長らくお待たせしました!
前回の続きです!
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【鳥ノ国バードランド】
彼岸一行が向かうこの国は、虎ノ国と並ぶほどの古き歴史を誇る国である。
不死鳥によりこの世界に降臨した、獣人一族【鳥族】が安定の地を求め、辿り着いた先は空の上であった。
ここは、天空に浮かぶ島【飛空殿(ひくうでん)】。
そして、その高台に建てられた城こそ、鳥族の王が住まう【風城(ウィンド)】である。
現在この国は、建国記念祭の準備期間中であり、メインイベント【神鳥の奉(たてまつり)】は各国から集まり参列者で後がたたないほどのイベントである。
このイベントは、この国を作ったとされる【不死鳥】の一族が満月の夜に、天空の舞台にて【不死鳥の舞】と呼ばれる特別な躍りを披露することになっており、その舞を観るとあらゆる傷や病を癒すことが出切るという神秘の舞であった。
まあ、その舞を行い続けること数百年……未だに、現役である不死鳥【皇】は何を隠そう彼岸の師匠である。
赤い羽毛の美しき鳥族の陰陽師……朱雀とまで形容される皇は、バードランドにいた。
祭りまで残り数日、彼は国賓として呼ばれ、不死鳥の舞の調整をまさに風城で行っていた。
「1……2……3、上歩、下歩、下歩っと」
「相変わらず素晴らしいですな、皇殿」
「これはこれは、トルネ殿……いや、風の賢者と呼ぶべきかな?」
「いやいや、それを言ってしまうなら私も貴方の事を朱雀の陰陽師と呼ばねばなるまい」
そう笑いかけながら皇に話しかけるこの鳥族は、鳥族の王にして天来学園公認の風の賢者であり、独立司法機関【神封鬼】第一級執行官のトルネと呼ばれる者であった。
鷹のような鋭い顔立ちとは裏腹に、トルネは普段は無類の女好きであり、事あるごとにセクハラ紛いの行為に明け暮れているが、その実、賢者内の強さではあの光の賢者たるボルの次に強いという位置付けをされている秀才であるのだ。
普段の力をボルが眼帯と姿を幼くする事で抑えているのと同じく、トルネは頭につけている冠によってその強すぎる力をセーブしているのである。
「しかし、皇さんも大変ですな。 他の不死鳥は基本的にこの祭事には参加しても、全員【不死鳥の舞】を踊ることができないなんて」
「トルネ殿、なにぶん不死鳥の舞は高等技術故にそう簡単に習得、会得出来るものではないのです。 私とて、この舞を編み出すのに100年はかかっております故に……他の霊力の低い不死鳥たちでは、まだまだ時間がかかりましょう……。 あと、200年もすれば新世代が育ちますよ」
「200年って……まあ、悠久を生きる不死の鳥ならではの時間算出ってところですね……」
「ふむ……だが、まあ……数千年に一人……現れるか分からないほどの超天才児であれば、この舞は数日で物にするでしょう」
「いやいや……そんな天才なんてそもそもめったに現れない……」
「それが居たんですよ。 数千年に一人の超天才児が」
「え?」
「まあ、彼は鳥族ではありませんでしたけどね……」
「もしかして、雷んところで働いてる狐くんかい?」
「彼岸……彼の名前は夜見野彼岸です。 狐くんなどと、軽口に種族名で呼ばないでください」
皇の目は怒っていた。
なぜ、この程度の事でも怒るのか……といえば、不死鳥【皇】にとって、彼岸は特別な存在なのだ。
かつて、自身が師と仰いでいた【夜見野晴明】の末裔であり、そして自身が生み出した数々の術を完全に継承してくれた愛すべき愛弟子……。
これまで、数多くの弟子が皇に寄り添おうとしたが、彼の心はその身の朱き羽毛のような暖かさはなく、深く暗い氷に閉ざされていた。
その心を溶かし、そしていつもどんな絶望的状況下においても明るく照らし続けている彼岸の優しい心。
それは、長年弟子を取れども、最終的に全員が自分の手から離れて別の者へ弟子入りしていた朱雀【皇】にとって、初めて一人前と認めた男に対する敬意でもあったのだ。
故に、皇は彼岸を溺愛している。
これまで数多くの弟子たちに与えられなかった分も、数百年分全て彼岸に注いでいるのだ。
「皇殿がそこまでお熱な彼岸くんか……そういえば、雷から連絡きてて、そのお弟子さんがこっちに向かってるそうですよ」
「彼岸がくる……よし、またみたらし団子でも買ってやろうかな」
「いや、皇殿に用事というわけじゃなくて、俺に用事あるみたいなんだよね~」
「はっ????」
その声は風城中に響いたそうだ。
あまりの声量に、建物が少しびりびりと振動していたとか。
普段の皇から考えられないような声量にトルネも城の近衛兵たちも給仕も、誰も彼も驚いたそうだった。
【黄泉の国最深層『狭間の監獄』】
黄泉の国には、多くの魂が流れ着く。
それは必ずしも善良な魂というわけでもなく、悪人の魂さえもここには流れてくる。
その存在たちは閻魔により、選別され、地獄や煉獄へと送られるわけだが……その中で唯一の例外も存在する。
それは概念的である、因果率を無意識に弄ってしまったものたち……彼らは、選別されはしない。
しかし、彼らはこの黄泉の国にて、その存在を留めさせられるのである。
彼らは概念さえも使役する存在……下手に地獄へ送ると、そこで因果や概念を弄られ、世界のバランスを崩される恐れがあるからと言えば納得して貰えるだろうか。
さて、そんな彼らを閉じ込めるのがここ【狭間の監獄】である。
あらゆる全ての世界軸の壁に属するこの黄泉の国では、あらゆる世界へ通じる境界線が存在する。
その境界線の中心軸こそ、【狭間】と呼ばれる場所であり、ありとあらゆる概念や因果の干渉を拒絶する場所である。
現在、この監獄はたった1人しか収容されていない。
閻魔にさえも、下手に判決を下すわけにはいかなかった現世におけるある意味では【神の実験】の被害者たる人間の男が手枷をつけられその監獄に収容されている。
彼の名前は天野迅雷。
元・全扉の管理人にして、この物語の主人公である夜見野彼岸が助け出そうとしている男である。
「ふぅ……今日もなにもすることがない」
黄泉の国に来て2か月……迅雷はこの場所に順応していた。
朝昼夜にご飯が出てくる以外、彼には牢獄内であれば自由に移動することが許されていない。
基本的に彼が移動できるのは、彼が収容されている六畳程度の一室のみ。
故に常に暇を弄んでいたのだった。
「よぉ、全扉の管理人。 今日も暇してるか?」
「……また、来たんですか。 看守さん」
ここ最近、迅雷の元には一人の看守がつけられていた。
その看守というのがあの男……ジャッカル犬獣人。
死に関係する神アヌビスのような服装と見た目をしている獣人である。
「おいおい、随分なご挨拶だな……俺様も現世の狼たちみたいに骨抜きにしようってか、子猫ちゃん」
「俺は彼らを骨抜きになんてしません。 みんながみんなの思った行動を取ってるだけです」
「ふーん、どうだかね……」
「ん!!」
それは唐突だった。
迅雷の首は大きな黒い手が回され、気づけば先程の犬の顔が目の前にあった。
金色に輝く瞳に吸い込まれるように視線をあてがわれる中、迅雷の唇には生暖かい塗るっとした感触がしていた。
それが、この犬獣人の舌であることに気づくのは、その舌が自身の口の中にヌルッと入ってきたときだった。
喉の奥まで届きそうな程に長い舌は、口腔内を刺激し、更にはほのかに香る甘苦い味わいがどんどんと広がっていったのだ。
迅雷はとっさに後ろに身体を引こうとしたが、首元を手でがっつりと抑えられており、身動きが取れないでいた。
「クチュッ……ジュルッッ」
「んっ!!」
「はぁ~、やっぱり伝説の魔力で溢れる奴との接吻はうめぇもんだ」
「はぁ……はぁ……」
首元にあった手をようやく離され、迅雷はその場に座り込み深く息を吸っていた。
その犬獣人のあまりのねっとりとしたキスにより、喉が一時的に塞がってしまっていた。
故に彼はその間、息が出来なかったのである。
「おいおい、そんなへたり込んでるってことは、俺様のイチモツも咥えたいってか?」
「はぁ……はぁ……こんなこと許されませんよ」
「いいや、許されるねぇ……何せ俺様はお前専属の看守……俺様が何をしようとも、誰も文句は……!!」
バッと、急に後ろを振り向く犬獣人。
突然背後から、何者かに強烈な殺意を向けられた気がしたからだ。
だが、後ろには誰もいない……いつもの監獄の壁である。
では、誰がその視線を送っているのか。
いや、殺意を送っているのか。
それはハッキリとはしなかった。
ただ言えるのは、その人物は相当の手練れと言うことである。
ここ、狭間の監獄には、冒頭の説明どおり……あらゆる力による干渉は出来ない。
故に、今こうして何かしているのは分からないはずである。
だが、その殺気は届いていた。
現世……バードランドへ向かう道中の眼帯をつけた虎獣人から。
水晶越しに眺める最愛の息子を穢す、不届きものへ……。