上記のリンクの世界観での作品になります。
お話お話ごとの繋がりは、ほとんどない(ジャンヌが複数の話に登場して、それぞれで立場が違うなど)……そんな世界観だけを共通していて舞台はそれぞれで違うみたいな感じのシリーズです。
今回もデオンが名前だけ登場(本人は出ないしエロシーンもなし)しますが、こちらは『日本とよく似た『N本』という国と文化を無条件崇拝するようになる世界に迷い込んだマシュが、デオン・段蔵・ブリトマートのようにヒョロガリキモオタのオナホ奴隷にしてもらうお話』とは全く関係のないデオンです。
アストルフォのTS洗脳、爆乳化はなしで貧乳のままです。
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からん、ころ~ん。
安っぽい鐘の音が鳴り響くここは、崇N侮外国家『N本』のメガシティ、『アキハバラ』である。
欲望と喧騒、そして『崇拝心』が渦巻くこの街にあるとある文化会館のメインホールでは、今、熱狂の嵐が吹き荒れていた。
最大人数3000人を収容するそのホールでは今、売出し中の大人気アイドルのソロ・コンサートが開かれているのだ。
予約開始から一日で即完となった観客席を埋め尽くしたN本在住の外国人ファンたちはその叫び声が会場を割らんばかりに響き渡り、興奮のあまりに身体を揺する様子が津波のように蠢いていた。
その興奮が、ステージ上で眩いスポットライトを浴びている一人のアイドルへと注がれていた。
「アストルフォー! アストルフォー!」
「僕たちの天使、アストルフォ!」
「永遠に愛してるよ、ボクらの騎士様!」
ステージの中央で、ピンクの髪を長い三つ編みでおしゃれにまとめているアイドルが、フリルがたっぷりと施された膝上10センチほどのミニスカートを軽やかに翻す。
華奢な体つきに、天上の名工が命をかけて仕上げたような芸術的な美貌。
透き通るような白い肌に、キラキラと輝く大きな瞳。
しかも、ただ造形が整っているだけではなく、楽しそうに浮かべている愛らしい笑顔と時折見せる子犬のような無垢な仕草が、観客の心を鷲づかみにしていた。
激しいダンスと歌のパフォーマンスを行っているために、真っ白な肌に浮かぶ玉の汗と頬の紅潮がなんとも言えない魅力を醸し出している。
胸元はストンという擬音が聞こえそうなほどに真っ平らで、体つきは全体的に華奢だ。
肩や首にたっぷりのフリルがつき、ミニスカートの下のニーハイソックスには激しいダンスを行うために可愛らしいデザインのサポーターがついているため、全体的に体のラインを隠すようなアイドル衣装で行うそのパフォーマンスは会場の観客を熱狂の渦に叩き込んでいた。
そのアイドルの名は、アストルフォ。
かつて、Fランク王国にてシャルルマーニュ十二勇士の一人として知られる美貌の騎士であり、現在のFランスでも愛されている英雄の一人だ。
生半可な美少女では足元にも及ばない愛らしさを持つ、Eングランドの『王子』でもあった。
そう、アストルフォは俗に言う『男の娘』なのだ。
それもただの男の娘ではなく、N本では珍しくない『男の娘アイドル』というジャンルにて、頂点に君臨するスーパーアイドルである。
「みんなー、あーりがとぉー♪ ボクのライブ、たっぷり楽しんでいってね~♪」
アストルフォの甘い声がマイクを通して、会場中に響き渡る。
N本に在住する有名な作曲家が考案した軽快なポップチューンに合わせて、アストルフォは英雄の名に相応しいスペックでステージを縦横無尽に駆け回り、華麗なダンスでファンを魅了していく。
気まぐれに投げキッスを贈れば客席はさらに熱を帯び、外国人ファンたちは我を忘れて叫び、涙を流す者さえいる。
「アストルフォきゅ~ん! 結婚してくれ~!」
「アス、アストルフォっ! お前は、俺の全てだー!」
まるでアイドルのライブというよりも邪教の集会のような熱狂が会場を包みこんでいく。
今この瞬間に関して言えば、このメインホールは『アストルフォの王国』であり、彼はそこに君臨する絶対の『王子様』だった。
「来月には、ついにアキハバラの『Nドーム』でライブだからね! みんなのおかげであそこに立てるよ! でもでも……えへへ、ボクはまだまだ輝いちゃうからね! N本トップクラスの男の娘アイドルじゃなくて、N本アイドルのトップ……神アイドルになるために! これからもいっぱい応援してね!」
「うおおおおお! アストルフォぉぉ!」
「いいぜ! いいぜ! いいぜ! アストルフォ、永遠に推すぜ!」
「アストルフォきゅん! わ、わたし、アストルフォきゅんにお給料の全部捧げちゃう!」
今、アストルフォは男の娘アイドルとしては間違いなくトップクラスの存在だが、しかし、アストルフォもファンもそこで終わるつもりは毛頭ない。
そこから女性アイドルも含めた『アイドル』という大ジャンルのトップに立ち、神アイドルへと成り上がろうという野望に燃えているのだ。
「N本っていう最高の国で、N本人様の下で、最高の人生を送ろうね! ボクとの約束だよ!」
「うおぉぉぉぉぉ! 一生ついてくわ、アストルフォきゅん!」
「アストルフォ、僕の永遠の推し! 最高ぉぉ!」
アストルフォの満面の笑みと、男女問わずハートを掴んでいる観客たちの絶叫とともに、今回のライブは大成功のままに終わったのだった。
からん、ころ~ん。
しかし、ここまで熱狂的なアイドルライブを行えるアストルフォであっても、この安っぽい鐘の音が鳴り響くN本という世界では、ある種の奴隷階級に過ぎない。
まず前提として、崇N侮外世界『N本』は、N本を上にして外国人を下に置く厳格な階級制度と、それを当たり前のように受け入れさせる世界規模の洗脳によって成り立つディストピアだ。
N本人こそが唯一絶対の優生民族であり、この世界では少数民族として神のごとく崇められる存在で、莫大な資金と科学・魔術の融合技術を自由に操り、国際社会の頂点に立っている。
一方、N本に住む外国人は『下級国民』として、N本人への絶対的な忠誠を誓い、搾取されることにすら喜びを感じる。
さらに、外国人たちの間では様々な条件をクリアしてN本の国籍を取得した『名誉N本人』と、未だ国籍は取得できていないものの就労ビザや留学ビザなどを使用してN本に在住している『在N外国人』などで細かい身分制度が存在していた。
そんな歪んだ世界観の中で、アイドル文化は独特の形で花開いていた。
N本におけるトップアイドルとは、類まれな美貌と外見だけではない内面的魅力を持つ完璧な美少女や美女であるものの、ほぼ例外なくN本人の『お手つき』である。
いや、アイドルだけではなく美女や美少女はN本人の独占物であるのだが、アイドルとして活動する女性たちは露出が多いために、ひょんなことからN本人の目につきやすいのだ。
この影響で、多くの少女たちはアイドルの道を目指す。
それは自身を輝かせたいだとか、ファンを笑顔にしたいだとか、あのアイドルに憧れてだとかではなく、ひとえにN本人様に見初められて、奴隷妻などの地位で召し抱えられたいからである。
そうして、アイドルたちはN本人の所有物となった後も変わらずにステージに立つ。
そこからの彼女たちが行うライブとは、自分たちを通してN本人の魅力を外国人ファンに見せつける場であり、ファンにとっては手の届かぬ夢を追いかけるような、苦痛と興奮が入り混じった奇妙な儀式だ。
外国人のファンたちはN本人様に直接仕えられるようになったアイドルたちを称賛して応援しつつも、N本人への忠誠を持つからこそアイドルたちを『自分たちのアイドル』と感じることは許されないのだ。
N本人に仕えるようになったアイドルたちは、自分たちファンが必死に『推していた』時よりも圧倒的にパフォーマンスに優れ、魅力を増している。
N本の科学技術・魔法技術のサポートを全面に受けられるようになり、さらに、世界規模で改変された結果として、N本人男性のザーメンには女性の性能を向上させる力を持つようになっているためである。
自分たちでは輝かせれなかったアイドルたちを容易く高みに昇らせるN本人に外国人ファンたちは崇拝の念を抱きつつも、言葉にはしづらい嫉妬心にも似た感情を燻らせるしかないのだ。
しかし、一人のカリスマ的なエンターテイナーによって、このアイドル文化に異変が生じた。
それこそが、『男の娘アイドル』の台頭である。
N本において、女性アイドルとはよほどの勘違い女の失敗アイドルでない限り、N本人の所有物として扱われるために外国人ファンにとって『純粋に愛せる』存在は限られていた。
一方で、男の娘アイドルは容貌こそそこらの外国人美少女を凌ぐ美貌を持ちながらも、男であるがゆえにN本人様に牝として使用されることが絶対にない、そんな『絶対安心の清純派』として外国人たちの間で爆発的な人気を博したのである。
男だと分かっていても勘違いしてしまう彼らの可愛らしさや中性的な魅力は、『見目麗しい外国人女性は、たとえパートナーが居たとしても、N本人男性に奉仕をするべきだ』というこの世界の厳格な性規判から一歩外れた自由さを提供する。
男の娘こそが、美しい女性をN本人に独占されている外国人たちの抑圧された欲望を解放する偶像となり得たのだ。
だが、男の娘アイドル側から見ると、この『清純派』のイメージは諸刃の刃となっている。
男の娘アイドルを外見だけで男だと見抜くのは至難の業だ。
こうして活動をしていると、N本人の目に留まることもある。
そうして、女性アイドル同様に所有物になれと、『光栄にも』声をかけられた男の娘アイドルも過去には存在していた。
だが、その男の娘アイドルも自身が男であると明かした途端、N本人のニヤニヤとした態度は一瞬で冷たい拒絶に変わり、暴言を吐いて立ち去っていったという事例は有名だった。
その男の娘アイドルは尊敬するN本人様に否定されたことで鬱病となってアイドルを引退してしまい、ファンたちはそれを大いに嘆いたが同時に下卑た安堵も覚えていた。
やはり、男の娘アイドルはN本人様に奪われることがない、『安全な清純派アイドル』なのだ、と――――。
「ふぅ、今日もすっごく盛り上がったね! みんなの笑顔、最高だったなー♪」
ライブが終わって楽屋へと戻ったアストルフォは、汗を拭いながらソファに腰を下ろす。
フリルたっぷりなアイドル衣装のまま、目を細めながら自分を応援してくれて、自分の可愛さに賛美の声をあげてくれた、大事なファンたちのことを思い出す。
「うん? どうしたの、プロデューサー? なんだか、浮かない顔だね」
「……あぁ、アストルフォ。ちょっと、大事な話があるんだ」
しかし、そのアストルフォの楽屋へと入ってきたマネージャーの様子を見て、すぐにアストルフォの表情は曇ってしまった。
その後に重く口を開いたマネージャーの声に、アストルフォの心臓がドキリと跳ねて嫌な予感が募ってしまう。
「え、なになに? どうしたの? なんか、怖いんだけどな~」
アストルフォはわざと軽い口調で返すものの、その大きな目は不安げに揺れている。
マネージャーもその動揺をしっかりと読み取っているためか、一呼吸置いた後に慎重に言葉を選びながら口にした。
「実は……N本人様から、君に会いたいという連絡が来たんだ。直々に指名されたんだよ、アストルフォ。今すぐ、指定の場所に来てほしいと言われている」
「えっ……N、N本人様!? ボクに!?」
アストルフォの声が裏返る。
それも当然だろう。
N本人とはこの世界における絶対的な支配者であり神にも等しい存在で、彼らの前ではどんな才能も美貌も腕力も権力も、全てが無意味だ。
アストルフォもこのN本で暮らす外国人としてN本人への崇拝を心に刻まれているが、同時に恐怖も抱いている。
もしも、呼び出しているN本人がアストルフォを男の娘であると知らない場合、それを明かした途端に偉大なるN本人様から罵声を浴びることになるかもしれない。
N本人の中には、人の話を聞かない人間も多いため、周囲の人間がアストルフォは男の娘だとうまく伝えられていない可能性も高いのだから、アストルフォの胸には不安が広がっていった。
「で、でもさ……ボク、男だよ? N本人様って、女の人しか興味ないんじゃないの? その、男が女の格好をして行って、怒られたりしないかな……?」
マネージャーは肩をすくめ、淡々と答える。
「それは僕にもわからない。正直、N本人様と言ってもそれぞれがそれぞれの個性を持っていらっしゃる。
男の娘アイドル絡みだった、あの有名な事件を起こした人とは当然別のN本人様だから、単純にアストルフォを褒めるだけかもしれない。
どちらにせよ、N本人様直々の命令なんだ。逆らうって選択肢はない。すぐに向かおう」
アストルフォは唇を噛み、震える手でスマホを握る。
自身を奮い立たせるために、先ほどまで応援をしてくれたファンたちの笑顔を思い出す。
何が起こるかはわからないが、とにもかくにもN本人の呼び出しに応じなければ、アイドルとしての未来どころかこのN本に在住し続けることすら危うくなるのだ。
「う、うん……行こう。すぐに行こう、マネージャー」
普段の天真爛漫な姿はなく、重々しい顔のままアストルフォはアイドル衣装から着替えもせずに、用意された車に飛び乗るのだった。
「いいか、失礼のないようにな……!」
「もちろんだよ、マネージャー……!」
からん、ころ~ん。
指定された場所は、安っぽい鐘の音が鳴り響くアキハバラの東地区にそびえる、豪華なホテルの最上階スイートルームだった。
ホテルのフロントまではマネージャーも同席していたが、ここから先はアストルフォひとりで来るようにというお達しである。
アイドルとマネージャーという関係で、これまで様々な障害を二人三脚で乗り越えてきた二人は見つめ合い、頷きあい――――そして、アストルフォはエレベーターで最上階へと向かっていった。
そうしてたどり着いた、指定の部屋。
アストルフォは緊張した面持ちでドアをノックする。
心臓が外に飛び出してしまったのではないかと思うほどに、鼓動の音がうるさかった。
「やぁやぁ、アストルフォ! いやー、LIVE中継で見てたけど、ライブ最高だったよ! 画面越しでもわかるぐらいキラキラしてたっていうか……!」
からん、ころ~ん。
安っぽい鐘の音が鳴り響く中で開いたドアの先で待っていたのは、意外にもアストルフォにとっては非常に親しみやすい雰囲気を持つ男だった。
というのも、そのN本人男性はあまりにもアストルフォのファンたちに似ているのだ。
外見はN本人と非N本人ということでもちろん異なるのだが、浮かべる表情や視線、挙動が似ているというのだろうか。
それもそのはず。
このN本人もまた、元の世界では『アイドルオタク』として日々を過ごしていたからなのである。
「あっ、僕は沼下種夫って言うんだ。よろしくぅ♪」
沼下種夫。
数ヶ月前に現実からN本に転移してきたN本人である。
無難な黒縁メガネにTシャツとチノパンという実にラフな格好だが、その眼鏡の奥の瞳にはN本人特有の絶対的な自信が宿っている。
喋り方はオタクっぽく軽薄だが、アストルフォにとっては妙に引き込まれる魅力があるように感じられた。
(うわぁ……N本人様、本物だ! 握手会とかにも来てくれる、C国人やK国人の子たちと同じアジア系なのに、向き合うと全然違う……! オーラっていうか、威圧感っていうか……『僕らとは違う生き物なんだ』って、無意識にわからされちゃうみたいだっ!)
胸の高鳴りが止まらなかった。
アストルフォは男であり、また、単純な性的指向においてはノーマルな、女性を対象とするものである。
あくまで男の娘の振る舞いをしているのは、理性が蒸発していることに加えて、単純にかわいいものが好きで、自分はかわいいものが似合うという自認があるからに過ぎないのだ。
そのはずなのに、体の芯から熱くなり、下腹部がキュンとうねり出す。
まるで、あるはずのない子宮がN本人男性様に強く恋い焦がれているようですらあった。
(や、やば……顔、まともに見れないかも……❤ かっこよくもかわいくもない、平凡なオタクくんって感じなのに……すごい、素敵だっ❤ 顔がいいからチヤホヤされてたことが恥ずかしくなっちゃうような……人間的な魅力……❤ うぅ~❤ ボク、男の娘なのに……N本人様に一目惚れしちゃってるよっ❤)
からん、ころ~ん。
もちろん、このアストルフォの反応は安っぽい鐘の音が鳴り響くN本を支配する洗脳の力の影響である。
たとえ、肉体的な性別が男性であろうとも、N本人男性が強く性的興奮を覚えるような外見ならば、その人物はすぐにそのN本人男性に恋心を抱くように出来ているのがこの崇N侮外世界『N本』なのだから。
そんなからくりに気づくはずもなく、アストルフォはその愛らしい顔を真っ赤に染め、さらにうっとりとした視線で見つめながら、種夫へと微笑みかける。
ファンが絶対に見ることが出来ない、心からのガチ恋スマイルである。
「あ、ありがとうございます……! ボク、アストルフォです。えっと、N本人様に呼ばれたなんて、びっくりしてて……」
「気にしなくていいよ、とりあえず飲みなよ。真面目な話になるから度数は低めだけど、逆にスッキリした飲みやすいお酒だからさ! あとN本人様じゃなくて種夫って呼んでね~♪」
予想外のフレンドリーさに戸惑いながらも、アストルフォは緊張が少しほどけたのか、恐る恐る頭を下げた。
そして、スイートルームに相応しい豪奢なソファーに腰を下ろし、差し出された酒を口にする。
種夫の言葉通り、するりと喉を通って心地よい暖かさを与えてくれる。
(よ、よし……ちょっと、リラックスできたかも……! だから……せめて、ボクから言わなきゃ! ボクは女の子じゃなくて男の娘なんだって、自分から言って騙すつもりはなかったことをアピールしなきゃ!)
酒を飲んだ後に、またごくりと喉を動かす。
種夫がアストルフォをこのスイートルームに呼んだ理由、その本題が始まる前に、種夫の印象を少しでも良くするために、まずは自身から言わなければと意を決して切り出す。
「あの……種夫様っ! ぼ、ボク……その、男なんです! アイドルやってるけど、それは男の娘アイドルで……! その、隠してるつもりはなかったんだけど、もし、女の人だと勘違いして呼んだのなら……ご、ごめんなさい!」
声を震わせ、目をぎゅっと閉じ、勢いよく頭を下げるアストルフォ。
このN本で男の娘アイドルに関わっている外国人ならば誰もが知る、過去にN本人から拒絶された事件の情報がフラッシュバックした。
アストルフォの可憐な顔から花が咲くような愛らしい笑みが消え去り、真っ青に顔を染めながら、さらにはその未来への恐怖で全身から冷や汗まで流す有り様である。
「ははは、そんなこと知ってるよ! わざわざ呼び出したし、そ、それに、僕だってアイドルオタクだから最近の業界のトレンドはしっかりチェックしてるからね♪」
「え……!?」
だが、種夫はそんなアストルフォに対して軽く笑って、鷹揚に手を振る。
その言葉に、アストルフォの目が見開いた。
拒絶されるどころか性別を気にせず受け入れられたことは、アストルフォには予想外の出来事だったのである。
「僕はね、アストルフォが欲しいんだよ! 男とか女とかは……うん、『N本ならなんとかなる』からどうでもいいしね♪ あんなにたくさんのファンを惹きつけるなんて、ただ顔がかわいいだけじゃ出来ないからね。みんなが欲しがってる君が、僕だけのものになってくれる……ぐふふっ、それが僕は大好きなんだよねぇ♪」
この沼下種夫という男は、このN本に来る前からアイドルオタクとして活動をしていた。
地下アイドルにはあまりチェックせず、メディアの露出も多いメジャーアイドルを主軸として追っていた種夫の中には、『多くの人を引き付ける魅力』というものに執着心を抱いている。
種夫は外見の魅力が乏しい上にコミュニケーション能力にも劣ることに劣等感を持っていた。
それが、メジャーアイドルのような優れた人物を『推す』ことで、なんでもない凡人の自分が、アイドルという大きな物語の一部になれたような感覚を覚えて、その劣等感が拭われる想いになれたのだ。
そして、その在り方がN本に来たことで『ファンのためのアイドルを自分のものにしたい』という『独占欲求』と、『ファンからアイドルを奪いたい』という『略奪欲求』となって暴走していた。
「だから今日はね、アストルフォきゅんを僕の『お嫁さんアイドル』としてスカウトしに来たんだ! どうかな、男の娘アイドルではなく僕のお嫁さんアイドルにジャンルを転向するつもりはないかな?」
「ほ、本当に……? う、嬉しい! 嬉しいよ、種夫様! ボク、あなたのお嫁さんアイドルになる……ううん、ならせてくださいっ!」
その言葉に感極まったアストルフォは、ソファーから立ち上がって勢いよく種夫に抱きついた。
男の娘であるアストルフォは柔らかな身体をしつつもどこかゴツゴツとした骨ばった印象も与えるが、そこから漂う香りはそこらの美少女を軽く上回るほどに芳しいものである。
種夫は大人気アイドルが自身に抱きついているというシチュエーションにニヤ二ヤとした笑みを浮かべながら、アストルフォの頭を撫でた。
そのピンクの髪はシルクを上回る手触りで、アストルフォという男の娘がとんでもない『上物』だということを教えてくれる。
「ひひ……そ、それじゃあ、ファンのみんなにもちゃんと報告しないとね! それも、動画とかでただ発表するだけじゃつまらないし、アストルフォきゅんの人生の節目なんだから……そう、すごい舞台で派手に発表しないと! 来週の『Nドーム』でアストルフォきゅんが男の娘アイドルを引退してボクのお嫁さんアイドルとして再デビューするって教えてあげよう!」
「え……?」
お前たちが推していたアイドルは自分のものだと、強烈に示して実際に独占する。
この提案こそ、まさに種夫が持つ薄汚い欲望の発露だろう。
そんな悪意に満ちた提案を受けて、アストルフォはぽかんと間の抜けた表情を浮かべる。
だが、それも一瞬だけのことだ。
「それ……すごく素敵だよ! ボクを応援してくれてるみんななら、きっと祝福してくれるはずだもんね!」
このN本の価値観に洗脳されているアストルフォは、偉大なるN本人様が卑しい悪意や下衆な欲望をその提案から見出すことはできなかった。
なによりも、『頭がパーになっている』というほどに理性が蒸発しているアストルフォは、『偉大なるN本人様の言うことは正しい』と無条件で信じているし、ファンたちのことも純粋無垢に、自分のことをアイドルとして、そして一人の人間として応援してくれていると本気で思っているのだ。
「それじゃあ……アストルフォきゅんにはこれから一ヶ月、お披露目ライブを目指して僕の下で『お嫁さんアイドル』になるための特訓だね♪ もちろん、それには……ぐひひ、ちょっとした『人体改造』も受けてもらうから、きっと厳しい一ヶ月になるよ~♪」
「そんなのへっちゃらだよ! ボク、種夫様のお嫁さんアイドルになれるように必死で頑張っちゃうもんね!」
からん、ころ~ん。
安っぽい鐘の音が鳴り響く
今なお安っぽく鳴り響く鐘の音が、アストルフォの新たな物語の幕開けを告げるようだった。
もとより、この狂った世界に召喚された時点で、このアストルフォは初めからN本人の玩具となるように運命で決められていたのだから。
(続)