ホワイトデーのお返しは
Added 2022-03-16 10:48:36 +0000 UTCシゲはおバカだった。中学1年の時に初めて女子たちからもらったチョコレートにあたふたして、 「なあ、お返しって何したらいいの?」 なんて俺に聞くもんだから 「ホワイトデーって名前の通り、白いものを返してやりゃいいんだよ。そうめんとか、いいんじゃねーの?」 と答えてやったら、真に受けてスーパーで買ってきたそうめんをホワイトデーに女子に配り始めた。 そうめんを渡された女子たちはドン引きしていたと思う。俺もドン引きした。 顔はいいのに、おバカなシゲ。中学から始めたバスケのおかげでどんどん背が伸びていって、高校卒業の頃には180cmに届いてたシゲ。 甘いようでいて、実は結構男らしい顔立ちをして、小動物みたいな脳みそしか持っていなかったシゲはみんなのアイドルで(恋愛対象にはなっていなかった。そうめん事件が伝説と化して同級生たちにより伝承され、周りの人間で知らぬ者はいなかったから)、奴の幼馴染である俺は、シゲの保護者としての地位を確立していった。 「おい、シゲ」 「んー」 「シゲヒコ」 「ヒコまで呼ぶなって言ってるじゃん」 シゲは自分の名前であるシゲヒコという音を気に入っていないらしい。俺がシゲと呼ばなければ不機嫌になった。 「じーちゃんみたいな名前でコンプレックスなんだっつーの」 シゲはいつもそう言った。 そのくせ他の連中からは「おーい、シゲヒコ」なんて呼ばれても「なにー?」なんて返事してやがるんだから、こいつは自分の嫌なことまで覚えていられないくらいに頭が悪いんじゃないかと心配になってくる。 「なんで他の連中にはヒコまでつけて呼ばせてるんだよ」 「いちいち訂正するの面倒じゃん。『シゲヒコって呼ばれるのイヤっ!』って、俺が甘えられるのは幼馴染のタクだけなんだもん」 そんなことを小動物みたいな黒いガラス玉みたいなおめめで言ってくるもんだから、俺はため息をつきそうになる。 俺はシゲに恋してる。もう、ながいことずっと。 ホワイトデーにそうめんを返せばいいなんて言ったのも、女子たちの中のシゲの点数を下げさせるためだった。(まさかシゲが本当に実行するとは思わなかったけど) シゲを好きでいるのは俺だけでいいのだ。シゲのおバカな言動に振り回されて、ため息をつきながらも奴の隣を歩くのは俺だけでいいのだ。 我ながら歪んでいると思う。純粋無垢で、真っ直ぐすぎるシゲには似つかわしくないくらい、俺は汚い。でもシゲが好きでたまらない。中学生、小学生、いや、幼稚園の頃から、ずっと。 「バレンタインにチョコをもらったよ。大人になってもお返しはそうめんでいいのかな」 シゲと二人で大学の帰りに居酒屋で飲んでいると、唐突にそう言われた。 「チョコレートもらったぁ!?」 俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。そして同時に気がつく。ああ、中学の時のホワイトデーそうめん事件を知ってる人が大学にはほとんどいないから、こいつにチョコレートを渡そうとする女が出てきたのか、と。 「結構かわいい子だったなあ。チョコなんて中1の時以来だから、ドキドキしちゃったよ。なあ、どうしたらいいと思う?」 お前が中1以降チョコをもらえなかったのは俺のせいなんだよな(そうめんを返せばいいなんて信じたシゲもシゲだけど)。そう思うと、キラキラした目で女子からもらったというチョコについて語るシゲが眩しくて見ていられなくなってくる。 「そうか。よかったじゃん」 俺は目を逸らした。ビールのジョッキを手に持ち、グイっと流し込む。――えっ、酒は20歳になってからだって?大丈夫、大学に入ってからもう何回も飲んでる。シゲのはじめての飲酒は俺と二人の居酒屋だったんだ。他の奴にこいつの初めてを奪われたくなかったからな。高校卒業式の次の日にすぐ俺から誘ったよ。 「なあ、どうしたらいいかな」 シゲはキラキラした目で俺に聞いてくる。 「そうめん渡せばいいじゃねえか」 「うーん、なんかでもそれでいいのかな。そうめんって、子供っぽくない? 俺ももう大学生だよ。中学生じゃないからさあ」 そうめんは子供っぽくねえよ。むしろかなり年寄りくさいぞ。(教えたの俺だけど) 頼むからそんな目で俺を見て恋愛相談なんてやめてくれ。いや、まだ恋愛にも至ってないんだろうけど。でも好きな男が他の奴からバレンタインチョコをもらったなんて聞いて喜べるほど、俺の懐はでかくない。 「タクはさあ、もらわねえの?チョコレート。幼稚園から15年近い付き合いだけど、タクがチョコレートもらったとか聞いたことないな」 「…うるせえな。一度もねーよ」 嘘だった。俺だって、シゲほどじゃないけど、多少はモテた。シゲを追いかけて入ったバスケ部のおかげで身長は176cmまで伸びたし、ガタイだってそこそこしっかりしている。スリムで筋肉質なシゲと対称的に、俺はガッチリしている。こんな二人のペアはそこそこ女子受けだってよかったんだ。高校時代は4人に告白されたし、チョコを渡そうとしてくる女子もそこそこいた。全部断っただけだ。俺にはシゲがいればそれでよかったし、それ以外の何も人生に混ぜたくなかったから。 「俺から見てもタクって結構カッコいいしさー、謎だね。モテないの」 「そりゃどーも」 好きな男に「カッコいい」と言われて、心臓がどくんと一瞬高鳴ったが、それはあくまで「モテる」という他者からの評価に帰結することであって、シゲが俺を特別どうこう思ってるわけじゃないんだと感じて悲しくなった。俺はビールを再び流し込む。空になってしまったので、店員を呼び止めて追加を注文する。 「そんなに飲んで大丈夫?」 シゲが尋ねる。 こいつは何か尋ねる時、顔を覗き込むようにして尋ねてくる。他の奴にはしないくせに。一度それを指摘したら「だってタクは幼馴染で特別だから」と言いやがった。特別だっていうなら、もっと特別な関係になってくれよと言いたかった。言えなかった。 「タクー、吐かないでねー」 腹が生暖かい。気がつくとシゲに背負われていた。 「あれ? 店は?」 「閉店時間までいたじゃん。タク、酔い潰れちゃったんだよ」 全く覚えていなかった。 それはそうとして、腹から伝わってくるシゲの背中の体温が心地いい。他人だったら生温かさにブチギレてはっ倒していたかもしれないが、好きな奴の体温が気持ちよくないわけがない。 「シゲー」 俺は呼びかけて、ぎゅーっとシゲの体を抱きしめる。俺に急に背中から抱きすくめられたシゲが、俺の方へと顔だけ振り向けて「んー?」と返事をする。 「カワイイなあ、お前は」 思わず俺は言葉にする。ああ、こんなこと言ったらまずいんじゃねえか? なんて、どこかで思いながらも、それ以上に腹に伝わるシゲのぬくもりによってもたらされる多幸感で気が大きくなっていたのだ。 「男がカワイイはおかしいでしょ」 シゲが笑う。シゲの笑いに合わせて揺れる筋肉が、俺の腹部に振動を伝えてくる。 「おかしくねーよ。お前はカワイイよ。シゲ」 「タクの方がカワイイよ。ベロンベロンに酔っ払って立てなくなって、俺におんぶされてるんだから」 「なんだと? 俺はなあ、全然酔ってなんかいねえんだよ」 「じゃあ降りてよ。結構重いんだから」 「嫌だ」 俺は幸せから引き剥がされそうになったので抵抗した。シゲが苦笑して「しょーがないなー」と笑う。 そのまま夜の街をシゲにおぶられたまましばらく歩いた。シゲは俺を背負っても息一つあがっていない。さすがスポーツマン。いや、俺だって同じスポーツ歴があって、結構ガチムチな体型してるんだけども。 無言のままでいたせいか、俺は口を開くタイミングを失った。ただ、シゲの背中が少し汗で湿って、それがぬるく俺の腹を温めて、俺のTシャツまでちょっぴりシゲの汗で湿っていくのを悪くない気分で感じていた。 車が何台も俺とシゲの隣を通り過ぎて行く。いま何時かはわからなかったが、閉店時間までいたというシゲの言葉から推測するに、深夜に近い時間のようだった。 「なあ、タク」 シゲが突如呼びかけた。 俺は返事をしようとしたが、シゲの体温にセクシャルな幸福を感じていた後ろめたさもあり、とっさに言葉が出てこなかった。 「タク? 寝ちゃったの?」 シゲは俺が寝たのと勘違いしたらしかった。俺は慌てて目を閉じる。 「タク?」 シゲの首が後ろに向くのがわかった。俺は目を閉じて眠ったフリをする。 「寝てるし」 シゲが笑って再び首を前に向けたのがわかった。声の聞こえてくる距離感が遠くなった。 「タクは嫌じゃないのかなー、俺が女の子からチョコもらったって話」 嫌に決まってんだろ、と言いそうになったが、慌てて寝たふりを続けた。いま返事をしたら、先ほど寝たふりをしていたのがバレてしまう。 「タクはひどいなー。中学生の俺にホワイトデーはそうめんを返せばいいなんてデタラメ教えて、俺の周りの女の子を遠ざけようとしたり」 俺はドキリとした。どうしてシゲがそれを知っているんだろう。さすがに7年も騙したのは無理があったか。 「幼馴染のフリして普通の顔して同じ部活に入って、俺の着替えを盗み見てたり」 あっ、これはあれだ。シゲの奴、気付いてる。俺がずっと目でこいつのことを追っていたこと。 「銭湯にやたら誘ってくるのも裸を見たかったからだって」 それもバレてるのか。俺は頭が真っ白になった。どうしよう、このままじゃシゲに嫌われてしまう。いや、すでに嫌われていてもおかしくない。 「一緒にエロ本見て、シコるところまで見らたもんなあ」 ああ、俺の中学高校時代の悪事が暴かれていく。おバカで純真だったシゲを騙して、色々とやらかしたことがシゲの口から暴かれていく。 「なあタク、起きてるんだろ?」 シゲが急に俺に呼びかけた。 俺はどうしたらいいかわからなかった。少しでも結論を先送りにしたくて、眠ったフリを続ける。 「いまの、全部さっき酔っ払ったお前が自白したんだからな」 嘘だろ!? と、叫びそうになる。 シゲは歩き続ける。俺が重みでズリ落ちそうになると、背中を大きく揺すって、俺の体を背負い直す。 「それでもさあ、お前のこと置いて捨ててこないで、背中に乗っけて家まで帰ろうとしてる俺に言うことはないのかよ」 シゲがブツブツと呟くように続けた。 俺は聞き間違えたかと思った。幸福な聞き間違いをおかしているのだと。 「それどういう意味?」 俺は思わず聞き返した。「やっぱ起きてたじゃーん」とシゲが笑う。 「なあ、いまのどういう意味だ?」 俺はもう1度聞き返した。 シゲは「んー、ふふ」と笑って答えない。 気がつけば住宅街に入っていた。俺たちの家の近所だ。結局、店からずっと俺はシゲの背中の上にいた。 そのままシゲは歩く。俺の家の前を通り過ぎる。俺が降りようとすると、がっしりと腕を絡めて、降りられないようにされた。「おい、俺んち」と言っても「ふふーん」と機嫌良さげにシゲは歩き続ける。 シゲの家の前に来た。シゲが俺を背負ったまま、シゲの家に入ろうとする。シゲの家はみんな寝静まっているのか、窓は全て真っ暗だった。 「鍵開けるから降りて」 シゲに促されるままに俺は素直に背中から降りて、シゲの家の玄関にたった。シゲがポケットから鍵を出して、開ける。 ドアを開け放した。家の中も真っ暗だった。 「今日ね。うち、誰もいねーの。それでも寄っていく? それとも帰る? タクが決めていいよ」 シゲが笑って言う。俺の初めて見る顔をしていた。口もとは柔和に笑っているのに、目が全く笑っていない。でも、冷たいとかそういうのじゃなくて、ギラギラした、雄をむき出しにした視線。 俺は唾を飲み込んだ。ゴクリと大きな音がした気がした。シゲの横を通り、家の中に入った。シゲが俺に続いて家に入る。ドアを閉める。バタンと音をたてて、ドアが閉まった。暗い玄関で、シゲと2人っきり。 何も見えねーよ、という俺の言葉は言葉にならなかった。両頬をシゲの手で挟まれて、唇に唇を合わせられた。 舌が積極的に俺の口をこじ開けようとノックしてくる。呆気に取られてポカンと開いた口に、シゲの舌が滑り込んでくる。ヌルヌルと唾液でコーティングされたそれは、何の抵抗もなしに俺の口内になだれ込んできて、好き勝手に暴れた。 俺のファーストキスだ。俺のファーストキスがシゲに奪われた。俺はポカンとして、突っ立ったままでいると、シゲが口を離した。 「俺だけ盛り上がってるじゃん」 抗議するような口調でシゲが言う。俺は「ごめん、びっくりして」と謝った。シゲは少し足下を見て、まだ俺たちが靴を履いたままなことに気づいたようだった。 「ん、俺もがっつきすぎだよね。ごめん。部屋行こうか」 靴を脱いだシゲにつられて俺も靴を脱ぐ。 何度も遊びに来たシゲの家は、電気がひとつもついていなくて真っ暗でも、何の苦もなくシゲの部屋まで行くことができそうだ。 けれども家主を蔑ろにするような真似はしない。シゲにエスコートされる形で俺は部屋に向かった。 シゲの部屋で、ベッドの上に向き合って座った。カーテンを閉めていないので、外から入ってくる灯りで互いの輪郭が意外とはっきりと見えた。 「むかしさ、似たようなことあったよね」 シゲが笑って言う。 「2人でひとつのエロ本見てさ、初めてオナニーした時」 そう言ってシゲは上に着ていたシャツを脱いで地面に落とした。 「2人とも制服着ててさ、下半身だけ裸になって、立っちゃったチンコをそれぞれ自分でシコってさ。でも、あの時、実は俺もエロ本はそんな見てなかったんだよね。タクのチンコばっか見てた」 シゲは普段よりも遥かにすらすらと喋りながら、流れるような動作で立ち上がりベルトを外してパンツも脱いだ。ボクサーパンツ1枚になったシゲが再びベッドの上に座った。 「タクも脱いでよ」 そう言われて俺は初めて自分が服を着たままなのに気づいた。全てが冗談みたいだった。 「本気か?」 俺は思わず尋ねた。 「冗談であんなキスするわけねえじゃん」 シゲが答えた。「キス」という単語がシゲにはひどく不釣り合いに思えた。シゲはついこの前まで「タクちゃん、ちゅーしようよ」なんて言いながら、幼稚園の園庭で誰にも見られない低木の影で頬に唇を合わせていたのを思い出した。そして俺は気がつく。俺のファーストキスはさっきじゃない。幼稚園の園庭で、シゲとしたのが初めてだったと。 なんでこんな大事なことを忘れていたのだろうか。あまりにも都合が良すぎる記憶だと思って、自分の夢だと思っていたのかもしれない。 「なあ、シゲ」 「なにー?」 「ファーストキスって、覚えてるか?」 「幼稚園の小ちゃい木の茂みの中でタクとしたね」 そう言ってシゲが笑う。俺も笑った。俺はTシャツに手をかけて一気に脱ぎ捨てた。 ヌチャッ、クチャっと、粘着質な水の音が聞こえる。俺とシゲの舌が絡み合っては離れる音だ。下着のパンツ姿になった俺たちは、互いの手でパンツの布越しに互いの性器を弄っている。 顔を斜めにさせて、何度もシゲと口づけを繰り返す。顔が少しでも離れるのさえ惜しむように、即座に再び顔を合わせる。5分くらいそうしていただろうか。やがて2人で荒い息を弾ませながら見つめ合った後、シゲの両手が俺のパンツを下ろしにかかったので、俺もシゲのパンツを下ろした。 ブルンッと音がしそうな勢いで、2人のペニスが夜の闇の中で飛び出して姿をあらわにした。シゲのペニスは長かった。オナニーを見せ合った中学の時と、形がだいぶ変わっていた。皮は剥けていたし、亀頭がピンポン球のように大きかった。陰茎の茎の上に球体が乗っかっているみたいだった。 俺のペニスは長さはあまりないが、太い。皮も普段から剥けている。カリの高さはあまりないが、幹の部分も太いずんぐりしたペニスだ。 シゲが俺のペニスを握り、クスリと笑った。 「なんだよ」 俺はたじろぐ。 「ごめん、アソコも俺たちと同じだなって思って」 そう言ってシゲはゆっくりと扱き始めた。 「ノッポの俺と、ガッチリのタク。……って感じ」 俺はそれを聞いて噴き出してしまった。 情事の合間に笑いが挟まれても、互いの熱が冷めることはなかった。俺たちは互いのペニスを扱きながら口づけを交わし続けた。何度も溢れそうになる唾を飲む。俺の唾液か、シゲの唾液か。区別なんてとっくにつかなくなっていて、それでも俺たちは互いの体液を躊躇なく自分の体内に摂取し続けた。 「あっ……」 シゲが急に甘い声で鳴いた。我慢汁でヌルヌルになった亀頭を手のひらでこするように責め立ててやった時だった。 「亀頭感じるのか?」 俺が笑って尋ねると、シゲは気を悪くしたようにムッとしながら「タクだって感じる場所があるだろ」と言って、俺の体全体をめちゃくちゃに弄り始めた。俺の性感帯を見つけ出してやろうとしているらしかった。かわいい。 シゲが俺の全身をくまなく愛撫している最中も、俺の手はシゲの亀頭を撫で続ける。シゲは時々全身をびくりとさせて、羞恥からか顔を背けて俺の腹筋の溝を舐めたりする。 そのうち、シゲの舌が俺の乳首をかすめた。「おぅっ」と俺は声を上げる。シゲが顔をあげてニヤリと笑った。悪い顔をしていた。これもまた、俺が初めて見るシゲの顔だった。 「やる気ースイッチ、タクのはここにあるんだろー」 某学習塾だったか、家庭教師のCMの歌の替え歌を口ずさみながら、シゲが重点的に俺の乳首を責め始めた。時に舌でくるくると乳輪をまわすように弄り、親指と人差し指で先端を摘んでみせたり、かと思えばほどよい強さで指先で連打してみせたり、爪を軽く立ててカリカリと削るように触ってみたり……。 その全てが俺の快感になった。 シゲと兜合わせをしているだけで十分に満たされて気持ちよかったのに、俺はそれ以上の快感に嗚咽をあげて鳴いた。獣みたいに「ああっ、シゲっ、ああっ、いいっ」と唸った。 俺の手はシゲの亀頭を責めるのをやめていた。乳首を通して与えられる快感で、それどころではなくなっていたのである。 ひととおり俺の乳首をせめたてて満足したのか、ハアハアと息を荒くする俺を裸の皮膚でギュッと抱きしめたあと、シゲは舌で再び俺の腹筋の溝をなぞった。そのまま下へと流れていき、やがて陰毛の茂みにシゲの鼻先がたどり着いた。今度は俺の方が羞恥で一気に顔が火照り、「シゲ、そんなところまでしなくていいっ」と思わず静止した。 シゲは顔を上げて俺を見た。そしてまた笑った。悪い顔だ。そのまま、再び下を向く。シゲの頭が俺のペニスの先端に近づいていく。やめろって、ともう一度言おうとする直前に、ペニスが史上最大級の快感に包まれた。亀頭が蕩けるかと思った。 シゲの口腔内は暖かく、とろとろにとろけていた。俺のペニスはシゲの口の中で暴れるように膨張して体積を増した。シゲの舌が亀頭をグルリと一周して舐め回す。俺は快感のあまりわけのわからない声をあげて、ベッドの上で跳ね上がってしまう。俺の腰が跳ね上がったせいで、シゲの喉奥にペニスがずぶりと突き刺さる。シゲは少し噎せかけたようだったが、口をペニスから離すことなく、快感を与え続けてくれた。 数十秒そうしていただろうか。俺は情けない予感がした。もっとシゲの奉仕を味わっていたいのに、睾丸が噴火の準備を始めたのがわかった。精子が、発射準備に入る。俺のペニスが、硬さを増す。 「おい、シゲ。もういいよ。俺出ちゃうよ」 俺はシゲの髪を軽く撫でて合図した。それでもシゲは口を離さなかった。 「おい、シゲ。口に出しちゃうって」 俺は焦った。急と同時に、射精の快感が体の奥底から突き上げてくるのがわかった。もう無理だ。我慢できない。力づくでもシゲを引き離さないと、親友の口の中に射精してしまう。 俺はシゲの頭を掴んで、俺のペニスから引き剥がそうとしたけれど、その試みは失敗に終わった。シゲが力を込めてふんばるのだ。 「ダメだって、シゲ、マジで、やばいっ……やばいっ……出るっ!」 俺は射精した。シゲの口の中に。凄まじい快感だった。柔らかくて温みのある粘膜に精液を噴出するというのは、こんなにも快感を伴うのかと、頭がおかしくなりそうになった。オナニーでは決して味わえない、セックスに最も近い快感を俺は味わった。それも、15年近く片思いしていたと思っていた幼馴染を相手にして。 俺は肩で息をした。腹筋の痙攣がようやく治まった。今までの人生で最も大量の精液を噴射したと思う。シゲが唇を俺のペニスにピッタリと合わせたままで、口の中の精液が漏れないように気をつけながら、俺のペニスから口を離すのを見ていた。 起き上がったシゲは小動物みたいにほっぺたを少し膨らませていた。かわいいと思って、笑みが溢れてしまう。シゲも笑った。シゲが口を開けた。口内で、俺の出した精子がねっとりと溜まっているのが見えた。 「なに見せるんだよ! 恥ずかしいだろっ」 俺が抗議すると 「おあいおえーあえ」 とシゲは口を開けたままで母音だけで喋った。 「何言ってんだかわかんねえよ」 俺が言うと、シゲは口を閉じてゴクリと喉を鳴らして俺の精液を飲み干してしまった。 「ホワイトデーだね、って言ったんだよ」 「お前、何やってんだよ。のんだのか?」 「飲んだよ」 「バカ……そんなことしなくていいって」 「俺がしたかったんだよ」 シゲはこともなさげに言う。 「ホワイトデーって、こんな時までふざけるなよ」 俺が脱力して笑うと、シゲが肩に顎を乗せて甘えてきた。 「ふざけてないよ。本気だよ」 俺はシゲの髪を撫でる。シゲが「ふふ」と小さく声を出して笑う。 「次は俺のホワイトデーも受け取ってよ」 しばらくそうしていた後、唐突のシゲはそう言って脚を開いて亀頭が立派な長いイチモツを俺に向けてさらけ出した。天井に向かって力強くそそり立つそれが、ぶらぶらと揺れている。 「お前、亀頭弱いからすぐ出しそうだな」 俺がからかうと 「タクだってすぐいっちゃったじゃん」 とシゲは不服そうな顔をして言った。 「怒んなよ」 俺はそう言って、シゲの亀頭に唇を添えた。シゲの鼻から息が抜ける音がする。 少しずつ、巨大な亀頭を口内におさめていく。嫌な感じは全くなかった。ただ圧迫感がすごいだけ。ペニスなんて排尿にも使う器官なのに、好きなやつのものなら汚いなんて思いもつかないんだと思った。さっきのシゲも同じ気持ちで俺にフェラをしてくれたのなら嬉しいと思った。 「ああっ」 シゲが甘く鳴く。動物みたいだ。俺たちは今、交尾をしているんだと思った。気持ちいい。交尾はすごく気持ちいい。もっと、ずっとしていたい。シゲとなら。 俺は少しずつリズムをつけてピストン運動を始めた。シゲの亀頭を出したり入れたりしながら、唾液で濡らして責め立てていく。シゲが鳴く。俺は不思議な幸福を覚える。その繰り返し。やがてシゲが一際大きな声をあげた。 「ああっ、ダメ、もうやばい」 次の瞬間、口内が生暖かくなった。シゲの睾丸で温められていた種だと思うと、愛おしくなって、俺は音を立てて飲み干してしまった。 「俺のホワイトデーのお返し、どう?」 シゲが照れ臭そうにニヤニヤしながら尋ねてきた。 「美味いよ」 俺が答える。 「上手くはないでしょ」 シゲが笑う。 「好きだから飲めちゃうってだけで」 そうか、シゲも俺を好いてくれていたのか。なんて、今更のことを俺は再認識する。 そのまま2人でキスをした。精液の苦い味がした。ホワイトデーのお返しは白いものがいいんだぜ、なんて適当なことをシゲに教えたもんだから、こんな苦いキスを今しているのかな? だなんて俺は考えていた。