(前作)

月に有用な資源はないと思われていたのも今は昔。 技術の発展とは偉いもので、新たな方法で月に存在する資源を発見したのである。 それは停滞しつつあった人類の歴史に爆発的な発展を起こし、中断されていた宇宙開発という夢が復活していったのだ。 『人類史で最も恵まれた時代』という表現が胡蝶でなく当てはま...
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ここはドスケベ幻想郷。
世界から忘れ去られたものたちが流れ着き、再び注目されることもなく淀むように腐っていくはずだった、その名前も持たないはずのゴミ捨て場は、肝田優太という今を生きる人類が忘れされたものに着目し、その世界に来訪して名付けることでその在り方が固定された。
すなわち、この世界は肝田優太のための世界。
物語のキャラクターという被造物であるものをルーツとし、その物語が忘れ去られたことで、忘れ去られたものたちが流れ着く場所に行き着いてしまい、この世界で生活を続けるうちに、そのキャラクターたちは物語におけるものから乖離をしていき、原作通りとは到底呼べないものへと変化していったという。
「う~ん! 実に面白い世界だなぁ……!」
カタカタ、と。
外の世界から持ち込んだ近未来ガジェットの特徴的なキーボードを叩きながら、肝田優太は自身の身に起こった不可思議としか言いようのない現象についての記録をまとめていた。
肝田は根っからの研究者――――いや、『オタク』である。
それも我々の遠い未来に位置する『オタク絶滅期』、自分から動かなければそれらに触れることができない時代に存在するオタクだ。
オタク全盛期、言うならば『国民総オタク時代』であり、国家戦略としてオタク・カルチャーを海外輸出して財を成したような21世紀中頃の時代のように、口を開けていれば多種多様な作品を摂取できて、そこから自分好みのものを楽しめていた、そんな恵まれた時代の住民ではないのである。
そのため、凝り性である肝田は膨大な国家アーカイブへのアクセスや、遺族からの寄付によって地方自治体のアーカイブにのみ残された同人誌の存在など、実際に自分の脚を使ってそれらを回収して回っていたのだ。
オタク・カルチャーというものをインプットすること自体ももちろん楽しいのだが、同時に未知のことを知ることを楽しむという特徴も持っている肝田は、様々な方法で研究を重ねてきたのである。
その研究者魂ならぬオタク魂が、このドスケベ幻想郷という摩訶不思議な世界に対しても燃え盛っていたのだ。
「紫さんが代表となってるから一見すると幻想郷をイメージしちゃうけど、あれは文明開化前の山村のイメージだけど、この車や電柱などがあるこの管理地区はどちらかと言うと、旧大戦後の昭和期の山村のイメージ……かな。紫さんが、本来はこの地区の人じゃないキャラも移住してきたりしているというし。う~ん、やっぱり他の地区も興味あるなぁ。考察のまとめと、料理の美味しさと、お風呂の気持ちよさで長居しちゃってるけれど、どんな世界なのかこの目で確かめたいし、いろんなキャラに会いたいしね……!」
その『研究資料』と命名されたファイルの中身は、肝田の漠然と散らかっていた情報を整理するための、草案とも呼べない落書き状態でしかなかった。
今まで出会ったキャラクターの名前の羅列と、この八雲紫が管理している『田舎地区(仮)』の情景のまとめなどである。
現在この地区に移住している美少女キャラクターたちは、八雲紫が肝田への歓待のために意図的に集められたキャラクターだ。
そのため、『この田舎地区にはこういうキャラクターが集まってるのか……なにか共通点でもあるのかなぁ?』とワクワクしながらも考えている肝田の思考は、星座遊びにも等しい無為な行為なのだが、それでもこの深読みが楽しいのだと言わんばかりにニヤニヤとした、オタク特有のあまり整っていない不気味な笑みを浮かべていく。
「よしっ! 今日こそは外に出てみよう!
今までの情報を加味するなら、いろんな地区があるはずだからね。オタク全盛期の20世紀後半から21世紀前半の都会を舞台にした学園モノや現代バトルモノとか、逆に中世期のヨーロッパをイメージにしたファンタジー世界モノとか、そういうのもあるはずだろうし……! そこにも興味津々なわけですよ、オタクである僕としては……!」
いかにも田舎の日本らしいローテーブルから立ち上がり、肝田は決意をする。
一ヶ月近くもこの田舎地区(仮)で安穏とした生活をしてきてしまったが、今度こそ研究者らしく、いやさオタクらしく、様々なジャンルの作品に触れていこうと決意したのだ。
「あっ、プロデューサーさん❤ もう起きてたんですね❤ 今日も、とっても大きなオチンポ様❤ 男性は生理現象で寝起きに勃起してしまうのでエッチな気持ちになったわけではないんでしょうけど……このままじゃ辛いですよね❤ あなた専属アイドルの千雪が、ヌキヌキご奉仕を努めさせていただきます❤」
「ぶふぉぉっ!? ち、千雪さんっ!? くぉ、や、やばいっ……! 今日も脳みそがちんこになるっ……!」
…………ただし、こうした『誘惑』が続くことで、結局その決意も『なあなあ』となってこの地区に留まり続けた結果がこの一ヶ月なのだが。
肝田は桑山千雪の、それこそ原作の時点で大ボリューミーなセクシーな体つきをしているのにそれよりもさらに増量されたドスケベボディなアイドルに後ろから抱きつかれて、その甘い声を耳元に吹きかけられてしまう。
それだけで、先ほどの新しいものに触れようという決意は吹き飛んで、この地区で出会ってセックスをしてきた美少女・美女たちとの触れ合いを優先しようという欲望に流れるのだった。
もちろん、今回の桑山千雪に限らず、様々な女性キャラクターから誘惑をかけられればどんなオタクもコロっとデレデレしてしまうのは仕方ないのだから、擁護の余地はあるだろう。
そう、悪いのは魅力的な女性キャラクターたちであって、決意を霧散させた肝田は仕方ない被害者的な一面が強いということも、確かに一理あるはずだ。
――――少なくとも、この世界の『管理者』たちはそう判断したのである。
◆
暗闇の中で、一つの豪奢な円卓と豪奢な椅子が並べられていた。
それは暗幕の壁や床の部屋というよりも、椅子や円卓の脚がついている部分が地面なのかも怪しい、暗闇の空間と言ったほうが正しいだろう。
語弊があるし実際にはニュアンスが異なるのだが、それでもそれらしき言葉を使うのならば、宇宙空間に存在する会議室と言えば、かろうじてそのイメージがつくだろうか。
そこは暗黒空間であるが故に『扉』や『入口』のような概念は存在せず、さらには会議テーブルが円卓であることから、いわゆる上座や下座と呼べる概念が発生しない、その席につく人々が完全に対等であるということを示している。
そんな上限関係の存在しない『円卓』に、いくつか席に空白が存在するものの、複数人の女性たちが腰掛けていた。
「ねぇ~、そろそろ言い訳を聞いておきたいかなぁ? 紫ちゃんってばさ、ちょ~っと調子に乗ってない?」
「そうだね、穏健な僕と言えども、さすがに限界ってものさ。わかりやすい説明を頼むぜ、八雲紫?」
その女性たちの中で、複数人のキャラクターがにこやかな笑みを浮かべながらも隠しきれない怒気をにじませた声で一人の女性へと視線と声を投げつける。
そう、『投げかける』というよりも『投げつける』という表現のほうが正しい、そんなトゲトゲしさがこの会議――言うならば、『暗黒円卓会議』を支配していた。
女性たちが放った声色や視線はもちろんのこと、どこか彼女たちが放つ『支配者』の雰囲気、それもただの社長や王様といったコミュニティのトップというだけの支配者ではなく、もっと根幹的な、超然として視点を常人よりも一つ上に持つものだけが放つ、気の弱いものならば失禁をしてしまいそうな、そんな恐ろしいオーラである。
「あら、私は何もしていませんわ。全てはかの御方の思し召し、この世界に命名をして方向性を決定づけてくださった、救世主が如きかの御方が望めば、すぐにでもあなた達と提携をして新たな娯楽を提供しますが……ふふふっ❤ どうやら、かの御方……肝田様は私の管理区がとても気に入ったご様子でして。昨日も私を始めとする多くの女性を貪っていましたよ」
だが、そんな威圧的なオーラを一人の美女――八雲紫は涼し気な顔で受け流していく。
それどころか、ドスケベ幻想郷においてそのステージが一つ上の、言うならば概念的な意味での『神』にも等しい存在である肝田との蜜月を自慢げに口にする始末だ。
「っ……! なに、これ、煽られてるの? 温和な束さんでも、さすがに限界があるんだけどなぁ……! 別にこっちは地区を股にかけた戦争をしたっていいんだよ……! なにせ、兵器ならいくらでも作り出せるんだからね……!」
これには、暗黒円卓会議に出席していた、紫と同様に『管理者』の一人である『篠ノ之束』はその原作の時点で大きかったバストをさらに豊満にした爆乳をプルプルと震わせる怒りを示しながら、ニコニコとした笑みの中に殺意の籠もった視線を紫に向ける。
原作の『IS』でその時点の世界を一変させる超兵器をたった一人で開発した束は、このドスケベ幻想郷に流れ着いて様々な別作品の技術を吸収することで、ドスケベ幻想郷の全ての地区の中でも最上位と呼べる『純粋火力』を誇っている地区を造り上げたのだ。
一般市民も多い紫の地区と戦争のようなことになれば、いくら変則的な能力を持つものが多いとは言え、圧倒的に束側が有利になるだろう。
武力交渉の一種である。
「まさか、そんなそんな……ただ、肝田様の素晴らしさを、一介の牝として喧伝をしているに過ぎませんとも。そうだ、貴方がたもこちらに移住をされるのはどうですか? 管理者などと偉ぶっても、所詮は肝田様の前では一匹のメスに過ぎないのだから。ええ、管理者として……『新しい住民』の移住はいつでも受け入れていますわ。もちろん、その際には私と同格の管理者ではなく、一介のモブキャラとなってもらうでしょうが……❤」
そんな束の殺意を向けられても、紫のニヤニヤとした『自慢』は止まらない。
それどころか、他の管理者を見回して自身の管理する地区への移住を勧めていくではないか。
これは、管理者という特別な地位につく彼女たちにとって最大の侮辱であった。
それでも、紫の煽りじみた誘惑はあまりにも魅力的である。
特別な存在であると言っても、肝田優太という最高の存在を提示されれば一介の賑やかしのモブの立場になってでも媚びへつらいたいだろうという、このドスケベ幻想郷にいる牝ならば絶対に抗えない。
「おい、調子に乗るのもいい加減にしなよ。僕たち管理者は常に同格だ。だからこそ、この世界は維持されている。そもそも、彼のために男性キャラの隔離のための地区移動の振り分けをしたのは僕の無数に存在するスキルをフル稼働させたおかげなんだぜ? ちょっとはお仲間へのリスペクトってものを持ちなよ、それが彼も大好きな少年漫画における、『いろはのい』ってものだろう?」
そんな紫に対して、同じく『管理者』の一人である『安心院なじみ』が冷めた目で、それでも怒りを隠そうともせずに切って捨てた。
原作の『めだかボックス』からさらに乖離したこの安心院さんは、すでに所有していたスキルの中に存在する一種のコピースキルで他作品のスキルをコピーし、さらに存在するスキルの中から成長系スキルをそれらに使用することで、まさしく万能の神の如き力を所有する、原作よりも強化されて一分の隙もなくなった最強キャラなのである。
そんな安心院さんの精神安定スキルさえ貫通してくるのは、やはり肝田優太というあまりにも特別すぎる存在が関わっているからだろう。
「……」
「……」
「……」
三人の視線が絡み合うように、あるいは火花を散らすようにぶつかりあっていく。
もちろん、八雲紫は『賢者』の言葉で例えられることもあるぐらいには聡明な女性だ。
肝田をこの世界に招く前に管理者同士で決めた当初の規定通りに、かの存在を別の地区に案内しなければいけないことぐらいは当然のように理解している。
ただ、理解していても欲望に抗えるというわけではない。
それぐらいに、この忘れられた世界に流れ着いてしまった物語のキャラクターたちにとって、自分たちを掘り起こして愛してくれた、肝田優太というオタクは尊ぶべき存在なのだ。
肝田優太という自称・オタク文化研究家は、ここにいる管理者の誰よりも頭が悪く、誰よりも外見が醜く、誰よりも力が弱く、誰よりも特殊なスキルなど持っていない。
だが、そんなことなどなんの意味もないのだ。
安心院なじみが万能であって全能でないように、オタクたちによって『承認』を受けることができない彼女たちは尽きることのない絶望の中に居たのである。
それを救ってくれた肝田は、『全能のお力』や『魂を救うお言葉』など持たなくとも、概念的な意味で本当の『神様』なのだ。
『信仰』とはそのお力やお言葉を信じるものではなく、ただ、そこにあるその存在を信じることなどということを、キャラクターに過ぎない彼女たちは肝田の存在で初めて理解したのである。
その神様にも等しい肝田が、自分を愛してくれている今の状況を易易と手放すことなど、忘れられたキャラクターであり一匹の牝でもある紫が、たとえ他の管理者との関係が悪化しようとしても、そんなことできるわけがない。
「まあまあ、少しは落ち着きたまえ。私も八雲紫には殺意を抱いているけれど、ここでギャーギャーと喚きあっても、かの『王』にはなんの利益も出ないじゃないか」
「…………マーリン」
「ノンノン。プロト・マーリン、あるいは、レディ・アヴァロンと呼んでくれたまえ。それこそがかの王が知る、私のフルネームなんだからね」
そんな険悪な空気の中で、この八雲紫への怒りのために欠席も目立つ暗黒円卓会議に参加していたもう一人の『管理者』である『マーリン』、いや、『プロト・マーリン/レディ・アヴァロン』がようやく声を発した。
八雲紫が呼んだように、彼女もまた一人の『マーリン』というキャラクターであるのだが、それでも肝田優太が原作の表記を優先して認識しているそれらの名前こそが自身の真名だと胸を張る。
その際に、原作では女性らしい膨らみを持ちながらもどこかスレンダーな印象を与える美乳だったはずのに豊満化されて爆乳となっている胸が、ぶるるんと震えた。
彼女もまた、肝田好みの爆乳デカ尻のドスケベボディになっているのである。
「ここは建設的に、『妥協点』というものを作ろうじゃないか。我々管理者たちが協力しあって、中立施設である『あそこ』を使って我らが王にご助力を願おう」
「『あそこ』? それに、助力?」
「そう――――私たちでは一文字としてそれらを完成まで物語を追加することができなかった、我らの『聖典』を眠らせている、あの施設さ」
プロト・マーリンは可愛らしくウインクをして、なんとも意味深な言葉を発していく。
肝田よりも少し多めの情報しか持たない視点では意図のわからない言葉であるが、このドスケベ幻想郷の管理者をしている紫たちにはそれだけで伝わったようである。
「ああ、なるほどね! うんうん、束さんも賛成! とっておきの子を送っちゃうよ! 普通じゃつまんないから……そうだね、肝田くんがだ~いすきな、あの子にしちゃおうかな! 彼好みの女の子のリストは作ってるからね~」
「ふむふむ、実に面白いじゃないかい。業突く張りで独占欲丸出しの紫ののらりくらりとした言葉よりもずっと発展的なものだぜ。僕だって、彼好みの女の子を提供して彼に楽しんでもらうの算段はついているんだ」
「…………はぁ。もう少しあの御方の御姿を間近で楽しめると思ったのに。わかりました、同意します。あの聖典なら、私が代表を任せるのは……彼女かしらね」
「それじゃ僕が企画を走らせてもらよ。私もまた、彼に貢ぎたいキャラの中でもとっておきのキャストを用意させてもらうからね」
束は飛び跳ねるように悦びを示し、安心院さんは紫にいやらし笑みを向けながら同意を示し、紫もまた観念したように両手を小さく上げた降伏のポーズを取りながら賛成を示した。
そこで、プロト・マーリンの笑みもまた深くなる。
「さぁ、行こうか。私たちの王、肝田優太くんが造り上げて、『ヒロイン』の選考ができなくて筆を折った、『❤イチャイチャ☆ラブラブ学園❤』。このドスケベ幻想郷で回収したあの聖典を、今度こそ王の行動で完成させてもらうのさ❤」
いつの間にか自身の『黒歴史ノート』が掘り起こされた上に、それらが『聖典』などと崇められていたことも知らない肝田は、こうして次のステージ――――『映画館』へと招かれることが決定されたのだった――――。
◆
「……知らない天井だ」
目が覚めると、知らない天井だった。
大好きなアニメのパロディセリフを口にした肝田は、のっそりとした動作でその重い体を持ち上げていく。
先ほどまで居た山村のお屋敷、その寝室ではないことは一目瞭然だ。
「アニメとか漫画とかゲームとかラノベとかでよく見るタイプの、ラブコメ主人公の部屋だ……!」
フリー素材の背景をそのまま使ったのではないかと思うような間取りのその部屋は、21世紀初頭をイメージさせる、言うならば『高校生主人公』の部屋そのものだった。
学習机に本棚、一人用のベッドもあればクローゼットと思われる扉の前には、肝田の時代では廃止されている『学生服』がハンガーにかけられているではないか。
「みんなとハーレムセックスをして、そのまま寝落ちしちゃったんだけど……どこだろう、ここ? あっ、僕があの地区に居すぎたから、ついに追い出されちゃったのかな……!?」
ベッドから身を起こして、そのベッドを椅子のようにして腰掛けながら肝田は思考を必死に働かせていく。
肝田の最後の記憶は、当たり前のように八雲紫を代表としたお気に入りの美女たちとのハーレムセックスに夢中になり、射精が心地よすぎて、挿入をしたまま『寝落ち』というものだった。
明らかに彼の知るドスケベ幻想郷、つまりは八雲紫の治める管理区との違いに首をひねることしかできなかった。
「うぁ~! どうすりゃいいんだろ! さすがに部屋の内装から僕のいた元の世界に追い返されたってことはないだろうけど、やっぱりセックスしすぎてキモがられてたのかな――――」
再び、ボフっという音を立てて肝田はベッドへと寝転がる。
肝田は彼女たちの誘惑に負けてついついあの管理区に留まって、この世界について理解することも放棄したままチンポが気持ちよくなるハーレムセックスばかりしてきた。
それはつまり、肝田の考える『オタク』としてあまり正しくない姿であり、オタクというよりも『消費者』と呼んだほうがしっくりと来る姿であった。
常にオタク・カルチャーを楽しみながらも、それらを深堀りして妄想しては、公式の新しい発言に『違ったのか~!?』『えぇっ! そういう意図があったんだ!』などと驚いては楽しむような姿こそが、肝田の考えるオタクだというのに、ただただ『シコる』ことだけを目的に滞在を続けたことで、あの地区のキャラクターに愛想を尽かされたのかと、今の肝田は誤解しているのだ。
ベッドに寝転がりながら小さな奇声を漏らしつつ、狭いベッドの上でゴロゴロと転がっている肝田だが、そんな自虐的な考えが単なる『杞憂』であることを示す『イベント』が発生する。
――――バタンッ、タタタッ、どすんっ、と言ったところだろうか。
そんな擬音が聞こえてきそうな動きを立て続けに起こす人物が、今の肝田が眠っていた『ラブコメ主人公の自室』へと入室してきたのである。
「グッモーニ~ン!」
「ふごぉっ!?」
開けられた扉は壊れていないか心配になるほどの元気いっぱいな勢いで、そのまま迷うことなくベッドへと駆け出して、小さく飛び跳ねてベッドへとダイブ――そんな破天荒な動きを取ってきた相手の体重が、肝田のお腹へとかかるので間の抜けた声を出すのも仕方ないだろう。
「ふぇ、ほぉ……うぇぇぇ!?」
「ぐりぐり~! おっきろ~!」
その存在はダイブをしてきただけではなく、どこか弾んだ声色で肝田のお腹の上で体を動かしてきたのである。
そうして体を動かすことで、ゆるく三つ編みにしている、特徴的な淡いピンク色の髪が揺れていく姿を、肝田はお腹に受けた衝撃でどこかぼんやりとする視線で見つめていく。
やがて、そのぼやけていた視界のピントが合ってきたことでダイブをしてきた人物の正体を理解してしまった。
「あ、アストルフォぉ!?」
「おはよう、優太! 相変わらずお寝坊さんだね、みんなもうとっくに起きてリビングで朝食を待ってるよ~!」
「えっ!? ええぇ!? ちょ、ちょっと、ちょっと待って!?」
そう、その淡いピンク色の三つ編みの長髪と、輝く太陽のような笑顔が特徴的な、彼女の髪色とはまた別の鮮やかなピンク色を基調にしたセーラー服を身にまとった、『一見すると女の子に見える』そのキャラクターは、肝田も大好きな『Fate/シリーズ』に登場するアストルフォその人であった。
一見女の子に見えるという言葉の通り、このキャラのルーツ/元ネタとなる『シャルルマーニュ伝説』に伝わる騎士アストルフォの通り、アストルフォはミニスカセーラー服の姿でも『彼女』ではなく『彼』、俗にいう『男の娘』なのである。
だが、そう言った知識を持っている肝田は、これがドスケベ幻想郷であることを考えれば、この世界でアストルフォに出会うこと自体はなにも不思議なことではない。
オタクである肝田がここまで驚いているのは、肝田が知るアストルフォと明確に違うものが、本来のアストルフォなら存在しないはずのものを、肝田がそのお腹の感触から感じ取ったからである。
「な、なんで!? む、胸……『おっぱい』があるの!?」
そう、そのアストルフォには魅力的な大きさの巨乳おっぱいが備え付けられていたのである。
本来のアストルフォは、美少女キャラクターの中に混ぜても人気一位を狙えるような天真爛漫な笑顔と細身の体がどれだけ魅力的と言っても、その本質はつるんでぺたん、広がったスカートをなくせば女性でないことを感じさせる骨格を持つ、男の娘なのだ。
それなのに、今、肝田を『起こしに来た』と言ってダイブをしてきたアストルフォの胸には、確かな膨らみがあったのである。
それも、ただ『ある』だけではなく、明らかに女性の平均よりも大きな巨乳おっぱいだ。
「あっ、僕のこと知ってるんだね! 嬉しいなぁ……って、じゃないじゃない! ここ『映画館』だった、役にならないと!
そ、そうだよ~、僕、女の子なんだ! 君の同級生さ!」
「同級生……!? 女の子……!?」
「それじゃ、もう起きてるみたいだから早く着替えて降りてきてね~♪」
肝田がアストルフォのことを知っていることに、彼、いや、彼女はその満面の笑みをさらに蕩けさせたような笑みを浮かべるものの、すぐにその顔を取り繕って、どこか演技っぽさを感じさせる声で『同級生の女の子』だと胸を張った。
その際にやはり、ぶるんっ、と巨乳が振るえて、くるり、と回転することでミニスカートが翻ってスカートの奥にある純白パンツが見えてしまう。
まるでラブコメ漫画の一幕のような姿を見せて立ち去っていくのだが、肝田は理解が及ばずに呆然と後ろ姿とその扉を見ることしかできなかった。
そんな時であった。
ぶるるっ、ぶるるっ、と。
枕元に置かれていたスマートフォンがバイブ機能による反応を示したのである。
「わっ!? これ……スマホ? 21世紀のやつだ! 情報……あるのかも!」
肝田はこの訳の分からない状態を解決するために、そのスマホに飛びついた。
そして、画面に表示されてる新着通知を示しているアプリをタップすると、そこからなんとも甘い声が響いたのである。
『やあやあ。ごきげんよう、我らが王よ。私は……便利役のレディ・アヴァロンさ。此度の体験型映画館の企画主を務める管理者さ』
「Fateの、プロト・マーリン……! 管理者ってことは、紫さんと同じ、ドスケベ幻想郷の偉い人!? 確かに、プロト・マーリンならそういうポジションも似合う……かも……!」
『ノンノン、今は謎多き案内人のレディ・アヴァロンさ』
そのアプリは通話アプリであった。
画面に映るのはプロト・マーリンことレディ・アヴァロンは、アストルフォと同じFate/シリーズのキャラクターだ。
肝田はこの瞬間にその頭脳をフル回転させて、薄っすらとだがここがどういう空間なのかを理解していく。
それは肝田の頭が良いというよりも、紫の管理区で流されハーレム生活を送っていたとは言え、研究者としてドスケベ幻想郷への考察を深めていたためである。
「やっぱりこれ、22世紀で流行った体験型映画なんだ! それのナビゲーターがプロト・マーリン……じゃなくて、レディ・アヴァロンだってことなの!?」
『その理解で叶わないとも。さあ、詳しい説明は後にして、まずはチュートリアルを終わらせようじゃないか。アストルフォと同じように、君のヒロインが待っているよ』
「ヒロイン……ってことは、ラブコメ漫画かなにかの映画化かな……? それをアストルフォが役者として再現してるみたいな感じ……?」
この体験型映画というものは、22世紀に流行した一ジャンルであった。いわゆるフルダイブ型のエンターテイメントであり、AIなどを利用した自立型キャラクターとその脚本に沿って動くことで、映画を実際に体験する種類のエンターテイメントだ。
それを理解している肝田は、このドスケベ幻想郷においては流されることこそが最善であると判断をして、コスプレとして自作したこともある詰め襟型の学生服に袖を通していく。
「これって、To Heartかな? アストルフォの制服がそれっぽかったし……いや、ちょっと違うかな……? それに、幼馴染ヒロインじゃなくて同級生ヒロインっていう感じの言い回しも気になるし……」
『ふふふ……まあまあ、君が細部も気になるオタクっぷりを披露してくれるのは私たちにとっては嬉しいけれど、今はみんなに会ってくれたまえ』
アストルフォの着ていた制服からなんとか原作を推理しようとしているものの、肝田の莫大なオタク・カルチャー・データベースの中に、その制服とアストルフォの来襲イベントをストーリーのスタートにしているものはない。
うんうんと首をひねっている肝田と、そんな肝田のいかにもオタクらしい姿に悦びを感じるLAは、そのまま部屋を出た後に階段を降りて、リビングへと向かった。
するとまず、一人の美少女キャラクターが待ち構えていた。
彼女もまたアストルフォと同じ鮮やかなピンク色のセーラー服を身にまとっているが、それはそのキャラクターの公式では身につけていないものだった。
「ほう、どうやら我らが肝田優太はずいぶんな寝坊助のようだな。女に囲まれた新生活に耐えられず、夜通しオナニーでもしていたか? ふふふ、童貞坊やには少し刺激がきついのも事実だろうからな」
「なっ、し、C.C.……!?」
そのキャラクターは、『コードギアスシリーズ』に登場するメインヒロインとも言える存在、『C.C.』であった。
正式名称は本来の主人公であるルルーシュにしか明かされず、続編となる映画で明確にヒロインの座を勝ち取っているそのキャラは今、原作では一切身につけていないピンク色のミニスカセーラー服姿で、原作通りのどこかサディスティックさすら感じる妖艶な笑みを浮かべていた。
鮮やかな宝石のような色合いの緑の長い髪は枝毛ひとつなくまっすぐに降ろされたストレートロングで、その切れ長の目と赤い唇と合わさって、いかにも経験豊富な美人といった印象を与える。
「う、うおっ……エッロ……」
「おっと? どうやら、思いの外で図星をついてしまったようだな。ふふふ、こちらも気合を入れて、スカートを折った甲斐がある……というものか?」
それだけならばその容貌は原作通りなのだが、だが、他のキャラクターたちと同じようにC.C.の肉体も原作より淫靡な形に変化をしていた。
『おっぱい』担当は別のキャラクターであるために手のひらに収まるほどのサイズだったのに、今では下から支えれば手首が折れそうなボリュームの巨乳になっているのはもちろんだが、『ケツ』担当であるC.C.の下半身はさらに凄い。
そのお尻はドンとした、ミニスカートの丈を明らかに短くしているボリュームのデカ尻となっており、それでいてだらしない印象を与えない形の良さがミニスカート越しでも感じ取れる。
そんなデカ尻をしている上で、太ももをむっちりとしているのに短足や下半身デブという印象は与えない美脚も完備しているのだ。
このまま見抜きをしてしまいそうなほどのエロさは、確かにC.C.のからかいは普通の男性相手ならば図星になってしまうようなものである。
そして、そんなエロくて可愛い、ピンクのセーラー服姿の美少女はアストルフォとC.C.だけではなかった。
「あっ、優太さんっ! おはようございます、今日は和風に仕立ててみました。あまり家事が得意というわけじゃありませんので、ぜひ指摘お願いしますね。優太さんの舌に合うように頑張りたいので……!」
「モ、モモちゃんまで……!」
もう一人の美少女、こちらも原作のブレザー型制服ではなくピンク色のセーラー服を着た可憐な雰囲気のショートカットの美少女、モモ・ベリア・デビルークであった。
ラブコメ漫画、いや、エロコメ漫画の金字塔の一つである『To LOVEる』の中でも人気で上位層に位置する人気キャラである。
アストルフォと同じピンク髪ではあるが、アストルフォが少し淡い桜に近い色合いのピンクだとするのならば、モモは鮮やかではっきりとした色合いのピンクの髪である。
また、アストルフォやC.C.がロングヘアーであるが、こちらはショートボブで、柔らかな印象を与えるパッチリとした大きな目に垂れ目がちの、男ならば誰だって好きだと言えるような、そんな正統派美少女顔だった。
「……ごくっ」
「っ❤ どうしましたか、優太さん❤ 私の胸に……なにかついてますかね❤」
「い、いやっ! なんでもないよっ!」
そのモモもまた、やはり肉欲を煽る肉感的な体つきをしていた。
原作では14歳の中学生というのにすでに女性らしい肉付きをしていたが、今のモモはそういう『中学生にしては』という表現ができないほどのボリューミーな爆乳ボディであった。
それこそ、その小さな顔が胸にも二つついているのではないかと思うほどの爆乳で、その中学生らしい、細いくびれた腰つきと幼さを大きく残した可憐な顔立ちが、より男の獣欲というものを掻き立てる体つきだった。
そんな爆乳に視線を集めていると、モモは何かを心得たように胸を強調するように前かがみになり、さらには上目遣いで肝田をじぃっと見つめてくる。
肝田が性欲丸出しの視線を向けていることに明らかに気づいているのに、それに気づかない無垢な少女を装うその姿は小悪魔そのもの。
C.C.のお姉さんらしくからかうサディスティックな様子とは違う、年少者としての立場を活かしたその挑発的な態度に、大人のはずの肝田は翻弄されて視線を逸らすことしかできなかった。
すると、アストルフォを含めたこの三人だけでも十分な美少女空間だというのに、まるでダメ押しするかのように、今までの三人ともまた異なる属性の美少女が現れたのである。
「ほら、C.C.もモモも優太くんでいつまでも遊んだりしないで。みんなでご飯を食べるのが規則なんだから、優太くんも顔を洗ってきてください」
「さ、さとりちゃん……!」
そのもう一人とは、八雲紫と原作を同じくする『東方Project』の古明地さとりであった。
桃紫色のショートカットの髪型と、幼さを感じさせる小さい体躯が特徴的な美少女である。
明らかにローティーン、下手をすれば一桁の童女にも見える背丈と幼い顔立ちをしているが、そんな体型とは裏腹に実に大人びた口調と目つきで、まるでこの場の最年長者のように振る舞っていた。
いや、まるでではなく、アストルフォたち美少女キャラはもちろん、本来は成人男性である肝田が学生服を着ているものであるため、恐らくはこの場での『大人』とされる人物はさとりなのだろう。
その服装がスーツ姿ということもあって、さとりは原作通りにロリBBAという属性でこの現実風世界のキャラとしてこの場にいるということが推察できた。
そして、当たり前のようにさとりもまた肝田好みの体つきに原作から変貌していた。
「……魅力的に思ってくれるのはありがたいわ。だけど、そういうのはまた後で……ね❤」
「えっ!? あ、そ、そうか……さ、さとりちゃんだもんね……!」
低い身長に華奢な体躯と整っているが幼い顔立ち、だけれど、その胸にはそれらにまるで相応しくないほどの大きさの爆乳がぶるるんと揺れているのだ。
アストルフォは全体的に増量し、C.C.やモモはそれぞれが尻やおっぱいを中心に増えても同じぐらいもう一つの膨らみもまた増量しているのだが、さとりはとにかく爆乳を重点して改造されていた。
文字通り、細い腰に薄いお尻の幼女体型に後から爆乳をつけたような、それこそ上質なコスプレアイテムとしてのバストインナーをつけているかのような不釣り合いなものだった。
肝田がそんな体をエロい目で見ていると、さとりはクールに、しかし、どこか照れたように流し目で注意をする。
なぜ自分の考えがわかったのだと一瞬動揺する肝田であったが、すぐにさとりはその名前の通り『さとり』という妖怪とルーツを同じくするキャラクターであるというオタクならば常識の知識を思い出して、慌てたように洗面所へと逃げ出すのだった。
「…………なんだこれ!? なんの作品!?」
そして、その洗面所で顔を洗った後に思わず叫んでしまった。
何故かこの家には、アストルフォとC.C.とモモとさとりという、超絶美少女が揃っている。
それも四人も、だ。
一人だけでも男たちからチヤホヤされて貢がれて、働かずともお姫様として一生を過ごせるほどの美少女が四人も同じ屋根の下に、肝田と暮らしているという設定である。
まるでわからない、肝田の脳内データベースの中には似たような作品はあるが、それらとはどれも違うような気がしてならない。
『やあやあ、チュートリアルという名のヒロイン紹介は終わったね。なので、ここで改めてこのレディ・アヴァロンが新たに情報を開示しようじゃないか』
「プロト……じゃなくて、LA!」
『さてさて、まずはこの世界観、いわゆる設定から説明していこう。何故彼女たち四人と共同生活をしているのか、それはね、彼女たちが君の『イチャラブ恋人候補』だからさ♪』
「………………うん?」
そんな肝田への助け舟としてスマホから、『透明感のある』や『謎めいた』という表現がよく似合う美少女のLAが現れ、どこか間抜けさを感じさせるキーワードを口にしたのである。
イチャラブ恋人候補。
そんなあまりにも馬鹿らしい用語を耳にして、肝田は背筋が凍る思いになった。
そのワードに嫌な心当たりがあったからだ。
動揺を越えて停止状態になっている肝田を置いて、LAは実に弾んだ声で説明を続けていく。
『23世紀に実在したとある少子化対策の婚活制度を参考にして、さらに21世紀に流行した恋愛リアリティショーも下地にした『それ』は、たった一人の少年、『肝田優太くん』が、同級生ヒロイン・先輩ヒロイン・後輩ヒロイン・先生ヒロインなどの四人の美少女たちから愛の告白を受けて一人を選ぶという、実に魅力的な設定の作品。その名も、『❤イチャイチャ☆ラブラブ学園❤』――――』
「うわあああああああああ!?!?!?!」
そう。
その物語の制作者は、他ならぬ肝田優太本人なのである。
オタク・カルチャーと出会った肝田は当然のように自分をなにか作品を作りたいと考えて、それでいてどこか『設定厨』の一面もある彼が考え抜いた設定そのものであった。
『恥ずがしがる必要はないさ。あの時代にこんなコテコテなオタク作品を作ろうとしてくれるのは君ぐらいのもの。私はもちろんのこと、多くのドスケベ幻想郷の住民がこの作品を『聖典』と呼んで崇めているよ。惜しむらくは、君が設定まで綿密に作り上げて世界観説明のプロローグを書いたところで、何故か筆を折ってしまったことぐらいかな?』
「文章とか書いたことがなくて、駄作過ぎて恥ずかしかったからです……」
はっきり言ってしまえば、この『❤イチャイチャ☆ラブラブ学園❤(仮)』、通称イチャラブ学園は肝田優太の黒歴史ノートそのものである。
先人の名作と比べれば、設定とプロローグ部分だけで明確に駄作とわかってしまう。
眼高手低という言葉の通り、理想が高い肝田は自身が駄作を作っている現実に耐えられないタイプのオタクだったのである。
「こ、これ、今から中止にできない……? 恥ずかしくてもうすでに死にそうなんだけど……」
『それは困る。これは君の作品を完成させるための企画なんだからね』
「……どういうこと?」
『君は自分自身の力では君が納得できる物語を作れなかったのだろう? だから、私たちも協力するということさ。君の作ったイチャラブ学園の設定を踏まえて、それでいてキャラクター自体はこちらで用意した美少女たちが、実際に君と交流をして動いていく。そうするうちに、君は彼女たちから受ける告白の中で一人を選ぶ。君の選択でそれをすることで、君自身の意思が反映された作品が出来るというわけだよ。ほら、よく言うだろう? キャラクターが勝手に動き出した、ってね♪』
「きゃ、キャラクターが勝手に動き出す……! あ、あの伝説的な現象が、僕の作品でも……!?」
肝田優太は基本的にどこか知能が低い。
研究についてはその情熱の大きさで力技でそれなりのものは作るのだが、LAのように口のうまい相手ならば、いや、口のうまい相手でなくとも簡単に言い含められてしまうのだ。
今回も、『キャラクターが勝手に動き出す』というかつての名作オタク作品を作り上げた創作者たちのインタビュー記事などで頻出するその言葉のロマンに魂を震わせてしまい、すぐに『この黒歴史作品を一つの作品として完成させる』という企画に乗り気になってしまうほどだ。
「よし! 僕はやるよ、LA! いつまでも紫さんのところで流されエッチをするんじゃなくて……僕の大好きなキャラクターたちに相応しいオタクとして、創作の一つを完成させてやる!」
『ふふふ、実にかっこいい決意だね❤ んんっ、失礼、変な声になってしまったね。まあ、君はまだ初心者なわけだからね。私がサポートをしつつ、ヒロイン役のキャストになったアストルフォたちも君の意思を読み取って、魅力的なアピールをするイベントが発生するだろう。それを存分に愉しめば良いのさ』
「うしっ! 学園ラブコメ創作……肝田優太、完成させてみせます!」
LAの言葉に乗せられた肝田は、今にもスキップをしそうなほどの機嫌の良さで、そして、作品を完成させるという使命感を抱きながらリビングに戻っていくのだった。
そんな肝田の姿をLAはスマホから――――ではなく、映画館となっている『特殊な空間』を外から観察しながら、ニンマリとした笑みを浮かべる。
(うんうん、我らが王である肝田くんも乗り気みたいだ。良かった良かった、あとはサポートキャラとして演じつつ、肝田くんに僕の推薦であるアストルフォを選んでもらうだけだね)
それと同時に、これからのことについても考える。
肝田が設定した、一人の男子と四人の女子が共同生活を送って一人の恋人を選ぶという国の少子化対策という舞台についてだ。
こんなものが行われることになった原因は、設定厨の肝田が様々な理屈をつけているのだが、今回はその説明については割愛させてもらおう。
大事なのは、同級生ヒロイン・先輩ヒロイン・後輩ヒロイン・教師ヒロインの四人のヒロインが居て、その誰が選ばれるのかというのは、まだ肝田は設定をしていないという点である。
この企画では、LAや紫たち管理者がそれぞれの地区に所属している美少女キャラクターを一人ずつ推薦し、その四つのヒロイン枠に当てはめて行う企画となっていた。
LAは、自分以外が推薦してきた『ヒロイン』について考えを巡らせていく。
(しかし……改めてキャストたちを見ると、実におもしろい配役になったね。
束はSF系バトル作品としての繋がりで、『先輩ヒロイン』枠に用意したのは背景設定にファンタジー要素が強いはずのC.C.か。うむうむ、ミステリアスでどこかサドっ気のある姿はいかにもな先輩キャラで、なるほど、紫のところで徹底的に甘やかされて尊敬されてきた肝田くんには、彼女のそっけなくもからかってくる態度が刺さるだろうね。
安心院さんは、同じジャンプ漫画の伝説的エロコメから、『後輩ヒロイン』枠に中学生だったのを繰り上げさせたモモ・ベリア・デビルークだね。一種の小悪魔系要素を持つヒロインという王道中の王道だけど、それでいてお嬢様らしい上品さとすでに好感度MAXになっているガチ恋お姫様後輩……本気だねぇ。
そして、紫は原作を同じくする、古明地さとりを『教師ヒロイン』枠として、か。ロリ教師とは結構な変化球だね。中には教師ヒロインが一番人気な作品もあるけれど、それでもやはり他の枠に比べると枠自体が弱い。そこをロリ教師にすることで特別感を強調してきたってところかな。紫がしそうなうがった配役だね。
……うん、どれも魅力的な配役とキャストだ。束も安心院さんも紫も、自分の推してるキャラを、『メインヒロイン』にする気満々だね)
管理者たちが共同して作り上げるこの企画は、まずは配役としてのキャストをそれぞれが『推したキャラ』が採用されている。
どれも、自分が選んだキャラこそが肝田が選んでもらえる――自分が肝田の好みを一番理解しているという虚勢の張り合いという一面もあるのだ。
(だけれど、今回の企画主としての特権で抑えさせてもらった『同級生ヒロイン』枠に僕が用意したのは……『男の娘』を女の子に『TS』させてしまうなんていう、掟破りな外道戦術の『アストルフォちゃん』さ❤
それも、寝起きに起こす一番手イベントにさせてもらったよ❤ こんなどぎつい、オタク的には邪道の極みである属性をいの一番にぶつけてしまえば、いくら他が魅力的でも、心は特徴が強すぎるアストルフォに囚われてしまうというものさ❤
C.C.やモモ、さとりがどれだけ魅力的なイベントを味わわせても、アストルフォが現れるたびに『うわ、そう言えば、このアストルフォって女の子なんだ……』という考えに塗りつぶされてしまうだろう❤ その調子でアストルフォを意識させて『メインヒロイン』に選ばれれば、そう、一時的にでも王様をアストルフォに夢中にさせてしまえば、こちらの管理区に誘導できるっ❤
ふふふ、キングス・メーカーである僕の戦略プランに抜かりはないさ❤)
そう、これはただ単に肝田を楽しませるというだけのお遊びではない。
ここで『メインヒロイン』としてもらえたキャラクターは、すなわち肝田の中では明確にお気に入りということになる。
そのキャラクターを、言い方は悪いものの、『餌』にして自身の管理区へと誘導できる可能性が高いのだ。
ドスケベ幻想郷の人々の中で『聖典』と呼んでいる、肝田の作品とさえ呼べない『設定集』である黒歴史ノートの完成こそが第一の目的ではあるが、そんな風に管理者同士での政治的目論見も絡んでいるのである。
こうして、管理者たちの浅ましい思惑と、肝田のエタらせてしまった作品を完成させるという使命感と、美少女キャラクターたちの肝田に愛してもらいたいという純粋な想いが入り混じった『イベント』が始まるのだった――――。
(続)

koinj
2024-06-20 10:09:17 +0000 UTC