんまり大きな音だと、聞かれるのが恥ずかしくて・・・」 「その分、悪臭(におい)がきつくなったら意味ないッスよ!もうっ、こうなったら・・・ふんっ!」 ブウウウウウウウウウウウウウ~~~ッッッ!!! カルデネがユミルの方に尻を向けてオナラを放つ。 「むううううううっ!?」 「これで少しは懲り・・・先生!?」 「だ、大丈夫よ。ちょっと目眩がしただけだから」 少しふらついたものの、ユミルはしっかりした声で応じる。 「その、まだ出そうなんだけど、いいかな?」 「出すのはいいッスけど、次はちゃんと音を出してくださいね?」 「う、うん」 カルデネの言葉に頷き、 プウウゥゥウウウゥウウゥゥ~~~ッッッ! ユミルが3発目のオナラを放つ。 今回はしっかりと音は出ており、壊れた玩具のラッパのような力が抜ける音だ。 「何か間の抜けた音・・・むぐっ!?」 音こそ間抜けていたが、その悪臭(におい)は全く笑えない凶悪さだった。 「ごほっ、ごほっ、えほっ・・・!」 「その、ちゃんと音は出したんだけど・・・」 「は、はい。おかげで、音のあるオナラの方が臭くないというのが迷信だとわかったッス」 「私はもう出し切ったけど、カルデネさんはまだ出ますか?」 「えっと、後1発だけいいッスかね?」 「ええ、大丈夫よ」 「じゃあ、遠慮なく・・・ふんっ!」 ブボオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! カルデネが最後に特大のオナラを放つ。 「むううううううっ!?」 その凶悪な臭気が鼻に流れ込んできたところで、ユミルはすぐさまポーションを振り撒いた。 * ガス抜きと消臭を終えたところで、遮音結界を消滅させる。 そのタイミングを見計らったように、 「そこの御2人さん、こんな所で何してンの?」 「俺たちと遊ばない?」 2人組の若い男が声を掛けてきた。 「えっ、えっと・・・」 「お断りするッス」 戸惑うユミルとは対照的に、カルデネは彼らの言葉を一蹴し、その場を立ち去ろうとする。 しかし、 「そんな事言わずにさ、少しでいいから」 2人組の片割れ、サングラスの男に肩を捕まれてしまう。 「あんまりしつこいようなら、実力行使に出るッスよ?」 「実力行使って、お嬢ちゃんが素手で俺らに勝てると思ってるの?」 カルデネが声のトーンを下げたのに気付かず、もう片方の長髪の男が愉快そうに言う。 「素手で問題ないッスけど、武器を使っていいなら遠慮なく――」 カルデネが取り出したのは、1本の白い棒だった。 長さは20cmほどで、先端には円盤あるいは車輪のように見えるパーツが取り付けられている。 「光よ!」 カルデネの力ある言葉に呼応し、棒の先端から長さ1mほどの光の剣が出現する。 「ちょっ、お前、まさか・・・!」 「お察しの通り、ゼガゼス魔法女学園の生徒ッスよ」 「ふ、ふざけンな!」 自分を無理やり鼓舞するように叫びながら、サングラスの男はカルデネに殴り掛かっていく。 「おっと」 カルデネはその拳を難なく躱すと、反対にサングラスの男の足を払って転倒させる。 「これはおまけッス♪」 ブバスッ! 左手をさり気なく尻に当て、オナラを握り込んで倒れたサングラスの男の顔に押し付ける。 「むううううっ!?」 予想外のオナラ攻撃に目を白黒させるサングラスの男。 「やっぱり、これを使うまでもなかったッスね」 「調子に乗ってんじゃ・・・っ」 言い終えるより早く、長髪の男がその場に崩れ落ちる。 「魔法で眠らせるとは、ユミル先生も甘いッスね」 カルデネの視線の先では、ユミルが杖を構えている。 彼女が長髪の男を魔法で眠らせたのだ。 「相手にも非があるとはいえ、一般人に剣を向けるのはダメですよ」 ユミルが嗜めるような口調で言う。 「これ、剣じゃなくて、光の杖なんッスけど・・・」 「そういう問題ではありません」 「はい」 返り討ちにした男たちを介抱し、カルデネたちはその場を立ち去る。 路地を出たところで、 「おや」 「ん?」 見知った顔に出くわした。 身長180cmの長身の少女に化身したドラゴン、ボルビだ。 街中だからか、いつもは頭に残っている1対の角も消えている。 「何でボルビさんがこんな所に?街には出ないじゃなかったんッスか?」 「私もそのつもりだったんだけどな」 そう言いながら、ボルビが抱えていた蝋引紙袋を開いてみせる。 中を覗き込んでみると、大小様々な生の魚が入っていた。 「学園だと生魚は食えないだろ?」 「何というか、ボルビさんらしいッスね」 カルデネが呆れとも感心とも付かない口調で言う。 「で、そっちは何してるんだ?」 「買い物ッスよ。魔法具の材料に使う宝石を買ってきたッス」 「宝石の魔法具か。そういえば、前に授業でやってたな」 「ドラゴンさんたちは魔法具なんて作らないんッスか?」 「たまに作る奴もいるけど、そういう奴等は自分の鱗とか爪、牙で作ってるらしい」 「確かに齢を重ねたドラゴンの鱗なら、普通の宝石より強い魔法具を作れますもんね」 ユミルが納得したように言う。 「宝石より強い・・・ボルビさん、此処で会ったのも何かの縁ですし、鱗2、3枚貰えませんかね?」 「どういう縁だよ。別にいいけど、鱗取るのって地味に痛いんだぞ」 「具体的にどのぐらい?」 「そうだな・・・人間でいうと、髪の毛を何本かまとめて抜かれるぐらいか」 「確かに痛そうッスね。今の言葉は忘れて欲しいッス」 「わかった。それはそうと、この辺にオススメの飯屋ないか?小腹空いてきたんだ」 ボルビが腹を撫でながら訊いてくる。 時計を確認すると、15時少し前。 確かに小腹の空いてくる時間だ。 「そのお魚を食べればいいのでは?」 「ゼガゼスの生徒が道の往来で生魚を貪ってるのはマズくないか?」 「確かに・・・」 仮にゼガゼスの生徒でなくても、年頃の女の子が道の往来で生魚を貪っていたら注目の的になるだろう。 「飯屋じゃないですけど、アップルパイが美味しいカフェなら近くにありますよ」 「おっ、いいな。リンゴは好物なんだよ。奢るから案内してくれ」 「了解ッス♪ユミル先生も行くッスか?」 「えっと、私は・・・」 「せっかくだし、先生も一緒に行きましょうよ」 「そ、そうですね。じゃあ、ご一緒します」 ユミルが頷いた事で、3人は連れ立ってカルデネの案内でカフェへと向かった。 * 30分後。 「いや~、見事な食べっぷりだったッスね、ボルビさん」 「そうか?」 「まさか特大パイを5枚も平らげるとは思いませんでした」 「私ら2人でミニサイズのを1枚ッスからね」 「まあ、元のサイズがでかいから・・・んっ」 ふいにボルビが言葉を詰まらせる。 ぐるるるるるる~っ。 「どうしたんッスか?」 「いや、リンゴ食べたせいか、ちょっと腹が張ってきたんだ」 「そりゃ、あれだけ食べれば、お腹も膨らむ・・・ん?」 そこまで言ったところで、違和感を覚えた。 満腹の事を「腹が張る」というだろうか。 「ボルビさん、もしかして・・・」 「ああ、オナラが出そうなんだ」 「ちょっ、こんな所でボルビさんがオナラしたら、もはやテロ行為ッスよ」 周囲に聞こえないようにするためか、カルデネが声を潜めながら言う。 「ど、どうしましょう?ボルビさんクラスだと、路地に入ったぐらいじゃ意味ないし・・・」 周囲を見回しても都合よくガス抜きできそうな場所はない。 「そうだ、転移魔法!」 だが、カルデネの頭に名案が浮かんだ。 「ユミル先生、すぐにボルビさんを連れて転移を!」 すぐさま実行に移すべく、ユミルに視線を向ける。 「ご、ごめんなさい。実は、私もその、出そうで・・・」 ユミルがさり気なく両手でお腹を抑えながら言ってくる。 「・・・」 どうやら事態は自分が思った以上に深刻な方向へと進んでいるらしい。 もし、この2人がこんな所でオナラしたら、どうなるか。 さすがに死者は出ないと思うが、大迷惑になるのは確実だ。 この状況を打開するには、どうすればいいのか。 刻一刻とタイムリミットが迫る中、カルデネは必死に思案を巡らせる。 できれば、2人を転移魔法で別の場所に移動させたいのだが、残念ながら自分の苦手分野だ。 発動に必要な魔法陣を描いている間に、時間切れになってしまうだろう。 プウウ~ッ、プスゥ・・・ッ。 ユミルの尻から次々に漏れる小さなオナラがタイムリミットを否応なく意識させる。 「そうだ、風の結界・・・はダメか」 頭に浮かんだ名案を即座に一蹴する。 風の結界は術者を基点に半球状に広がっていく。 つまり、こんな所で展開すれば、周囲の人たちが風の障壁に衝突してしまう恐れがあるのだ。 「風の結界が張れるのか?」 カルデネの独り言が聞こえたのか、ボルビがそう問い掛けてきた。 「張れますけど、こんな所で展開したら、周りに迷惑ッスよ?」 「大丈夫だ。お前、飛べるよな?」 「は、はい。飛行魔法は得意ッスよ」 「だったら、私に着いてこい!」 次の瞬間、ボルビは驚くべき行動に出た。 なんと背中に1対の翼を出現させたかと思うと、ユミルを胸に抱えて上空に舞い上がったのだ。 「ボルビさん!?」 慌てて飛行魔法を発動し、カルデネもボルビの後を追う。 「もう少し我慢してくれよ」 「は、はい」 ボルビの言葉に、よくわからないまま頷くユミル。 ある程度の高さまで来たところで、 「このぐらいの高さでいいか。カルデネ、結界だ!」 そう言いながら、ボルビがユミルを解放する。 「そういう事ッスね。了解ッス!」 ボルビの意図を理解し、ちょうどボルビとカルデネの間に滑り込んで風の結界を展開する。 猛烈な風が3人の周囲に分厚い壁を形成した直後、 ブボボボボボボオオオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ボルビの尻から轟音のオナラが噴き出した。 1拍置いて、 ブブッブウウウオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ユミルの尻からも特大のオナラが溢れ出す。 「大成功ッス!」 作戦成功に喜びの声を上げるカルデネ。 しかし、彼女は重要な事を失念していた。 風の結界は直径2m強の球体。 そんな狭い空間で、2人の放った臭気が解き放たれたらどうなるか。 「むううううううううううううっ!?」 その答えが彼女の鼻を襲った。 鼻から流れ込み、肺まで腐らせるような激臭(におい)。 視界が黒ずんだ黄色に汚染され、血液さえ染まっていくような錯覚に陥る。 どのぐらい時間が経ったか、周囲に渦巻いていた凶悪な臭気が急速に薄まっていく。 ボルビが手持ちのポーションを使ったのだと理解したところで、 「・・・」 カルデネの身体から力が抜け、そのまま地上に向かって落下していく。 彼女が最後に見たのは、こちらに向かって高速で伸びてくるボルビの尻尾だった。 * 翌日。 「怒られたッスね」 「ああ、メチャクチャ怒られたな」 カルデネとボルビは職員室に呼び出され、しこたま説教を受けた。 いくらオナラの被害を広げないためとはいえ、街中でドラゴンの翼を出したのである。 騒ぎを起こした事に変わりはない。 「カルデネさん、ボルビさん!」 職員室を出たところで、ユミルが待っていた。 「あっ、ユミル先生。そっちは大丈夫だったんッスか?」 「え、ええ、私は大丈夫よ。少し怒られたけど、心配は要らないわ」 「でも、こういうのって評価に響くんじゃ・・・先生、教育実習生ッスよね?」 「私の事は気にしないで。それより、ごめんなさい。私がもっとしっかりしていれば・・・」 ユミルが申し訳なさそうに頭を下げる。 「気にしなくていいッスよ。怒られるのには慣れてるッスから」 「そうだな。長老のジジイに比べれば、あんなの屁でもないからな」 「まあ、原因はその屁なんッスけどね」 「ははは、そうだな」 「ぷっ」 2人のやり取りがウケたのか、ユミルが小さく吹き出す。 「あっ、笑った。やっぱり先生は笑ってる方がいいッスよ」 「ありがとう、カルデネさん」 カルデネ、ボルビ、ユミル。 3人の間に和やかな空気が流れる。 そうした空気は長続きしないのがゼガゼス魔法女学園である。 「ユミル先生!」 ユミルを呼ぶ声と共に、1人の生徒が窓から飛び込んできた。 「えっと、あなたは2年生の先輩さん?」 「クロノ先輩とロザリンド先輩が喧嘩を始めたんです!止めるのを手伝ってください」 「えぇっ!?」 「あの2人の喧嘩は災害の1種ッスから、通り過ぎるのを待ちません?」 「そういう問題じゃありません!すぐに行くわ、案内して!」 「は、はい」 ユミルの言葉に頷き、彼女と共に名も知らぬ2年生が走り去る。 「えっと・・・この後、どうするッスか?」 「取り敢えず、喧嘩の仲裁を手伝おう。行くぞ」 「私もッスか!?」 「乗り掛かった船だろ!」 ボルビはカルデネを小脇に抱えると、ユミルたちの後を追って走り出した。