豊穣の飛沫
Added 2021-03-04 12:01:46 +0000 UTCフリージャーナリストの俺が新興宗教団体である「豊穣の飛沫」に入会したのは、全て取材のためだった。 男しか入団を許されず、入団後は豊穣の飛沫が運営する施設での生活を強制されるという見るからに怪しい団体が、なぜか着々と信者数を増やしている。 何かが起きているに違いないことは誰もが気づいていた。でも誰もそれに触れようとはしたがらない。 そんな時こそ俺のような人間の出番だ。最前線まで突き進んで、この胡散くさい団体の実態を暴いてやるぜ、と息巻いていた。 だが俺はここに来て後悔している。でしゃばり根性など発揮するべきではなかった。世の中には絶対的に触れてはいけない部分があるし、人の手の及ばない奇妙な事象もある。 「ああっ、あひぃっ、んあっ、んあっ、いぃっ……」 俺の隣で恍惚の喘ぎ声をあげているのは俺とほぼ同時期に豊穣の飛沫に入団した男であった。 粗雑な性格が原因でどこに行っても人間関係絡みのトラブルを起こし、仕事をクビになりアパートを追い出されて行くところがなくなったと言っていた。ここにくれば衣食住の保障があるとの噂を聞き、信仰など何も持たずに訪れたのだという。 そんな男が、いま俺の目の前でアダルトビデオの女優のような艶かしい喘ぎ声をあげながら射精している。 豊穣の飛沫に入団した日から「修行着」と称された空手の道着のようなペラペラの麻と思しき衣服を揃いで着せられた俺たちだったが、その股間部分を突き破りそうな勢いで男のペニスは直立し、その先端をグジュグジュに濡らして、男なら誰しも見覚えのある白い粘液を布越しに滴らせていた。 「ヤマダタカヒコ、君はいま洗礼を受けた。気分はどうだ?」 俺たちの教育係を務めていた男が隣の男、ヤマダに声をかける。 「さいっこーです……チンポが……俺のチンポが喜んでいます……精子でるっ、また出るっ、出るっ、いぐぅぅぅっっ!……ぅぅっ、ほっ、豊穣の飛沫への忠誠を誓います……何卒……俺に導師の精なるお導きをぉぉ……」 ヤマダの股間がビクビクと震え、糊状の白い液体が再度迸る。隣にいる俺のもとまで漂う精液の臭いがますます濃厚さを増した。 「こんな無骨な男も聖水の一滴でこの有様ですか。いやはや、豊穣会の先生には頭が上がりませんね」 教育係の男の隣、修行着ではなく上等なスーツに身を包んだ男が、嘲笑を隠さずにヤマダを見下ろしている。 若手衆議院議員のSだ。祖父の代から続く磐石な地盤を持った上級国民の男が、何故こんな所にいるのだろうか。 ジャーナリストという職業柄、権力に対しては懐疑と反抗を抱いてしまう俺はSを睨みつけていた。そんな俺の視線にも気づかずに、Sは実験動物でも見るような目でヤマダを見て口の端で笑っている。 「S先生のお祖父様も導師の聖水のお力を信頼してくださっておりました」 教育係の男がSに向かって誇らしげに話す。 Sはチラリとそちらを一瞥し、顎に手を当ててニヤニヤしながらヤマダの痴態を眺めている。 その姿からは普段、国民の代弁者などとのたまい、テレビやネットで爽やかさをウリに支持を集めている若い議員の面影は感じられない。 そこにいるのは好奇と嘲笑を隠さない傲慢な若い男であった。 「さて、ヤマダタカヒコの洗礼は終わりました。続いてはヤマダの次に入団したサノジュンイチの洗礼に移りましょう」 教育係の男が聖水と呼ばれる水の入った水瓶を抱えた男を従えて俺の前へと歩いてくる。 抵抗しようと身をよじるが、動くことはできない。なぜなら俺はX字に組まれた木材に磔にされているから。 この部屋にいる修行着姿の男はみんなそうだ。口には布で轡が噛まされ、手足を組み木に縛られている。 「ずいぶん反抗的な顔つきじゃないですか?この男性は」 Sが続いてのショーの生贄とばかりに楽しげに俺のことを見て感想を漏らす。 「ここに来るのは導師の導きが必要な方だけではありません。先ほどのヤマダのように生活を求める者もいれば、この男のように真実を求める者もいる。ジャーナリストやら警察官と呼ばれる類の人間は、洗礼の際には一様にこんな目つきをしていますよ」 教育係の言葉で俺は背中に冷たい汗が通った。俺が何を目的にここに来たかバレている。 「我々の真実を暴こうとなどと意気込んでいたのでしょう。ですが、我々にやましい……いや、失言でした。我々に何かがあると感じた時点で既にもうこちらの手中に落ちているのです。我々の洗礼を受けて社会へと戻り、導師への道筋をつける役割を持った者たちの蒔いた噂のタネに翻弄されているのですから」 俺はここに来ようと決意するに至った日のことを思い出した。出版社勤めで週刊誌の記事を書いている先輩記者の存在。銀縁の眼鏡をかけ、こざっぱりとした冷静な人だった。 「少しきな臭いが、諸々の事情で俺みたいな出版社勤務の人間には手が出せない闇がある」 行きつけの安い居酒屋で俺に囁いた人。豊穣の飛沫の内情を教えてくれた。 あの人は既にこの組織の駒になっていたのだろうか。 いつも平静を装い、穏やかな顔で笑う人。屈強な体をしているわけでもないのに、どこにそんな力があるのかと思うほど仕事に熱をかけていた人。 そんなあの人も、隣のヤマダのように公衆の面前で幾度も吐精したのだろうか。そしてあの薄い唇から卑猥な言葉を口走り、豊穣の飛沫への忠誠を誓ったのだろうか。 「ん?」 Sから怪訝がる声があがった。 「その男……既に聖水が?」 Sの視線は俺の股間に注がれていた。そこはテントを張るほどとまではいかないが、こんもりと盛り上がっている。 俺は羞恥で顔を赤らめながらもSのことを睨みつけた。 「いえ、まだなにも。ですがよくあることです。この男には男色の気があるのでしょう。先ほどまでの男たちの洗礼を見て、血流が陰茎に流れ込んでいるのでは」 教育係の言葉で顔から火が出そうになる。いままで誰にもバレたことのない秘密があっさりと口にされてしまう。 真っ赤になった顔で睨み続ける俺を見て、さも愉快そうにSが笑う。 「なるほど、そんな場合もあるんですね。だとしたら君は幸運じゃないか。これから先、永遠に男たちの巣窟で暮らし、導師の教えについて生きていくことができるんだ。そんな幸せもあるさ」 他人事を楽しむSの姿を教育係の男がチラリと見やるが、すぐに俺の方へと視線を戻す。 「では、サノジュンイチ。あなたに導師の導きとなる洗礼を」 男の言葉に促されるように、水瓶を持った男が俺の前へと歩み寄ってくる。俺はせめてもの抵抗として唸り声をあげるが、かまされた布に吸収されて大した音にすらならない。 男が俺の修行着の腰紐をほどく。スルスルとほどかれたひもがウエストを緩め、そのままズボンがストンと床に落ちる。 ヤマダの時とは違い、既に怒張して上を向いた俺の性器があらわになる。「ほぅ」とSの声が漏らされたが、俺はそれどころではない。この先端に聖水を垂らされたら、俺もヤマダのようになってしまう。 焦る俺の目の前で無慈悲に水瓶が傾けられる。赤黒い亀頭めがけてトロリと粘性のある薄く白濁した聖水と呼ばれる代物が俺の体へと垂れ落ちてくる。いやだ……やめろ……頼む、やめてくれ……ヤマダみたいになりたくない……あんな醜態を俺は……俺はぁぁぁぁぁっ! 熱く火照る亀頭に氷が当てられたかのように冷たさが突き刺さる。それと同時に俺の中に「何か」が流れ込んでくる。 「はぁぁぁぁぁあんっ……」 俺の口から俺の声とは思えない甘ったるい声が流れ出た。頭の片隅で俺はそれを冷静に聞きながら、亀頭の上に乗った雫の中で蠢く「何か」によって、自分が自分ではなくなっていくのを感じていた。 「一気に従順な目になったな。いや、何も見えていないというべきか」 「聖水を浴びた体は一度全てを剥がされるのです。残るものは肉ばかり。肉が味わうことができるのは快か不快かの二択になります。聖水に含まれる導師の精虫が細胞に染み渡り、全ての者を導師の息子へと転生させるのです」 「セイチュウ?なんですか、それは」 「精子のことです。一粒一粒が尾を動かし蠢いているでしょう?」 「ははぁ……いやはや。いや、なんでもない。忘れていただけますか」 「S先生の口から間違いなど発せられないでしょう、ご謙遜なさらずに」 男たちのやりとりなど俺には聞こえていなかった。亀頭の先端の細胞の隙間から、白く濁ったオタマジャクシが潜りこんでくるのがわかる。 それらは俺を構成する数十兆の全ての細胞を侵食しようと一斉にその身を捩りながら突き進んでくる。 「あっあっあっあっあっっ……」 口に出るのは意味を持たない有声音ばかり。キモチイイッ、モット、チンポ、モット……頭の中が卑俗な言葉で埋め尽くされていく。 「もう充分でしょう」 男の声で傾けられていた水瓶が元に戻された。トロトロと糸を引いて滴り俺の亀頭と瓶の注ぎ口を結んでいた液体が途切れる。 「はぁんっ……もっとぉ」 俺の意思とは関係のない言葉が俺の口から漏れ出る。 「凄まじい威力だな……」 Sが俺の痴態に引いている。それも何故だか興奮材料になる。 もっと聖水が欲しくて、俺は腰を前後に振り、勃起したチンポをブルンブルンと振り回す。 「うわっ……」 俺の亀頭から飛んだしぶきがSの手の甲に付着したらしい。Sが不快そうに手の甲を見てスーツに手を擦り付けている。教育係の男がそれを一瞥し、言葉を放った。 「どうやら順番が変わったようです」 「へ?」 「S先生、あなたも今日の最後に洗礼を受けていただく予定でしたが、たったいまサノジュンイチの陰茎から飛んだ聖水を摂取したことで洗礼をお受けになりました。お召し物をお脱ぎになった方がよいかと」 「なっ!どういうことだ?」 「あなたの手の甲から導師の精虫が取り入れられています。やがて体が疼き始めますよ」 「ふざけたことを言うな!私を誰だと思っている!?」 「衆議院議員のS先生であられると認識しております」 いつのまにか多くの修行着姿の男たちがSを取り囲む。 「そして本日、我々の施設を視察に伺った時点で、あなたもまた導師のお導きに連れられてきたのです」 やめろっ、秘書を呼べっ、触るな変態どもっ…… 何か喚いている声が聞こえる。だが俺にはそんなことは関係ない。既に俺の全ての細胞に導師の精子が行き渡っていた。俺はなぜ豊穣の飛沫の悪事を暴こうなどと息巻いていたのだろうか。ここには悪などないのに。あるのは快感と、正しいお導きだけだ。 「んはぁっ……」 噴き出した精液で俺の亀頭がヌラヌラとてかっている。導師の聖水と混じり合い、とても神聖なものに見える。 「サノジュンイチ、こちらへ来なさい」 「はい」 教育係の言葉に従い、俺は歩き出す。手足を縛っていた縄が最も容易くちぎれてしまう。そうか、導師のお力で、俺は超人的な力を手に入れたのか。容易く納得できる俺がいる。 「ああっ……」 甘いマスクに上品なスーツを着た男が床に横たわっている。漏れる息が交尾の際に漏らすそれと同じだ。スラックスの股間部分ははち切れそうに盛り上がり、そこだけ紺色が濃紺へと変色していた。 「Sに導師の聖水を分けてやりなさい。あなたたちが同時に洗礼を受けたのは運命です。兄弟の契りを」 「かしこまりました……」 俺は聖水と自身の精液で濡れた亀頭をズイっと男の口元に突き出した。男は何の抵抗もなく、亀頭に舌を這わせる。 「はあっ……」 「んふっ……」 俺と男の口から同時に嬌声が漏れる。 俺たちは今、兄弟になった。俺は弟のスラックスのチャックを下ろし、はち切れそうな股関を解放してやる。 上等な生地であつらえられたボクサーパンツがグッショリと湿っている。それをおろせば愛しい弟のチンポが飛び出してくる。俺はそれを先端から喉奥まで一気に咥え込んだ。 「はぁぁぁぁぁっ……」 弟の口から艶かしい喘ぎが溢れ出る。 「S議員、新しい法案の整備により特定の宗教団体が税制面などで優遇されるとの指摘が出ておりますが」 歳若い記者が鋭い質問を飛ばす。Sはそれをはぐらかしつつ、群がるマスコミの群れの中に俺の姿を見つけると小さく微笑んだ。 ——次のお導きはあの若い記者がいいだろう マスコミを振り切ってSが黒い公用車に乗り込む。不満げに解散する記者たち。俺はその中の一人に近づいて声をかけた。 「なかなか鋭い質問をしてたね、君。……実はあまり表沙汰になっていないが、S議員はある団体の信者であるという噂があってね。それで今回の法案らしいよ。詳しく聞きたければ、教えてあげるけれど、あまり勧めはしないな。潜入ルポじみた真似をしなければいけなくなるし、危険なんだ。だが先程の君の鋭さを見ていると、君になら話してもいいような気がしてね」 俺の言葉に若い記者の顔が輝き出す。 また一人、導師の元へと導けそうだ。今夜は弟と一晩中交わりながら、導師の素晴らしさを讃えあうこととしよう。