魔法学校の日常10
Added 2019-05-19 10:57:09 +0000 UTC昼休みのゼガゼス魔法女学園。 食堂の一角で、2人の生徒がテーブルを挟んで向かい合うように座っている。 「謎の地下空間?」 その片割れ、ミランダが怪訝そうに問い掛ける。 「ああ、この学園には謎に包まれた地下空間があるという噂があるんだ」 そう応じたのは、向かいに座るムフェット。 2人ともこの学園の2年生で、クラスメイトである。 「そういう噂、私も聞いた事あるけど、本気で信じてるの?そもそもこの学園、そんなに古くないでしょ?」 名門とされるゼガゼス魔法女学園だが、その歴史は意外と新しい。 ゲラギ博士によって創立されてから、まだ40年ほどしか経っていないのだ。 「確かにそれほど古くはないね。でも、魔法という神秘の力を学ぶ場だ。調べてみる価値はあると思わないかな?」 「私はパス。そういうの、興味ないの」 「そういえば、地下空間にはオバケが出るという噂もあったね」 「!」 席を立とうとしたミランダの動きが止まる。 「何が言いたいの?」 「想像に任せるよ」 「い、いい言っておくけど、私はオバケが怖くてパスするんじゃないわよ?」 「だったら、協力してくれないかな?今夜にでも調査に行くつもりなんだ」 「い、いや、今夜は予定があって・・・」 ミランダが渋っていると、 「何を話してるんだ?」 2人の会話に割り込んでくるものがいた。 3年生のロザリンドだ。 「ああ、ロザリンド先輩。実は――」 彼女の姿を認め、すぐさまこれまでの経緯を説明するムフェット。 「面白そうだな!アタシも参加させてくれよ!」 「勿論、大歓迎ですよ」 目を輝かせるロザリンドに、ムフェットは笑顔で応じる。 「ミランダ、お前も行くんだろ?」 「私はえっと・・・は、はい」 こうして、ミランダの退路は絶たれた。 * 世界に夜の帳が下りた頃。 ムフェットたちは学園の敷地内にある図書館へとやってきた。 ロザリンドの誘いで来たジュリエットを加えた総勢4人のメンバーだ。 館内は照明が落とされており、非常灯の明かりがぼんやりと本棚を照らしている。 「噂では、此処に地下空間への入口があるはずなんだ」 そう言いながら、ムフェットが直径10cmほどの光球を生み出す。 入学して最初に習う簡単な照明魔法だ。 他の3人もムフェットに倣って自分用の光球を生み出し、自らの頭上に浮かべる。 「その入口、どうやって探すんだ?」 この図書館は2階建てで、蔵書は70万冊を超える。 それだけに敷地も広く、4人で探すのは一苦労だ。 「だから、ミランダを誘ったんですよ。ミランダ、頼むよ」 「・・・本当にやるの?」 「心配しなくても、今回の件はすべて私が責任を持つよ」 「いや、そういう事じゃなくて・・・」 「それとも、ミランダでもこの広さはきついかな?」 「っ!」 ムフェットの言葉に、ミランダがわずかに眉を吊り上げる。 「安い挑発ね。でもいいわ、乗ってあげる」 そう言うと、ミランダは両手に白いバトンを召喚する。 それを拍子木のように打ち付けると、彼女の足元を中心に光の波紋が広がっていく。 「見付けたわ。あそこよ」 ミランダが床の1点を指差す。 その部分は波が大きく乱れており、まるで見えない障害物があるかのようになっている。 「よしっ!此処の床をぶち抜けばいいんだな!」 「ストップ!そんな事したら、ヒマリア先生がマジギレするわよ」 「・・・」 ジュリエットの言葉に、ロザリンドが無言で振り上げていたハンマーを下ろす。 「継ぎ目は・・・ないか。そうなると――」 ムフェットが得物であるロングボウの弦を竪琴のように掻き鳴らす。 すると、床の光っていた部分に直径30cmほどの魔法陣が出現する。 「やっぱり、魔法で施錠しているね」 「この術式なら見た事あるわ。ちょっと交代してくれる?」 ジュリエットが得物であるハルバードを魔法陣の中心に立てる。 「―――――」 呪文の詠唱と共に、ハルバードを時計回りに回転させていく。 90度回転したところで魔法陣が消滅し、目の前の床が開いた。 「相変わらず器用だな」 ロザリンドが感心したように言いながら、開いた床の中に入っていく。 「私たちも行きましょう」 「はい」 ジュリエットとムフェットもロザリンドの後に続く。 「此処で帰ったら・・・それはそれで面倒な事になりそうね」 少なくともロザリンドは黙ってないだろう。 深々と溜め息を吐いて、ミランダも3人の後を追った。 * 床下にあったのは、幅は2m弱、高さは3mほどの薄暗い通路だった。 「どっちに行く?」 「こっち」 「こっちの方ですね」 「・・・」 ロザリンドの問い掛けに、他の3人は同じ方向を指差した。 「何でそっちなんだ?」 「方角の問題よ。こっちの方が学園の中心になるでしょ?」 「ああ、そういう事か」 意見がまとまったところで、4人は1列になって移動を開始する。 先頭からロザリンド、ジュリエット、ムフェット、ミランダの順だ。 「く、暗いわね」 暫く歩いたところで、最後尾のミランダが言う。 「照明が光球(これ)だけだからね」 ムフェットが頭上に浮かべている4つの光球を指差しながら応じる。 そこから3分ほど歩いたところで、 「静かにっ!」 先頭を歩くロザリンドが足を止め、素早くハンマーを構えた。 「「「っ!?」」」 それを見て後ろの3人もそれぞれの得物を構える。 直後、 ブバスッ! 通路内に破裂音が響き渡った。 間を置かず、強烈な腐卵臭が周囲に立ち込める。 「あはははは、びっくりしたか?」 「ロザリンド・・・!」 大笑いするロザリンドへの返答は、喉元に突き付けられたハルバードだった。 その後ろでは、後輩まで矢を番えてこちらを狙っている。 「軽い冗談なんだから、そんなに怒らなくてもいいだろ!」 「時と場合を弁えない冗談は笑えな・・・っ!?」 ふいにジュリエットが言葉を途切れさせ、素早くハルバードを構え直す。 前方に何者かの気配を感じたのだ。 ムフェットとミランダも戦闘態勢に入り、怒られていたロザリンドもハンマーを構える。 しかし、周囲に敵の姿はない。 「気のせい、か?」 「全員が気配を感じたんですよ。気のせいな訳が・・・むぐっ!?」 ミランダがわずかに気を緩めた瞬間、何者かが背後から鼻と口を塞いだ。 同時に、強烈な腐卵臭が流れ込んでくる。 「ミランダ!?」 「ごほっ、ごほっ、えほっ・・・!き、気を付けて、見えないけど、何かいるわ!」 「そうらしい・・・っ!?」 弓に矢を番えようとするムフェットだが、見えない何者かによって叩き落とされてしまう。 「ムフェット!むぐっ!?」 今度はジュリットの鼻と口が塞がれ、強烈な腐卵臭に襲われる。 「調子に乗んな!」 「ちょっ、こんな狭い所で暴れないで!」 ロザリンドが横薙ぎに振るったハンマーを、ハルバードの柄で受け止めながら抗議するジュリエット。 「だったら、どうしろっていうんだよ!」 「こうするんですよ」 ムフェットが手にした矢の鏃をロザリンドの身体に押し付ける。 直後、ロザリンドの身体が半分ほどの大きさまで縮んでしまう。 それを確認して、ムフェットは目を閉じる。 フスゥゥゥゥ・・・ッ。 程なくして、彼女の鋭敏な聴覚がかすかな物音を知覚した。 「そこです、先輩!」 「任せろ!」 ムフェットの言葉を受け、ロザリンドが跳躍する。 本来、彼女の得物であるハンマーは狭い通路内で振るうには向かない。 だが、今の彼女は通常の半分のサイズになっている。 ハンマーを振るうだけの広さは十分に確保できる。 そして、魔力で強化された彼女の腕力はそのサイズでも十分すぎる威力がある。 『っ!?』 勢いよく振り下ろされたハンマーの前に、魔法障壁が出現する。 透明になった何者かが発動したものだ。 それでも威力を殺しきれなかったのか、何かが壁にぶつかる音が響く。 「大人しくしなさいっ!」 その音を頼りに、ミランダが両手のバトンを突き立てる。 『あがっ!?』 次の瞬間、苦悶の声と共に景色が歪み、そこに1人の少女が出現する。 その容姿に、4人は見覚えがあった。 「「「「カルデネ!?」」」」 1年生のカルデネだ。 「痛たたた・・・。ちょっと握りっ屁を嗅がせただけなのに、皆さん容赦な・・・っ!?」 「言いたい事はそれだけかしら?」 ミランダがカルデネの喉元にバトンを突き付けながら言う。 よく見ると、その先端から10cmほどの小さな魔力の刃が伸びている。 「あの、目がマジすぎて怖いんですけど・・・」 「落ち着きなよ、ミランダ。それでカルデネ、どうして君が此処にいるんだい?」 ミランダを宥めつつ、ムフェットが問い掛ける。 「それは半分こっちの台詞なんッスけど・・・」 カルデネの話を要約すると、次のようになる。 彼女は昼休みにムフェットたちの話を小耳に挟んだ。 部分的にしか聞こえなかったが、とにかく「夜中に図書館に来る」という事はわかった。 それで好奇心を刺激され、魔法で透明になって着いてきたらしい。 「事情はわかった。でも、どうして堂々と着いてこなかったんだい?」 「大した理由じゃないんッスけどね。単にこっそりと着いてきた方が悪戯しやす・・・っ!?」 カルデネの言葉は顔のすぐ横に刺さったバトンで中断させられた。 「ちょっと痺れるぐらい後悔させた方がよさそうね」 ミランダが空いている方のバトンに電撃を纏わせながら言う。 「・・・電圧が足りなければ手伝うよ」 ロザリンドもハンマーに電撃を帯びさせる。 1分後、カルデネの悲鳴が通路内に木霊した。 * 痺れるぐらい後悔したカルデネを加え、5人で通路内を進む。 「なるほど。そういう事だったんッスね」 事情を聞いたカルデネが納得したように頷く。 「相変わらず、ムフェット先輩は好奇心旺盛ッスね」 「君ほどじゃないよ」 「あれ?2人って、そんなに仲良かったっけ?」 「オリエンテーションの時、お世話になったんッスよ」 「へぇ」 そんな事を話しているうちに、開けた所に出た。 形は円形で、広さは体育館ほどだ。 「何か博物館みたいッスね」 カルデネの呟きが広場の様子を端的に表していた。 広場内には沢山の台座が等間隔に並んでおり、大小様々な鎧やゴーレム、壷などが置かれている。 「これって、魔法関連のものばかりだよな?」 「魔法具の展示・・・じゃないわよね?」 「調べてみましょう」 ミランダが手近な台座の前にしゃがみ込む。 台座にはプレートが貼られており、最近の年号と人の名前らしきものが刻まれていた。 「これって、製造年作者の名前よね?あれ?この名前・・・」 台座に刻まれた名前に、ミランダは見覚えがあった。 去年、学園を卒業した先輩だ。 「このゴーレムを作ったのが先輩という事は・・・」 「ええ、間違いなさそうよ」 視線を向けると、ジュリエットが意図を察したように頷いてくれた。 「この剣にも見覚えがあるわ。私の2つ上の先輩が作ったものよ」 「つまり、此処は卒業生の作品を保管するための場所という事ですね」 「そうらしいな」 ムフェットの言葉に、ロザリンドが頷く。 彼女の傍らにある鎧も彼女の1つ上の先輩が作ったものだった。 「謎の地下空間には、学園の歴史が保管されてたんッスね」 そう言うと、カルデネは呪文の詠唱し、直径30cmほどの大きさの光球を生み出す。 この場所の広さが広さなので、照明を追加しようと思ったのだ。 光球を天井に浮かべようとしたところで異変が起きた。 光球がカルデネの手から離れた瞬間、何の前触れもなく消滅したのだ。 「あれ?呪文を間違えたッスかね?」 「しっかりしてよ。初歩の初歩でしょ」 戸惑うカルデネに、ミランダが呆れたように言う。 照明魔法は、素人でも呪文を覚えて少し練習すれば習得できるほど簡単なものだ。 ゼガゼスの生徒として、これを失敗するのはマズイだろう。 「面目ないッス。では、気を取り直して」 カルデネが再び呪文を詠唱し、大きな光球を生み出す。 しかし、これもカルデネの手を離れたところで跡形もなく消えてしまった。 「何か調子悪いみたいなんで、お願いしていいッスか?」 「仕方ないわね」 小さく溜め息を吐くと、ミランダは両手に持ったバトンを拍子木のように打ち付けた。 同時に、彼女の前に光球が出現する。 カルデネが出したものより大きく、直径は50cm以上あるだろう。 「ほら、簡単に・・・あれ?」 ミランダが生み出した光球も、カルデネが出したものと同じように消滅してしまう。 「どうやら此処では魔法の使用が制限されるみたいね」 ジュリエットも大きな光球を生み出してみるが、やはりすぐに消滅してしまった。 「こんな事なら、懐中電灯でも持って・・・っ!?」 ロザリンドが言い終えるより早く、辺りが闇に包まれる。 今度は此処に来るまで生み出していた小さな光球まで消えてしまったようだ。 「完全に真っ暗になっちまったな。誰か明かり持ってないか?」 「すぐに点けます」 ロザリンドの言葉に応じたのは、ムフェットだった。 間を置かず、彼女の周囲が淡い光で照らされる。 「なるほど。その手があったッスね」 カルデネが感心したように言う。 ムフェットは背中の矢筒から矢を1本抜き取り、その鏃に魔力の光を灯したのだ。 要するに、矢を即席の松明にしたのである。 これなら矢を持っている間は魔力を補充し続けられるので、明かりが消える事はない。 「じゃあ、私も」 ムフェットに倣い、ミランダも片方のバトンの先端に魔力の明かりを灯す。 次の瞬間、 「っ!?」 ミランダの視界は闇に覆われた。 * ミランダの視界を覆ったものの正体。 それは頭部をすっぽりと覆うフルフェイスの兜だった。 どうやらドラゴンを模しているらしく、フェイスガードの部分には牙の意匠がある。 すぐさま兜を脱ごうとするミランダだが、 『倒せ・・・倒せ・・・倒せ・・・』 ふいに頭の中にそんな声が響いてきた。 「!」 その声に呼応するように、意識がどす黒い怒りと憎悪に塗り潰されていく。 「どうしたんッスか、ミランダ先輩?」 異変を感じ取ったカルデネが心配そうに問い掛けてくる。 『!』 それが開戦の合図となった。 ミランダは両手のバトンを素早く構え直し、地を蹴って跳躍する。 次の瞬間、彼女の姿はムフェットのすぐ前にあった。 「っ!?」 一切の手加減なく振るわれた2本のバトンを、ムフェットは手にしたロングボウでかろうじて受け止める。 「ちょっ、何やってるのよ、ミランダ!」 戸惑うジュリエットに対し、 「冗談にしては笑えねぇぞ!」 ロザリンドの対応は迅速だった。 姿がはっきり見えなくても問題はない。 気配を感じ取ればいいのだ。 得物であるハンマー構えながら跳躍し、ミランダめがけて容赦なく振り下ろす。 『!』 ムフェットと対峙しているミランダが背後から迫るロザリンドに対応する事はできない・・・はずだった。 「なっ!?」 ロザリンドの表情が驚愕に歪む。 ミランダは受け止められたバトンを支点に跳躍し、空中で逆立ちのような状態になる。 そして、 ブボボオオオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 尻がロザリンドの方を向いたタイミングで特大のオナラを放った。 「むぐっ!?」 鼻腔を襲う強烈な臭気に、空中でバランスを崩すロザリンド。 その隙を逃さず、ミランダは身体を大きく横に振って彼女を蹴り飛ばす。 「ロザリンド!」 「チッ、ちょっと油断したな」 舌打ちしながら、ロザリンドは難なく着地してみせる。 どうやら大したダメージは受けていないようだ。 「一応、確認しておくッスけど、あの兜のせいッスよね?」 「私たちが急激に嫌われたのでなければねっ!」 言い終えると同時に、ムフェットは弓に番えた3本の矢を放つ。 気配を頼りにしたロザリンドに対し、ムフェットが取った対策はもっとシンプルだった。 身体能力を強化する魔法で、暗視能力を高めたのだ。 彼女が放った3本の矢はミランダを取り囲むように足元へと突き刺さる。 「少し大人しくしてもらうよ」 ムフェットが弓の弦を掻き鳴らすと、3本の矢から伸びた都合6本の光の鎖がミランダを拘束する。 「さすがムフェット先輩、『コンドルアイ』の異名は伊達じゃないッスね!」 「そのあだ名、初耳なんだけど・・・」 「今考えたッス」 「そこの後輩2人、安心するのはまだ早いみたいだぞ」 「「えっ?」」 2人がミランダへと視線を向けるのと、彼女が鎖の拘束を断ち切るのは殆ど同時だった。 「あの兜、被った人を強化する働きもあるみたいね」 ジュリエットのハルバードが淡い輝きを放ち、 「要するに、手加減は要らないって事だな!」 ロザリンドがハンマーを掲げて雷を纏わせる。 「行くわよ、ロザリンド!」 「応っ!」 短いやり取りの後、2人が同時に跳躍する。 細かな打ち合わせなど必要ない。 ジュリエットは左から、ロザリンドは右から、ミランダを挟み込むように仕掛ける。 『・・・』 回避は無理と判断したのか、両手のバトンで防御の態勢を取るミランダ。 仮に防御されても、パワーで押し切れる。 そう考えた2人だが、 「「っ!?」」 ふいにミランダの姿が消える。 少なくとも2人にはそう見えた。 実際には、ミランダが魔法で自分を半分ほどのサイズまで縮めたのだ。 「きゃあっ!?」 「うわっ!?」 標的を失った2人の武器が激突し、その衝撃で2人が吹き飛ばされる。 「くっ!」 ムフェットが再び3本の矢を放つ。 ミランダがそれらを両手のバトンで叩き落したところで、 「私もいるッスよ!」 間髪を入れずに、カルデネが突っ込んでいく。 その手には、得物である光の杖(ケイン)が握られていた。 「早く目を覚ますッスよ、ミランダ!」 ひときわ強い魔力を込め、カルデネが渾身の力でケインを突き出す。 避けられぬ間合い。 勝利を確信するカルデネだが、 「なっ!?」 彼女のケインがミランダの兜を貫く事はなかった。 それどころか、兜には傷1つ付いていない。 「そんな・・・」 驚愕するカルデネに、ミランダのバトンが迫る。 もはや回避や防御は間に合わない。 死すら覚悟したカルデネだったが、彼女の元に現れたのは、死神ではなく救世主だった。 ふいに現れた何者かが彼女を突き飛ばし、ミランダの攻撃を軽々と受け止めたのだ。 「アナタの相手は、ボ・・・もとい、私」 闖入者の正体は、1人の女性だった。 身長はミランダより少し高いぐらい。 左目はエアリーボブの銀髪で隠れているが、それでも整った顔立ちである事がわかる。 首から下は女性的で豊満なラインを描いており、右手には蛇腹状になった長さ80cmほどの黒いバトンが握られていた。 しかし、カルデネたちを驚かせたのは、彼女が纏っている衣装だった。 真紅のマント、胸に輝く青い宝石があしらわれたブローチ。 前者は学園卒業生の、後者は皇帝直属の近衛騎士の証なのだ。 『・・・』 自らの攻撃を防いだ女性を脅威と見なしたのか、ミランダがバトンを構え直す。 そして、戦いは始まった。 ミランダが地を蹴り、瞬時に女性との間合いを詰める。 「・・・」 神速で繰り出される2本の白いバトンを、女性は手にした黒いバトンで難なく捌いていく。 『・・・』 形勢不利と見たのか、ミランダが後方へ跳ぶ。 それを見て、 「ロングウィップ」 女性はバトンを瞬時に鞭へと変形させる。 鞭は意思を持つ蛇のように迫り、ミランダの被った兜に巻き付いていく。 「えいっ」 あまり力を込めたようには見えない声。 しかし、巻き付かれた兜は軋み、次の瞬間には粉々に砕け散ってしまう。 女性が現れてから、時間にして3分足らず。 戦いは驚くほど呆気なく決着した。 * 女性が兜を破壊したところで、 「ああ、もう終わったのか」 教師であるヒマリアが追いついてきた。 「先生、遅いです」 「それだけお前を信頼してるんだよ、元特待生」 「あの、先生、その方は・・・?」 カルデネがおそるおそる問い掛ける。 「ああ、こいつはカロン。お前らの4つ上・・・あっ、1年と3年もいるか。とにかく3年前の卒業生で、当時は特待生だったんだぞ」 「初めまして」 カロンがゆっくりと一礼したのを見て、カルデネたちも簡単な自己紹介を済ませる。 「それで、あの兜はいったい何だったんですか?」 「慌てるな。順を追って説明してやる」 ミランダの問い掛けを受け、ヒマリアが解説を始める。 彼女の話によれば、地下通路の正体は緊急時の避難通路、そして此処は卒業生たちの作品の保管庫らしい。 あの兜も、乱入してきたカロンの作品だった。 あまりにも危険な代物なので封印されていたのだが、数日前の地震でそれが解けてしまった。 それだけなら、兜が起動する事はなかった。 しかし、カルデネたちが来た事で事態は急変する。 彼女たちが照明魔法を使った事で、兜はその魔力を吸収して起動してしまったのだ。 「あの時、魔法が不発だったのは、そんな理由(わけ)があったんですね」 「そういう事だ。さて、解説が終わったところで、本題に入るぞ」 「本題?」 「此処は教師の許可なしで生徒の立ち入る事が禁止されてるんだよ」 「そ、そうなんッスか?」 「本来なら、罰として課外奉仕活動とレポートをやらせるところだが、今回の処分はカロンに任せよう。じゃあな」 そう言い残し、ヒマリアが去っていく。 その背中が見えなくなったところで、 「じゃあ、罰を与える」 カロンが大きな金魚鉢を取り出した。 「ロザリンド、ジュリエット、ムフェット、ミランダ、カルデネ」 「「「「「はい」」」」」 返事をした瞬間、5人はあっという間に金魚鉢の中へと吸い込まれてしまう。 『ちょっ、何がどうなってんッスか!?』 『どうやら返事をした相手を吸い込む罠のようだね』 『私は無理やり連れてこられたんですよ!?』 『諦めろ』 『そうね。ここまで来たら、もう一蓮托生よ』 身長3cmほどになった5人が話しているうちに、カロンは着々と準備を進めていく。 とはいえ、金魚鉢を床に置き、その口を自らの尻で塞ぐように座り込んだだけだ。 「アーユー・レディ?」 『ダ、ダメです!』 ミランダの悲痛な叫びが聞き入れられる訳もなく、 ブブブブブウウウウウウウウウウウ~~~~ッッッッ!!!! 金魚鉢の中に臭気の暴風が吹き荒れた。 かなり大雑把な目安だが、学園関係者のオナラは行使できる魔法のレベルに比例する。 学園の元特待生にして、皇帝直属の近衛騎士であるカロン。 そんな彼女のオナラがどれほどのものか、想像に難くないだろう。 『むぐうううううううっ!?』 筆舌尽くし難い猛烈な悪臭(におい)と風圧。 小人状態に抗う術はなく、ただただ翻弄される事しかできない。 その光景はまるで嵐の中を舞う木の葉のようであった。 「追加する・・・んっ!」 だが、カロンの罰はまだ終わらない。 ブオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~~ッッッッ!!!! 追い討ちを掛けるように放たれる2発目のオナラ。 結局、5人が開放されたのは―― ブブブブブブブブブブブブブブブブブ~~~~ッッッッ!!!! カロンが5発目のオナラを放った後だった。