「りゅゅゅうううううううううじぃいいいい!!!!」
雷でも落ちたかと思うほどのド級の怒声が邸中に響いた。
全ての物の動きが止まり、部屋には音ひとつない。
みんなの視線はその声を発した主へと集束していた。
ヤクザの親分だった。
親分は黙ったまま顎をクイッとしゃくった。
「へい」中ボスの龍二はそそくさと服の乱れを直し、僕とは反対の座敷の端へと引っ込んだ。そこで正座し、一点を見据えたまま動かなくなった。子分二人も同様に龍二の奥両脇に座した。
親分は次に先輩を見た。
「まぁ、立ちなさい。」
「…はい。」
言うとおりに先輩は立ち上がったが、両手の置き所を決めかねている。きっと本心では胸や陰部を隠したいが、龍二の見せたものは隠すなの言葉が頭に引っかかっているのだろう。
親分もそれを察したか、
「お嬢ちゃんのおぜぜはよぉ見せてもろうた。今は恥ずかしいなら隠してもかまへんよ。」
言われると先輩は両手を身体に密着させ、黙って礼をした。
「…お嬢ちゃん…。お嬢ちゃんは素人さんのくせに根性あるなぁ。ええショウやった。わしは感心したわ。」
僕は体全体から力が抜けた。お、終わった。思わぬ所からの鶴の一声だ。『それに免じて今回は許してやる』のパターンだ。
「しかし、ワシは約束を果たさん奴は嫌いでな。」
……えっ?
「お嬢ちゃんはまだ半分しか筋を通してへん。わかるな?」
クソっ!コイツもただのエロジジイかよ!
「…はい。わかっています。」
少し不安気な様子で先輩は答えた。
「うむ。…せやけどそこの龍二とその約束を果たすのは嫌か?」
先輩はチラリと中ボスのほうを見た。龍二はピクリともしなかった。
「怖がらんとハッキリ言うたらええ。」
「…はい。出来ません。」
「わかった…。そしたらそこに括られとる小僧とはどうなんや?」
「えっ?……でっ、でも彼にはさっき断られ…」先輩の言葉を親分が遮る。
「お嬢ちゃん!…ワシは今そんなことは聞いてへん。出来るんか?出来へんのか?どっちや?」
先輩は僕のほうを見た。幾分か冷静さを取り戻したその顔は職場にいるときのようにクールで、その目線が僕にはいささか冷ややかに感じられた。
品定め…か?あ!…や、ヤバイ。客観的に見て今の僕の姿は最悪だ。彼女のブラジャーを口に咥え、ストッキングを首に巻き、パンティーを頭に被って、股間にはこれほどの騒動にも全く動じない未だイキり勃ったイチモツ。その張ったトランクスの先は濡れ、隙間から漏れたザーメンが太ももにへばりついている。
ハッキリ言って全世界の全ての女性に断られる自信がある。目の前にいるのがその中でもトップクラスの美人ならなおさらだ。
しかし先輩は老人の方に向き直るとハッキリとこう言った。
「はい。彼となら、出来ます。」
全世界の中の、その中でもトップクラスのただ一人がそう言った。
「よぉ言うた。…しかしワシはこの通り耄碌しとってな。出来ればもう一度誰が誰とどうしたいかをハッキリとこの老いぼれに伝えてくれへんか?」
僕は憤慨した。あの弟子にしてこの親分ありだ!爺さん、アンタも言葉責めが大好きか?!
しかし先輩は全く動じずに、笑顔まで添えて言い直した。
「はい。私、一ノ瀬陽奈は新城周さんになら、あなた方の前で抱かれてもかまいません。」
「けっこう。しかと聞き入れた。」
そして親分はそのままの視線でふたたび怒声を発する。
「こぉぞおおおおおおおおおう!!」
この部屋には他にも男がいたが小僧というのは間違いなく僕だと思い、慌てて言葉を返す。
「ひゃ…ウゴッ!ハ…ハイっ!!」
その勢いでおそらく紐の緩んでいた先輩のブラジャーは僕の口から飛び出し、パンティーを巻き込んで畳の上にボタリと落ちた。
それは僕の汗や唾液にまみれ、クシャクシャのベトベトに丸まっていたが、ヤクザの言うようないやらしい物では全くなく、先輩によく似合いそうな上品でエレガントなデザインの下着だと、僕は思った。
そして顔を上げた僕はこちらを見つめる親分と目が合う。ものすごい貫禄にチビりそうになる。とはいえ俺の愚息は変わらず直立不動なのだが。
「なぁ小僧、貴様はたしかこのおなごさんを理想の上司、尊敬する人間と言うたな?」
「……はい。」
「でや?この嬢ちゃんはキレイか?」
何が言いたいんだと思いながら僕は再びハイと答える。
「抱きたなるようなええ女か?もう一回よう見てみぃ」
言われるままに先輩を見る。ボッティチェッリの絵画から抜け出てきた女神のような女性がそこにはいる。さっきの僕とは全く真逆だ。世界中の男が見惚れてしまう女性がそこに立っているんだ。なにを否定出来るものがあるか。
「も、もちろん…」
「せやなぁ、ワシもそう思う。ええかアンちゃん。今兄ちゃんの前におるんは上司でも人間でもない。ただのええ女や。そのええ女がオマエに抱いてと頼んどるんや。そしたらの………
恥かかせたったらアカンのんちゃうんかい?」
親分の持論は龍二のそれと大差はない。しかし今は僕の中で大きく異なることがひとつある。僕は最初こそ先輩の為を思いセックスを拒否していたが、段々とそれはこんな僕にあんな女性が抱けるわけがないという意固地な自己否定へとすり替わっていた。いつの間にか彼女の気持ちなど全く考えていなかったのだ。
挙句先輩自身からの申し出もかたくなに拒否し、恥をかかせるどころか先輩をひどく危険な目に合わせてしまった。もしまだたとえ1パーセントでも彼女の役に立つことが出来るなら…。
「はい。」
ハッキリと僕は答えた。
先輩はひどく驚いたように目を開いた。
「おい、お嬢ちゃん。」
「はっ、ハイッ!な…なっ、なにか?」不意を突かれた先輩がどもって返す。
「そこの小僧はもしかしたら気が変わったかもしらんぞ?もう一度自分から頼んでみたらどうや?」
「えっ…あ、え、えっと、は、は、ハイッ!…で、でも」先輩は顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。
「そ〜れや!さっきの頼みかた、あれは一体なんや。今回もそんな調子じゃアカンやろな。…なぁ嬢ちゃん、人にものを頼むんや。しっかり!ハッキリと!!…心からの気持ちを伝えんかい。」
.親分の言葉で先輩の顔つきが変わった。最初はキリッと引き締まり、次に穏やかに。そして彼女は僕の方へとやって来る。両の手は下ろされていた。彼女は僕に何も隠しはしなかった。目の前に立った彼女は少しだけ頬を赤らめながら、僕の目を見つめ、堂々と迷うことなくこう言った。
「新城…さん。わたしを、抱いてください。」
人は目の前で全く想像も出来なかったことが起きると頭がまっしろになるようだ。ホワイトアウトしていく思考が完全に停止をするその前に僕はなんとか言葉を発した。
「はい。よろこんで。」
先輩の顔が太陽のように晴れて輝いた。かと思えばその目には大粒の涙がみるみる溜まり、ついには顔を伏せて泣き出してしまった。
あれえ?僕はなんかまたマズイことを言ってしまったかなあ?ああ、これで公開セックスがいよいよ決まってしまった。それで悲しんでいるんだろうかなあ?僕はぼんやりした頭でぼんやりと考えた。
親分が言った。「お嬢ちゃん!…泣くのは抱かれたあとや。」
「ハイっ…グスン…すいません…グスッ」
どんな理由で泣きだしたのかは分からないが、子供のように涙を手で拭う彼女は可愛らしいとまだ僕はぼんやりと考えていた。
Cairn07
2022-02-16 07:20:12 +0000 UTCchonpas3rd
2021-05-14 15:31:07 +0000 UTCカルチューン・C・ラブ
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