SS 俺いも 2024長編10 瑠璃誕生日2
「ルリ姉は1周目の誕生日の時には京介くんたちとは何もなかったんでしょ? あたしは何も覚えてないんだけどさ」
4月20日土曜日午後2時過ぎ。
“16歳”の誕生日を迎えた高坂瑠璃は妹2人と共に千葉動物公園を訪れていた。瑠璃のサプライズパーティー開催準備の為の時間稼ぎを目的とした訪問だった。もっとも、時間稼ぎであることは最初から瑠璃にはバレており、日向もそのことを隠さなかった。
そして現在の2人の話題は最初の周の4月20日に関してだった。
「……当時としてはごく当たり前だった家族だけの誕生日だったわね」
瑠璃は遠くの空を見つめながら懐かしそうに、けれど、少し寂しそうに語ってみせた。
日向にとって姉の本当は予想済みのものだった。ただ、不自然なものを感じていた。
「当時のルリ姉はもう京介くんたちと仲良かったわけでしょ? 京介くんを追い掛けて同じ学校に進んだぐらいなんだし」
「……そうね」
「だったら、どうして京介くんたちに祝ってもらおうと思わなかったの?」
日向の質問は、今度は瑠璃にとって想定済みのものだった。日向が唯一覚えていない1周目の出来事。それは彼女にとって青春の苦さを思い出させるものだった。
「……私のプライドが高過ぎたのね」
瑠璃は固く目を瞑りながらため息を吐いた。
「友達同士で誕生日を軽薄に祝う行いを当時の私は蔑んでいた。でもそれ以上に、もし、私が誕生日をアピールしても京介たちが何もしてくれなかったら。その可能性を考えると怖くて仕方がなかった。だから恐怖の芽を最初から摘んでしまい何も知らさなかったのよ」
「如何にもコミュ症中二病だったころのルリ姉って感じの理由だね……」
日向には苦笑されてしまった。けれど、それも仕方ないと姉は思った。本当に臆病だったと今になって思う。
「当時は今と同じで桐乃はスポーツ留学中。京介も沙織もそちらに気を取られていた。学校の方も上手く行っていなかった。そんな状況で誕生日と言い出せる雰囲気でもなかったわ」
「確かにビッチさんがいたのなら。もう誕生日を過ぎていてもいきなりお祝いの騒ぎを始めていただろうね」
日向は自分の意見にうんうんと頷いて同意してみせた。
「そうね。そういう子よね……」
瑠璃は今はこの国にいない義妹について想いを寄せてみせた。
最初の周同様にアメリカから全く連絡を寄越して来ない桐乃が今何をしているのか胸を締め付けた。
「でもまあ、ビッチさんがいなくてもこうしてパーティー開催に向けてみんなが動いてくれているんだから。ルリ姉が最初の周とは変わった証拠でしょ」
感傷的な気分に浸っていた姉をフォローしたのは妹だった。
大きい方の妹は小さい方の妹の頭を撫でながら姉を気遣ってみせた。
小学4年生を繰り返しながらも心は成長している妹に姉は心が安らぐのを感じた。
「京介が夫として隣にいてくれるからよ。京介がいてくれるから私は進めるの」
「そうだとしても。行動を起こしてるのはルリ姉自身でしょ。ゲーム研究会を立て直す為に部長に就任したって。あたしが知ってる昔のルリ姉だったら絶対にやらなかったよ」
妹もまた姉の成長を実感していた。
ゲーム研究会の部長に就任して部を再建したと京介から聞かされた時には最初冗談かと思った。けれど、義兄の話を聞いている内に、姉がどれほどゲーム研究会やそこに関わる人たちを大切に想っているのか分かった。大切な人と場所を守るために頑張ったのだと気が付いた。
「守る為なら私だって立ち上がるわよ」
「それを成長というのだと思うよ」
前回の時間軸とは設定が大きく異なる今回の時間軸。だからこそ姉妹はお互いに成長していることを感じていた。
「姉さま、次は何を見ますか?」
下の方の妹である珠希が瑠璃に向かって話し掛けてきた。それで長女は今姉妹で動物公園に来ていることを思い出したのだった。
「ふれあい広場に行ってみましょうか。馬やヒツジ、ヤギやアルパカ、ウサギたちに触れるみたいよ」
「アルパカさんに触れてみたいです~♪」
「珠ちゃんはまたマニアックな動物を選ぶんだね」
瑠璃は上の妹と下の妹と手を繋いで動き始めた。
三人はしばし姉妹でのお出掛けを楽しんだのだった。