【小説】異世界最強の魔法使いエルフは紙おむつが手放せません!? 第八話 オムツァーの冒険者ですが世界平和のためにボスをガチ討伐したいと思います(前編)
Added 2025-02-14 22:25:20 +0000 UTC「うちの子、まだおねしょが治ってなくて〜」 「今言ってはいけないことを言いましたね?! いいですか、私はまだ成長過程だからしょうがないのです! 大体ピノだってエーテルを飲んだらすぐ漏らすじゃないですか!」 などと、今日も朝からみなみんとピノが俺の目の前で言い争っている。 「なんて低レベルなんだ……」 俺が思わずボヤくと、二人から反撃が飛んでくる。 「ケンは黙ってて! オムツァーとかいう謎の特殊性癖スキル持ちのクセに!何の役に立つのよそのスキルは!!」 「そうですよ! 確かにケンが持ってきたおむ……夜用パンツの履き心地がいいのは分かりますが、わざと履いて漏らすなんて正直どうかと思います!」 思えば、みなみんがパーティに加入してからもう数ヶ月が経ったが、彼女もすっかり俺達に馴染んでくれた。 俺が別の世界からなぜかこの世界に来てしまったこと、その証拠になぜか元の世界の紙おむつだけはこの世界に持ち込めることは、みなみんがパーティに加入してほどなくして伝えた。同時に、夜寝る時は「それ」を履くことを勧めたところ、その可愛すぎるデザインに最初は抵抗したものの、布より便利ということに気づき、今ではヘビーユーザーだ。毎夜、お風呂から上がったときにはベルにおむつを履かせてもらっているが、まるでいつか見たテレビコマーシャルと変わらないシチュエーションである。 一方で、みなみんの加入は冒険者としての活動に大きくプラスであった。これまでは俺が壁か囮となり、ベルが戦闘の補助を行っていたため、実質ピノ一人が攻撃役であった。みなみんの加入によって、攻撃役がもう一人増えた結果、戦闘時の安定感が格段に増したのだ。戦力増強に成功した俺達は足しげく冒険者ギルドへ通い、様々な依頼をこなしていった。 初めは街の周りで発生した魔物の討伐が多かったが、徐々に難易度の高い――すなわち泊まりがけの――クエストも引き受けるようになり、いつの間にかピノの魔法使いとしての名声だけでなく、俺達全員が有能な冒険者パーティとして評価されるようになってきたのだ。 今日も、また新たな依頼を受けるために、冒険者ギルドへ向かおうかと思っていたところだ。 「ケン、ちょっと。ドアに手紙が挟まっていたわよ」 玄関の方から戻ってきたベルに声をかけられた。 彼女から受け取ったら白い封筒には、字は何も書かれておらず、ただ赤い紋章の封蝋印がされている。これは……街のあちこちで見かける、この地域を統治する領主の紋章だ。もうそれなりの期間をこの街過ごしているが、このような手紙を受け取るのは初めてである。 「領主から?……だよな、これ……?」 俺が封を眺めていると、みなみんとの口論にようやく区切りのついたピノが淡々と言った。 「領主『様』と呼びなさいよ。領主様が直に手紙なんて送ってくる時点で、ただの用事じゃないのは間違いなさそうね。とにかく開けてみなさい」 「おー、領主様からですか!これってもしかして大出世の予感でしょうか?」 みなみんも興味津々だ。 「はいはい……開けるよ」 俺は封を切り、中の手紙を広げた。 ――有能なる魔法使いにして冒険者のピノ殿、そしてベル殿、ケン殿、みなみん殿。 昨今の貴殿らの活躍は見事と言う他ない。貴殿らの腕を見込んで特別な依頼をしたく思うので、この手紙を受け取ったら、至急城までお越しいただきたい。―― 「直球すぎて逆に怖いんだけど」 俺が手紙をテーブルに置くと、ピノもそれを読みながら軽く眉を上げた。 「簡潔なときほど嫌な予感がするものよね。『特別』とか『至急』とか、きっとろくな依頼じゃないわ」 「でもでも! 私たちの実力が領主様に認められたなんてすごいことですよね! 行ってみる価値はあると思います!」 「というより、行かないという選択肢はすでに無いわね……」 みなみんが目を輝かせながら手を握りしめると、ピノは「やれやれ」と小さく息をついた。 「ま、もしかしたらとても良い依頼かもしれないし……さっさと準備して行きましょ」 そうして俺達は、ギルドに行くのではなくなんと領主の居城に行くことになったのだった。 ****** 家を出て、大通りへ抜けると、いつもの街並みが広がっていた。市場では果物や野菜が並び、冒険者や商人たちが行き交っている。 領主の住む城は、この街の中央、ギルドからさらに坂を登った丘の頂上にある。俺達はギルドへ出入りする人々を横目に丘の頂上を目指していた。 「領主様直々の依頼って、どんな内容だと思う?」 俺が問いかけると、ピノが冷静に答えた。 「実は、領主様には昔何回か仕事をもらったことがあるのだけれど、こういう直の依頼の時は大抵の場合、他の冒険者が尻込みするようなものね。過度な期待は禁物よ」 それを聞いたベルが、少しいじわるっぽい笑みを浮かべる。 「でも、今の私たちなら何とかなるでしょう? 魔物の討伐や長期の冒険の依頼だったとしても、ケンがどこからか定期的に運んでくる『チートアイテム』のおかげで、エーテル飲み放題、魔法撃ち放題、漏らし放題みたいなものなのだし」 「ちょっと! 街中でそんなこというのやめなさいよ! 一応、私にもプライドってものがあるのよ」 ピノが顔を赤くしながら言う。しかし、実際ベルの言うとおりではある。正直なところ、ダンジョン探索においてあんなに便利なアイテムはそうそうないだろう。探索における最大の懸念事項をほぼ解決できるのだ。俺達のパーティからその情報が漏れれば、世の中の冒険者と冒険者はみなこぞっておむつを履き始めるに違いない。 ちなみに、この世界にいる人間にとっては俺が一瞬消えて、次の瞬間には新しいおむつを手にしているようにしか見えないだろうが(おそらくこれがオムツァーというスキルなのだろう)、実は元の世界に戻った俺は、毎回数ヶ月間労働に従事している。 昨今の物価高の中、毎日大量のおむつを買うほど元の世界での俺の稼ぎは良くないし、この世界で得た報奨金を元の世界に持ち帰ることもできないのだ。となると、自然、元の世界で黙々と働く他に選択肢は無かったのだ。 「それにしても、領主様ってどんな方なんでしょうね……?わたし、ちゃんと話ができるか不安です。」 みなみんが丁寧な口調でポツリと漏らす。 「大丈夫よ。領主様も冒険者にそんな堅苦しいマナーは求めないでしょ。私、一応知り合いだし」 ピノがさらっと言うと、みなみんは「そ、そうですよね!」と無理やり自分を納得させたような笑顔を浮かべた。 やがて丘の上の領主の城が視界に入った。大きな門が、朝日を受けて輝いている。 「さて、どんな依頼が飛び出すことやら……覚悟しといたほうが良さそうだな」 俺がぼそっと言うと、ピノが小さく笑った。 「覚悟なんて今さらでしょ。さ、行くわよ」 門番に手紙を見せると、俺たちはすぐに中へ通された。広い庭を抜けて城の中に入ると、豪華な装飾の施された謁見の間が現れる。高い天井と、大きな窓から差し込む光が空間をさらに広く見せていた。 「よくぞ参られた」 領主の低い声が響き渡る。玉座には、威厳のある中年の男性が腰掛けていた。彼がこの地を治める領主だろう。 俺たちは軽く頭を下げて挨拶をする。すると、領主は満足げにうなずき、ゆっくりと話し始めた。 「魔法使いピノ殿、そしてその仲間たちよ。そなたらの活躍は私の耳にも届いている。……早速だが、依頼について話そうと思う」 領主は形式的な挨拶は好まない人物のようだ。 「どのような依頼でしょうか?」 ピノが一歩前に出て尋ねる。 領主は椅子から身を乗り出し、真剣な眼差しで俺たちを見つめた。 「うむ。依頼というのは他でもない、我が領地の辺境に廃城があるのだが……そこに居座る邪悪な魔法使い、『幻術士』を討伐してほしいのだ」 「幻術士……?」 俺が思わず聞き返すと、領主はうなずいた。 「うむ。奴は数年前、魔物の大軍団を引き連れ、この街に襲ってきたのだ。その時はピノ殿を中心に街の冒険者総出で戦い、なんとか撃退できたのだが……。奴は強力な魔法を操るだけでなく、魔物を操ることもできる。もしかすると魔物を作り出すことさえも……」 ピノが腕を組み、難しい顔をしてつぶやいた。 「領主様。ということは、あの時取り逃がした幻術士がその廃城に表れた……ということでしょうか?」 領主は椅子へ掛けなおし、言葉を続ける。 「その通りだ。奴がいつまた魔物の大軍団を引き連れてこの街に来るかは分からぬが、放置しておけばこの領内どころか国、ひいては世界全体の脅威となることは疑う余地もない。今もあの廃城で我々を攻撃する機会をうかがっているはずだ」 その領主の言葉に、謁見の間の空気が一層重くなる。そんな中、最初に動いたのはみなみんであった。 「そ、そんなに危険なら、わたしたちが行くべきですよね!」 みなみんが一歩前に出て声を上げる。いつもより少し子供っぽい響きが残る言葉に、ピノが小さく苦笑した。 そして俺たちは自然と互いを見つめ、うなずき合った。 「領主様、承知いたしました。私たちにその依頼を任させてください」 ピノが答えると、領主の顔に安堵の色が浮かんだ。 「さすがはピノ殿、感謝する。廃城の場所やその他の情報は、側近から詳しく説明させる。準備が整い次第、出発してくれ」 ****** 城の衛兵に丁重に挨拶され城を後にした俺達は、幻術士討伐の準備を始めることにした。武器や防具だけではなく、エーテルやポーションの用意、様々なアイテムの買い出しもしなければならないのだ。 そうしてあれことと準備するうちに、すっかり夜になってしまった。後は寝るだけである。 「この街の結界はね、幻術士率いる魔物達に襲撃された後、私が中心になって作ったの。だから領主様とは今も良い関係なのよ、ついでにいうと身元が不確かなケンを街に入れられたのも、そのコネのおかげね」 リビングの椅子に座りながら、杖の先端の魔石を磨いているピノがポツリと言った。青い魔石が輝きを放っている。 ピノによると、数年前の幻術士が率いる大量の魔物による襲撃は、街がぐるりと一周包囲され、後一日でも攻撃が続けば街が廃墟と化すような、極めて苛烈なものであったという。 その襲撃をなんとか撃退した後は、次の襲撃に備え、街に結界を張り、戦闘中に効率よく体力や魔力を回復できるよう、領主の命によりポーションやエーテルの研究が奨励されるようになっただそうだ。ベルがエーテルの研究を始めたのもこの時らしい。 「懐かしいわね。あの襲撃があったのは、私が魔法学校を卒業する少し前だったわ。卒業してからピノとコンビを組み始めたのよね。あの頃の街には、まだロクなポーションもエーテルも無かったから本当に苦労したのよね……」 大鍋から小瓶へエーテルを移し替えながらベルが言う。日夜実験道具を引っかき回して何をやっているのかと思っていたが、いつの間にかこんなに大量のエーテルを作っていたとは……。今回の依頼ではこんなに沢山のエーテルが必要とされるのだろうか? 「というか今更だけど、俺達ってヤバい依頼受けちゃった気がするんですけど?! 悪い魔法使いっていうか、それってもう大魔王じゃない??」 「いや、まあ……いくらなんでも大魔王っていうほどではないから……そうね、強いて言うなら中魔王くらいかしらね!」 こっちは割と真剣に話しているのに、ピノはなんとも気の抜けるような返答をする。中魔王を倒した冒険者ケンとその仲間達、ではまるで格好がつかないではないか。 「いいじゃないですか、大魔王でも中魔王でも! 今の私達に最高の依頼です、どんな敵が来ようとも私の針の前では無力なのです!」 みなみんが自慢の針を磨きながら言う。彼女にとっては魔王のサイズは大でも中でも良いらしい。 「はいは〜い、みなみんちゃんはもうおやすみの時間だから寝ましょうね〜、魔王より前におねしょしないようにしないと。お・む・つ、ベルに履かせてもらったの?」 「あ、ピノ! また言ってはいけないことを言いましたね?!あれはおむ……ではなくて夜用パンツです!」 朝の茶番と同じ展開になってきたが、ベルからツッコミが入る。 「二人とも〜、そんなこと言ってる暇があったら私がご飯や睡眠時間も削って作り続けたエーテルを瓶詰めするの手伝ってくれない?」 ベルの周りにはまだ大量の空き瓶が置かれており、それら全てにエーテルを詰めるにはまだ時間がかかりそうだ。しかし、別に誰も寝食を惜しんでエーテルを作れと頼んだ記憶は無いのだが、それがじっオタクの性なのだろう。 そういえば……と気になっていたことがある。 「なぁベル。あんだけずっと実験器具に向かってて、いつトイレに行っていたんだ?」 瞬間、ベルがぎくりとした表情をして、目を反らしながら答える。 「いや〜実験の合間を見て……行ってはいたのよ……?」 明らかに怪しい。これはもしかして……。 「ベル、お前……俺が持ってきたやつをこっそり使って……?」 ベルの顔が紅潮している。 「そうよ! いいじゃない、ちょっと借りるぐらい!!」 図星だ。道理でなんだか最近おむつの減りが早いわけだ。あれは俺の少ない給料を使って買って来たチートアイテムなんだぞ。 「『八回分のおしっこもしっかり吸収!』って書いてあるじゃない! ちょ〜〜っと使わせてもらっただけよ!」 「いや、あの減り方はちょっとって感じじゃなかったぞ! 俺の感覚からすると毎日二枚くらい使ってだろ!」 「なんでそんなこと分かるのよ! 合ってるし……ちょっと引くわ……」 当たり前だ、俺はオムツァーだぞ! と開き直ろうかと思ったがこれ以上使ったおむつの枚数の論議をしても意味がない。 それにしてもこのパーティはなんなのだ。俺はオムツァースキル持ち、ピノはエーテルを飲めば漏らし、みなみんはおねしょが治っておらず、ベルと来たらトイレに行くのを面倒くさがっておむつをこっそり履いている。もはやおむつ無しでは成り立たないオムツァー冒険者パーティではないか! 果たしてこんなことで幻術士もとい中魔王を倒すことができるのだろうか、俺は今更ながら心配になってきた。
Comments
スミマセン、プロット完成してるものと思ってました。 完走頑張ってください!
ト
2025-02-24 14:22:17 +0000 UTCコメントありがとうございます! 適当なノリで始めた故どうやって収めるか大変頭を悩ませておりますが、何とか区切りを付けたいと思います! 投稿までしばらく時間がかかると思いますがよろしくおねがいいたします!
池野くるめ
2025-02-24 11:29:46 +0000 UTC遅ればせながら、更新ありがとうございます! 最初のやりとりは例のCMからですね。おむつを夜用パンツとして恥ずかしさを誤魔化すみなみんが可愛いです。CMみたいにおむつ卒業を無邪気に喜べないところも良き。 ベルは想像どおりのハマリ方でしたが、気持ちよさは未だない感じでしょうか。時間の問題か。 中魔王の「幻術士」戦でラストとのことですが、名前から何か期待できそうで楽しみです。 くるめさん作なので、読者的にお楽しみな展開でピンチになっても無事ハッピーエンドになることでしょう。 続きをお待ちしてます!
ト
2025-02-24 09:16:54 +0000 UTC