1話

月に有用な資源はないと思われていたのも今は昔。 技術の発展とは偉いもので、新たな方法で月に存在する資源を発見したのである。 それは停滞しつつあった人類の歴史に爆発的な発展を起こし、中断されていた宇宙開発という夢が復活していったのだ。 『人類史で最も恵まれた時代』という表現が胡蝶でなく当てはま...
2話

(前作) ─────────────────────────────────────────── ここはドスケベ幻想郷。 世界から忘れ去られたものたちが流れ着き、再び注目されることもなく淀むように腐っていくはずだった、その名前も持たないはずのゴミ捨て場は、肝田優太という今を生きる人類が忘れされたものに着目し、その世界に来訪して名付けるこ...
3話

1話 2話 【プロローグ】 ここは『ドスケベ幻想郷』。 今から500年以上前に隆盛を誇った『オタク・カルチャー』、つまりはアニメであったり漫画であったりライトノベルであったりゲームであったり、今では『忘れ去られてしまった物語の登場人物たち』が流れ着いてしまう、東方projectに存在する幻想郷によく似た世界...
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ドスケベ幻想郷。
待望の『名前』を手に入れたその異世界の最深部に位置する『会議場』は、ドスケベ幻想郷という夢のような世界にあって、また夢の中のような不可思議な異空間だった。
真っ暗な暗闇の中にあって浮くような形で中央に置かれた豪奢な円卓に、やはり豪奢な椅子が数人分ほど並べられている。
その円卓を中心として、その空間の周囲には無数の星々が瞬くように天蓋に包まれた、さながらプラネタリウムのような状態が保たれていた。
ただし、その輝くような星々は現実のものではなく、アニメやゲームのCGを思わせる人工的で鮮やかな輝きにすぎず、さらによくよく目を凝らすと、それらは単なる星の輝きではなく、小さな映像であることがわかる。
そう、この円卓会議の会場では、ドスケベ幻想郷のありとあらゆるエリアを監視することができるようになっているのだ。
それこそ、先日BBが行ったように、ドスケベ幻想郷の住民が密かに独自の異空間を作り上げるような真似をしない限り、この円卓会議の場から観測できない事柄は存在しなかった。
そんな管理者たちが集うに相応しい空間の中央に置かれた円卓は、その表面を黒曜石のように滑らかで冷たい感触を想像させるが、その黒い円卓の表面に映るのは鏡のように反射した参加者たちの顔ではなく、こちらもまたドスケベ幻想郷の各エリアがリアルタイムで投影されたホログラム映像だった。
ホログラムの光は、会場全体を淡い青と紫の色調で満たし、壁に描かれた幻想的な紋様がその光を受けてゆらゆらと揺れていた。
八雲紫が管理している牧歌的な田舎村。
レディ・アヴァロンが管理している創作エリアの劇場。
安心院なじみが管理している学園都市の喧騒。
―――篠ノ之束の手によって新たに完成した、科学技術に満ちた月面都市の姿である。
「やっと完成したよ、肝田くんに治めてもらう月面都市が! これで彼をドスケベ幻想郷に永住させる私たちの計画も最終段階だね~♪」
会議場の空気は、篠ノ之束が声を上げるまでは静寂に包まれていた。
束が勢いよく立ち上がり、テーブルに両手をバンと叩きつけると、その浮かび上がっているホログラム映像が一瞬だけ揺らいでみせた。
束は胸元が大きく開いて艶めかしい二の腕を丸見えにした短めの半袖でありつつも、足首まで届くロングスカート丈のワンピースに加えて、さらにはウサ耳型のSF的な科学ガジェットが頭上で揺れている。
多くのドスケベ幻想郷の住民がそうであるように、目を瞠るような美貌とともに、見ているだけでクラクラとするような圧倒的な存在感の爆乳がぶるるんと勢いよく揺れていることから、束がノーブラであることがわかった。
肝田との愛に満ちた性交を夢見ている束は、肝田の前に出ない時でも万が一に備えて、すぐに性交ができるように、また、ノーブラで揺れる爆乳を見せることで興奮を促そうと考えて、常日頃から下着を身につけていないのである。
「いや~、肝田くんのための都市を作るってのは楽しいけど、やっぱり肝田くんと今まで交流できなかったのは寂しかったからね! これからはたっぷり肝田くんにアピールさせてもらうよ!」
そんな映像の乱れを気にする様子もない束の声は、弾むように明るく、まるで新しい玩具を手に入れてご機嫌な子供のようだった。
事実、束の瞳は興奮でキラキラと輝き、頬には赤みが差している。
そんな円卓会議の会場には、束を含め、お馴染みになった四人の管理者が集っていた。
円卓を挟んで束の向かいに座っている八雲紫は、その扇子を優雅に構えている。
紫の特徴的な長い金髪は豪奢な椅子の背もたれに流れており、やはり艶やかな紫色のドレスが幻想的に淡い輝きを放っていた。
紫もまた、束に負けず劣らずの美貌とドスケベボディの持ち主である。
そして、束から向かって右側の席にはプロト・マーリン、通称レディ・アヴァロン(以下LA)が、夢魔であり宮廷魔術師というキャラ設定らしい、中世ファンタジーを連想させる軽やかで華々しいドレス姿で座っていた。
白に近い銀髪と20キロしかない華奢な体という幻想的な風体でありつつ、同時にそれらとは不釣り合いなほどの爆乳とデカ尻が際立つ、やはりドスケベ幻想郷の住民らしいオナホボディの持ち主であった。
そして、束の左側には、栗色の長い髪を黄色いリボンでまとめている、いかにも美少女女子高生という外見の安心院なじみが、少しだらけた姿勢で椅子に凭れかかっている。
セーラー服のスカートを今どきの女子高生らしく程々に短く詰めているため、そこから覗くつややかな太ももがなんとも爽やかなエロスを放っているのだが、それでもセーラー服をド派手に盛り上げる爆乳がなんともミスマッチな、下品なエロスを醸し出していた。
清楚さと淫靡さが混在する雰囲気は、束や紫、LAという特徴的な美女と並んでも全く見劣りのしない魅力を漂わせていた。
「見てよ見てよ! 肝田くんが喜ぶように、ぜ~んぶ束さんの手で設計したんだよ! 寝室もお風呂も……住み込みのメイド部屋も! 肝田くん好みの肝田くん仕様でバッチリだよ♪」
ワンピースの大きく開いた胸元から小さなリモコン型デバイスを取り出して、それを軽く振ってみせると、円卓の中央に映るホログラム映像が切り替わった。
そこには月面に広がる巨大な都市が現れる。
都市の中心にある宮殿の外観は、まるで宇宙船のようなSF的なデザインと、王宮のような中世ファンタジー的なデザインが融合したような壮麗さだった。
外壁は月面都市という月のイメージに相応しく白銀の特殊な金属で覆われており、表面には芸術的な細かなレリーフが刻まれている。
宮殿の敷地へと踏み入れるための入口には巨大なアーチが構えられており、そこには近未来的なホログラム映像で『優太宮殿』と輝くように文字が浮かんでいた。
そんな見事な宮殿を中心に、ワシントンDCやパリの都市のように、メインストリートや居住区が放射状に広がり、ピンクと白を基調とした建物が多いことから、卑猥さと清楚さが見事に両立している都市デザインは、いかにもドスケベ幻想郷のらしさが色濃く反映されているものだった。
「この都市なら肝田くんを……私たちを愛してくれる唯一の人類を『保護』できるんだよ! 私たちは今度こそ、本当の意味で永遠になれるんだね!」
そんな都市の様子を見せつけた束は得意げに胸を張り、感覚が同調しているウサ耳デバイスがぴょこぴょこと揺れている。
爆乳がワンピースを押し上げており、ノーブラだからこそその動きに合わせて爆乳が男を誘うように震えていた。
「素晴らしい出来栄えね。ええ、私も見事なものだと認めるわ。でも……」
八雲紫は扇子を軽く開き、口元を隠すようにして静かに言葉を紡ぐ。
新たに作られた月面都市を確認しつつ、それでも原作では『妖怪の賢者』とまで呼ばれた紫は、束が興奮を顕にして漏らした言葉をしっかりと聞き届けていたのである。
そして、その言葉は肝田優太を心から愛し、同時に主として崇拝すらしている紫としては、決して見逃せない言葉だった。
「肝田様を『保護』するという考えは見過ごせないわね。その言葉をあの方に向ける言葉として適切な概念かどうか……私は疑問に思ってしまうもの」
紫の声は穏やかで、淑女らしい柔らかさを持ちつつも、その中に鋭い指摘が込められている。
紫は肝田との愛情深いセックスを通じて『ドスケベ幻想郷』という名を授かった瞬間の記憶が、その存在そのものに濃厚に根付いている。
あの瞬間の心が救われるような想いと、そうして、自分たちがすべてを掛けて奉仕すべき人物だと使命感を抱いたそれらは、どこか『下位の存在』と認めているかのような保護という言葉を許すことは出来ないのだ。
「えーっ、細かいこと言うなぁ……! 肝田くんが幸せならそれでいいよね? 私が肝田くんを甘やかして、お世話をして、ずっと私の管理下で守ってあげたいだけだよ? それを保護って言っちゃっただけじゃん。みんなだってわかるでしょ、これも愛情だよ、愛情!」
束は紫の言葉に一瞬ムッとした顔を見せ、まるで童女のように腰に手を当てながら反論する。
その口調は少し拗ねたように語尾が跳ね上がっており、束が抱いている不満を指し示すようにウサ耳型デバイスがピクピクと動いていく。
紫は肝田を心酔しているが、束は少々異なった感情を向けていた。
束にとって肝田優太という存在は愛を捧げるべき人間であると同時に――――ペットのように可愛がり、保護すべき対象なのである。
その明晰な頭脳の中では、肝田が月面都市で束の手厚い庇護の下、永遠に幸せに暮らす姿が描かれているが、しかし、それは人類が『猫様~♪』と言いながらも家の中で囲い込み、場合によっては去勢も行うような庇護に他ならない。
「うーん、束の情熱は素敵だと思うよ? 特にこの宮殿はいかにも王宮って感じで、すごく私好みだね。でもね、私としては唯一の『オタクくん』として『保護』するというよりも……肝田くんは『王様』として迎える方が、彼に相応しいと思うかな」
そんな二人の険悪な様子を見ていたLAが、仲介をするように軽やかな声で口を挟む。
夢魔という一種のサキュバスでもあるLAの声は甘く、どこか誘うような響きを持っている。
LAは白銀の髪を指でくるくると巻きながら、テーブルに映る月面都市のホログラムを見つめる。
その視線は、肝田が宮殿で王座に座る姿を想像しているようだった。
そんなLAの指先がテーブルを軽く叩くと、小さな魔術の光が散り、花の魔術師という肩書に相応しく、ホログラム映像に花びらが舞うエフェクトが加わった。
「僕も二人に同意かな。まあ、肝田くんに幸せな生活を提供したいって束の気持ちは痛いほどわかるんだけどさ、彼を『保護』するって考えは……やっぱり違うんじゃないかと思うぜ?
肝田くんは『主人公』なんだよ。僕みたいないかにも黒幕ですってふんぞり返ってる『敵キャラ』だって、あの逞しいチンポ一つで完敗させて……今じゃ彼にガチ恋してる都合の良い美少女の一人に過ぎないんだからね❤」
安心院なじみは、背もたれに体を大きく預けるようなだらけた姿勢のまま、セーラー服のリボンを軽く引っ張りながら口を開く。
安心院の口調は飄々としつつも、どこか自嘲的な響きを含んでいる。
束が保護を口にして上位者として肝田に接しようとしているように、安心院もまた黒幕属性のキャラとして、肝田に好意的な感情を抱きながらも支配的な振る舞いを取っていた。
それでも肝田のチンポの前に屈服してしまった今では、安心院もまた紫やLAのように『保護』という言葉に反感のようなものを覚えているようである。
「とにかく、束が肝田くんを丁寧に丁寧に、傷一つつけないようにと『可愛がる』のは勝手だけどさ……でも、やっぱりそれって彼の魅力を損なう行為だって言いたいわけだよ、僕はね」
とは言え、最初はやはり束寄りの感情であった自覚があるために居心地が悪いのだろう。
どこかそのむず痒さをごまかすようにその場でもぞもぞと身動ぎをしており、セーラー服のスカートが少しずり上がって太ももの白い肌が見えてしまい、安心院さんの清廉でありながらも淫靡な魅力が一層際立っていた。
「LAや安心院さんの言う通りね。私は肝田様をあくまで『ドスケベ幻想郷の支配者』として迎えるべきだと考えているわ。束の行おうとしている『保護』のような形は、私たちよりも彼を『下』に置くようなもの……あの方がこんな時代でも持ってくれた強い愛情と情熱を軽んじているんじゃないかしら?」
二人の言葉を受けて放った紫の言葉は落ち着いた色合いがありつつも、それでも束を批判する厳しさを含んでいた。
紫の視線が束に向けられると、束は少しだけ目を逸らし、ウサ耳型デバイスをぴょこぴょこと動かしながら不満げに唇を尖らせる。
「うーん、みんな厳しいなぁ……肝田くんは確かに特別な存在だけど、特別だからこそ精一杯甘やかしてあげたいでしょう? そのために月面都市で肝田くんを守って、ずっと一緒にいられたらそれでいいんじゃないかな!?」
そんな不満げな様子を続けたまま束は少し拗ねたように声を上げ、ロングスカート丈のワンピースの裾を軽く指先で弄んでいた。
今、束の頭の中では、月面都市の豪華な部屋で肝田を抱きしめ、幸せそうに自身に甘える姿が浮かんでいる。
ドスケベ幻想郷の住民ならば誰もがしてしまうような『一般的な妄想』に浸る束の表情は、どこか夢見がちで、頬がさらに赤く染まった。
「とにかく、みんながそう言うなら私だって肝田くんを『御主人様~❤』として扱おうかな。結局、私が肝田くんを甘やかすのは変わらないしね~♪ じゃあ、早速彼を月面に招待するよ♪」
束は立ち上がり、再び明るい声で宣言する。
うさ耳型デバイスが束の上機嫌を表すようにピョンピョンと跳ね、さらにはついに束自身もその場で跳ねだしたことでその爆乳とワンピースの裾が軽く揺れていく。
そのまま、束の姿は闇の中に消えていき、暗黒会議の場から退場していった。
残された三人の管理者たちは束の浮かれた様子にそれぞれがそれぞれ微妙な表情を浮かべつつも、顔を見合わせる。
「束と私たちの間で、肝田様への意識に差があるようですね。念のため、対策を講じておいた方がいいのかしら……」
「そうだね、さすがにちょっと不安だよ。あのままじゃ、肝田くんが肝田くんらしくこのドスケベ幻想郷を楽しめないかもしれないしねぇ」
紫が不安げに呟くと、LAがそれに同意を示す。
二人が視線を交わして、月面都市での行為に干渉し合おうという意を示すかのように頷きあうのだが、それを遮るように安心院がニヤリと笑う。
「いやいや、心配ないさ。僕たちがわざわざ出張るよりも、肝田くんに任せておけばいいさ。僕たちが浅はかな策を弄するよりも、肝田くんを信じて任せるのが一番というものさ……ふふふ、僕がすっかり彼の魅力にメロメロになったように、ね❤」
「…………一理あるわね」
「彼に任せればいいってのは、そうかもしれないね」
安心院の盲目的な印象を受けるうっとりとした視線を見て、紫もLAもそれを呆れるでもなく、同意を示した。
三人ともに、肝田とセックスを経てその快感をたっぷりと味わったがために、そこから生じる強烈な多幸感を知っているためである。
三人の視線が、テーブルに映る月面都市のホログラムへと向けられた。
そこに映る肝田のための立派な宮殿は、静かにドスケベ幻想郷の未来を見守っているようにも思えるものだった――――。
学園都市エリアにあるとある学園のとある教室では、いつもの授業風景とは少々異なる空気に包まれていた。
この学園こそ、ドスケベ幻想郷が総出を上げて歓迎されている、『この世で唯一のオタク』の肝田優太が、エリアの管理者である安心院なじみから『教員免許』を与えられたことで、『オタク文化学』の教員として一時的に所属している学園である。
普段は肝田は教師として教壇に立ち、特別に選抜された『ハーレムクラス』の美しい女子生徒たちに囲まれて、熱のこもったオタク授業を行って、それを真剣な様子ながらもうっとりとした視線を女子生徒たちが向けている教室だが、今日は『送別会』の舞台に変わっていた。
教室の黒板には『肝田先生、次のエリアでも頑張ってね!』と丸みのあるポップな文字がカラフルなチョークで書かれており、文字が書かれていない空いたスペースには女の子らしく、可愛らしい花やハートのデコレーションが施されている。
机は寄せ集められて一つの大きなテーブルになるように並べられており、その上には大きなクロスを敷いて、生徒たちが持ち寄った手作りクッキーやジュースなどの、送別会用の飲食物が揃えられていた。
その窓からは学園都市の未来的なビル群が見えつつも、いかにも学園モノと言った風に緑豊かな樹木が覗くことができ、さらに壁には生徒たちが描いた肝田の似顔絵や『先生、大好きだよ❤』と描かれたイラスト付きの寄せ書きが貼られており、なんとも賑やかな雰囲気を一層盛り上げている。
「先生! お疲れ様でした!」
「また学園都市に遊びに来てね、先生!」
女子生徒たちから声をかけられながら、肝田は教室の中央に立って照れくさそうに笑っていた。
肝田の教師生活は、学園都市エリアで美少女たちに囲まれながら大好きなオタク文化を解説することができるという、まさに夢のような日々だった。
そんな幸せな日々も一旦の終わりを迎えて、また別のエリアへと移動する日を迎えていた。
そのための送別会である。
教師生活として最後の日ということもあり、肝田の周囲には女子生徒たちが群がり、それぞれが最後の別れを惜しんでいた。
「………ごくりっ」
一方、教室の隅で緊張に満ちた顔で生唾を飲んでいる少女が一人だけ存在した。
『東方Project』に登場するキャラクター、『鈴仙・優曇華院・イナバ』である。
鈴仙もまた『ハーレムクラス』に選抜された生徒の一人であるが、肝田を囲んで別れを惜しんでいる女子生徒たちから離れて、緊張した面持ちで立っていたのだ。
それもそのはず、鈴仙はなんと、学園都市エリアの管理者である安心院さんから直々に、肝田が次へと向かうエリア、『月面都市』への案内役に任命された存在なのである。
鈴仙の長い兎耳がピクピクと動き、兎のような赤い瞳が肝田を囲んでいるクラスメイトたちをチラチラと盗み見るように見つめていた。
その制服は紺のブレザーとピンクのミニスカートという原作仕様でスカート丈の短さも含めて若々しい清楚な印象を与える。
だが、多くの女子生徒が肝田に魅了されている中でも、特にそのマゾっ気のある従順な性格と肝田への心酔っぷりはクラスでも有名だった。
今回、肝田の次のエリアへの案内役を任されたことにやっかみのようなものこそあれども、どこか納得されていたといえば、その熱烈な愛情も納得できるだろう。
「あれあれあれれ~~?」
そんな風に鈴仙が緊張で固まっている中、教室の後ろから軽い足音が近づいてくる。
鈴仙と同じく、『東方Project』を原作とする美少女キャラクターの『因幡てゐ』だった。
ドスケベ幻想郷でのてゐは、原作通りいたずら好きで少し毒舌な性格が際立つものの、これもまたやはり二次創作のイメージ通りに鈴仙とは仲は良いものの、ことあるごとにとからかうような関係である。
てゐのウサ耳は鈴仙よりも幾分か短く、こちらもまたロングヘアーの鈴仙よりも短い、首元の高さで整えられたショートヘアーが揺れている。
そんなてゐは手に持ったジュースのカップを振りながら、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべながら鈴仙に近づいていく。
「鈴仙ったら緊張してるの~? まあ、先生の案内役を任されたものね。すごいすごい! でもさ、本当に先生のサポートできるの~? 鈴仙、授業とかでもすぐ先生に甘えて、ヘロヘロになって先生よりも先にバテちゃうじゃん?」
ツカツカとした軽快な足取りで鈴仙に近づいたてゐがかけた声は、その足取りと同じく軽快な――というよりも軽薄なもので、明らかに鈴仙をからかう意図が込められている。
そのカップを近くの机に置き、鈴仙の肩に腕を回して耳元で囁くように続ける。
「次の行き先でも先生に『鈴仙、疲れたからちょっとオマンコ貸して?』なんて頼まれたらさ、あんたはすぐにオマンコ貸しちゃうし、その場で即座にチョロマンらしくアヘ顔でイっちゃうんじゃない? それも先生の魅力を思えば仕方ないけど……それで案内役とか務まるの~?」
「て、てゐ! からかわないで! いくら相手が先生でも、そんな間抜けな真似はしないんだからね!」
そのからかいに鈴仙の顔が一瞬にして真っ赤になり、特徴的なウサ耳がピンと立つ。
鈴仙は自身の肩に回らされたてゐの腕を振り払い、真面目な表情で反論していく。
「私は肝田先生の案内役として、きちんとお支えするつもりよ! 新しいエリアで新しい楽しみを味わう先生の邪魔なんて、するわけないじゃない!」
「はいはいー、真面目なのは良いけど、先生の足を引っ張っちゃダメだよ?」
緊張のためだろうか、鈴仙の声は少し震えているものの、その中に強い意志が感じられた。
てゐは振り払われた腕を伸ばして手を振りつつも、親しみのある笑みを浮かべて言葉を続ける。
「まぁまあ~、軽い冗談だよ。鈴仙なら先生のことちゃんと支えられるって信じてるからさ。頑張ってね~」
「…………ありがとう」
なんだかんだ言っても慰めや励ましに落ち着いたてゐの言葉に、鈴仙は少しホッとしたように息をついて小さくお礼呟いた。
そんなことがありつつも、肝田への送別会もクライマックスを迎えると、まるで監視をしていたかのようなタイミングでガラリと教室の扉が開いた。
「よう、優太くん。送別会は楽しいものになってるみたいだね……でも、そろそろ時間だぜ。次のエリアに行く準備、できてるかい?」
そう、学園都市エリアの管理者である安心院なじみが教室のドアを開けて現れたのだ。
ブレザー型の制服を着ている女子生徒たちの中で一人だけいつも通りのセーラー服姿で現れた安心院さんは、肝田に徹底的に犯されてメロメロになってしまった今でも、その顔には余裕に満ちた『黒幕っぽい』、不敵な笑みが浮かんでいる。
「みんな……今までありがとう! 教師らしいことなんて初めてしたけど、すっごく楽しかったよ! また会える日まで、僕のことを忘れないでね!」
「先生のこと、絶対忘れません!」
「次のエリアでもがんばってくださいね!」
安心院さんが来たこともあり、肝田が嬉しそうな声で別れの挨拶を言葉にした。
女子生徒たちが各々で悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。
それさえも心地よい想いが精神を満たしてくれて、年齢の割には妙に幼い印象を与える無邪気な笑みが深まっていく。
安心院さんもまた肝田が喜んでいるということ事態が嬉しいと言わんばかりに、不敵な笑みとはまた異なる笑みを浮かべながら、パンと手を叩いて大きく声を上げた。
「みんな悪いね。さて、鈴仙。案内役の準備はいいかな?」
「はい、安心院さん! 準備、できています!」
鈴仙はその言葉に再びうさ耳をピンと跳ね上げながら、慌てたように答えた。
そんな真面目が服を着ているような、そして何よりも、『篠ノ之束のようにうさ耳を持っている』ことに安心院は満足そうに頷く。
そして、自身が無数に所有するスキルの一つを使って、空間に小さなポータルを出現させた。
そのポータルの中へと肝田と鈴仙光が足を踏み入れると、学園都市エリアから次のエリア――月面都市エリアへの旅立ちが始まっていく。
教室に残された生徒たちは、涙と笑顔で見送りながら、その光へと手を振る姿が窓から差し込む夕陽に映えていた。
――――そんな一方、目の前に広がる景色に、肝田と鈴仙はは思わずとも言葉を失ってしまう。
「す、すごい……! 現実よりも、科学技術が進んでるかも……!?」
安心院のスキルで開かれたポータルの光が収まっていくと、二人は月面都市の市街地に立っていたのである。
そこはありとあらゆる作品のSF技術が投入されて作られた未来都市である。
学園都市エリアも二十一世紀の趣がありながらも、その科学基準は肝田に合わせるように未来の技術が投入されていたが、この都市の華々しい輝きは、科学者ではない肝田では断言できないものの、それでも肝田が元々暮らしていた時代を上回る技術が投入されていることは明らかだった。
「あ~~! 肝田く~~ん♪」
「ふぇ!?」
突如として甲高い声とけたたましい足音が響きだす。
肝田は自身の名を呼ばれたこともあって驚いたように声の方向へと振り向くと、そこにはエプロンドレスのような胸元が大きく開いたワンピース姿で、頭部にウサ耳型ガジェットをつけた美女――――近未来エリアの管理者であると同時に、この月面都市の開発責任者である『篠ノ之束』が猛スピードで駆け寄ってきているではないか。
束のロングスカートが風を切ってはためいており、ものすごい速度で走っているために頭上のウサ耳型ガジェットが跳ねるたびに、紫の長い髪が波打つように揺れ、その瞳は遠目からでも興奮で輝いていることがわかった。
「肝田く~ん! や~っと会えたねっ……月面都市へようこそだよ♪」
「むぐぅっ!?」
その勢いのまま束は一気に飛びついていき、肝田の顔を自身の爆乳へと埋めるように勢いよく抱きしめていった。
まるでおっぱいの中で窒息死させようとしているような束の勢いに、肝田はバタバタと手足を乱してしまう。
(し、篠ノ之束だ……ISのヤバい女代表……! でも、顔と体がめちゃくちゃ良い……今もおっぱいの中からいい匂いがする……!)
それでもなお、殺人行為とも呼べるような抱擁にあっても束ほどの爆乳美女が行えば、肝田も悪い気はしない。
柔らかさと弾力が高いレベルで両立している最高の爆乳の感触はもちろん、その谷間の奥から漂ってくる美女特有の甘い香りが脳みそに快楽を流し込んでくる。
今、肝田の脳みそがクラクラとしているのは、決して酸欠だからというだけではないだろう。
「あぁ~、本物の肝田くんだぁ……♪ この匂い、癒やされるよ~……♪」
束は肝田の頭を抱え込んでスンスンと頭頂部の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らすと、うっとりとした甘い声を漏らしていく。
だが、束の視線が隣に立つ鈴仙に移った瞬間、空気が一変した。
「…………あれ?」
肝田を抱きしめてうっとりとした笑みを浮かべていた顔の表情筋がピタリと止まり、瞳が鋭く細められて、明らかに敵意という感情が読み取れるものに変わっていく。
鈴仙は緊張した面持ちで、兎耳をピクピクさせながら丁寧に一礼する。
「は、初めまして、篠ノ之束さん! 私は鈴仙・優曇華院・イナバといいます……! 安心院さんから先生……肝田優太さんのサポート役を仰せつかりました!」
緊張して震えた声ではあるものの、鈴仙の口調は実に丁寧なものだった。
しかし、束は変わらずに冷ややかな視線を彼女に投げかけながら、ウサ耳型ガジェットを振るように首をかしげる。
「ふーん……案内役、ねぇ? そんなの必要ないんじゃないかな? 私が作った都市なんだから、私が全部面倒見ればいいわけだし。外から来た子なんて、正直邪魔なんだけど?」
視線と同様に束の声は冷たく、どこか刺々しい響きを持っていた。
これもまた束の性と言えるだろう。
束は自分が認めた相手以外には実に冷酷な感情を向けがちで、管理エリア外から来た鈴仙を明確に警戒している。
抱きしめていた手を腰に当て、鈴仙を上から下までじろりと見つめると、さらに続ける。
「ぷはぁっ!? や、やっと呼吸できる……!」
「ねえねえ、肝田くん? 君には束さんだけで十分だよね? 肝田くんだって、サポート役なんて仕事をする子、いらないよね? ほらほら、学園都市に帰ってもらってもいいんじゃない?」
その言葉に、鈴仙の兎耳がピクンと跳ね、顔が少し赤くなる。
彼女は慌てて口を開こうとするが、それでも束の明確な拒絶の意思に気圧されたのか、言葉に詰まって目を泳がせた。
だが、そんな鈴仙をかばうように、肝田が慌てた様子で割って入った。
「た、束さん! ちょ、ちょっと待って……鈴仙は、えっと、その……なんて言えば良いんだろう……そ、そう! この子は僕のお気に入りなんだ! 学園都市エリアでも僕のことをずっと気にかけてくれてたし、とってもいい子だから、ここでもサポートしてほしいと思ってるんだ!」
それは肝田なりの気遣いだった。
このドスケベ幻想郷に存在する美少女キャラクターの例に漏れず、鈴仙と肝田は学園都市で何度もセックスをして男女の関係となっている。
しかし同時に、年長者として生真面目な鈴仙のことを愛らしく思う気持ちが芽生えていたのもまた事実であるため、『肝田のサポート役という任務をしっかりこなそう』と気を張っていた鈴仙が即座に用無しだと追い返されては可哀想だと感じたのだ。
そのため、『お気に入りの女の子』というある意味では侮辱的で偉そうな言葉になるものの、なんとかこの場に引き留めようと考えて、束と鈴仙の間に割って入ったというわけだ。
「お気に入り……? この子が、肝田くんの?」
しかし、そんな肝田の言葉を聞いた瞬間、束の表情がパッと明るくなった。
冷たい視線が消え、代わりに満面の笑みが浮かぶ。
束の感情を示しているかのようにウサ耳型のガジェットが機嫌よくぴょこぴょこと動きだすと、そのまま束も鈴仙へと近づいていった。
「そっか……そっかそっか! うんうん、肝田くんのお気に入りっていうのなら、話は別だよ! 肝田くんが認めた子なら、私も大歓迎だよ♪」
束は一転して鈴仙の手を握り、まるで親友であったかのようにニコニコと笑いながらブンブンと握手をした手を降り出した。
この気まぐれにも思える態度の変化は束という人間を知らないものにはぎょっとするように思えるだろうし、なにか考えがあって演技をしているのかと疑ってしまうだろうが、これもまた束という人間の本心からの行動なのだ。
元の原作では『天災』とまで呼ばれた束は、まともな考えではその思考を読み通すことが出来ないというわけである。
「えーっと、うどんげちゃん、だっけ? 優太くんのお気に入りなら、私のエリアでも可愛がってあげるよ! よくみたらウサギさんで束さんの都市コンセプトにもよく似合ってるし……なにより、肝田くんが大好きなら、私たち絶対仲良くなれるよね♪」
「あ、ありがとう、ございます……?」
鈴仙もまたその束の態度の変化に戸惑いながらも、それでもなんとか小さく頷きながら言葉を返してみせた。
そして、鈴仙との挨拶を終えた束は、肝田の腕に絡みつきながら、得意げに笑みを浮かべる。
「ありがとう、束さん。その、鈴仙を受け入れてくれて」
「気にしないでよ~♪ 安心院さんからの紹介ってなら『邪魔だな~』って思ったけど、他ならぬ肝田くんが認めた子っていうなら私だって受け入れるよ。だって、束さんの全ては優太くんのためにあるんだから♪」
そう、このドスケベ幻想郷における篠ノ之束という人間の行動原理は、言うならば『肝田優太第一主義』と呼べるものであり、鈴仙への態度の変貌はそれが色濃く表れていた。
鈴仙への冷淡さは一瞬で消え、肝田の言葉一つで機嫌良く受け入れる姿はまさしく、束の愛情がどれほど大きく、そして、『依存的』であるかを示していた。
依存しているからこそ、肝田を支配して自身から離れないようにしようという行動と思考を無意識に形づくっているのだろう。
束はそのまま上機嫌に肝田の手を握り、月面都市の奥へと二人を導き始める。
「そ、それにしても凄いね……本当、SF映画みたいだ……!」
「そうでしょう、そうでしょう♪ 束さんは頑張ったんだからね~♪」
目の前に広がる月面都市とモデルとなったのは、楽園とも名高いかの有名な都市、アラブ首長国連邦の『ドバイ』である。
肝田が暮らす時代であっても世界有数の観光地というのも納得の豪奢な街並みが、この月面都市では様々なオタク作品に登場した近未来的なガジェットで大胆にアレンジされていた。
篠ノ之束がSFエリアの管理者である束の知識と技術は、他の作品とこのドスケベ幻想郷で『クロスオーバー』されることで原作よりもより恐ろしい形に深められている。
さらにこの月面都市は、科学技術だけではできない技術もファンタジー的な魔法技術によって成り立たせるという、科学と魔法が融合した幻想都市が作られていたのだ。
月面という名前の通り、空気や水を維持するために天井には透明な人工的なドームに覆われており、そのドームには地球のような美しい青空を模した映像が、一日二十四時間に合わせて様々な顔に変化していっていた。
朝も昼も夜もしっかりと存在するその月面都市のメインストリートは幅広い大通りとなっており、その通りの随所には、近未来的ガジェットが散りばめられていた。
通りの中央にはホログラムディスプレイが浮かんで、観光案内や天候情報をリアルタイムで投影されており、そのホログラム映像に触れると立体映像が反応して、都市内部はもちろん、都市の外にある月の地形図がくるくると回転しながら拡大縮小で見通すことができる。
また、目を引くものでいえば、やはり月面とは思えない街を彩る人工植物だろう。
月の過酷な環境では育たないはずの緑が、バイオエンジニアリング技術と植物魔術の力で見事に再現されており、青々とした葉や色とりどりの花が通りを飾っている。
だが、それらは単なる植物ではない。
空気を浄化し、酸素を供給する機能を普通の植物よりも強く持っており、また、葉っぱを摘むと生臭さではなく心地よいほのかな甘い香りが漂うのだ。
「すごいな、これ……! いや、本当に……今まで懐古的な都市でいたから、余計に最先端技術が映えるというか……!」
ガラス張りの天井からは月からの星空が眺めることができ、街の端には自然も兼ね備えられているようで人工の湖や滝が存在し、それこそまるで神話などでも語られるような、恒久的なイメージにある『楽園』を再現したかのようだった。
ストリートには小型のロボットが動き回っており、ゴミを回収したり、先にこの街の住民として暮らしているキャラクターたちをサポートしているようだ。
『キモタユウタ様、ヨウコソ、月面都市ヘ!』
そんなロボットの一台が優太に近づいてくると、愛らしい電子音とともに挨拶をしてくるではないか。
美少女型ではなくドラム缶型の古典的なロボットというのも、ある種の『萌え』に通ずるものがあるのか、肝田の頬は微笑ましさと興奮で緩みっぱなしだった。
そして、そんな街の中心には肝田のための『宮殿』が広がっている。
肝田は息を呑みながら呟いた。
「こんなすごい都市、見たことないかも……!」
「当然だよ! 束さんのセンスの全てをかけて、肝田くんが幸せに暮らせる、終の棲家ってものを作ったんだからね! 肝田くんは、ここに居て……ずぅっと幸せで居てくれれば良いんだよ♪」
肝田のつぶやきに返した束の言葉には、確かに深い愛情が込められていたが、やはり同時に、肝田に対してどこか親や姉といった『保護者』のような、自身の膝下で管理するように暮らしていて欲しいという強い意志が感じられた。
「ふふふ……お待ちしてました、よ❤ 我がトラマカスキ❤」
そうして、宮殿がハッキリと見えるほどにメインストリートも終点に差し掛かると、その宮殿の手前で新たな人物が姿を現した。
「私は、テノチティトラン……この月面都市の都市精霊のようなものだと思ってください、ね❤」
その人物の名は、LAと同じく『Fate/Grand Order』に登場するキャラクター、『テノチティトラン』である。
しかも、通常時の服装ではなく、期間限定の夏季イベントに実装された水着サーヴァントとしての姿だった。
「て、テノチティトランだ……! 原作よりも胸、大きくなってる……!」
このドスケベ幻想郷にきてからどうも大胆になってしまった肝田は、ジロジロと不躾な視線を向けてしまうのだが、しかし、それも仕方ないだろう。
黒い髪のインナーカラーに水色を作っているテノチティトランは、その頭部に束と同じくウサ耳型の近未来的なガジェットをつけており、その体も黒いレオタードとデニール数の高いタイツに白いコートという、いわゆるバニーガール姿だ。
そのどこか蠱惑的な垂れ目がちな目元も、スッキリとした細面も、原作のスレンダーな体型のまま肝田好みに豊乳化されている巨乳も、色っぽさの権化というような見た目である。
スレンダーな華奢な体躯と豊満な巨乳という矛盾するはずのそれが見事に融合している体が際立つバニーガール姿のテノチティトランを見て、肝田の喉は音を立てて鳴ってしまうのも当然と言えば当然だった。
「生まれ変わった私の姿はどうですか、トラマカスキ? 『月面都市テノチティトラン』……ふふふ❤ 悪くないです、ね❤」
そう、この月面都市の名はテノチティトラン。
世界で最も美しい都市とさえ謳うものも存在するこの都市の都市精霊であるテノチティトランは、そのバニーガールの姿であることも合わせて、月面都市の基軸となる精霊となるには相応しい存在だと束に抜擢されていた。
そして、そんな重要な役目にあるからこそ、一種のコンパニオンとして肝田を迎える初日に顔見世をすることを束からも許可されたというわけである。
「私がトラマカスキの居城のある都市になれるというのは……ええ、とてもとても、心が昂ぶるというものです、よ❤ たっぷりと、あなたの居城を守ってあげますから、ね❤」
テノチティトランの言葉には猛烈な好意が込められているが、その文面には束と同じようにどこか守るべき庇護対象だと感じているようなニュアンスに満ちていた。
類は友を呼ぶというべきなのだろうか、テノチティトランもまた肝田を『主』としてではなく『神官』、つまりは都市精霊である自身に仕える存在として見ているとも言えた。
もっとも、これはさほど珍しいことではない。
原作で地位の高い存在、女王や女帝、女神や精霊であったようなキャラクターは、そのキャラクターの性格をしているが故に、肝田に好意を抱きつつも自身のことを上位者だと考えてしまう『悪癖』が存在するのだから。
肝田に熱烈な視線を向けているテノチティトランのその様子を、鈴仙が少し離れた場所で見つめている。
「そちらがトラマカスキの案内役……でしたか? ああ、ご苦労さまでした」
「は、はい、よろしくお願いします」
「さあ、トラマカスキ、こちらです。メイドたちがすでに準備をしていますから、ね❤」
すると、テノチティトランはそんな鈴仙に軽く視線を投げた後に、なんとも素っ気ない挨拶のみを返すと、再びその関心は完全に肝田へと戻っていった。
それ以上の興味は持たないという点でも、性格はまるで違うくせにそのドスケベ幻想郷の住民としての活動方針のようなものは、やはり束とよく似ている。
宮殿への道を進む中、テノチティトランの猛烈な好意を向けられながら、ついにその豪華な屋敷の敷地内へと足を踏み入れていくのだった。
「うわ……近くで見ると、本当に凄いな……!」
「ほ、本当ですね、先生……!」
そうして、肝田を初めとする面々が宮殿の敷地へと足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる壮麗な光景に肝田と鈴仙は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
SF的なセンスとファンタジー的なセンスが入り混じった豪奢な宮殿、その入口のアーチにはホログラムで『優太宮殿』と文字が浮かびあがっており、その下には『肝田優太様 永遠の楽園へようこそ』と歓迎の言葉が刻まれている。
月面都市の中心に存在するランドマークでもあるその圧倒的な存在感に呑まれている肝田の手を束は強く握り、都市の開発責任者として得意げに胸を張る。
「どうかな! 束さんが優太くんのために作った宮殿だよ♪ ここでずっと、ずっとずっと、ずぅ~~っと! 幸せに暮らそうね♪」
「トラマカスキの居城に相応しい宮殿です、ね❤」
そのウサ耳型ガジェットがもはや当たり前のように束の上機嫌を示すためにピョンピョンと跳ねるような動きを見せる。
また、テノチティトランも肝田の隣へと音もなく近寄ると、そのまま甘えるように肝田へと身を寄せて腕を組んでいた。
こちらのウサ耳も、束のガジェットのようにテノチティトランの感情と同期をしているのか、嬉しそうにぴょこぴょこと動いているのが、クールな顔立ちとのギャップもあり、なんとも可愛らしかった。
「すごいですね、先生……その、さっきから凄いしか言ってませんけど、でも、やっぱり凄いです……!」
「うん……! 僕も凄いしか言ってないけど、やっぱり凄いね……!」
そのままアーチをくぐって宮殿の敷地内に入り、さらには玄関の扉が肝田の生体反応を察知して自動で開かれることで、宮殿のその内部が姿を現してくる。
扉を抜けてすぐの大広間の床は透明なガラス張りで、下には人工の湖が広がり、光を反射するナノ粒子入りの水がキラキラと輝いている。
湖の中には色とりどりの魚が泳いでおり、とても月面のものとは思えなかった。
天井は当たり前のように高く、ドーム状に湾曲しており、なんとその宮殿内の天井自体にも人工的な星空がホログラムで投影されていた。
それでいてシャンデリアが頭上を『浮かび上がった』状態でふわふわと漂って光を放っており、それは月面都市だからこその重力操作技術で成り立つ幻想的な美しさだった。
「こ、これ、僕の屋敷なの……? すごすぎて、落ち着かないかも……!」
「で、ですね……足元が湖なの、なんか落ち着かないかもです……」
肝田が目を丸くして呟くと、鈴仙もまたその突飛とも言えるデザインにただただ戸惑いを浮かべているようだった。
――――そんな二人の前に、宮殿の奥から静かな足音とともに新たな人物が現れた。
「お待ちしておりました、御主人様。私、当館のメイド長を務めさせていただきますベルファストと申します。我らロイヤルメイド隊、身命をとして御主人様にお仕えさせていただきます」
『おかえりなさいませ、御主人様』
『アズールレーン』の『ベルファスト』と、その仲間たちである『ロイヤルメイド隊』だ。
ベルファストは、クラシカルなロングスカート丈のメイド服ではあるものの、胸元が大きく開かれたそれはとても古典的とは呼べない、男の情欲を誘うようなドスケベなメイド服を来た、しかし、どんなメイドよりも有能な『ロイヤルメイド』のメイド長である。
アズールレーンの過激とも言える男性の性欲を刺激するようなド派手な服装と外見は、それそのものが肝田の性的な好みを十分に満たしているため、ベルファストもロイヤルメイド隊も大きな変化は見られなかった。
強いて言うならば、貧乳のメイドが巨乳になっているといった程度だろう。
「う、ウサ耳……! そっか、月だからウサギなんだ……!」
「さすがの慧眼ですね、御主人様」
ただし、メイドたちのお馴染みとなっている白いメイドカチューシャが、この月面都市のコンセプトなのだろうか、ウサ耳型のカチューシャに変わっており、ロイヤルメイド隊がウサ耳メイド隊に変貌しているというのは、肝田を驚かせた。
ベルファストはその美しい銀色の髪をきれいに流し、穏やかな微笑みを浮かべながら肝田の気付きを称賛するように微笑みかける。
ベルファストの言動の全ては非常に柔らかく、どこか母性的な温もりに満ちていた。
彼女は一礼した後、肝田の前に騎士のように跪き、その胸元を強調するように手を当てながら肝田を見上げていく。
「ご主人様がこの宮殿で快適にお過ごしいただけるよう、我々一同、心からお仕えいたします。どうぞ、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
その言葉を告げるとベルファストは立ち上がり、肝田を宮殿の中を案内する。
小さな手を肝田に差し出しながら先導していくその姿は、メイドと主人というよりもどこか母親に導かれる子供のような構図だったが、宮殿の豪華さに動揺しているからこそ、その安心感が肝田を包んだ。
そのことに気づき、メイドらしからぬ振る舞いとわかってはいてもそのような態度を取ったのならばベルファストは有能なメイドと言えるだろう。
そうして案内された食堂で、肝田は席につく。
座る前にロイヤルメイドの一人が恭しく席を引いたが、一般的な日本国の市民であった肝田はそのような丁寧な扱いをされたことがないためか、どこか照れたように頬を染めてしまう。
「御主人様、まずはお茶で一息ついてください」
「あ、うん。ありがとう……うわ、いい香りだ……落ち着くかも……このお菓子も美味しい」
ベルファストのにこやかな顔と穏やかな言葉に、肝田は笑顔を見せる。
紅茶の香しい香りが漂い、お茶請けのクッキーを一口食べると、イチゴの風味が口いっぱいに広がった。
紅茶やクッキーに入っているリラックス効果、あるいは、美食がもたらす緊張の緩和がベルファストは肝田の隣に静かに立ち、穏やかな声で続ける。
「御主人様、この宮殿は肝田様のためだけに作られた楽園……私たちロイヤルメイド隊が、いつでもおそばでお仕えいたします。何かお望みがあれば、遠慮なくお申し付けください。この身に変えても、その願いを叶えさせてもらいます」
「じゃあ、肝田くんはここで食事を楽しんでいってね! 束さんは肝田くんが無事に月面都市の宮殿にたどり着いたこと、報告してくるから! じゃあ、テノチにベル、肝田くんと鈴仙ちゃんのこと、よろしくね~♪」
お茶とお菓子を楽しんでいる肝田を見た束は安心したのか、手を振って食堂から去っていき、一時退場する。
残された肝田は、テノチティトランとベルファストと鈴仙、そしてロイヤルメイド隊に囲まれ、宮殿での歓待を満喫し始めるのだった――――。
(続)
