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肉体取りゲーム

 十一月のとある秋の日。黄色く色づいた銀杏が、ひんやりとした風に葉を落とし始めるなか、K小学校の五年一組の教室では授業参観が行われていた。


 教室内には子供と大人が十四人ずつ。その情報だけならば、普通の授業参観だなと皆が思うだろう。しかし、今日行われているK小学校の授業参観では男女で教室が分けられ、男子生徒は父と同じ教室で、女子生徒は母と同じ教室で授業を受けることになっていた。

 小学五年生の男子生徒、遠矢英一(とおやえいいち)はいつも以上に硬い表情の父親が隣に座るのをちらりと横目に見ながら、教室内の空気に違和感を覚えていた。何がおかしいかはうまく言えないが、自分のいるこの空間が『何かおかしい』、そう彼の直感が囁いている。そしてそれは英一だけではなく、教室内の誰もが感じていた。


 おそらく教壇に立っている担任の井上速人(いのうえはやと)も、この表現しがたい空気を肌で感じているのだろう。普段からどこか頼りなさそうな雰囲気を持った彼の表情は、明らかにいつもより強ばり、授業の開始を宣言してから今まで一度も笑みを見せていない。癖のある黒髪をやたらいじったりしているのも、おそらくこのなんとも言えない空気感のせいだろう。ただただ居心地が悪い。それだけで授業を──、しかも授業参観を切り上げるという選択を取れないという苦痛に、彼は顔を顰めるしかなかった。



***


 どうにかこうにかといった様子で、速人と生徒たちは授業に集中し、あと少しでチャイムが鳴るというところまできた。子供たちは頻繁に教科書と黒板、掛け時計へと視線を移動させ、大人は大人で子供たちの勇姿に目をくれるのもそこそこに、チラチラと腕時計に視線を送っている。そしてついに、時計の針はチャイムが鳴る五分前を指し示した。あと少し、もう少しでこの息の詰まるような時間が終わる──。


 教室内にいる全員がそう思った瞬間、黒板の上に備え付けられたスピーカーから聞き覚えの無い謎の声が発せられた。


『これから【肉体取りゲーム】を始めます。大人のみなさんは椅子に座り、生徒のみなさんはその内側に立ってください』


 AIで生成したかのような感情のこもっていない声が響くと、教室内はしばし沈黙に包まれ、子供たちは何が起きているのか理解できずに周囲の友人たちと顔を見合わせた。戸惑うのは大人たちも同様だ。英一は父親である康介(こうすけ)を見上げたが、彼の顔にも困惑の色が浮かび、同じように教師である速人や他の父親たちも皆一様に不安そうな表情を浮かべている。


「いったい、誰のいたずらだ?」


 英一の隣の席に座る生徒、佐伯裕介(さえきゆうすけ)の父親、寛治(かんじ)は誰よりも早く教室の扉に駆け寄り、力いっぱいその扉を引っ張った。漁師であり、身長188センチに体重120キロという重量感ある体格の彼の、日焼けで真っ黒になった顔がいきんだことで赤黒く染まる。最大限にまで力を込めた両腕の表面には血管が無数に浮かび上がっているものの、扉はぴくりとも動かない。


「ふんぐぐぐっ……!! お、おい! 扉が開かねぇぞっ! これっ、どうなってんだ?!」


 興奮のあまり、怒鳴り声を上げた寛治の視線は、担任教師である速人に向けられた。しかし彼は、必死の形相で唾を撒き散らす寛治に対して、ふるふると頭を横に振って分からないといった意思表示をしている。周りの父親たちも顔を曇らせ、ざわめきが広がっていく。


「み、皆さん、落ち着いてください。他の先生方に連絡を取ってみますので……」


 よろよろと誰を見るともなく視線を泳がし、教室内にいる全員に声をかけると、速人はスマホを手に取った。だが次の瞬間、今度は不気味な音楽がスピーカーから流れ出し、父親たちはまるで見えない手に操られているかのように机を端に寄せ、サークル状に椅子を並べると、その上に腰を下ろし始めた。


「どうなってるんだ、これは……?」


 父親の誰かが蚊の鳴くような声で呟いた。大人たちが困惑するなか、子供たちもまた不思議な力で椅子で作られた円の内側に並ばされ、みな不安げに立ちすくむ。すると、再びスピーカーから声が響いた。


『準備が完了しましたね? それでは【肉体取りゲーム】を始めます。椅子取りゲームはみなさんご存じですよね? これから流れる音楽が止まったとき、お子さんたちは椅子に座った大人の膝の上に座ってください。そうすればあなたたちの意識が大人の身体に入り、大人の意識があなたたちの身体に入ります。あなたたちが大人の肉体を乗っ取る。それだけです、簡単でしょう? 大人の皆さんはお子さんたちのためであれば、当然喜んで自分たちの身体を差し出すことと思います。それでは音楽スタート!』




 教室に流れ出した不気味な音楽に、康介の眉間には深い皺が刻まれた。


「……なんなんだ、この茶番は」


 康介が歯を食いしばりながら低く呟く。あらゆる力を込めて椅子から立ち上がろうとするが、全身が見えない鎖で縛り付けられたかのようになっており、ピクリとも動かない。消防士として働く彼は、寛治にはやや劣るが、それでも体全体にはしっかりとした厚みがあり、鎧をまとったかのような迫力の持ち主だ。そんな彼をもってしても、硬く引き締まった両腕や、ボリューム感のある太ももに血管が浮かぶだけだ。強く拳を握りしめた彼の表情からは、為す術のない理不尽さに苛立ちを隠せない様子が見て取れた。


 不意にしゃくりあげるような、か細い悲鳴が聞こえてきた。康介が目をやると、英一を含む子供たち全員が、彼らの意思とは裏腹に、大人たちの椅子の周りをぐるぐると回り始めていたのだ。その小さな顔には恐怖が浮かび、泣き出しそうな表情で父親たちの顔を見つめている。


「英一、落ち着け!」


 康介は必死に声をかけるが、息子の瞳は怯え、まるで彼の言葉が届いていないかのようだった。小さな足たちが幾重にも教室内に円を描き、足音と音楽が周囲に鳴り響く。小学生でも知っている、フォークダンスの定番曲、オクラホマミキサーだ。

 しかし流れるそのメロディーはところどころ音程が外れたり、テンポがずれたりしており、その不協和音が不快さと恐怖を助長する。まるでホラー映画のBGMだ。


 康介の額にはじっとりと脂汗が浮かび、その胸中では言いようのない不安が渦巻いた。きっとこのあとに何か良くないことが起きる。それは確信に近かった。彼以外の大人たちも、心の内は彼と同じなのだろう。子供たちを宥めるためにかけられる彼らの声が上ずっているのが、それを物語っていた。


「お前たち、止まれ!」と父親たちは何度も声をかけるが、小さな歩みは止まらない。


「あ、ああ……。お、お父さん」


 ついに子供たちの口から嗚咽が漏れ出した。その小さな瞳からはぽろぽろと大粒の涙が流れ落ち、彼らの頬を濡らしている。


「英一! 泣くな、大丈夫だ!!」


 もはや、その声が息子に届いているのかどうかも分からない。何が大丈夫なのか。息子が恐怖に泣いているのに、何もできない自分が歯痒い。いい年をした大人だというのに、息子につられて涙が溢れ出てきそうだ。とはいえこの音楽が鳴り止めば、おそらく彼らの歩みは止まるはず。早く止め、止んでしまえっ──!!


 康介がそう強く願ったとき、徐々にテンポを上げながらその音量を増していた音楽が鳴り止み、辺りが静寂に包まれた。音楽が突然途切れ、先ほどまで椅子の周りを不自然に歩かされていた子供たちが、ふらふらとした足取りで大人たちの前に立ち、その膝の上に一人またひとりと腰を下ろし始める。


 音楽が止まる瞬間、英一は言うことを聞かない肉体をどうにか動かし、周りの生徒たちを押し退け、康介の膝の上に飛びついた。全精力を使い果たした彼は荒く息を吐き、小さな手で自分の太ももを握りしめ、虚ろな眼で父親の顔を見上げる。不安を抱えた幼い息子の表情に、康介は息が詰まるような感覚に襲われていた。


(英一……、心配するな、絶対に大丈夫だ。父さんがついてる……)


 そう声をかけたかったが、口は真一文字に結ばれて動かない。隣に座る寛治も、膝の上に座った子を落ち着けるためにその頭に手を伸ばそうとしたが、その手が彼の言うことを聞くことはなかった。康介以外の大人たち全員の膝の上に座っているのは、彼のように自分の息子ではない。しかし、子を持つ親なら、幼い子供が己の膝の上で泣いているその姿を目にして冷静でいられるわけがない。『動け、俺の体よ動けッ!!』父親たちは皆、心の中でそう願った。


 その時、子供たちの体が、ゆっくりと大人たちの身体の中へと沈み込み始めた。まるで大人たちの肉体が泥沼で、子供たちの小さな体がそこに沈んでいくかのようだ。下半身が真っ先に沈み込み、膝から下が消えた。次に腰が沈むと、上半身もゆっくりと沈み込んでいく。


「う、うわぁぁぁっ!」 「きゃぁぁっ!!」 「ひぃぃっ!!」


 教室内に、空気を切り裂くような子供たちの悲鳴が響き渡る。しかし彼らの叫びも虚しくその身体はどんどん沈んでいき、ついには頭までもが分厚い胸板の中へと吸い込まれてしまった。そして小さな泡がぶくぶくと大人たちの肌の表面に立ち上り、それが消えたときにはすでに子供たちの姿はなかった。


「お父さ……!」


 英一が叫び声を上げようとした瞬間には、すでに彼の口元も、康介の身体の中へと静かに消えていた。子供たちの存在が、静かに大人たちの身体へと溶け込んでいき、教室内には再び重い静寂が訪れた。

 しばらくして、もたれかかるように椅子の背に上半身を預けていた大人たちの肉体が、ビクンと大きく跳ねた。呼吸の荒くなった彼らの顔は上気し、全身の筋肉が強張ると肌の表面に血管が浮き出て、ドクンドクンと脈打ち始める。


 それから間もなくだった。彼ら全員の肉棒がスラックスの中で勢いよく勃起し、精子を生み出す睾丸がキュッと縮んで、上に持ち上がったのは──。


──びゅるるるるる! ぶぴゅっ、びゅるうううううう!!


「「「ああ……! ああ゛あ゛ぁあぁぁッ……!!!」」」


 父親たちは、目を虚ろにして呻くように喘いだ。声の大小こそあれど、全員が快感を覚えていることはその表情から明らかだった。十四本ものチンポの先からどぷりどぷりと漏れ出るザーメンの量はすさまじく、濃密なそれは父親たちの毛深い両足を伝って、床へと流れ落ちていく。

 そして、彼らから吐き出された精液で大きな水溜まりができた頃には、皆意識を失っていた。




 西日の柔らかな茜色が窓から差し込み、ゆっくりと椅子や机の影を伸ばし始める。教室内で眠っていた全員が、その光の眩しさに誘われるように目を開き、次第に意識を取り戻していった。最初は何が起きているのか分からず、ぼんやりとした表情を浮かべていたが、次第にそれぞれの表情に驚愕と混乱が現れ始めた。


 大人たちは、自分の手足が異常に小さくなっていることに気づくと、恐怖と混乱に襲われた。康介もまた目を見開き、自身の体を凝視する。そこにあるのは、筋肉質で日焼けした自分の腕ではなく、細くてまだ幼さの残る腕だ。小さな指先を動かしてみると、その手が確かに自分のものだという実感を得たのと同時に、激しい動揺が彼の頭の中で巻き起こった。


「……これは夢か?」


 小さな声で呟いた康介は、自分の口から放たれた違和感たっぷりの声に愕然とせずにはいられなかった。隣でうずくまる【男子生徒】もまた、信じられないものを見るように小さな両手を見つめ、額に浮かぶ冷たい汗を感じているようだ。


「こんな……、馬鹿なことが……」


 呆然とした表情で、救いを求めるように彼は辺りを見渡したが、教室内にいるすべての【子供】たちは幼い顔を困惑に歪めるばかりだった。


「な……なんだこれ? おれ、どうなってんだ? え、なんで、【俺】がそこにいるんだ……」


 一人が疑問の声を上げると、周りでひざまずいていた【子供】たちも堰を切ったように立ち上がって、かつての自分の肉体の元へと駆け寄ってすがりついた。


「お前は誰だ?! 元に戻せよ、俺の身体!! 返せっ!!!」


 【子供】たちはそれぞれ大声を上げながら、【大人】たちの肉体に向かって喚いている。しかし、すぐにその声は止んでいった。十年と少ししか機能していない子供の脳味噌に、三十年以上もの記憶が濁流のごとく流れ込んだせいだ。その膨大な情報量に、脳が処理を拒んだのだろう。

 一人、またひとりと【子供】たちは白目を剥いて、床に崩れるように倒れていった。




 【子供】たちが皆、混乱に陥った挙句に意識を失った一方で、【大人】たちは彼らとまったく逆の反応を見せていた。英一は大きくなった自分の掌をじっと見つめ、そのごつごつとして骨張った感触に目を輝かせていた。指を動かすたびに力が漲り、背筋にゾクゾクとした快感が走る。


「見て! 体が大きくなっちゃった! すごいっ!!」


 誰かが嬉々として声を上げたのをきっかけに、他の【大人】たちも興奮を抑えきれない様子で、互いに体を見せ合い、歓声を上げ始めた。


 怪しい声で始まったゲーム。その結果、子供たちと大人たちの肉体は入れ替わってしまった。先ほどまで怯えていたことなどどこ吹く風で、大人の肉体を得た子供たちは鼻息を荒くし、落ち着きなく己の全身をまさぐっている。興奮するのも当然だろう。肉体の変化が一番小さな者でも二十センチ程度、変化が一番大きな者に至っては四十センチ以上も身長が伸びている。彼らにとってみれば、まるで憧れのヒーローにでも変身したようなものだ。


「うおお……っ! すげえ、これが僕の身体っ?!」


「オレってば、こんなにマッチョになっちまった!」


 口々に喜びの声を上げながら、自分の肉体を触りまくる【大人】たち。皆が皆たくましく男らしい肉体を手に入れたわけではなく、中には髪の毛が後退してしまった者や、ビール腹で毛むくじゃらになった者もいる。

 だがそんなことを悲観してしまう以上に、【入れ替わり】という現象に、まだ幼い彼らの性癖はいとも容易く捻じ曲げられてしまった。自分よりも圧倒的強者の肉体を手に入れるという、倒錯的ともいえるその体験は、彼らの脳に【入れ替わり】、【他者変身】、【融合】などという数多くの異常性癖を植え付けてしまったのだ。


 全身汗まみれになった彼らは、誰に言われるでもなく、身に着けていた授業参観用のかっちりとしたスーツやワイシャツを脱ぎ捨て始めた。そして、パンツ一丁になると、恥じることなく誇らしげにそれぞれの肉体の魅力を振りまいた。


「おらっ! お前ら見てみろよ、俺のこのぶっとい腕ッ!!」


「僕のお尻……、すっごいデカいや!」


 彼らは互いを挑発しあいながら、己の全身を覆う筋肉を見せびらかすようにしてポーズを取った。さながらボディビルの大会の始まりだ。

 盛り上がった胸板に割れた腹筋、肉付きのいい臀部に、血管が浮き出た力強い上腕二頭筋と太い脚。しかし彼らが最も心を奪われていたのは、布で隠された股間の中身だった。


「パンツ、脱いでみようかな……」


 一人の【大人】が、恥ずかしそうに自分のパンツに手をかける。そしてゆっくりとずり下ろしたときだった。『ぶびゅうッ!!』と下品な音を立てて、まろび出た彼の肉棒が精液を噴き上げた。その白濁液は弧を描くようにして飛び散り、教室の床を盛大に汚した。

 突然の出来事に驚いた彼は思わず大きな掌で亀頭を覆ったが、それでもなお勢いは衰えず、ドクンドクンと血管を隆起させ、まるで別の生き物のように激しく脈動する肉棒は辺り一面にザーメンを撒き散らした。


「すっげえな……」


「気持ちよさそうだな。俺もやってみようっと!」


 【大人】たちは次々に下着を脱ぎ捨て、現れたイチモツを幼い手つきで弄り始めた。淫水焼けしたズル剥けチンポから、剥かなければ皮を被ったままの仮性包茎チンポ、どれだけ弄っても皮が剥けない真性包茎チンポまで、十人十色の肉棒が教室内にひしめく。


「ぼ、僕……っ! なんか、変な感じするんだけど!」


「オレもだ! なんだこれッ!?」


 まだ性的経験のない子供たちは、【大人】の肉体で、初めての快感を覚え始めたようだ。中には少し皮を被った先端から、なみなみと我慢汁を溢れさせている子もいる。ぬるりとした汁が、なぜチンポの先から溢れ出たのかすら知る由もない彼らは、ピンと屹立した自分たちのマラを必死にしごきながら、ハァハァと息を荒げた。その姿はもはや滑稽以外の何物でもないが、今の彼らにとってはそんなことを気にする余裕など一ミリもなかった。


「い、イクッ!!」


「イクってなんなのかっ、わからないけどっっ、イグッ!!!」


──どぴゅっ、ドピュゥッ!! ビュルルルッッ!!!!


「お゛……、あ゛ぁ……気持ちいい♥♥ 教室でおしっこしちゃった……♥」


 【大人】の身体で初めての精通を迎えた子供たちは皆、わけもわからないまま初めての射精を経験し、床に精液をぶちまけた。その量と勢いは大人顔負けのもので、教室の床を真っ白に染め上げていく。しかしそれでもなお彼らの興奮は収まらず、今度は近くにいる者のいきり立ったチンポを互いに握り合い、しごき始めた。


「ちょ、ちょっと何して……っ」 「うるっせえな。お前も握れよ!」 「う、うん……」


 そして一人、またひとりと、【大人】たちはその肉体に刻まれた本能の赴くままに快楽を貪り始めた。授業参観という、大人が子供たちの成長を実感するはずだった空間は、もはや乱交パーティさながらの場と化していた。無意識のうちに恐る恐る対面にいる相手の唇に自分の唇を重ね、ぎこちない様子で汗ばんだ肌を撫でてみる。パートナーとなった相手の胸や背中を愛撫するうちに、その肉体が徐々に熱を帯びていくのを彼らは感じた。そして股間で硬くなった男根が擦れ合う感触に、自然と彼らの太い指はヒクヒクと震える穴へと導かれていく。


(こんなの、ダメだ……っ!)



 この同性同士での淫らな行為が、いけないことだと経験の少ない彼らにも分かっている。頭ではそう理解できても、荒い息遣いが教室の至る所から聞こえ始め、互いの肉体を求めあう手が忙しなく全身を這いまわる感触に、彼らの動きが止まることはなかった。開かれた口から垣間見える舌と舌が絡み合い、ねっとりとした唾液が交換されるたびに、彼らの理性はさらに蕩けていく。そして、彼ら全員の太い指がきつく締まった穴の中へと沈もうとしたとき、またもやスピーカーから聞こえてきた声は先ほどまでとはまるで違うモノだった。




『キャハハハハ、みなさ〜ん。ほんの数分前までは頭のわっる〜いクソガキだったのに、【大人】の身体を得た途端、盛りのついた猿みたいにハシャいじゃってェ……。もう滑稽すぎて、僕のお腹捩れちゃいそうですぅ。キャハハ!』


 神経を逆撫でするようなその声を聴いて、【大人】たちの動きが一斉に止まる。まるで心地よい夢を見ている最中に、冷水を浴びせられたかのような気分だ。ついさっきまでとは、到底同じ人間が話しているとは思えない口調。癇に障る物言いだが、確かに初めて覚えた未知の快楽に溺れている今の状況は、その声の主が言う通り滑稽以外の何物でもない。


『だけど、だーけーど、仕方ないと思いますよ〜? 君たちはついさっきまでクソガキだったのに、いきなりおかしな性癖なんて植え付けられたら、自分の意志じゃあどうにもならないよねぇ。童貞のエロ猿どもには、刺激が強すぎるってもんです。……ということで、その身体で性教育を学んでみましょう! キャハハ!』


「性教育……だと……?」


 【大人】の内の一人が、その声の主に向かって疑問を投げかけた。子供だった頃は成績学年トップで、五年一組の委員長として、皆をまとめていた秋吉洋平(あきよしようへい)。しかし彼の魂はいま、漁師である【佐伯寛治】の肉体に宿っていた。

 坊主頭に鋭い目つきは、見る者に一瞬で圧倒的な威圧感を与え、彼の厳つい風貌と相まって近寄りがたい雰囲気を作り出し、彼と対峙した者には自然と敬意を抱かせるほどの存在感を放っていた。ほんの少し前までは──。


『キャハ、そんな凄んでみても〜、僕には分かるよ? 体はもっと気持ちよくなりたいって疼いてるけど、その方法がよく分からなくて、イライラしてるんだよね? だから僕が、今から教えてあげる!』


「えっ……?! あうっ!!」


 二人の【大人】が、再び不思議な力によって操られ、英一を教卓の上に座らせると、彼の身体を黒板に向かって押し付ける。股を開いた状態で強引に足の裏を天井に向けさせられた彼は、露になった尻の穴を反射的に手で隠そうとしたものの、体は言うことを聞いてくれない。


『準備完了。それじゃあ今から、セックスに向けての授業を始めるよ〜。まずは、これが【陰茎】──、おチンポだね。キャハ♥ それでもってこの穴が、そのおチンポが出入りする【肛門】。最後に、ここが【陰嚢】で~……』


 どこからか現れた油性ペンは洋平の手に無理やり握らされ、友人であるはずの男の恥部に次々と淫猥な単語やマークを書き込んでいく。彼が文字を書くたびに、英一は身体をびくんと震わせた。


「ごめん、英一……」


 ガタイのいい大人二人が涙目になって許しを請う姿に、英一も複雑な気分になる。【佐伯寛治】と【井上速人】。片方の中身は洋平。もう一人の中身は確か、シングルマザーの家庭で育った男子生徒だ。恐らく【大人】の身体になった影響で、子供だった頃の記憶が少しずつ消えていっているのだろう。その名前はもう思い出せそうにない。

 だが今の英一にとって、そんなことはもはやどうでもよかった。


『そしてぇ~? お尻の穴の奥にある前立腺を刺激してあげると……』


「あ゛がぁっ?! んおお゛ぉっ♥♥♥」


 突然どこからともなく現れたディルドが、ずぶりと音を立てて英一の体内へと突き立てられる。謎の力で緩くなったアナルは、呆気なく異物の侵入を許し、直腸の奥深くへと招き入れた。前立腺を激しく攻められた【遠矢康介】の肉体は悦びに打ち震え、彼の巨根から噴き上がった大量の精液で、教室の床が瞬く間に白く染まっていく。


『キャハハ、イっちゃったね〜! これがアナルオナニーの快感だよぉ〜。どう、気持ちいいでしょ?』


「……っ、そんな……わけ……」


『そんなわけないってぇ? でもほらぁ、ザーメンまみれになった君のおチンチンは、ビンビンのまんまだよぉ? まだ足りないんでしょぉ?』


(ちがっ、これは……っ……)


──ずりゅっ、ぐりゅぬちゅぐちゅぅ……っ


「ふぅぅっ! う゛あ゛ぁぁっ♥ 奥ッ、おぐにキてるぅ!」


(やめろぉ! やめてくれぇ!! ケツがっ……、【お父さん】のっ、お尻の穴がぁぁっ♥♥)


 彼の頭の中は、これまでに経験したことのない快感による言葉にならない言葉でぐちゃぐちゃだった。もう何が何だか分からない。

 それでも彼の中に残された微かな理性は、【大人】の肉体で得た快楽を必死に否定し続けていた。父の身体をこれ以上汚してはならないと、息子である彼の魂が叫んでいる。だがそんな思いとは裏腹に、彼の肉体はさらなる刺激を求めて動き出し、自然と肛門の筋肉が収縮と弛緩を繰り返す。排泄でしか使用されたことのなかった穴は、見る見るうちにディルドの形を覚えるように広がり、英一の全身からは鼻を突くような雄の臭いが漂い始める。


 気が付くと、英一は自身の腋に鼻を近付けて、クンカクンカと鼻を鳴らしていた。


『キャハハ! いいねぇ~、もっとおかしくなっちゃえ!』


「お゛っ♥ お゛んっ♥ んあ゛ぁぁっ♥♥」


(ダメだ、こんな変なことで気持ちよくなんかなっちゃ……っ。これは……お父さんの……身体なんだ。お父さんの……、ぐへへっ♥ でへっ、最高だァ♥♥ お父さんの──、いや【俺】のケツ穴、たまらんっ♥♥♥)


 【遠矢康介】の巨根が天を向き、その先端から白濁した液体が糸を引きながら床に垂れている光景を目にした【大人】たちの脳内は、彼に追随して気持ちよくなりたいという思いでいっぱいになっていた。誰に言われるでもなく自然と二人一組のペアを作り、勃起した男根を相手のケツの穴に捻じ込むと、彼らは皆、盛りのついた犬のように雄交尾を始めた。


『みんなも新しい肉体が気に入ったみたいだね〜♥ その【大人】の身体でずっといたいなら〜、おチンチンから出た白い液体を、入れ替わった相手の口の中に出してあげてね。そうすれば、君たちは永遠にその身体のままでいられるよぉ~♥』


 その言葉を合図に、彼らの瞳に邪悪な光が宿る。【大人】の肉体に魅入られた子供たちは、【大人】への憧れをより強くし、自分の精液を他人に飲ませるという異常な行為を何の疑問も抱くことなく受け入れた。


「入れ替わった身体でザーメンぶっ放す気持ちよさ覚えちまったら、もう元の身体になんて戻れねえよぉ♥♥」


「お゛ぉお、イクイクイクッ♥♥ オラァッ! 俺のザー汁、飲めよッ♥ そんで【僕】になっちゃえぇッ♥♥♥」


──びゅるっ!! びゅるるるるっ!!! ごくっ、ゴクゴクごきゅっ!!


『キャハハ! やっぱりみんな、イッちゃったね~♥ 君は今日から大人だよ~、ほら君も』


 一人、またひとりと小学生の小さな口内に、中年親父たちのねっとりとした濃いザーメンが注ぎ込まれる。あまりの量の多さに【子供】たちは窒息しそうになりながらも、その喉は必死にゴクゴクと音を鳴らすのだった──。



***


──ピンポーン。


 授業参観の日から一週間経った週末。遠矢家のインターホンが鳴り、康介がカギを開けて玄関の扉を開いた。


「いらっしゃい、お待ちしてました──」


「よぉ、久しぶりだなぁ、遠矢さん! 邪魔するぜっ!!」


 そう言って無遠慮にズカズカと家の中へと上がり込む寛治に続いて、後ろにいた十二人もの大人たちが家の中へと足を踏み入れていく。その全員が、あの授業参観に参加していた父親たち。それに加えて教師である速人だ。

 玄関は即座に大きなサイズの靴で埋め尽くされ、二十畳のリビングも、屈強な男たちが集合すると狭く感じる。室内にうっすらと漂っていた心地いいフレグランスも、汗と脂の臭いによって一瞬にしてかき乱され、重苦しい雄の臭気で満たされていく。しかし、その匂いに顔を顰める男は誰一人としていなかった。むしろ皆、その中年男性特有の臭いに興奮を覚えているのかハァハァと荒い息を吐き、目には怪しげな光が灯っている。


「あの日から毎晩、鏡で自分の裸見ながらセンズリこいて待ってたぜ、この日をよぉ!! 嫁さんのおマンコなんかじゃ、ぜんっぜん満足できねえ! 男のケツ穴、男のチンポが相手じゃなくちゃなぁッ!!」


「私も妻とのセックスでは、やはり駄目でした。男同士でないと……!」


「俺もだ! ……もう我慢できねえよッ!!」


 リビングに集まった男たちの股間には、すでに大きなテントが張られている。


「この週末、妻子は妻の実家に帰ってますので、時間はたっぷりありますよ皆さん……」


 その言葉を聞いた男たちは、待ってましたと言わんばかりに服を脱ぎ始め、一糸まとわぬ姿となると、獣じみた声を上げながら近くにいる同性の元へと飛び掛かっていった。


「おら! 俺のチンポを舐めろやッ!!」 「ケツ穴で感じるところ、見せてくださいッ!」 「ぐうぅっ! もっと激しくシコってくれッ!!」


 その異様ともいえる光景の中、たくましい体を剥き出しにした父親たちの股間から漂う雄の香りに当てられて、康介もまたズボンを下ろし始めた。半ばまで下ろした瞬間に飛び出た彼の肉棒はズル剥けで、淫水焼けによって黒ずみ、その大きさも太さもまたまさに『巨根』と呼ぶに相応しい代物である。それに続いて顔を出した彼のアナルは、ディルドの挿入を繰り返したことで、男性器を咥え込むためにその口をパクパクと開閉している。そんな有様を目にしてしまった寛治は、ゴクリと喉を鳴らしてチンポを震わせた。



「お゛ぉッ! んぎもぢいぃ、雄マンコ最高だぜぇっ♥♥」 「あひっ、お゛ぉっ!! 奥まで届いてるうぅぅっ♥♥♥」


 リビングで繰り広げられ続ける乱交パーティ。その中心で、消防士の康介と漁師の寛治が激しく盛り合っている。寛治は康介の唇にむしゃぶりつき、乳首を指でコリコリと愛撫する。一方、康介はそんな寛治の巨根を尻の奥深くまで咥え込み、自分の腹に向けて先走りをまき散らしながらチンポを跳ね回らせている。

 昨日も【遠矢康介】らしく妻と濃厚なセックスに身を投じたばかりだというのに、脳味噌の中はガチムチ野郎の雄チンポのことでいっぱいだ。つい先日まで小学生だった彼は、父の肉体を乗っ取り、デカマラでケツを抉られる快感を知ってしまった。奪った肉体で性行為に興じることで、異常なほどに興奮するという性癖を目覚めさせてしまった者たちは、その背徳的な行為の虜になっていた。


 遠矢家のリビングの壁に備え付けられた巨大な鏡には、筋肉隆々の中年男性たちによる乱交の様子が映っている。そしてそこに全身を映した男たちは、全員がナルシストのようなポーズをとって、自分の肉体を視姦するように見つめながら射精を繰り返した。


「あ゛ぁッ! お、俺の顔かっけぇ! マッチョな体もサイコー……っ!!」 「おほっ♥ すごいぞっ、私のケツ穴の感度は最高だ!」


 鏡に映った【大人】たちの顔は、皆一様に快楽に蕩けた表情を見せている。彼らが自分の肉体を褒める度に、鏡の中の【大人】たちはより激しい雄交尾を繰り広げる。セックスの悦びを知ってしまった彼らはもう、その快楽を知らなかった【子供】の頃には戻れない。鏡に映る新しい自分の身体を目にすることで優越感に浸り、自身と同じように他者の肉体を奪った仲間たちと交尾をすることで最上の快感を得るのだ。


「「「ああ゛あ゛ぁっ、イクッイクイク……、イグッ♥♥♥」」」


 その場にいた十四人の男たち全員が、タイミングを合わせたように同時に射精して床を白濁で汚していく。汗とザーメン、中年親父の加齢臭の混じったむせ返る臭いが部屋の中に充満し、【大人】たちは皆、恍惚とした表情を浮かべて事後の余韻に浸っていたが、性欲旺盛な彼らはすぐにまた盛り合いを再開しようと体を起こした。


「次は俺とヤろうぜ?」「あんたの口でオレのチンポしゃぶってくれ!」「三連結、いや四連結でヤってみようじゃねえか!!」


(お父さん、ごめん……。これからは【俺】が、お前の代わりにこの身体でセックスしまくっていくからな♥♥♥)


 【遠矢康介】は心の中で父に詫びながらも、再びチンポをビン勃ちさせ、尽きぬ精力を誇る男たちの群がりに入っていった。もう彼は【子供】ではなく、屈強な肉体を誇るたくましい父親なのだ。大人の身体、大人のチンポ。妻とセックスをする傍らで、野郎どもと汗だくになっての生交尾。その背徳的な行為が、彼の脳味噌を狂わせていく── 。


「お゛っ♥ お゛ぉっ! イ゛イッ、ケツ穴ぎもぢいぃッ♥♥ ん゛ほぉぉッ、イグゥッ!! この前までノンケの消防士だった俺が、男に掘られてイッちまううぅぅぅッ♥♥♥」


(了)

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