SamSuka
三段櫂船@リクエスト受付中
三段櫂船@リクエスト受付中

fanbox


【ゴーディー】第2話 モノクロームから天然色へ【未実装ウマ娘】

※本作では競馬の綺麗事ではない暗部にかなり踏み込みます ※最終ページに 予想と観戦マナーにも役立つ元ネタ解説があります ※筆者はファル子に大変複雑な感情がありますが、反面儲けさせてもらったので感謝しています ※私の独自解釈で、交流重賞並びに地方のビッグレースも勝負服着用です ※Part.2まで読めば、地方競馬初心者のあなたの回収率が10%は上がります Part.1 ウマ娘の十字路 「アラブだとしても、レースは結果が全てだ。お前なら出来るよ」  ゴーディーに付いたトレーナーはゴーディーを前に言った。アラブが南関シリーズで一定の勢力を持っていたのは、この中堅という年頃のトレーナーの若手時代までだ。  南関シリーズはウマ娘の入れ替わりが激しい。URAを追われたウマ娘、田舎のシリーズからステップアップしてくるウマ娘、そして逆に田舎に流れて行くウマ娘、そうして出戻って来るウマ娘。入るも出るも多種多様だ。  レース編成の仕組みからしてURAとは違う。ローカルではファン数ではなく、各レースの着順ごとに割り振られたポイントの多寡でクラスを分ける。  クラス分けの基準や、他所や以前のポイントの扱いはシリーズ毎に違うが、どうあれポイントを稼げばランクが上がり、負ければ下がる。脱落したらレベルの低いシリーズへ、ランクが上がり切ったら今度は衰えとの戦いになり、その先はやはり移籍か引退だ。  1度でも勝てばしばらくは置いてもらえるURAよりも、生々しくてシビアなサバイバルがそこにはあった。なまじ多くのポイントを持って南関シリーズに移って来た為に、高いクラスでのレースで惨めな思いをして何処かに流れていくウマ娘がざらに居た。  レース内容も違う。ローカルではマシな方だと言ってもURAとは比べ物にならないハードスケジュールを南関シリーズではこなす。  何より、ローカルのレースは荒っぽい。URAでは反則になるようなぶつかり合いが平然と行われる。タフでなくては生き延びられない。  エキサイティングで、誰が勝つか分からない。南関シリーズを贔屓にするファンは魅力を問われると大抵こう答えた。過酷だが、結果が全てのダートレース。それはアラブの末裔であるゴーディーに向いていた。アラブの一族は砂漠に生まれ、頑丈に出来ている。  そして、ゴーディーにはアラブでありながらアラブを超えた領域で戦ってきた血が流れている。これだけ揃えば、ゴーディーはやれるはずだ。 Part.2 帰って来たアラブ  トレーニングでもゴーディーは素質を見せた。アラブの末裔という話題性もあってデビュー戦では勝者予想の1番人気に推され、2着に入った。 「凄えなあ。アラブだぜ」 「おっさん、アラブって何だよ?」 「何?近頃の若い奴は古い事を知らねえなあ」  オールドファンは絶えて久しい褐色の肌のウマ娘の上々のデビューに目を細めた。それはURAでは決して有り得ない光景であり、そのURAにコンプレックスを抱くローカルのファンにとって特別な意味を持った。  ゴーディーは続く2戦目でも1番人気に推され、期待に応えて7バ身もの大差をつけて圧勝した。  イナリトウザイが帰って来た!彼女の往年の姿を知るファンは涙を浮かべるような光景だった。彼女はオオイがURAを凌駕せんと闘志を燃やしていた時代のスターなのだ。  ウイニングライブに引き出されたゴーディーはオールドファンから熱狂的な歓迎を受けた。イナリトウザイの強さを若いファンに語っても嫌な顔をされるだけだ。だが、目の前の現実は歴史の再現であって、目を背けても消せない事実だ。 「うちの一族は、初勝利は必ずこれやって決まっとるそうです」  ゴーディーのアラブのウマ娘に多い関西訛りが、そうして流れてくるオリエンタルで古風なイントロが、オールドファンを若き日の記憶に誘う。  ゴーディーが歌ったのは『アラビアの唄』だ。このオールドファンの更に親の時代に一世を風靡した流行曲はいつからかアラブのウマ娘のテーマソングとなり、アラブのメッカと言われていたフクヤマやソノダではアラブでなくても歌うウマ娘が少なくないという。  大昔の流行曲、相応に古風なダンスステップ、そして、何故かアラブのウマ娘は歌と踊りが妙に上手い。後ろのウマ娘が困惑しているのが見える。  砂漠の夜の情景を歌うゴーディーの歌声は、どうせURAのウマ娘に横取りされる東京大賞典以上の感動をオールドファンにもたらした。  ゴーディーはその後も順調にウイニングライブに出続けた。ローカルでは必ずしも勝てなくていい。掲示板に載ればポイントが入り、ランクは上がって行く。  むしろハードスケジュールの中で無理に全てのレースを勝ちに行くのは危険とみなされる。そうして無理をして急激にランクを上げてしまったばかりに却って不幸になるウマ娘が沢山居た。  ローカルで長く現役を続けたいなら頑張りすぎない事だ。ポイントを計算して昇級するギリギリまで掲示板圏内に粘り続け、限界まで来たところで勝つ。それがローカルのウマ娘の生存戦略だ。  若いファンやURAのついでのつもりのファンはそれを知らず、成績に目がくらんで勝たないつもりのウマ娘が勝つと声高に宣言して、多くの場合予想を外してオールドファンに冷やかされる。ローカルとはそういう場所だ。  ゴーディーもトレーナーも上に行くつもりだが、そうだとしても目先のレースを勝つ事よりも、無理をせずにポイントを稼いで行く事が大事だ。先祖代々ローカル育ちのゴーディーはそれを分かっていた。 Part.3 所詮はアラブか…  そうしてゴーディーは初めての重賞となるハイセイコー記念を迎えた。かつてオオイからURAに殴り込み、社会現象を起こしたスターの名を冠した新入生にとって大事なレースだ。  だが、ハイセイコーを渡したくないとトレーナーが泣いて拒み、結局押し切られてトレセンを去って行ったという悲話も古いファンや関係者は知っていた。  南関シリーズを成す4つのトレセンは交代でレースを開催し、在校生は特別な理由が限り走り慣れた自分のトレセンのレースに出る。つまり、南関のウマ娘は大体月1回のペースでレースをする。  重賞は特別で、4校の優秀なウマ娘が一堂に会し、ファンもまた地元意識と対抗意識を胸にやって来る。ファンもウマ娘も他のトレセンには負けたくないと願う。それが南関シリーズだ。  地元のオオイなので有利とは言っても、ゴーディーの勝敗予想は10番人気である。これは人気で下駄を履かせない実力相応の物であった。  ローカルファンはそういうシビアさを持っている。例えスマートファルコンをどんなに憎んでいても、予想は別だ。  ここへ普段見かけないファンがURA的なロマンを高唱しようものなら、オオイならともかくカワサキなら喧嘩沙汰だ。URA流のロマンをよしとしない。ローカル流のロマンを決して予想には持ち込まない。それがローカルファンの矜持なのだ。  それだけに、ゴーディーはパドックで不安に駆られた。母が大喜びで仕立てた、マントの裏地が五つ星の散らされた星条旗風になっている以外イナリトウザイと同じデザインの勝負服も、果たして足しになるかどうか。  普段見かけない他所のウマ娘達はいかにも強そうで、ファンも口では期待を述べるし内心でもそうだが、予想はそれを押し殺して冷静にやる。それが分かるだけにゴーディーは辛い。初めての修羅場と言えた。  バ群に揉まれるとコンプレックスで精神から弱る。だからアラブとしては稀に見る体格とスピードを生かしての逃げ。ゴーディーはそうしていつも通りのレースをした。  スタンドはどよめいた。他所のファンもゴーディーというドラマチックなウマ娘の存在は知っている。その走るドラマチックが逃げを打って見せ場を作っているのだ。  もとより南関シリーズで勝敗予想などあてにならない。それが売りなのだ。予想を外すならゴーディーに外して欲しいとファンは願った。  だが、3人の逃げ集団に食らいつくゴーディーは、その実付いて行くのがやっとだった。  第3コーナーに入ったところでついに遅れ始め、みるみるバ群に飲み込まれてゴールは8着。  ゴーディーはいつも自分へ特別に目をかけてくれるファン達に顔向けが出来ず、足早に引き上げて人目に付かないところで泣いた。  所詮アラブはこんな物か。そんなファンの陰口が聞こえてくるような気さえした。 「おい、何してる?」  ゴーディーが壁に向かって泣いているのを見つけ出したトレーナーが、慌ててゴーディーを壁から引き剥がした。 「うちは、どうでもええウマ娘や」  ゴーディーは悔し涙に勝負服を濡らし、トレーナーから顔を背けた。一族の期待を裏切ったのも堪えたが、長い間重賞から見放されているトレーナーの期待を裏切ってしまったのはもっと堪えた。 「そんな事を言うな。ここは南関だぞ。どうでもいいと思われてたウマ娘がとんでもない事をやってのける場所だ」  だが、トレーナーはゴーディーの可能性を諦めていなかった。中堅と言っても人生の大半をオオイトレセンに捧げて来たトレーナーはそれを知っている。 「せやけど、この辺りで派手に負けとったらどうにもならんのと違う?」 「なる。俺はどうにかしたんだ」 「トレーナーが?」 「イナリトウザイはそりゃあ凄かった。東京盃でレコード勝ちだ。だけど、そのレコードを塗り替えたのは誰だと思う?」 「知らん。大方URAから遊びに来たウマ娘やろ」 「いいや。カオルダケってウマ娘でな、まだC級だったのに東京盃に出て、0.1秒塗り替えて勝ったんだ」 「んなアホな!」 「この野郎、俺の大切な教え子をアホ呼ばわりか」 「え?」 「そうとも。俺はあいつのサブトレーナーだったんだ。と言っても、兄弟子の手伝いだからサブのサブだな」 「けど、C級でレコード勝ちやなんて」  南関シリーズのクラス分けはA1からC3まで細かく分けられている。当時は短距離はウマ娘が集まらなかったというが、それでもC級のウマ娘が重賞に出るというのは無謀としか言いようが無い。 「仕上げれば出来るんだよ。このレコードは1回並ばれたがまだ破られてない。並んだのだって、もう潰れた栃木のトレセンのウマ娘だ」  ゴーディーは希望というより不安を覚えた。トレーナーの話に嘘は一つもなかったが、それはむしろウマ娘という生き物の不確実さを示すようで、不気味でさえあった。 「つまり、お前もそういう事が出来るって事だ」 「そら無理筋と違うやろか?」 「無理筋を押し通すのが、お前の一族だろ」  ゴーディーははっとした。そもそも、アラブの末裔が南関シリーズで走っている事自体が無理筋なのだ。 「レース人生はまだこれからだ。やってみろ」 「やったるわい!」  いつしか涙は止まっていた。へこたれないのがアラブの強さだ。ゴーディーの長い長いレース人生はまだゲートを出たばかりに過ぎないのだ。 元ネタ解説 Part.1 レース編成の仕組みからしてURAとは違う:  中央競馬は勝てばクラスが上がり、降級制度は廃止になっている。  しかし、地方競馬は獲得賞金によってクラスが上下し、その計算方法もクラス分けも競馬場ごとに違う。賞金を計算せずに馬券を買うと大抵痛い目に遭う。 衰えとの戦い:  ランク分けは概ね馬齢と共に上がりやすくく下がりにくくなり、新陳代謝を促すような仕組みになっている。 なまじ多くのポイント:  大井は地方競馬では一番賞金が高いが、それでも中央とは比べ物にならない。  従って中央の獲得賞金によっては最初から高いクラスに入る事になり、苦戦する馬は少なくない。 ローカルのレースは荒っぽい:  地方出身の騎手はラフプレーが多いというイメージがあるが、事実地方競馬のレースは多少の接触では審議にもならない。  コースが狭く、騎手の入れ替わりが少なく、また迂闊に騎乗停止にすると騎手不足で主催者が困るという事情もある。 誰が勝つか分からない:  南関東、特に大井はレースが荒れる傾向にある。  上記の通り馬同士の力関係のはっきりしないのもあるが、関東のギャンブラーは荒れるレースを好むとされ、競輪、競艇、オートレースにも同様の傾向が見られる。 アラブのメッカ:  福山競馬や園田競馬はアラブ専門の競馬場であり、当地のビッグレースには各地のアラブが遠征して南関以上の盛り上がりを見せた。 Part.2 絶えて久しい:  大井のアラブダービーは1996年で廃止。他の3場もアラブ競走を段階的に廃止し、1999年に浦和で開催されたのを最後に南関東のアラブ競走は終了した。 ポイントを計算:  クラスが上がれば相手も強くなるので、昇級しないようにギリギリまでクラスを維持して稼ごうとする光景が地方だけでなく中央の条件戦でも散見される。  地方の場合は賞金の計算が難しく、計算を覚えると予想面で有利である。  賞金がボーダーラインぎりぎりになったところで1着を取るのが地方での良い稼ぎ方とされる。 ローカルのウマ娘の処世術:  競走馬は経済動物であって、勝つのではなく稼ぐ為に維持されている。  断じて全ての馬がダービーを目指しているわけではなく、地方はその辺りがより露骨でシビアである。 Part.3 ハイセイコーを渡したくない:  ハイセイコーの担当厩務員だった山本武夫氏は中央に移籍するハイセイコーとの別れを泣いて拒み、その後故郷に近い金沢競馬場に隠遁した。 地元意識と対抗意識:  南関東競馬は大井、船橋、川崎、浦和が交代で平日開催を行うが、各場はファンも関係者もライバル意識が強い。 スマートファルコンをどんなに憎んでいても:  地方競馬のファンは地元のスターを蹂躙する中央馬を憎む反面、予想にはそれを持ち込まない。  これは競馬に限らず所謂三競オート全てのファンに共通する傾向で、ギャンブラー気質と言うべきかもしれない。 カワサキなら喧嘩沙汰:  大井競馬場は若者が多く比較的平和だが、川崎競馬場は昭和の鉄火場の空気が色濃く残り、悪目立ちすると本当に喧嘩になる可能性がある。  もっとも、ブームに乗った若いファンにオールドファンが激しい拒否反応を見せるのはハイセイコーの昔からの常である。 五つ星の散らされた星条旗風:  赤嶺本浩調教師の息子で主戦の赤嶺亮騎手の勝負服『胴青・白星散らし、袖赤・白縦縞』をイメージ。 カオルダケ:  1975年生まれの牝馬。1980年に東京盃でイナリトウザイの持っていた大井1200メートルのレコードタイムを更新した。 サブのサブ:  カオルダケは赤嶺師の兄弟子に当たる五百蔵幸雄騎手が主戦だったが、この少し前に調教師試験に合格した為、赤嶺師が代役で初騎乗して快挙を成し遂げた。 A1からC3まで:  現在はA1、A2、B1,B2、B3、C1、C2、C3の8段階だが、2014年まではA3もあった。馬齢に応じて上半期、下半期と半年ごとに基準額が上がっていく為、降級する事もある。  勿論、戦略的に降級させる事も行われる。 まだ破られてない:  残念ながら、この年のJBCスプリントでスーニが31年ぶりに0.1秒更新した。 栃木のトレセンのウマ娘:  牝馬で唯一の栃木三冠馬、ベラミロードが2000年に東京盃でタイレコードを叩きだした。この快挙によってベラミロードは地方年度代表馬に選ばれた。 へこたれないのがアラブの強さ:  アラブは頑丈で気性が大人しい。その為軍馬としての需要が高く、その流れで戦後の地方競馬でアラブが重きをなした。

【ゴーディー】第2話 モノクロームから天然色へ【未実装ウマ娘】

More Creators