【小説】海外旅行に行くのにおねしょおむつが取り替えられないお話(後編)
Added 2023-09-21 12:12:58 +0000 UTC【前編のあらすじ】
初めての海外旅行なのに、家族全員寝坊して時間がギリギリ!おねしょおむつも替えられずトイレにも行けず、とにかく空港へ向かったら車の中で漏れそうになって大変!トイレにも搭乗手続きにもなんとか間に合ったけど替えのパンツは預け入れ手荷物の中!私、旅先に着くまでぐっしょりおむつのままなの?!
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父親が言うには国際線の飛行機に乗るには、どんなに遅くても離陸の1時間前には手続きを終えなければいけないらしい、そうだったんだ。ターミナルの時計を見ると今は7時15分、次は急いで搭乗口まで行かないといけない。私は、今や相棒となったぐっしょりおむつを履いたまま家族と一緒に手荷物検査の長い列に並んでいた。
(あそこに服屋さんがあるから、きっとパンツも置いてると思うけど、この列から抜けたらもう時間に間に合わないよね…)
お姉さんパンツに履き替えるのはまだ早いということだ。
ようやく自分の手荷物検査の番が来た。バックパックを載せたトレイは、ベルトコンベアの上に置くと機械の中に吸い込まれていった。私も四角いゲート状の装置を通った。
(おもらししたおむつは引っかからないよね、大丈夫だよね?)
何かの密売人でもないのに妙に緊張する。幸い、音は鳴らなかった、当然といえば当然だ。手荷物検査の次は出国審査で、家族一人ずつが順番にパスポートと搭乗券を提出する。
(君はお姉さんパンツ履けてないからダメ! とか言われないよね、大丈夫だよね?)
変な所で緊張してしまう。やはり何も言われず審査は無事に通過できた。
出国審査を抜けた先は、日本であって日本でない少し特別な場所だ。地元では見たこともない高級そうなブランドの店が立ち並んでいる。どの店の看板もアルファベットが並んでいて、まずどう読むかすら分からない。私の小遣いでは到底買えないのだろうが、どんなものが売られているのか見てみたかった。
(大人になったら、こういう所で買い物してみたいな)
まだ夜のおむつも取れていないお子様なのは自覚しているが、夢くらいは見ても許されるだろう。
「悪いけどもう時間がないから搭乗口に行くよ、早歩きで」
父親が言い、私と妹もそれに従った。
動く歩道をいくつか乗り継ぎ、ようやく搭乗口に着いたが、すでに人はほとんどいなかった。他の乗客はみな搭乗してしまったようだ。私達も飛行機が乗り込むと、やはり他の乗客はすでに全員着席していた。どうやら私達の家族が本当に最後の乗客だったようだ。私の席は、飛行機の進行方向向かって右の窓側席で、母親は私の左、妹は母親の左の席で、父は通路を隔てた中央の4列シートの一番右側の席だった。
席に座るともうすっかり冷えたおむつが再び皮膚に押し当てられた。外の空気で十分に冷やされたおむつは、私の下腹部の体温も吸収していった。
(う〜やっぱり早く取り替えたい)
「ねえお母さん、飛行時間どれくらいだっけ?」
「確かに4時間くらいだったわよ。時差が1時間あるから向こうに着くのは朝の11時頃ね」
(あと4時間と少ししたらやっとお姉さんパンツに履き替えられるのか、頑張れ私!)
飛行機は定刻通りに離陸した。高度はどんどん上がり、眼下の町がミニチュアのように見えたころ、雲の中に入ってしまい何も見えなくなってしまった。同時に、機体が上下に震え出した。落ちないとは分かっているが、やはり不安になる、昨日の悪夢のせいもあるかもしれない。
飛行機が雲の上へ抜けると揺れも落ち着き、シートベルト着用サインが消えた。窓の外にはよく晴れた空が広がっている。外を眺めているうちに飲み物と機内食が配られた。朝からの慌ただしさと緊張から開放されたせいかとても喉が渇いており、ジュースを何杯もお代わりしてしまった。そんなに飲んで大丈夫かって?さすがに今度は大丈夫、トイレならたった5メートル先だ。
すっかりリラックスモードに入った私は、シートポケットからヘッドホンを出して耳につけ、飛行機備え付けの端末で最近話題のドラマを見始めた。
*****
いつの間にか眠っていたようだった。目の前の画面には、さっき観始めたドラマのあらすじと役者のサムネイル画像が写っていた。スタッフロールを観た記憶はないので、恐らく観ているうちに眠ってしまったのだろう。画面をフライトマップに切り替えると、どうやらあと10分ほどで目的地に到着するようだ。
(よし、じゃあ今のうちにトイレに行っとこ。)
今日は不運により未だ濡れたおむつを取り替えられていないが、おむつはあくまで夜の話。お昼もおもらししてしまうような赤ちゃんでは、当然無い。私はもうクラスメイトよりも大人なのだ。しかし、席を立とうとした時アナウンスが入った。
「当機は最終着陸態勢に入りました。お席にお戻りになり、お手洗いのご利用はお控え下さい」
今回こそは先手を取ったつもりが、また後手に回ってしまった。私は仕方なくシートベルトを締め直した。今日は何かとトイレになかなか行けないが、それでも今の時点でそれほど強い尿意があるわけではなく、あくまで「念のため」行っておこうかな、という程度だから、10分で着陸して、その後空港のトイレに行けばいい。大丈夫、落ち着いて待っていれば何も問題ないから、と自分に言い聞かせた。
飛行機はゆっくりと高度を下げ、ついに陸地が見えてきた。前に飛行機で旅行したときよりもよく揺れているが、豆粒のように小さく見えたトラックの車列が徐々に大きくなってきた。滑走路が見えてまさに着陸という瞬間、エンジンが回転数を上げ始めた。減速していた飛行機が再び加速し、滑走路が自分の後ろへ流れ去るのが見えた。
「ただいま、地上付近の強風により、一時的に着陸が出来なくなっております。当機は一度高度を上げ、再度着陸を試みます」
無情なアナウンス、ここに来てまたトイレが遠ざかった。着陸態勢に入っている間は席を立つことも出来ない。私はただ待つしかなかった。
(そんなの聞いてないよ!)
さっきは「念のため」トイレに行きたかった程度の尿意が、今やしっかりと認識できるほど強まっていた。調子に乗って何杯も飲んだフルーツジュースとコンソメスープがここに来て効果を発揮しているのを感じた。ジーパンの下におむつを履いているのは確かだが、これ以上おしっこは吸収できない。言ってみれば私の相棒はもう瀕死状態で、これ以上の負荷はかけられないのだ。
二度目の着陸、今度は上手くいった。着陸した飛行機は駐機場で停止し、シートベルト着用サインが消えた。無事に地上に着いた安堵感よりも、やっとトイレに行ける安堵感の方が大きかった。
*****
スーツケースが流れてこなかったらどうしよう、という心配は杞憂だった。無事に入国し、家族四人で到着ロビーを出た。初めての異国の空気だったが、まずはたまりにたまったおしっこを出してしまいたかったし、おむつも履き替えたかった。半日も濡れたおむつで過ごすのはどう考えても衛生的に良くない。
「お母さん、私のスーツケース開けてもいい?」
「いいわよ、じゃあそこの角で目立たないように開けなさい」
私は言われた通り建物の角まで移動してからスーツケースを開け、自分の服を詰めたあたりを探った。すぐにお姉さんパンツは見つかったが、その横にはおむつもしっかりと納められていた。自分の失敗をしっかり守ってくれるピンク色の下着が視界に入ったとき、急に心がざわついた。どういう精神状態なのかとっさに理解できず、私の心拍数は急上昇した。昨日の朝と同じように、濡れたおむつを脱いで、布のパンツを履くだけなのに。時計の針が止まったように感じられた。
自分が海外の空港にいたことを思い出した。私はお姉さんパンツとウェットティッシュ、ビニール袋を取り出してバックパックにしまった。そしてスーツケースを閉めようとし、手が止まった。再度スーツケースを開け、おむつを一枚手に取り、バックパックへねじ込んだ。心臓が激しく脈打っている。
(持っていくだけ、持っていくだけだから)
鍵をかけたスーツケースを母親へ預け、トイレへと急いだ。もう漏れそうなおしっこをしたかったのもあるが、この理解出来ない気持ちが私の足を動かしている。
幸い個室は空いていた。それに掃除が入ったばかりなのか、綺麗な状態が保たれておりこれなら着替えることが出来そうだ。鍵をかけ、ジーパンを下ろした。分厚いデニム生地に押さえつけられていたおむつが顔を出す。昨晩からのおしっこを吸収し続けたおむつは、もはやその役目を果たすことは出来なさそうだが、印刷されたキャラクターは笑顔のままこちらを見つめている。無下に破いて脱いでしまうことに躊躇を覚え、布のパンツを脱ぐ時と同じように慎重に下ろしていくと、その重みからどさりと足の上へ落ちた。トイレに腰を降ろし、すぐに我慢を開放した。後はウェットティッシュで身体を拭き、お姉さんパンツに履き替えるだけだ。これでようやくお子様から、クラスメイトよりも少し大人になった女の子に戻れる。なのに、なんだろうこの気持ちは。私はバックパックに手を入れると、布のパンツではなく、夜専用のパンツを取り出していた。柔らかく肉厚で、どんな失敗も受け止めてくれる安心感のある肌触りを知っている私。布一枚で作られた、この機能性の低い下着を履かなければならないことは分かってはいるが、興味と本能が抑えられなかった。
(今日だけ、今日だけにするから!)
おむつを広げ、引き上げた。腰回りの少し波打った不織布の感触が心地よい。人差し指でギャザーを立てて、着替え完了だ。お姉さんパンツはバックパックの奥へしまい込んだ。
外の人に怪しまれないよう水を流し、個室を出た。家族の元に戻ると、皆待ちくたびれた様子だった。
「どうしたの、随分時間かかったじゃない?」
母親が尋ねる。
「個室埋まっててさ、時間かかっちゃった」
嘘のつき方だけは大人へ近づいているようだ。布のパンツを履くか新しいおむつを履くか悩んだ上に、おむつを履いてしまったことなど言える訳もなかった。
*****
ガイドブックに載っているものを、改めて自分の目で見るのはとても楽しかった。私達はこの島で一番高い高層ビルに登り、評判の店でパイナップルケーキを買い、夜市では想像よりも3割ほど大きなカップで出てきたタピオカミルクティーを飲み、ホテルへ帰ってきた。今は夜の9時だ。
ホテルの部屋はかなり広かった。ダブルベッドが二つ並べられたファミリールームで、お風呂はシャワーの他に流し場や浴槽の付いた立派なものだった。アメニティに入浴剤まで付いている。
歩き疲れたのか、妹はシャワーを浴びると早々に眠ってしまった。夜の心配が無いと、こういう時に羨ましい。私もそろそろお風呂に入ろうかと思っていたが、なんと両親が出かける準備をしている。
「えっ、こんな時間から出かけるの?」
父親がお猪口で飲む仕草をしながら答えた。
「ちょっと母さんと下のラウンジに行ってくる。大丈夫、そんなに遅くには戻らないから。二人は部屋で大人しくしていなさい」
要は夫婦で飲みに行くということか。大人にはきっとそういう時間も必要なのだろう。ドアが閉まり、部屋には私と、すでに眠ってしまった妹だけが残された。浴槽にお湯を張ろうかと考えた時、まだバックパックに使い終わったおむつを入れっぱなしだったことを思い出した。思えば、今朝寝坊していなければ、今自分がおむつを履いていることなどありえない話だった。腰に手を当て、綿とは違う感触を確かめた。
バックパックから濡れたおむつの入ったビニール袋を取り出す。そのまま捨ててしまうことに勿体なさを感じ、ビニール袋の持ち手で作った結び目を解くと、昨晩からの相棒が顔を出した。今朝からの出来事がフラッシュバックし、また心拍数が上がってきた。
(もう一度、もう一度だけ履いてもいい?)
お風呂へ移動し、めいっぱいおしっこを吸収し丸められたおむつを広げ、ゆっくりと身体へ引き上げた。新しいおむつから履き直すと、自分がどれほどぐしょぐしょでじっとりとしたものを身体に押し当てていたかがよくわかった。長くバックパックの中に置かれたせいでおむつはすっかり冷たくなっていた。
(ごめんね、これでもうおしまいにするから)
私は下腹部の力を緩めた。温かい液体がもう吸収力を失ったおむつへ容赦なく注ぎ込まれていく。最初の数秒間こそ、最後の堤防であるギャザーで堰き止められていたが、すぐに限界が訪れ、一筋、また一筋と太ももに自分の失敗の跡が流れていくのを知覚できた。
(私、大人になりたい。でも、まだまだおむつに守ってもらえる子どもでもいたい!)
わざと足を内股にして力を込めた。行き場を無くしたおしっこがいっせいにおむつから溢れ出す。足元には水たまりがみるみる広がっていった。吸収体の部分を手で揉むと、ぐじゅぐじゅと音を立てた。手も脚も汚れてしまっているのにそうは感じず、むしろ温かい温泉に浸かっているような心地よさがあった。
そのまま何秒、何分たったかは分からないが、我に返った。クラスメイトよりも少し大人になっていたつもりの自分に。幸い両親はまだ戻ってきていないし、妹も眠ったままだ。この盛大すぎる失敗の跡を早く隠さなければならない。昨晩からお世話になり続けた夜専用のパンツをついに両腰の部分でちぎり、パッケージ裏の説明書きと同じようにコンパクトに丸め、テープでとめた。それをもう一度ビニール袋に入れ、口を強く結んだ。流し場はシャワーで何分も流し、今しがたの失敗の跡も、整理しきれない気持ちも全て流しきった。
身体も十分に洗った私は風呂から出て、身体を拭いた。そして昨日の夜と同じように夜専用のパンツを履き、パジャマを着た。
今日はよく眠れそうな気がした。
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エピローグ
飛行機が着陸態勢に入ったことを知らせるアナウンスで目を覚ますと、眼下には夕日に照らされた町並みが見えた。後少しで自分の故郷へ帰る。旅行はその後とても平和で、初めての海外旅行を十分楽しむことができた。結局、日本へ帰る前日の夜までしっかりおむつのお世話にはなってしまったが、お昼は布のパンツで過ごしていたし、あの日以降、思い通りにならない自分の身体のことを嫌に思うことはなくなった。もちろんそれを治すことを諦めるつもりは無いが、今の私をそのまま受け入れられるようになった。
自宅の最寄り駅へ向かう電車の中で母親に聞かれた。
「初めての海外、どうだった?」
私は少し悩んでから答えた。
「色々あったけど楽しかったよ。あと、ちょっとだけ大人になれたかもしれない」