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【グランシュヴァリエ】第2話 遍歴騎士の夢【未実装ウマ娘】

※本作では競馬の綺麗事ではない暗部にかなり踏み込みます ※最終ページに 予想と観戦マナーにも役立つ元ネタ解説があります ※私の独自解釈で、交流重賞並びに地方のビッグレースも勝負服着用です ※ファル子は地方ファンにとってはヒールです Part.1 ローカルの中のローカル  GIに出るのはグランの当初の目標だった。それはもう無理だと諦めてコウチに来た。  だが、今のグランはどうだろう?諦めたはずのその檜舞台に立っているのだ。それもオオイの帝王賞と言えば、ダートで戦うウマ娘にとって春のグランプリだ。  報知オールスターカップの奮戦の後、グランはコウチで改めてお披露目をして2連勝を飾った。誰もが南関シリーズで意地を見せたグランを歓迎した。  黒船賞ではいい所がなく、笠松に遠征してのオグリキャップ記念では1番人気を裏切って4着に落ちてしまったが、トレーナーはその次戦に何と帝王賞を選んだのだ。 「何事も経験や。めげずにやっとったら今にデカい事が出来るで」  トレーナーはそう言って教え子を大レースへ送り出して、しばしば『デカい事』を成し遂げる。グランにもそれが出来るとトレーナーは信じていた。 「フリオーソです。ローカルの意地を見せてやります!」 「温室育ちがローカル面すんな!」 「ガソリン屋のペットのくせに!」  ローカルシリーズは凄まじいヤジが飛び交うで。ウマ娘を罵るファンのボキャブラリーはやたらに豊富で、詳しく、反論の余地が無い。  そこはいつもヤジとゴミと煙草の煙が飛び交い、またそういう狂乱を求めてファンは足を運ぶ。トウィンクルシリーズとは文化が根本から違った。  それが交流重賞、ましてGIとなると制御不能だ。ローカルのファンは概ねURAに激しい敵対意識を持っていて、ウマ娘にもファンにも敵意をむき出しにする。 「笠松から来ました。トウホクビジンです」 「頑張れよ。働き者!」 「でらべっぴん!」  その一方で相見互いという事なのか、他所のローカルトレセンから遠征してきたウマ娘はゲストとして温かく歓迎する空気がローカルシリーズにはあった。  南関シリーズのファンは中東の富豪が経営する予備校から来たフリオーソには冷たいが、グランとオグリキャップ記念で一緒に走ったトウホクビジンは南関シリーズではもうお馴染みの存在とあって、ファンは妙に優しい。 「トキメキ☆ウマドル、スマートファル…」 「お前は帰れ!」 「何がウマドルだ!国語の成績悪いだろ!?」 「弱い者いじめはするなってトレセン学園じゃ教えねえのか!」  いくらファンが嫌っても交流重賞で勝つのは大抵URAのウマ娘で、その交流重賞にトレセンの経営は依存している。だからファンは余計に面白くなく、特にスマートファルコンはどこへ行っても嫌われていた。  だが、どんなに嫌っていてもそれを予想には持ち込まないのがローカルファンの矜持で、勝敗予想では親の仇のように憎むファルコンは常に上位だった。  寮は違うがファルコンとグランは同期だ。凄まじいヤジに晒されても決して笑顔を崩さず、常に勝利を収めるファルコンをグランは決して超える事の出来ない相手だと認めていた。  それでもコウチを背負っている自覚がグランにも芽生えつつある。なのでファルコンが黒船賞に来てくれなかったのを面白く思わない感情もあった。 「12番、グランシュヴァリエです。コウチから来ました」 「正月は凄かったな!」 「ちょっとは根性見せろよ!」  グランにはファンは優しかった。コウチから帝王賞に遠征するウマ娘の存在自体が驚くべき事であり、そういう小さなトレセンの期待を背負ってやって来るウマ娘の存在をローカルのファンは大いに喜ぶ。それはURAではもう失われた古い型のロマンだ。 「良かったな。歓迎される組だ」  控室でグランの勝負服の腕章を赤地に星を散らしたものに取り換えてやりながら、サブトレーナーが不敵な笑みを浮かべた。  彼はオオイのサブトレーナーの中でも特に腕利きと目される男だが、女絡みの不祥事で免許を取り上げられ、禊の為にトレーナーの下で修行をやり直した縁でこうしてトレーナーのウマ娘が遠征してきた時は協力してくれる。 「けど、正直自信がないですよ」 「エビのウマ娘を1か月間隔で走らせる先生だぜ。信じろよ」  黙って見ていたトレーナーがにやりと笑う。そう。トレーナーはグランの屈腱炎を持てるあらゆる知識と技術を駆使して治療し、ここまで連れて来たのだ。 「先生は不可能を可能にするんだよ。な!」  サブトレーナーは通りがかったトウホクビジンのサブトレーナーの肩を叩いた。苦笑する彼はフナバシトレセンに居るが、チャンスに恵まれない為にコウチへ修行に出て、トレーナーの下で花開いたのだという。  不可能を可能にするというよりも、可能だが困難な目標を決して諦めない。トレーナーはそういう人だった。グランはコウチに転校する己の不運を呪ったが、その一方でこのトレーナーに出会った事を望外の幸運とも思っていた。  だが、レースでは何も出来なかった。14番人気の11着というのは、自分の限界なのだろうとグランは冷静に受け止めた。決して立てなかったはずのGIの舞台に立たせてくれたトレーナーへの感謝だけが残った。 Part.2 遍歴修行が始まった  グランはコウチのレースに出ずに他所のシリーズへの遠征を繰り返した。レベルが低く、貧乏なコウチからウマ娘が来たというだけでファンは驚く。  それがトレーナーの狙いであった。コウチの宣伝にこれ以上簡単で確実な方法はない。グランはコウチの看板に指名されたのだ。  帝王賞の次のレースに選ばれたのは門別のブリーダーズゴールドカップ。こうして各地の交流重賞にグランは次々乗り込んでいくようになった。  どこへ行ってもトレーナーの知り合いが居た。彼らは人手不足のコウチにチャンスを求めて修行に来た若者であったり、トレーナーの旧知の古老であったり色々だが、いずれにしてもグラン達に協力を惜しまなかった。  注目は集めても勝敗予想にはファンはそれを決して持ち込まない。11番人気は歓迎はしても所詮はコウチというファンの冷静な評価を示していた。  グランはかつて仰ぎ見るだけの存在だったエリート達のはるか後ろで冷静にチャンスを待った。勝てないとしても意地は見せられる。コウチにもウマ娘が居ると思い知らせる為に自分は送り込まれたのだ。なら大恩あるトレーナーの為に、トレセンの為にやってやる。  URAから来た5人のウマ娘が向こう正面から先頭を奪い合って最後の直線に躍り出た。グランなど誰も見ていない。  だが、最後の直線でグランは意地を見せた、10番手で最後の直線に出て終わってみれば6着。ローカルのウマ娘の先頭でゴールして見せた。  次に選んだのはフナバシの日本テレビ盃。ローカルシリーズの秋の祭典であるJBCを占う前哨戦で、帝王賞と遜色ないメンバーが揃う。  例のトレーナーの下で修業したサブトレーナーが是非にと協力を申し出てくれたが、GI級のウマ娘達の壁は厚く、9番人気で8着。  グランもトレーナーもまずはコウチの宣伝という目標を果たせて満足していた。勝てないまでも帝王賞からずっと人気より上の着を取っている。それはコウチのウマ娘の実力の証明だった。  そして、再びGIの大舞台にグランは立った。イワテトレセンが持つ2つのレース場の一つ、モリオカで行われる南部杯は、当地を治めた大名家の当主が優勝杯を授ける短距離路線における秋の大一番だ。 「6番、グランシュヴァリエ。コウチ代表として頑張ります」  ローカルシリーズで唯一芝コースを擁する風光明媚なレース場にグランの挨拶が響く。お客さんは温かい拍手を送ってくれるが、ファンの評価は厳しい。12人中11番人気に過ぎない。  イワテのファンは南関シリーズのファンとは違って、URAへの対抗意識より先に諦めのような感情を持っていた。それは大きなレースはURAのウマ娘に攫われるという宿命を受け入れてしまった為だろう。それだけローカルとURAには差があった。 「メイセイオペラとまでは言わんけどな。コウチにはグランシュヴァリエがおるいうんを見せたろやないか」  そう言うトレーナーさえグランにあまりに多くを期待していない。 「あの娘には、絶対に勝てないと思います」  グランはそう言いそうになって口ごもった。それは事実だとしてもトレーナーを裏切る言葉だ。  圧倒的1番人気に推されたそのウマ娘はエスポワールシチー。因果にもグランとは同期で、同じフランス語の名前だ。  エスポワールも最初はさほど期待されたウマ娘ではなかった。芝とダートの違いはあるが、先にデビューして勝利を飾ったグランの方がむしろ上に居た。  エスポワールが6戦目でようやく初勝利を掴んだ時、既にグランは2勝していた。だが、グランはそこから長く勝利に見放され、ダートに路線変更したエスポワールにあれよあれよという間に追い抜かれてしまった。  グランがようやく3勝目を手にした時、エスポワールはGIウィナーになっていた。それ以来エスポワールはGIを5連勝し、今や誰もが認めるダートの王者である。ファルコンより強いと多くのファンは認めている。  グランは今やコウチを背負っている事を誇りに思っているが、自分を追い抜いて行った同期と走る事にコンプレックスを感じずには居られなかった。 「久しぶりね」  グランがゲートに入りを待つ間に不意にエスポワールが話しかけてきた時、グランは心臓を掴まれたような気分になった。 「コウチで走ってるんですって?」 「そう。コウチ」  グランは他に答えようがない。 「凄い事よね。コウチからGIに遠征してくるなんて」 「…ありがとう」 「けど、勝つのは私よ」  きっと、エスポワールはかつて一緒に下積みをした同期と思いがけず再会して懐かしく思ったのだろう。  だが、次戦はアメリカに遠征するというエスポワールをグランは直視できなかった。小さなトレセンを支えているという誇りを叩き潰されるような気がした。  違う世界の住人が相まみえる非日常が交流重賞だ。結果はいつも残酷で、ローカルのウマ娘は異世界の住人になす術もなく叩きのめされて日常へ帰って行く。そういう物だ。  このレース専用のファンファーレが響く。旅行がてらやって来たウマ娘がトウィンクルシリーズの流儀に則って手拍子をする。それを冷ややかに見る常連客が見える。  グランはそれを見て冷静さを取り戻した。交流重賞に経営を依存している以上、日常を守る為には闘わなければいけない。それがローカルのウマ娘の務めなのだ。  グランは腰に帯びた家伝の軍刀の鯉口を切り、鞘に戻して音を立てた。その音を聞いた瞬間、覚悟は決まった。 Part.3 不可能が可能になった!  スタートは互角だが、そこから過酷な現実が始まる。エスポワール達URAから来たウマ娘達はたちまち先行集団を形成し、ローカル勢はもう付け入る隙がない。よく見る光景だ。  グランはその先行集団の最後尾に付けた。だが、前を行くウマ娘は誰もグランなど見ていない。ローカルのウマ娘など問題外と思って互いにけん制し合っている。彼女達にとって、それがいつも通りなのだ。  先行集団もファンもさして気に留めなかった。どうせすぐ失速してしまうと思ったに違いない。だが、グランはそうは思わなかった。  グランのURAでの3勝のうち2勝を飾った府中も、波乱を演出した川崎も、そしてこのモリオカも左回り。そして前を行くウマ娘は自分には全くのノーマーク。  第3コーナーでグランは大外から先行集団を捲って勝負に出た。視界の外から見慣れないウマ娘が飛び出して来て先行集団が動揺したその一瞬、最終コーナーの出口でグランは僅かに先頭に出た。  先行集団のトップに居たオーロマイスターが慌ててスパートをかける。彼女もまたグランと似たり寄ったりだった同期だ。  バ群の中に居たエスポワールがどうにか出てくる。他の先行集団は不意を突かれて付いて来れない。  グランに並びかけられたエスポワールはまさかという表情を浮かべた。勝負に絶対はないとしても、相手は故障で去って行ったウマ娘だ。  鬼の形相でグランはエスポワールに食らいつく。勝負に絶対はないのなら、自分が勝ってもいいのだ。  しかし、エスポワールは強かった。並びかけたグランを王者の貫禄でたちまち競り落とし、一気に前に出た。  だが、もうオーロはエスポワールでも届かない所に居る。エスポワールに1年半ぶりに土が付き、GIでコウチのウマ娘が3着に入る歴史的大波乱に場内は騒然となった。 「やった!トレーナー!やりました!」  グランはデカい事を成し遂げた事に、トレーナーがデカい事をやってのけさせてくれた事に感情を爆発させ、トレーナーに抱き着いて喜んだ。 「あそこまでやるとは思わんやないか」  トレーナーもまさかここまでグランがやってくれるとは思わなかった。それは奇跡としか言いようがなかった。  ウイニングライブは大変な騒ぎになった。無敵と思われたエスポワールが脇に立っている。重賞初勝利がGIになったオーロが真ん中に居る。そして、彼女達と一緒にぱっとしない下積みを送り、それさえ故障で断念したはずのグランが居る。 「アメリカに行くからちょっとフォームを変えてみたのよね」  エスポワールは流石に悔しそうにして言い訳じみた敗戦の弁を述べる。 「けど、あんた本当にエビなの?」  オーロは自らの成し遂げた大番狂わせと同じくらいグランの激走が信じられない様子だった。そうだろう。グラン本人が信じられないのだから。 「コウチって、不可能が可能になる場所なの」  グランは脇で見ているトレーナーに目をやり、刀を抜いて高々と掲げた。その日、越えられないはずの壁をグランは確かに叩き斬った。 元ネタ解説 Part.1 そういう狂乱:  観戦マナーが中央競馬と地方競馬ではそもそも違う。むしろ中央競馬への反感から地方競馬へ肩入れするファンも多く、交流重賞ではしばしばトラブルが起きる ゲスト:  特に南関東では田舎の競馬場からの遠征馬を歓迎する空気は確かに存在する。昭和期にはそうして田舎から南関東に来た馬が実績を残す例が少なくなからずあった。  ただし、それは心情面の話であって予想には反映されない。 トウホクビジン:  2006年産の牝馬。岩手から中央を経て笠松に籍を置いて月数走のペースで9歳まで走り、163戦13勝という成績を残した。  無理に勝たせず出走手当で稼ぐ方が儲かるという地方競馬の方法論を最も高いレベルで実践した競走馬の一頭。 フリオーソには冷たい:  フリオーソは船橋所属で中央のダートホースと互角の勝負を見せた名馬だが、JRAが外国人馬主を認めない為に地方に預けられた側面が否定できず、地方代表としてファンに手放しで認められていたかと言うと疑問が残る。 反ファルコン感情:  スマートファルコンは中央のGIレースを避けて地方の交流重賞で稼ぐというスタンスを徹底していた。その為、特に遠征先のファンからは酷く嫌われていた。 黒船賞には来てくれなかった:  スマートファルコンは開催時期の被っていてより賞金の高い名古屋大賞典を選んだため、高知には一度も来なかった。 ローカルファンの矜持:  地方競馬のファンは競馬ファンである以前にギャンブラーという意識が強く、ロマンを予想に持ち込むのをよしとしない傾向がある。 女絡みの不祥事;  この帝王賞でグランシュヴァリエに騎乗した御神本騎手はそういう不祥事で騎手免許を取り上げられ、謹慎明けは雑賀厩舎が身元を引き受けてしばらく高知で騎乗した。 トレーナーの下で花開いた:  地方競馬はどこも騎手不足だが、南関東だけは騎手がだぶついており、チャンスに恵まれない騎手がしばしば期間限定騎乗という制度を用いて他所の競馬場へ修行に出る。  トウホクビジンに騎乗していた本橋孝太騎手は雑賀厩舎へ移って大幅に騎乗機会を増やし、当初の予定を延長して高知に長居した。 Part.2 トレーナーの旧知の古老:  廃止した競馬場の関係者は他所の競馬場に散らばる為、廃止した競馬場の出身者は意外に顔が広い。雑賀厩舎の積極的な遠征は雑賀師の顔の広さに支えられている側面がある。 協力を惜しまなかった:  雑賀師の伝手でグランシュヴァリエにはどこへ行っても当地のトップジョッキーが騎乗した。 唯一の芝コース:  盛岡競馬場は内馬場が芝コースのアメリカンスタイルだが、芝コースは維持費がかさむため滅多に使われない。   諦めのような感情:  当時は地方競馬の賞金が最も落ち込んでいた時期で、地方と中央のレベル差は大きく、交流重賞で南関東以外の地方馬が馬券に絡むことは滅多になかった。 メイセイオペラ:  1994年産の牡馬。岩手所属のままフェブラリーSを制し、地方在籍馬による中央GI制覇という今のところ唯一の大記録を達成した。 手拍子:  中央競馬ではこれが楽しみというファンが多いが、地方競馬ではあまり行われない。むしろ地方でそういうノリは嫌われる。 交流重賞に経営を依存:  当時はネット投票が今ほど普及しておらず、地方競馬の大半は開催する程赤字になり、その赤字を年に一度の交流重賞で埋める自転車操業に陥っていた。 Part.4: 史上初の偉業:  高知所属馬の交流重賞での入着は初期の黒船賞で数回あっただけで、グランシュヴァリエの単勝オッズは600倍を超えていた。 ちょっとフォームを変えてみた:  エスポワールシチーはアメリカ遠征で日本では禁止されているスパイク蹄鉄を履く為、走り方を変えてみたとされている。 あそこまでやるとは:  雑賀師も3着まで残るとは予想しなかったという。

【グランシュヴァリエ】第2話 遍歴騎士の夢【未実装ウマ娘】

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