私、上坂千夏(20歳、職業:多分スーパーモデル)にはこれまでお読みになった通り、ある癖がある。野外露出。お外でマッパになっちゃうの大好きっ子ちゃん。
きっかけはハッキリ覚えている。小3の遠足があった日、遠足先の公園のトイレに間に合わずに盛大にお漏らししてしまった私は、濡れたのはパンツだけでスカートは無事だったこと、周りには誰もいなくて、この事実は私しか知らないことをいいことに、パンツを公園の草むらに捨てた。その帰り道の、涼しい股下のなんともいえない開放感、みんなにバレるかもしれないと思うドキドキ感は今でも鮮明に思い出せる。以来私のノーパン癖はエスカレートし、中1のときには週1でのノーパン登校が、高校も終わるころには多い日以外はほぼ毎日履かずに学校に通っていた。
高校を出て、無軌道なバイト生活に突入してからも、挟まってしまいそうな自販機の隙間に入っておっぱいを出してみたり、コート1枚で夜の街を徘徊したりと自らのリビドーの赴くままに私は露出プレイを一人楽しむ日々を続けた。そんな私にはある注目するスポットがあった。自転車通いのバイトへの行き帰り、ある日見つけた路地裏。これまでショートカットで何回も通ったが、誰一人として出会ったことがない。二十歳の記念になにか特別なことをしようと企んでいた私は、6月の気だるい午後、まさに私の誕生日に意を決してその路地裏に自転車を停めた。
いつもは駆け抜けるだけなのでそうは思わなかったが、歩いてみると結構広くて開放感がある。古い、時代から取り残されたような家が両脇に並ぶが、誰も住んでいないというわけではなく、よく聞けば風鈴や、誰かが窓を開けっ放しでテレビを見ているような音が聞こえた。つまり全く誰にも見つからないわけではない。その方が興奮する。緊張感や恥ずかしさが全然ないわけではないが、この昔にタイムスリップしたかのような風情のある空間、昼の三時なのにもう陽がかげり、吹き抜ける風の余りの居心地の良さに背中を押され、私はいよいよ二十歳の記念イベントを実行に移していった。
まずはワンピースをたくしあげ、パンティを脱いだら自転車に引っ掛ける。次にブラジャーも同様に。ふうっ、これだけで気温が2度くらい下がる。皆さん、夏の暑い午後にはノーパン、ノーブラをお薦めします。
さて…二十歳の私はこれだけでは終わらない。流石に心臓が高鳴って武者震いが起きたが、私はもう大人なんだ。念入りに辺りを見回したあと大きく深呼吸をして…
私はワンピースをストンと地面に落とした。
その円になった布切れの中に靴を脱ぎ捨てて、私は足を一歩踏み出す。
涼しい!気持ちいい!!今わたしはこの風景の中に全くなにも纏わずに存在している!!蝉の声すらショパンの調べのようだ。完全に心が高揚しきった私は、大胆にもそのままその辺りを散歩し始めた。日向ぼっこする猫、乾いてゆく打ち水のあと、デコボコの石畳に、くたびれた向日葵。全てが最高だった。路地からさらに分け入った細道を覗いたとき、突風がその谷を駆け抜けた。大きくなびく私の金色の髪と黒い下の毛。快感と呼んでもいいほどの心地の良さに私は恍惚となり、空を見上げた。
そのときだった。
パシャッ!
???!!!???!。そのシャッター音が私を一気に現実の世界に引き戻す。
見るとそこには大きなカメラのレンズをこちらに向けた青年がいた。
裸を見られたことよりも、この性癖が他人にバレたことに私は激しく動揺した。急いで身体を隠して叫ぶ。
「なっ、何なんですか?!アナタはっ!!」
冷静に考えると今この状況でそのセリフが似合うのは彼のほうなのだが、こんなときは怯むと負けだ。
私は自転車の方へ戻り、淡々と服を着ながらなおも続けた。
「いい加減にしないと人を呼びますよ!」彼は何も言わず、なんなら少し笑みを湛えてこちらを見ている。変態だ。変態の盗撮者だ。いや、私が言うことか。
「とにかく!!今アナタがしたことはれっきとした犯罪です!」
自分のことは棚にギュウギュウ押し込みながら、あと一息と私はまくし立てる。
「さぁっ!さっき撮った写真!今ここで消してください!!」
そう言いながらも私は夢想していた。『ヒッヒッヒッ、やだね。それよりアンタ、この写真をバラ撒かれたくなかったら、言うことを聞くんだなァ』『そ、そんな。私に何をしろと?』『今度は駅前の、もっと人気の多いところで裸になってもらおうかァ?』『イヤぁ!出来ません!そんな恥ずかしいこと…』…この展開も、それはそれで悪くないなとド変態の私は思った。
「…そうですか…惜しいですが…仕方ありませんね…」
彼はとても寂しそうな顔でそう言った。そりゃあたまたま撮れた素人女のヘアーヌードを消すのは惜しかろうて。意外と素直に言うことをきいた青年に若干の物足りなさを感じながらも、カメラのパネルをいじり始めた彼を私は制した。「ちょっと待ちなさい!ちゃんと私の見てる前で消してよ!いや!なんなら私が自分で消します!!」こういう根暗そうな奴は後からネチネチ来そうだしなぁ、そう思って私は彼からカメラをひったくる。
そうして背面の液晶画面を見たとき、私の頭が真っ白に飛んだ。
その風景は古き良き時代のノスタルジアのようで。突風が地面に篭った熱さえも掬い取ってゆく様がまざまざと見えもして。そしてそこにはその一瞬の夏を全身で浴びている白い裸の美少女が、天を仰ぎ、微笑んでいたんだ。
しばらく私はそれが私だと思えなかった。美術館に飾ってあるような有名な画家の古い絵だと思ってしまった。とにかくそこには、さっきの風に吹かれた瞬間、私が感じた色も、温度も匂いも、そしてエクスタシーも、全ての一瞬が永遠に切り取られていた。
「初めてです…」
「へっ?」
「…俺が…人に向けてシャッターを切ったの…」
突然の彼の言葉がまるで予期しなかった愛の告白のように思えて私は動じた。
「………あっ!どっ、どっ…どうしてじゃあ?…」
「初めて人の笑顔を…美しいと思いました……でも…俺の身勝手でしたね…」
画面に現れた削除ボタンを私は全力で否定した。
「ちょっ、ちょ、ちょ、ちょぉっと待ってよ!」
「?」
「こっ、この写真のコピーって、い、いただけたり出来ないんですかっ?!」
それが、私と無名の天才芸術家、岸田冬吉との出会いだった。
Kitajima Gaku@Fanbox
2023-12-28 08:36:27 +0000 UTC