SS 俺いも 2024長編6 ゲーム研究会3
『新生ゲーム研究会の部長は……瑠璃。お前がやるんだ」
一度廃部となってしまったゲーム研究会を復活させるには新1年生である瑠璃が部長を務めるしかない。夫である京介の意見は間違ってはいなかった。けれど、瑠璃にとっては、集団の長を務めるというのは甚だ気が重く、京介が思う以上に深刻な問題だった。
即答できなかった瑠璃は二日間ほど悩み続けた。そして、週末を迎えたのである人物に会いにちょっと遠出してみた。
「まさか、黒猫氏の方からこちらまで訪問して来られるとは。夢にも思いませんでした」
瑠璃が訪れたのは横浜の沙織の自宅だった。そして、今瑠璃が対面しているのはグルグルめがねにチェック柄シャツの如何にもなオタクである沙織・バジーナ。ではなく、槇島グループ代表のご令嬢である槇島沙織お嬢さまだった。
「私、ここの住所について黒猫氏……瑠璃さまにお知らせしたことがあったでしょうか?」
沙織の質問は面倒くさいものだった。これまでの時間軸で、沙織が実は超大金持ちのお嬢さまであることは初夏頃に大体明らかになってきた。1周目はもっと遅く夏の終わりだった。
高校入学して間もない時点だと、沙織は様々なコネクションを有しており、行動力に富んだ謎の人物で本名も明かしていない。アポなしで横浜の自宅まで訪れたのは、前の時間軸の記憶がない沙織にとっては不可解なことに違いなかった。
「邪気眼は何でもお見通しなのよ」
瑠璃は右目を抑えて説明するのを諦めた。服装が普通の私服なので中二病っぽさには欠けていた。
「……まあ、拙者も話していないだけで個人情報を隠していたわけではありませんからな。瑠璃ちゃんのアンテナに引っ掛かっても不思議はありませんわ」
お嬢さま言葉と武士っぽい口調が合わさって変な喋りになっていた。いきなりお嬢さま姿を見られて少なからず動揺している様だった。
「……近くにとても良いスパがありますの。そこへいきませんか?」
「えっ?」
「大切なお話があるからここにいらっしゃったのでござろう。拙者もここにいると瑠璃さんと上手くお話しできそうにないので」
「そうね」
2人は槇島邸から場所を移すことにした。
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「…………なるほど。黒猫氏は廃部になってしまったゲーム研究会を復活させる為に部長に就任しなければならない。けれど、部長になるのはどうしても及び腰になってしまう。そういうことでござるな」
「ええ。私は人の上や中心に立てる様な人間じゃないもの」
瑠璃と沙織はスパに来て湯に浸かりながら会話していた。瑠璃は入学から数日、ゲーム研究会に関連して起きていることを沙織に話していた。その不安な心情と共に。
「自身をサポート役と考えるルリルリ殿にとっては、部長の座は荷が重いと」
「京介はサポートしてくれるとは言ってくれているけれど。肩書自体が、私には重いのよ」
瑠璃は最初の時間軸の時から責任感というものに関しては人一倍、それ以上に強い。その強さが災いして最初の周では、クラスに半端に迎合する自分を許せずにぼっちとなっていた。部長という纏め役であり導き手でもある地位に就くのは、人との接し方が上手くなった今でも嫌なものだった。
「拙者は、黒猫氏には部長が務まらないとは思わないでござるよ」
話を聞き終えた沙織の意見はハッキリしたものだった。
「でも、私は……」
「そもそも、最初から部長に向いている人間なんてそういるものでもないでござる」
瑠璃は沙織を見つめた。
「逆に、自分では向いてないとは思っていても。やってみれば意外と何とかなるもんでござるよ」
「やってみれば意外と何とかなる……」
沙織は瑠璃の肩に手を乗せて上を見上げた。
「…………姉が築いていたグループが崩壊するのを防ごうと空回りばかりしていた拙者が、オタクっ娘集まれの幹事になって黒猫氏やきりりん氏に出会ったことで救われた。そんな昔話をちょっとさせてもらうでござるよ」
沙織はゆっくりと自身の過去話を語り始めた。
彼女の話自体は、過去の時間軸で瑠璃が聞いたものと同じだった。けれど、聞く側の瑠璃の立場が、想いが違っていた。
「…………幹事としてオタクっ娘集まれのオフ会を催すのが怖くなかったの?」
話を聞き終えた瑠璃は質問せずにはいられなかった。最初の周に話を聞き終えた時には黙っていたのとは対照的な反応だった。
「当然怖かったでござるよ」
沙織はあっさりと認めてみせた。
「ネット上では既に沙織・バジーナというキャラを稼働させていたものの、それをオフ会で使って良いものか。使ってしまったらもう引き返せなくなることも含めて恐怖の連続でござったよ」
「確かに沙織お嬢さまと沙織・バジーナではキャラが違い過ぎるものね……」
瑠璃は小さく相槌を打ってみせた。最初の周で出会って1年以上、瑠璃は沙織お嬢さまについて知らないでいた。沙織・バジーナが作られたキャラであることを理解しつつも、それ以外の彼女を知らなかった。
沙織から見ればそれは、槇島家令嬢とはまるで違うもう一つの自分を貫き通したことに他ならなかった。それはよほどの覚悟がなければ務まらないことに違いなかった。
「沙織・バジーナではなく、槇島沙織としてオフ会を開催していたら……全く違う現在を迎えていたかもしれませぬ。黒猫氏や京介殿の印象に残らなかったかもしれません。お嬢さまキャラに憧れて別の方と懇意になる展開もあったかもしれません。ぼっちぶりを再確認しただけかもしれません。ですが、とにかく拙者は沙織・バジーナとしてオフ会を主宰し、それが元で黒猫氏たちと縁が生じた。だからそのまま突っ走ることにした。それが拙者でござるよ」
沙織は晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「だから黒猫氏も、部長をやってみて全力で突っ走ってみれば良いと思うでござる。駆け抜け続ければ、後で振り返ってみた時に意外と上手く行っていた。そんな風にきっと思えるでござるよ」
「怖いぐらいに行き当たりばったりね。でも……」
瑠璃は瞳を細めた。
「私や京介にとってとても頼もしい存在である沙織に言われると……説得力に溢れているわ」
瑠璃は胸の奥でずっと渦巻いていた不安がなくなっているのを感じていた。
「黒猫氏には京介殿という頼りになる旦那さまがいるのですから。きっと上手く行くでござるよ」
「そうね……きっと上手く行く。つまらないことを考え過ぎの私にはそれで良いのだわ」
瑠璃は首を縦に振ってみせた。その顔は笑っていた。
こうして瑠璃は、沙織との対話を通じてゲーム研究会の部長になることを決意したのだった。
つづく