【試し読み】【小説】突然家にやってきた謎の美少女が紙おむつの精霊だった件
Added 2023-10-20 15:05:20 +0000 UTC〜プロローグ〜
「すいません、お先に失礼します」
この保守的な会社にもようやく働き方改革が浸透してきたとはいえ、上司や同僚を置いて先に帰るときの挨拶は小声になりがちだ。週明けのテレワークのためにラップトップパソコンを鞄に入れ、席を立った。今日は短納期の案件に振り回されて、いつも以上に疲れとストレスを感じていた。
(よし、今日は【アレ】するぞ)
俺は高鳴る気持ちを抑え、できるだけ目立たぬようオフィスを後にした。会社の外に出ると、外はもう真っ暗になっていた。ついこの間までは帰宅する時でも明るかったのに、秋分をすぎると陽が落ちるのも早い。猛暑もようやく落ち着き、身体に当たる秋風が心地よい。俺は足早にオフィスの最寄り駅へと向かった。
帰宅ラッシュの時間帯の駅はいつも通り混雑していたが、幸い改札内にある多機能トイレは空いていた。本来の利用者を差し置いて、健常者の自分が利用することに申し訳なさを感じつつ、ドアが施錠されたことを確認した。鞄の中には先ほど入れたパソコンと、いつも隠し持っている灰色で中が見えないジッパー付きのビニール袋がある。ジッパーを開けると、およそ若手サラリーマンが着用するのにふさわしいとは思えない、可愛らしいデザインの「紙おむつ」が現れた。家ではほとんど毎日履いているのに、外で見ると改めてその可愛すぎるデザインに、恥ずかしさと背徳感と、胸の高鳴りを改めて感じる。全面にうさぎをモチーフにしたキャラクターがあしらわれており、ちょうど自分のへその少し下辺りには「Bigより大きいサイズ」と書かれている、いかにもお子様用と言ったデザインだ。俺はスラックスとトランクスを脱ぎ、標準体型の自分が無理なく履ける子供用のサイズがあることに感謝しながら、その紙おむつに履き替えた。さすがにローライズ気味ではあるが、適正体重を大きく超過しているにも関わらず千切れること無くしっかり身体にフィットしているのはもはや奇跡的ですらあり、この商品の開発者には感謝の念を禁じ得ない。トランクスの素っ気無い感触とは違い、ふかふかで安心感のある履き心地に仕事のストレスも溶けて無くなっていくような気分になった。
先に断っておきたいが、俺は決して何か身体に不自由があっておむつを履いているわけではない。いつ頃からか性癖が斜めになってしまっただけで、至って健康であるし、ただ子供用おむつが好きなだけで、特段子供に対してそのような欲求があるわけでもない。一般的に独身男性のストレス発散方法は、スポーツやスマホゲームをしたり、もしくは夜のお店に行くことなのだろうが、それがたまたま子供用のおむつになってしまっただけなのだ。理由は未だにはっきりと分からないのだが。
スラックスを履き直し、念のため鏡を見た。よほど目を凝らして見なければ目の前の鏡に写ったサラリーマンがおむつを履いていることなど分からないだろう。俺は多機能トイレから出て、電車に乗った。履いたばかりのおむつはまだ乾いたままだ。すぐに濡らしてしまっては、万が一何かあったときに言い訳もできないし、周りの乗客に迷惑がかかるやもしれない。それになにより、このサラサラ感をすぐに損ねてしまうのは惜しい。家に帰った後、何回かに分けて濡らしていき、リアル感を出していくのが俺の楽しみ方だ。
各駅停車しか止まらない駅から十分程度歩いた辺りにある、アパート二階の一室が俺の家だ。郵便受けに何も入っていないことを確認し、ポケットから鍵を出しながら階段を上がった。二階の廊下が視界に入ったところで、自室のドアの前に誰かが体育座りをしているのが見えた。
誰だあれは? 見たところ女性、いやそれよりは少女と言ったほうがよい体格で、白っぽいパーカーと紺色のハーフパンツを着ている。気づかれぬよう階段を後ろ歩きでゆっくりと降り、あの少女が誰であったか脳内のデータベースを全力で検索した。自分の同級生にしては少し幼すぎるし、親族の子供はまだ幼稚園児だ。もしかして、何か助けを求めて? それならば交番に駆け込む方が早いし確実だろう。心当たりのある人物は全く思い当たらなかったが、いずれにしてもこのままでは部屋にも入れない。直接話すか、警察を呼ぶしかないが、夜の住宅街にサイレン音を響かせるのは避けたい。俺は意を決して、あの見知らぬ少女に話しかけることにした。
再び階段を上がると、今度は少女がこちらに気づいて立ち上がった。背は自分の胸くらいまでしかない。肩にかかるくらい長さの髪は黒く艶があり、健康的な感じだ。そして、少女の年齢よりも少し幼く見えるデザインの、ウサギの形をした髪留めを付けている。俺は口を開いた。
「あの、すいません。ここは私の部屋なのですが…」
少女が答えた。
「わー! やっと会えた、タカハシ君だよね! 最後に会ってからもう何年かな、ずっと会いたかったんだよ?」
いきなり自分の苗字を言われ驚いてしまった。こちらのことを知っているということは、やはり昔の同級生か?
「あの、私が忘れてしまっていたら大変申し訳ないのですが、昔のクラスメイトの方ですか?」
少女はいたずらっぽく笑いながら答えた。
「うーん、まあそんな感じかな? タカハシ君、あんなに小さかったのにこんな立派になっちゃって! 確か国立の大学に進学して
その後は大きい会社に入ったんだよね? 昔なんかよくおもらししてたの覚えてるよ。幼稚園の時の音楽会とか、小学校の時の遠足とかでも失敗しちゃってたよね?」
進路はともかく、どうして出てくる思い出がそんな黒歴史ばかりなんだ。もう少しマシなものがあるだろう。
「待ってください、なんでそんなこと知っているんですか?」
「君は私のことを忘れちゃってるかもしれないけど、私はたっくんのことちゃんと覚えてるよ。とりあえずせっかくここまで来たんだし、家に上がらせてよ」
昔のあだ名まで知っているようだ。面識の無い人間を家に上げるのは気が引けたが、目の前の少女は本当に自分が忘れてしまった昔の同級生なのかもしれない。だとしたら、せっかく会いに来てくれたのに無下に追い返するのはさすがに失礼だろう。危害を加えて来そうな感じも見られないし、同級生なら家に上げても犯罪にはならないはずだ。俺はドアを開けた。
「散らかってて申し訳ないですが…」
「大丈夫、気にしないから! それとその取引先と話すみたいな口調やめてよ、リズム狂っちゃう」
彼女はすたすたと部屋の奥へ入っていく。まるでもう間取りを知っているかのようだ。
「あー、すいません。えっとね、ちょっとまって、分かった。じゃあ、今からはタメ語で話す、とりあえずここ座ってて。お茶でも入れるから」
俺は座卓の上に積まれた雑誌の束をどかしてスペースを作りキッチンへ行った。電気ケトルに水道水を入れつつ横目で後ろを眺めると、謎の少女はすでにくつろぎモードに入りつつある。いくら昔の同級生とは言え、初めて来たところでそんなにリラックスできるものなのか、自分にはまだガールフレンドがいたことがないから分からないが、女子とはそういうものなのか? 俺はティーバッグの入ったマグカップにケトルからお湯を注いだ。
「へー、アールグレイとか飲むんだ。部屋の汚さの割にオシャレなもの飲むんだね」
「別に何飲んだっていいだろ」
「ごめんごめん」
昔の同級生かもしれない彼女は笑いながら謝った。これ以上彼女のペースに持っていかれる前に、これだけは確認しておかなければならない。
「それでさ、まだ聞いてなかったんだけど、君は、幼稚園か小学校の頃の同級生なんだよね? 名前教えてよ」
彼女は少し考えてから答えた。
「そうね。私の名前はね、ウサダミツキ。兎の田んぼでウサダ、満月と書いて、ミツキね」
兎田満月。そんな名前の同級生はいただろうか? 自分の苗字が高橋だから、あ行の苗字ならそれほど出席番号は離れていないはずだ。だが、どの学年の時を思い出しても「ウサダ」という苗字には心当たりがなかった。
「あと、ごめん! 君の事はずっと昔から知ってるけど同級生じゃないの!」
また頭が混乱してきた。親族でも同級生でもないのに名前や進路だけでなく黒歴史まで知っている昔からの知り合い? お前は一体何者なんだ?
「まあ忘れてても無理はないよね。毎日会っていたのは、産まれてからの数年間で最後の方は夜だけだし、最後は確か九歳の冬の夜に二回、三回だったかな? まあ就職してからはほとんど毎日見てるんだけど…」
「ごめん、まだ全然分からない」
「私的にはそろそろ察してくれても良いんだけどな。そうね、じゃあもっと直接的に言うしかないか…」
彼女は片目をつぶりながら左手の人差し指を俺の方へ指し、こう言った。
「キミ、今おむつ履いてるでしょ」
突然の爆弾発言、それも図星だ。予想外のタイミングで自分の一番知られたくない趣味を指摘されてしまい、声が出なくなった。すぐに恥ずかしさが込み上げてきて、顔から火が出そうな気持ちになった。
「やっぱりそうか! じゃないと私のこと見えない筈だもん。あ、あと安心してほしいんだけど、上手くズボン履けているから私以外の人は気づいてないと思う! 昔はズボン履くのにも苦労してたのにすごい成長だ」
彼女はうんうんと満足そうに頷いている。こっちは思い出したくないような思い出ばかりほじくり返されて、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。第一、おむつを履いていないと彼女のことが見えないとはどういうことだ?
だが、これまでの話の流れで、ある仮説が浮かんできた。名前も進路もトイレの失敗の黒歴史も知っている、小さい頃は毎日、大きくなってきたら夜だけ、その後は就職後毎日見られている、もしかして彼女は…。
「やっと気づいたみたいだね」
少し改まった表情でこちらを見つめる。
「私はね、おむつの精霊なの」
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残りは挿絵と合わせて現在執筆中です!加筆、修正頑張ります!
小説は支援者限定、挿絵は全体公開予定です。よろしくお願いいたします!
Comments
あれこれ考えて、(これなら行ける!!)と思いついたのがこの設定でした!頑張って完成させていきます!
池野くるめ
2023-10-25 13:16:51 +0000 UTC更新ありがとうございます! 女の子がまさかおむつの精霊とは、全く予想できませんでした。 池野くるめ様の性癖にしっかりフィットを目指すとの頼もしいお言葉、今からワクワクしています! 完成を楽しみにしてます!
ト
2023-10-22 08:06:02 +0000 UTC