ホモフ・ヤース公国のパビリオン
Added 2025-05-22 08:11:56 +0000 UTC賛否両論のわかれたマスコットキャラクターに見送られ、佐藤優吾は某イベント会場のゲートをくぐった。 ここには世界中の国々がパビリオンと呼ばれるブースを出展しており、その国の文化や歴史などに触れることができるのだ。 「でもやっぱり一人じゃつまんねーなあ」 優吾は会場内をふらふらと目的もなく歩きまわりながらつぶやいた。本来であれば友人たちとくる予定だったのだが、全員急用などができてしまい、優吾一人しか都合がつかなかったのだ。 「まあ、まだしばらくやってるし、またみんなで来る機会もあるだろう!」 優吾は楽観的な男であった。それゆえ、もうそれ以上一人がつまらないなどと考えることもなく、目についたパビリオンに片っ端から突入してイベントを満喫した。 いつしかだいぶ歩きまわって、会場のはずれのほうまで来ていた。 そこには小さなパビリオンがあった。案内表示によれば、《ヤース公国》のパビリオンとのことだった。 聞いたこともない国名だった。優吾は好奇心をそそられてなかへと入ろうとした。 「男性の方はこちらの入口からお入りください」 笑顔を浮かべた案内人が上手な日本語で優吾に説明し、二つある入口のうち右側をさした。 「男女で入口がちがうんですか?」 優吾がたずねると、 「ヤース公国では男女がひとつの閉じられた空間に入る風習がないのです。ヤース公国の日常を体感してもらうためにも、パビリオン内ではそれぞれはちあわせることのないように設計がされています」と案内人は答えた。 それを聞きながら、『この人、結構イケメンだな、こういうところの案内人になるから、顔とかも採用基準になるのかな』なんてことを優吾は思っていたが、そんなことはさすがに言うわけにもいかず、 「へぇー、そうなんだ」と答えた。 その原則は夫婦やカップルであっても変わらないようで、入口ではほかにも家族連れや恋人同士がその説明を受け、それぞれ自分が案内された入口からなかへと入っていくところだった。 「じゃあ、ソウタはパパと一緒にこっちだな」 30歳くらいのメガネをかけた爽やかな男性が、5歳くらいの男の子の手を引いている。 「はなればなれになっちゃうのは寂しいけど出口でまた会おうね」 なんだかバカップルっぽい男女がなごりおしげに手を振りあいながらわかれて入口へと向かっていく。男はアイドルみたいな顔をしているのに、なんだか言動が残念だ。 ほかにも何人かがなかへと入っていくが、その数は多くはなかった。立地がだいぶはずれた場所にあるからかもしれない。 なにはともあれ、優吾もなかに入った。 男性用のドアをくぐってすぐに、なにか特徴的な匂いが鼻をついた。ムスクの匂いのような、「デキる男」がつけていそうな香水みたいな、なんだかちょっとエロい匂いがたちこめていた。 『ヤース公国は、かつてヨーロッパの植民地の一つで、ホモフ・ヤース公爵の統治で発展し、その後そのまま一つの公国として19XX年に独立を果たしました』 館内では低く落ち着いた男性の声でアナウンスが流れていた。 『ヤース公国のできた場所にはすでに土着の信仰があり、先住民族たちは男根崇拝をしておりました。ヤース公爵の偉業を讃えて、ホモフ・ヤース公爵の陰茎をかたどった木彫りの置き物は、ヤース公国のどこの家庭にも置かれている神聖なものです』 「パパ! おちんちんがいっぱいあるよ!」 父親に手を引かれた少年が、展示されたいくつもの木彫りの男根を指さして声をあげた。 「ああ、そうだね」 父親はすこしとまどったように子どもに答えた。それはそうだろう。親子のあいだで性に関する話題というものは、なにかとセンシティブになりがちなものだ。 木でできたちんこは、勃起したところをかたどったもので、どれも立派だった。皮が剥けて、マツタケみたいにエラがはり、亀頭がよく磨かれてテラテラと輝いていた。 横の説明書きによると、歴代の公爵家の男たちのちんこがすべて揃っているらしい。これらはすべてレプリカではなく、普段はヤース公国の博物館に所蔵されている実物なのだという。 「パパ、ぜんぶすっごくおっきいね。パパのよりおっきい!」 子どもが見た父親の男根は、平常時のものだろう。勃起すればおちんちんは大きくなるので、少年の父親のモノがかならずしも貧相とはかぎらないのに。子どもはそんなことはつゆしらずにピュアに驚いている。 優吾は同情の目で若い父親を見た。父親は顔を真っ赤にして、「そういうことは言っちゃダメなんだよ」と子どもを注意していた。 展示は奥に進むほど、なにやら怪しさを帯びてきた。筋肉質な裸の男の絵や、見ている人間が恥ずかしさを感じるほどに親密に描かれた男同士のからみあう絵がいくつも展示されていた。 『ヤース公国の国技はレスリングをもとにしたハッテーンと呼ばれるスポーツです。貴族や庶民などの階級を問わず、すべての男性に親しまれています。日本の相撲と同様に女性がリングにあがることは禁止されていて、試合の観戦も男性だけにかぎられています』 まるで射精しているような顔をしていると、優吾はハッテーンに興じる男たちの絵を見て思った。 快感を我慢し、それを解放するときの、放尿のような絶頂。それは男たちだけの秘密。競技も観戦も男だけに限られたというその神秘的なスポーツに、いつしか優吾は胸をドキドキと高鳴らせて生唾を飲む。 優吾だけではない。展示を眺める男たちはみなおなじような状態になっていた。 「かっこいい……」 先ほど父親の陰茎の大きさをばらした子どもが、うっとりするような顔でハッテーンの様子を描いた数々の絵画に見入っている。彼の半ズボンの股間が、テントのように張り出しているのに、付き添いの父親は気づいていない。父親もまた、ハッテーンに夢中になっているのだ。 「すげえ……」 入口で愁嘆場のような別れを見せていたバカップルの男も、股間をつっぱらせながらハッテーンの様子に見入っていた。 「つぎの展示はもっとすごいですよ」 いつしか部屋の中央にいた案内係が、男たちに催眠をかけるようにうながす。男たちはその言葉にしたがい、ぞろぞろとハッテーンの展示室をあとにする。 少なくない男たちが男根を勃起させている。案内人はそれをとがめない。むしろ微笑ましく眺めている。男根崇拝がおこなわれているヤース公国では勃起は恥ずかしいものではないのだ。 つぎの部屋では映像が流れている。スーツ姿の二人の紳士が、股間を膨らませながらハグをして、つづいて互いに交互に後ろ抱きになり、バックから攻めるかのように腰をピストンさせ、相手の尻を股間で刺激している映像が流れている。 『こちらはヤース国の挨拶です。男性同士だけの空間では、こちらのエロコービと呼ばれる特別な挨拶をおこないます。まずは互いに勃起した陰茎を服越しに擦り合わせるようにハグをし、キスをします』 「パパ、勃起ってなに?」 少年が父親を見あげてたずねる。 「ちんちんを硬く大きくさせることだよ」 「いまのぼくのちんちんみたいなこと?」 少年の股間は小さいながらももっこりと膨れあがっている。 「そうだよ」 父親はそれを一瞬ちらりと見おろしただけで答える。「パパも勃起しているよ。触って確かめてごらん」 少年が父親の陰茎をズボン越しに撫でまわしはじめる。 「んぉっほっ……」 父親はわずかに腰を引きながら、快感に浸っている。 それを見ていた優吾も、いつしか自分が痛いほど勃起しているのに気がつく。ついでにすこしパンツのなかが冷たい。どうやら我慢汁が大量に分泌されているらしい。 ふいに手になにか硬くて熱いものがあたり振り向くと、うしろにいる短髪の背の高い男と目が合う。男の勃起が優吾の手に触れたのだ。二人は照れたように微笑み、会釈をする。しかし離れようとはしない。そのままさりげなく手と勃起を触れ合わせたまま、エロコービについての解説VTRを見つづける。 『バックハグの形を取り、乳首を指先で爪を軽くたててなぞりながら、肛門のあたりを勃起した陰茎の亀頭で何度かつつきます。この際、感じたままに喘ぎなどを漏らすのがマナーです。お互いにこれを数回気が済むまで繰り返すのがエロコービの一連の流れとなります』 「あの」 優吾は唐突に後ろの男から声をかけられた。 「よかったら、おれたちもやってみませんか? お近づきのしるしに……せっかくこんな場所で知り合えたんですし」 周囲では男たちが手近なものたちとペアになり、エロコービの実践をしはじめていた。「ああっ」とか「うぉぉぉっ……」といった喘ぎがあちこちから漏れている。 優吾が頷くと、男は股間を突き出して抱きついてきた。映像で見た通りに、優吾も挨拶を返した。 「つぎはいよいよ最後の展示室になります」 案内係がそうアナウンスをするまで、部屋の男たちはエロコービを止めることができなかった。あたりは熱気に包まれ、汗やフェロモンだけではない、栗の花のようないやらしい匂いもわずかにたちこめていた。 熱に浮かされたように男たちが最後の展示室に入ると、そこでは裸の男たちが乱交している映像が流れていた。白人や黒人、アジア系、中東系……様々な人種を問わず、男たちは肛門にペニスを挿入しあい、雄叫びや喘ぎをあげ、精液を噴出させて撒き散らしていた。 『ヤース公国では性行為はあらゆる挨拶と関連します。ただしこれは男性だけに限り、これらの秘密は女性には完全に隠されています。共通の秘密を持つことで男たちは団結しあい、人種の壁を超えてヤース公国は国益を発展させてきました』 「それではせっかくなので皆さんも乱交を体験してみましょうか」 そう言って案内係が服を脱ぎはじめた。ハッテーンの展示室で見たような筋肉質な体があらわになった。 男たちもつぎつぎと服を脱いで裸になりはじめた。 なかにはすでにもう射精している者もいた。精液でテラテラと亀頭を輝かせながら、呆然とした顔で裸になり、勃起した陰茎と睾丸をゆらゆらと揺らしながら立っていた。 「こちらはヤース公国で性行為の際に使われる特殊なローションです。スライム状をしており、感度をあげ、耐久力もあげる作用があります。国の花であるホモザーメンの木から取れる樹液を原料としております」 案内係がそう説明して手のひらにのせたスライムを男たちに配る。 受け取った男たちはもう説明などなくても、それを使って肛門をほぐし、陰茎をしごきたてた。ホモザーメンの樹液は男たちの粘膜に即座に吸収され、やがてローションのような粘液だけを残して消えていった。 「ホモフ・ヤース公国、万歳!」 誰かがそう声をあげた。それと同時に、優吾は自分の尻にめりめりと硬くて太い男根が突入してくるのを感じた。エロコービのときに一緒だった男が、優吾を犯しているのだった。 「ホモフ・ヤース公国、永遠に!」 誰が言い出しているのかもわからない叫びにつられるように、男たちは一斉に交わりはじめた。父親に連れられていた少年は、父親の尻穴に小さな陰茎を挿入して、その幼さで童貞を卒業していた。バカップルの片割れだった男は、案内係の男から尻を犯されながら喘ぎ、また別の男の尻に男根をずぶずぶと埋め込んでいった。 「心配になるくらいに計画は順調だな」 モニター越しに、髭をたくわえた高貴そうな男が呟く。 「この国は150年ほど前まで男色が盛んだったようなので、受け入れ土壌も整っていたのかもしれません」 一人の青年が髭の男の勃起に奉仕しながら答える。髭の男の勃起した男根は、パビリオンの入口に展示されていたものの一つとよく似ていた。そう。彼こそは現在のホモフ・ヤース公国の王その人であった。 「ホモザーメンの樹液を取り入れた男はもうホモ交尾なしでは生きられなくなるからな」 王は笑う。「世界が私のものになる日もそう遠くはないな」 「その通りでございます。世界はホモフ・ヤース公国の名の下に統治され、男たちは絡み合い、平和で美しい世界が訪れることでしょう」 奉仕していた青年が笑顔で答える。 「ふむ、気分がいい。褒美をやろう」 王は射精した。青年が歓喜の声を上げて噴き出てくる王の種汁をつぎつぎと舐めとった。 パビリオンの出口では、女性用の展示を通り抜けてきた女性陣が待っていた。 「こっちこっち!」 30くらいの女性が手を振っている。 「遅くなってごめん」 そこに少年を連れた30代くらいの若い父親が合流する。 「面白い国だったね。男女でまったく風習が違う国ってことだけはわかったけど、そっちはどんな展示だったの?」 妻にたずねられた男性は、「とくに言うほどのものじゃなかったよ。でも面白かった。な!ソウタ!」 「うん!」 子どもが元気一日に答える。 自分の幼い息子がパビリオンのなかで実父を相手に童貞を捨ててきたなど夢にも思わず、母親は「じゃあ行こうか」とうながす。パビリオンを去る家族連れを優吾は見送る。ふいに父親と子どもが優吾の方を振り返り、にやりと卑猥な笑みを浮かべる。じつは優吾と父親は連絡先を交換したのだ。また来週にでも、がっつりとホモ交尾にふけり、ホモフ・ヤース公国への忠誠を高め合おうと約束していた。 カップルが合流している。相変わらずバカっぽくイチャイチャしている。だが男の方の尻のなかには、十数人の男の精液が入っているのだ。そのせいか男はどこか恍惚とした、熱っぽいような顔をしており、女から心配されている。 ポンと優吾の肩を叩く手があった。振り向くとエロコービのときから一緒だった男がいた。 「じゃあおれたちも行こうか」 「そうだね」 優吾と男は別のパビリオンへと向かって歩き出す。今夜はホテルではなく、このあたりが地元だという男の家に泊まることになっていた。 「つぎは友だちも連れてこないとなー」 優吾の言葉に男が「そうだね」とうなずく。 「友だちもみんな仲間にならなくっちゃね」 「うん。ホモフ・ヤース様の名の下にね」 男と優吾はキスをする。しかしこの辺りではまだ、周囲の男たちはその光景をおかしいとは思わない。 みんなヤース公国のパビリオンを出てきたところだからだ。男たちはこれまでの自分とは違う自分に生まれかわり、ヤース公国に忠誠を誓ってそれぞれの家へと帰っていく。