SS わんだふるぷりきゅあ 猫屋敷まゆ 弄り 海
「ふ~ん、愛だね♡」
猫屋敷まゆは、犬飼いろはの誘いを受けて一緒に海までやって来た兎山悟に囁きながらニヤニヤを全開にしていた。
猫屋敷まゆという少女には陰キャ、ぼっちという表現がよく似合う。
人と接するのが苦手で、逆に自分の世界への没頭が深すぎる。友達になろうと向こうから近付いて来てもチャンスを逃してしまうことがしばしば。
そんな彼女だったが、今現在はぼっちではない。犬飼いろは、犬飼こむぎ、猫屋敷ユキというプリキュア仲間にいつも囲まれている。クラス内でグループを形成するほどにリア充街道を歩んでいる。
彼女を取り巻く環境は大きく変わった。けれど、彼女自身はまだ大きく変わっていない。というか、人と接するのが苦手という根本的な問題はまだ解決できていなかった。そして、彼女をコミュ症へと追いやっているのは、コミュニケーションの最中に言葉が口から出て来ないことだけではない。その真逆の問題もまた、陰キャぼっち故に抱えていたのだった。
「ボク、そんなこと思ってないよぉ~っ!?」
「ほんと~?」
「うぅう……」
まゆは純情男子中学生の兎山悟を弄って悦に浸っていた。
悟がいろはに恋心を抱いているのを知って、恋を応援すると言いながら奥手少年を弄って楽しんでいた。
彼女はコミュ症で人との適切な距離感が分からない。ほとんどの者に対しては遠すぎる。けれど、十分に知り合いで、かつ怒ってこない確信を抱く相手に対しては逆に距離を詰め過ぎてしまう。
第三者から見れば悟の恋をネタに弄り倒している様にしか見えないウザ絡みをごく平然としてしまう。自分が一線を越えてしまっていることに気付かない。それがまゆという少女が抱えるもう一つの顔でもあった。
「兎山くん、もしかして……」
まゆはハッとした表情を浮かべた。
「なっ、何かな?」
悟は額から冷や汗を多く流しながら聞き返した。無視すれば良いのに話のトスを繋いでしまう。そういう点もまゆにとっては絡み易い点だった。
「いろはちゃんの水着、スポーティーでとっても格好良くて可愛いね」
「そっ、そうだね……」
悟の頬が赤くなったところでまゆは爆弾を投下してみせた。
「本当は、いろはちゃんのもっとえっちな水着姿を期待してた?」
「なぁあああああああああああああああああああぁっ!?」
悟の全身が真っ赤に染まり、メガネが半分ひび割れた。
「ビキニとか……もっと過激なマイクロビキニとか。もっとえっちないろはちゃんが見たかったんじゃないかな?」
煽るまゆはニヤニヤしっ放し。
「犬飼さんがビキニとか……そっ、そんなの……期待してないよぉおおおおおおぉっ!?」
悟は首を大きく横に振ってみせた。
慌てふためくメガネ男子を見ているのはまゆにとって気持ちが良かった。
心の内から更なる加虐心が湧き出してくるまゆは更に弄ってみることにした。
「いろはちゃんの水着姿を期待していたわけじゃないのなら……」
まゆは再び意地の悪い笑みを浮かべてみせた。
「水着を持って来なかったいろはちゃんが裸で泳ぐのを期待していたとか?」
「いっ、犬飼さんの……裸ぁああああああああああああああああああああああぁっ!?」
片想いの少女の裸を妄想した瞬間、悟は砕け散った。
悟の本体であるメガネが、純情少年の限界を超える刺激に耐えきれずにバリ~ンしてしまった。
「…………犬飼……さぁん……」
本体を失った少年は愛しい少女の名を呼んで虚空に向かって腕を伸ばすと、そのままうつぶせに倒れ込んで気絶してしまった。
「兎山くん……動かなくなっちゃった……」
悟が完全に沈黙したことでまゆもさすがにやり過ぎたことに気付いた。
けれど、もう後の祭りだった。
「まゆ……」
近くから2人を見ていた猫屋敷ユキに声を掛けられた。その声は普段より冷たい響きを持ち合わせていた。
「なっ、何?」
背筋を伸ばしながら愛猫が人間となった少女へと振り返る。ユキは普段通りのクールな表情を浮かべながら警告を発してみせた。
「あまりやり過ぎると、前の学校の時みたいになるわよ」
「…………はい」
まゆは項垂れながら相槌を打ってみせた。
前の学校で彼女は、友達から見放されて以来ぼっちな生活を送ることになった。
そんな思いをするのはもうごめんだった。
「反省しています……」
ユキに向かって素直に反省の弁を述べてみせた。
「分かっているのなら良いわ」
ユキはまゆから顔を逸らして話を切り上げようとした。ところが──
「でも、いろはちゃんと兎山くんの恋には心を掻き立てられずにはいられないのっ! 素敵な好きが溢れすぎてるんだものっ!」
「へっ?」
振り返り直したユキの瞳に映ったもの。それは、瞳を全開でキラキラ輝かせて興奮を顔に浮かべる飼い主の姿だった。
「私、2人が結ばれる様に兎山くんの恋を全力で応援するからっ!」
まゆは力強く宣言してみせた。
反省はしても止めるつもりはない。
まゆは特に何も変わっていなかった。
「…………ほどほどになさいよ」
ユキは諦めた様に大きくため息を吐くと、背中を向けてまゆの元から去っていった。
「兎山くんの看病をいろはちゃんにしてもらえば……2人の距離が急速に縮まるかも♪」
まゆは砂浜に倒れ込んで動かない悟を見ながら妄想に浸って青春を謳歌するのだった。