いよいよ、天海の陰陽師の本編スタートです。
ーーーーーーーーー
獣人都市【メトロポリス】。
ここは、世界中の獣人たちが組織した国際同盟【アニマ】と唯一無二の世界独立司法機関である【神封鬼】により建設された獣人たちのための都市である。
この都市へは人間の立ち入りは基本的には禁止であるが、ICPO等の一部の機関のみ通行が許可されている。
故にそういった施設は都市の外部に設置されており、中央街へは人間はほぼ立ち入れない状態である。
ありとあらゆる種族が集い、日夜各々の生活、各種族の繁栄、各国への根回し等の業務に当たっている。
街は最新のテクノロジーと各種族の固有能力により人間の国以上の発展を見せている。
空を飛ぶ車、空中に表示される電子画面などなど……。
「わあ、ここがメトロポリスですか先生」
虎族王族の銀はそんな都市へ来るのは初めてである。
年頃の男の子のように目を輝かせ、見るもの見るものへ素晴らしい反応をしていた。
それを見ていた彼岸が思わず笑みをこぼしてしまうようなそんな反応を。
「そう。 ここで僕はある人たちと落ち合う予定になっているんだけど……」
「なるほど! 彼岸先生のお知り合いと出会うわけですね」
「まあ、一ヶ月前までは結構行動を共にしてたんだけどね……ICPOが追ってきてたから別行動してたんだけど……」
「まさか捕まったとか?」
「いや……シルくん。 今から会う人は正直な話……反則級の強さを持ってるおっかない人だから。 そういう軽口は厳禁だよ」
「彼岸先生より強いんですか……?」
「前に手合わせしたけど、決着つかなかった……けど、絶対あの人本気で戦ってないんだよな……」
固唾を飲み込む銀を横に、彼岸は落ち合う場所を手持ちの端末で調べていた。
「あれ、どこだっけな……バー【狗舌】」
「バーってことは、大人のお店ですか」
「あー、まあアルコールも出てるからそういわれればそうかもね」
「エッチなことするんですね!」
「シルくん??」
「エロ同人誌みたいなことするんですね!!」
「シルくーーん??」
「大臣が大人のお店とはそういう場所だと言ってました」
「あの野郎……」
何て事教えてるんだ。
一国の次期国王に……全く。
「主、狗舌あっち……」
「あ、卯。 ありがとう」
式神【卯】。
言葉数の少ない兎獣人の式神。
右目を布で覆い隠しているので、容姿は少し怖い印象を与えるが根はとても素直で優しい彼岸の式神だ。
彼岸の食べてる団子を作る際は、この【卯】が突く餅が重要であるのはここだけの秘密である。
卯の指差す方向……路地の方に小さな看板が見えた。
そこには確かに【バー狗舌】と書いてあった。
「んじゃ、シルくんいくよー」
「あ、はい先生!」
はてさて……ちゃんとあの二人は来てるのかな……。
【バー狗舌】
つい数時間前。
このバーではある問題が起こっていた。
ならず者やらマフィアの幹部など、裏社会に生きる者たちが集うここ【バー狗舌】は、情報機関【ライブラリー】の現統括【ファング】の持ち店である。
故にそういった輩は、白猫ファングから情報を買うために来ているのだ。
「マスター、例の件は?」
「こちらのUSBに全て入っております。 まいどありなのです」
「カカッ!! 全く、いつもながら凄まじい……流石はライブラリーの……」
「約束の報酬はいつもの口座にお願いしますね」
「あぁ……お前さんを敵に回したくないしな……喜んで払わせて貰うよ」
「しっかし、今日も今日とて……凄まじいメンツだな……」
客の一人が店内を見回すが、どれも裏社会で相当名を連ねた者たちであった。
マフィアの次期ボス、やくざの組長、暗殺組織のスパイに、有名な傭兵団たち……。
「まあ個人の自由ですので、うちの経営としては問題ないかと」
「全くあの連中にも物怖じないのは、流石だなファングさんよ」
「まあ、慣れてますから」
カランコロン……っと、扉が開く音がする。
そこに現れた1匹の猫獣人に店内に居たものたちは騒然としていた。
「「き、貴様は!!」」
あんなにも個人個人で各々の話をしていた者たちが声を揃え指を指しその猫獣人を目で捉える。
それもそのはず……そこにいたのは裏社会の敵とも言える警察組織の人間……しかも、その組織の長たる人物であったからだ。
「はい、どうもみなさんこんにちは」
そんな周りの驚きに屈することなく、いつも通りに気だるそうにICPO新長官【フェイク=ミラージュ】は店内へ入ろうとしたが……。
各組織共に、彼により捕らえられた者たちがおり、恨みがあった……故に、彼らから一斉に攻撃を食らうのであった。
が、それは間違いであった。
何せ、フェイクの次に入ってきた人物は、そんな彼らの攻撃を全て止めてしまったのだから。
「「なっ!!」」
「おいおい、ファングくん。 君の店はいつからこんなに混沌(カオス)になったのかね」
右目を眼帯で覆った小さな容姿の虎の少年が指を弾くと、攻撃は全て消え先ほどまで攻撃し殺そうとまでしていた店内はシーンと静まり返った。
圧倒的圧迫感と、強烈な気の力が全員に降り注いでいた。
「すみません、ボルさん。 こんなところにわざわざ来ていただいたのに……」
ファングの放ったボルという単語を聞いて、裏社会の者たちは悪寒が止まらなくなった。
あんなにも強そうにしているマフィアや暗殺組織に至るまでもが身体の芯から凍え震えていた。
ボル……天来学園史上最大にして最強である魔法使いにして、【光の賢者】と呼ばれる男。
その昔、自身が育てていた人間の子供を誘拐しようとした大組織を一夜で壊滅させ、そのボスの保有していた島ひとつまるごと地図から消してしまった程の人物である。
以後、光の賢者は裏社会における暗黙のルールで【絶対に逆らってはいけない人物】とされ、今に至るわけだ。
「全く。 私じゃなかったらフェイクくんまで死んでしまうだろうに」
「でも、ボルさんならどうにかなるでしょうし」
その後ろからちょこちょこと歩いてきたユキヒョウ獣人の少年オズはそうは言うものの……。
彼もまた裏社会では有名である。
別世界【冥界】に住まう悪魔の貴族の一人で、情報機関【ライブラリー】の最高顧問【雷】の経営するレストランに所属する男。
そして、悪魔として立ち回る時は処刑人であり、彼の背中にある大きなデスサイズで魂を狩り取るとされる恐るべき存在。
かつて単独でICPOへ乗り込み、あのフェイクをギリギリまで追い詰めたとされ、裏社会では有名な話であった。
猫探偵フェイク=ミラージュを追い詰めるというのは、裏社会における者たちにとっては栄光あるべき行為である。
何故ならば、フェイクは裏社会からの嫌われ者……まあ、不可能犯罪を立証し、多くの罪人を刑務所へぶちこんでいるのだから反感を買ってしまっているのだけれど……。
それに、フェイクに復讐しようとして逆に返り討ちに合いいくつもの組織が落とされているということもあり、猫探偵を倒すことは裏社会の天下を取るのに最も近いとされる行動である。
故に、フェイクを追い詰めれば追い詰めるほどに実力が認められるというのが現在の裏社会におけるひとつの基準であるらしい。
「でもねオズ。 いきなり攻撃される何て事、私は慣れたくないんだよ。 そんなのは第一次ユグドラシル戦争だけで十分さ」
多くの者たちはその戦の話は知らない。
何故ならば、今から500年前に起こった戦争の名前であるからだ。
歴史の文献を詳しく知らなければその名を知ることすらできないいにしえの戦争……。
そうそう、いい忘れていたがボルは見た目は少年姿であるが、見た目と年齢は比例していない。
彼は始まりの神と呼ばれる存在からこの世界を勝ち取る為の原初の戦より前から生きていた。
その出来事はこの世界が生まれる前……すなわち約140億年前より生きている存在であるということを証明しているのだから……。
「さてさて、ファングくん。 立ち話もなんだから早く席に案内してくれ。 個室で防音設備がある部屋で。それからフェイクくんには泡風呂とオズにはアイスキャンディーを用意して貰えるかね」
「では、特別応接室へご案内致しますね。 こちらへ……」
カウンターの奥にあるスタッフルーム。
そこに隠されたエレベーターを使い地下で降りていくファングたち。
未だに声を発することさえ出来ない緊張感が場を包み込んでいた。
そして、その緊張の糸が切れた瞬間、全員気を失ってしまうのであった……ただ一人を除いて。
「あれがICPO新長官に、光の賢者、そして悪魔の処刑人……ねぇ。 そしてこれから来るのが天海の陰陽師、それから虎族の御子……そうそうたるメンバーだねぇ……」
「きっと、あのお方も喜ばれる事だろう……我らが神たる存在……秋月楓様よ……」
深々とフードを被ったその人物は不気味な笑みを浮かべながら、グラスに注がれた赤い液体を自らに流し込んだ。
そして彼は、不気味な笑みと共にバーから静かに立ち去っていくのであった……。
つづく