前回の続きです。
※外伝は正史として捉えても良いですし、ifとして読んでいただいても構いません。
↓↓大丈夫な方のみ読み進めてください。↓↓
[22年前 8月]
イグの招来を実行。イレギュラー発生により、依代が赤子から母親に変更。
まず我々が驚愕したのはそのサイズの変化だ。元は5.4フィート程の身長であった女の身体は、7.9フィート弱というサイズにまで巨大化していた。
今までの招来実験でも神になる過程で依代の肉体が作り変わり、巨大化や退行が見られることもあったが、今回のは特に顕著だ。
この変化の原因については未だに詳細分かっていない。要検証。
また、赤子を抱えたままのイグに近付こうとした際、その場に居る全員が指一本動かせなくなる現象が発生。その後、言語による対話が行われた。
以下、その時の対話記録である。
“我(おれ)は蛇たちが父である。問う、お前たちは何者か”
―――我々は、金剛蛇神教。蛇神様の信奉者でございます。
“では、この父を呼び出したのはお前たちか”
―――その通りでございます。
“この肉体は何だ”
―――誠に勝手ながら、現世での器にと用意したものでございます。
“ではこの腕に抱えている「これ」は何か”
―――それは…。…蛇神様への供物に、と。
“…………そうか”
その直後イグが赤子をつまみ上げ大口を開けた為、我々は赤子が食われるかと息を飲んだ。しかし、イグはそのまま硬直し再び赤子を腕に戻すと、こう発したという。
「気が変わりました。この赤子を我(わたし)の側近として育て上げます。…異論は聞きません。それでいいですね?」
突然の提案に困惑したものの、直ぐさま赤子を育てる環境を整えるよう手配。
まだこの赤子がシビュラになり得るか分からない為、結果は保留とした。
要経過観察。
追記.
イグは自身を「夜刀」と、そして赤子には「■■」と名付けた。
また、教団の者達には自身を“父上”と呼ぶように指示。
蛇たちの父と呼ばれるだけあって、教団全体で家族ごっこでもするつもりか。
[22年前 8月]
早速問題が発生。子育てをすると言い出したイグであるが、どうやら人間を育てた経験もその知識も持ち得ていないらしい。当然ではあるが。
このままでは流石に赤子の生命に関わると判断。早急に周囲でサポートする事。
[22年前 9月]
巨大化した弊害か、頻繁に建物内の物に頭をぶつけている様子が確認されている。
本人は平気と言っているが結構痛そうだ。時間は掛かるが、教団の大幅改築を検討。
追記.
痛そうだ、と書いたがそれは表情の話で、よくよく観察してみた所、少し強くぶつけた程度ではかすり傷一つ付いていないように見える。触れたことは無いが、思いの外丈夫な外皮をしているのかもしれない。
[21年前 5月]
神官が初めて言葉を発したらしい。しかし、イグのあの微妙な表情を見るに、初めての言葉は「父」関連ではなかったようだ。一体何を喋ったのやら。
[20年前 8月]
家族として教団に住まう様になって2年。教団の建物内と周囲の森には通常考えられないほどの野生の蛇が目撃されるようになった。いや、元々イグを招来してからは蛇の目撃が増えていたのだが、今では外を10歩歩けば必ず蛇に逢い、廊下や部屋の中であろうと関係なく蛇が入り込んでくる始末だ。おかげでこの屋敷には鼠一匹居ないだろう。しかし、これだけの数が居て蛇に噛まれたという者は一人もいない。やはりこの蛇たちはイグによって使役されている、という事だろうか。
誤って蛇を傷つけることが無いよう、注意して生活するよう再度通達する。
追記.
全面サポート体制の元、子育ては順調に進んでいる。
もう少し大きくなったら教団内で教育を完結できるように環境を整えていくこと。
[20年前 9月]
先日報告した蛇の件について。
イグからの指示で今後は教団員一人一人に蛇を付けるとの事。
どうやらこの蛇たちが付いている事で位置や状況などを把握できるらしい。
どこで何を聞かれているか分からない。教団内で組織についての会話や記録は控え、言動には十分注意するように。
[15年前 4月]
モルディギアンの招来実験が成功。初のシビュラとして登録されたとの事。
また、こちらの経過確認の為、本部から禍津という研究員が一時的に派遣されてきたが、まだ神官が幼く教育も追いついていない事からシビュラとしての登録は今回も保留となった。
帰り際に一言、「くれぐれも被検体に情など抱かぬように」だそうだ。
…厭味な男だ。
[15年前 6月]
どこで覚えて来たのか、神官が遊園地に行きたいとイグに駄々を捏ねていた。
しかし、自身の異質さを分かっているのかイグは教団内から出る事を拒否。最終的には神官に「きらい」とまで言われてしまい、ショックを受ける姿は少々痛々しかった。我々だけで遊園地に連れていく事も提案したが、神官はあくまでも父と行きたかったようだ。それもまた当然か。
[11年前 7月]
ナグとイェブの招来実験が成功し、計画も順調に進んできた。
神官も今年で11歳。夜刀様(訂正されている) イグとの関係も良好。
双方の精神も安定している事から神官は正式にシビュラとして登録された。
[同日 ある教団員の日記]
今回、本部が出した仮定は「神にも愛は有効である」というものだ。
これは証明するまでもなく事実だろうと私は思う。
夜刀様が■■に向けるそれは紛れもなく親から子への無償の愛であり、私はそこに神と人間の差など全く感じない。私が見ているのは本物の親子の姿だ。
だからこそ、この愛というものを利用した計画は、本当に正しいのだろうか。
[4年前 4月 ある教団員の日記]
神官も18歳となり、イグからは本格的に大人として扱われるようになった。
が、本人はまだまだ子供で親離れなど出来ない様子だ。計画としてはその方が有り難いが、一緒に育ててきた我々としては…いや、もう少し子供で居て欲しいかもしれないな。
・・・・・・
・・・
[2週間前 ある教団員の日記]
次なる作戦が決定されてしまった。この作戦には当然危険もある。
行けば夜刀様や■■も無事に帰ってこれる保証はないだろう。
だが今更この計画に反対する権利など、この最低の父親にはない。
故に二人が無事作戦を終えて帰ってくる事を祈るしかないのだ。
くれぐれも情など抱かぬように、か。
22年共に過ごしておいて、それは無理だろうよ。
シビュラ外伝「症例3・経過報告書 イグ編」 完
「症例4・経過報告書 ズ=チェ=クォン編」につづく