そしてブツリと縄は切られ、ようやく僕は拘束を解かれた。思わずよろける僕を先輩が抱きとめる。
「大丈夫?!新城くん?」「え、ええ平気です。」「…………」「……………先輩?」「ん?………なぁに?」
なんと彼女はそのままピタリとくっ付いて僕から全く離れる気配がない。何も着けていない彼女のたわわなオッパイが、柔らかな太腿が僕の体に直に密着している。
ようやく落ち着いていた僕の息子は五分と経たずに再び目覚めて高くそそり立ち、目の前の先輩の髪から漂う甘い香りに僕は別の意味で気を失いそうになった。
「ようやくその気になりよったな?」
「はい」
親分の問いに僕は今度こそ一点の迷いもなく答えた。
実際もう逃げ出すなんて気はさらさらなかった。
先輩にここまでさせた以上は、僕だってもう引き下がる訳にはいかない。仕事のときと同じ、後は彼女を全力で支え、二人でこの歪んだ償いの儀をなんとか完遂するのだ。とまずは真面目な理由がひとつ。もうひとつは悔しいが親分の言ったとおりだった。先輩の愛撫の快感を覚えてしまった僕は、その性の本能をもうすでに止められないでいた。先輩を抱きたい。もっと彼女の全てを味わいたい。まだ知らぬセックスの快楽を甘受したい。先輩には本当に申し訳ないと思うが、偶然降って湧いたこの運命の悪戯で、僕は男になるつもりだった。
「よし、準備しろ。」龍二がそういうと手下は立ち上がり、無言で僕達に下がれと合図する。わけが分からぬまま僕達は部屋の端へと下がった。もう一人の手下が柱に設置された隠しボタンを押すと…
なんと畳が左右に割れ始め、部屋の中央に大きな四角い穴が空いた。僕はロボットでも出てくるのかと思ったが、果たして現れたのは信じられないが大きくて丸いピンクの回転ベッドだった。それは和室には見事なまでに不釣り合いな代物ではあったが、ロココ調のデコラティブな装飾が施され、おそらくは相当高級な一品だと僕は推測した。「やだ…可愛い…」先輩が思わずつぶやいた。気付くと天井からも七色の光を放つスポットライトやミラーボールが降りてきている。
僕は毎週行っている公開セックスなど実際はヤクザの大ボラで、僕達を陥れるための方便ではないのかと勘ぐっていたのだが、この設備と準備の手際のよさを見る限り、どうやら本当にそれは毎週執り行われているようだ。
「いつでも始めてくれ。」
親分がそう促した。こうなったら物怖じしてても仕方がない。僕は勢いよく先輩を抱き抱えた。突然のお姫様抱っこに驚いた先輩は「ダメだよ!下ろして!私…重いし…新城君まだ腕しびれてるんでしょ?!」
なんて騒いではいたが、ちゃっかり両の腕は僕の首にまわし、まんざらでもなさそうだった。
僕はもう一度しっかりと先輩を抱え直すと彼女の美しい顔をジッと見つめた。「シン…ジョウ…君?」「行きましょう、先輩。」顔を真っ赤にして彼女も「ハイ…」とうなずく。
僕達は大きくて丸い、ピンクの舞台へと上がった。
ベッドの中央に先輩を寝かせた。なるほど柔らかく心地よいベッドだ。しかし、シーツや枕の類は一切ない。つまりは僕達がその身を隠すものはひとつもないということだ。やはりここは眠るための場所じゃない。見せてはいけない行為を見せるための場所なのだ。
先輩はベッドに仰向けに寝転び、優しく落ち着いた笑顔でジッと僕を見ている。覆い重なった僕も先輩をジッと見続けていた。
「先輩…奴等に演技は通じません。僕達は本気で交わらなくちゃならない。その全てを、彼等に晒す覚悟はありますか?」
先輩の手が伸びて、僕の頬に触れる。
「平気だって言ったわ。貴方と一緒なら。」
「先輩…」
彼女は黙って目を閉じた。
…さて…。頬を赤く染めて目を閉じている彼女を見つめたまま、僕はどうにも戸惑っていた。
『…キスして…いいのかな?…』いままで何度となく見たアダルトビデオや、ベッドシーンのある一般映画でさえ、男女の愛の営みの始まりはやはり熱いキスからだったじゃないか。しかし先輩のあんなところやそんなところまでもバッチリ見てしまい、先輩にあんなことや、そんなことまでしてもらっても、結局のところ僕達は恋人でもなければ夫婦でもなく、果たしてそんな二人が愛の口づけを交わしていいものなのか?…いや、もちろん僕は全然いいのだが、先輩はどう思うかなぁ…。こんな彼氏でもないブ男にその唇を奪われるなんて、やっぱりイヤだろうなぁ。
ヤクザ達はともかく、先輩をこれ以上待たせてはいけない気がした。
『なんとなく触れるか触れないかのような感じでそれっぽく済ましたあと、ササッと次にいこう』
さっき先輩に演技は通じないなんていいながら、僕は早速猿芝居を打とうとしていた。演技経験なんてまるでない、しかも童貞の癖して。
先輩の顔が近づいてくる。いや実際には僕が近づいているのだが。見れば見るほど美しい完璧なバランスで成り立っている顔だ。こんな美女に子供の落書きのような顔の俺が…キス?不釣り合いは覚悟の上でいよいよそれに挑んでみる。僕は冷や汗をかき、震えながら、タコのように口をすぼめた。心臓がはり裂けそうになりながら、先輩の唇にチョンと触れた。
「あんッっ!…」先輩の突然の喘ぎに慌てて身を引く。先輩の顔はますます赤らんで、口を小さく開けていた。
めくれた上唇が艶めかしい光沢を帯びている。開いた口の奥には小さく白い歯が行儀よく並び、そのさらに奥には
ピンク色の濡れた舌が覗いた。
「もっ…もう一度…。もう一度だけ。でないと格好つかないもんな。」自分に都合のいい言い訳を作り、僕は再び先輩の唇に迫った。今度は前よりも少し強く密着させ、その唇のやわらかさまで感じとることが出来た。よ、よしもういいだろう…そう思ったとき、「うぅ〜ん…」そう甘く囁いてなんと彼女の方からさらに強く唇を押し付けてきた。激しく動揺してまた身を引く。「はぁ〜ん…」先輩は桃色の息を吐いてさらに大きく口を開けた。歯や舌にネットリと唾液が絡みついている。それから目を、いや口を逸らすのは不可能だった。僕は三度、先輩へと吸い込まれた。今度はこちらも口を少し開けて挑んでみた。またさっきから焦ってずっとお互いの鼻が当たるので、顔を少し傾けた。ヌチャッ…。明らかに湿った音がした。繋がった二人の唇の間に唾液の潤滑油が染み渡る音。
「う…ウンっ…」先輩の発した声が直接僕の口内から鼻腔へと抜け、僕の鼓膜に、脳に突き刺さる。さらに強くお互いは唇を押し付けあう。僕は興奮と不安に震えながら、恐る恐る舌をのばした。どうやら彼女も同じことを考えていたみたいだ。出会い頭に先と先がぶつかった僕等のベロ達は驚き、最初は遠慮がちだったが、そのうちまるですぐ打ち解けて遊び出す砂場の子供みたいに、口内ではしゃぎ、じゃれ合い始めた。
「うんっ…チュプッ…アアん…ジュポッ」
もうその声、その音をどちらが発しているのかわからないほど二人の唇は深く重なり、べロはもつれるほど絡んで、ツバはトロトロに混ざりあっていた。長く熱い口づけをさんざん交わしたあと、一旦先輩の唇に別れを告げる。引き離した唇と唇からは唾液が長い糸を引いた。
その全てが終わったあとで僕は初めて気付いた。これが僕のファーストキスだったことに。
僕の、初めてのキスの、相手が、先輩?夢でも見てるんじゃないだろうか?実は僕はもうヤクザに叩っ斬られてとっくに死んでいるのかも?先輩とファーストキス。しかも生半可な奴じゃない。いきなり階段5段飛ばしぐらいの大人のキスだ。どんなに複雑な事情で、どんなに抜き差しならない状況の下であったとしても、僕のファーストキスの相手はあの一ノ瀬先輩。この事実は揺るがない!揺るがないぞぉ!!先輩は!先輩は……まぁ、まず200パーセント初めてではないだろうな。いつ、初キッスをしたのかな?相手はどんな奴だったんだろう?…ハッ!?いかん、いかんっ!今はこの真実をもっとよろこべっ!!そしてこの後も……えっ?後も?僕はそこで更に重大なことに気付いてしまった。このまま何事もなく進めば…僕の初体験の相手も…せ、ん、ぱ、い…だよな…。
うん…だよな……。