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ハセトム(旧:HI)
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セイシ交換

セイシ交換 「ダルーッ…。」 「んなこと言ってるといつまでも仕事なんか決まるわけねぇだろ!」 そう言って面倒くささ丸出しの俺を無理矢理就活セミナーに引きずっていったのは、保育園から小学校、中学校、高校まではいいとして大学まで、こんなモノグサな俺と一緒になってしまった憐れな幼なじみの信太だ。 「こんなやり方間違ってるって…。個性を大事にしましょう、って小学校のとき言われたじゃん。」 「お前のは個性じゃなくてただの惰性だ!」 「俺が仕事見つかんなくたって信太に関係ないじゃん。」 「お前の母さんにも頼まれてんだよ!」 「お前自分の親の言う事は聞かないで、この大学入ったじゃん。もっといいところ行けたはずなのに。なんで俺の親の言う事は聞いてんだよ。」 「うるせえな。4年にもなって今更言う事じゃねえだろうが!」 マシンガンのように止まらない幼馴染の説教を聞きながら渋々セミナー会場までスーツで来たけど、本当に失敗だった。そもそもこのスーツも信太に着せられたようなもんだし。俺ネクタイも自分じゃ結べないし、いきなり就活セミナーなんて来ちゃ行けないと思う。 安らかな微睡みに蕩けていた俺の部屋にこいつがズカズカ踏み込んで来たのが1時間ほど前。パンツ1枚で寝てる俺を見て「フラチだ!」だのあーだこーだ説教をしながら無理矢理Yシャツを着せ(なんでこいつが俺のYシャツなんぞ持っているのかやっとわかった。お袋と結託してやがったんだ。)、スラックスを履かせ、黒い靴下にブルーのストライプネクタイで首を絞めあげ、テラテラと磨かれた革靴を足にはめられて手を引かれながら電車に乗ってここに来た。 「就活マナー講座〜社会人になるために必要なこと(フレッシュメンズ編)」とドドンと墨で描かれた張り紙が雑居ビルの入口に張り出されて、俺たちと似たような服装の青年たちがいそいそと入っていく。 「なんだメンズ編って。」 「男だけのセミナーなんだよ。お前に募集する時画面見せただろうが。」 「そうだっけ?」 「覚えてると思った俺がバカだったな。」 「なんのためにメンズ編なんだよ。今の時代男女差別じゃねーの?」 「レディース編は別会場でやってんだよ。それも書いてあっただろ。」 「なんで?一緒にやりゃいいのに。」 「知るかよ!そんなことよりお前は卒業まで半年なのに内定どころか履歴書も出してない自分の心配しろっつーの!」 「はいはい…。」 そんなこと、か。 俺は昔から人が気にしないことが気になって仕方ないタチだったんだよなあ…個性を大事にって習ったからそのままでいいんだと思って生きてきたけど、この幼馴染や社会を見ているとどうやらそうではなかったらしい。小学校総合の時間や中学校ホームルームの時間にやった意味のない教えたちよサヨウナラ。やっぱ学校の勉強なんてなんの役にも立たないんだな。 受付もメンズばっかだった。フレッシュではなかったけど。30代くらいに見えたから名付けるとしたら半熟くらいだろうか?信太が俺の分まで受付してくれて、なんかよくわからん紙の束が入ったクリアファイルを押し付けて会場へと引っ張り込まれる。 「お前なあ、少しは自分で動けよ!おかしいだろ?俺がお前の受付もするなんて!」 「いや、だって俺初めてだし。」 「俺だって最初は初めてだったよ!」 「え?エッチの話?」 「お前本当バカだな。なんの脈絡があってそうなるんだよ。」 「いや、初めての話っていうから。」 「うるせーよ。ってか知らねーよ。」 「あれ?信太ヤったことないの?」 「お前もないだろうが!」 「あるよ。」 「は?」 「いや、あるよ。エッチしたこと。」 「…いつの間に。」 「小学校のとき。」 「小学校ぅっ!?」 「うん。信太としたじゃん。ちんこ見せ合い。」 「…。」 「あれ?あれってエッチじゃないの?」 「…うるせー。もう始まるから黙ってろ。ちゃんと聞けよ。覚えろよ?」 「聞くか覚えるじゃ片方しか無理かな。」 「じゃあ聞いてろ。」 「わかったよ、しゃーねーなー。」 小声で言い合う俺たちの前に少し高くなった段がある。ステージのつもりなんだろう。そこに熟した感じのメンズが立って、某ア◯プル者の今は亡きCEOのごとく語り出した。 「皆さま、本日はご足労〜…」 うん、聞いてろって言われたから俺はちゃんと聞いてる。ただ中身を理解していないしする気もない。だってそうしろとは信太も言わなかったしな。あとで何を言われても怒らせないさ。 30分ほど経っただろうか。俺は自分の世界に入ると時間感覚がなくなる。帰りに何食って帰ろう。カレー食いてえな。信太も食うかな?今聞いたら怒るかな?熟したメンズはにこやかに身振り手振りを交えてまだ話し続けてる。信太を見ると瞬きもせずに真剣に聴いてる。こりゃ今話しかけたら怒られるな。終わってからでいーや。そう思って俺はカレーに乗せるトッピングについて考え始めた時に違和感を覚えた。 なんで信太のやつ瞬きもしてないんだ? もう一度見てみると、瞬きどころか微動だにしていない。ただ妙に鼻の穴が動いてるので、呼吸はちゃんとしている、むしろ荒くなっているようだ。信太の隣に座る見知らぬ男子学生を見るとそいつも全く瞬きもせず、ただ肩を上下させて呼吸だけしていた。その周りの他のフレッシュメンズたちも、みんな。 全員の視線は壇上の熟メンに注がれている。何かがおかしい。俺は今まで理解する気もなかった熟メンのありがたいお話に意識を集中させる。 「ですから。これからの時代はより密接なコミュニケーションが必要とされるのです。その為には握手?ましてや名刺交換?そんなものは古い。人の生の熱を感じて、最もプライバシーな情報を凝縮させたセイシを交換する。これが次世代のビジネスのモデルになると私は信じています。」 セイシ交換? 静止?正史?生死??頭の中でうまく変換ができない。 「では皆さん。ここからは立ち上がって実際に隣の席の人とセイシ交換をして見ましょう。と言っても、こんなの聴いた事がないですよね?なので先にお手本をお見せします。おい、ちょっと来てくれ。」 受付にいた半熟メンが駆けて来て壇の上に上がる。半熟メンの顔も真剣で瞬き一つしていないが、荒い息は今走ったことだけが原因ではなさそうである。 「では、まず最初の挨拶です。名前と所属を名乗り…」 「◻︎◻︎商事、営業課の山伏と申します。」 「次にペニスを出すと同時に自分の手を相手の股間に持っていき、セイシ交換の準備をしましょう。」 「本日はよろしくお願い致します。」 「ちょっと待てよ。」 会場中の視線が俺に集中したが気にしない。俺は子供の頃から気になったことはその場で聞くようにしているんだ。 熟メンが驚いた顔で俺を見る。 「…暗示にかかっていないだと?」 「なんだよ暗示って。どうでもいいけどさ。セイシ交換とか、何言ってんの?おかしいだろ。こんなとこでチンコ出してこんにちはーなんて。暗示なんかかけてたならサッサとといてくれ。他のフレッシュメンズ君たちはどうでもいいけど、横のこいつは俺の幼馴染なんだ。こんないかれた状態じゃ連れて帰れないよ。」 「私の暗示にかかっていない…なぜだ…。」 「おーい。自分の世界に入り込むなよ。信太だけでも普通に戻してやってくれ。俺もオッサン同士がちんこニギニギしてセイシ交換ってことはドピュっとするまでやるんだろ?そんなん見たくねーし。」 「…。」 「もしもーし?」 「…君には興味が湧いたよ。今日のセミナーは変更だ。」 「は?」 「高城信太。隣にいる男を拘束しろ。」 「かしこまりました。」 「えっ?ちょっ?信太?」 「今から特別講義だ。組織を害するものがどんな目に合うか。全員実際に見て頭に入れておいてもらおう。」 「ちょ、信太離せよ。お前俺より非力だったじゃん。どうしちゃったわけ?」 「若造、いいことを教えてやる。人間は普段自分の力の10%も出していない。私のセミナーを受講した者たちは、そのリミッターを解除されているからお前の知る幼馴染とそいつはもう違うんだよ。」 「マジか。それは困る。信太が信太じゃなくなったら俺はこれから誰にレポートやノートを写させて貰えばいいんだ。」 「…つくづく生意気なガキだな。」 「おい、オッサン。早く信太を直せよ。俺このままじゃ留年するって。親にそれしたら学費出さないって言われてるんだよ。困るよ。」 「…。」 「マスター…?」 半熟メンが熟メンに恐る恐る問いかける。熟メンの顔がピクピクしているけど、俺にはそれよりも今期の単位が取れるかどうかの方が心配になってきた。 「なあ信太、俺たち友達だよな?」 「…。」 俺を羽交い締めする信太に問いかけるも返事はない。 「俺はお前のこと一番の友達だと思ってるよ。」 「…。」 相変わらず返事はないが心なしか俺を締め上げる力が緩んだ気がする。 「ちっちゃい頃からだよな。お前が昼寝でオネショして泣いてた時も俺が一緒の布団入って小便してやったから、2人でオネショしたことにしたし。」 「…。」 今度は逆に万力のように締め上げる力が増した。この話題はタブーだったようだ。 「初めてバレンタインで俺がチョコ貰った時に、お前はお前と俺の母さんからしか貰えてなくて可哀想だから俺が貰ったやつを1個靴箱に入れといたらすげえ嬉しそうにしてたよな。」 万力のパワーが増した。この話題もタブーだったようだ。 「でも俺からのチョコで喜んでくれた気がして嬉しかったんだぜ?」 万力の力が緩んだ。間違いない。暗示とやらにかかりながら、信太の意識や記憶は残っているし、影響している。 「お前は俺のこと友達だと思ってないの?友達にこんな酷いことできないだろ?離してくれよ。」 あれ?逆に力が強くなったぞ?おかしいな。 「…お前は、友達じゃない。」 いつもより低い声だから信太の声なのか一瞬わからなかった。いや、ショックで内容を認めたくなかっただけかもしれない。 「…え?」 「ぶわっはっはっはっ!!これは傑作だ!」 熟メンが豪快に笑い飛ばす。そういやこいついたっけな。 「お前はその幼馴染とやらを慕ってたみたいだが?相手はそんなことはなかったみたいだな?見てればわかるさ。お前はその男に嫌なことを全部押し付けてるだけじゃないか。何が友達だ、笑わせてくれる。私の暗示で潜在意識が表面に出てきたのだろう。お前はもう…。」 「うるせぇ。ハゲ。黙ってろ。これは俺と信太の問題なんだ。」 「は、げ…?」 「マスター!?しっかりなさってください!たとえハゲでも私たちは貴方様をお慕いしております。」 「…。」 なんか半熟メンが熟メンにトドメさした気がするが、気にしていられない。 「信太…それはどういう意味だ?」 「友達、じゃない。そういう意味だ。」 「そうか…。」 「…お前、言ってただろ。」 「え?」 「…大きくなったら、俺をお嫁さんにするって。」 「…。」 「…だから、俺はお前がどんなバカでも、自己中でも、一緒にいたんだ。」 「…。」 「顔がちょっといいだけで、ダラしなさはエベレスト級。俺が言わなきゃ風呂も入らねえし、飯も食わない。大学だってお前を放っておけないから、自分の希望の学科があって、お前でも入れそうなところを探してお前のお袋さんと結託して勉強させて進学させたんだ。」 なんか凄いこと言われてる気がする。色々と。 「なのにお前は20歳過ぎても相変わらずで、タバコと酒をはじめてむしろ余計にだらしなくなって、でも顔だけはいいか何故かモテて、俺は添え物扱い…。それでも良かったんだ。だって俺はお前のお嫁さんになれるんだろう?一番好きな奴と結婚して、死ぬまで一緒にいられる。それならそんなことどうでもいいんだよ。お前がいかにクズで身勝手で自己管理能力がなくて」 「ちょっと待て。お前もう暗示とかかかってないだろ?」 「…俺は、今、暗示にかかっています。」 「いや、かかってる奴はそんなこと言わないし。途中から普通に喋ってたのに、急に片言にしてんじゃねえよ。」 「…。」 「うっし!」 「?」 「やるか!」 「…何を?」 「セイシ交換だよ!」 「は!?」 「結婚式って何か交換するもんだろ!しようぜ!交換!」 「いやいや、おかしいだろ。」 「こんなハゲが言ったコミュニケーションとかぶっ壊して、俺たちのやり方で俺たち流のセイシ交換するんだよ!」 「いや、ちょっ、それは。」 「俺と結婚しねえの?」 「…それは、したいけど…。」 「じゃあ、やるぞ!」 「…わかった。」 「ちょっと待てい!!」 熟メン、まだいたのか。さっきは適当に「ハゲ」とか怒鳴ってごめんな。まだM字ハゲの予兆くらいなもんだよな。 「お前らは、一体!何が、どうなって?」 興奮してお前が片言になってんじゃねえよ。 「んー、俺は信太と昔結婚の約束をした。信太は俺を友達じゃなくてそういう相手として見てた。で、俺も信太のことが好き。だから結婚する。ここまでわかる?」 「わかるか!?」 「素晴らしい!!」 パチパチパチパチと拍手の音が響く。見ると半熟メンが涙を浮かべて俺たちに拍手をしている。 「あんなひたむきな、純愛があるでしょうか?皆さん!ここに素晴らしい、現代の我々が忘れてしまったコミュニケーションがあります!」 熟メンが話すに連れて取り憑かれたように集中していた群衆がザワザワとざわつき始める。みんないつのまにか暗示とやらが溶けたみたいだ。 「あー、名前は忘れたけど、アッパーミドルなおっさん、ありがとう。じゃあ、俺と信太の結婚式ってことで、セイシ交換させてもらってOk?」 「もちろんです!私たちにできることがあればなんでもサポート致します!」 「んー、じゃあみんなでセイシ出してさ、ライスシャワー的なのやってもらっていい?あれ昔なんかの映画で見てちょっと憧れあるんだよ。」 「おい、何言ってんだよ?」 「だってこんな機会なかなかないぜ?」 「だからって…。」 「かしこまりました!皆さん!新たな門出を迎える2人を祝福する力をお貸しいただけますか?」 ザワザワが治らない会場が少しずつ落ち着きを取り戻しはじめ、やがて小さな拍手が始まる。それが水に広がる波紋のように広がって、会場が一体となった頃 「なにが、おきてるんだ…?」 熟メンが呆然とその光景を見ていた。 「私の、暗示は?組織を作ってハーレムの夢…。」 「大変申し訳ないんですが、うちの奴はいつもこうなんです。」 呆然とした熟メンの肩を信太が叩く。 「いつのまにか全てを掻っ攫っていくんですよ。カリスマとでも言うんでしょうかね?俺も何度も…いや、何百回もこんなことがありました。でもこいつには勝てないんですよ。」 「そんな、バカな…。」 「世の中に天才がいるとしたら、まさにこいつです。暗示なんて難しいことはこいつには使えない。なのに俺たちがここで結婚式をあげるために指輪交換の代わりにセイシ交換をして、ライスシャワーならぬセイシシャワーで祝ってもらうという狂気じみたプランさえ現実のものにしてしまう…そこがこいつの魅力なんですよ。」 「…。」 涙目になった熟メンの肩をポンポンと叩いて、信太が戻ってくる。 「本気かよ?」 「本気だよ。」 「…俺を嫁にしたら、これからどうすんだよ?」 「どうもしねえよ。」 「はあ!?」 「まあ、仕事は探すさ。でも共働きだろ?」 「あぁ、よかった…。」 「あとお互いの家族にも挨拶行かねえと。」 「…まあ、そうだな。」 「大学出たら、一緒に住む部屋も探そうぜ。」 「…ああ。」 「あと結婚式のこと知りたがるかな?動画とか撮って貰って、それ見せるか?」 「絶対にやめろ。死にたいのか。」 「そうか?それはまあ、いいや。あっ!あと1個忘れてた!」 「なんだよ。」 「今日帰りカレー食って帰ろうぜ。何食うかずっと考えてたんだ。」 「…。」 熟メンがそれを聞いて肩から崩れ落ちたが、誰も気にせず俺たちに祝砲を放とうとボッキしたチンコを握った若者たちだけが残った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 続編を近日中にFanboxにて公開する予定です。 永らくお待たせしての更新となり、大変申し訳ございませんでした。


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