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天海の陰陽師【麒麟編】1-終

皆さんこんにちは!

第一話はこれにておしまい!

動き始める邪悪な存在……そして彼岸くんの先祖の話とは。

それでは続きをご覧くださーい。




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 それは今からおよそ数百年前……。

 獣人陰陽師が出来てからまだ日の浅い頃であった。

 その頃、獣人陰陽師を従えていた者……初代の長は、現在の獣人陰陽師を作った創始者であり、かつて御山に身を置いていた1人の狐獣人であった。

 その狐獣人の名は夜見野晴明(よみのせいめい)。

 夜見野家の初代当主であり、夜見野彼岸にとっては古い古い祖先である。

 彼は当時、4人の優秀な陰陽師たちと、さらにその者たちの弟子たちと1つの組織を築き上げた。

 それこそ、現代にまで残る獣人陰陽師の始まりであった。

 その、4人の優秀な陰陽師たちは【四聖獣(しせいじゅう)】と呼ばれ、原初の世界に存在した神獣(しんじゅう)たちの呼称で呼ばれるようになった。

 【白虎】【朱雀】【青龍】【玄武】……。

 それぞれ、陰陽師として流派を作り上げ、暫くの間は平和が続いていた……。

 しかしある時……。

 人間たちの怨念の力により、獣人陰陽師たちが危機に瀕することがあった。

 それは、人間による嫉妬や強欲……そして、憎悪から産み出された負の力が呪術の言霊として獣人陰陽師たちを苦しめることになった。

 夜見野晴明は、そんな世の中を哀れみ……そして、大いに嘆いた。

 獣人と人間、互いに共存できる道を探していく晴明に対して、玄武は人間たちへ怒りをむき出しにしていた。

 

 「なぜ我々がこのようなめに合わねばならぬのだ!」

 「なぜ、晴明殿は人間を倒そうとせぬのか!」

 「晴明殿!! 晴明殿……」


 憎しみや怒りは、怨念を生み、やがてそれは巨大な負の力となり、世の中を大いに乱してしまう。

 晴明は、玄武に言う。


 「我々は我々の道を歩むのです。 多種族、他者と比べてはいけません。 向けられた敵意も悪意も、我々は直視してはいけないのです」

 「玄武殿……我らは争うために陰陽師となったわけではありません……我らは、救いの手を差し伸べるために……護るために陰陽師になったのです」


 夜見野晴明の甘さ……と玄武はこの時捉えてしまった。

 彼は優しすぎる……故に、闘うことを恐れているのだと……。

 しかし、それは違っていた。

 晴明は本気を出せば人類程度、皆殺しにできる程の霊力と術を持ち合わせていた。

 少なくとも、【四聖獣】たちが束になっても敵わない程の膨大な霊力……そして、全ての流派の術を扱える天才的な才能。

 それら全てを持ってしても、晴明にとってはあくまで自分達の目的は助けることであること、護ることであることに信念を持ち、それを貫いていたからこそ、彼はどんな時でも曲がらずへこたれずに、優しさを持ち続けることができたのだ。

 しかし、玄武はそれらをできるほど、器が大きいものではなかった。


 だからこそ、彼は晴明と決別する事になったのだ。


 陰陽師史上最大最悪とされる、【玄武事件】。

 玄武流派である陰陽師たちの反乱により、当時の人間たちはその10分の1が呪いにより床に伏すという出来事が発生した。

 晴明と、白虎、朱雀、青龍は玄武流派を止め、更には主犯である玄武を封じることを決意しそれに動こうとする。

 しかし、玄武は既にその事を想定し、白虎、朱雀、青龍の流派所属の者たちに暗示をかけ、同士討ちをさせ、御山は真っ赤な血の色に染め上げてしまう。

 暗示をかけられたものたちは、自らの喉をかききり、呪詛の発動させ己の魂を差し出されていたのだった。

 そんな状況ですら、晴明は考えを曲げることなく、玄武に今一度優しさを問うが、既に玄武はその耳を持たず……。

 夜見野晴明を打ち倒そうと、玄武流派最強の呪いをかけようとする。

 それは、未来永劫転生することも許されず、肉体を失った状態で無限にこの世界をさ迷わせる禁じられた術【永劫回廊の術】と呼ばれるものであった。

 しかし、晴明にはその呪いは効かず、逆に呪い返しに合った玄武は未来永劫、肉体を失ったまま生き続けることになるのであった。

 肉体を失った玄武は、晴明により【戒めの水晶】と呼ばれるものに封じ込められ、後の世に完成する異能力者投獄施設【封神】の下層部に投獄されることになるのであった。

 そして、未来……玄武が復活するようなことがあれば、かつての仲間として我々が対処するとし、【白虎】【朱雀】【青龍】は、己の霊力を使って不老であり、致命傷を追わないかぎり死なない肉体を自らに与え、御山の地を去っていった。

 残った晴明は、封じられた【玄武】でさえも後の世に称えられる人材として歴史を少しねじ曲げた形で後の世の陰陽師の長たちに話を受け継ぎ、そして陰陽師を見守る存在として、また陰陽師たちが過ちを置かさないように……その身体を宝石に変え、眠りについたとされている。

 それが、陰陽師の宝である【宝玉】であるのだと……。


 「そして現代……先ほど話した通り、【封神】を何者かが破り、多くの凶悪な犯罪者が解き放たれてしまいました。 そして、今回……【玄武】烏海が逃亡したことがわかり、君のところに来たわけだ……彼岸くん……いや、夜見野家次期当主にして、当時の晴明殿以上の霊力を持つ数千年に1人の超天才陰陽師【夜見野彼岸】くん……」

 「……雷オーナー。いえ、【白虎】雷閻殿。 それは即ち、僕が狙われる可能性があると言うわけですよね……肉体を狙われて」


 現在の玄武は未来永劫自然に転生することの出来ない上に肉体を剥奪された云わば魂の存在。

 幽霊……いや、この場合は怨霊とでも呼ぶべきなのか。

 そんな存在になっている以上、新しい肉体を欲しているはず。

 若くて神聖にして新鮮な僕のような肉体をね。


 「……あなた自身の肉体を奪いに来るのは確率として低いですが、あなたが狙われる可能性があるというのは否定できませんね」

 「なぜ、僕が低いんですか?」

 「【玄武】烏海……彼は……」


 ごくりと、彼岸の生唾を飲み込む音が部屋に響き渡り、そして雷オーナーは言葉を繋げた。


 「おそらく、君を娶ろうとするはずです」


 ……。

 ……。

 ……え?


 「え?」

 「え?」

 「え?」

 「え?」


 雷オーナー以外、この場に居たものたちは、きょとんとしていた。

 娶る……めとる……つまりは、嫁にしようとしてるってこと?


 「雷オーナー、こんな時に冗談言わないで下さいよ」

 「いや、冗談じゃない……玄武流派の技に転生に関係した術があってな。 名を【母胎新生印(ぼたいしんせいいん)】……強力な霊力を持つ陰陽師に転生したい魂を孕ませ、その陰陽師の子供として生まれるという……禁術だ」

 「もう、禁術ばっかり!!! 何してるんですか、玄武流派……」

 「その禁術しか新たに転生する術はない……それに、玄武は晴明殿の事が好きだったからな……その末裔であり、晴明殿レベル以上の霊力を持つ彼岸くん……君はまさに理想的な母体なんだろうね」

 「やだ、やだ、もう、やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 孕むとか。

 僕にとっては最早トラウマであった。

 かつて、人間に囚われていた頃に味わった、精液の匂いが記憶のそこから呼び起こされそうになり、僕はその場で嘔吐しそうになった。

 嗚咽が止まらず、汗もぐっしょりとかいていた。

 慌てて、式神と銀くんは急いで僕を介抱していくが、過呼吸まで引き起こされかけていた僕の肉体、そして精神状態は非常に苦しいものであった。


 「彼岸くん落ち着きなさい……それをさせないためにも、私たちはここに来たのです」

 「はぁ……はぁ……」

 「白神くん、あれを」

 「……はい」


 そう言って白神さんは、懐から紙袋を取り出し、それを彼岸の口元にあてがった。

 過呼吸の彼岸にとっては、紙袋を使って呼吸をすることは正しい療法であるが、更にこれには別の効果も存在していた。

 それは、紙袋の中にはかつて彼岸くんが気を許せた人間……天野迅雷がかつて使っていたネクタイが入っていたのだ。

 迅雷くんのネクタイ……即ち、迅雷くんの匂いがついているネクタイである。

 かねてより、天野迅雷という男の匂いが好きであった彼岸にとって、それはアロマオイルと同等とも呼べるべきリラックス成分の塊であった。

 加えて、過呼吸時の正しい療法である紙袋での呼吸も合わさり、彼岸の気持ちはだいぶ落ち着きを見せていた。

 先ほどまであんなにも普段見られないような取り乱しかたをした彼岸を、ここまで正常に戻してしまう天野迅雷という男にこの時、銀は少しだけ羨ましいと思っていた。

 そして、同時に会ってみたいと思っていた。

 あの人間嫌いの先生が、ここまで彼の匂いを嗅いで落ち着ける訳なんだから……。

 きっとすごい人なんだと。

 そう思い始めていたからだ。


 「落ち着きましたか、彼岸くん」

 「ええ、ありがとうございます」

 「礼は白神くんに言いなさい。 私がありのままを伝えたら彼岸くんはこうなるのではないかと心配して、わざわざ用意していてくれたんだからな」

 「あ、ありがとうございます……」

 「……うん」


 落ち着きを取り戻した彼岸に対して、白神は無愛想な返事を返している。

 内心では取り乱しそうな程に、心配してはいるものの、彼は忍びという職業柄、滅多なことでもない限りは感情を表に出さないのである。


 「では、次の用件です……先ほど、話した玄武……そして脱獄した凶悪な異能力者たちを捕縛するため、我々と共に来て欲しい」

 「……でも、雷オーナー。 僕は今ICPOから国際指名手配されている状態です。 そんな状態では表だって動くわけには……」

 「ご心配には及びませんよ、彼岸くん……」


 そう言って、スイートルームのテレビが突然つくと、そこには猫探偵フェイク=ミラージュが映し出されたではないか。

 どこのリゾートだ?というほどに、高級そうな家具に座りながら、優雅に紅茶を飲むフェイクなのだが……。


 「フェイクさん、後ろのそれって……」

 「え? あぁ、気にしないで下さい。 任務に失敗した罰なので」


 フェイクの後ろ……そこには、目を回してロープでぐるぐる巻きにされて天井から吊るされている柴犬刑事の姿があるではないか。

 正直見ては行けないものを見ている気がしてならないが……。


 「さて、心配無用と、僕が先ほど言ったのは、今回の事件を得て、君に協力してもらおうと思ってね……他の長官たちと話し合った結果……君の指名手配は解除しておいた」

 「……話し合ったというか、私が凍らせたの間違いでしょフェイクくん」

 「えっ……ええっ!!」


 すーっと、さらにフェイクの後ろから現れて画面に写るのは、雪見吹雪……彼岸くんの義理の妹であり師匠であり、前獣人陰陽師の長であった。

 相変わらず胸が大きく、フェイクの座る家具の上に寄りかかった乳房を思わず銀は見つめてしまうが、ハッとなり目をそらしていた。

 思春期だなー。


 「なんで師匠がそこに……」

 「実は、獄炎からタイガーランドでの一件を聞いてね。 ICPOの上層部に相談しに行ったのよ。 今の彼岸は三将でも捕らえられないってね。 そしたら、ちょうど例の脱獄事件が発生しちゃって急遽会議に出てくれってフェイクくんに頼まれちゃって」

 「会議は今回の件において誰の責任だとか、そういうくだらないものになっていきましたので、なんか面倒くさくなったので手っ取り早く指揮系統を私に集約させようと考えまして……それで皆さんには氷の中で眠っていて貰うことにしたんです」

 「眠って貰うって……師匠……まさか」

 「絶対零度の陣で会議室ごと凍らせてきちゃった⭐」

 「うわぁ……」


 あんなに楽しそうに笑顔で説明してはいるものの、要するに全員氷の中に閉じ込めて身動きできないようにしたんだろ……師匠。

 流石は絶対零度の吹雪と言われるだけある、氷の陰陽術の使い手。

 末恐ろしい……。


 「さて、議題を戻しましょう……夜見野彼岸くん。 君に【封神】から脱獄した凶悪な3人の犯罪者……これらを捕まえて欲しい」

 「いやいやいや、捕まえて欲しいって……僕警察でもなんでもないんですから……普通に嫌ですよ。 ただでは……」

 「ふふっ……私好みにいい感じに取引を持ちかけるようになってきたね……彼岸くん。 いいでしょう。 では交換条件です。 その犯罪者を捕まえる条件で、私は君に報酬を払いましょう。 勿論、可能な限りですけどね。 間違っても迅雷くんを蘇らせるとかそういう命を扱うことはできませんが……私はあなたに有益な情報を与えられる、という点ではどうですかね」

 「そういえば、情報機関ライブラリーの現統括や世界の情報を集める【記録者(ログホルダー)】と親密な関係……なるほど」

 「捕らえて欲しいとは言っても、あなたは普通に過ごしていればいいです。 どうせ、敵はあなたを狙う可能性があるわけですし、特に玄武は夜見野家の陰陽師に強い執着のある存在……自ずと姿を現すでしょう」

 「もうそれは条件じゃなくて、戦うのが前提だから会ったら打ち負かして捕まえてってことでしょうに」

 「ええ、まあそうですね。 だって犯罪者を捕まえるのは本来警察の仕事なんですから。 そこのぶら下がってるダメな犬には勿論この後奴らを追って貰いますとも。 どうですかね? 彼岸くん」


 彼岸は悩む……このまま彼の言うとおりにして、銀にもしものことがあった場合……それを想定するだけで、はっきりと答えを出せなかった。

 しかし、銀はじっと彼岸の目を見つめていた。

 自分は大丈夫だと……自分を枷と思ってほしくないと。

 その目をみて、彼岸は決意する。


 「わかりました。 引き受けましょう……ただし、情報は前払いです。 それは譲れません」

 「ふむふむ。 ありがとう彼岸くん。 君のことだから情報を先に渡した所で、やめるとか言い出すのは無いだろうと信頼と敬意を評して、その条件で進めて貰えるかな」

 「分かりました……では、フェイクさん……今回脱獄した3人の情報、そして僕が知りたい【ある情報】をお聞かせ願いたい」

 「【ある情報】……というのは?」


 彼岸はゆっくりと深呼吸をし、言葉をこう続けるのであった。


 「神獣【麒麟】……生命の転生と再生を司る存在の居場所です」



 【???研究所-廃墟-】


 今から十数年前……1人の科学者がいたこの研究所。

 その時代は活気があり、現代における進歩の技術はここで行われていると世間に知らしめていた場所。

 とは言っても、実際はその1人の科学者によって行われていた天才の起こす【奇跡】であるのだが。

 つい2ヶ月前にも一時的に使用されていたが、その際……多くの死者を出したこともあり、この研究所は再び廃墟になってしまった。


 その廃墟の一室……かつて、全世界から天才と認められ、そして狂人としても認められた男……秋月楓。

 その秋月楓の部屋に1人、椅子に座りながら退屈そうにポテチを食べている少年がいた。

 少年は獣人であった。

 ピョコピョコと耳を動かしながら、まだかまだかと、とある者を待っていた。

 そして、それは現れた。

 囚人服を着た3人の者たち……そして、バーにいたあのフードの彼も。


 「ボス、連れてきましたよ」

 「ご苦労様、デルタ。 全く君はいつもマイペースなんだから、そうやって僕を焦らしてくれるんだから……で、凶悪な犯罪者さんたち。 初めましてこんにちは……あるいは、こんばんは。 僕の名前は、秋月楓……しがないただの天才科学者だった、故人さ……」


 

 

 

 

天海の陰陽師【麒麟編】1-終

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