「公開セックスや。」
ヤクザの中ボスは僕こと新城周と先輩こと僕の上司、一ノ瀬陽奈が並んで土下座をする前で確かにそう言い放った。その奥の車椅子の老人、いわゆる親分と思われる人物は眼光鋭くこちらを見据えども、未だ黙して語らない。
「は?一体何をおっしゃっ…テッ!」
抗議をしようと上体を上げた僕の後頭部を先輩はひっ掴み、再び畳の上に押し戻す。
どうして僕達がこうなったのか?確かに今回の件の過失は全て我が社にあり、その原因となる契約ミスを犯したのは突き詰めれば先輩だった。僕は今回もうまくやり遂げるつもりだった。そのミスをなんとか僕のせいにする。会社の人間に気付かれず、もちろん先輩にもだ。今までだって何度もそうしてきた。それでうまくいってたんだ。どうしてそんな事をするのか?それは貴方も先輩を見ればわかる。ひと目ぼれだった。入社して配属先に出向いたら上司が女神だった、そんな感じだ。しかし僕は自分の心中を彼女に告げるような愚かな事はしない。社内の男性、そう二階級特進で一気に部長にまで登り詰めた若きエリート森川さんや、実家が名士の金持ちハンサムボーイ黒石君までも含む全員の求愛をあっさりことわる彼女に、こんなルックスから、身分、キャリアまで全てが平均日本人男性よりはるかに下回る僕に一体なにが出来るというのだ。自分が愛する女性のもと、いかに彼女の望む仕事をこなし、彼女の華やかなキャリアに一点の染みも作らずにおくか(ときには彼女のミスを全て自分が被っても)、それが僕が彼女に示せる愛情の全てなのだ。見返りに手の届かぬ女神の笑顔を仰ぎ見るだけで僕は心の底から満足だった。
畳に押し付けられながらもチラリと横目で僕は先輩を見た。その端正な横顔にも動揺の色は見てとれ、唇は小さく震えていた。しかし意を決したかのように目を見開いた彼女は頭を下げたままハッキリとこう言った。
「…わかりました。」
「な?!何を言ってるんですか?先輩!」僕は起き上がり、先輩に詰め寄った。「奴らの理不尽な要望なんて間に受けちゃいけない!貴方達もいいかげんにしないと警さ…?!」そのとき、眼前でキラリと何かが光った。
あまりに見事な腕さばきに僕はしばらく喉元に突きつけられたのが何だかわからなかった。鈍く白い光を放つそれは、どう見ても本物の日本刀だった。
「ええ加減にせなアカンのはお前のほうやぞ、兄ちゃん、あ?」
チンピラ風情に見える中ボスだが、刀の腕前は確かなようで、話しながらもその刀先は僕の顎の下で1mmも動くことはない。僕は思わず生唾を飲みこんだ。
「今回の件、ホンマやったらおまはん等のチョンボは、この姉ちゃんを外国に売り飛ばして、兄ちゃんをコンクリに詰めててもおかしないほどなんやぞ、なぁ?それを今目の前でパコパコショーをやったら許したろ言うてんねや。」
今何か言葉を発したらそのまま首を落とされるのではないか?という恐怖に震えながら僕は尋ねた。
「い、一体なぜそんなことをする必要があるんですか?」
さも面倒くさそうに中ボスが答える。
「…あんな、兄ちゃん。奥の親父見てみ?もう足はアカンのんや。それは3本目の足もおんなじや、な?」より芝居がかった口調で中ボスは続ける。「せやけどなぁ、兄ちゃん。まだお前みたいな若いモンには分からんかもしらんが、男ちゅーのはいつまでもベッピンの裸を見たら元気が出るっちゅうもんや。精を付ける言うやろ?あれや、医者が言う精神療養、デンタルヘルスっちゅうやつや!」このトンデモ理論の上で細かな間違いを指摘するのは野暮だし、こちらもそんな余裕はない。中ボスの話はいよいよ興が乗ったのかさらに細かな解説が入る。
「実際昨日は親父が毎週楽しみにしてるパコパコの日やったんや。それがお前、来よったヘルスは品のないブスやわ、連れの男はビビってチ○コ勃たんわやんけ。ワシもう腹立ってそいつのんコイツで切り落としたってん!使えんもん付けとったってしゃーないやろが?!ハハハハハハ!」
もはやどこからどこまでが本当のことかもわからない。だが中ボスの話はさらに軽快に続いた。
「『せやけど正直困ったな、せっかく親父が楽しみにしてる余興が台無しやで。』そう思とったらええとこに来たがな、こんなエラいベッピンが!しかもチョンボした代わりになんでもします言うてるで!こんな見事な利害の一致ってあるか?やっぱりお天道様は普段のわしの行いをちゃんと見とってくれとんやのぉ!」あきれた僕は努めて事務的に返す。
「あの、弊社がお客様に対して行う謝罪というのはそういう意味ではな…」
「それでよ!!」
再び僕の喉仏の手前1mmに刀がピタリと付けられた。
「…お前はさっきから一体なにが不満やねん?お?頭下げに来た思たらまさかタダで一発ヤレんねんぞ?そんなオイシイ話あるか?どうみても女に不自由してへんって面やなし、ホンマやったら頼み込もうが、金を積もうがこんな上玉とは無理やろが?!」
たしかに中ボスの言うことに間違いはない。正直セックスどころか生まれて24年間、女性の手すら握ったことがない。こんな異常な状況でもなければ、今後一生先輩のような美人を抱けるチャンスなんてないだろう。いやそれどころか童貞を捨てられるかも怪しいところだ。チラリと先輩のほうを見る。心配そうにこちらを見ている。その悲しげな表情もまた堪らなく美しい。あぁ、こんな人と付き合えたらなぁ、セックス出来たらなぁ。そんな夢想をしていると、また中空を刀が舞う音がした。…かと思うと同時に黒い布切れが数枚、散り桜のように地面に落ちる。またもや何が起きたか分からずにいると、
「きゃああっ!!」突然先輩が悲鳴をあげた。
慌てて先輩を見るとスーツのタイトスカートがいつしか切り刻まれマイクロミニへと変わっていた。黒いストッキングに包まれた柔らかそうな太腿はその付け根まで露わになり、その先にはうっすらと透けた白いパンティまで少し顔を覗かせていた。な、なんて素晴らしい事を…い、いやヒドイ事を!
「ええ眺めやのう〜。どや?ちょっとはヤる気になったか、兄ちゃん?」中ボスはいやらしく笑った。
「い、いやっ!」先輩は短くなったスカートを必死で伸ばそうとしている。今度はその眼前に中ボスの日本刀がピシッと伸びた。
「姉ちゃんもよ!」
彼女は仰け反ったまま動けない。
「…今からもっとスゴイことをみんなの前でやんねんやろ?それぐらいでうろたえんなや。ほら、練習や。手どけんかい。」
彼女は震える手をゆっくりスカートから放す。
「そうや。さあ、そのまま脚を大きく開いてみぃ。」
「そ、そんな…」嫌がる先輩の前で刀はカチャリと音を立て、気付けばそれは露わな太腿の前にあった。
「パンツを見せるだけやろう?あ?それともコイツでさっさとマッパに剥いたったほうがいっそ楽なんか?」
言うと同時に中ボスは彼女の太腿に刀を這わせた。張力に負けた黒いストッキングはパックリと裂け、中から真っ白に張った彼女の生肌が顔を出す。その手さばきは見事で彼女の太腿には傷ひとつ付いていなかった。
「ううっ…」先輩の顔は恥辱と恐怖で紅く染まっていた。彼女はこちらにも分かるほどに震えながら、それでもゆっくりと脚を開いていった。
くの字に曲がった長い脚のラインは完璧で、僕はその美しさに息を呑み見惚れてしまう。こんなに目の前でハッキリと美女の(しかも大好きな先輩の)下着を見たことなどもちろん初めてだし、先輩の悩ましい格好など言うにも及ばずだ。情けなくもこんな状況の中ででも僕は欲情し、その小さな三角の布のさらに奥を見たいとぼんやり心の中で望んでしまった。
しかしそのとき先輩の頬を伝った一筋の涙に僕は我に帰った。目を閉じ、先輩から顔を逸らす。
俺は一体なにを考えてたんだ!あんなチンピラの口車に乗せられて!大事なことなので2回思う!一体俺は何を考えてたんんだ!
先輩とセックス?!ああ、したい!出来ることならもちろんしたい!中ボスの言うように僕に損な事なんてなにひとつない!ヤクザの見守る中とはいえ、ハッキリとした理由のもと堂々と、なんの臆面も躊躇いもなく、いくら手を伸ばそうが届かなかった天使を抱けるのだ!
でもそれは全て!
僕・の・方・か・ら・だ・け・の・理・由・だ!!
汚い男の欲望から這い出た屁理屈だ。
僕は先輩を愛しているなんて言いながら彼女の気持ちなど何一つ考えちゃなかった。彼女のほうはどうなる?愚劣な男達の前に全てをさらけ出し、彼等の劣情の捌け口となるために好きでもない醜男の部下とまぐわう。僕のただひとつの希望の太陽をそんな目に合わせてたまるか!永遠の輝きに影を落としてたまるか!
「なんやなんや?後光が射してまぶしいんか?なんなら兄ちゃん、残りはオマエがひん剥くか?!」
僕はなんの恐れもなく言った。
「いやだっ!僕は断る!断固として先輩は抱かない!!」
「なっ?!」
中ボスが面食らう。
「ええっ?………そんな…」
その横で何故か同じくらいに先輩も驚いていた。ヤクザを目の前にしての僕のあまりに堂々とした振る舞いに関心しているのだろうか?なんなら惚れてくれちゃってたりして?…200パーセントありえんな……。
つづく
カルチューン・C・ラブ
2020-07-12 13:27:02 +0000 UTCチラウラーマ
2020-07-12 13:18:45 +0000 UTC