SamSuka
JUDO(あるいはスサノオ)
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柊セツナのさらなる災難

 私――柊(ひいらぎ)セツナは四季の中で秋が1番好きだ。 読書をするにもいいし、何より剣道に打ち込むのに最適な季節だからだ。 「さて、そろそろ始めるか」 休日の午後、食休みが済んだところで、いつもの日課をすべく庭に出る。 私の家は無駄に広い事だけが取り得の古い平屋建てで、庭には小さな剣道場がある。 そこで平日は2時間、休日は4時間の鍛練をするのが私の日課なのだ。 ピンポーン 「ん?」 道場の扉に手を掛けたところで、インターホンが鳴った。 両親と祖父は出掛けているので、すぐさま踵を返して玄関に向かう。 我が家のインターホンには、来客を確認するためのカメラやマイクといった洒落たものは付いていないのだ。 「どちら様で――」 「せ~んぱいっ♪」 「・・・」 「ちょっ、無言で閉めないでくださいよ!」 「ああ、すまん。少しイラッときてな」 騒ぐと近所迷惑になるので、仕方なく再び扉を開けてやる。 来客は、後輩である村崎(むらさき)リョウジだった。 私の通う宝陽(ほうよう)学園の1年生で、私が部長を務める剣道部の後輩でもある。 見てくれは悪くないのだが、常にヘラヘラと笑っている軽薄な男だ。 しかし、剣道の才能は目を見張るものがあり、わずか半年ほどの練習でずぶの素人から全国大会も夢ではないレベルまで成長している。 これで、あの約束さえなければ・・・。 「酷いですよ、先輩。俺の顔を見るなり戸を閉めるなんて」 「何しに来たんだ?」 私はリョウジの抗議を無視して問い掛ける。 「知り合いが育てたのをいっぱい貰ったので、お裾分けに来たんです」 「お裾分け?」 そこまで聞いたところで、ようやく私はリョウジが大きなダンボール箱を抱えているのに気付いた。 「何が入ってるんだ?」 知り合いが「育てた」という事は、野菜か果物の類だろうか。 いずれにしろ、石鹸やお菓子の類ではなさそうだ。 「ふっふっふっ、それは見てのお楽しみです。とにかく中に入れてくれませんか?」 「・・・さっさと入れ」 リョウジの笑みに嫌な予感を覚えながらも、私は彼を家に招き入れた。 *  先程も言ったが、私の家は無駄に広い事だけが取り柄だ。 剣道場のある庭もそれなりの広さがあり、落ち葉を集めれば焚き火をする事もできる。 何が言いたいのかといえば・・・リョウジが持ってきたお裾分けの正体が大量のサツマイモだったという事だ。 現在、私たちは庭で焚き火をして焼き芋を作っている。 いや、この説明では誤解を招くな。 正確には、リョウジが勝手に始めた焼き芋作りを、私が縁側で眺めている。 尤(もっと)も、庭の掃除を条件に焼き芋作りを許可したのは、他ならぬ私なのだが。 (まあ、こういうのもたまにはいいか) 秋の落ち葉焚きというのも風情があるしな。 そんな事を考えつつ、殆ど火の消えてしまった焚き火を眺める。 余談だが、この状態を熾(お)き火といい、焼き芋はこの状態の焚き火の中にサツマイモを入れて作る。 そうしないと、外は真っ黒で中は生という悲惨な状態になってしまうのだ。 「そろそろ焼けたかな・・・あちっ!」 「軍手を使え、馬鹿者」 そう言って、私は庭に下りて軍手を差し出す。 この馬鹿はどうして焼き芋をするつもりで訪ねてきて、軍手の1つも用意していないんだ。 「ありがとうございます、先輩!」 「れ、礼など要らん」 私が外方(そっぽ)を向くと、リョウジは私から受け取った軍手を嵌め、熾き火の中を探り始める。 程なくして、 「えっと・・・あった!うん、いい感じに焼けてますよ、先輩!」 満面の笑顔でアルミホイルに包まれた焼き芋を2つに割って差し出してきた。 確かに差し出された焼き芋の断面は美しい黄金色で、白い湯気と共に美味しそうな匂いが漂ってきている。 「私から食べていいのか?」 「先輩のために持ってきたんですから、遠慮せずに食べてください」 「わかった。有り難く頂こう」 リョウジの言葉に頷き、私は受け取った焼き芋を1口頬張ってみる。 実を言うと、焼き芋は大好物なのだ。 これも私が秋という季節を好きな理由の1つである。 「お味はどうですか?」 「ああ、とても美味いよ。こんなに美味い焼き芋を食べたのは初めてだ」 これはお世辞ではなく純然たる事実だ。 程よい甘みに、ホクホクとした食感、口から鼻に抜ける香ばしい匂い。 どれを取っても非の打ち所のない見事な焼き芋だ。 「喜んでもらえてよかったです。これで先輩のしつこい便秘もすっきり解消ですね!」 「ば、馬鹿者!そんな事を大声で言うんじゃない!」 「す、すみません!」 私に怒鳴られ、リョウジが慌てた様子で頭を下げてくる。 「まったく、貴様という奴は・・・」 ある種の繊細さ、今風にいえばデリカシーというのか? とにかくそういったものが全く足りていない。 「・・・悪いが、少し席を外すぞ」 焼き芋を1本食べきったところで、私は縁側の方へと歩き出す。 「あっ、もしかしてトイレですか?大きい方、出るといい・・・いてっ」 無神経な発言をする馬鹿に丸めたアルミホイルをぶつけて黙らせてから、私は再び縁側の方へと歩き出した。 *  縁側に上がった私はそのまま廊下の突き当たりにある小さな個室に入り、しっかりと鍵を掛ける。 そのままスカートをたくし上げ、便器を跨ぐようにして腰を下ろす。 そう、非常に不本意だが、私はリョウジの予想通り、便所に用を足しに来たのだ。 この家の便所は未だに和式で、便器のある部分が1段高くなっている。 そろそろ洋式に変えようという話もあるのだが、諸事情から未だ実現には至っていない。 「ふぅ・・・」 小水を出し切った解放感から、意図せずして小さく声が漏れる。 催したのは尿意だけなので、後は股間を拭って下着を締め直すだけだ。 「・・・」 便器から腰を上げようとしたところで、ふとある考えが頭を過ぎる。 繊維質の多い焼き芋を食べた今なら、大きい方も出やすくなっているのではないか? ぎゅるるるるる~! 私の考えを裏付けるように腹が低く鳴る。 これなら1週間ぶりに出るかもしれない。 「よし・・・んっ!」 両手を膝の上に置き、意を決して腹に力を込める。 ブブブブブウゥゥゥーーッッ!! 「はぁ・・・屁だけか」 尻の方から聞こえる爆音に、深々と溜め息を吐(つ)く。 1拍遅れて濃厚な発酵臭が鼻に流れ込んできた。 「くっ・・・我ながら酷い悪臭(におい)だな」 だが、これで諦める訳には行かない。 既に先週から1週間も出ていないのだ。 焼き芋を1本食べたからといって、そう簡単に出る訳がない。 (もう1度・・・) 「ふんっ・・・!」 ブボボボボボオォォォォォーーッッ!! 1度目より力を込めたのだが、結果は屁の勢いと悪臭(におい)が強くなっただけだった。 (今度こそ・・・!) 「ふんぬぅぅぅ・・・!」 3度目の正直とばかりに、さらに腹に力を込める。 ブオオオオオォォォォォォーーーッッッ!!! 残念ながら、結果は「2度ある事は3度ある」だった。 その後も暫く格闘を続けたのだが、 ぶぶぶぅっ!!ぶっすうう~っ!!ぶびびびぃぃっ!! 出てくるのは気体(ガス)ばかりで、 ぶうう~~っ!!ぶぼぼぼぉっ!!ぶべべべっ!! 一向に腹の中の個体(ブツ)が出てくる気配はなかった。 「・・・仕方ない。戻るか」 額の汗を手の甲で拭い、私は便器から腰を上げる。 そのまま手早く下着を締め直していく。 私の下着は普通のショーツではなく、1本の白い布だ。 長さは2mほどもあり、一般に「六尺褌」と呼ばれる代物である。 以前は普通のショーツを穿いていたのだが、先日の剣道場での一件以来、こちらを締める事が多くなってきた。 今では目を瞑っていても問題なく締められるぐらいだ。 べ、別にリョウジに貰ったものだから締めている訳ではないぞ! この方が普通のショーツより身が引き締まる気がするからであって・・・と、私は誰に弁解しているんだ? 「んっ・・・」 六尺褌を締め終えたところで、 ぷぅぅ~っ。 下腹部が圧迫されたせいか、また小さな屁が漏れてきた。 「本当に、屁だけはどんどん出てくるな・・・」 此処で嘆いていても始まらないので、水を流すべくレバーに手を掛ける。 次の瞬間、 コンコン。 「っ!?は、入っています!」 ふいに背後の扉を叩く音が聞こえ、殆ど反射的に返事をする。 どうやら息むのに夢中で、誰かが近付いてくる足音に気付かなかったらしい。 『あっ、先輩。遅いから心配になって・・・その、大丈夫ですか?』 「っ!?」 な、何を考えているんだ、この馬鹿は!? 私は用を足しに来ているんだぞ!? どうしてわざわざ確認に来るんだ!? 「だ、大丈夫だ!余計な心配は要らん!」 『よかった・・・。じゃあ、俺は庭の方に戻ってますね』 ホッとしたような声と共に、リョウジの足音が遠ざかっていく。 「ま、待て!」 口を衝(つ)いて出た言葉に、自分が驚く。 何故だ? 何故、私はあの馬鹿を呼び止めたんだ? 『どうしたんですか?』 私の戸惑いを他所に、呼び止められたリョウジが扉の前まで戻ってくる。 「あ、ああ、その、実はだな・・・」 『あっ、わかった。トイレットペーパーがないんですね?俺、取ってきますよ』 「い、いや、そうではない」 『えっ?じゃあ、どうして俺を呼んだんですか?』 「い、いいから、そこで少し待っていろ!」 そう言って、私は便器の取っ手を捻って水を流す。 それが完全に流れたところで、 「・・・」 私はゆっくりと扉の鍵を開けた。 「もういいぞ・・・入ってこい」 『えっ!?』 扉の向こうで、リョウジが驚きの声を上げる。 当然だろう。 他人が用を足している便所に招き入れられる事など、まず考えられない事なのだから。 『い、いいんですか?』 「くどいぞ。早く入ってこい」 『は、はい!失礼します!』 私の言葉に頷き、リョウジが便所へと入ってくる。 「うっ!?」 間を置かず、リョウジが呻き声を上げた。 「先輩、この悪臭(におい)って・・・」 「お前の想像通り、この悪臭(におい)は私の屁だ」 「やっぱりそうですか!」 個室内に漂う臭気の正体を知り、リョウジが目を輝かせる。 「こんなにくっさいオナラが出せるなんて、さすがセツナ先輩ですね!」 「全く嬉しくない褒め言葉だな」 というか、それは褒めているのか? 「でも、どうして俺を入れてくれたんですか?」 「そ、それはだな・・・」 リョウジの視線から逃れるように、私は再びスカートをたくし上げて和式の便器に跨った。 「や、焼き芋の礼に・・・その、私の屁を嗅がせてやろうと思ってな」 「本当ですか!?ありがとうございます、先輩!」 そう、これはあくまで焼き芋の礼。 この馬鹿が「私の屁が好き」という変わり者だから、礼として屁を嗅がせてやるだけだ。 それ以上でも、それ以下でもない。 子供のようにはしゃぐリョウジを見ながら、自分に言い聞かせる。 一方、 「こっちはいつでも準備OKですよ、先輩♪」 リョウジは両手を床に着き、土下座のような姿勢になっている。 ちょうど私の尻を下から覗き込むような格好だ。 「い、行くぞ・・・んんっ」 ゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりと腹に力を込める。 プウウゥ~~ッ。 程なして、壊れたラッパのような間抜けな音の屁が漏れてきた。 音とは裏腹に、便秘特有の強烈な発酵臭で個室内の空気を染め上げていく。 「んっ、可愛いオナラですね、先輩♪」 「う、うるさい!黙って嗅いでいろ・・・んんっ!」 顔から火が出そうなほどの羞恥心に耐えながら、2発目の屁をこくために息む。 ブッフォォオォオォォォオォォオォ~~ッッッ!!! 本当に私は何をやっているのだろう? そんな疑問と共に、大音量の屁が尻から勢いよく噴き出す。 1週間に及ぶ便秘で熟成が進んだ、濃厚な発酵臭。 自分でも鼻が曲がりそうなほどの悪臭(におい)だが、 「んん~っ!」 背後からリョウジの嬉しそうに嗅いでいる。 おそらく私とは鼻の作りが根本的に違うのだろう。 「もっと近付いていいですか、先輩?」 「・・・好きにしろ」 「はい、好きにします」 むにゅっ。 「ひゃあっ!?」 「ん~っ♪やっぱり最高です、先輩のお尻♪この感触には、どんな高級クッションも敵いませんよ♪」 そう言いながら、リョウジが私の尻に頬擦りしてくる。 「ば、馬鹿者!顔を近付けていいと言ったが、尻に頬擦りしていいとは言ってないぞ!」 「そういえば、先輩って最近は褌を締めてる事が多いですよね?もしかして、俺のためですか?」 「人の話を聞けぇっ!んんっ!」 ブブブブブブブブブウウウゥゥゥ~~~ッッッ!!!! 怒りに任せ、片手で腹を押しながら3発目のオナラを放つ。 今日の屁の中で最も大音量で、最も臭い1発だ。 これで少しは凝り・・・って、私は何を考えているんだ? 「はぁ・・・んぐっ!?」 深々と溜め息を吐いたところで、個室内の臭気が一気に鼻へと流れ込んできた。 「ごほっ、ごほっ、えほっ・・・!」 完全に油断していたため、思わず咳き込んでしまう。 (私はこんなに臭い屁をこいたのか) 考えただけで、思わず切腹したくなるほど情けなくなる。 (その時は、この馬鹿が介錯か?) 「クスッ・・・」 自分が切腹する姿を想像し、自嘲気味に笑う。 「どうしたんですか、先輩?」 「何でもない。気にするな」 「そうですか?じゃあ、次も今のに負けないのをお願いしますね!」 リョウジが親指を立てた右手(サムズアップだったか?)を突き出してきた。 「・・・」 時々、本当に時々だが、これほど自分の気持ちに正直なれるリョウジが羨ましくなる。 (私には絶対にできない事だな) 「ふんっ!」 ぶぶぶっすううぅうぅぅうぅぅうぅぅぅぅっっっ!!!! 最後に特大の屁を1発放って、私は便器から腰を上げた。 「あれ?もう終わりですか?」 「これだけ屁を嗅がせれば、焼き芋の礼には十分だろう。それに、これ以上は具合いが悪くなりそうだ」 既に便所の中は凄まじい臭気に支配されている。 私自身、あまりの臭さに軽い眩暈を覚えているほどだ。 「じゃあ、先輩は先に戻っていてください。俺はもう少し此処でオナラの悪臭(におい)を堪能していきま・・・いてっ」 深呼吸を始めた馬鹿の頭を小突いてから、私は臭気の渦巻く便所を後にした。 *  庭の方に戻ってみると、焚き火はちゃんと後始末がされており、縁側には5本の焼き芋が古新聞を敷いた上に並べられていた。 そのうちの1本を手に取り、皮を剥いて食べ始める。 少し冷めているが、やはり美味い。 「それにしても・・・」 焼き芋を食べながら、視線をリョウジが持ってきたダンボール箱に向ける。 剣道の防具一式がすっぽり入りそうなその箱には、まだぎっしりとサツマイモが詰まっていた。 (当分はサツマイモに不自由しないな) 心の中で呟いて、今度は視線を廊下の先の扉、先程まで私がいた便所に向ける。 「・・・」 最近、リョウジについて考える事が長くなった。 村崎リョウジ。 あの馬鹿と出会ってから早くも半年が過ぎた。 正直に言えば、これほど長い付き合いになるとは考えてもいなかった。 リョウジの剣道の才能は間違いなく本物だ。 しかし、当の本人は剣道に全く興味がなく、剣道部への入部にも消極的だった。 そんなリョウジに入部を決意させたのが・・・私の屁だった。 肛門という不浄の穴から噴き出す、ただ臭いだけの気体。 リョウジはそれを目当てに竹刀を握り、その才能を開花させた。 あの男に練習試合で負けた連中がこの事を知ったら、どんな顔をするだろうか。 「ふふっ・・・」 想像してみると、思わず吹き出してしまった。 半年前、リョウジに会う前の私が今の私を見たら驚くに違いない。 こんな風に笑う日が来るなど、あの頃の私には想像もできなかった事だ。 (私も変わったものだな) いや、正しくは変えられてしまったのか。 今も便所に篭っているあの馬鹿に。 「ん?」 いつの間にか手に持っていたはずの焼き芋が姿を消していた。 どうやら無意識のうちに平らげてしまったらしい。 ぎゅるるるるる~~っ! 腸内(はら)にも屁が溜まってきたのか、ゴロゴロという雷のような音を響かせ始めている。 「・・・んっ」 気まぐれに、ほんの少しだけ腹に力を込めてみる。 すると、 プップゥゥゥ~~。 肛門から妙に可愛らしい音の屁が漏れてきた。 「んっ!」 今度は片手で軽く腹を押しながら力を込める。 ブブブッブシュゥゥゥゥゥ・・・! 風船の空気が抜けるような音と共に、屁が肛門から噴き出してくるのがわかる。 「うっ・・・!」 自分でも思わず顔を顰めてしまうほど濃厚な発酵臭。 だが、この悪臭(におい)が私とリョウジを結び付けたのだ。 そう考えると、この凶悪な臭気も何だか愛おしいもののように思えてくる。 (私にも、あいつの馬鹿が感染(うつ)ったか) ブウブブブブブブウウウウゥゥゥーーーッッッ!!! 「すうぅぅぅ・・・っ」 苦笑しながら3発目の屁を放ち、大きく息を吸い込んでみる。 「ぐっ!?ごほっ、ごほっ、えほっ・・・!」 これはさすがにやり過ぎだった。 鼻の奥を抉られるような感覚に、思いっ切り噎(む)せてしまった。 「どうしたんですか、先輩?」 最悪のタイミングで、リョウジが便所から戻ってきた。 「む?この悪臭(におい)・・・先輩、またオナラしましたね?」 リョウジがくんくんと鼻を鳴らしながら問い掛けてくる。 「わ、悪いか!そもそも芋を食えば、屁をしたくなるのは当然だろう!」 「いえいえ、悪くないですよ♪俺は先輩のオナラ、大好きですから♪」 「~~~~~~~!」 自分の顔が熱を帯びて紅潮していくのがわかる。 「こ・・・」 「こ?」 「この大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉっ!」 ヤケ気味に叫んで、私はリョウジを縁側に押し倒す。 「今日は私1人で自主練習の予定だったが、気が変わった。貴様を徹底的に扱いてやる」 「ちょっ!?せ、先輩!?」 戸惑うリョウジを他所に、私はその顔の上にどっかりと腰を下ろす。 ちょうど肛門がリョウジの鼻の穴を塞ぐような格好だ。 「これはいつものやつの前払いだ。好きなだけ味わえ・・・ふんっ!」 ブウウウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーッッッ!!! 腹に渾身の力を込め、強烈な屁を放つ。 「むうううううううっ!?」 リョウジが尻の下で何やら喚いているが、 ブボボボボオオウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!! 私は気にせず、2発目の屁を放つ。 「うぅっ・・・!」 強烈な発酵臭が私の鼻にも襲い掛かってくるが、 ブウウウウーーッ!!ブビビビーッ!!ブリリリィッ!! それでも私は放屁をやめない。 こうなれば、もうヤケだ。 開き直って腸内(はら)が空っぽになるまで屁を出し続けてやる。 ブベベベベベベベベッッ!!ブブウーーーーーッッ!! さすがに苦しくなってきたらしく、リョウジが私の太腿をパンパンと叩いてくる。 馬鹿者が。 そんな事でやめてやるものか。 とはいえ、腸内の屁もそろそろ品切れだ。 ここは最後に特大の1発を浴びせてやるとしよう。 「ふんぬっ!」 残りの屁をすべて出し切るべく、両手で腹を押し込みながら渾身の力を込める。 ブボボボボボボボボォォォォォォォーーーッッッ!!!! 家全体を揺るがすような特大の1発。 それを放った瞬間、 「っっっっっっ!?」 その猛烈な悪臭(におい)に耐えられず、私は意識を失った。 *  人生には「本当に死にたい」と思う事が何回かある。 そう言っていたのは、確か曾祖母(故人・享年105歳)だったと記憶している。 今、私はその言葉の意味を深く理解していた。 「あのー、先輩」 「・・・話し掛けるな」 現在、私はリョウジに背を向ける格好で居間の隅にしゃがみ込んでいる。 男に自分の屁を嗅いでいる姿を見られた挙句、あまつさえその男の顔に跨って放屁し、その悪臭(におい)で自分まで意識を失ってしまうとは・・・。 羞恥と怒りで意混乱していたとはいえ、我ながら何をしているのだ。 穴があったら入りたい。 いや、小刀があったら、今すぐ切腹したい。 「えっと・・・その、俺は気にしてませんから」 「私が気にしているのだ!」 本当に、どうしてこんな事になってしまったのか。 それもこれも、この馬鹿の・・・いや、これは責任転嫁か。 すべては私自身の―― 「っ!?」 殆ど反射的にその場を飛び退く。 次の瞬間、私のいた位置を細長い何かが通過していった。 「あっちゃー、やっぱりダメか」 祖父の孫の手を持ったリョウジがぽりぽりと頭を掻いている。 どうやら私が見た細長いものの正体はこれのようだ。 「き、貴様!背後から不意打ちするとは何事だ!」 「いや、今なら先輩から1本取れるかなと思って・・・まあ、見事に失敗しましたけどね」 そう言って、リョウジが悪戯っぽく笑う。 (本当に、この馬鹿は・・・) リョウジの顔を見ていると、何だか落ち込んでいるのが馬鹿らしくなってきた。 こんな風に思わせてくれるのが、この馬鹿の長所なのだろう。 「はぁ・・・」 本日、何度目かの溜め息を吐いて、私はゆっくりと立ち上がる。 「ほら、行くぞ」 「えっ?何処へですか?」 リョウジが呆気に取られたような表情を浮かべている。 「何処へって、道場に決まっているだろう。さっきも言ったように、今日は徹底的に扱いてやるからな。覚悟しておけ!」 そう言って、私は道場の方へ歩き出す。 「あっ、待ってくださいよ、先ぱ・・・うわぁっ!?」 後に続こうとしたリョウジが足を滑らせて派手に転倒する。 「まったく、何をやっているのだ、お前は。ほら、立てるか?」 「はい、ありがとうございます、先輩」 私が差し出した手を、リョウジがギュッと握り返してくる。 半年ですっかり竹刀に馴染んだ手。 この手のように、私も少しは成長しているのだろうか? (いずれにしろ、こいつとは長い付き合いになりそうだな) 「ふふふ・・・」 その事実を喜んでいる自分に驚きながら、私はリョウジと並んで歩き出した。 終


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