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枡久野恭(ますくのきょー)
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SS ひぐらし 北条沙都子 何も変わらない


SS ひぐらし 北条沙都子 何も変わらない


「……私は、嫌いだったお母さんと結局のところ何も変わりがありませんのね……あああっ♡♡」




 圭一のいきり立った剛直を体の奥深くまで受け入れて喘ぎ声を上げながら、北条沙都子はどこか冷めた意識で自嘲していた。


 不思議というか沙都子自身訳の分からない刻、或いは世界を過した。梨花が雛見沢を去ること、自分がどうしても適応できない聖ルチーア学園に進学することが認められなくて狂気に身を落とした。

 エウアという謎の存在が介入、誘引した一連の惨劇が事実なのか、幻覚だったのか、それとも人知を超えた何かだったのかは分からない。

 ただ、沙都子は自分の意思で人を狂わせ、自らの手を血で汚し続けた。それも一度や二度ではなく、何百、何千回も。そこに正気の沙汰があったとは思わない。けれど、そういうことをやってしまえる人間であることを沙都子はよく自覚していた。

 本当のことだったのかは分からないにしても、沙都子が人を殺めるつもりで殺し続けてきたと認識しているのは事実だった。

 そんな沙都子は結局梨花と進路を違えるということで妥協した。現実だったのかもよく分からない梨花との異次元超バトルの果てに辿り着いた結論だった。だが、沙都子はその線引きに不服だった。アレだけの大罪を犯しながら自分を憐れんでいることに気付いて嫌になった。

 自分が嫌になった沙都子はどうしたか?

 その答えは自分が弱くて卑しいと実のところは嫌っていた実の母親と同じことだった。すなわち、男に縋った。

 前原圭一は沙都子が縋るのに実に都合の良い青年だった。何年も前からよく知っている。人間関係で疑心暗鬼に陥っていた沙都子にとっては救いの主だった。安心して近寄れた。

 圭一にとって沙都子は小学生の時は萌えの対象であり妹分だった。実兄である悟志の代わりを演じていた面もあった。

 けれど、沙都子が高校生ともなれば話は違った。元々顔が良く、加えて肉感的、という表現でも生ぬるいぐらいに性的な魅力に溢れていた。




おまけに自分を慕い、求めてきた。2人が付き合って肉体的に結ばれるようになったのはある種当然のことだった。


「あああああああぁっ♡♡」


 沙都子の喘ぎ声が止まらない。

 圭一に愛されていると嫌なことを全部忘れることができた。実母が何度も何度も男を替えながらも常に男に依存してきた気持ちが今になって分かった。圭一に抱かれて手を引いてもらえる限り常に安心を得ることができる。逆に言えば、圭一に捨てられてしまったら狂ってしまうに違いないことも、母親の言動から分かっていた。

 沙都子は自分が母親とまるきり同じであることを心で認めていた。だが、心の在り方はそうでも、自分と母では大きく違う点がある。それは──


「ふわぁあああああああああああああああああああああああぁっ♡♡♡」


 圭一の精液をお腹の一番深いところに流し込まれて沙都子は全身を大きく仰け反らした。

 恋人には今日が膣内射精しても大丈夫な日だと告げている。でも、実際は違う。沙都子はその辺りのことをわざと計算しない様にしている。妊娠してしまうのなら別にそれも構わない。そんな風に考えている。それもまた、母親と同じだった。

 けれど、やはり大きくというか根本的に異なっている点がある。


「…………圭一さんもこんな悪女、いえ、狂った女を孕ませてしまったら大変でしょうね」


 膣の入口から溢れ出る精液を見つめながら沙都子は歪んだ笑みを浮かべてみせた。

 母親は弱い人ではあったが、悪人ではなかった。沙都子は弱くなかったが、悪人だった。その自己認識こそが沙都子と母親の最大の違いだった。


「孕ませてしまったらって……怖いこと、言うなよな」

「あら? セックスに絶対なんてありませんわよ」

「現役女子高生を孕ませましたなんて言ったら……俺は大罪人だぞ」


 圭一は身震いしてみせた。沙都子にとっては道化を演じる恋人がおかしかった。そして、自分があまりにも歪んだ存在であることを改めて感じずにはいられなかった。


「可愛らしい大罪人ですこと。わたくしと子どもの衣食住の面倒を一生見るだけの簡単な罰にしかならないじゃありませんの」

「それが大事なんだろうがっ!」


 沙都子はクスッと笑ってみせた。自分でも瞳がちょっと濁っているのを感じていた。


「それに、圭一さんにおんぶにだっこで一生安泰では……真に大罪人であるわたくしの罰にはなりませんよ」


 圭一が瞳を細めて沙都子を凝視した。


「お前、何か変だよな?」

「何か、とは?」


 圭一は大きく首を捻ってみせた。


「高校生になって俺に近付いてきた時からさ……青春のキャッキャうふふな恋、じゃなくてさ。俺に縋りついていないと、何か溶けてなくなっちゃいそうな感じでさ……」

「その認識、間違ってはいませんわね」


 圭一の表情が更に怪訝なものに変わっていった。


「何を、言ってるんだ?」

「圭一さんに縋っていないと壊れてしまう。でも、あなたに抱かれて安堵していると今度は自分の愚かさ、罪深さに気付いてやっぱり壊れてしまいそうになる。デッドロック状態ですわね」


 沙都子は淡々と説明しながら自虐的に笑ってみせた。


「沙都子が何を言いたいのかよく分からないんだが……どうすればその詰んだ状態から抜け出せるんだ?」


 沙都子は首を横に振ってみせた。


「自分のしでかしてしまったことがあまりにも酷過ぎて……抜け出すなんて不可能だと思います。ただ……」


 沙都子は先日まで体験していた夢か現か分からない刻の時を思い出した。


「ずっとずっと時を遡って、私の愚かな行為をなかったことにできるのなら。或いは少し心の在り方が変わるかもしれません」


 思えば、沙都子の認識ではエウアは何度でも時を遡らせてきた。新たな世界で惨劇を思い留まることはいつだって可能だった筈だった。けれど、沙都子は狂気のない世界を認めなかった。狂気に染まった彼女は惨劇を起こし続けた。それはエウアの誘因が大きく影響していたことは沙都子もよく分かっている。けれど、自分で思い留まることが結局できなかったことは沙都子にとっては大きな汚点、悪徳だった。


「相変わらずお前が何を言っているのか分からない。だが、これだけは憶えておけ」


 圭一は白い歯を光らせながら親指を立ててみせた。


「過去だろうが未来だろうが、俺は、俺たち部活メンバーはいつだって沙都子の味方だからな♪」


 無邪気に無茶苦茶を語ってみせる恋人に沙都子は呆気に取られた。けれど、すぐに笑いだした。


「そうですわね。そうでしたわね」


 お腹を抱えて笑っていた。そんな恋人を見て圭一はちょっと焦っていた。


「まっ、まあ、なんだ。何がツボに入ったのかはよく知らないが……困ったことがあったら仲間に相談する。今も、未来も、過去もそれは変わらないぞ」

「……そう、ですわね。そうでしたわね」


 懐かしくも大切なことを思い出して胸が熱くなった。


「圭一さんは下半身だけで生きている殿方ですから。一度抱いた程度ではご満足いただけないのではありませんか?」


 巨乳を圭一の前で揺らして誘ってみた。


「もちろんだっ! あのおっかないおっさんが今日は帰って来ないというのなら……今夜は寝かさないからな♪」


 圭一は沙都子に抱き着いてそのまま押し倒してみせた。巨乳の中に顔を埋めて幸せそうな唸り声を上げている。


「ほんと、進路のことで梨花とすれ違ってしまったことをみんなに相談していれば……狂気に身を焦がすこともなかったのかもしれませんわね……」


 沙都子は圭一に乳首を大きな音を立てて吸い上げられながら、あり得ない可能性に胸を熱くしたのだった。



 お泊りした圭一と一緒に寝ながら沙都子は不思議な夢を見た。自分が溶けてなくなり、小さくなって再構成されていく。そんな不思議な夢だった。

 そして気が付いた。


「たかのんの滅菌作戦始まり始まり~♪」




 昭和58年まで時を遡ってしまっていたことに。何故そうなったのか、誰の仕業かは分からない。けれど、小学生まで縮んでしまっている自分がいた。そして目の前には狂気に染まり雛見沢を村ごと滅しようとしている鷹野三四がいた。


「……鷹野さんが狂っている世界は、思えばエウアが見せた中にはありませんでしたわね」


 沙都子の知らない、又は終わってしまった世界に飛んできた。そう判断した。


「たかのんは強敵だっ! だが、俺たちは負けないぞっ!」


 沙都子の隣には圭一がいた。レナがいた。魅音がいた。梨花がいた。みな、鷹野を止める為に熱く瞳を燃やしていた。


「何が何だかさっぱり分かりませんが……今度こそちゃんとやれということですわね」


 何が起きているのかは分からなかったが、何をしなければならないのかは明白だった。目の前の敵を倒して滅菌作戦を中止に追い込み、仲間に相談して狂気に陥らない道を切り開く。

 銃器で武装している部隊を相手にしなければならず、鷹野撃退は容易ではない。けれど、成すべきことがハッキリして沙都子の心は晴れ渡っていた。

 狂気に身を落として会得した戦い方と知略の数々。使うのは今しかなく、それを用いれば勝てなくもない。沙都子はそう睨んでいた。


「この戦い、絶対に勝ってみせますわ」


 普段から村の至る所に仕組んでいるトラップを発動させながら敵に向かって突っ込んでいく。


「うぉおおおおおおおおおおぉっ! わたくしの本当の戦いは……これからですわぁあああああああぁっ!」


 銃弾の軌道を読んで避けてみせながら鷹野に向かって突っ込んでいく。

 やり直しを賭けた沙都子の本当の戦いは今始まったばかりだった。


 




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