【小説】異世界最強の魔法使いエルフは紙おむつが手放せません!? 第七話 私、下着は布でって言ったよね!?
Added 2024-09-30 15:00:00 +0000 UTC賢者の葉を探す冒険から数日経った朝、俺はいつものように目覚めた。顔を洗うため一階へ階段を半分ほど降りたところで、ベルがもう実験を始めていることに気がついた。 普段俺達が食事を取ったり、雑談したりしているテーブルの上には、沢山のフラスコや試験管や、名前の分からない器具が並べられており、そのいくつかからは淡い光が溢れ、広間を照らしている。 「なんか……すげぇな……」 俺は思わず呟いた。 普段は穏やかで優しいベルだが、研究に没頭している時は別人になってしまうようだ。彼女は目の前の液体を真剣に見つめながら、独り言を呟いている。 「やっぱり……新しい賢者の葉の魔力反応は想像以上だわ。フフフ……デュフフフ……」 ベルは自分自身に語りかけているようだった。 いつの間にか起きてきたピノが後ろに立っている。ピノは苦笑しながら言う。 「ベル……オタクモードに入っちゃったのね……。ああなるとしばらくは放っておくしかないの。気をつけてね、話しかけると怒るから」 そんな飢えた野生動物みたいな……。 ベルは俺たちが降りてきたことにも気づかず、フラスコや試験管を忙しそうに動かしている。普段の彼女の穏やかさが嘘のように、目の前の実験に夢中だ。 「デュフフフ……これで抽出の効率が……。あとは少し調整して……いや、待って、ここを変えればもっと魔力が安定するかも……!デュフフフフ………フフ………」 ベルはまるで何かの魔法を詠唱するように独り言を口にしながら作業を進めている。科学者というかオタクというか……マッドサイエンティストという表現が一番しっくりくる。 「じゃあ……ベルのことは放っておくとして、俺たちは……どうする?」 ベルを放置しておくのは良いが、調理場まで使って実験をしているので朝食を作ることもできそうにない。しかし、冒険中でもないのでポーションだけの味気ない食事は出来れば避けたい。 「ここにはコンビニとかねぇもんな……」 日本の便利さに想いを馳せずにはいられなかった。 「コンビニ? 何それ……? ちょっと歩けば朝から開いてるお店があるからそこに行きましょ。あ、そうだ! 今日はついでに冒険者ギルドにも行くわよ」 ピノが俺に向かって微笑んだ。 そう、これだよこれ。ここに来てようやく本来の異世界感が出てきた。俺の異世界生活は、俺の性癖のせいで、おもらしとおむつの割合がやたらと高いが、とりあえず異世界といえばギルド、ギルドといえば異世界なのである。 今やベルの研究室と化した家を後にした俺達は、朝から開いている屋台で買ったパンをかじりながら、「冒険者ギルド」へ向かうことにした。 ****** 緩い斜面になっている大通りを登っていくと、やがて周りの民家よりも一回りほど大きな、石造りの建物が見えてきた。どうやらこれが冒険者ギルドのようだ。 重みのある観音開きの扉を開けると、大きな広間になっていた。そこには街の賑わいとはまた異なる活気があり、入口からも見える巨大な掲示板には、魔物の討伐依頼や仲間募集のためと思しき紙がびっしりと貼られ、それを見ながら談笑する冒険者たちがいた。全身を鎧で固め大振りの剣を背負った戦士や、ピノの旅装束によく似たローブ姿の魔法使いだけでなく、弓を持つ者、斧を担ぐ者など、その身なりは様々だ。 「ここが冒険者ギルドよ。ここで冒険者として登録しておけば色々な依頼を受けたり、仲間を見つけたり、他にも納税や保険の手続きもできるし、まあ言ってみれば冒険者の活動拠点ってところね。もちろん私とベルも冒険者の一員よ」 「おおー! これが冒険者たちの世界か! というか、冒険者にも税金ってあるのね」 「当たり前じゃない! 街の結界を張るのにも道路を舗装するのにもお金は必要なのよ? ケンってそれなりに賢そうに見えて、時々抜けたこと言うわよね……」 日本の現役公務員にそのような事を言うとは何事だ! 督促状と書かれた赤い封筒を家に送ってやってもいいのだぞ。 「とりあえず受付で冒険者の登録しよっか」 ピノが俺を促し、受付へ向かわせる。 受付には女性スタッフが座っており、次々と冒険者たちの要望に応じていた。 「すみません。彼、ケンを冒険者として登録したいんです。私の元で魔法を学ばせているんですが、そろそろ冒険者として登録しても良いかな……って」 ピノが声をかけると、受付の女性は少し驚いたような表情で俺たちを見上げた。 「あらおはようございますピノさん。ついにお弟子さんを取られたんですね! えーっと、ちょっと待って下さいね、必要書類を出しますので。そちらのケンさん……でしたっけ? 冒険者登録をしたい方は身分証明書をお出しください」 身分証明書……恐らく街に入るときにに貰った通行証の事だろう。俺は手帳のような見た目のそれを、受付のお姉さんへ差し出した。 「ありがとうございます。あら……? これ、身分証の部分が空白になっていますね」 少し困ったような表情で手帳をパラパラとめくるお姉さん。 「あーそうだった、この子。遠くの国から来てて身元が定かじゃないのよ。だからこの通行証も特別に出してもらったの。でも大丈夫、ここに来てからは私がきっちり指導しているし、この間は一緒に冒険にも行ったわ!」 すかさずピノがフォローを入れる。 「そうでしたか……まあでも、ピノさんが保証人になってくださるのでしたら特例ということで、まあ大丈夫でしょう! こういうケースは意外とありますので。上の方には上手いこと話を通しておきます」 思ったより適当な審査である。ここであれこれ言うと話が長くなりそうだから黙っておこう。 受付のお姉さんは目を閉じて、何かの魔法を手帳に向かって唱えた。どうやらそれが冒険者登録の儀式のようだ。 「はい、これでケンさんは冒険者として登録されました、おめでとうございます!」 「これで晴れて冒険者になったわね、ケン!」 ピノが満足げに微笑んだ。 「お、おう! ……で、冒険者っていうのになったのはいいんだけど、具体的に何がどうなるんだ?」 「はい、それも私から説明しますね」 そう言うと受付のお姉さんは俺が差し出した手帳を手に説明しはじめた。 「実はこの手帳は街の通行証や身分証明書であるだけでなく、魔法がかけられた道具、いわゆる魔道具の一つで、冒険者になると機能が増やせるんです。具体的に言うと、今どんな技能を持っているか、どんな魔物を倒したことがあるか。そういうことが自動で書き込まれていきます。例えばここ、見えますか?」 お姉さんが指さしたページには、「初級冒険者、ケン。累計ダンジョン攻略数、一箇所。魔物討伐数、銀白色の狼一匹、洞窟の大ナマズ一匹」と記載されている。 「このような冒険や魔物の討伐といったものを『クエスト』と呼びます。クエスト達成の実績を積んでいけば、初級冒険者から中級、上級、最上級冒険者へとランクアップしていき、それに伴い危険度も報酬も高い依頼を受けることができます。次に技能の欄ですが、ケンさんはすでに『ファイア』の魔法を習得されていますね!」 なるほど、この手帳を見ればその冒険者がどれほどの実力を持つかすぐに分かるということか! 「それと『オムツァー』って技能も習得されているんですが……何の技能でしょうね、これ……?」 「え……? い、いやー僕にもちょっと心当たりがないですね! 何か隠された技能みたいなものですかね? いやー参ったなハハハ……」 心当たりがありまくりである。それは隠された技能ではなく、隠したい性癖なのだから、自動的に書き込まないでいただきたい。恐るべし、魔道具。 「ああそれと、各種クエストの報酬ですが、額面がそのまま貰えるのではなく、ギルドへの手数料と各種税金、そして保険料が控除された額が支払われます。一年分の計算をご自身でなさって後で納めにきても問題ないのですが、いかがしますか?」 えっ、なにそのリアルさ……。世知辛すぎるんですけど? 「えっ……じゃあ、よくわからないけど天引きでお願いします……」 「かしこまりました。こういうところはちゃんと伝えておかないと、初級冒険者さんが怒ったり落ち込んだりする例が結構ありまして……。あと、たまにクエストで稼いだ金額を不用品の売却などで計上して誤魔化そうとする冒険者さんもいらっしゃるんですが、手帳にクエスト記録が残っているのですぐにバレちゃいます。とっても怒られる上に重加算税もかかるし、クエスト依頼主にも迷惑がかかるので申告はキチンとしましょうね!」 今しがたせっかく冒険者になったばかりだというのに、まるで税務署に来たかのような話を聞かせれて気分が盛り下がってしまった。が、しかし。俺は晴れて冒険者になったのだ。 ここからのストーリーはもう出来ている。ピノという高名な魔法使いの元で弟子として修行しつつ、冒険者としてクエストをバリバリこなして実力をつけ、地底のドラゴン、そして魔王を打ち倒す勇者になるのだ、と俺は掲示板の前で決意を新たにした。この際、おむつのことは、一旦置いておこう。 ふと受付の方を見ると、黒髪の幼い女の子が受付のスタッフに身振り手振りで何かを必死に訴えている。彼女は大きな荷物を提げ、青みがかった灰色の丈夫で機能的そうなスカートにブラウスを着て、膝下ほどまで長さのある深緑色のマントを羽織り、腰には短剣。服装だけを見れば立派な冒険者だ。しかしあまりにも華奢で、背の高さも俺の腰辺りまでしかなく、受付のカウンターからようやく頭だけが見えているような状態だ。昼用はともかく、夜用おむつは取れていなくてもおかしくないだろう。 「ふん、私を冒険者として認めないなど、あなたたちには私の真の力が見えていないのだっ!」 そして彼女は少し大人っぽい……というよりも、中二病をこじらせたような口調で話していたが、幼さを隠しきれていない。その仰々しい口調をもってしても可愛らしさがにじみ出てしまっている。 「すみませんが、その……まだお若いので……。お父さんかお母さんは一緒に来てる?」 受付のスタッフが困惑した表情で対応しているのを見て、俺とピノが顔を見合わせる。先に声をかけたのはピノだった。 「ねえお嬢ちゃん、どうしたの?」 彼女は俺達の方を振り返り、真剣な眼差しを向けてきた。 「私を子供扱いするでない! 我が名はミナドリエル・ミアンディル! 高名な一族より生まれし者……だが、この世の凡俗どもは私の力を見抜けぬようだ!」 「ミナ……なんだっけ……とにかくすごい名前ね……」 ピノも俺も、その長い名前と特徴的すぎる自己紹介に圧倒されたつつも、とりあえず広間の端にある休憩スペースへ移動し、彼女の話を聞くことにした。 「それで……どうして君は冒険者になろうと思ったの?」 ピノは小さい子をあやすような口調で聞いた。 「私も、その……ま、魔王と倒したいと思いまして……っ!」 なんだ、普通に喋れるのか。ずっとあの調子だったらどうしようかと思った。 「あら、私と同じね! もう少し大きくなったら冒険者になれる……かな? 確かに冒険者になるのに年齢制限は無いのだけれど、かなり危ないお仕事なのよ?」 「そんなに見くびらないでください! こう見えても、私結構強いんですよ! まだ冒険者ではないので、見せられる実績は無いんですけど……」 「それなら、試しに私たちのパーティに入ってみる? ちゃんと冒険者としてやっていけそうか、私が見てあげるから」 そうピノが提案した。俺と同じように、すでに冒険者であるピノとともに実績を作って特例で認めてもらおうということだ。 「こう見えて、私はそれなりの冒険者なの、どう?」 そう言いながらピノは手帳を取り出した。彼女の実力をきちんと見るのは俺も初めてだ。そこに書かれていたのは「最上級冒険者」の文字。そしてすぐには数え切れないほどの討伐魔物に魔法の数々。 ただしダンジョン攻略数のみはたったの二つだ。理由は大体察せるが、なんとアンバランスな実績なのだろう……。 「最上級冒険者……確かにこれはすごいですね。分かりましたピノさん、私が冒険者に相応しいか見てください!」 「良かったわ、ミナドリエル。改めてよろしくお願いします! ……もし良ければ、もっと親しみやすく『みなみん』って呼んでもいい? 正直なところ、フルネームだと舌を噛みそうなの……」 ピノが笑いながら提案すると、ミナドリエルは一瞬驚いたが、少し考えてから頷いた。 「み、みなみん……まぁ、悪くない!我は泣く子も黙る冒険者、みなみんだ!」 ミナドリエル・ミアンディル改めみなみんは、嬉しそうに宣言した。 「じゃあ早速だけど、掲示板に載っている依頼から簡単そうなものを受けてみましょうか!」 ピノがそう言って、ギルドの掲示板を指差した。 掲示板には大小さまざまなクエストが貼られている。魔物の討伐や護衛依頼、宝物の捜索など、冒険者として挑むべき課題が無数に並んでいた。初級冒険者向けの簡単な依頼もあれば、中、上級冒険者向けの難易度の高いものまで、選択肢は豊富だ。 「これなんてどう?」 ピノが指差したのは、近くの森で大量発生した「ねばねばスライム」という魔物を退治するという依頼だった。報酬も悪くなさそうだ。 「そこまで難しいクエストではなさそうだし、みなみんの実力を見るにはちょうどいいと思うわ」 「スライム退治か……悪くない。俺たちのチームワークを確認するにもちょうどいいな。ねばねばってところがなんか引っかかるけど……」 とはいえ、スライムといえば俺がこの世界で最初に戦った魔物だ。あの時は戦うというよりも一方的にやられてばかりだったが、今はどうだろう? 俺が本当に実力をつけたかも確かめてみたかった。 「どのような名前がついていようとスライムはスライム!我の力で一瞬で葬り去ってみせよう!」 みなみんは得意げに胸を張ったが、やはり可愛らしさが隠しきれていない。本当にそんなに強いのだろうか? ****** 街からほど近い森にそのスライムは湧いているらしい。戦闘に最低限必要な武器や回復薬だけを持った俺達は、俺が先頭、みなみんが真ん中、最後尾がピノの順で、どちらからスライムに襲われても良いように周囲を警戒しながら森の奥へと進んで行く。 「なあピノ、この森はダンジョンなのか?」 前々から気になっていたのだ。ダンジョンとそれ以外の場所の違いは一体なんなのかと。 「そうね、ダンジョンの定義は難しいのだけれど、魔物が多く出る場所という括りの場合、今のこの森はダンジョンと呼べるわね」 意外とその定義は概念的なもののようだ。 その後も俺達は歩みを進める。周囲を見渡しても鬱蒼とした下草と生い茂る木々が見えるばかりで魔物らしきものは見えない。 その時だった。俺の首筋に何か粘り気のある生ぬるいものが落ちてきた。 「うわっ! なんか首筋に落ちてきたんですけど?!」 「来たわね、ねばねばスライ厶! ケン、その緑色のねばねばが討伐対象の魔物よ!」 「上から落ちてくるとか聞いてないんだけど!!」 俺はスライムを振り払おうと首をぶんぶん回すが、ねばねばスライ厶は文字通りねばねばで、一向に引き剥がせる気配がない。なんだか首筋が痒くなってきた気がするしそれ以上に……。 「なんか! 服、溶けてきてない?!」 このままでは女子と女児の前にわいせつ物を陳列することになってしまう、いやその前におむつを見せることになるか……。その順序はどちらでも良いが、とりあえずこいつをなんとかしなければ! ふとみなみんの方を見ると、彼女は小柄な体をさらに低く構え、じっとスライムの動きを伺っていた。その手には小さな杖ではなく、鋭い輝きを放つ細い針のような武器が握られている。それを見て俺は気づいた。彼女の戦闘スタイルは魔法ではなく、もっと直接的なものだということに。あの腰から下げていたのは短剣ではなく針だったのか。 「みなみん、それ……魔法じゃないよな?!」 俺は尋ねた。 「ふん、魔法ももちろん私の一部だが……実のところ、私は『影の刃』を使う戦いのほうが得意なのだ!」 みなみんは得意げにその針を見せつけた。どうやら戦闘モードに入ると、中二病のスイッチも入ってしまうらしい。 ピノが驚いた表情を浮かべる。 「それは……刺突系の武器ね。みなみん、あなた、まさか物理攻撃が得意だったの?」 みなみんはニヤリと笑って頷いた。「どんな魔物にも弱点の一箇所や二箇所はある! そこを突けば脆いものよ」 俺は半信半疑でその細い針を見つめた。あんな小さな武器で本当に戦えるのか? だが、みなみんの自信に満ちた態度を見て、俺は彼女を信じてみることにした。動きを止め、彼女の側に背を向ける。 背を向けているため分からないが、がさっと下草が揺れる音がした次の瞬間、俺の首からねばねばした感触が消え去った。 「一撃必殺」 みなみんは短く呟き、その針を鞘へ納める音がした。 「ま、まじか……」 俺が振り返るとみなみんが溢れんばかりのしたり顔で俺に向かって胸を張っている。しかし実際、今のような無慈悲で正確な攻撃が小柄な幼女から繰り出されるとは想像もしていなかった。 ピノも驚きを隠せない。 「すごい……あんなに小さいのに、完璧な技術ね。魔法よりも物理攻撃に向いてるなんて! この世界で物理攻撃が得意な人はかなり珍しいわ」 「ふふん、まだ一体だ。見ていろ、次も瞬殺してやる!」 みなみんは次の獲物を探すべく、辺りの木を揺すったり蹴ったりし始めた。 するとどうだろう、俺達の上に雨あられの如く緑色のねばねばが降り注ぐ。 「おいみなみん! いきなり増えすぎだろ!」 「お主も冒険者なら、その力見せてみよ」 そう言いながら、みなみんは次々に落下してくるスライムを倒していく。ピノも落ちてくるスライムを華麗に避け、炎だの氷だのの魔法を唱え、効率よく対処している。俺も負けじと炎の魔法を唱え、そして剣を振るものの、一体倒すのにも苦戦する有様。 「強い……!」 俺は思わず口を開けていた。ピノの強さはもちろん、見た目の幼さや中二病的な口調とは裏腹に、みなみんの戦い方もまた、冷静で効率的。まさに「一撃必殺」の戦闘スタイルだった。 それから俺達は手当たり次第に木という木に蹴りを入れ、落下してきたスライムを討伐し続けた。何十匹か倒すと、それ以上のスライムは降ってこなかった。 どうやら討伐完了のようだ。 「ふう、なんとかやったな……」 俺は剣を収め、肩で息をしながら振り返った。みなみんは既に針をしまい、勝ち誇ったような表情を浮かべている。 「これが私の力だ。どうだ、感心したか?」 こうして、俺たちは大量発生したスライムの討伐を無事に終え、夕暮れの街に戻ってきた。 ギルドの扉を押し開け、中に入ると、ギルド内は相変わらずの賑わいで、他の冒険者たちがクエストの成果を報告したり、新たな依頼を探したりしていた。 「さあ、ギルドにスライムのことを報告しましょうか、あとはみなみんのことも」 受付にいたのは朝と同じお姉さんだ。こちらに気づき、笑顔を見せる。 「お疲れ様でした。スライム討伐のクエストは無事に終わりましたか?」 「ええ、服がちょっと溶けかけてますけど……無事に完了しましたよ! と言っても、一番活躍したのはこの子ですけど」 俺が答えると、お姉さんは俺たちの冒険者ライセンスを手に取り、微笑みながら言った。 「ねばねばスライム二百五十体の討伐を確認しました。お見事です!報酬として、銀貨十枚が支払われます」 「二百五十体?!」 思わずピノの方を見るが、ピノはみなみんの方を向く。 「大半はみなみんの成果よ。ケンはせいぜい十体ってところじゃないかしら。私は五十体くらいかしらね」 ピノはそう言いながら、銀貨を受け取った。この世界の通貨価値を考えると、一人でこれだけ稼げれば、一ヶ月くらいは生きていけるだろう。 「討伐数で考えるとみなみんが八割でいいわよね?」 そう言いつつ、ピノは今受け取った銀貨を数え、みなみんへ手渡す。 「わああ、ありがとうございます!これが冒険者の報酬というものなのですね、うれしい!」 みなみんは心から嬉しそうな表情をする。ピノが続ける。 「さて、みなみん。今日一緒にクエストをして、あなたが冒険者になる実力があることはよくわかったわ。丁度私達には近接戦闘が得意な者がいないし、良ければ仲間にならない?」 その呼びかけに、みなみんの目がパッと開いた。 「おお! 私を冒険者として認めてくれた上、仲間にもしてくれるのですか! これも何かの縁、ぜひよろしくお願いします!」 「ありがとう! では改めてよろしくね、みなみん!」 ギルドでの報酬を受け取り、ピノが保証人となりみなみんを冒険者として登録した後、俺たちは家に向かって歩いていた。 「みなみん、これからしばらく俺たちと一緒に生活することになるけど、大丈夫か?」 俺はみなみんに声をかけた。 「そんな子供扱いしないでください! 大丈夫です、多分どんな環境でもちゃんと眠れる……はずなので!」 「そう、それなら良かったわ」 ピノがにっこりと微笑んだ。しかし、みなみんの言い方には何か含みがあるようだが大丈夫だろうか? みなみんは背中に大きな荷物を背負っていて、それが妙に目立っていた。その小柄な体に対して、荷物はかなり大きいが、彼女はあまり気にしている様子もなく、軽々と背負っている。 「その荷物、重くないか? 中身は何が入ってるんだ?」 俺が問いかけると、みなみんの表情が一瞬硬くなり、慌てて答えた。 「な、何も特別なものは入っていない! 私の大事なものが入っているだけだ。余計な詮索はしないでくれ!」 彼女は顔を赤らめながら、慌てたように荷物を押さえる。 「わかった、わかったよ。詮索はしないさ」 俺は少し笑いながら言ったが、どうやら彼女はその中身を知られたくないようだった。 やがて、俺たちは家へ帰ってきた。広間へ入ると、ベルは実験道具の片付けをしていた。朝のような話しかけてはいけないような気配はしないので、どうやらオタクモードは解除されているみたいだ。 「ただいま、ベル」 俺が声をかけるとベルが顔を向け、そして怪訝な顔をした。 「おかえりなさい、ピノ、ケン。……えっと、その子は……」 「えっと、彼女はみなみん。新しい仲間で……」 俺が説明を始めようとすると。 「ちょっと待って、ケン。まさか……あなた、ついに幼女を誘拐してきたんじゃないでしょうね!?」 ベルは真剣な顔で俺を睨みつけた。 「えっ、いやいや、違う違う! 誘拐なんかじゃないよ、ちゃんと説明するから落ち着いてくれ! ……っていうか『ついに』って何だよ!」 みなみんはそのやり取りに少し困惑しているようだったが、気を取り直して言った。 「ふん、私は光と闇の狭間より生まれし者、ミナドリエル・ミナンディルだ。だが、君たちは私を『みなみん』と呼ぶがよい!」 みなみんは自己紹介の時はこうでないと締まらないらしい。ベルはその仰々しい自己紹介に少し驚きつつも、俺を再び見つめて。 「本当にそうなの?」 と確認してきた。 「本当だよ。彼女は冒険者として仲間に加わってくれたんだ。スライム討伐でも大活躍してくれたし、これから一緒に暮らすことにも賛成してくれたよ」 ベルはほっとした表情を浮かべる。 「それならよかったわ。でも……あまりにも小さいから、心配しちゃったのよ。二階に空きの寝室があるから、そこを使っていいわよ。それにしても、その荷物……かなり大きいわね。何が入っているの?」 ベルもまた興味深げにみなみんの背中の荷物に視線を向けた。 「こ、これは私の大事なものだ!中身は絶対に見せない!それだけは約束してくれ!」 みなみんは慌てて荷物を隠すように背中を向ける。俺たちは思わず顔を見合わせ、苦笑した。どうやらその荷物には彼女にとってよほど大切な秘密があるらしい。 ****** 翌朝、俺は「あーーーっ!」という大きな声で目が覚めた。これは、みなみんの声だ。 「おい! どうした、大丈夫か!」 飛び起きた俺は、みなみんの部屋を拳で叩きながら呼びかけた。 中から返事はない。もしかしたら大変な事が起こっているのかもしれないと思い慌てて部屋に入ると、そこにはベッドの上で女の子座りをしたみなみんがいた。 「ふええ……ケンさん……ごめんなさい……。私……私……」 涙目で何かを訴えようとしているみなみん。こちらを向いたみなみんのパジャマは、腰から太ももにかけてぐっしょりと濡れており、その下のシーツもベッドもやはりたっぷりの水分を含みんでいるようだ。 俺は全てを察した。 「あー。やっちゃったか……」 ふと傍らを見るとみなみんの大きな荷物の中身であろう、長年使っていたのだろうか、清潔に洗濯されてはいるものの少し黄みがかった、たくさんの白い布が床に広げられていた。俺は直接使ったことはないが、これは多分布製のおむつだ。大きな荷物の中身はきっとこれだったのだろう。 「ご、ごめんなさい……一人だと……その上手く当てられなくて……」 みなみんはぽろぽろと涙をこぼしながら俺に謝罪してくる。 「大丈夫だよ、うちのピノだっておねしょ常習犯だから」 「誰が常習犯よ! こないだのは事故よ、事故! それに『うちのピノ』って立場が逆でしょ! 家主は私で、あなたは弟子! 」 いつの間にかピノが後ろに立っていた。俺と同じように、みなみんの声を聞いて起きてきたのだろう。 「事故……ってことはおねしょしたことは本当なのですか……?」 「もーーーー! ええ、本当よ本当!! 良いからほら、風呂に入るわよ、べちょべちょのままじゃ嫌でしょ!」 そういうとピノはみなみんを抱きかかえて一階へと降りていった。 一人部屋に残った俺の目に映るのは、ベッドの上に描かれた見事な世界地図。 ふと冷静になって考えると、ピノはエーテルの利尿作用に弱く、俺はオムツァー、新たに仲間になったみなみんは夜のおむつが取れていない。実にパーティの四人中三人がおむつ沼に肩まで浸かっていることに気づいてしまった。俺としては悪くない展開ではあるが……仮にも魔王を倒したり新しいエーテルを作ろうとしている冒険者がこんなことで大丈夫なのだろうか?
Comments
コメントありがとうございます!! 正直新キャラをどうするかとっっっても悩んだのですが、欲求に素直に従いました!!!で、そのキャラで戦えそうなのって魔法使いか一撃必殺を狙うかのどっちかしか無さそうだったので自然あんな感じになってしまいましたw ケンは現状タダの的とか言う大変不憫な立ち位置なのでなんとかしてあげたいですね……!!また頑張って展開考えます💪💪
池野くるめ
2024-10-11 14:08:15 +0000 UTC遅ればせながら、更新お疲れ様です! 新メンバーのみなみんですが、かなり思い切ったサイズのロリですね。 個人的には嬉しいのですが、イラスト化しても運営に怒られませんように(祈) 編成として見ると、魔法使い、見習い魔法使い、学者、アサシンと、かなり変わってますが、プロローグに沿ってどこかでケンがジョブチェンジするのでしょうか。今後の成長に期待です。 そして本命のおねしょシーンですが、これはオヤスミマンのCMからですよね! みなみんはもちろん、ケンのセリフもそうなのは見落としてませんよ(笑) CMどおりに叱らないであげる展開もいいです。スパンキングとか苦手なので・・・ おねしょっ子のみなみんの活躍を楽しみにしてます!
ト
2024-10-11 10:22:55 +0000 UTC