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風早くんとわたし

私が「君に届け」を手にとり、太陽の光を浴びる時。一番最初に感謝を告げる相手は椎名軽穂様だとして、次思い浮かべるのは間違いなく風早翔太くんであろう。


「風早くん」こと「風早翔太」は、椎名軽穂様によって描かれた「君に届け」(2006~2017)に登場する人物だ。クラスの中心核の男性でムードメーカー、人当たりがよく爽やかな男の子という印象を読者に与える。「君に届け」は見た目が暗いが優しく穏やかな黒沼爽子と対照的な風早くんによって織りなされる少女漫画である。

正直いつ風早君と私が邂逅を果たしたのか記憶はないが、姉が読んでいた君に届けを借りたのが出会いである。最初は私は特に風早君にはなんの印象を持つこともなく、「エエやつ」止まりであった。なんなら爽子とうまくいったらいいねと応援するほどだった。

しかし、漫画の序盤で私のおたくごころをぐらぐら揺らしのちのち私のおたくライフの基礎ともなる天才女、「胡桃沢梅」が現れる。胡桃沢梅は爽子に「お人形さんみたい」と形容されるほど端正な顔立ちをしており、かつ友人たちとも温和な態度で会話をするような「普通以上のカワイー女子」だ。しかし、内面は計算高く腹黒い。「梅」と名前で呼んだ相手をノートに書き残しておくなど執念深い一面ももつ。そんな胡桃沢梅は中学のころから風早くんのことを好いているため、急に風早くんと距離を縮めだした爽子にいい印象を持たない。ここで、この二人の間に軋轢が生じる。

いろいろあって、天才女胡桃沢梅と内気だが純粋で相手を思いやる気持ちが1000000もある世の中の汚い部分を知らない黒沼爽子はひと悶着を起こし仲直りし「私たちって友達?」「友達?そんなんじゃないよ、ライバルでしょ!」と言いあう関係になった。


そして私は風早翔太くんを殺害した。


急に話が跳躍したので補足させていただく。私はガールズラブおたくである。女と女の関係性に異常な執着を見せ、歓喜し、泣き、悶えるなどかなり気持ち悪い反応を取る。私は小さい頃から「カードキャプターさくら」の小狼くんを嫌うなどわりと排他的なおたくであった。そして考え方は依然と変わらず、風早翔太くんを私の中で無かったものにしたのである。理由として、「胡桃沢梅と黒沼爽子のカップリングがとても最高なのでお前にいられると困る」というものである。


しかし、現実は非常である。いや非常識なのは私なのですが…。私のおたくごころに反して少女漫画の中ではなんらおかしなことでもない、主人公二人が距離を縮めていくのだ。やがて爽子と風早くんは、お付き合いを始めてしまった。私は間違いなく風早翔太くんを殺したのに、風早翔太くんは黒沼爽子とお付き合いを始めたのである。

完全に意気消沈した私は二人が付き合ったあたりで読むのをやめた。

かの「百合姫」でとても私を納得させた文言がある。「勝手に夢見といて 裏切られたとか言わないでよね」という文である。金言である。私はよく無秩序な発言をしまくったあと先ほどの文章をもじった「勝手に期待しておいて裏切られただなんて言わないでよね」(ほぼ同義やろと思って使っています、許してください)を心の中で復唱し反省する。君に届けにおいてもそうである。私はなぜか少女漫画に出てくる女性同士の関係に惹かれてしまうため、どうもカップリングオタク大勝利!を収めることができない。爽子と風早くんがくっつくのも時間の問題であった。少女漫画という媒体で掲載されている以上、爽子と風早くんが交際するなんてひとつもおかしなことではないのである。


そしてしばらくたち、インターネットの海を悠々自適に泳いでいたところ「君に届け26巻」がさわうめ(黒沼爽子と胡桃沢梅のカップリング名)おたくにとってヤバイ!という情報を得た。考えるすきもなく電子書籍で購入した。表紙は向かい合う爽子と梅。心臓が高鳴る。いそいで指でスライドする。前半は風早くんと爽子がすったもんだして仲直りという展開だったので飛ばし読みした。(椎名先生、ごめんなさい。。。のちに10回以上往復したのでこればかりは許してください。。。)電子書籍なのでエピソード105.「憧れ」(このタイトルの時点でやばい)の扉絵は着色されている。着床ではない。前半は風早君が志望校を決めるのでもだもだしている爽子に発破をかけているシーンである。私はもう頭をかきむしりたい衝動にかられたが呼吸を整わせながらページをめくる。風早くんを殺す。死んだ。爽子と梅が黒沼家に帰宅するシーン。なんと爽子と梅が黒沼家でお泊りをすることになったのである。つまりこれはお泊りデートと言っても過言ではない。過言である。両親に自慢のできる可愛い梅にご満悦な爽子。「今 私の部屋にくるみちゃんがいる 同じ目標をもって─── うれしい…」。俺もうれしい。爽子と梅は同じ教育大を狙っており、俺はそこでまた混乱する。まあだが爽子と梅キャンパス編は後半で話すこととする。一緒に頑張ろうねと士気を高めあう二人。そしてエピソード106.「忘れていいの」…。穏やかな黒沼家での団らん、黒沼母が梅に好きなタイプを訪ねる。梅は「自分と 真逆のひとがすきです …まっすぐなひとがすき」と答える。回想で風早くんがあらわれる。殺したはずだが、風早くんのことだと爽子は思い、ぼんやりと梅を見つめる。梅は反省しているのだ、最初のほう爽子に風早をとられたくないあまり嫌がらせをしたことを。そのことを正直に黒沼母に自白しようとしたところ爽子が間にはいり、脈絡もなく「私はくるみちゃんがすきだよっ」と言う。私は二人が好きだよ。いろいろあったなぁとさわうめメモリーが続く。そして夜。暗闇、布団の中で梅は爽子に「あの時はごめんなさい…」と泣きながら謝る。私も泣いている。爽子にした様々な嫌がらせを一生私は忘れることなく抱え続けると梅は言う。爽子は泣きじゃくる梅の手をつかみ「どっちも悪い」という。そして2巻だか3巻で千鶴が爽子に言った「友達ってね気付いたらもーなってんの」の言葉を今度は爽子から梅へ渡す。このへんで完全に私の情緒は終了する。なぜ梅が爽子をいじめたか。爽子がとてもまっすぐな人間だから、羨ましくてむかついたそうだ。ここで思いだして欲しい、梅の好きなタイプは何か?そう。「まっすぐなひと」である。ちなみにここの答え合わせは私の乱暴なこじつけでなく26巻できちんと証明されているので私こそ正解である。(?)そして二人は仲直りをし、翌日梅が帰宅する際梅は爽子に意を決したように「一緒に教育大いこうよ」というのである…。


まあ、結論から言うと梅も爽子も教育大に受かる。そして二人で同じ大学へ進むことが確定し、私は「さわうめ夢のキャンパスライフや~」とツイッターに妄想を書き連ねる。完全に勝利を果たした。梅も風早くんに牽制したりしている。爽子関連で。もう私は勝利を果たした。人生で初めて優勝したのだ。うれしくてワハハと声が出た、だが…

君に届け最終巻で爽子と風早くんが性を交えてしまうのだった…………………

このことはかなり衝撃的だった。むっつりスケベ~ゆあれて揶揄われる程度の風早翔太くんが純粋無垢この世の悪を何も知らぬ奇跡の生命体黒沼爽子を抱いてしまったのだ。だが、なんら可笑しなことではない。最終巻だ、クライマックスなのだ。そりゃセックスの1つや2つはするやろと冷静な私は言っていた、が、私は冷静になれなかった。だって、私の中で完成されていたのは「爽子と梅」だったからである…


意気消沈し、「勝手に期待しておいて~」を何度も繰り返し唱え、布団の中で蹲って寝た。風早くんをこれでもかというほど恨んだ。一番つらいのは、彼が悪人じゃない事だった。爽子のことを第一に考え、だが彼女の意志を尊重し時々わがままを言う程度にとどめ彼女の人生を第一として考える素晴らしい人間なのだ。女性同士の諍いにも首を突っ込まず、無事終わることだけを祈る優しさもある。女女に関与する男性キャラクターとして完璧なふるまいだ。そして「俺の人生半分やるからお前の人生半分くれ」(←大名言)どころではなく、風早くんは自分の人生を爽子に預ける「権利」の主張をするだけで強引に預けたりなんかしなかった。きっと風早くんは爽子が結婚したいけど苗字は別にしたいのと言ったら快く頷くだろう。まあそれはいいや。とにかく、風早君は「ちゃんとした」人だったのだ。その事実は更に私を苦しめた。


しばらくして、「君に届け~運命の人~」が発売された。これは君に届けのスピンオフ作品であり、なんとあのマサチューセッツ工科大学卒天才胡桃沢梅が主人公の作品である。舞台を大学に移し、一番最初のモノローグで「たまに思うの 爽子ちゃんはもしかして わたしの運命のひとなんじゃないかって」なーんて言ってしまう。完全にさわうめオノロケ漫画である。椎名軽穂様に全てのありがとうをささげながら読んでいると、なんと梅のお相手は爽子のいとこの「赤星」お兄ちゃんだ。そこで完全に私は理解した。「君に届け~運命の人~」は、壮大な代理出産の話である。嘘だ。嘘です。ここを深く掘り下げようと思いキーボードを叩いたが完成した文章が本当に人様に見せられない下劣なものだったので削除した。とにかく、黒沼家の遺伝子を持つ男と胡桃がくっつくというだけで私は色々考えたあげく最高になった。椎名軽穂様の圧倒的おたくへのホスピタリティに感謝以外することが出来ない。

私は完全に上機嫌になった。2冊買った。そして、爽子と梅の出会いに感謝をしつつグラスに酒を注いだところで一人の男の存在を思い出す。風早翔太である。

爽子と梅の出会い…それはあまりいいものではなかった。しかし、二人を引き合わせたのはほかの誰でもない、風早くんだった。風早くんがいたから二人は出会ったし、風早くんがいたから二人はいままで知らなかった感情を持てたし、風早くんがいたから二人は同じ大学に入った。最後の一つは違うな。最後のは普通に二人の実力です、まあ何を言いたいかというと風早くんがいたからこそ、爽子と梅が紆余曲折を経て一つの特別大事な友情を結ぶことが出来たということである。


女性同士の関係性に男性が入ってくると、つらい。だが勝手に夢見ていたのは自分なので、自分が悪い。でもその中でわずかな可能性や光を作り出してくれたのは、誰でもない男性の風早くんだった。風早くんがいない世界は、爽子と梅の出会わない世界である。そんなのはいやだ!!!!!!!!そんなIFはカスである。いらない鬱。人々を不安に陥れるだけで特に生産性も価値もない鬱要素。言いすぎました。

何度も殺しておいたくせに、今更感謝をするなんて流石に虫が良すぎるだろうか。いや、きっと彼ほどの聖人なら私の愚行もお許しなさるだろう。全ての風早翔太に感謝を。

風早くんとわたし

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