「それじゃあ、巡回に行ってきます」
エアコンのきいた室内から出た瞬間、オレは顔をしかめた。外気温と湿度がやたら高く、立っているだけで汗が噴き出すほどだったのだ。
「こんな時間なのに、外はまだ三十度を超えてるのか。……そりゃ、暑いはずだ」
時計の針は、深夜の十二時を指しているというのに、まるで太陽が照りつける真昼のような蒸し暑さである。
「……暑い。くそ暑い!」
そう独り言ちると、オレは自転車に跨って、うだるような暑さの真夜中の町内へと走り出した。自転車に乗って、風を肌に受けてもジワリとにじむ汗が、下着を貫通して制服の腋やら背中やらを黒く染めていく。何もかも放り投げて、家でシャワーを浴びたい気分だが、職務を途中で放棄するわけにはいかない。そんなことをすれば、お歴々の先輩方に、『これだから最近の若い奴は……』となじられるだけだ。オレは気合いを入れなおすと、ペダルを踏み込む足に力を込めた。
***
自転車のライトが照らし出す夜道に、昼間ほどの交通量は無い。人々はとっくに眠りについている時間であり、田舎ではありがちな路上を走り回る暴走族なんかの排気音も今日は聞こえない。耳に入ってくるのは、コンビニや二十四時間営業のスーパー、セルフのガソリンスタンドの明かりを太陽の光と勘違いした蝉の大合唱くらいのものだ。早く快適なハコ(交番)に戻りたいと逸る気持ちをどうにか抑えながら、深夜でも人が集まる繁華街を慎重に走り抜け、やがて住宅街に差しかかった。
日本家屋や輸入住宅、節操の無い大小も様々な住居が混在するこの一帯に入ると、一気に灯りが少なくなる。ぽつんぽつんと点在する街灯は、オレみたいな夜の町を見て回る人間にとって、無くてはならないものだ。昼間であれば、ここで生活する住民たちが活き活きとした生活風景を形作っているのだろうが、今は漆黒の闇に包まれている。
(……相変わらず、この時間は人通りが無いな)
オレは自転車の速度を緩めながら、そう思った。まあ、夜道を徘徊する人間がいなければ犯罪が起きようも無いわけで、無用なトラブルが起きないという点では悪いことではない。
そんなことを考えながらペダルを漕いでいると、どうやら気が緩んでしまったようで、膀胱も緩みだしたようだ。夕方がぶ飲みした麦茶と、眠気覚ましに飲んだコーヒーが今頃効いてきたらしい。
(しまった、トイレ……)
幸いにも公園の前を通りかかったところだったので、オレは自転車を停めて公衆便所へと駆け込んだ。我が町は田舎だが、ここのトイレは整備も掃除も行き届いていて、いつも清潔なのが有り難い。
普段から大のほうで用を足す癖がついていたオレは、一番手前の個室に入るとベルトを緩めて腰を下ろした。
(は~、スッキリした。ん……?)
小便を終えて便座から立ち上がろうとしたとき、オレは隣の個室との間の壁に十五センチ四方の四角い穴が開いているのに気付いた。子供がいたずらで開けた穴か? いや、この穴の大きさ、この高さは──。
(まさか、噂に聞く『グローリーホール』では──?!)
心臓がバクバクと焦燥感で高鳴る。突然の告白になるが、オレ、新條勇介(しんじょうゆうすけ)はゲイだ。齢二十五。両親が体格が良かったおかげで、オレもまた、背丈のある立派なガタイを持った男へと成長を遂げた。鍛えれば面白いほどに筋肉が付き、学生時代は柔道部の主将を務めたりもした。自分で言うのもなんだが、女にもモテる。
だがオレの性的嗜好は、一般的な男性とは少々異なる部分があった。オレは、女よりも男に性的興奮を覚える人間だったのだ。そのことに気付いたのは高校の頃で、当時の彼女だった同級生の女子とキスしている最中に『何か違うな……』と思ってしまったのが始まりだった。それからも何人かの女性と付き合ってみたが、やはりしっくり来る相手は見つからずじまいで、大学に入る頃にはすっかり自分は同性愛者なのだと自覚したのだった。
しかしそんな性癖、警察官になってしまった今、誰にも打ち明けることができない。オレは日々、悶々とするなか、自分の性欲を発散するべくインターネットでゲイ向けのアダルト動画を漁り続けていた。
そんなときに見つけたのが、とある有名な動画投稿サイトに上げられた一本の動画だった。その映像は、『グローリーホール』と呼ばれる公衆便所を使った、男同士の性行為を記録したものだった。
個室と個室の間の壁に空いた穴から、ニュッと顔を出すチンポ。顔も見えない相手の肉棒を、男が嬉々として口に頬張る光景。オレはその映像で、生まれて初めて、気を失いそうになるほどのオーガズムを経験したのだった。
それ以来、オレは『グローリーホール』関連の同性愛者向けのアダルトビデオや投稿動画を漁っては、自分の性的指向を満たしてきた。
──そして今! そんなオレの目の前に今、噂に名高い『グローリーホール』がある!!
有頂天になったオレだったが、それも束の間、すぐにその熱は冷めていった。こんな深夜、しかもこんな片田舎の住宅街の公衆便所に、好き好んでやってくるような男などいるはずがない。しかもオレ好みのガチムチマッチョで、ズル剥けチンポの持ち主となれば天文学的数字の確率だろう。それでもオレは諦めきれずに、しばらくの間、その空虚な穴を凝視し続けた。
一分、二分……。五分ほど経ったところで、ようやくオレは重い腰を上げてその場から離れようとした。
だが、次の瞬間。ボロン──!! そんな音が聞こえたような気がした。百パーセント幻聴に違いないが、それでもオレは反射的に音のしたほうに顔を向けた。すると、暗闇に包まれた壁の穴から、巨大な塊が顔を出したのだった。
(うあぁ……)
でかい。デカすぎる。子供の拳ほどはありそうな肉棒。その表面には、うねうねとグロテスクなまでの血管が這っていて、まるで別の生き物のようだ。おまけに黒々と淫水焼けしたそれからは、鼻を摘まみたくなるようなイカ臭い匂いが漂ってくる。労働者が放つ、特有の汗臭い雄の匂い。普通の人間なら嫌悪してしまいそうなその香りが、オレの鼻孔を通って肺に充満していく。それだけで、オレの脳天から爪先にかけて、稲妻のような刺激が走り抜けていった。
「は……あぁ……♥」
情けない声が、オレの口から漏れる。心臓の鼓動が激しくなるにつれて、全身から汗が吹き出し始める。同様にオレのチンポの先から溢れ出した我慢汁が、湿ったトイレの床へと垂れ落ちて糸を引いた。もう我慢できない。いや、我慢する必要などない。この誰にも見られない空間でなら、オレは警察官である前に、一人の雄として振る舞うことができるのだから!
ズボンとパンツを一緒にずり下げて乱暴に放り捨てると、オレは下半身だけ丸裸になった。そして目の前の『グローリーホール』から突き出た、凶暴な男根にむしゃぶりついた。
(ふごぉ……、でけぇ)
その巨大なイチモツは、口に含んでもなお半分が露出するほどだ。歯を当てないように気をつけながら、口を窄めて顔を前後に動かすと、ジュポジュポという淫らな音が便所の中に響き渡る。
(うまい……、うますぎる……♥)
これまでに口にしてきた、どんな食べ物よりも美味だ。口を動かすたびに、脳髄が痺れるような苦みと、濃厚なえぐみが口の中いっぱいに広がり、飲み込めば胃袋から腸へと熱く臭くて濃い男汁が滴り落ちていくのを感じる。鼻の穴から吸い込む空気すらも、その悪臭にまみれて思考をくらくらさせた。壁の向こうから、快感に満ちた野太い雄声と荒い吐息が聞こえる。
「あ~……、いいぜ、兄ちゃん。その調子で頼むわ♥」
酒焼けしたようなバリトンボイス。声までもオレ好みだ。気をよくしたオレはさらに激しく顔を動かすと、口いっぱいに頬張った男根に舌を絡めて舐め上げた。
「お゛っほっ! そうそう、その調子だ。う~ん……、たまんねぇなッ!!」
オレの舌使いが気に入ったのか、男は腰の動きを速めてきた。あまりにもデカすぎるチンポが、オレの喉奥を激しく叩く。口の中の空間がすべてチンポで埋まり、呼吸ができなくなる。
(ぐ……ぐるじいっ!!)
苦しければ苦しくなるほど、オレの肉体は快感を覚えてしまい、チンポは震えて先走りを垂れ流す。息ができない苦しみと窒息する悦びに、オレは涙を流して身悶えた。死ぬっ……、だがこんなヘビー級のチンポを咥えたまま死ねるなら死んでもいいっ!!
「あ~、そろそろイきそうだ……ッ! 兄ちゃん、全部飲めよ!!」
男がさらに激しく腰を動かし始めた。そして──。
──ドピュッドピュッ! ビュルルルーーッ!!
男のチンポがひと際大きく震えたかと思うと、次の瞬間にはオレの喉の最奥に熱い粘液が発射された。その勢いは凄まじく、オレは思わずむせ返りそうになったが、男が放つ大量の精液がそれを許さない。オレは鼻腔から精液を逆流させながらも、ごくりごくりとそれを胃の奥へと落とし込んでいった。
(あっ……、ああ゛ぁっ!!!)
喉から食道を伝って胃袋へと熱いザーメンが落ちていくその感触に、オレは全身を硬直させて絶頂に達した。反り返ったチンポからは大量の白濁液が飛び出し、湿ったトイレの床と壁を汚していく。
「ふぅ、出した出した……ああ゛ッ?!」
快感に満ちた男の声が一変し、奇妙な悲鳴とともに隣の個室からドスンという地鳴りのような音が響いた。気持ち良さのあまり腰を抜かしたのか? そう思ったオレは、壁に空いた穴から隣の個室を覗き込んだ。すると、そこでは股間を丸出しにしたままの大柄な男が、ぐったりとしたまま股間から噴水のようにザーメンを放出し続けていたのだった。
*
「あ、あれ……?」
いつの間にか、気を失っていたらしい。体を起こして目を擦ると、俺はキョロキョロと周囲を見回した。
「俺はいったい、ここで何を……?」
そこまで呟いてから、ハッと思い出した。そうだ! 俺は個室の壁に空いた穴から、チンポが出ているのを発見して──。それがあまりにデカマラだったから、思わず口に含んで……。
(んん゛っ……?)
意識が覚醒していくにつれ、体が違和感に包まれていく。体を見下ろすと、眼下に広がっていたのは赤銅色の肌。細マッチョでくっきりと割れていたはずの俺の腹筋はなんだかデカくなり、むっちりとした脂肪に覆われていて、溝がうっすらと浅くなっている。腕もうねうねとした血管が浮き出た、明らかにさっきまでの俺のモノではない、丸太のようにぶっとい前腕へと変わっている。二つの掌の皮膚はまるでグローブのように分厚く、あちこちにタコができていた。
「なッ……、なんじゃこりゃあァー!!」
俺は思わず叫び声を上げた。その口調も乱暴で、野太くドスの効いたモノに変わってしまっている。掌をどけると、そこには自分のモノよりも一回り以上は大きい、真っ黒に淫水焼けしたグロテスクなチンポがぶら下がっていた。違う! これは俺のチンポじゃない!! そう認識した瞬間に、俺はこの肉体の持ち主の記憶を走馬灯のように追体験することになった。
──中卒で土方の職についてからは、肉体労働に明け暮れる日々。脂ぎった親父ばかりの職場で働くうちに、いつしか性欲のはけ口として扱われ、俺はオッサンどものチンポに向けて尻穴を差し出すようになっていた。
ガキの頃は、女とセックスするのが男として当然だと思っていた概念が崩壊し、ケツの穴をデカマラで掘られることこそ、雄の喜びだと脳が認識してしまうまでに俺は調教されてしまった。挙句の果てには社長にまで、太く長いデカチンポで犯されながら、俺は何度もケツを掘られることへの快感を刻み込まれたのだった。
「──ぐっ……、うおおッ!!」
自分のモノではない記憶の映像に混乱して頭を振ると、俺は個室の扉を開いてフラフラと外に飛び出した。同時に隣の個室から出てきた男と、視線がかち合う。【オレ】だ……。目の前に鏡が現れたのかと思うくらいに、【オレ】と同じ顔をした男──、【新條勇介】がいる。その驚いた表情、それに身長や筋肉の付き具合まで、いつも風呂上りに鏡の前で眺めていた肉体と瓜二つ。
気が付けば俺は自分の意思とは関係なく、【勇介】に向かって体中から脂ぎった汗を噴き出しながら突進していた。そして目の前の彼に抱き着くと、むせ返るような雄の匂いを放つその首筋に舌を這わせた。
「あ、あなたは──、あ゛っ……♥」
【オレ】の低い声、【オレ】の男らしい顔、【オレ】の均整のとれた体、それに制汗剤混じりの【オレ】の体臭。【勇介】が情けない喘ぎ声を上げるのも構わず、俺は彼の首筋を舐め回し続けた。快感が電撃のように全身を走り抜ける。俺は彼を担いで洗面台に乗っけると股を開かせ、ヒクヒクと震える彼のアナルにチンポをあてがって、相手の顔を覗き込んだ。肉体が入れ替わったことに驚いているのか、その顔は紅潮し、瞳は不安げな形を象り潤んでいる。俺はそんな彼の唇を奪うと、強引に舌をねじ込んで舐め回した。
「んっ♥ ん……、はむッ♥」
さっきまでは自分のモノではなかったデカい体が俺のモノになり、かつての自分の肉体を求めて、脳内でドーパミンがドバドバと放出される。己の全身から放たれる悪臭とも言うべき汗の香りが、俺の脳をビリビリと刺激して快感を生み出していった。
「ん゛おぉぉッ♥」
俺は低い唸り声を上げて、一気に彼のアナルにチンポを押し込んだ。ブチュリという聞き慣れない音を立てながら、凄まじい締め付けが俺のデカマラを包み込む。あまりの快感に一瞬意識を失いかけたが、必死でそれを繋ぎ止めた。
どうやら俺の竿は先走りを大量に垂れ流しているようで、それが潤滑油になって雄膣の中はぐちゃぐちゃだ。初めて感じる肉壁の感触。だが、この肉体には経験済みの記憶がある。俺は彼の両足を抱え上げると、そのまま激しく腰を振り始めた。
「あ゛っ、お゛っ♥ お゛っ……!!」
【勇介】の喉から、唸るような喘ぎ声が漏れる。【オレ】の声だ。他人の耳を通して聞く、【オレ】のうっとりとしたような艶めかしい声。俺はその耳当たりの良さにさらに興奮して、腰の動きをさらに速めた。
「お゛っ♥ お゛ぉっ!! イくぞッ! お前の中に……、俺のドロドロのチンポ汁、ぶちまけるぞぉおぉッ!!」
かつての自分のアナルの最奥目がけてズボズボとデカマラを突き刺した瞬間、かつてないほど大量の精子が睾丸の中から解き放たれて、彼の中を満たしていく。同時に、【勇介】もまた激しいオーガズムに達して、全身を痙攣させながら、辺り構わず放水しまくった。
*
「「はぁ……、はぁあ……ッ♥」」
熱い息を吐きながら、俺たちは互いの目を見つめ合った。
「あなたは……、【俺】なんですよね?」
「おう。あんたも、【オレ】なんだよな……?」
互いに互いの身体をペタペタと触ると、洗面台に貼られたでかい鏡の前で横並びになって、俺たちは人並み以上のガタイをその中に映し出した。
俺の筋肉ムキムキのガチムチボディは、往年のプロレスラー並かそれ以上の迫力だ。斜向かいを見ると、さっきまでの【オレ】が、俺と同じように不思議そうな顔で新しい自分の全身を舐め回すように見回している。そんな彼の肉体を見て、俺はチンポをギンギンに勃起させてしまっていた。今のこの肉感たっぷりのめちゃくちゃエロい身体よりも、入れ替わる前の自分の身体のほうがなぜか何倍も興奮する。
【勇介】も同じように思ったのか、チンポを硬くしながら困惑した顔で俺のほうを見た。
「ああ……ッ! もう我慢できねえッ!」
そう叫ぶと、俺は着ていた服を剥ぎ取って床に投げ捨てた。途端にムワッとした雄の臭いが鼻を衝く。浅黒い肌に汗が滲み、官能的な陰影を作っている肉体は、とても40代のオヤジのものとは思えないほどに筋肉が盛り上がり、ガタイも良すぎるくらいにいい。弄りすぎて真っ黒になった乳首の色もたまらない。だが目の前の──、【新條勇介】の肉体は、俺の脳みその中をぐちゃぐちゃに掻き回して、理性を吹き飛ばしてしまうほどの高揚感をもたらしてくれる。
鼻息を荒くして向かい合うと、俺たちはどちらからともなく互いのチンポを握り合って、シコシコと扱き始めた。
「んっ♥ くっ……」「あ゛っ……! はあっ♥」
俺たちは堪らずに声を上げていた。他人の手でシコられるのってこんなに気持ちいいのか? それとも、身体が入れ替わったからか? ともかく、腰が抜けてしまいそうになるくらいに気持ちいいッ!!
そんな俺の感じている快感が、そのまま相手にもフィードバックされているかのように、目の前の彼もまたヨダレを垂らしながら表情を蕩けさせている。きっと俺も同じ顔をしているに違いない。
唇と唇が近づいて触れると、俺たちは貪るように舌を絡め合った。互いのチンポからは先走りがダクダクと垂れ、それに合わせたように自然と手を動かすスピードも速くなっていく。
「ん゛っ♥ お゛っ! イくッ!!」
そう叫んだのはどっちだったのか。俺たちはおもむろにチンポから手を離すと、固く抱き合い、ヌルヌルに濡れそぼった肉棒同士を激しく擦り合わせた。硬い腹筋の間で挟まれた二本のチンポから同時に精液が噴き上がり、俺と彼の腹筋にべっとりとした白濁液を付着させる。
「「はあっ……♥ はあぁっ……」」
「そ……そろそろ、ハコに戻らないと……。巡回の途中ですし」
「ん、そうか……。そういえば、そうだったな」
俺たちは余韻に浸っていたが、互いに理性を取り戻すと体を離した。うっかり忘れていたが、たしかにさっきまでの【オレ】は仕事中だった。肉体が入れ替わってしまった今となっては、自分が警察官だったことすら遠い過去のようだ。
「あの、このことは……」
「ああ……、やっぱり秘密にしておくか。どうせ身体が入れ替わったなんて他人に話しても、頭がおかしくなったって思われるのがオチだろうよ」
最後に軽くキスを交わすと、俺たちはそれぞれの服を身に着けた。泥で汚れたニッカポッカを穿き、汗がたっぷりと染み込んだ長袖のTシャツを着ると、ベストに袖を通した。初めて着るはずなのに、恐ろしいくらいにしっくりとくる。鼻腔を突くような雄臭さにうっとりとしながら、俺は目の前で水色の警官服に着替える【オレ】を見つめていた。そこにはどこからどう見ても、つい先ほどまでの【オレ】がいる。
──俺が、【オレ】ではなくなった。
その事実に、俺の頭の天辺から爪先までを、電流のような快感が駆け巡る。興奮のあまり、飛び付いて彼の制服をひん剥きそうになるのをどうにか抑えると、俺たちは連絡先を交換して公衆便所をあとにした。
*
公園のトイレでの出来事から一か月──。
あれから何度も『グローリーホール』の空いた個室に通ったが、状況が進展することはなかった。当初は互いの肉体が元に戻るようにと、入れ替わったときのように、あの穴から出した俺のチンポを勇介にしゃぶらせてみたり、その逆に穴から出た勇介のチンポを俺が口に含んで、同時にザーメンをぶっ放してみたりもしたが、効果が現れることはいっこうになかった。
今や【オレ】の肉体に完全に馴染んでしまった勇介は、正真正銘【新條勇介】の肉体の持ち主として、警察官としての日々を滞りなく過ごしている。そして俺もまた、この肉体──、土方親父の【伊熊修造(いくましゅうぞう)】として日々の生活を当たり前のように送っていた。
あのトイレでの一件以来、俺たちは頻繁に連絡を取り合い、互いの体を貪りあった。おそらく一度入れ替わってしまった肉体同士では、もう二度と『入れ替わり』は起こらないのだろう。
二人ともそれを薄々と感じながらも、初めて味わう未知の快楽に抗うことができずに、体を重ねてよがり狂った。顔を合わせれば自然と互いのチンポに手が伸び、しごき合う。そんな毎日が続くのだと、そう思っていた。
しかし、いつしか俺たちの中で、身体が入れ替わったという非日常的な出来事は、徐々に過去の思い出へと変わっていった。連絡の回数もどんどんと減るようになり、俺たちは次第に会うこともなくなっていった。
そんなある日のことだ。ふと、あのときの刺激が恋しくなった俺の足は、あの公衆便所へと知らず知らずのうちに向かっていた。相変わらず掃除の行き届いた小便器でとりあえず用を足し、洗面台に備え付けられた鏡に向き合う。
映っているのはあの日から毎朝見ることになり、もはや見慣れてしまった、熊のような髭面のゴツいオッサン。魅力に溢れた顔にガタイ。ちょっと前の【オレ】なら、十分満足するに値する肉体だ。
──けれども、我慢ができない。新しい刺激が欲しい。あの日のようにまた……、もう一度、別の人間になってみたい。
そう決意した俺は、口を開けたように扉を開いて待ち構える個室へと足を踏み入れた。肉体が入れ替わってから、何度もチンポを挿入した穴。だが今日は、その先に誰が待っているのか、それが分からない。
ゴクリと喉を鳴らし、興奮で胸を高鳴らせながら壁に体重を預けると、俺はチンポをひくひくと震わせて待ち構えた。
誰も来ないかもしれない。それでもこの穴にチンポを通していると、極限にまで勃起したチンポの先端から湯水のように先走り汁が溢れてくる。
ふうふうと息を荒く吐きながら片頬を壁に擦り付け、まだかまだかと耳を便所の入り口へとそばだたせていると、誰かが入ってきた音が耳に飛び込んできた。
「ッ!!」
思わず叫びそうになるのを堪えながら、俺は人の気配がする方向へ意識を向けたまま立ち尽くしていた。全身が震え出すような興奮が、俺の肉体を支配している。どくんどくんと鳴り響く心臓の音が、個室の外まで漏れ出しているんじゃないかと心配になるほど高鳴り、俺はひときわ大きく穴に突っ込んだチンポを震わせた。
舐めてくれ、俺のチンポを。その舌でしゃぶってくれ……。そう願いながら壁の向こう側の相手の動きに耳を済ませていると、ついに『ジュルルルッ』という唾液を啜る音が聞こえてきた。
「んん゛っ♥」
その瞬間、俺は壁に手を突くと、前後に腰を振っていた。まるで交尾をする犬のようにカクカクとデカ尻を動かし、ヘコヘコとチンポを前後させて、穴の向こうの相手に懇願する。
「はあっ♥ はっ……、あぁぁッ! 頼むッ!! もっと……、もっと俺のチンポをしゃぶってくれぇええぇええッ!!」
断末魔のような俺の野太い喘ぎ声が便所全体に響き渡ると、その声が合図になったかのようにますます穴の向こう側にいる人間の舌技が巧みになっていく。亀頭を口に含まれているというのに、裏筋を舌で舐め上げられる。カリ首に絡み付くように唇を窄められると、俺の我慢はすぐに限界に達してしまった。
「お゛っ♥ お゛ぉっ!! イくッ!! イ゛っちまうぅ゛ッ!!」
俺がそう叫ぶと、先端を温かく包み込んでいた口内がギュッと締め付けてきて、まるでバキュームフェラのようにチンポを吸い上げた。こんな強烈な快感は初めてだ。ああ……ッ! これは最高すぎる……ッ!!
「お゛っ、おぉ……ッ! お゛ぉぉぉぉぉ……ッ!!」
獣のような雄叫びが口から漏れて、壁に上半身を預けながら俺は尻の穴を固く締めた。ヨダレが止まらない。頭が真っ白になり、あまりの快感に膝がガクガクと震える。これまでのセックスで経験してこなかったほどの絶頂が、脳を破壊するのではと思うほどの快感を伴って、俺の身体を走り抜けた。睾丸が忙しなく上下運動を繰り返し、精子を次から次へと産み出しては、尿道を通り抜けて外へと放出する。
「あ゛……ッ! と、止まらんッ……、ああ゛ぁ……ッ!!」
俺は壁に手を突いたまま、脳内を猛スピードで駆け巡る絶頂の余韻に身悶え、ガクガクと全身を震わせた。次第に意識が遠のいていく。
再び起こるのだ、肉体の入れ替わりが──。
気を失いそうになりながらも、俺はその未来を想像しながら、最後の一滴までザーメンを迸らせた。
***
「ん゛っ……」
口内に広がる生臭い匂いで、オレは意識を取り戻した。全身が気怠くてたまらない。どうやら、今回も『入れ替わり』は成功したようだ。両手を広げて眺めると、褐色に日焼けして一本一本の指が太くてタコだらけの【修造】のモノとは違う掌が目に映ったが、それでも常人と比べると十分に分厚くて大きな男らしい手だ。両肩や両腕、下半身や股間を見回してみても文句のつけようがない、男らしい肉体がそこにはあった。運がいい。そう思ったオレは、ふと誰かが目の前にいるのに気づいた。
「「んんっ?!」」
狭い個室内で、まったく同じ声質の驚きの声が重なる。
「「おいおい……、マジかよ……」」
互いの裸体を眺めながらそう呟くと、オレたちは呆然とした表情で見つめ合った。体が入れ替わってからまだ鏡の前に立っていないので正確には断言できないが、体の大きさ、筋肉の付き具合、肌の色、それにふてぶてしいチンポの大きさなど、どう見てもそれは同じ見た目の人間である証左だと思わざるをえなかった。
オレたちは同時に首を傾げると、ゆっくりと手を伸ばして露出した互いのチンポを握り合った。
「「んお゛ッ!!」」
チンポを覆う掌の感触。その温もりに思わずゾクゾクと背筋が粟立ち、よがり声が喉を突いて飛び出した。それはオレ自身の声帯から発されたモノであるはずなのに、まるで自分のモノではないように思えるほど、野太さと雄臭さの混じったドスケベな声だった。
「「お゛……っ♥ お゛ぉ……ッ! すげっ……!!」」
お互いのチンポを握ったまま立ち上がって個室から出ると、オレたちは鏡の前に立って、己の肉体と相手の肉体をじっくりと鑑賞した。肌は張り詰め、血管が浮き上がり、若さを象徴している。それにさきほども確認した通り、筋肉質でたくましさと力強さを誇示している、オレ好みのゴツい姿。そのガタイに相応しいデカマラが、ビンッと天井に向かって反り返って、先走りを垂れ流している。
そして驚くべきは、顔だった。五厘に刈り上げた坊主頭に、短い眉毛と鋭い目つき。肌の色もいい感じに日に焼けていて、無精髭を生やしているのにもかかわらず【修造】に比べれば、幾分清潔感があるように映る。
オレたち二人は、それらすべてが一緒だったのだ。瓜二つ、まるでクローン人間のように鏡の中の二つの肉体は、まったく同じ姿形をしていた。どうやら今回入れ替わった相手は、一卵性の双子だったようだ。しかもその二つの身体それぞれに、一つだった【俺】の魂が分かれて宿っているのだという考えに行き着いた。
「す、すげえ……ッ! こんなことがあるなんて……」
オレはそう呟くと、同じ顔をした相手を見つめて、ゴクリと唾を飲み込んだ。同様に目の前の男の喉仏も、上下に動いている。
「お、おい……、お前……」
そう問いかけられた瞬間、オレは相手の意図を瞬時に悟った。二人同時にニヤリと笑みを浮かべると、唇と唇が触れ合いそうになるまで顔を近づけ、反り返った同じ形のチンポを擦り合わせる。すでに我慢汁でヌルヌルになった肉棒同士が、ヌルッ、ニュルッと絡み合っては、裏筋をゴリゴリと刺激し合う。このまま、ことに及びたい。相手の気持ちが手に取るように分かるオレたちが目で合図を送り合っていると、ひときわデカい叫び声が聞こえてきた。
「『なッ……、なんじゃ』『こりゃあァー!!』」
扉の閉じた個室からドタンバタンと、何かが壁にぶつかる音が響いてくる。デジャブのような感覚を覚えたオレは口元をほころばせると、個室の扉を開いてやった。途端に倒れ込むようにして飛び出してきたマッチョな男が、便所の床に勢いよく倒れ込んだ。
「おい……、オッサン大丈夫か……?」
オレはそう問いかけると、床にへたりこんだ男に手を貸した。たくましい体つきで厳つい顔をした男は、オレの手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「『……あ? ああ……。悪ぃな』『……って、【オレ】じゃねえかッ!!』」
再び便所内にこだまするほどのデカい声を発すると、男はオレたち二人の顔をまじまじと見つめて驚愕の表情を浮かべた。
パクパクと口を開閉しつつ、確認するようにオレたちの顔を震える指先で差しながら何度も交互に見比べると、その分厚い掌で自身の頭を抱え込み、個室の壁に背をもたれかけながらズルズルと床に座り込む。おそらくその頭の中は、大量の情報を整理しようとして、てんてこ舞いになっているはずだ。
実際にオレの耳元にも、ブツブツと呟く【伊熊修造】の声が、しっかりと届いている。一つの肉体に閉じ込められた双子が、頭の中で論争をしているに違いない。
そんな姿を目にしたオレたち双子はなんだか楽しくなってきて、【修造】を抱きかかえると洗面台の上に乗っけて、二人がかりで優しくその肌の表面を愛撫してやった。
「「??!!」」
全身が過剰なまでにビクリと反応し、目を見開いた【修造】が信じられないといった表情でオレたちを見上げる。
「『なッ……!?』『お前ら、いったい何をッ?!』」
必死に叫ぶ声に答えるように、オレは彼の股間をまさぐってやった。蒸れて蒸れて臭くなった勃起チンポに、オレたち二人はゆっくりと舌を這わせる。
「「うおぉっ……、な、な、何しやがるッ!!」」
オレたちは、体を揺すってオレたちから遠ざかろうとする【修造】の、そのぶっとい両脚を力いっぱい持ち上げて左右に大きく開いた。
無防備になった淫乱なアナルが、オレたちの目の前に現れる。肉体交換以前にすでに解されることを何度も経験し、すっかり柔らかくなったその穴は、次の刺激を待ちわびるかのようにヒクヒクと蠢いていた。
「『……ま、まさかっ』『お、お前ら……』」
理解が及んだのか、【修造】の顔は見る見るうちに青ざめていった。かつての双子は犯すばかりで、犯される経験は今までなかったのかもしれない。そんな考えを頭に浮かべながら、オレたち二人は左右から、同時に彼のケツ穴にチンポを押し当てた。
「「ふぬおぉぉぉぉッ!!!」」
低音の嬌声が便所中に響き渡ると、オレたちは待ち構えたかのように口を開いたアナルに勃起チンポを突き立てると、一気に押し込んだ。ズブッ! ジュブブゥー!!
「「「「おお゛ぉっ!! あ゛ぁぁあぁァッ!!」」」」
あまりの気持ちよさに思わず声が跳ね上がり、オレたち四人は腹の底から咆哮した。肉棒を受け入れるようにすっかり解れきったその穴には、油断するとすぐにでも達してしまいそうになるほどの快感が待ち受けていたのだ。
「くおぉっ!! すげっ、……なんだこりゃぁっ!!」
「おいおいっ! オッサンのマンコ、すごすぎるぞぉっ!」
チンポが蕩けるような感覚を味わいながら、オレたちは同時に腰を振りまくった。極太のチンポ二本が突き刺さった【修造】のケツ穴は、見る間にグズグズのガバガバになっていく。だがそんな状況にもかかわらず、彼のアナルはオレたちチンポを咥え込もうと必死に吸い付いてきて、ひっきりなしに与えられる快楽を貪欲に貪ろうとしていた。
「うおぉっ! すげっ……すげえッ!」
「どうっすかッ、オッサン! 気持ちいいだろぉ!!」
「お゛ぉっ!! お゛ぉ……ッ!!」
オレの言葉に答えるように、オッサンは白目を剥きながら、大きく身を反らして喘いだ。もはや彼の口から溢れ出す言葉は意味をなさず、ただただ快楽に溺れた喘ぎ声を叫び続けるだけだ。
「ッあ゛ぁぁ~!! ひぐぅっ、もっ……、もうダメだァ!!」
そう叫ぶと【修造】はザーメンをぶち撒けてイッてしまった。ぶるんぶるんとチンポが暴れ回り、辺り構わずに精液のシャワーが迸る。同時にオレたちも限界を迎えて、下腹部を震わせながら彼の腹の肉を揺らすほどの勢いで種付けを行った。
──ドクンッ! ドクッ! ドプドプドプゥッ!!
若い雄の精力は果てしなく、丸々と太った睾丸から尿道へと送られた大量の精子たちが、【修造】のケツ穴の奥深くを容赦なく攻め立て、内壁に勢いよくぶちまけられる。その最中もオレたちは腰を止めることなく、何度も何度も彼の肉穴にチンポをねじ込んではザーメンを注ぎ込み続けた。
「あ……っ! あ゛ぁぁ……ッ!!」
【修造】の野太い声が便所内に響き渡ると、その体がビクンと痙攣した。そして次の瞬間、まるで糸が切れたようにガクリと力が抜けると、彼は意識を失ってしまった。
「……あれ? お~い、オッサン?」
オレはそう言って彼の頬をペシペシと軽く叩いたが、いっこうに反応がない。どうやら、あまりの快感に気を失ってしまったようだ。
「……ヤり過ぎちまったな」
「ああ……、仕方ねえって。こんなにも気持ちいいんだからな」
オレたちは顔を合わせてニンマリと笑みを浮かべると、互いのチンポを撫でながらゆっくりと立ち上がった。
目の前には、自分と瓜二つの男が立っている。少し人相の悪い顔、健康でたくましいガタイ、それにまったく同じ形をしたチンポ。オレたちは上から下へと舐め回すように視線を動かすと、最後に見つめ合い、唇と唇を触れ合わせた。
二人へと分裂した【オレ】。同じ肉体同士でまぐわうも良し。それに飽きれば再び『グローリーホール』を利用して、各々の肉体を別人の身体と入れ替えれば、再び新たな興奮を味わうことができるだろう。言葉を交わさずとも、オレたちは考えを一致させると、不思議なトイレをあとにするのだった。
(了)
以下、差分イラストです