SS 俺いも 2024長編9 瑠璃誕生日1
「京介くんが前の時間軸の持ち越しているなんて……本当に驚きだよっ!」
4月19日夕方。高坂京介は高坂家からそう離れていない五更家を訪れていた。瑠璃の妹である日向と秘密の計画を進めるためだった。
だが、五更家の居間で行われていたのは本来の話し合いではなかった。本題に入る前に京介が前の時間軸の記憶を持っている話題でお喋りの花を咲かせていた。
「日向ちゃんこそ、前の時間軸どころか……それより以前の時間軸の記憶も持っているんだろ?」
京介は日向と話しながらサザエさん時空に巻き込まれていることを改めて認識し直していた。
「まあね。ルリ姉ほど完璧に把握している訳じゃないけれど、何周分も記憶はあるよ」
「それって、具体的にはどれくらいなんだ?」
「そうだねえ……」
日向は目を瞑って深く考え込む仕草をしてみせた。
「もし、あたしがサザエさん時空に巻き込まれた時間の分だけ肉体的な成長を遂げていたら……高校生になっているのは確実だね。京介くんと同じくらいかも」
「そんなに同じ1年を繰り返してきたのかよ……」
思っていた以上に繰り返されてきた奇妙な時間に京介の額から冷や汗が出た。
「そっ♪ だから、あたしのことも同い年のお年頃の女の子。恋愛対象として見て、お嫁さんにもらってくれても良いんだよ♪」
「それはない」
京介はキッパリと否定してみせた。
「しかし、そんなに時を繰り返しているとなると。瑠璃先輩どころか瑠璃お姉さまと呼ばないと駄目じゃないか」
「瑠璃お姉さま……あっはっはっはっはっは」
京介の瑠璃お姉さま発言に日向はお腹を抱えて笑っていた。
「確かに、そういう風に捉えられなくもないけれど……年を重ねてるって考えない方が良いよ」
「そう、なのか?」
首を傾げる京介に素の表情に戻った日向は大きく頷いてみせた。
「例えばあたしの場合だとさ。何年間時を繰り返そうが、小学4年生のままなんだよね。そして小学4年生の少女としてだけ生きてきた。だから、中学生になれたことも、その気分を味わったこともない。アルバイトしたことだってない。繰り返される時に達観とか慣れを感じることはあってもさ、大人になっているのかと言われると微妙。っていうか、ルリ姉には調子に乗るなって戒められているよ」
「確かに俺も、俺の認識だと今年で19歳。本来なら大学生を始めていたわけだが……今も高3でゲー研の立ち上げに奔走して来たからか大学生感覚は全然ないな」
「そういうこと、だと思うよ」
京介は、同じ高3を繰り返していることをに気付いても、それが単純にクラスメイトたちに対して年長者になったわけではない。そのことを噛み締めた。
「だからルリ姉は、何回時を繰り返しても京介くんの後輩ポジションだし、お嫁さんポジションなんだ」
「なるほど」
「ルリ姉の中では何年も京介くんのお嫁さんを続けているのに倦怠期が来ないんだから。どんだけラブラブなんだよって表れでもあるんだけどね♪」
日向はニヤッとドヤ顔で笑ってみせた。
「…………そうだな。ずっと瑠璃に愛され続けている俺は幸せ者だよな」
京介は日向の言葉を素直に受け入れて頷いてみせたのだった。サザエさん時空を知った今、妻が変わらぬ愛情を自分に注ぎ続けてくれている意味を改めて知った。瑠璃本人は決して口にしないそれを、妻の妹の言葉を通じて理解した。
「さて、明日は最高の嫁である瑠璃の誕生日だ。沙織や瀬菜たちと協力してサプライズパーティーを企画中なわけだが……」
「あたしと珠ちゃんでルリ姉を連れ出して時間を稼げってことだよね」
日向の話に京介は首を縦に振ってみせた。
「ルリ姉にはバレバレだと思うけどね」
「だろうな」
「でも、珠ちゃんがお願いすればルリ姉は絶対に断ることができない」
「うん、そうだな。だから連れ出し役を2人にお願いしたい」
京介は日向に向かって深く頭を下げてみせた。
「まあ、任せてよ。パーティーの準備が整うまで何時間でもルリ姉を連れ回してみせるから」
日向は胸を叩いて断言してみせた。
「…………あたしは全然覚えてないんだけどさ。1周目の時はさ。ルリ姉は五更の家族でささやかなお祝いをしただけで、高坂くんや沙織さん、ビッチさんたちに祝ってもらうってこともなかったらしいよ」
話ながら日向は少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「そう、なのか?」
「捻くれ者のぼっちで、自分の本名さえもろくに明かしていない時期だったそうだから。今日が誕生日だってことにも気付かれなかったらしいよ」
「今の瑠璃からは想像し難いな」
「2周目からの記憶しかないあたしにしてもそうだよ。いや、中学生の途中までルリ姉が拗れた中二病ぼっちだったってのはよく覚えているんだけどね」
日向は乾いた笑いを発してみせた。
「1周目の苦いボッチライフの記憶があるからこそ。ルリ姉は今の幸せを守ろうと一生懸命なんじゃないかな」
「かもな」
「というわけで、1周目はスルーされてしまった分も含めて、明日は盛大にやろうよ♪」
「ああ。まったく、その通りだ」
京介は大きく頷いてみせた。
こうして、サザエさん時空と愛妻に対する想いを新たにしながら京介は瑠璃の誕生日パーティーの準備を進めたのだった。