SamSuka
JUDO(あるいはスサノオ)
JUDO(あるいはスサノオ)

fanbox


魔法学校の日常11

 ゼガゼス魔法女学園は優秀な魔法使い、特に実戦に特化した魔法使いの育成を目的としている。 その3ヶ年の課程を終え、卒業した者たちは様々な進路に進む。 ある者は警察官に、またある者は救助隊に、といった具合だ。 その中で、特にエリートコースと言われるのが皇帝直属の近衛騎士だ。 彼女――カロンもそんな近衛騎士の1人である。 カロンは今、1人の女性と対峙している。 年齢はカロンと同じぐらい。 光の加減で濃い緑色に見えるショートの髪。 快活そうな顔立ちで、身体のラインも引き締まっていながら、出るべき部分はしっかりと出ている。 彼女の名前は、ディスノミア。 カロンと同じ近衛騎士であり、長年の友人でもある人物だ。 「両者、武器の用意を」 間に立つ初老の騎士の合図で、2人はそれぞれの装備を召喚する。 カノンの装備は、1本の黒いバトン。 長さは80cmほどで、全体が蛇腹状になっている。 ディスノミアには、両刃の片手剣と小型の盾。 右手に持つ剣は細身で、左手首に装着された盾には赤い宝玉が埋め込まれている。 「用意はいいか?では・・・はじめっ!」 「「っ!」」 初老の男性の合図で、2人は同時に動き出す。 先に仕掛けたのは、カロン。 「ロングポール!」 手にしたバトンを長く伸ばし、目にも留まらぬ速度で振るう。 「くっ!」 ディスノミアはその一撃を盾で受け止めると、お返しとばかりに右手の剣を振るう。 これに対し、 「ニードルバトン!」 カロンはバトンを即座に引き戻し、先端を槍のように尖らせながら強烈な突きを放つ。 幾度となく刃を交えた2人。 まるで打ち合わせでもしていたかのように一進一退の攻防が続く。 それに終止符を打ったのは、澄んだ鐘の音だった。 「引き分けだな」 「うん」 頷き合い、2人は互いの急所に突き付けていた武器を納めた。 そのまま昼休憩に移行したので、2人は連れ立って食堂へと向かう。 「明日の約束、忘れてないよな?」 「うん。そのために、休みを合わせたんだしね。それはそうと、ディスノミア」 「ん?何だ?」 「それ、醤油じゃなくてソース」 「あっ」 ソースがたっぷり掛かった海鮮丼と共に、昼休憩の時間は過ぎていった。 *  翌日。 約束通り、カロンはディスノミアと共に、城下の街へとやってきた。 「さて、まずは腹拵えだな。カロン、この辺りにオススメの店あるか?」 「此処なんかいいんじゃないかな?」 ディスノミアの問い掛けに、カロンが手にしたガイドブックを広げてみせる。 この辺りは小規模ながら温泉地であり、観光客向けのガイドブックも充実しているのだ。 「おっ、いいな。じゃあ、早くいこうぜ」 「待って。ボ・・・わ、私はご飯より、先に温泉に入りたい」 「此処には城の連中もいないんだし、素直に『ボク』でいいんじゃないのか?」 ディスノミアが呆れたように言う。 「そうだね」 ディスノミアとは1歳の時からの付き合いだ。 今さら彼女の前で1人称を変える必要もないだろう。 「さて、話を戻そう。アタシは腹拵え、カロンは温泉。見事に意見が割れたけど、どっちにするんだ?」 「じゃあ、間を取ろう」 「間?」 腹拵えと温泉。 その間とは何か。 カロンの出した答えは「足湯で温泉饅頭を食べる」だった。 「これが間かは微妙だけど、美味いな、この饅頭」 「うん」 頷きながら、カロンは抱えている紙袋から一口サイズの饅頭を取り出し、次々に口の中へ放り込んでいく。 「毎度の事ながらよく食べるな、お前」 「美味しいものはいくらでも入るよ」 「先に温泉入りたいとか言ってたくせに・・・」 呆れを含んだディスノミアの言葉を受け流し、最後の饅頭を口に放り込むカロン。 そのタイミングを見計らったように、彼女たちを激しい地響きが襲った。 「な、何だ!?」 「地震!?」 周囲の人たちが慌て出す。 「「・・・」」 しかし、2人は冷静に地震の原因を見据えていた。 『ゴオオオオ~~ッ!』 それは見上げるほど巨大な1頭のゴリラのようなモンスターだった。 全身は黒い毛に覆われており、口には鋭い牙も生えている。 「ロッキーエイプだな」 「うん」 2人はそのモンスターに見覚えがあった。 ロッキーエイプ。 近くの岩山に住む大型の猿のモンスターだ。 何故か顔を真っ赤にして、踊っているようにも見える動きで周囲のものを破壊している。 「ロッキーエイプって、大人しいんじゃなかったか?」 「本人に理由(わけ)を訊いてみよう」 そう言うと、カロンはロッキーエイプの元へ駆けていく。 ロッキーエイプは知能が高い。 個体によっては人間の言葉を喋る事ができるほどだ。 「何をそんなに怒ってるの?」 『ウルサイ!』 カロンの問い掛けを一蹴し、ロッキーエイプが拳を振り下ろす。 カロンはそれを難なく躱すと、大きく後ろへ跳んでロッキーエイプと距離を取った。 この時、彼女はある事に気付いていた。 「あいつ、かなり酒臭い」 「酒臭いって、酔っ払ってるのか、あいつ!?」 後でわかった事だが、酒を積んだ車が岩山で事故に遭い、そこから大量の酒が零れ出していた。 このロッキーエイプはそれを誤って飲んでしまったのだ。 「じゃあ、少し酔いを醒ましてやるか。アレで、な」 「うん」 方針を確認したところで、2人は同時に動き出す。 細かい打ち合わせなど必要ない。 カロンが左から回り込むなら、ディスノミアは真正面から突っ込む。 「ロングウィップ!」 カロンの持つバトンが長い鞭へと姿を変え、ロッキーエイプの足に巻き付く。 『ッ!?』 ロッキーエイプがバランスを崩したところで、ディスノミアが跳躍。 そのままロッキーエイプの顔の高さまで跳躍すると、その顎を豪快に蹴り上げる。 『グギャッ!?』 苦悶の声を上げ、ロッキーエイプが仰向けに倒れ込む。 「これでも喰らって酔い醒ませ!」 それを追いかけるようにディスノミアはヒップドロップの態勢で落下していく。 ずしんっ! 「ふんっ!」 着地と同時に、お腹に力を入れる。 直後、 フシュウウウウ・・・ッ! 彼女の尻から噴き出した生暖かい臭気――すかしっ屁がロッキーエイプの顔を呑み込んだ。 『ッッッ!?』 その強烈な腐卵臭に、ロッキーエイプが目を回す。 「これで少しは懲りただろ」 ディスノミアが芝居がかった動作で額を拭いながら言う。 同時に、懐から消臭用のポーションを取り出し、さり気なく周囲に振り撒いておく。 どうやら証拠隠滅は上手く行ったらしく、1拍遅れて街の人たちから惜しみない拍手が送られた。 *  ロッキーエイプの輸送を専門機関に任せ、2人は温泉に入る事にした。 ガイドブックを確認し、日帰り入浴にも対応している温泉宿へと向かう。 「それにしても、休みの日まで仕事するハメになるとはな~」 ディノスミアが湯船の中に四肢を投げ出しながら言う。 この温泉の水は透明度が高いため、白い裸体が丸見えになっていた。 「はしたないよ、ディスノミア」 「別にいいだろ。アタシたちしかいないんだから」 「・・・それもそうだね」 ディスノミアの言葉に頷き、カロンが頭にタオルを載せる。 2人がいる温泉は結構な広さだが、今入っているのは彼女たち2人だけである。 「ディスノミアも飲む?」 問い掛けながら、カロンがお猪口と徳利を差し出す。 「酒は遠慮しとく」 「これ、中身はジュースだよ」 「何で徳利に入れてるんだよ・・・」 「この方が雰囲気が出るでしょ?」 そう言いながら、カロンはお猪口にジュースを注ぎ、くいっと飲み干してみせる。 「相変わらず、変なところに拘る・・・んっ」 ゴボォッ!! ふいにディスノミアが言葉を詰まらせたかと思うと、その尻から直径7cmほどの大きな泡が生まれた。 それは水面で爆ぜ、強烈な腐卵臭と共に消滅する。 「ディスノミア・・・」 「わ、悪い」 わざとらしく鼻を摘むカロンに、ディスノミアが小さく頭を下げる。 「でも、温泉で温まったら、お前も出ちゃうだろ?」 「ボクは・・・っ」 今度はカロンが言葉を詰まらせた。 「ん?どうした?」 「な、何でもな・・・ひゃあっ!?」 カロンが珍しく甲高い声を上げた瞬間、 ゴボボォッ!! 彼女の尻からも大きな泡が生じ、腐卵臭を撒き散らしながら水面で爆ぜる。 「ほら、やっぱりお前も出ちゃうだろ?」 ディスノミアがニヤニヤしながら問い掛ける。 「ディスノミア・・・」 彼女につつかれた脇腹を擦りながら、カロンが非難の視線を向ける。 だが、その程度で怯むような相手でないのは、長年の付き合いで理解している。 「・・・」 なので、こちらも攻勢に出る事にした。 (ステルスウィップ・・・) 心の中で念じ、手の中に鞭状にした透明なバトンを召喚する。 不可視の鞭はカロンの意思に呼応し、蛇のようにゆっくりとディスノミアの身体に近付いていく。 (もう少し・・・っ!?) 「甘いぞ、カロン」 ディスノミアが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 その手には透明になったバトンの先端が握られていた。 「長い付き合いだからな。お前のやろうとする事ぐらい・・・っ!?」 言い終えるより早く、ディスノミアの脇腹を衝撃が襲った。 ゴボオォッ!! 衝撃は指で軽く突かれた程度だったが、驚いた拍子にまたオナラが出てしまう。 「長い付き合いだからね。あなたのやろうとする事ぐらいお見通しだよ」 今度はカロンが勝ち誇る番だった。 彼女は透明なバトンを囮にし、空いた方の手で小さな魔力弾を放ったのだ。 「カロン」 「何?」 ディスノミアがゆっくり立ち上がったのを見て、カロンも彼女に倣って立ち上がる。 「昨日のアタシたちの模擬戦、引き分けだったよな?」 「そうだね」 「今度はきっちり決着つけてやる!」 ディスノミアが水面に触れると、 パーンッ。 カロンの尻から乾いた音が周囲に響いた。 ブブウウウウウウ~~~ッッッ!!! 間を置かず、彼女の尻から強烈な腐卵臭のオナラが放たれる。 「むぐっ!?」 自分のオナラの悪臭(におい)に悶絶しながらも、カロンは瞬時に状況を理解する。 水を使った魔法はディスノミアの得意分野だ。 おそらく水を操って鞭のような形にして自分の尻を叩いたのだろう。 「油断大敵だぞ、カロン」 「・・・」 突然だが、この2人には大きな共通点が1つある。 それは―― 「今度はこっちから!」 2人ともかなりの負けず嫌いという事だ。 「オプティカルウィップ!」 カロンの言葉に呼応し、バトンの先端が何本もの細い鞭へと分裂して伸びていく。 (オプティカルウィップ?) それを見て、ディスノミアは首を傾げる。 オプティカルウィップ。 カロンがバトンを用いて使う技の1つだが、攻撃するためのものではない。 負傷した人間の治療や簡単な外科手術を行うものである。 明らかにこの場で使う技ではない。 彼女が考え込んだのは、コンマ数秒。 それは戦闘において決定的な隙となる。 気付いた時には、バトンから伸びた何本もの細い鞭が彼女の身体に迫っていた。 「!」 すぐさま回避行動を取ろうとするが、間に合わない。 動き始めるより早く、カロンの鞭の先端が腹部に触れる。 「?」 だが、覚悟していた痛みなどのダメージが襲ってくる気配はない。 「何のつもり・・・っ!?」 数秒後、カロンの目論見に気付き、ディスノミアは慌てて後方へ跳ぶ。 「もう遅いよ」 「くっ・・・!」 カロンが口角を吊り上げる一方、ディスノミアが奥歯を噛み締める。 ぐるるるるる~っ。 原因は、彼女の腹部を襲う痛みだ。 前述の通り、オプティカルウィップは治療のために使われる技である。 カロンはそれを利用し、ディスノミアの消化器官を刺激して活性化させたのだ。 「こういう勝負では、ボクの方が有利」 「・・・」 勝利を確信するカロンを見ながら、ディスノミアは思考を加速させる。 とはいえ、 ぎゅるるるるる~っ! ガスは腸内でどんどん生み出されている。 もはや一刻の猶予もない。 「!」 しばし考えた末、ディスノミアが出した結論は2度の跳躍だった。 1度目で湯船の底を蹴って空中へ、2度目に魔力で硬化させた水面を蹴って前方へ跳ぶ。 そのまま身体を反転させつつ、一気にカロンとの距離を詰めていく。 「えっ!?」 予想外の行動に驚くカロン。 次の瞬間、 むにゅっ。 彼女の顔をディスノミアのヒップドロップが襲った。 「ふんっ!」 ブオオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 続けて、ディスノミアの尻から噴き出したオナラがカロンの顔を包み込む。 今までとは比較にならない、ロッキーエイプに放ったものすら上回る濃密な臭気。 脳をシェイクされたような衝撃に、思考が「臭い」という言葉で埋め尽くされていく。 「むううううううううううっ!?」 カロンの苦悶の声が響き渡り、そのまま彼女の身体は仰向けに湯船へと沈んでいった。 *  カロンが意識を取り戻したところで、2人は湯船を後にした。 無論、周囲に充満していた悪臭(におい)を処理した上で、だ。 続いて2人がやってきたのは、温泉に併設された遊戯場だった。 「卓球するの?」 「温泉に入ったら、浴衣に着替えて卓球だろ」 そんな風に話す2人の手には、それぞれ温泉卵がある。 此処に来る途中、キラーエイプ退治のお礼として貰ったのだ。 「ルールは知ってるよな?」 「大丈夫」 ディスノミアの言葉に頷き、カロンがラケットを構えた。 その構えを見る限り、ルールを知っているというのは本当らしい。 「じゃあ、アタシの先攻で行くぞ」 「うん」 「よっ」 カロンが頷いたのを見て、ディスノミアがラケットを振るう。 ボールは緩やかな軌道を描いてコートをバウンドし―― 「っ!?」 数秒後にはディスノミアの後ろにある壁に突き刺さっていた。 「お前、絶対ルールわかってないだろ」 「何か間違えた?」 「直でアタシの方に打ち返すなら、この台の意味ないだろ!」 「あっ」 「・・・」 友人の天然っぷりに呆れつつ、卓球のルールを詳しく説明する。 「わかったか?」 「うん」 「じゃあ、改めて始めるぞ」 ディスノミアが先程と同じようにラケットを振るう。 「えいっ」 今度はちゃんとコートをバウンドさせて打ち返してきた。 どうやらちゃんとルールを理解してくれたらしい。 その後は小気味よい音と共に、平和なラリーが続いていく。 だが、それも長くは続かなかった。 理由は簡単。 2人がいずれ劣らぬ負けず嫌いだった事だ。 両者の間を行き交うボールは徐々にそのスピードを増していき、 「ハッ!」 「えいっ!」 やがて目で追うのが困難な速度になっていく。 「くっ!」 何十回目かのボールを打ち返した瞬間、ディスノミアの持つラケットに亀裂が走った。 ボールの軌道や速度に変化を付ける搦め手を使うカロンに対し、彼女は球速とパワーによる力押しで挑んでいる。 先にラケットが限界を迎えるのも、当然といえた。 「―――」 止むを得ず、短い呪文を詠唱する。 すると、ラケットが淡い魔力の光に包まれた。 ラケットの亀裂を魔力で塞ぎ、壊れるのを防いだのだ。 コンマ数秒後、飛来したボールを強化したラケットで打ち返そうとする。 その時だった。 ブボォッ!! 「っ!?」 ふいに聞こえてきた音に驚き、振るったラケットが空を切る。 「私の勝ち」 カロンが周囲に腐卵臭を漂わせながら言う。 さっきの音の正体は、彼女のオナラだったのだ。 「今のは反則だろ!無効だ!」 「オナラする事は反則じゃない。ディスノミアが油断してただけ」 「・・・」 悔しげに黙り込むディスノミアだったが、すぐにゲームを再開する。 再び始まる激しいラリー。 それが数分続いたところで、 ブバスッ!! 今度はディスノミアが放屁する。 しかし、 「っ!?」 カロンは驚いた風もなく、冷静にボールを打ち返してきた。 「同じ手は食わない」 「チッ!」 舌打ちしながら、 ブオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ディスノミアが特大のオナラを放つ。 自分たち以外に誰もいないからこそ出せる大音量の1発だ。 「だから、同じ手は食わない」 呆れを含んだ口調で言いながら、カロンがラケットを振るう。 「むぐっ!?」 ラケットがボ-ルに触れた瞬間、強烈な腐卵臭が彼女の鼻を襲った。 「どうした、カロン?」 わざとらしく問い掛けながら、ディスノミアがボールを打ち返してくる。 「ごほっ、ごほっ・・・!」 腐卵臭に咳き込むカロンは対応できず、同点に追いつかれてしまう。 「オナラをするのは反則じゃなかったよな?」 「・・・」 ニヤニヤしているディスノミアを見て、カロンは瞬時に何が起こったのかを理解する。 ディスノミアは風の魔法を使い、自分のオナラでボールを包んだのだ。 ボールがそんなオナラ爆弾と化していた事に気付かず、自分はボールを思いっ切り打ち返してしまったのである。 「今度は、私から」 カロンがボールを打ち、ゲームが再開される。 ブウオオオオオオオオオ~~~ッッッ!!! 何度かラリーを続けたところで、カロンは特大のオナラを放つ。 同時に風の魔法を発動し、ボールをオナラの臭気で包み込む。 「何だ、アタシの猿真似か?甘いぞ!」 からかうように言いながら、 ブボボボオオオオオオオ~~~ッッッ!!! ディスノミアもオナラを放ち、風の魔法を発動する。 カロンのオナラで包まれたボールを、さらに自分のオナラで包んで打ち返す。 それを見て、 ブボボボボボボボボボボ~~~ッッッ!!! カロンも同様にオナラと風の魔法を加えてボールを打ち返す。 ブブッブウウウウウウウ~~~ッッッ!!! オナラと風の魔法による上書き。 ラリーが長引くにつれ、ボールを包む臭気はその濃さと量を増していく。 まるでいつ爆発するかわからない爆弾を打ち合うような緊張感。 それが10分ほど続いたところで、 「ハァッ!」 ディスノミアが勝負に出た。 ラケットを振るい、渾身の力をボールに叩き込む。 「むうううっ!?」 同時に、何かが砕けたような感触と共に、解放された臭気が顔を呑み込む。 想像を絶する形容しようのない猛烈な腐卵臭。 視界がどす黒い黄色に染まり、そのまま意識が闇へと沈んでいく。 「勝った」 崩れ落ちていくディスノミアを見ながら、カロンは勝利を確信する。 飛来するボールは確かに速い。 しかし、対応できないほどではない。 ディスノミアは襲ってきたオナラの臭気に動揺し、ボールを真芯で捉え切れなかったのだ。 後はこのボールを打ち返すだけで勝利が決まる・・・はずだった。 ここで、カロンにとって予想外の事が起きた。 ふいに渡り廊下と卓球場を繋ぐ引き戸が開いたのだ。 その結果、 「むぐううっ!?」 流れ込んできた空気に押される形で、猛烈な臭気がカロンの方まで襲ってきた。 彼女のラケットは空を切り、ボールが背後の壁に突き刺さる。 それと同時に、 「・・・」 カロンはラケットを振り切ったポーズのまま、ゆっくりと床に倒れ込んだ。 *  惨状を目の当たりにした従業員に平謝りし、2人は温泉宿を出た。 「あなたのせいで怒られた」 「最初にオナラしてきたのはお前だろうが!」 怒鳴りながら剣を召喚するディスノミアだが、すぐにバカらしくなって消滅させる。 「これからどうする?」 「卓球で汗を掻いたし、別の温泉に行くか」 「そうだね」 ディスノミアの言葉に頷き、カロンはガイドブックを広げた。


More Creators