SamSuka
JUDO(あるいはスサノオ)
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無口なあの娘のオナラは臭い?

 ある日の放課後。 俺――弓削(ゆげ)キンジは宝陽学園1階にある図書室へとやってきた。 数学の宿題を忘れた罰として出された追加課題を片付けるためだ。 提出は明日までなのだが、担当の数学教師が口煩いタイプなので今日中に片付けて提出してしまおうと考えたのだ。 「ん?」 図書室に入ると、1人の女子生徒の姿が目に留まった。 「・・・」 後藤(ごとう)セリナ。 俺と同じ2年生で、図書委員をしているクラスメイトだ。 腰まで伸びるやや赤みがかった髪。 背は150cmに届かないぐらいで、無表情ながら幼さを残した可愛らしい顔立ちをしている。 身長178cmの俺とは正反対だ。 「・・・」 彼女は受付の席に座って本を読んでおり、他に生徒の姿はなかった。 「さてと・・・」 俺は受付から少し離れた位置に座り、鞄から課題のプリントを取り出す。 「ん?」 「!」 視線を感じて受付の方を見ると、セリナが慌てた様子で顔を伏せた。 (俺が何をするか気になるのか?) 確かに俺は読書をするようなタイプではない。 そんな俺が図書室に来たので、セリナも何事かと気になったのだろう。 そう結論付けて、課題に取り掛かる。 暫く黙々とプリントにペンを走らせていると、 プスゥ・・・プゥ~・・・プゥ・・・。 静まり返った図書室の何処からか小さな破裂音のようなものが聞こえてきた。 (何だ、この音?) 音源を探して周囲を見回すが、それらしいものは見当たらない。 「なあ、何か変な音がしないか?」 「っ!?」 俺が声を掛けると、セリナがビクッと肩を震わせる。 「ああ、悪い。驚かせたか?」 (ふるふる) 俺の問い掛けに、セリナは無言で首を左右に振った。 「そうか。じゃあ、改めて訊くが、何か変な音がしないか?」 (ふるふる) セリナが再び無言で首を左右に振る。 言い忘れたが、セリナは学校一といっても過言でないほど無口な奴である。 俺の知る限り、他のクラスメイトや担任でさえ彼女の声を殆ど聞いた事がないほどだ。 「気のせいだったか?」 既に件の音は聞こえなくなっているため、もはや確認する術はない。 「読書の邪魔して悪かったな」 (ふるふる) 俺が謝罪すると、セリナはまた首を左右に振って読書を再開した。 俺も彼女に倣って課題を再開しようとするが、 「うっ!?」 今度は強烈な悪臭(におい)が鼻を襲ってきた。 例えるなら発酵が進んだ糠漬けのような悪臭(におい)だ。 (本当に何なんだ?) 悪臭(におい)の原因を探して周囲を見回していると、 「・・・」 ふいにセリナが読んでいた本を閉じて立ち上がった。 「もう閉めるのか?」 (ふるふる) 俺の問い掛けを否定し、セリナが図書室の奥へと歩いていく。 どうやら今の本を読み終えて新しい本を取りに行くだけらしい。 「・・・」 セリナの背中が見えなくなったところで、ふとある疑問が頭に浮かんだ。 (あいつって、普段どんな本を読んでるんだ?) 何となく興味が湧いた俺は、彼女に続いて図書室の奥へ行ってみる事にした。 この図書室は無駄に広いのだが、セリナの姿はすぐに見付ける事ができた。 「・・・」 大きな本棚の前で一生懸命にピョンピョンと跳ねている。 おそらく上の方にある本を取りたいのだろう。 しかし、小柄な彼女では腕をめいっぱい伸ばしてもお目当ての本に届かないようだ。 (何か微笑ましいな) 例えるなら「はじめてのおつかい」を見守る親のような気分だ。 とはいえ、このまま放置する訳にも行かないだろう。 代わりに取ってやろうと、俺は彼女に歩み寄る。 一方、 「・・・!」 セリナは腰を落とし、脚のバネを使って大きく跳躍しようとしている。 直後、 ブボボボボオオォォォォォーーーッッッ!!! 重い本棚をも揺さぶるような爆音が周囲に響き渡った。 発信源はセリナの尻。 腰まで伸びた髪がわずかに持ち上がるほどの風圧だ。 1拍置いて、発酵の進んだ糠漬けのような悪臭(におい)が周囲に立ち込める。 「ぐっ・・・!」 その強烈な悪臭(におい)に、堪らず苦悶の声を漏らしてしまう。 (この悪臭(におい)、さっきの・・・) どうやら先程嗅いだ謎の悪臭(におい)の正体は、彼女のオナラだったらしい。 「!?」 謎が氷解したところで、俺の存在に気付いたセリナがこちらへ向き直ってくる。 彼女の顔に驚きの色が浮かんでいたのは一瞬。 「・・・!」 すぐに顔が紅潮し始め、あっという間に耳まで真っ赤になってしまった。 「あっ、えっと・・・」 こういう場合、何と声を掛けたらいいのだろう? 俺が困惑していると、赤面したセリナが小走りでこちらにやってきた。 反射的に身構えるが、彼女は俺の目の前で足を止め、 「・・・」 そのままペコペコと頭を下げてくる。 「もしかして、オナラの事を謝ってるのか?」 (コクン) セリナが無言で小さく頷く。 「気にするな。オナラなんて誰でもするだろ」 「・・・」 セリナが無言で自分の頭上にある俺の手に触れてくる。 いつの間にか俺は無意識にセリナの頭を撫でていたのだ。 「あっ、すまん!」 その事実に気付き、慌てて彼女の頭から手を離す。 セリナが少し残念そうな表情を浮かべたように見えたが、おそらく気のせいだろう。 「それで、どの本が取りたかったんだ?」 話の軌道修正をすべく、俺は先程までセリナが立っていた本棚の方へ足を向ける。 しかし、 ガシッ! 何故かセリナに制服の裾を掴まれてしまった。 「どうした?本、取らなくていいのか?」 俺が問い掛けると、セリナは俺を追い越して本棚の前に立ち、スカートを下着が見えない程度にパタパタし始めた。 (ああ、そういう事か) 「そこまでしなくても大丈夫だと思うぞ」 (ふるふる) 俺の言葉にもセリナは首を左右に振った。 よっぽど俺にオナラの悪臭(におい)を嗅がれたくないらしい。 (どうするか) 考えてみたものの、こういう時は素直になるのが1番だろう。 「どっちかといえば、お前のオナラなら嗅いでみたいけどな」 「!」 俺の言葉を聞き、セリナが再び驚きの表情を浮かべる。 少しばかり素直になり過ぎたようだ。 「悪い。今のは忘れて・・・って、無理だよな。この際だから白状するけど、俺は女の子のオナラが好きなんだよ」 言ってしまった。 周囲の連中にも、ずっと隠していた俺の性癖。 後悔したところで、1度口から出てしまった言葉を戻す事はできない。 (完全にミスッたな) 自分の軽率さを嘆いていると、セリナが驚くべき行動に出た。 「・・・」 その場でくるりと反転すると、小振りな可愛らしい尻を俺の方へ突き出してきたのだ。 さらに、スカートもたくし上げ、子供っぽいコットンショーツ(猫のワンポイントあり)を露わにする。 「な、何やってるんだ・・・?」 理解が追い付かないので、多分に動揺を含んだ声で問い掛ける。 「っ・・・!」 返事の代わりに、セリナの口から殆ど吐息だけの声が漏れる。 次の瞬間、 ぷううううううぅぅぅぅぅ~~~っっっ!!! 彼女の尻から壊れたラッパのような音と共に、濃密な臭気が吹き出した。 「っ!?」 まるで数十年物の糠床に顔を突っ込んだような感覚。 とてもセリナの小さな身体から生み出されたとは信じられないレベルの量と悪臭(におい)だ。 「・・・」 そんな臭気の爆弾を投下すると、セリナは片手をスカートから離し、俺に向かって手招きしてきた。 「もしかして、嗅がせてくれるのか?」 (コクン) 背を向けていてもわかるほど赤面したセリナが小さく頷く。 よく見ると、手招きする右手も羞恥のためか、かすかに震えているのが確認できた。 「い、いいんだな?」 念を押すように再度尋ねながら、俺はゆっくりとセリナの尻に顔を近付けていく。 白いショーツが近付くにつれ、鼓動が加速し、喉がカラカラに渇いていく。 「!」 顔と尻の距離が15cmぐらいまで近付いたところで、ふいにセリナが身体をビクッと震わせた。 その拍子にスカートを掴んでいた手を離してしまうが、もう1度捲り直す余裕(勇気?)はないようだ。 「この位置でいいのか?」 (コクン) セリナがわずかに首を上下させた直後、 ボッフウオオオオオォォォォォーーーッッッ!!! また彼女のスカートがそれに掛かる髪ごと捲れ上がった。 今度は手ではなく、彼女の尻から噴き出した猛烈なオナラの風圧によって。 「むぐうぅぅぅっ!?」 セリナのオナラは無口な彼女とは正反対に、轟音を伴って周囲の空間を臭気で染め上げていく。 まるで頭を棍棒で殴られたような衝撃。 たった1発で全身から力が抜け、俺は床にうつ伏せで崩れ落ちた。 一方、 「・・・!」 セリナ自身もこれほどのオナラが出るとは思っていなかったのか、顔の赤みがさらに増していく。 そろそろ頭から湯気が出てきそうだ。 (それにしても、後藤のオナラがここまで臭いとは・・・) 実を言えば、女の子のオナラを実際に嗅いだのは今回が初めてだ。 幻想が砕かれたという事はないが、これだけ臭いと1発でもうお腹いっぱいである。 「あ、ありがとう、後藤」 俺がもう十分だ、と続けるより早く、 「・・・」 セリナが腰を落とし、和式便器で用を足すような態勢になる。 ちょうど床に這いつくばった俺が下からセリナの尻を見上げる格好だ。 次の瞬間、 ブッフウオオオオオォォォォォーーーッッッ!!! 2発目のオナラが俺の顔に浴びせられた。 「ごはっ!?」 鼻腔を暴れ回る臭気の濃度が倍加し、頭の中がオナラ色に染まっていく。 「ご、後藤、もう十分だから・・・」 「っ!」 ブベベベベベベベベベベベベベベべべッッッ!!! 俺の言葉を掻き消すように、セリナが3発目のオナラを放つ。 「ふぐっ!?」 苦悶の声を上げながら確認すると、セリナは両手で自分の耳を塞いでいた。 どうやら自分のオナラの音を聞くのが恥ずかしくて耳を塞いでおり、俺の制止が聞こえないらしい。 「くっ・・・」 仕方なく、セリナに気付いてもらおうと、最後の力を振り絞って彼女の方へ手を伸ばす。 その手が彼女のスカートを掴んだ瞬間、 ブブブッブブウウウウウウゥゥゥゥーーーッッッ!!! セリナの放った4発目のオナラが俺の顔に浴びせられる。 「ふぐっ!?」 強烈な臭気が鼻の中に流れ込み、全身から力が抜けていく。 セリナのスカートを掴んでいた腕も脱力し、床へと落下する。 最悪にも彼女のスカートを掴んだままで。 当然、スカートは俺と腕と共に床まで引き下ろされる。 「っっっっっ!?」 声にならない声を上げながら、セリナが慌ててスカートを穿き直そうとする。 しかし、無理に引き下ろされた事でホックの金具が壊れてしまったのか、なかなかスカートを上げる事ができない。 子供っぽい綿のショーツ丸出しで悪戦苦闘するセリナ。 その姿をオナラの臭気で朦朧とする頭でぼんやりと眺めていると、 「っ!?」 ふいにこちらへ振り向いたセリナと目が合った。 ようやく俺に見られている事を思い出したようだ。 「わ、悪い・・・これでいいか?」 動く事ができないので、目を硬く閉じながら問い掛ける。 むにゅっ。 返答は顔を包むマシュマロのように柔らかな感触だった。 (これって、後藤の・・・!?) その正体が尻だと気付いた瞬間、 ブブブッシュウウウウウウウウーーーッッッ!!! 5発目のオナラが零距離で浴びせられた。 「むうううううっ!?」 これまでと違い、濃厚な臭気が霧散する事なく鼻腔へと流れ込み、俺は苦悶の声を上げる。 全身が感電したようにビクビクと痙攣し、意識が急速に遠退いていく。 だが、俺が意識を失う事はなかった。 「っ!?」 ブブブッフウオオオオオォォォォーーーッッッ!!! セリナの尻から放たれた6発目のオナラが俺の意識を強制的に覚醒させたからだ。 どうやら俺が痙攣した事で、鼻先で彼女の尻を刺激してしまったらしい。 しかも、 ブブブブブブブブブブブブブゥーーーッッッ!!! ボッフウウウウオオオォォォォーーーッッッ!!! セリナが駄目押しとばかりに7発目、8発目のオナラを浴びせてくる。 「っ~~~~~!」 もはや悲鳴を上げる事もできない。 そんな俺の様子を怪訝に思ったのか、 「?」 セリナがようやく俺の顔から尻を上げてくれた。 顔に圧し掛かる重みが消えるのを感じながら、俺の意識は途切れた。 *  身体がゆさゆさと控えめに揺さぶられるのを感じ、俺の意識は覚醒する。 ゆっくりと目を開けると、セリナが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。 「後藤・・・?」 「・・・」 俺が名前を呼ぶと、セリナの表情がわずかに緩む。 「お前が此処まで運んでくれたのか?」 現在、俺は貸し出しカウンターに背中を預ける格好で座っている。 この場に彼女しかいない以上、俺を此処まで運んだのは彼女と考えて間違いないだろう。 (コクン) 俺の考えを肯定するように、セリナが小さく頷く。 「そうか。ありがとう」 礼を言って、セリナの頭を―― 「おっと」 殆ど無意識に伸ばした手を慌てて止める。 またうっかり彼女の頭を撫でてしまうところだった。 しかし、 「・・・」 何故かセリナは頭突きでもするように、俺の掌に自分の頭を押し付けてきた。 「えっと、撫でて欲しいのか?」 (コクン) 頷かれてしまった。 「・・・わかった」 本人の希望通りに頭を撫でてやると、セリナが嬉しそうに目を細めてみせる。 「それにしても、何で俺にその・・・嗅がせてくれたんだ?」 本来なら訊かない方がいいのかもしれないが、どうしても気になったので尋ねてみる。 「・・・」 セリナからの返答はない。 「いや、言いたくないなら別にいいんだ。ちょっと気になっただけだから」 「・・・」 「えっ?」 ともすれば聞き逃しそうなほど小さな声。 だが、セリナは確かに言った。 覚えていませんか、と。 「1年前の事・・・」 「1年前・・・あっ!」 その瞬間、俺の脳裏に1年前の出来事が蘇ってきた。 *  1年前の放課後、俺は今日と同じようにこの図書室へとやってきた。 「・・・」 その時もセリナは図書委員として、カウンターに座っていた。 事件が起こったのは、彼女が今日と同じように新しい本を取りに行った時だった。 突如として、校舎全体がガタガタと揺れ始めたのだ。 とはいえ、別に怪奇現象の類ではない。 震度4程度の単なる地震だ。 普通なら生徒たちが騒いで終わりだっただろう。 しかし、図書館という場所では事情が違ってくる。 ガタッ! 本棚が揺れた拍子に、最上段に収まっていた数冊の本がセリナめがけて落下してきたのだ。 「!」 突然の事に、目を見開いたまま立ち尽くすセリナ。 そんな彼女にハードカバーの本たちが降り注ぐ事はなかった。 偶然通り掛かった俺が咄嗟に覆い被さったからだ。 「だ、大丈夫か?」 背中を襲う激しい痛みに耐えながら問い掛ける。 (コクリ) 「そうか、よかった・・・」 セリナが小さく頷いたのを見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。 次の瞬間、 「ぐっ!?」 俺の頭部を強い衝撃が襲った。 遅れて落ちてきた本の角が俺の後頭部を直撃したのだ。 「・・・」 セリナが心配そうな表情を浮かべ、俺の顔を見上げてくる。 「だ、大丈夫だ。このぐらいどうって事ない」 そう言って、俺はセリナの頭を撫でる。 「ん?」 ふと額に違和感を覚えた。 空いた方の手で確認してみると、指先が真っ赤に染まっている。 どうやら今の衝撃で後頭部に傷ができたらしい。 「!?」 それを見たセリナが酷く慌てた様子で、ポケットから可愛らしいハンカチを取り出す。 「いや、そこまで気を遣わなくてもいいぞ」 出血こそしているものの、怪我自体はそれほど大きなものではない。 保健室できちんと処置すれば、すぐに血も止まるだろう。 「・・・」 「ハンカチより此処の片付けを頼めるか?ちょっと保健室に行ってくる」 未だ何やら言いたげなセリナにそう告げて、俺は1人で図書室を後にした。 * 「そうか。あの時の事、ずっと覚えてたのか」 (コクリ) 俺の言葉に、セリナが小さく頷く。 現在、俺はカウンターに背を預ける格好で座っており、セリナは俺が広げた脚の間にちょこんと腰を下ろしている。 「あの日から、ずっとあなたを見ていました・・・」 そう言って、セリナが脚の間から立ち上がる。 「あなたが今日、此処に来てくれたのはきっと神様がくれたチャンスだと思うんです」 「チャンス?」 「はい。勇気の神様がくれた、チャンス。だから、わ、私を・・・」 セリナがそこで言葉を切り、大きく息を吸い込む。 そして、 「私を、あなたの彼女にしてください!」 直後に驚くべき言葉を口にした。 「えっと・・・」 突然の出来事に、俺は戸惑いを隠せなかった。 おそらく今の告白は彼女が学園生活を送ってきた中で、最も大きな声だろう。 それだけ彼女は本気なのだ。 俺はどうするのが最良か思案する。 「・・・」 いや、もう考えるのはやめよう。 さっきは正直に気持ちを伝えて失敗したが、今回は正直に気持ちを伝えるべきだろう。 「ゴメン」 最初に出たのは、謝罪の言葉だった。 「!」 セリナの肩がビクッと震える。 「やっぱり、ダメですよね。私みたいに口下手なくせに、オナラだけ大きい女の子なんて・・・」 セリナが元の声量に戻って俯いてしまう。 「いや、そういう事じゃないんだ」 セリナの言葉を否定し、俺は彼女の頭を撫でてやる。 「正直、お前から告白されるなんて夢にも思ってなかったんだ。だから、その、お前が嫌いという訳じゃなくて・・・ああもう、何て言えばいいんだ!」 上手く言葉がまとまらず、俺は頭を抱える。 「とにかく!いきなりお前を彼女にする事はできない。だから――」 俺はゆっくりと右手を彼女の前に差し出す。 「まずは友達からじゃ・・・ダメか?」 「・・・」 セリナは無言のまま俯いており、その表情を窺い知る事はできない。 (また失敗、か) 小さく溜め息を吐いて、ゆっくりと右手を引っ込める。 やはり、俺にこういう駆け引きは向いて―― ぐいっ。 「ん?」 ふいに引っ込めようとしていた右手の動きが止まる。 セリナが俺の手、正確には袖口を掴んできたのだ。 いや、もっと正確には人差し指と親指で袖口を摘んできただろうか。 「えっと・・・これはOKって事でいいのか?」 (コクリ) セリナの首がほんの少し縦に動く。 どうやら「友達からの付き合い」で了承してくれたらしい。 「そうか。じゃあ、これからよろしくな、後藤」 「・・・セリナ」 「えっ?」 「セリナって、呼んでください」 「いや、さすがに名前で呼ぶのは・・・・」 「・・・ダメ、ですか?」 セリナが潤んだ目で俺を見詰めてくる。 まるで捨てられた仔犬のような視線。 そんな視線に抗えるほど俺のメンタルは強くなかった。 「セ、セリナ・・・」 「はい」 俺が戸惑いがちに名前を呼ぶと、セリナは赤面しながらも嬉しそうに返事をしてくる。 直後、 ごろごろごろごろ~っ。 セリナの腹から雷のような重低音が聞こえてきた。 「っ~~~~~!」 セリナが両手で腹を押さえ、頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にする。 (あれだけオナラしたのに、まだ出るのか) 心の中で、呆れ半分、驚き半分に呟く。 「その・・・嗅ぎますか?」 問い掛けながら、セリナがスカートをたくし上げて俺の方へ尻を突き出してくる。 「・・・」 こういう場合、どうすればいいのだろうか? 10秒ほど考えた末、俺はゆっくりとセリナの尻に顔を近付けていく。 使い方が違うかもしれないが、毒を喰らわば皿まで、だ。 「あっ・・・」 セリナが小さく声を漏らしたので、俺はそこで動きを止める。 ちょうど目の前10cmぐらいの位置に、セリナのショーツにプリントされた猫の顔がある格好だ。 「んっ!」 セリナの口から小さな息み声が漏れる。 直後、 ブボボボボボボボボボボーーーッッ!!! 小さい声とは裏腹に、図書室全体を揺らすような爆音のオナラが響き渡る。 「ぐはっ!?」 気を失う前に嗅いだ時以上に濃密な腐卵臭が鼻から体内へと流れ込んでくる。 正に頭を大型バイクで撥ねられたような衝撃。 思わず顔を離したくなるような衝動に駆られるが、どうにか耐えて顔の位置をキープする。 そんな俺の心中を知ってか知らずか、 ブオオオオオオォォォォォォォーーーンッッッ!!! セリナが2発目のオナラを浴びせてくる。 「ぐっ!?」 顔を包み込む生温かい臭気。 その温かさを感じながらも、同時に襲ってくる猛烈な腐卵臭が俺の思考をぐちゃぐちゃに掻き回す。 まるで頭を遠心分離機に掛けられたような気分だ。 「まだ、出ます・・・んっ!」 ブブブッブブッブブブウゥゥゥゥーーーッッッ!!! さらに3発目のオナラ。 「むぐううううううううっ!?」 全身が腐った卵の中に沈んでいくような感覚に襲われながらも、俺は必死に意識を繋ぎ止める。 このオナラはセリナが羞恥に耐えて嗅がせてくれているのだ。 それを無駄にする訳には・・・いや、俺が耐えてるから、セリナがオナラする事になってるのか? だんだん訳がわからなくなってきた。 「キンジさん」 「ん?」 ふいに名前を呼ばれ、朦朧としていた意識が覚醒する。 「ど、どうした?」 「少しの間、目を閉じていてください」 「わ、わかった・・・」 セリナの言葉に頷き、俺はゆっくりと目を閉じる。 間を置かず、すぐ近くから布擦れの音が聞こえてきた。 (この音、まさか・・・) セリナに気付かれないようにほんの少しだけ目を開けると、薄い肌色が視界に飛び込んできた。 俺の予想通り、セリナがショーツを脱いでいるのだ。 「・・・」 状況を把握したところで、俺は再びしっかりと目を閉じる。 これ以上はセリナに申し訳ないからだ。 「行きます・・・んっ!」 ブブブッスウウウウウウゥゥゥゥーーーッッッ!!! 「っっっっっ!?」 ショーツというフィルターがなくなった事で、猛烈な腐卵臭がよりダイレクトに鼻を襲ってくる。 目を閉じているのに、視界がぐるぐると回る。 「セ、セリナ、もうそのぐらいで――」 ブウウウウウウウウウウウウウウーーーッッッ!!! 俺の制止はまたしてもセリナのオナラによって掻き消された。 「っっっっっ!?」 もはや声を上げる事もできず、急速に意識が遠退いていく。 ブビビビビビビビィィィィィィ~~~~ッッッ!!! 「っ・・・・!?」 6発目のオナラ。 それがトドメとなった。 全身から力が抜け、俺はゆっくりと前のめりに倒れ込む。 むにゅっ。 ふいに顔に何か柔らかいものに触れた。 「キ、キンジさん!?」 セリナの驚きの声でそれが彼女の尻だと気付いたところで、 ブブブブブブブブブブブブブブゥーーーッッッ!!! 7発目のオナラが顔を直撃し、俺は再び意識を失った。 終


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