世話焼きな後輩は臭くて可愛い?(+クラスメイト編)
Added 2023-01-21 15:00:00 +0000 UTC朝、布団の中での5分は夜の5分の何倍もの価値を持つ。 これは寝起きの悪い俺――紅月(こうづき)ヤシロにとって絶対の真理である。 しかし、それをわかってくれない奴がいる。 隣に住む後輩、柊ユキカだ。 「いつまで寝てるの!早く起きなさい!」 今朝も頭上から騒々しい声が降ってくる。 「んんっ、後5分・・・」 応じたところで、ふと違和感を覚える。 ユキカって、こんな声だったか? しかし、 (まあいいか・・・) すぐに疑問を意識の外へ投げ捨てる。 今重要なのは、1分でも長く布団の中でだらだらする事だ。 「ユキカの言ってた通りね。このバカ、全く起きる気配がないわ」 ん? ユキカの言ってた通り・・・? 頭に浮かんだ疑問符が俺の眠気を覚ましていく。 「し、仕方ないわよね。ユキカだってやってたんだし・・・」 何やらごにょごにょ言っている人物の正体を知るべく、目を開けて彼女の方に寝返りを打つ。 「なっ!?」 視界に飛び込んできたのは、俺の方に突き出された尻だった。 しかも、それはユキカが絶対に穿かないような大人っぽい黒い紐パンに包まれている。 状況が把握できずに戸惑う俺の顔を、 ブウウウウウウーーーッッ!! 爆音と共に、腐ったキャベツのような悪臭(におい)が包み込む。 一拍遅れて、 「すみません、寝坊してしまって!先輩、早く起きてください!」 ユキカが慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。 そして、 「えっ?」 すぐに鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。 「カリンさん・・・?」 「ユ、ユキカ!?こ、これは違うの!その、だから・・・!」 必死に言い訳しようとする本人の意思とは裏腹に、 ブブブブブブブゥーーッッ!! 彼女の尻から2発目のオナラが噴き出してくる。 「っ!?」 それで我に返ったのか、 「い、いつまで嗅いでるのよ!」 次の瞬間には、黒いソックスを穿いた足裏が顔面を直撃する。 こうして、俺の朝はいつも以上に騒がしく始まった。 * 結局、朝飯を食う暇もないまま、俺たち3人は登校する事になった。 「ったく、何で朝っぱら顔にオナラ浴びた上に、蹴りまで喰らわなくちゃならねぇんだよ・・・」 「あ、あんたがいつまでも悪臭(におい)を嗅いでるからでしょ!」 俺の呟きに、オナラと蹴りを放った張本人が赤面しながら反論してくる。 こいつの名前は、逢坂(おうさか)カリン。 ユキカの1つ年上の先輩で、俺のクラスメイトでもある。 身長170cm近いモデル体型の美少女で、長い髪をポニーテールにしている。 ユキカと同じく猫、いや、どちらかとあいうと豹に近い雰囲気だ。 「それにしても、何でお前が起こしに来たんだ?」 「決まってるじゃない。ユキカにオナラで起こすなんて羨ま・・・もとい、恥ずかしい事させられないからよ!」 今、羨ましいって言いかけ・・・ん? 「ちょっと待て。そもそも、どうやって俺の家に入ってきたんだ?」 「ユキカに電子ロックの番号を聞いたのよ」 「おい」 すぐさまユキカに非難の視線を向ける。 「だ、大丈夫です、先輩。カリンさんは口が堅いですから」 「そういう問題じゃないだろ」 しかも、俺がオナラで起こされてる事まで話したみたいだし。 「とにかく!今後、ユキカにオ・・・アレをさせたら承知しないからね!」 「勝手に俺がさせた事にするな!俺がオナラされたんだよ!」 「「大声で言うな(言わないでください)!」」 赤面した2人の怒鳴り声と共に、彼女たちのダブルビンタが俺の顔に炸裂した。 * ――カリン視点 昼休み、私は食堂の2人掛けテーブルに1人で座っていた。 ユキカも誘いに行ったのだが、運悪く教室を出た後だったのだ。 おそらく紅月のバカを探しに行ったのだろう。 「ユキカも大変ね。あんなバカの面倒を見ないといけないなんて」 ご両親に頼まれているからとはいえ、食事の世話から果ては朝の―― 「っ!」 今朝の光景が脳裏に蘇り、思わずスプーンを半熟オムライスに突き立ててしまった。 (ユキカのためとはいえ、よりにもよってあんな奴にオナラを嗅がせるなんて・・・!) ガシッ!ガシッ!ガシッ! 「半熟オムライスに何か怨みでもあるの?」 「えっ?」 ふいに掛けられた声で我に返る。 いつの間にか向かいの席に1人の少女が座っていた。 桐生(きりゅう)エリカ。 私と同じ2年生で、隣のクラスに在籍している。 本人曰く、お下げ髪と眼鏡がトレードマークらしい。 「私もオムライスは半熟卵にデミグラスソースより完熟卵にケチャップの方が好きだけどさ。そんなにスプーンでめった刺しにする事はないんじゃない?」 「いや、これは別にそういう事じゃなくて!というか、いつの間に来たの!?」 「ついさっきよ。ちゃんと座っていいか確認したんだけど、聞いてなかったみたいね」 「ご、ごめんなさい」 「別に気にしてないわ。改めて訊くけど、此処空いてる?」 「え、ええ、大丈夫よ」 「よかった。じゃあ、いただきます」 エリカが自分のきつねうどんを啜り始めたので、私もグチャグチャになってしまった半熟オムライスを食べ始める。 「それで、どうして半熟オムライスに八つ当たりしてたの?」 「や、八つ当たりなんかしてないわよ!」 「まあ、無理には聞かないけどね。あっ、話は変わるけど、珍しいジュースが手に入ったんだけど、カリンも飲んでみる?」 カリンが差し出したのは、350mlのアルミ缶。 見慣れないデザインで、大きなサツマイモのイラストがプリントされていた。 「プラチナ芋ジュース。蘭院学園で限定販売されてるレア物だよ」 「蘭院って、確か結構なお嬢様学校よね?あそこの限定販売って、どうやって手に入れたの?」 「知り合いがそこで保険医をやってるのよ。ほら、遠慮せずに飲んでみて。お金は要らないから」 「う、うん、ありがとう」 エリカがプルタブを開けてしまったので、私はお礼を言って一口飲んでみる。 「どう?美味しい?」 「何というか、甘い野菜ジュースって感じね。まあ、不味くはないけど」 ちょうど喉が渇いていたので、そのままゴクゴクと3分の1ぐらいまで飲み干す。 「あっ、そうだ。紅月の事なんだけど」 「ぶっ!?」 「わかりやすい反応をありがとう。でも、行儀悪いからジュース吹くのはやめた方がいいわよ」 「ご、ごめん!」 ジュース塗れになった眼鏡を拭くエリカに、私は慌てて頭を下げた。 * エリカに平謝りする事になった昼食の後、私は校舎の外れにある空き教室へと向かっていた 「くっ、何で急に・・・!」 目的地に着いたところで急いで中に入り、素早く扉を閉める。 直後、 ブウウウオオオオォォォォーーーッッッ!!! 教室内に轟音が響き渡った。 「っ~~~~!?」 予想を超える大音量に、顔から火が出そうになる。 そう、轟音の発信源は私のお尻。 1拍遅れて強烈な腐卵臭が周囲に立ち込め、否が応にもそれが自分のオナラである事を思い知らされる。 だが、羞恥に悶えている暇はない。 ブボォッ!ブブゥッ!ブブーッ! 今、私のお尻は決壊寸前のダムのような状態だ。 1歩踏み出すごとに、お尻から小さなオナラが漏れ出してくる。 少しでも気を抜いたら―― 「っ!?」 ブブブッスウウウウウウウーーーッッッ!!! 言ってる傍から特大のオナラを出してしまった。 (やっぱりトイレに行かなくて正解だったわね) こんな大きな音でオナラをしていたら、それこそ赤っ恥を掻く事になっただろう。 (まだ出そうだし、此処で全部出し切るしかないわね) 我慢するのは無理そうなので、オナラを出し切る方向に切り替える。 「んっ!」 ブウウウウウウウウウウウーーーッッッ!!! スカートをたくし上げて両手でお腹を軽く押し込むだけで、すぐに轟音のオナラが噴き出してきた。 「それにしても、どうしてこんなにオナラが・・・んあっ!」 プピイイイイイィィィィィ~~~ッッッ!!! やはり、1番怪しいのはエリカがくれたジュースだ。 しかし、お腹を壊すならともかく、こんなにオナラばっかり出るというのは、どういう事なのだろう? 「んんっ!」 ブオオオオオオォォォォォ~~~ッッッ!!! とにかく考えるのは後回しだ。 今は一刻も早くお腹の中のガスを出し切って―― ガラガラガラ・・・。 「えっ?」 何発目かのオナラを放った瞬間、ふいに教室の扉が開いた。 「あ、ああ・・・」 そこに立っている2人を見て、私は血の気が引いていくのを感じる。 驚きの表情を浮かべている紅月ヤシロとユキカだ。 「カ、カリン、さん・・・?」 「!」 ユキカが躊躇いがちなユキカの声で我に返った私は、 「見るなああああああああああああああ!」 すぐさまスカートを戻し、ヤシロの鳩尾に掌底を叩き込んだ。 * ――ヤシロ視点 事の起こりは、今日の4限目まで遡る。 後10分ほどで授業も終わるという時、いきなり俺の机が壊れたのである。 前からガタついてはいたのだが、ついに脚を支えるボルトが折れてしまったのだ。 その時間はガムテープで応急処置をしたのだが、さすがにそのまま使う訳にも行かない。 担任に相談し、空き教室の使っていない机を取りに行く事になった。 昼休みなので先に昼食を済ませ、何故か着いてきたユキカと共に、空き教室へやってきた。 そこで、訳もわからないまま、先客だったカリンに掌底を喰らわされたのだ。 「要するに、オナラが止まらなくなったから、此処でガス抜きしてたんだな」 鈍痛のする鳩尾を撫でながら、確認するように問い掛ける。 「そ、そうよ!何か文句ある!?」 「いや、ガス抜きしてた事に文句はないが、掌底を喰らわされた事には――」 「女の子の恥ずかしいシーンを見たんですから、先輩の自業自得です」 「俺のせいかよ!?」 「それにしても、こんなにオナ・・・アレが出るなんて、もしかして身体の具合が悪いんじゃないですか?」 ユキカが周囲に立ち込める臭気にほんの少し顔を顰めながら言う。 「多分、原因はエリカがくれたジュースだと思うんだけど・・・」 「ああ、ほぼ間違いないな、それ。あいつ、『オナラソムリエ』を自称してるらしいから」 「なっ!?どうしてそういう事を先に教えてくれなかったのよ!」 「俺に当たるなよ!」 「はっ!もしかしてあんた、ユキカにもあのジュースを飲ませた事あるんじゃないでしょうね!?」 「なっ!?そうなんですか、先輩!?」 「そんな訳ないだろ!そもそも何で俺が好き好んでユキカのオナラなんか嗅がなくちゃいけないんだ!」 「私なんか、ですか」 ふいにユキカの声のトーンが下がった。 「そうですよね、先輩にとっては私なんか臭いオナラをするだけの女の子ですよね」 「えっと、そこまでは言ってないんだが・・・」 「カリンさん」 「はい!」 ユキカの迫力に気圧され、カリンが気を付けの態勢になる。 「すみませんが、暫く先輩を押さえててください」 「は、はい!」 ユキカの言葉に頷き、カリンが手近にあった机に俺の上体を組み伏せる。 間を置かず、ユキカがスカートをたくし上げて俺の方へ尻を突き出してくる。 視界をユキカのパンツ(ピンクのチェック柄)が覆った直後、 ボッフウウウオォォォォーーーッッ!! ユキカの放った大音量のオナラが俺の顔を包み込んだ。 「むぐううううっ!?」 「んんっ!?」 その熟成が進んだ糠漬けのような悪臭(におい)に、俺だけでなく後ろのカリンまで苦悶の声を上げている。 「どうせ私はオナラの臭い女の子ですから!遠慮せずにブーブー出させてもらいます!」 「ごほっ、ごほっ・・・そうよ、ユキカ!手加減なんてする必要ないわ!」 「お前も咳き込みながら煽ってんじゃねぇよ!」 「んんっ!」 ブウブブブブブウウウウウーーーッッッ!!! カリンに促され、ユキカがさらに強烈なオナラを浴びせてくる。 「むうううううっ!?」 「むぐっ!?も、もっと、もっとよ、ユキカ!」 「はい!ふんっ!」 ブビビビビビィィィィィィ~~~ッッッ!!! 「んむうううううっ!?」 「むぐっ!?」 次々と浴びせられるオナラに、頭の中までオナラ色に染まっていく。 「4発目、出し――」 ごろごろごろごろ~っ! ユキカが4発目のオナラを出すより早く、背後から雷のような声が聞こえてきた。 「ユ、ユキカ、ごめん。ちょっと交代して」 「わかりました」 ユキカが頷くと、彼女と交代する形でカリンが俺の方に尻を突き出してくる。 「あ、あんまり見るんじゃないわよ」 カリンがスカートをたくし上げ、黒い紐パンを露わにしながら言う。 「言ってる事が矛盾してるだろ!見られたくないなら、何で紐パンなんか穿いてんだよ!」 「し、仕方ないでしょ!下着を脱ぎ切らないと、トイレができ・・・って、何を言わせるのよ!」 「いや、自分で勝手に言ったんだろうが!」 ブボボボボォォォォォォーーーンッッッ!!! カリンの怒りを表すように、彼女の尻から大砲のような音のオナラが放たれた。 「ごはっ!?」 「んんっ!」 「ご、ごめんなさい、ユキカ!大丈夫!?」 ユキカの漏らした苦悶の声を聞いて、カリンが慌てた様子で問い掛ける。 「だ、大丈夫です、カリンさん。私に構わずガス抜きを続けて――」 「んあっ!」 ブウウウウウウウウウウウウーーーッッッ!!! ユキカが言い終える前に、カリンの尻が決壊する。 「むううううううっ!?」 「んんっ!?」 さすがに2連発のオナラはきつかったのか、ユキカの拘束の手が緩む。 (今だっ!) このチャンスを逃すまいと、俺は最後の力を振り絞って上体を起こす。 だが、 ドサッ! 勢い余ってそのまま背中から床へ倒れ込んでしまう。 「せ、先輩!大丈夫ですか?」 今のを見て我に返ったのか、ユキカが心配そうに問い掛けてくる。 「あ、ああ、何とか・・・むぐっ!?」 起き上がろうとしたところで、黒いパンツに包まれた尻が顔めがけて降ってきた。 次の瞬間、 ブブブッブブッブブブウゥーーーッッッ!!! 猛烈な臭気が俺の顔を呑み込む。 「カ、カリンさん、そろそろ先輩を許してあげたら・・・」 「ダメよ!こっちは死ぬほど恥ずかしい目に遭ったんだから、紅月にも死ぬほど臭い思いをしてもらうわ。ほら、ユキカも!」 「は、はい!」 先程とは逆に、今度はユキカの方がカリンの剣幕に気圧されたのか、 ずしっ! 彼女も俺の顔に座り込んでくる。 ちょうど顔の上半分にユキカが、下半分にカリンが座り込んでいる格好だ。 「むぐっ!?」 2人分の体重に加えて、パンツに染み込んだオナラの残り香が俺の鼻を容赦なく痛め付けてくる。 だが、それだけでは終わらない。 「「んんっ!」」 ブウオオオオオオオオオオーーーッッッ!!! ブッスウウゥゥウゥウウゥゥウゥッッッ!!! 「むぐううううううっ!?」 ユキカとカリンが同時に放ったオナラが鼻の中で混ざり合い、肺から全身を侵食していく。 「せ、先輩!大丈夫ですか!?」 「平気よ。人間がオナラぐらいで死ぬ訳ないでしょ。ふんっ!」 ブオオォオォォオオォオォォ~~~ッッッ!!! ユキカの心配を一蹴して、カリンはさらにトロンボーンのような重低音のオナラを浴びせてくる。 「むううううううっ!?」 「ほら、ユキカも!」 「は、はい!んんっ!」 ブバスッ!! 「むううううううっ!?」 「もっと思いっ切りよ!」 「ふんっ!」 ブブッブウゥゥウゥゥウゥゥ~~~ッッッ!!! 「っっっっっ!?」 ユキカの糠漬けのような悪臭(におい)を浴びて声にならない声を上げ、 ブッフウウウオオォォォォォーーーッッッ!!! 間を置かず、カリンの腐卵臭のオナラが追い討ちを掛けてくる。 「ユキカ、もう1発よ!」 「んんっ!」 カリンに言われるまま、ユキカが次のオナラを放とうとする。 しかし、 プスゥゥゥ~~。 出てきたのは、風船が萎むような時のような弱々しいオナラだった。 「す、すみません、カリンさん。もう出ないみたいです・・・」 ユキカが申し訳なさそうに言う。 「わかったわ。じゃあ、ユキカの分も私が・・・ふんぬっ!」 ブブブブブブブブブブブブブゥ~~~ッッッ!!! 雄々しくすらある声と共に、カリンがこれまで以上に強烈なオナラを浴びせてくる。 「っっっっっ!?」 頭の中まで黄土色に染まったような感覚。 もはや声を上げる事もできず、全身が感電したかのようにビクビクと痙攣するだけだ。 「もうやめてください、カリンさん!先輩が痙攣してます!」 さすがに危険だと判断してくれたのか、ユキカが俺の顔から立ち上がり、カリンを制止しようとする。 「わかったわ。ユキカがそこまで言うなら・・・」 ユキカの必死さが伝わったのか、カリンがようやく俺の顔から腰を上げてくれる。 (た、助かった・・・) 俺が胸を撫で下ろした瞬間、 ずしっ! カリンが勢いよく俺の顔に座り込んでくる。 「この1発でトドメを刺してあげるわ。ふんぬぅっ!」 ブブブブブブブウウウウウウウーーーッッッ!!! 壮絶。 そう形容するしかないほど凄まじい轟音とそれに見合うだけの濃密かつ凶悪な悪臭(におい)。 当然、弱り切った体でそんな核爆弾のような臭気に耐えられるはずもなく、全身が内側から腐っていくような感覚を覚えながら、俺は意識を失った。 * 最初に知覚したのは、後頭部に感じる柔らかさだった。 「気が付いた?」 「逢坂・・・?」 ゆっくり目を開けると、カリンの顔があった。 どうやら彼女に膝枕されているらしい。 本来なら驚いて飛び起きるところだが、あいにく今の俺にそれだけの余力はない。 「ユキカはどうしたんだ?」 「教室に戻ったわ。ユキカまで授業をサボる事はないしね」 「授業・・・!?」 慌てて腕時計を確認すると、既に5限目も終わろうという時間だった。 「またあの数学教師にどやされそうだな」 「そうね・・・って、気が付いたなら、さっさと起きなさいよ!」 「ああ、わかってるよ」 軽い眩暈に耐えつつ、俺はフラフラと上体を起こす。 そこで気付いたが、まだ教室内にはオナラの残り香が漂っていた。 「どんだけオナラしたんだよ、お前ら?」 「全部エリカのせいよ!今度会ったら――」 「どうするの?」 「「えっ?」」 俺たちが声のした方に視線を向けると、扉の所に件の少女――エリカが立っていた。 「面白そ・・・もとい、嫌な予感がしたから、様子を見に来たのよ。ジュースを渡した責任もあるしね」 「今、明らかに『面白そう』って言いかけたよな?」 「細かい事を気にしてると、英雄にはなれないわよ」 エリカが目玉のような玩具を取り出しながら言う。 「いや、英雄なんてなろうとした時点で終わりだろ」 「そんな事より、あのジュースは何なのよ!蘭院学園で売ってるなんて言ってたけど、あんなお嬢様学園でオナ・・・アレが出るジュースなんて売る訳がないでしょ!」 「その辺はご想像にお任せするわ」 興奮するカリンとは対照的に、エリカは涼しい表情で応じる。 「ちなみに、もっと強力なタイプFっていうのもあるけど、飲んでみる?」 「その言葉、宣戦布告と受け取ったわ」 カリンが幽鬼のような動きで立ち上がる。 口角は持ち上がっているが、その目は全く笑っていない。 「こ、高坂、桐生はこの場を和ませようとしてくれたんだ。本気じゃないから、そんなに怒るな」 「いや、半分・・・プラスその半分ぐらいは本気よ」 「お前も煽るな!というか、75%も本気なのかよ!?」 「冗談よ。これは後で私が飲むの・・・って、聞いてないわねっ!」 言いたい事を言い切ると同時に、エリカが弾かれたように走り出す。 「待ちなさい、エリカ!」 エリカを追って、カリンが教室を飛び出していく。 そのタイミングを見計らったように、5限目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。 「・・・教室に戻るか」 5限目は結果的にサボってしまったが、6限目からはちゃんと出ないといけないからな。 「おっと、忘れるところだった」 教室を出る直前、此処へ来た本来の目的を思い出す。 そう、俺は此処に新しい机を取りに来たんだった。 「これでいいか」 選んだのは、先程まで俺が組み伏せられていた机だ。 他のでもいいが、一緒にオナラを浴びた仲だしな。 「ん?」 何気なく足元に目をやると、何やら黒い物が落ちていた。 「何だ、これ?」 拾い上げてみると、それは砂時計のような形をした黒い布だった。 しかも、4つの角からは細い紐が伸びて・・・っ!? 「なっ!?」 布地の正体に気付き、思わず声を上げてしまった。 間違いない。 これはカリンの穿いていた紐パンだ。 おそらく先程のドタバタでサイドの紐が解けてしまったのだろう。 「こんなの、どうすりゃいいんだよ?」 溜め息混じりに問い掛けた直後、 「先輩、大丈夫でしたか!?」 ユキカが息を荒げながら教室に駆け込んできた。 「よかった、気が付いた・・・先輩、何を持ってるんですか?」 「い、いや、これはさっき高坂が桐生を追いかけていく時に落とした物で、決して俺が脱がせた訳じゃ・・・」 「実は、ちょうど桐生先輩からカリンさんが飲んだのと同じジュースを貰ったんです」 俺の言い訳を無視して、ユキカが「プラチナ芋ジュース」と書かれた缶飲料を一気に飲み干してしまう。 「さあ、始めましょう。休み時間は限られていますから」 「いや、だから・・・」 「先輩、もうひとっ走り、付き合ってくれますよね?」 「・・・はい」 底冷えする声で問い掛けてくるユキカに、俺は頷くしかなかった。 終