三話目一気公開、その2です
彼岸くんは思い出す……
二ヶ月前の出来事を
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【二ヶ月前】
レストラン迅凱仙……そこは、獣人たちの世界において数年連続トップに君臨している有名なレストランである。
このレストランで食事を食べることは獣人たちにとってのひとつのステータスであり、美食家であるということを周りに公言することさえも可能である。
だが、このレストランは不定期かつ急な臨時休業が多いレストランである故に予約を取るのが難しいのであった。
なにせ、所属している全員が何らかの裏事情を抱えているからである。
このレストランのオーナーであり、八賢者【雷の賢者】であり、四聖獣【白虎】の陰陽師であり、諜報機関【ライブラリー】顧問でもある雷オーナーは、特に多忙であり、数多くの依頼が彼のもとにやってきていた。
だが、二ヶ月前……彼は瀕死の重傷を負ってしまい昏睡状態であった。
これは、その間に起きた出来事であった。
天来学園最終決戦から数日後……。
レストラン迅凱仙の面々は迅雷の育った故郷である【隠匿森】へと来ていた。
かつて、彼はここで光の賢者ボルによって育てられ、すくすくと成長していった。
故に迅雷には人間世界の友人はあまりいない……何故ならば、彼はずっとここで暮らしていたからだ。
そして、ある日……ライラプスと呼ばれる黒の賢者による襲撃、そしてブレインと呼ばれし元神封鬼執行官の反逆により、光の賢者は迅雷の記憶を改竄し、人間の世界へ逃がした。
それは、ボルにとっては苦渋の決断ではあったが、全扉の管理人たる彼を守り、愛すべき息子を守るには、この森より獣人たちにとって近寄ることのできない人間世界の方が遥かに安全であったためである。
だが、迅雷は確かにここで多くの時間を過ごしていた……故に彼の墓を作るなら……彼を送り、弔うならば、ここ以外にはなかったのだ。
かつて、迅雷が過ごした家の前には献花台、そして彼の遺影が飾られていた。
集まった迅凱仙のメンバー、そしてシロンを初めとする魔法学校の教師、狗狼シバのように迅雷と面識のあったもの、【八賢者】、そして迅雷の母親である時の大賢者ディル……多くの者たちが別れの言葉、感謝の言葉……それぞれの思いを告げ、遺骨も死体も無くなってしまった彼を思い、ただただ言葉を重ねていく……たった一人の狼を残して。
「そら、狼の小僧……お前で最後だ」
「……」
「おい、聞いてるのか?」
「聞いてるよ、獅子野郎……でも、この花を置いたら……」
「別れってのは、突然来るもんさ……」
「ううっ……」
そして、最後の花は飾られ、彼を弔う儀は終わった……はずだった。
だがしかし、突然狂ったように唸り声をあげた一匹の獣は、参列した者の中で1番遠くにいた、それに狙いを定めて手に剣を持っていた。
それは、神の作りし神器【真聖絶光剣】……事象を不可逆にしてしまう剣にして、多くの血を吸ってきた魔剣。
それが、狙うのはただひとつ……天海の陰陽師の心臓であった。
「主になにをする!!」
と、とっさに式神【子】により、軌道は外れたが、くるりと一回転し、秋月紅葉は彼岸の背中を斬りつけたのであった。
白い狩衣が赤に染まり、激痛に耐える彼岸に対して、秋月紅葉は涙を流していた。
だがその目に覇気はなく、絶望に落ちた真っ青な瞳をしていた。
「なにって……迅雷殺しの糞野郎を殺そうとしてるだけじゃないか」
「なんだと……紅葉……」
「だってそうでしょ? 迅雷に頼まれたから? 何で僕に言わないで勝手にお前が決めてるんだよ。 お前は迅雷の恋人じゃない……僕が恋人なんだ」
「じゃあ、なんで迅雷は僕の心の世界に避難してたんだ? 恋人だと胸を張れるなら、なぜ迅雷は紅葉のところにいかなかったんだ? 言ってみろよ……」
「それは……」
「迅雷は紅葉の別世界での行いを知っている……それはこの世界の君じゃないけど、別の世界の君はかつて世界を何度も滅ぼし、何度も迅雷を殺して世界をやり直していた……だから、君のことを信じられなかったんだろ」
「違う……違う……」
「それに僕が殺したって? そんな事望むわけ無いだろ! この後に及んで他人のせいにして……それで、失った不満を他人にぶつけて……」
「黙れ!!!」
「紅葉……それに僕は迅雷を……」
「うるさいうるさい!! お前がちゃんと止めなかったから迅雷は僕の前から消えた……分かるか? お前に家族を……好きな人を失う悲しみが……」
「なんだよそれ……なんなんだよ……僕がなにも思っていないと思ってるのかよ!」
「お前がきちんと止めてれば迅雷は……迅雷は……もういい、お前はクビだ……消えろ!!」
「!!」
次の瞬間、彼の持つ神器は再び僕に振り下ろされようとしていた。
だが、それは叶わなかった。
的確に、正確に紅葉の手は撃ち抜かれ、剣は手から落ち、深々と地面に突き刺さっていたからだ。
「なっ……!」
「落ち着け!!秋月紅葉!! お前は何をしている!!」
振り向くと、顔を真っ赤に染め涙をこぼしていたレオが魔銃レグルスの銃口を向けていた。
そして、その一瞬の隙でハスキー先輩を初めとする面々は紅葉を取り囲み、秤の鎖でぐるぐる巻きにされてしまうのであった。
「彼岸、大丈夫ネ? 今すぐ手当てをするヨ」
「神器の傷なので、痕は残りそうですがなんとか……お願いします、王虎さん」
薬膳士【王虎】により、神器攻撃の傷は多少痛みも治まる程度には薬草を塗り込んでもらったけど……紅葉は未だに興奮状態であった。
「離せ!!! あいつのせいで、迅雷が……!!」
「いい加減にしろ!紅葉! 彼岸がどんな気持ちで、あの場で舞を躍り続けていたのか分かるのか! 自分だって殺されるかも知れなかったのに、それなのにその恐怖を圧し殺してあの場で……なのに、お前は!!」
「うるさい!!! 迅雷……!! 迅雷がいないなら、こんな世界……こんな世界なんて!!」
「じゃあ、死ねばいいよ」
その瞬間まるで時が止まったかのように、あたりの音は全て消え失せた。
そして、全員の視線は声の主である光の賢者【ボル】に向けられていた。
「ボルさん……なにを!」
「いや、こんな世界なんて要らないって言おうとしてるんだろ? 迅雷が犠牲になってでも守ろうとしたこの世界を、愛すべき仲間たちを……そして、恋人のお前を……それをお前は否定するならば……お前だけ消えろ。 周りを巻き込むな……クソガキ」
ボルの表情はとても笑顔であった。
それこそ、なにか良いことでもあったかのような、清々しいほどにいい笑顔であった。
だが、彼の声は殺意で溢れていた。
拳は握りすぎて血がポタポタと落ちていたし、なにより、彼の尻尾はぶわっと怒りで広がっていた。
「秋月紅葉……先程家族を失うとか云々抜かしていたな? お前は彼岸にあった悲劇を知っているはずだ……父親に捨てられ、孤独に耐え、地獄のような辱しめを受け、別世界ではお前に何度も殺され、一度は弟も殺されかけ……そして、目の前で友の愛する者を失い……それで何が分からないんだ? 十分すぎる程に、お前と立場は変わらない……なぜお前は自己中心的な発言しかしない? 普通なら彼岸の方が発狂していてもおかしくないレベルで傷ついているんだぞ?」
「だからなんだよ! 他人は他人! 僕は僕だろ!」
「いや、だからだよ……お前は今はっきり他人は他人と言った……。 ならば、他人の人生を狂わせるような凶行を起こし続けてきたお前は罰せられて当然だよな? なあ、秋月紅葉……別世界を幾重も滅ぼした次元大罪狼……」
「うっ……うっ……ううううう!!!」
バチン!と、ボルは拘束された紅葉の頬を叩いた。
一瞬のことで周りも何が起こったのか分からなかったが、その音が森へ木霊し、びゅぅっと風が吹いたところでようやく事態を把握できた。
「私はこの際はっきり言おう……私はお前が嫌いだ。 昔も……これからもな……行くぞ、彼岸」
「えっ……ちょっ……」
ぐいっと彼岸の手を引き、ボルは森を去っていった。
そして、オズもそれに続くようにボルたちの後を追っていく。
後に残るのは秋月紅葉の苦し紛れの咆哮と、嗚咽混じる泣き声であった。
そして、この後秋月紅葉は自室に閉じ籠った。
食事もあまり取らず、迅雷の匂いが染み付いたものをずーっと嗅いで温もりを探す毎日……。
一方、彼岸はボル、そしてオズと共にとある場所へ向かった。
それは、世の理を集める記録者のいる場所……。
三大賢者により護られし全扉が最初にあった場所……【始まりの塔】へ。