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池野くるめ
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【小説】異世界最強の魔法使いエルフは紙おむつが手放せません!? 第六話 ダンジョンでおむつ替えを求めるのは間違っているだろうか?

 近くの川から汲んできた水をピノとテントに盛大にかけて、おねしょの跡を完全に消し去った頃には、すっかり日が昇っていた。  ちなみに水を出す魔法もあるにはあるが、魔力とエーテルを節約するためにも魔法無しで済むなら、そうするのが冒険の基本らしい。  俺達は再び道を進み、目的地である洞窟を目指した。今日もよく晴れており、日差しが心地よい。昨日よりも大きく見えるあの山の麓に目指す洞窟があるはずだ。  もうそれほど遠くは無さそうだが、残念ながら今日中に着くのは難しいだろう。あるいは、今朝の出発が早ければ到着出来たかもしれないが、それをようやくおねしょのショックから立ち直ったピノに伝えるのは、得策とは言えなかった。  太陽が山の稜線の下へ落ちる頃にたどり着いた、川から少し上がった所に広がる草地をこの日の野営地と定めた。河原は小石が多く寝心地が悪そうだし、何より川が増水した時のことを考えると避けておくのが無難だ。水に追われる冒険者の演出は、たまりにたまったおねしょが明け方一気に出ちゃうおむつの宣伝の中だけで十分なのである。  今日はベルに結界を張ってもらってからテントを設置した。その後、火を起こし、食事と呼ぶにはやはり寂しいポーションによる栄養補給を行った。そして、そろそろ寝ようかというときに、ピノが俺とベルに尋ねた。 「ねえケン、ベル。今日の夜なんだけど……。お、おむつ……じゃなくて、その夜用のパンツ履いて寝ようかなって思うんだけど……どう思う?」  俺とベルは顔を見合わせた。これまでピノが自らおむつを履きたがることはほとんど記憶に無かったからだ。 「べ、別に、私だって好きで履きたい訳じゃないわよ!! でも昨日みたいなことがあっても嫌じゃない? だからその……念の為、念の為よ!!」  そんなに必死に言わなくても大体分かる。要するにおねしょが怖いから漏らしちゃっても安心な夜用パンツを履きたい、ということなのだろう。 「俺は全然いいと思うよ? 多めに持ってきてるし」  すでに俺が一枚使ってしまっていることは秘密だ。荷物の中からピンク色のおむつを取り出しピノへ手渡す。ピノはそれを、口を一文字にし顔を赤らめながら受け取った。俺達はピノが着替えるのを待つため、一度テントを出た。  俺とベルは、ピノが着替え終わってから再度テントに入り、寝る準備をした。俺もおむつを履こうかと考えたが、手持ちの枚数も限られている上、今日はエーテルを飲んでもいないので、夜中に尿意で目覚めることも無いとだろう。  ピノだって昨日はたまたま夜に魔法を使って、その後エーテルを飲んだためにおねしょしてしまっただけだ。念の為おむつを履いてはいるものの、使うことは無かろう。  俺は安心して眠りにつき、次に目を覚ましたのは朝日が差し込んできたときだった。  俺より先に起きたのか、ベルの姿は無く、テントの中には俺とピノだけがいた。一応、お尻のあたりを辺りを撫でるが、昨晩から変わらず乾いており安堵した。  ピノはまだ眠っており、油断しきった無防備な姿を晒していた。おへそだけでなく、夜の昨日履いたおむつの腰部分のヒダが見えている。思わずドキリとするが、理性で抑えつける。 「おーい、ピノ。朝だぞー」  俺はピノに声をかけた 「みずのぉ〜せいれいよ〜」  彼女は寝ぼけて訳の分からないことを言っている。俺はピノを揺すった。 「ん〜〜そんなに揺すらなくても起きてるよぉ〜〜」  起きていないから揺すっているのである。 「ピノ、朝だぞ。着替えて出発するぞ〜」 「え、あぁ。お、おはよう……」  ようやく目覚めたようだ。 「どう、ちゃんと寝れたか?」 「うん、もうバッチリ。爆睡だったわよ……あれ……? ちょっと待って……」  ピノの様子が変だ。両手を下半身へ突っ込み、急にそわそわし始める。 「待って……そんな……二日連続なんて……」 「おい、マジかよ?!」  どうやら夜用パンツもといおむつにしっかりお世話になってしまったようだ。念の為と思っていたが履いてもらっていて正解だった。そして自然におねしょをしてしまったピノのことを羨ましいと、俺の邪な心が感じてしまう。 「夢で水の魔法を使っていただけなのに……」  今日の仕事がピノのおねしょカウンセリングから始まっては大変だ。俺はピノのことをなだめすかした。 「で、でもほら、念の為履いてたから大丈夫だっただろ! いつもと違う環境で寝たからちょっとストレスになっただけだって。ベルにも黙っておいてあげるから、なっ!」 「う、うん……」  とりあえず落ち着いたようだ。 「じゃあ俺はテントの外で待ってるから。着替えたら呼んでくれよな」  テントの外に出て入口を閉じてしばらくすると、布が擦れる音に加え、おむつのサイドステッチを破る音がした。 「ねえケン……」  テントの中から呼ばれた。おむつ替え中に何か問題があったのだろうか? 「もし良ければなんだけど、お昼もこれ、履いててもいい……?」  いきなりの提案に少し驚いた、と同時に察した。どうやらピノは逆トイレトレーニングと二日連続のおねしょのせいで、完全におむつの虜になってしまったのだ。おむつの安心感と心地よさがついに羞恥心に勝ったのだろう。もちろん俺として断る理由はない。 「俺はいいけど、もうあんまり残ってないからお昼は濡らさないようにしてくれよ」 「分かった……お昼はちゃんとトイレ行くから!これは保険よ、保険!!」  ここに、懸命な逆トイレトレーニングと、初めての探検お泊りの緊張による連続おねしょの成果として、昼も夜もおむつを装備する大魔法使いが誕生したのである。 ******  特別な賢者の草が生えるというその洞窟は、山の麓にある崖地にひっそりと穴を開けていた。俺達三人が横に並んで歩けるくらいの幅がある。 「ここがその洞窟?」  俺は少し緊張しながらベルに聞いた。 「文献が正しいなら、賢者の葉はこの奥にあるはず。狭い空間だし、魔物も多く出るはず。気をつけて進みましょう」  しかし、洞窟に入る前にやるべきことがある。そう、装備の変更である。すでにおむつを履いて準備万端のピノとは違い、俺とベルは吸水性ゼロの下着を装備している。  野営に使うテントを立て、中で着替える。これで替えのおむつの枚数は四枚、少し心もとないが大丈夫だろう、多分。そしてファイト一発とばかりに、体力回復のためにポーションを三人で一本ずつ開けた。  ピノが魔法を唱え、杖の先に光をともす。 「さあ行くわよ、ケン、ベル」  ピノが俺達を先導する。洞窟の中は薄暗く、ひんやりしており、そして何より湿っぽかった。例えるならたっぷりのおもらしがおむつの中で冷えてじめっとしているような感じだ。  そして、所々にわずかに青く光る石が転がっており、洞窟の中をほんのりと照らしている。 「何か光っている石があるんだけど、あれは何?」 「魔石の欠片。私達の杖の先端に付いている石の原料ね。この洞窟、魔力に満ちているみたい」  ベルが薄暗い通路を慎重に進みながら答えた。  洞窟の中は一本道で、細長い通路が続いていた。足元には水たまりが点在し、滴る水の音が静寂を破っている。  どのくらい歩いただろう。脚に疲れを覚え始めたころに、それまで細かった道が太くなり、更に進むと大きな空間に出た。天井は高く、鍾乳石が下がっている。 「この辺りで一旦休憩しない?」 「魔物の気配もしないし、そうしましょう、ピノ」 「そうね、私も魔力を回復しておきたいわ。長時間明かりをつけるのって思ったより疲れるのね……」  俺はピノにエーテルを手渡した。魔物に遭遇しないうちから飲んでしまって大丈夫かとも思ったが、いざ戦闘になったときに魔力切れなのも困る。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ。そのためのこれ、でしょ?」  ピノは股の辺りを指さして答え、エーテルを飲み干した。さあ、ここからはピノの魔力消費と尿意の高まり、そしておむつの吸水量のバランスが大事になってくるぞ、俺は改めて気を引き締めた。  それにしても明かりの魔法を使えるのがピノだけであることを忘れていたのは不覚だった。おむつのことばかりに気を取られ、洞窟内での光の確保まで気が回らなかったのだ。  休憩を終え、俺達は再び洞窟の奥へ歩みを進めた。おむつはまだあるとは言え、できればすぐに賢者の葉が見つかってほしい。今のところまだ魔物には遭遇していないものの、俺達が求めている賢者の葉はおろか、植物らしきものも見つかっていない。考えてみれば当たり前だ、こんな光も入らない、地表からも遠い場所にどうして植物が生えるというのだろうか?  洞窟は、広い空間から再び狭い一本道になった。異常は無い、ひたすら進むだけだ。  しばらくすると、先導するピノの足取りがぎこちなくなった。これは恐らく、というよりも間違いなくさっき飲んだエーテルが効いてきたのだ。俺はピノの自尊心を傷つけぬよう、上手くそのための時間を作ることにした。 「ピノ、ちょっとごめん! 靴紐がほどけたみたいだ!」  ピノが歩みを止める。 「ん……、分かった。結び終わったら教えて」  俺は前かがみになり、緩んでもいない靴紐を結び直した。俺の予想が正しければ、今ごろピノが履いているおむつはおしっこで膨らみ始めている頃だろう。吸収が終わるまでにはしばらく時間がかかるから、両足の靴紐をそれぞれ時間をかけて結び直すことにした。 「ごめん、結び終わった!」 「うん、大丈夫よ。それより……賢者の葉はどこに生えてるのかしらね?」  再び歩み始めたピノの足取りは軽く、先程のぎこちなさが取れている。やはり俺の思ったとおりだ。  一方の俺も、ここに来てポーションの水分が膀胱に溜まって来ているのを感じている。だが、そこは経験の差、何も無かったかのように漏らして、おむつに受け止めてもらう。最近のおむつは優秀なので、多少のおもらしでは不快感はほぼ無いと言っても良いし、少しずつ出したほうが吸水帯にゆっくりとまんべんなく染み込むので、一度にたくさん出すよりも安全なのだ。  なおも一本道を歩き続けていると、再び大きな空間に出た。その部屋にはこれまでとは違い、上から光が差し込み部屋の中央をスポットライトのように照らしていた。壁や天井には青く淡く光る魔石の欠片も埋まっているが、この光はそれから発せられるものではなく、はるか上の地上から届いているようだ。  部屋は、ほとんどが水で満たされており、水を覗くも自分の顔が写るのみで、それがどれほど深いのか推し量ることはできない。俺達が立っている場所から部屋の中央にかけてはわずかに陸地となっており、光で照らされた部屋の中央にのみ植物が生い茂っている。 「もしかして、あれがその賢者の葉?」  俺はベルに聞いた。 「ここが洞窟の一番奥だし、多分そうね。サンプルを持って帰りましょう!」  俺達は水に落ちぬよう慎重に部屋の中央へ進んだ。  そして、荷物の中から採集のための道具を出し、ベルへ手渡した。  「見た目はあまり変わらないわね。もしかして、魔法の光と自然光のバランスが大事なのかも……?」  ベルが独り言を言うのは珍しい。内心、かなり嬉しいのだろう。 「これでベルの研究が進むな!」 「そうね、本当にありがとう。帰ったら半分は植えてみて、残りでエーテルを作ってみるわ」  ベルは感謝の眼差しで俺とピノを見つめた。 「今のものよりもよく効いて、利尿作用の少ないエーテルを完成させるための第一歩よ」  しかしその時、突然足元が揺れ始めた。洞窟の天井から小さな石が落ちてきた。 「何だ?地震か?」  俺は驚いて周囲を見渡した。 「いや、これは……」  ピノは不安そうな表情を浮かべ、杖をかまえた。 「何かが近づいているわ……!」  その瞬間、大きな唸り声が洞窟内に響き渡り、水の奥底から巨大な魔物が姿を現した。それはナマズのような姿をしており、口の横から伸びるヒゲの長さだけでも俺達の何倍もありそうだ。  魔物がそのヒレをひとかきすると大きな波が立ち、大量の水が俺達に降り注ぐ。腰の部分からおむつの中に水が侵入してくるのを感じた。まずい。  傍らに置いてある荷物の中身もびしょ濡れだ。採集道具を出すために開けっ放しにしていたのが良くなかった。俺は慌てて替えのおむつを確認するも、時すでに遅し。どれも真水をたっぷりと吸い込み、パンパンに膨れ上がってしまっている。これではもう使い物にならないだろう。 「もう目的のものは手に入れたわ!ここは逃げの一手よ!」  ベルのかけ語で俺達は我に返り、魔物から逃げようとするも、回り込まれて逃げ道を塞がれてしまった。  ピノは杖を構えた。 「やるしか無いわ、行くわよケン! ベルは防御魔法をお願い!」  俺は緊張しながらも、魔力を集中させ、火の玉を放った。杖の先から飛び出たのは先日よりも大きく、勢いの良い火の玉だ。魔物は怯み、その表面には丸い焦げ跡が残る。  次の瞬間、鋭利な二本の氷の刃が魔物の後頭部と脇腹を貫いた。魔物の巨体が動きを止め、そして深い水の底へ沈みながら、消滅した。 「やったわね、ケン。ナイスアシスト」 「今のは……?」 「高速で氷の刃を放つ魔法よ。二本一気に撃つのは初めてだったけど、上手くいって良かったわ」  さすがに魔法使いとしてピノの腕前は素晴らしい。しかしその呼吸は荒く、今の魔法でかなりの魔力を消費しているであるうことを感じさせた。おむつの吸水力も残り少ないはずなので、できればこれ以上のエーテル摂取は避けたいところだが、魔力を回復しなければ移動できそうにもない。 「これで少しは魔力が回復するわ、後は帰るだけだから、なんとか頑張りましょう」  ベルはエーテルの瓶を取り出し、ピノと俺に手渡した。 ******  来た道を引き返す。これは一見簡単そうに見えて、とても困難なことだ。特に今回のように、全身ずぶ濡れで身体を冷やされ、荷物も濡れて重くなったような状況では。  なんとか目的の賢者の葉を手に入れた俺達は再び洞窟の中の一本道を歩いていた。荷物や服から水が滴り、地面に点々と黒いシミを作っている。  エーテルを摂取してからもうしばらく経つ。まだ尿意に襲われてはいないが、おむつの吸水力は残り少ない。前を歩くピノも、足取りが重そうだ。明かりをつけ続けることでも魔力を消費するので、少なくともあと一度はエーテルを飲まねばならないだろう。  一本道から広い空間へ出る。これで残りは半分だ。小休止のために荷物を下ろそうとしたが、それをベルが制する。 「待って、また魔物の気配がするわ。もしかして、さっきの戦闘で勘付かれた……?」 「そんな、行きの時はいなかったのに……!」  こちらが戦う準備を整える前に魔物の群れが襲いかかってきた。カエルのような魔物、コウモリのように洞窟内を自由自在に飛び回る魔物、ゼリー状の身体を持ち、こちらの動きを封じようとする魔物。有象無象の魔物が立て続けに襲ってくる。  どの魔物も先程の巨大ナマズに比べれば強敵ではなく火の玉、氷の刃、そして防御魔法で対処できる。しかし、それらが間断なく現れるので、一々足止めを喰らい、魔力を消耗し、なかなか洞窟の出口へ続く一本道へたどり着くことができない。 「くそっ、これじゃ埒が明かないぞ!」  ふと後ろを振り向くと、荷物から滴った水跡が目に入った。荷物の中にはそうだ、使用済みのおむつも入っている! そこに水がかかったことで、わずかに魔力が漏れ出して魔物を引き寄せていたのか。  ふいにピノの杖から発せられる明かりが弱くなった。彼女の魔力切れが近い。 「ピノ! いいから魔力を回復するんだ」 「でも……もうこっちの方もヤバくて……」 「いいから!」  俺はエーテルを瓶を何本かまとめてピノに投げ付けた。ピノは半ばヤケになってその全てを飲み干す。飲み干した次の瞬間、部屋中の魔物という魔物が、氷の刃で刺され、消滅した。 「はぁ……はぁ……今のうちに行くわよ」 「ありがとうピノ! 急ごう」  ピノの息遣いはかなり荒く、尿意の限界が近い。最後におしっこをしてからもうかなり経っている上に、水で身体も冷やされている。エーテルを何本も飲み干し、履いているおむつは移動中のおもらしと水、それに汗や湿気も吸収している。早く取り替えるべきだか、そのための新しいおむつもない。もしも今の状況でおもらししておむつから溢れさせてしまったら一巻の終わりだ。これがピノが味わったトラウマということか。  なおも襲い来る魔物の群れを薙ぎ払い、ようやく俺達は広い部屋からなんとか一本道へ進むことが出来た。後は真っ直ぐ進めば出口である。  しかし更に悪いことに、ここへ来て俺の尿意も再び高まってきた。まだわずかに吸収力の残るおむつへ、じゅわ、じゅわっと、小出しにする。吸い込みは悪く、真水よりもほんの少しだけ粘度のある生ぬるい液体が皮膚に接しているのが分かる。ギャザーのおかげでなんとか溢れずに済んでいるのだ。  ピノはピノで、先程よりもより一層ぎこちない歩き方をしており、時々歩みを止めては片手で前を押さえている。 「あとちょっと……あとちょっと……」  だが、まだ出口は見えない。ついにピノは立ち止まってしまった。半泣きになり、右手の杖で体重を支え、左手で必死にダムの出口を押さえている。 「ごめん……もう……無理かも……」  このまま我慢していても今しがた飲んだエーテルがどんどんおしっこに変わっていくだけで、状況が良くなる見込みはない。 「俺は洞窟を照らすことは出来ないが、ピノの運ぶことなら出来るぞ!ベル、悪いけどしばらく荷物を背負ってくれないか」  俺はそう言って荷物をベルへ渡し、ピノを背負った。突然の出来事にピノはわずかにあっ、と声をあげたが、おとなしく俺に背負われた。  再び歩き始めると背中からピノの体温を感じた。それからすぐに、それと同じくらい温かい水の感触がした。限界まで我慢したおもらしが一気に解放されたのだ。その温かい流れはおむつの吸収力の限界を超えてもすぐには溢れず、しばらくはギャザーで堰き止められていたが、ついにそれをも乗り越え、俺の腰から太ももの後ろを伝い、最後には地面へ達した。  すると一本道の後ろの方から大きな、複数のおぞましい鳴き声が聞こえてきた。魔物だ。今のおもらしでダンジョン中の魔物を引き寄せてしまったに違いない。どうせ相手になんて出来っこないのだから振り返らず、今は一刻も早く出口へたどり着くことだけを考えよう。  俺達は洞窟の中を走り、ついに地上の光が見えた。走りながら振り向くと、後ろからは魔物が迫っており、無数の赤く光った目が見える。 「ピノ、出口だ! 出た瞬間に空へ飛べるか?」 「行けるわ!」  地上へ飛び出した瞬間、ピノが空中移動魔法を放った。俺達三人は空高く舞い、地面がぐんぐん遠ざかる。数秒後、洞窟からは大量の魔物が一斉に地上へ溢れ出てきた。 「あっぶねー!あんな数、相手に出来ないよ」  体勢が落ち着いた頃、背中のピノから声をかけられた。 「ところでケン、もう背負わなくて大丈夫よ。その、もう……全部、出ちゃってるし……」  ああ、そうだった。ピノは別に怪我をしていたわけではなかった。全部漏らしてしまったなら、もう背負う必要は無かった。  俺達は洞窟から十分離れた場所に一度降り、身体を拭き、服を乾かした。魔物に襲われつつも、大事な賢者の葉は死守できており、ひとまず洞窟の探索は成功と言えよう。  おむつはなくなってしまったが、エーテルにはまだ余裕があったので、空を飛んで帰ることにした。何しろ、歩いて泊まりで帰ったら、またおねしょの処理から始める朝が二日続くことがほぼ決まっているのだ。  空の旅は快適で、そして驚くほど順調だった。洞窟に行くまでは三日かかったが、帰りは半日しかかからなかった。空が夕焼けから夜の色へ変わる頃、見慣れた街の景色が目に入った。  もう洞窟の場所は分かったのだし、もしも次回行くことになったら洞窟の近くに前哨基地を作って、そこに物資を保管しておけばもっとスムーズに探索できるだろう。  こうして、俺達は何日かぶりに街へ帰還した。 ******  翌朝、ベルは研究道具を取り出し、賢者の葉の分析を始めた。 「これで新しいエーテルが完成するのも時間の問題ね」  ピノはベルが使用する実験道具を慎重に扱いながら言った。俺もベルの指示に従い、器具を手渡したり、必要な材料を準備したりした。 「ベル、どう? うまくいきそう?」  ピノは興味津々で尋ねた。 「順調よ。予想通り、この葉には思った以上の魔力が含まれているわ」  ベルは満足げに答えた。 「これなら、高品質なエーテルが作れるはず」  それから数時間後、新たなエーテルの最初の試作品が完成した。ベルは小さな瓶に入れたエーテルを手に取り、ピノに差し出した。 「試してみて、ピノ。このエーテルにどれだけの効果があるか確認したいの」  ベルが言った。ピノはエーテルを受け取り、慎重に一口飲んだ。その瞬間、目が輝いた。 「すごい……! こんなに強力なエーテルは初めてよ、回復量が今の倍はあるわ」  ピノは驚きの声を上げた。 「成功ね!」  ベルは喜びの声を上げ、俺も笑顔になった。 「ケン、ピノ、本当にありがとう。あなたたちのおかげで、この研究がここまで進んだわ」 「これで、次の冒険にももっと安心して出発できるわね」  ピノも嬉しそうに笑った。  が、しかし。問題はここからだった。ピノが試作品エーテルを飲んでからしばらく経つと……。 「待って待って待って! 漏れちゃう!!」  ピノが慌ててトイレに駆け込む。どうやらこの試作品、魔力の回復量は大きいが、同時に利尿作用も強くなっているようだ。 「あ、危なかった……」  かろうじて難を逃れたピノが呟く。 「ベル……次は利尿作用を抑える改良がいるわね」 「ふーむ……。賢者の葉を変えただけでは不十分かあ……。まあ、研究は一歩ずつしか進まないものよ」 ******  その夜、俺たちは小さなパーティーを開き、みんなで成功を祝った。探検中は食べられない固体の食事は格別だ。 「探検後のご飯と酒はたまらないわね!」  ピノがワインを片手に上機嫌にはなす。その外見からは忘れがちだが、俺よりも歳上だし酒も飲む。 「そうだね。俺たちならどんな危険だって乗り越えられるさ」 「何を上手いことまとめようとしているの! ケンは私の弟子だし、まだ鍛錬が必要よ! まあそれでもレベルは上がってるし……おむつの件ではあれこれ感謝してるわ……」  途中まで威勢が良かったのが、探検中の数々の失敗を思い出したのか、尻すぼみになっている。 「それでも、探検は成功したし、新しいエーテルも作れたのは、ケンが探検に参加してくれたからよ」  ベルのナイスフォローだ。俺達は改めてグラスを掲げた。 「それでは改めて、乾杯!」  こうして俺達は、エーテルの研究と新たな冒険に向けて準備を整えながら、今は一時の休息を得るのであった。


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