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南ん@入れ替わりパンデミック
南ん@入れ替わりパンデミック

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入れ替わりパンデミック「優等生マユミ⇄少年ユウト(その後)」①

「おい、こっちに来いよ」  キョウコはマユミに言った。  マユミはモジモジとしていた。その身体は青色のネグリジェを着ていた。  時間は夜の十一時だった。ユウトという少年の精神は以前の肉体のときは九時には寝ていた。その精神はマユミという十七歳の肉体。マユミの身体を手に入れてからは夜更かしも許されていた。学校から帰るとずーっとゲームをしたっていい。お菓子を食べたって怒られない。夜中の間、ずっとオナニーをしたって良かった。キョウコがその身体を求める時以外は。  キョウコがマユミの身体を求めたら、その身体を自由にさせること。  それだけが二人の間で結ばれた『仲良し』でいるための約束だった。  薄明かりがぼんやりと灯っているだけの寝室。  大きなダブルベッドの上でキョウコが股を広げている。生まれたままの姿で。その女性器はもうすでにしっかりと準備ができあがっていた。 「ほら、来いよ。今日も俺がお前のことをたくさん気持ちよくさせてやるよ」 「……う、うん」  マユミはキョウコの待つベッドにゆっくりと身体を潜り込ませる。  渋谷高等女学園に通う二人の生徒、マユミとキョウコは同棲をしていた。  二人は『入れ替わりパンデミック』でそれぞれユウトという少年と、カズヒコという中年男性と入れ替わっていた。 『入れ替わり新法』によって財産や地位は肉体に準ずると決められた。  マユミとキョウコの肉体こそがいままでのマユミとキョウコであり、二人の肉体が今まで通り学生生活を行い、それまでに得た財産や地位を保持するべし、と。    もちろんマユミは今まで通りの学力を保持することなど到底叶わなく、その身体がこれまで通っていた渋谷女学園の初等部に特別編入することとなった。同じように『パンデミック』の被害者となった精神的に同い年の子供たちと仲良くやっているようである。  キョウコの身体は有名老舗製薬会社の令嬢である。金には余裕があった。学校近くにマンションを借りた。マユミと二人で生活を始めた。反対するものはいなかった。  キョウコの両親も『パンデミック』に巻き込まれていたからだ。腹を痛めたわけでもない娘の肉体がどうなろうと今の両親には関係がなかった。いままでの両親なら娘が何をするのにも口を出してきたが今は違う。パンデミック後の両親は金と会社の経営権をどう使えば甘い汁をすすることができるか、それしか考えてなかったのだ。 「こっちこいって、もっと近くにこいよ。なんだよまだ恥ずかしがってんのかよ? 毎晩抱いてやってんだぜ? いい加減なれろよ」  キョウコはマユミにキスをする。  舌を絡めるようなキスだ。それはとても甘い味がした。 「ん、んちゅ……ちゅ……ん……んん……ちゅ」  美少女同士のキスだ。  リードしているのはキョウコ。マユミは雛鳥が親鳥から餌を受け取るかのようにチュッチュと身を任せるかのように唇を返している。    肉体だけで見ればマユミはキョウコよりも歳上なのに、側からみればキョウコがマユミを子どものように手玉にとっているのがよくわかる。  キスをするとマユミはすぐに股を濡らす。マユミの身体はすごく濡れやすい。もしかしたらマユミの肉体に入っている少年の精神が女体に不慣れで興奮しやすいだけなのかもしれないが、それを確かめる術はもうない。  ぐしょぐしょになったマユミの女性器をキョウコは撫でる。 「……あ!! ああ!! すごいよぉ!!」  パンデミック前までは他人に触られたことのないこの女性器。ふたりで暮らすようになってからは何度もキョウコがいじくり回すようになった。 「もうぐしょ濡れだぞ。お前のおまんこ。ほら、言ってみろよ。『濡れ濡れのおまんこ、もっと触って』てな」 「ボクの……ボクのおまんこ……濡れ濡れなのぉ。もっと……もっと触ってぇ……」 「そうだよなぁ。お前はオトナおちんちんになる前に女の子になっちゃった可哀想な男の子なんだもんな。でもな、安心しな。おちんちんなんかよりおまんこの方が何倍も気持ちいいからさ。俺がおまんこの気持ちよさ、可哀想なお前にたくさん教えてやるよ。ほらほら」 「あ……ん。あ……あぁ、そこ……いい……いいよぉ……。すごく、気持ち……いい」  射精の気持ちよさを知らない少年の心を持つマユミ。半開きの口からは涎を垂れ流しながら、女としての快感に身を任せている。かつての優等生ぶりはどこへ行ったのか。ただ快感を貪るだけの、そんなメスの顔。    猿にオナニーを教えたら一生やり続けるという都市伝説がある。もしかしたらマユミもそれなのかもしれないとキョウコは考えたら。マユミの中に今ある心は、男としての気持ちよさを知る前にその何倍も強い女の気持ちよさを知ってしまった少年の心。一度、メスの気持ちよさを味わえば猿のように快楽のみを求め続けるのも仕方ない。 「ほら……、何やってんだよ。この前教えたろ? おまんこいじられてる間は、お前が俺のおっぱいを揉むんだよ。それがエチケットってもんだぜ」 「……う、うん。ぼく、おっぱい揉むよ……」  マユミがキョウコの胸に手を伸ばす。ぎこちない手つきで胸を揉む。  その手つきではキョウコの本当に気持ち良い部分を刺激することはできない。だが、それでいい。そのもどかしさがむしろキョウコの嗜虐心を高めてくれる。    目の前のいるカケラも性の知識を持たない『少年』のような心を持った美少女。ウブな彼女を性の色に染め上げていく。白雪に足跡を遺すような、そういうサディステックな気持ちが何よりキョウコを興奮させるのだ。 「ほら、どうだ。俺のおっぱい気持ちいいかよ」 「うん、すごく……柔らかいよ」 「お前の方がおっぱい大きいくせに。こっそり部屋で自分のおっぱい揉んでんだろ? 知ってんだぞ。すっかりエロガキになっちまったな、おい」 「うぅ……ごめんなさい。……ごめんなさい。僕、自分のおっぱい揉んじゃってますぅ」 「謝りながらおっぱい揉むんじゃねえよ。そういうガキにはお仕置きが必要だよな。ほら、ケツをこっちへ向けろ」  キョウコはペチンとマユミの尻を叩いた。マユミはゆっくりと動いてベッドの上で頭と尻との場所をひっくり返す。  キョウコの目の前にマユミの尻。ペロンとネグリジェを捲り上げると、そこにはマユミのアナルとヴァギナがよく見える。どちらも物欲しそうにひくついている。淡い色をしてとても綺麗だ。男を許したことのない女性器。キョウコがそこにキスをする。 「ぁん……」  マユミの口から自然に喘ぎ声が漏れる。キョウコがマユミの小陰唇をはむはむとねぶる。その度に弱くともしっかりとした快感がマユミの肉体に広がる。   「んれろ……んれ……んん……。ユウト、これがクンニだぞ。俺がお前のおまんこにわざわざ……れろれろん……やってやってんだからよ。……れろ、んん……、やり方……覚えろよ」  水々しい桃でも食べるかのような音を立てて、濡れた女性器に口をつけるキョウコ。舌を動かすたびに舐められるマユミは身体をよじって喜ぶ。  キョウコの身体はほんの16年ほどの肉体年齢だが、クンニリングスの経験値でいえば今のキョウコにはそれ以上あるのだ。 「ああ……んれろ、くっそ。どうしてこの身体にはチンポがついてねえんだよ。いれてえ。いれてえよ。このおまんこにつっこんで子宮に思いっきり俺の子種をぶちまけやりてえよ」  少女の声が寝室に響く。  キョウコの身体にペニスがついていたのなら、それはもう硬く硬く怒張していたことだろう。もちろんキョウコは女だ。ペニスなんてあるはずもない。その代わりに膣がキュンキュンと疼く。子宮が下りてくるような感覚がする。 「ああ、マユミとセックスしてえよ。このキョウコの身体にもペニスがあったらなあ!! キョウコの精子とマユミの卵子が結びついて、可愛い女の子をお前が孕むんだよ、ユウト!! そして、お前はマユミの腹を膨らませて、マユミの産道から、キョウコとマユミの愛の結晶、可愛いベイビーを捻り出すんだよ。ははは、二人の間の娘だぞ、きっとすげえ美人に育つだろうな。そしたらその娘も犯してやる。なあ、すげえいいアイデアだよ、なあ!!」  つい数ヶ月前までのキョウコは女性器を舐めて性的な興奮を覚えるようなことはなかっただろう。性的な対象は異性、つまりは男性だった。  それがパンデミック後のキョウコは女性で興奮するようになった。男なんて目もくれない。おまんこを舐めておまんこを濡らす。  女の子のことしか考えられない。  その身体にはついていないはずの黒々と輝く雄々しいペニスを妄想して、それを女体に挿入する夢を見る。  それはマユミも同じだ。パンデミック前までのマユミはむしろ恋という感情さえよくわからないような少女だった。それがパンデミック後は色欲に覚えたように肉を求め続ける。その精神は性に対して未熟なまま、肉体だけは成熟した女のそれ。 「はぁ……はぁ……んん……ッ」  ある程度の年齢になれば身につけるような性の知識も、今のマユミにはない。  キュンキュンとうずく子宮が何を求めているのかも分からない。本能だけがなにかで膣を埋めてほしいとそう訴えているのだ。 「仕方ねえなぁ……お前にプレゼントがあるんだよ」 「ふぇ……?」  キョウコがガサガサとベットの下から何かを取り出した。それは棒状のおもちゃだった。 「なに……それ?」 「ああ……これはな、バイブっていうんだ」 「バイブ……?」 「楽しい楽しいおもちゃだよ」  そういってキョウコはバイブを口に咥えた。音を立ててしゃぶる。男性器をフェラチオするかのように。もちろんまだキョウコの肉体はフェラチオなどしたことはない。  美少女の唾液で濡れるバイブ。充分に濡らしたバイブをキョウコは尻をこちらに向けているマユミに見せつける。 「それ、どうやって……遊ぶの?」 「あん? こうやってだよ――」 「へ――ゃ……ッ!!」  クチュッ――。    膣口にバイブの先をおしあてる。まだ何をも受け入れたことのないマユミのヴァギナ。そこにゆっくりと硬いものを押し当てる。 「なになになに……? ねえ、キョウコお姉ちゃん……怖いよ」 「安心しな。女の子のおまんこはな、これを受け入れるようにできてるんだから……な!!」  ジュク……ジュクジュク――。 「――ひッん」  マユミのおまんこがゆっくりと……ゆっくりと……そのバイブを咥え込んでいく。 「――痛……痛いよぉ!! 痛いよ!! ねえ、嫌だぁ!!」 「うるせえ、我慢しろ!!」  キョウコはぎゅっと、バイブを咥え込んだまま逃げ出そうとするマユミの腰をしっかりと抱きとめる。イヤイヤと身体を動かすマユミ。足と腕とを使ってはがいじめにする裸のキョウコ。 「ああ、処女まんこから血がでてる。眼福眼福」  キョウコが言うようにマユミのまんこからは真っ赤な血がわずかに垂れている。痛がるのも当然だろう。処女膜が破けたのだ。  ずっと大切にとっていたマユミの処女膜。  もしパンデミックさえなければそれはまだ数年大切にされていたことだろう。  ただパンデミックにより今のマユミは『処女膜』という言葉さえしらない少年の心。  純潔の証は愛するとの育みではなく、オモチャによって遊びのように簡単に破られてしまった。 「うぅ、ママァ……ママァ……」 「おいおい、やめろよ。セックス中に『ママァ』なんて言われたら萎えるだろうがぁ。まあ、今の俺には萎えるチンポもついてねえんだけどな」 「痛いよぉ、ママァ」  ママと叫ぶマユミを見て、キョウコは数日前に会った人物を思い出していた。  いまはマユミとなって目の前にいる、かつて川尻ユウトと呼ばれた少年の母親のことである。  ――――――  人口の約六割の人々が巻き込まれた『入れ替わりパンデミック』の後。  人々は被害の全容を把握しようと必死になった。被害者はまず以前の自分の身体を探した。被害に遭わなかった者は、入れ替わりに巻き込まれた家族や恋人や友人の肉体と精神の状態を確認しようと奔走した。  しかし、肉体と違い、精神は目に見えない。「A」という身体に入っている精神が「A」なのか「B」なのか外から確認をする手段はない。「B」だとしてその人物が以前保有していた名前や住所は「B」の申告に頼る他ない。「B」が協力的ならば「B」の肉体を得た「A」を探すことはできるかもしれないが、必ずしも「B」が協力的とも限らない。  被害の全容把握は困難を極めた。 『入れ替わり担当省』の管理によって、『被害者データベース』が設置された。「A」という人物の肉体の名前と、その中にある精神が『パンデミック』以前に持っていた名前を紐つけて誰でも閲覧することができるサービスだ。  親や恋人や、あるいは『かつての自分』の肉体を探す目的に使用された。  ただそれが完全に機能してるとは言い難かった。  登録自体が被害者の善意により成り立っていて、登録するもしないも自由だったからだ。    キョウコは自身の以前の身体には全く興味がなかった。登録をしていないから当然彼女の肉体は『データーベース』上には存在しない。かつてのキョウコを知るものがキョウコの名前で検索しても、キョウコという『肉体』がいまどういった状況にあるのか知ることはできない。コンタクトも取れない。 「そうだ」    と、それは気まぐれだった。  暇潰しのために過去の知り合いを『データベース』で検索していた時だった。  おもむろにユウトの両親について調べてみてやろうという気になった。  いまや城島マユミという美少女の身体で、毎晩色欲を貪っている少年の両親。もちろんマユミの身体はデーターベースに登録していないので、ユウトの両親がマユミの肉体を探すことはできないはずだった。 「ふっふ、連絡をとってやるか」  それはもちろん善意ではなかった。 『データベース』には『尋ね人捜索』の機能がある。自分が探している『肉体』を登録して情報を募るための機能。  キョウコは川尻ユウトを『尋ね人』にしている人間がいないか検索をかけた。すると案の定、川尻ユウトを探している人物のメッセージを見つけることができた。 「息子の行方を探しています。身体も精神も見つかっておりません。お心当たりの方がいらっしゃいましたらご連絡ください」  との記述とともに『川尻スズ』――ユウトの母親の名前があった。  キョウコは少し考えてから、 【もしかしたら、私の知り合いと入れ替わっている男の子のことかもしれません】と連絡する。     向こうからはわずか二分ほどで返信があった。 【本当ですか! お願いします! 是非、詳細を教えてください】  キョウコの口角がニヤリと吊り上がった。。   【一度会って確かめたらどうですか】  と送るととんとん拍子に場所を決めて落ちあうことに決まった。 「新しいおもちゃが見つかっちゃったなあ。さて、どうやって調理しようかなあ」  キョウコはパソコンの前で自分の胸を揉みながら思案した。 『パンデミック』によって公共交通機関は壊滅的な打撃を受けていた。隣の県へ移動するのにも大変なこのご時世。  それでも母は強しと言うべきか、『ユウトの母親』はなんとアメリカからやってきたという。 「本当に大変でした。『パンデミック』に巻き込まれて、気がついたらアメリカにいるんですもの。私、英語はよく分からないんです。高校卒業以来、英語なんて使う機会がなかったんですもの。はじめは本当に怖かったわ。それでもなんとかこうして日本まで来れた。……この身体のご両親には申し訳ないと思っているんです。だってそうでしょ? 私が日本にきちゃったら……この子の両親は……今の私と同じようにこの子を探さなくてはいけなくなってしまうでしょう?」  エマ・エッカート。その肉体の名前。  喫茶店で落ち合った、キョウコの目の前に座るのは十代後半の白人の少女だった。彼女は実に流暢に日本語を操る。というよりもその発音は日本人としか思えない。  川尻スズという名の三十代後半の母は、エマという白人少女と入れ替わったのだ。 「よく日本まで来れましたね。飛行機のチケットがひどく高騰していると聞きましたが?」 「ええ、通常時の百倍以上。なにせパイロットや整備員の方々の中にも『パンデミック』に巻き込まれた人たちがいるわけでしょう? 日本行きのチケットを手に入れるのには苦労しました」 「資金はどうやって?」 「それは……」  エマは言い淀んだ。わかり切った質問だった。  言葉が通じない、縁もゆかりもない土地、そんな状況で若い女の身体が金を得る手段などそう多くはない。 「本当に……この身体には申し訳ないことをしたと思っています」  キョウコにはわかる。この女は本心ではそう思っていない。  本当に悪いと思っているのなら、他にも取れる手段はあったはずだ。時間と手間さえかければ別の手段もあっただろう。  それでもこの女は身体を売るという選択をした。その肉体を飛行機のチケットと引き換えた。  なぜか。簡単だ。その身体を『他人のもの』だと思っているからだ。『他人のもの』と『自分の息子』を天秤にかけて、『自分の息子』を優先させたとそれだけのこと、単純なことだ。 「でも、私にはこうするより他になくって……。本当にエマちゃんには悪いことを……」    この女の言うことはすべて言い訳だ。  だがそれでいい。  人間なんて所詮そんなものだとキョウコは知っていた。   「分かりますよ」「大変でしたね」「あなたは悪くないですよ」「息子さんのためですものね」「みんなしてますよ」「私はあなたの味方です」  そんな中身のない言葉を捧げてあげる。  すると、ほら、目の前の女は簡単に心を開いてくれる。 「ありがとうございます。キョウコさんはお優しいんですね。本当にこうやってお会いできてよかった。……それで、あのう、ユウトは……」 「わかりました。どうぞ安心してついてきてください。すぐに会わせて差し上げます。ユウトくんもママに会いたがってます」 「本当ですか!?」  本当なわけがない。この女と会うことをキョウコはマユミに伝えていない。  二人は喫茶店を出た。支払いはエマがすると自分から言った。支払いの際にちらりと見えるエマの財布の中身をキョウコは確認することを怠らなかった。そこには一万円札が何枚か見えた。身体を売って稼いだのであろう金が。  喫茶店からそれほど遠くない場所にキョウコはエマを連れていく。  そのマンションに『ユウトくん』はいますよ、と誘って。 「ここは……?」  道玄坂を登りきったところにある一棟のマンション。  エントランスへ入ると、そこは高級マンションのような作りだった。革張りのソファが並んでいる。ウォーターサーバー。管理人室と掲げられた窓口を除けば他には何もなかった。 「トヨさん」  管理人室の中にはでっぷりと太った初老の音がいた。イヤホンをつけて手持ちのテレビゲームで遊んでいる男は二人の存在には気が付かずピコピコと手を動かしている。 「トヨさん!!」  どんどんと窓枠を叩くとようやく男は顔を上げた。テレビゲームをスリープモードにしてから、イヤホンを外す。キョウコとエマを交互に見てから、管理人室の壁にかけられたたくさんの鍵の中から一本をキョウコに渡した。 「206号室だ。勝手に使いな」 「はーい、どうもー」  鍵を手に取りマンションの奥へと進む。  エマはキョウコの後ろを不安そうに続く。真新しくあちこちが綺麗に磨かれているマンションではあるが、そこを包む空気には何か暗い影のようなものを感じた。 「あのぅ。本当にここにユウトがいるんでしょうか……?」 「それはお母さんに確かめてもらわないと」  五階から降りてくるエレベーターを待っていると、103号室の扉が開いた。  中から出てきたのは黒髪の少女。大和撫子と呼んで差し支えない、おしとやかな雰囲気を持った短髪の美少女だった。  その少女はキョウコの姿を見つけて。 「キョウコ・サン。コンニチワ」  と頭を下げた。エマの耳にその挨拶はカタコトに聞こえた。 「カナタさん、こんにちは。儲かってますか?」 「ボ……ボチボチ、デンナア」 「ふふ、それはいいですね。カナタさんもお身体にお気をつけくださいね」 「カナタ、ダイジョウブ。キョウコ・サン、ダイジョウブ」  キョウコはくすすと笑った。ぺこりと頭を下げてその大和撫子はゴミ袋を背負って二人とは反対の方へ去っていく。  エマは二人の奇怪なやりとりを呆然と眺めていた。その内にエレベーターは到着した。   「ばいばーい、また来てねぇ」  と、エレベータの真正面、201号室の扉が空いて痩せて干からびたもやしのような男とメイド服の少女が顔をだした。男は目の前にキョウコたちがいるのに気がつくとそそくさと恥ずかしそうに階段を走り下る。 「お、キョウコじゃん、久しぶりぃ」  部屋から顔だけを出して男を見送ったメイド服の少女。この娘もどうやらキョウコとは顔見知りのようだ。少女はキョウコの後ろにいるエマを見つけて「ふぅん」と興味深そうに頷いた。 「へえ、その身体、外国人なんだぁ。中身は日本人?」 「ええ、そう」 「じゃああれだ。一階の子、カナタの逆パターンだね。あたしはアミカ。これからよろしくね」  アミカがエマに握手を求める。  エマは困惑して、 「これから……?」 「アミカ、話は後で」 「ありゃ、……ああ、そっかごめんごめん」  何かを察したかのようにアミカは「それじゃ」と言って部屋に引っ込んだ。  キョウコはため息をつきながら廊下を進み、206号室の扉に鍵を差し込む。ガチャガチャガチャ。 「あのう『これから』って? さっきの人が言ってたのは…いったい?」  キョウコは無視して扉を開け「どうぞ」とエマを中へ通す。  エマは躊躇した。中に入っていいものか迷った。  結果として、そこは引き返す方が正しかった。だがその選択はできなかった。はるばる日本まで来てやっと掴んだわずかな息子の手がかり。何もせずに手放すことはできなかった。  部屋に入るとそこは一人暮らし用のワンルームといった具合のごく普通の内装だった。  ただ生活感がなかった。家具らしい家具はベッド以外なく、冷蔵庫と電子レンジ以外調理器具の類も見当たらなかった。 「あの……ユウトは――」  ガチャリ――。  キョウコが鍵を閉め、チェーンかけた。  ことここに至って、エマは自分が騙されているのであろうと察した。 「な……なにを!」 「金を出してください」  エマはキョウコの顔を見た。その顔は先ほどまでの若い少女の顔ではなく、冷酷さを隠そうともせずに歪んでいた。 「金です金。お金を出してください。お金をくれればユウトくんの居場所を教えます」  キョウコが要求を続ける。エマに逃げ場はなかった。 「あ……ありません! いいましたよね、日本に来るためにお金を使ったんです。もうほとんど残ってません」 「そうですか。わかりました。では、これはもう必要ありませんかね」  キョウコがスカートのポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出した。エマに向かってそれを開いて見せる。  そこには、 『ママとパパへ ボクは元気です キョウコお姉ちゃんと仲良く暮らしています はやくママとパパに会いたいです ちょっとだけさびしいです がんばります ユウト』  それは間違いなくユウトの字だった。  他の誰でもなく母親ならばひと目で分かった。 「ユウト………。本当に……ユウトが」  エマがキョウコに泣きつく。 「ああ、お願いです!! ユウトに会わせて!! お願い!! 今すぐ会わせて!!」  キョウコはその母の嘆きを一笑した。ドンと突き飛ばす。  背中から倒れてキョウコを見上げる形になるエマ。涙目に映るのは自分を見下す強者の姿。 「金」  それだけを言う。   「うう……。うううう……」  嗚咽が漏れる。  ユウトの手紙が床に落ちる。  この手紙が無理やり書かされたものなのか、本当にユウトが思ったことを書いているのかは分からない。  けれど、その字が本人のものな以上キョウコの元にユウトがいるのは間違いないのだ。 「許してください……。お願いします……。ユウトを、返して!!」  ユウトが危ない。こんな女のところにいたらユウトが危ない。何をされているか分かったものではない。エマは額を床に擦り付けて頼んだ。「ユウトを返して、ユウトを返して」と。 「ふふ……ふふふふ……あっははははは!」  その姿を見下ろしながらキョウコは大声を上げて笑い始めた。 「お前、バッカじゃねえの?」 「………………え?」 「お前の息子を奪ったのは俺じゃあなくて『入れ替わりパンデミック』……だろ? あは……、あはは……、あはははははははははは!!」ひとしきり笑い声をあげてからキョウコはスッと真顔になる。「ほら、黙って金出せや」 「……無理なんです。本当に……お金……なくて」  それは本当だった。  エマは日本に来るために通常時の百倍以上にも高騰した飛行機のチケットを手に入れた。  そのためにエマの身体を売った。  エマの母国アメリカでも『パンデミック』の被害は甚大だった。  性別も人種も年齢も関係なくシャッフルされた世界。秩序が崩壊した世界では、それまで以上に「性」は売り物になった。  エマと入れ替わったユウトの母親は英語ができなかった。まっとうな仕事をした金銭を得ることはできなかった。  となれば売るか、奪うか。  エマは前者を選んだ。  幸いなことにエマは美しかった。豊満なバストと大きな尻は男好きした。加えて中身は奥手な日本人女性。『パンデミック』に巻き込まれることのなかった現地の男たちは好んでエマを抱いた。  エマの身体は処女ではなかったし、エマの肉体を得たユウトの母親も当然ながらそれなりの男性経験はあった。  しかし、外国人(エマの身体にとっては同じ国の人間だが)と行為に及んだことはなかった。  日本人とは何もかも違う。性器の大きさも、プレイも。はじめは辛かった。それでも我慢できたのは、一秒でも早く日本に帰るという目的があったのと、何よりこの身体は自分のものではないと、そう思い込んだ、思い込めたからだ。  血が出るほどに突かれても。青アザができるほどに尻を叩かれても。ゲロを吐くほどに激しいイラマチオでも。  これは所詮、他人の身体。  そう信じて頑張った。 「もう、お金はないの……。全部、ここに来るために……使って」 「じゃあ、また稼ぐんだな」 「……どうやって」 「おいおい、そんなのお前の方が詳しいだろう? ほら、それを売れよ」  キョウコはエマの身体を指差した。 「どうせ、他人の身体、だろ?」 「……そん……な……」  ああ、ああああ!!  そんなことはなかった。この身体はもう私のものなのだと、そんなこと知っていた。  だって、この身体が感じる痛みも、この身体が感じる苦しみも、この身体が感じる快感も、ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ、私のものなんだもの。  痛い、苦しい、やりたくない。  でも、 「ユウトに……会わせて……」 「なら、やることはわかってるな」  エマは、こくん、と頷いた。 「一千万円、それがユウトと合わせるための条件だ。この部屋で客の相手をしろ。お前の取り分は一回二万円だ。だからまあ一日に三人も相手すれば、半年もありゃあ貯まる金額、だよなあ?」  ここは通称『ラブマンション』。  入れ替わり被害者たちが身体を売る売春宿。 「ユウト……ユウトぉ……」  母は強い。きっと、大丈夫だ。


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