ここまでがプロローグになります!!
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【タイガーランド城】
客室にて聖書を読み終えていた神父ゴートは、ベッドの上で瞑想をしていた。
しかし、そわそわして集中しきれていなかった。
それはなぜか。
ゴートのあのにやついた顔を見ればなんとなく予想はつくだろうか。
今日、ゴートは公用にてこのタイガーランドへと来ていた。
つまりは、仕事で仕方なく……というやつである。
本来、彼の任務はICPO新長官から下された【とある人物の警護】であった。
だが、その人物は行方をくらませており、その捜索も兼ねてゴートはこの地へとやって来ていたのだった。
正直、連日のように任務の催促をしてくる柴犬刑事や、かつての仲間たちからの愚痴など、方々から板挟み状態にされたゴートは睡眠がうまく取れておらず、本日の朝方も寝不足であった。
眠気のある中、大臣たちとの謁見予定を待っていると、最初に扉を潜ってきたのは一番会いたかった人だった。
ゴートにとって本日最大のサプライズとも呼べるゲスト……夜見野彼岸の登場。
それは、ゴートの眠気を一気に晴らすほどの強烈なものであった。
神父ゴートは人の心を読む能力を有している。
相手の本心や裏の姿なんかも彼の前では手に取るように分かってしまう。
ゴート曰く『魂の質』というものが、それぞれに存在し、それぞれを形作っているとか。
そんな能力を持ってさぞ良い思い出ばかりかと思われるかと思うが、実際ゴートは真逆である不幸な思い出ばかりに見回れていた。
孤児院で育ててくれた育ての親とも呼べる人たちは殺され、大切なものを奪われ、利用され捨てられ裏切られ……。
心の邪悪なものばかりを見てきた彼はいつしか、他人に興味を持たなくなる性格になっていた。
そんな折……陰陽師の里にて秘宝を盗み出そうとした彼はそんな宝よりも美しいものを見つけてしまう。
それが夜見野彼岸であった。
彼が彼岸を見たとき、思わず彼は見とれてしまっていた。
あんなにも美しい魂を見たのは生まれて初めてであった、と彼は語る。
彼岸の過去を下調べで知っていたゴートにとってそれはそれはとても衝撃的であった。
彼岸は幼い頃に霊力の高さに嫉妬した父親によって陰陽師の里へ実質捨てられるような形で無理矢理連れてこられ、母親と弟から引き離されてしまう……更に、人間たちにより監禁され強姦され続けるという屈辱を与えられた事もあった。
のにも関わらず、彼岸があそこまで清らかで美しい魂で存在しているのは奇跡だった。
この世界のあらゆる事象、神々の超越した技術などには全く興味の無いゴートが初めて興味のあることを見つけた。
気づくと、彼岸の事を想像するだけで彼は……興奮するようになっていた。
その初めて出会った日以降、ゴートは時間の許す限り彼岸を眺める事が日課になっていた。
料理してる彼岸、陰陽師をしている彼岸、ご飯を食べる彼岸、眠そうにしてる彼岸、お風呂に入ってる彼岸、滝にうたれる彼岸、舞を踊る彼岸……。
ゴートの教会にある部屋には彼岸に由来するものが多く保管されている。
彼岸の写真は勿論、彼岸の使った食器、彼岸の使った歯ブラシ、彼岸の使ったパンツ、彼岸の使ったティッシュなどなど……。
彼にとって彼岸に関するものは全て宝でありコレクションなのだ。
そして、今日も彼岸が先ほど応接室で使っていたティーカップで寝る前の紅茶を飲んだところで、部屋の扉を叩く音がする。
「こんな夜遅くに……誰ですか?」
扉を開けると、そこにいたのは雨宮ユリウス……先ほどの説明にあった柴犬刑事であった。
「ゴート、用件は分かってるな?」
「報告資料は先ほど長官殿に送りました。 お帰りくださーい」
「待て!扉を閉めようとするな!」
「もうなんなんですか……私はこれから寝るとこなんですよ。 明日じゃダメですか?」
「お前、この国に夜見野彼岸がいることを何故私に伝えない」
「彼岸くんは居ませんよ。 お帰りくださーい 」
「だから扉を閉めようとするな! 仕方ない……獄炎殿」
「あいよ、失礼するよいつかの黒山羊の小僧」
ゴートの抵抗むなしく、客室へ獄炎とユリウスはずかずかと侵入してしまう。
のだが……。
「な、なんだここは」
「おい、これはなんだ」
部屋の中では数名の衛兵が倒れ、更にはベッド脇の椅子にはぐるぐる巻きにされて縛られたマグナ国王がいたのだった。
「ゴート……これは!!」
「柴犬刑事くん。 絶対に彼らの拘束は解かないでください……また、殺されそうになるのは勘弁なので」
「なにがあったんだ、ゴート……!!」
次の瞬間、閉めたはずの扉が勢いよく蹴られ、ぞろぞろと甲冑姿の衛兵たちが現れるのであった。
しかし、皆なにか様子がおかしかった。
なんというか、虚ろな目で、まるで意識がないような……。
「やれやれ、また来ましたか……厄介な悪霊ですね」
「悪霊???」
「そこの牛の人。 陰陽術【浄化の陣】にて彼らを……」
「貴様、何故我らの術を……後で聞かせてもらうからな! 陰陽術【浄化の陣】!」
獄炎の取り出した札が光った瞬間、部屋に居た者たちの身体から黒い影のようなものが吐き出され、窓を突き破り出ていってしまった。
「ふう……これでひと安心です」
「ゴート、説明しなさい!! タイガーランドでなにが起こっているのですか!」
「具体的に私も全て把握しているわけではありませんが、先ほどの悪霊の心を読んだときに出てきたのは【シャララーク】という名前でした」
「シャララークだと!!」
三将である獄炎。
勿論彼もまた、彼岸と同様にあの事件の時……この場所に居た。
故にその名前に聞き覚えもあったのだ。
「あいつが復活してるとなると……ユリウス殿。 これでは彼岸の力を借りねばなりません」
「獄炎殿ではそのシャララークとやらは倒せないのですか?」
「ダメです……このシャララークの厄介なところは、呪術を扱える悪霊であるということ……かつて、この国の国王と王妃や多くの民を呪い殺した恐るべき存在です。 あの時は彼岸の【破邪の法】により国も我々陰陽師も助けられたようなものです……」
「……ならば、皇さんか雷オーナーを呼んで……」
「雷オーナーは入院中、皇さんはその治療を行っている身……まず無理でしょう」
柴犬刑事が悩んでいる最中、外がなにやら騒がしくなっていた。
恐る恐る外を見たゴートと獄炎の目に映ったのは、タイガーランド中を覆い尽くすほどの巨大な五芒星の光る陣形であった。
そして、その中心に立っていたのは……。
「「彼岸!!」」
天海の陰陽師【夜見野彼岸】、そして虎族王族御子【銀】であった。
「さあ、シルくん始めるよ!」
「はい、先生!」
彼岸は静かに上空の陣形の真ん中で舞を始める。
しなやかであり強かなその舞は、美しいという表現がふさわしかった。
ゴートのシャッター音が止まることが無いように、彼岸は続けて舞っている。
それに準ずるかのように、【銀】も彼岸と同じように舞っていく。
「彼岸くんいいよ彼岸くん……たまらないですねぇ」
「あれは、白虎の舞!」
「白虎の舞??」
「聖なる守り神【白虎】の如く荒ぶるような舞によって発生する雷を操り、邪を滅する陰陽術の奥義の1つ……」
「彼岸くん……あぁ、彼岸くん……君は本当に美しいですね……む?」
ゴートと獄炎はふと陣形の回りに黒い影のようなものが集まり始めていることに気づく。
そして、それは黒い大きな虎の姿に彼岸たちの前に現れるのだ。
「シャララーク……!!」
「久しいな、狐の小僧……それに初めまして御子殿」
「……シルくん、集中を切らしてはいけないよ」
彼岸は目の前に現れたシャララークを無視して、舞を続けていた。
銀もそれに合わせて再び舞始めるのだが……。
「おいおい、貴様ら……わざわざ来てやったんだ。 なにかしら挨拶しろよ」
「シルくん、この先の足さばきはかなり難しいから気をつけて」
「は、はい!!」
「こっちをみろや!!夜見野彼岸!!」
「お前……うるさい」
「!!」
自動的に召喚されていた十二支の1人【卯】の攻撃により、悪霊の頭は潰されるが、即座に修復する。
それに合わせるかのように、他の式神たちも現れるのであった。
「でたな……式神【十二支】」
「主の邪魔……許さない」
「式神【卯】……おのれ、よくも……!!」
そういって悪霊の手が卯に届きそうになった瞬間、雷が彼の手に直撃する。
その一撃は本来霊である彼には効かないはずの霊体に傷をつけ、その部分を削り取っていた。
「なんだ!!」
「陰陽術【白虎の舞】……発動」
狐と虎の舞がここに始まった。
タイガーランド全域を覆い尽くす陣形から、雷が国へと降り注ぐ。
それは建物を破壊することなく、落ち続け、人体に当たってもなにも影響はない不思議な雷であった。
しかし、国民たちや旅人たちにひとたびその雷が当たると、なにやら黒い影のようなものが引きずり出され雷に包まれ消滅していく。
それはシャララークが国全体にかけた自身の分けた魂であった。
「やめろぉぉぉ、やめろぉぉぉ!! せっかく復活したのに……やめろぉぉぉ!!」
降り注ぐ雷は決して彼を逃さない。
どんな小さいものですらも、成す統べなく雷が確実に消していっている。
「シルくん、大丈夫ですか?」
「はぁ……はぁ……はい!!」
「後少しです! このままいきますよ!」
彼岸は汗1つかかずに舞っているのに対し、銀はかなり疲弊しており汗でぐっしょりであった。
しかし、彼は舞を夢中で躍り続ける。
なにせ、大好きな先生からの稽古である。
やめたくてもやめられないほどに彼は今夢中であった。
「やめろやめろやめろぉぉぉぉぉ」
「十二支のみんな! そろそろやるよ!」
「「了解!」」
彼岸はこの状況下で更に術を発動しようとしており、しかも十二支……シャララークの頭をよぎるのは【破邪の法】であった。
それだけはなんとしてでも防ぎたかったが、魂も残すところ後少し……力がでない。
「やめ……」
「よくも僕の弟子に怖い思いをさせたな……裁きを受けよ!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
「破邪の法、発動!」
雷、そして邪なものを滅する強烈な光。
悪霊シャララークは、その圧倒的力の前に成す統べなく打ち倒されるのであった。
夜が明け、悪霊は完全に消え失せた虎の国タイガーランド。
マグナ国王と銀は抱擁をかわしていた。
彼岸、そして銀により事情を聞かされ驚いた国王であったが、逆に労いの言葉をかけ、感謝を述べた。
「再びこの国を救ってくれて……なんとお礼をいって良いか……」
「マグナ国王いいんですよ。 それでは約束の報酬を……」
「ちょっと待った!!」
感謝の最中、空気を読まずにやってきたのはご存知ICPO柴犬刑事【雨宮ユリウス】であった。
ユリウスはずかずかとやってきて、彼岸の前に凛と立っていた。
「ようやく見つけましたよ、夜見野彼岸」
「ユリウスさんお久しぶりですね。 また、和食が食べたいんですか? 申し訳ないですけど私は今旅をしていまして」
「その旅が問題なんだ。 何故なら君には逮捕礼状が来ている」
「逮捕礼状??」
「その証拠に……ん? あれ? あれ???」
ユリウスは持ってきていたはずの逮捕礼状を取り出すと、半分ほど食い破られた跡になっていた。
さらに、唾液やらなんやらで字が滲んでおり、とてもじゃないが……読めない。
「ユリウスさん、それ逮捕礼状だっていうんですか? どうみても汚いメモ帳にしか見えませんよ」
「あれ?? そんな……獄炎殿??」
「そんな悲しそうな顔で見られても……ユリウス殿。 逮捕礼状がなければ彼岸を捕まえることが出来ないのでは?」
「いや、逮捕は無理でも任意同行なら……」
「ICPOの刑事殿……先ほど我が国を救った英雄を連れ去ろうと言うなら、これは国際問題として……」
ごちゃごちゃともめ始めたのをきっかけに、銀はこっそり彼岸を連れてその場から忍び足で抜け出していく。
そして、彼岸を連れて自室に連れ帰るとすかさずドアの鍵を閉じてしまうのであった。
「シルくん?」
「これで時間が稼げるかな……」
「??」
「彼岸先生、これ」
そういって銀が渡したのは彼岸が読みたがっていた【生命虎】であった。
古びた本で、所々がボロボロであったが、幸いにも文字のかかれた部分は全て無事であった。
「ありがとう……シルくん」
「彼岸先生……国を救ってくれてありがとうございました。 これで天恵の儀を無事に執り行えます」
「よかった……」
「先生、1つだけ聞いても良いですか?」
「なにかな?」
「先生はなにをしようとしているんですか?」
「なにをしようとしているか? 僕の旅の目的を聞きたいのかな?」
「はい……先生なんか寂しそうな顔をしてるので、誰かを探しているのかなと思ったんですが違いそうですし……それに、刑事さんたちが先生を追いかけてくるのはおかしいかと思いました」
「……いいよ。 話す」
「ごくり……」
「二ヶ月前、天来学園にて起こった事件を知ってるかな?」
「秋月楓博士の乱心の事ですね?」
「あの時、秋月楓を倒すことには成功した……でも、その代わりに……僕が大切にしていた友達が死んでしまってね……」
「友達……」
「秋月楓の魂を黄泉の国へ連れていく代償……仕方ないことではあった。 けど、どうしても許せなかった……彼は僕たちに関わらなければもっと長生きできたかもしれない……そう思うと……ねぇ」
「彼岸先生……」
「だから、僕は禁忌を犯しても彼を蘇らせようと思った。 死者復活という禁忌をね」
「……」
「だから、僕は本来君から先生と言われる資格の無い男なんだ。 昨日教えた舞は先生として弟子に教える最後の術……途絶えさせないために継承し続ける必要のある術なのさ」
「……」
「シルくん……君はいずれ立派な陰陽師になる。 そして、立派な国王にね……だからこれ以上、僕といるのは……」
「……嫌です」
「シルくん……」
「なるほどなるほど……先生はだから、さっさと終わらせてさっさと帰ろうとしていたんですね……自分勝手な先生だ」
「……嫌いになったかい?」
「俺が先生を嫌いになる……そんなわけないですよ。 僕は先生に救われた……今回も……今度は俺が助ける番です」
「シルくん?」
「その旅……同行させてください」
「!!」
「先生がそこまでいう友達……会ってみたいです。 それに、中途半端に修行をつけていくだなんて、気持ちが悪いです。 習うなら生半可な覚悟ではなく、信念を持って教わりたいです」
「でも君は……」
「大丈夫です。 俺はこの国にしか居たことの無いちっぽけな存在です……だからこそ、あなたとついていけば、世界を知ることもできる。 これは王族としても成長するチャンスなのです」
「だが……」
「ダメです、これは虎族王族からの正式な依頼ですよ彼岸先生……俺を連れていきなさい!!」
シルくんは震えていました。
正直ここまで人に物事をハッキリ言えるのは素晴らしいことです。
でも、本当にこんなことをしていいのでしょうか。
今や僕は死者復活を目論む犯罪者のような立ち位置……今後の彼の事を考えれば……そんな思考がまとまらないうちに部屋の扉を叩く音が鳴り響きました。
「こら、開けなさい! 彼岸くん、君はそんなことを企んでいたのか!」
「銀様!! そこに彼岸くんと一緒にいるのはわかってますよ!」
事情を聞いたであろうマグナ国王と大臣……そしてこの気配は衛兵たちもいるな。
万事休す……かと思ったが。
「彼岸くん!! かまない!! このまま逃げなさい!!」
「我らの国を救ってくれた恩人を守らずして、虎族の誇りは成り立ちませぬ!!」
「なっ、マグナ国王話がちが……」
「衛兵! そこの柴犬と牛を城外へだせ!!」
想定外の反応だった。
驚きのあまり目を見開いてしまっていた。
「銀!! もしも彼岸くんについて行きたいのなら構わない!! そんな閉じ籠った世界にいるより、お前は彼と共に広い世界を見てきなさい!!」
「銀様、でも行くならたまに手紙くらいくださいね!!」
「彼岸先生!!」
「ははっ……全く、君たちは……」
「うぉぉぉぉ!!!」
「ICPOを舐めるなぁぁぁぁぁ!!」
衛兵たちがなぎ倒され、部屋の扉を蹴破り雨宮ユリウスが現れる。
が、時既に遅く、彼岸と銀の姿は消えていた。
「どこにいった!」
「転移の陣……彼岸め、既にこの国にはいないな」
「逃がした……くそっ!!」
壁を思い切り殴る雨宮ユリウスを遠目から眺めていたゴートは、食べかけていた逮捕礼状の紙をごくりと飲み込み空を見上げる。
そこには、彼岸と銀の姿があった。
直後、二人が北西に飛んでいくのを見たのち、荷物をまとめてゴートは彼らを追うのであった。
何故なら【彼岸を護る】ことこそが、ICPO新長官より下された彼の任務だから。
「さてさて、彼岸くんの次の目的地は……っと、この方角は!!」
ここより北西にあるのは獣人たちの中心都市【メトロポリス】。
ICPO本部のある都市であった。
【メトロポリス】
路地裏を歩く小さな影が2つ。
1人は眼帯を身につけた虎、そしてもう1人は口にアイスを頬張っていたユキヒョウであった。
「あれから二か月……約束の時ですねオズ」
「そうですねボルさん。 彼岸さんももうじき来ると思います。 集合場所は事前に連絡して起きましたし」
「ですね……むぅ??」
小さな二人の影に立ちふさがるように、一人のモノクルを付けた灰色の猫がそこには立っていた。
その姿を見て眼帯を付けた虎獣人の少年は口を開く。
「久しぶりですね猫探偵……いや、こうお呼びしましょうか。 ICPO新長官フェイク=ミラージュ殿」
プロローグ、完
次回【第1話-反逆する三匹の獣-】につづく。