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第一章 第一節

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▼前の記録 曰くつきの相棒  築何十年かという古アパートの和室に、おだやかな午後の光が差し込んでいる。四月でまだ少し肌寒さはあったが、風が気持ちいいので窓を開けてある。  ここは私の新しい住居だ。狛ヶ丘市で遺失物調査を行うにあたって借りた賃貸住宅、その二階の角部屋である。  色あせた箪笥(※大家さんが...




碑文谷美咲という少女


 星昇高等学校は、歴史のある古い学校だった。

 19██年に竣工、████(中略)その後何度も増改築を重ねて今に至る。周囲を木々に囲まれた趣のある旧校舎、比較的きれいで設備も整った新校舎、合間をつなぐ中庭には手入れが行き届いていて、敷地内を歩いているだけでもそれなりの広さを感じる。


 そんな学校の入学式を無事に終えて、偽りの学生生活がついに始まった。


 自分の過去についての記憶をほとんど失っている私にとって、学校に通うのは実質これが初めてということになる。今のところ、機構で叩き込まれてきた処世術や予備知識のおかげか特に不自由はない。周囲の誰も私の経歴が全て詐称であるとは思いもしないだろう。会話の受け答えに失敗して、クラスメイトから信じられないものを見るような目をされることはたまにあるのだが、その都度修正していこうと思う。


 仕事を安全・円滑に進めるためにも、私は一般的な高校生としてこの町に溶け込まなければならない。そのためなら、授業を真面目に受けたり学校行事にきちんと取り組むこともやぶさかではなかった。「羽目を外さない程度に学生生活を楽しむのもいいだろう。社会勉強にもなる」と尼木さんも言っていたことだし。










 私の配属されたクラス1-Cには、面白い生徒がいる。

 碑文谷美咲(ひもんや みさき)という名前の少女だ。ピンク色のおさげ髪だけでもかなり目立つのだが、彼女は最初のホームルームでの自己紹介で、

怪異・怪談・超常現象の調査を一緒にしてくれる人を探しています!」

 と豪語してクラスの空気を凍り付かせていた。オカルトに強い憧れを持っているのか、それともただ空気を読まないタイプなのか。


 とある日の放課後、市街へ出て聞き込み調査でもしようかと考えていたところ碑文谷さんから声をかけられた。


 学校の怪談や都市伝説の大半は、見間違いや勘違いに尾ひれのついたものにすぎないが、極稀にホンモノに通じていることがある。要は、遺失物の手がかりとして十分価値があるということだ。

 少しでも情報が欲しかったので、

「興味あるかな」

 と、まずは話に乗ってみることにした。

 すると強張っていた碑文谷さんの表情がぱっと華やいだ。

「ほんと!?名無(ななし)さん、なんとなく“こっち側”な気がしてたんだよ~」

 どうやら色々な人に声をかけては断られ続け、最後に私を尋ねてきたという感じらしい。


「ずっとこういう活動しててね…」

 改めての自己紹介と言わんばかりに、彼女は持ち歩いているノートを私に見せてくれた。中にはびっしりと文字が並んでいて、ところどころ写真も添付してある。

 驚くべきことに、そこにはオカルトへの客観的アプローチが事細かく記されていた。

 怪異や超常現象にまつわる文献資料・ネットの情報・現場の実地調査・体験者へのインタビュー・彼女自身で状況再現を試みたときの結果etc…具体的にデータを取ったうえで、噂の真偽を結論付けている。まるで研究者のようだった。

「すごい…これ全部一人で?」

 つい熱心に読んでしまい思わずこぼれた私の言葉に、碑文谷さんは心なしか顔を上気させていた。クラスメイトは皆彼女の趣味に対して腫れ物を扱うかのような態度をとっているので、理解者が現れたことが嬉しいのかもしれない。

「こういう話っていろんなところが曖昧だから、できる限り誰が読んでも納得できるように調べてるの」

 彼女は興奮気味に言った。



 ノートには、現在彼女が目星をつけている噂話についてもリストアップされていた。


「星昇高校って、いわゆる七不思議がある学校として一部界隈で有名なんだよ?進学先に選んだのもそれが理由なの。ちなみに今は、美術室で石膏像が動くっていう噂について調べてるよ。あとは年配のOB・OGの人たちから、旧校舎に昔食堂があったって聞いたことがあって、それも気になってる。実際そんな記録どこにもないのに、不思議だよね。それからこのバラバラ殺人事件って言うのはね――」


 その日は、碑文谷さんの止まらない話を聞きながら一緒に下校した。

 彼女は狛ヶ丘市近隣の奇妙な噂話を独自に収集していた。大したものだと思う。ただ、知り合って間もない相手にそれを開示してしまうのは危うさも感じる。それを指摘すると、

「ご、ごめんなさい…」

 悪い癖で、と彼女は縮こまった。小柄なのでより小動物っぽさが増す。

 碑文谷さんは昔から、人との距離の測り方を間違え続けて、友人らしい友人ができなかったという。それは、あの自己紹介を聞いたときからなんとなく察してはいた。

 怪異調査という趣味を理解してくれる人となれば尚更少なく、親からもそんなことより勉強しろとよく言われているそうだ。

「名無さんが真面目に聞いてくれるから調子乗っちゃった…なるべく気を付けるね」

 頬をかきながら申し訳なさそうにする彼女を見て、少し心が痛む。

 私にとってこのやり取りは、あくまで任務のために過ぎないのだから。



 まだまだ知らないことが山ほどある。機構が狛ヶ丘市を調査先に指定したのは、この周辺で奇妙な現象が起きているからということだったが、今のところそのような実感は特にない。そんな中で、彼女のもつ調査力と情報網は間違いなく私の助けになってくれるだろう。

 一方で懸念もある。

 それは、私が関わろうと関わるまいと、碑文谷さんがいずれ自力で遺失物や機構の存在にたどり着いてしまうのではないか、ということだ。これだけの熱意を持って都市伝説などの調査を進めていけば、その一端に触れてしまう可能性は十分ある。もしそうなれば、記憶処理(脳機能へのリスクが高い)にかけられるか、遺失物統轄機構の協力要員になってもらうか、いずれにせよ普通の暮らしには戻れなくなってしまうだろう。

 彼女がなぜ怪異調査に入れ込んでいるのかはわからないが、もしものときは力づくでも止めなければならない。

 碑文谷さんと別れた一人の帰り道、静かに自分へ言い聞かせた。



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Comments

たまんねぇな!ゲーム化待ってるわ。出たら買う

ハッピー

なるほど記憶喪失なのか

ジップロック

カジュアルな見た目に反して、少し硬めの文章と設定がとても魅力的です。選択肢の「興味ないね」にニヤついてしまいました。次回も楽しみにしています!

TA1

信じられないものを見るような目をされてるのに不自由はないw 強い

須佐ノ尾

勉強して地力UPするとドヤ顔でインテリ風になるの好き

livre001jp


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