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鯰田NMZ
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現実世界放浪記

ラッシャイ。俺だ。鯰田。げんこつ山のたぬきだ。普段は仮想世界で電子霊獣として息をしてるが、現実ではそうもいかねぇ。郷に入っては郷に従え。すなわち、俺のような異形のたぬきであっても、時に“人間の皮”を被って社会という魔界に潜入せねばならん。


狂った精神を抱えたままでも、生き抜くには経験が要る。正気のふりをして満員電車に乗り、挨拶をし、手を洗い、書類を提出する。この一連の人間ムーブこそ、異種族が現実に居座るための偽装儀式。


だが、すべての者にそれができるとは限らない。環境の檻、家庭の呪い、言語の呪詛、空気という名の圧力鍋。事情があるのはわかってる。俺にもあった。だから今日は――お前に、人間社会の特殊例をひとつ話してやろうと思う。これは単なるエピソードではない。この世界の一部にある歪みを生き抜く方法だ。

ガキの背景

まずは背景から話そうか。俺は裕福じゃなかったが、飢えるほど貧しくもなかった。

街の片隅にある、一軒家の記憶がある。風呂が狭くて、天井が低くて、でも壁があった。壁があるってのは大事だ。

ただな、「愛」って概念がその家に存在していたかは、今もって不明だ。幼少期俺は父という名の暴力装置から、泥酔パンチと叫び声を受け取っていた。結末はミハエル・シューマッハもドン引きな速度での離婚。あまりに速い、まるで手続きのために愛したかのような即時解体。


残された母も、俺が小学校に上がる頃には何かが壊れたのか、あるいは最初から壊れていたのか、まともな飯も服も与えられなくなった。

いわゆるネグレクトというやつだ。世間的にはそれなりによくあるらしい。つまり大したことではない。だが俺は言いたい。「大したことない地獄」ほど人を静かに壊すものはない。


こうして産まれたのが、金を求め、性を求め、だがどれも掴みきれない中途半端なバケモンだ。ガキの頃からその片鱗はあった。欲望の方向だけは正しく、手段と器が致命的に足りなかった。


いや、別にそういった欲があろうともまるで何もできなかったわけじゃない。一緒に道を歩こうとした奴は何人かいた。だが――事故、疎遠、不幸、歪み、そういったものが毎度割り込んできて、見えない何かが俺にこう言う。「お前は、まともに誰かといるってのが、できない生き物だ」ってな。


そんなわけで、今回の主題に入る。これは俺の話であり、そのうちお前の話にもなるかもしれない。

バケモンと風俗街

社会に放り出された俺は、新卒で働き、小銭を稼いだ。そしてその金を握りしめて、専門へと入学。だがそのキャンパスが、よりにもよって繁華街の真隣だったもんで、俺は必要経費以外の金を、“性欲と孤独を殺すための弾薬”として蓄えた。


金さえあれば、関係が持てる。たとえそれが一時的な幻影だとしても、心は温まる。

約2万、60分。ガキには大金だが、“触れ合い”が保証される。趣味もなく、孤独に在ることだけに慣れていた俺には、風俗という名の生暖かい地獄は、受け入れられる甘さを持っていた。

夜の街は昼とまるで違う。まだ例の流行病もなかった時代。街はノーマスクの人間で溢れ、俺のような目的を持ったバケモンに声をかけてくる奴がいた。


「お兄さん、今帰り?遊んでかない?いいとこ紹介するからさ」

テンプレート通りの台詞。だが実在する。


この類のキャッチは、関わった瞬間に闇に引きずり込まれる。料金が違う。場所が違う。業態が違う。気づけばよくわからんバーに連れてかれたり。ボッタクリ、あるいは失踪。そもそも風営法違反の存在であるが、警察はなかなか手を出せない。証拠が残らない仕様の闇。


だから俺は断った。地獄に自分で入るなら、場所ぐらいは選ばせてもらう。公式サイトから情報を確認。大手の店舗を選んだ。これは生存戦略である。風俗に限らず、知らない奴についていくな。わからん話を信じるな。古事記にもそう書いてある。

店舗に着き、旧く狭いエスカレーターを昇る。鼻腔を突くのは、得体の知れない香水の匂い。壁には広告、コスプレ、マット、玩具、聖水――すべてが商品。すべてが欲望。俺は興奮も怯えもせず、ただ無で広告を眺め、目的の階へ辿り着いた。


受付は、仕切り付き。スタッフの顔は見えない。これはプライバシー保護と、心理的なバリアフリー。つまり、「気にせず選べ」という店からの無言の圧だ。

出勤表が掲示されていたが、俺は事前に**指名する者**を定めていた。その名前を告げ、オーダーシートを受け取る。そこには、呼び方・NG部位・プレイ前のシャワーの有無など、魂の契約内容を記すための欄がずらりと並ぶ。


記入したら、壁に開けられた穴、その先の箱に紙を滑り込ませる。やがて番号を呼ばれ、指定された部屋へ移動。店によってはキャストが迎えにくるが、この日は違った。


そして運命のご対面――

扉を開けた瞬間、俺の心臓が凍りつく。

そこには、浜辺に打ち上げられたトドがいた。

オイ!!!なんだこれは!!!!!!!!!!!!!

美しいロングヘアの奥に隠された、パネルマジックという最新魔術。


若かった俺は、まだそれを見抜く審美眼を持っていなかった。これは訓練不足、いや人生経験不足。だが、すでに2万は支払われ、後戻りはできない。軽く挨拶し、部屋に入る。金が惜しかったのだ。貧しさは判断を鈍らせる。貧しさは人を縛る。

ベッドが軋む。嫌な音だ。これはもはや断末魔。支柱が悲鳴を上げる中、キャストは健気にサービスしようとする――だが、そのすべてが“過重圧殺”。


俺は観念し、目を閉じた。

集中すれば……なんとか……なんとか……






……………………






――なんともならなかった。


重い。とにかく重すぎる。

だが俺がその巨躯に対して能動的に動こうという気力もなかった。支配でも献身でもない。ただそこにあったのは、静かな絶望という名の質量。


キャストには申し訳ない。きっと、彼女なりに精一杯やってくれたとは思う。だが世の中には、どれだけ努力しても割り切れない難所がある。切り抜けようとすればするほど、深みに沈むタイプの泥沼。


人生とは、そういう瞬間の集合体だ。

正解がなく、逃げ道もなく、笑えもせず、記憶にだけ残る。


こうして俺は、金と欲と孤独の代償として、60分という“儀式”を終えた。重さの記憶、音、匂い、すべてを背負って帰路についた。


だがな、ここでお前に言っておく。この話は“風俗失敗談”ではない。これは、どうにもならなかったことが確かに存在していたという証明だ。逃げるなとも、挑めとも、俺は言わない。ただ、目を逸らすな。


俺たちのような獣が、社会と孤独の狭間で選ぶ選択肢は、いつだって正しくもなければ間違いでもない。それでもなお、次に進むには、その“なんともならなかった記憶”すらも背負うしかない。


忘れるな。

この話を読んだお前も、

きっとどこかで、**うまくいかなかった**経験を持っているはずだ。


それを捨てるな。恥じるな。それは生きた証だ。


ではまた、どこかのインスタンスで。

俺は鯰田。げんこつ山のたぬきだ。


ああ、あとこの山での執筆活動のために、記事が気に入ったらフォローや支援をしてくれ。よろしくな。

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