SS 俺いも 2024長編5 ゲーム研究会2
『部長が抜けて解散してしまったゲーム研究会の復活。そう楽なことではないかもしれないぞ……』
瑠璃は無事に高校に入学を果たしたものの、校内で最も重要視してきたゲーム研究会が存在していなかった。ゲーム研究会の部長が、教育規則の改変により3月末で卒業扱いとなってしまい、後を継ぐ者がいなかったからだった。
京介は(元)部長と談判し、ゲーム研究会が復活した場合には、現在封鎖されている部室の中にあるハードもソフトも自由に使って良い許可をもらった。
瑠璃と京介はゲーム研究会の復活に向けて動き出した。けれど、その復活は容易なものではなかった。
「まさか真壁くんが、ゲーム研究会の新部長就任をあれほど強く拒むとは思わなかったな。部長から一応話は聞いていたんだけどなあ」
復活を掲げてから数日後の夜。京介は瑠璃と共に入浴しながら戦果が上がらないことを嘆いて大きなため息を吐いていた。
高坂夫婦がゲーム研究会復活の要とみなしたのは2年生の真壁楓だった。真壁は1周目から前回の時間軸までいずれもゲーム研究会の副部長の地位にあった。京介が卒業しても、部長は卒業しなかったので部長交替はなかったが、もし、部長の次を継ぐのは真壁しかいない。みな、それを当然視していた。その真壁がゲーム研究会の中核となって復活を果たすことを強く拒んだのだった。
「真壁先輩にとって、あのメガネ部長の存在はそれほど大きかったということでしょう」
瑠璃は身体を洗いながら淡々とした口調で返してみせた。
「瑠璃は随分と落ち着いてるな」
「貴方と同様に深く動揺しているわ。ただ、沙織から昔似たような話を聞いたことがあるから未知ではないということよ」
瑠璃は目を瞑って沙織から遠い昔に一度だけ聞いたことがある話を思い出していた。
沙織の姉は“人気者”だった。彼女の元には多くの友人たちが集まっていた。幼い日の沙織も姉のグループの一員として楽しい日々を過ごしていた。
だが、姉は放浪癖のある人物で、独りで突然どこかに行ってしまい長期間いなくなる悪癖があった。姉がいなくなってしまうと、中核を失ったグループは崩壊する。沙織は崩壊を食い止めてグループを残そうと苦心した。だが、結果は上手く行かなかった。メンバーたちにとって姉の存在はそれほど大きなものだった。
結局、沙織は独りになってしまった。そんな彼女は今度は自分が中核となって開いたのがオタクっ娘集まれのオフ会であり、それを通じて得た友人が桐乃と瑠璃、京介だった。
「真壁先輩にとって部長の存在はそれほど大きかったということね。瀬菜が喜びそうな話題だわ」
部長のツッコミ役であり、駄目出し係だった真壁。だが、部長がいなければゲーム研究部を引っ張っていくつもりがないほどに精神的に依存していた。
「瀬菜と言えば……赤城妹とはどうなんだ? 仲良くやってるのか?」
夫は瑠璃以外の唯一の後輩と呼べる瀬菜を気に掛けていた。
「可もなく不可もなくよ。ただ……」
瑠璃は小さく息を吐き出した。
「瀬菜はゲーム研究会という箱が存在してこそはじめて私へコンタクトを図ってくるわ」
「逆に言えば、ゲーム研究会を復活させないことには、瀬菜はただのクラスメイトのままってことか」
瑠璃は小さく頷いて見せた。
ゲーム研究会は元々幽霊部員が多い部活だった。それが今は、瑠璃と京介以外は全員が潜在的な幽霊部員という形になってしまっている。部の復活の為に動いているのは高坂夫妻だけだった。
「まあ、瀬菜はBLゲーを作る為に他者の、ゲーム研究会の助けを必要としている。研究会さえ再度発足すれば、入会は問題ないでしょう」
瀬菜は器さえあれば自分からゲーム研究会に、瑠璃たちに近付いてくる。
条件さえ整えば好転する。瑠璃はRPGのようだと思っておかしくなった。
けれど、京介は楽観視してはいられなかった。
「ここ数日でハッキリわかったことがある」
「何かしら?」
京介は咳払いをしてみせた。
「俺たちはこれまで、真壁くんや太っちょツインズなど、現2年生を部長に据えてゲーム研究会の復活を果たそうと努力してきた」
「そうね」
「だがそれは実を結ばなかった。2年生の誰も部長になろうとはしない。そして、部の中核を引き受けてくれる者がいないから、部自体が復活できないでいる」
「2年生が新部長になるというのは理に適っているわ。その為に動いている」
「だが、現実には全員拒否状態だ。俺たちは考え方を変える必要性がある」
「どのように?」
京介は瑠璃を熱い瞳で見つめた。
「俺たちが中核になって新しい部を運営していくしかないだろうな」
京介の提案は、現状に則した妥当なものだった。だが、瑠璃にとっては気が重くなるものだった。
「言いたいことは分かるわ。でも……」
瑠璃にとって、家族以外を引っ張っていくのは荷が重いことだった。だが、京介は厄介事を引き受ける必要性を強く感じていた。それも、瑠璃にとって。
「俺はもう3年生だからこれから新しい部を興すには正直厳しいものがある。先生も、真壁くんたちも微妙だろうな。下手をすると、3年生が新部を打ち上げようと騒いでいるせいで全部が終わりかねない」
「それってつまり……」
瑠璃が嫌な予感を胸に溜めていると、夫は首を大きく縦に振ってみせたのだった。
「新生ゲーム研究会の部長は……瑠璃。お前がやるんだ」
京介の意見は半ば予想した通りのものだった。けれど、直に聞かされるとひたすらに気が重いものだった。
「私が、部長……」
鏡を見なくても眉間に皺が寄っていることが容易に想像できた。
元々は中二病気質で、周囲との衝突が絶えない日々を送っていた。そんな彼女は何らかのグループ長とは無縁な人生を歩んできた。
それが今度はゲーム研究会の部長。しかも、世代交代による継承ではなく自分で立ち上げて導いて行かなくてはならない。
何度高校1年生を繰り返しても遭遇したことがなかった厄介な命題。
「…………少し、考えさせて頂戴」
瑠璃は結局、了承の返事をすることができなかった。
部長に就任することが、部復活の為の唯一の道であると頭では理解しながらも。
つづく