SS かぐや様 2024石ミコ 夏休み初日
ミコの両親との直談判という無謀な試みから1週間あまりが経過。秀知院学園は夏休み始まりの時を迎えていた。
「…………えっと、何で僕の部屋にいるの?」
僕は目の前の光景がよく理解できなくて苦しんでいた。昼食が済んでから出掛けたコンビニから戻ると部屋の中にミコがいた。
僕とミコの仲は、あの直談判の日からあまり変わっていない。多少距離感が縮まったかなとは思うものの、劇的な変化はない。彼氏彼女の仲になったということもない。だからこそアポなしで僕の部屋にいるのが不思議でならなかった。
「何でって、今の私は悪い子だから。悪の巣窟にいる方がホッとするの」
ミコは僕の部屋をジロジロと眺めながら理由を語ってくれた。
「悪の巣窟……まあ、あの両親に歯向かったんだからそうだよね」
ミコの表現に笑ってしまった。圧倒的に正しくて娘にダメージを与え続ける正義の味方。それに歯向かう僕の方が悪なのは明白。
「…………今日はお母さんがいるから。うちに居たくない」
「娘に側にいることを拒絶される正義の味方ってどうなんだろうね……」
ミコは横を向いて不貞腐れた表情を浮かべた。
彼女の言葉に、前回の時間軸のミコが石上家に同棲して実家にほとんど戻らなかった理由の一端がハッキリと見えた気がした。前の時間でも両親とはうまくいってなかったのだ。
「それで、僕の部屋に来てどうするの? テレビゲームでも一緒にやる?」
前の時間軸でミコが好きだったゲームのハードとソフトを思い出しながら尋ねる。一緒に外出しようと言わないのが僕という人間。それに恋人同士でないのは確かなので、出先で急に気まずくなっても困るという懸念もあった。
「いい。宿題やるから」
ミコは床に置かれていたトートバックを持ち上げてみせた。教科書と参考書、それからノートが上部から覗いていた。
「今の君は悪い子なんでしょ? 夏休み初日から宿題をきっちりやるのは……」
夏休み終盤まで宿題に手を付けるつもりがない僕としては彼女の行動は優等生過ぎた。
「今の内に宿題を早めに終わらせてしまえば、その後は羽目を外し放題になるでしょ。悪い子になる為には今の内に宿題を済ませておく必要があるの」
「悪い子はそもそも夏休みの宿題をしないんだけどね……」
ミコから見れば、世の中の大半は悪い奴でしかないんだろうなと思う。ミコはご両親の厳格さに耐えきれなかった。だけど、彼女自身鬼の風紀委員として学校では恐れられていた。程度の差はあっても血は争えないって感じがする。
「じゃあ、僕も宿題をやるよ」
「別に、ゲームしてても良いのに」
「勉強している女の子の隣でゲームに没頭できるほど僕の神経は図太くないんだよ」
机の上に教科書とノートを広げる。小心者である僕は、夏休み初日に宿題を始めるというかつてない大冒険に踏み出すことにした。
そして改めて思う。前回の時間軸のミコは勉強のタイミングも僕の為に見計らってくれていたのだと。勉強が嫌いな僕が学校の成績で悪くならない様に、かつ自分が学年首席を取る為にどれだけの勉強量が必要か。セックスに明け暮れる日々の中でも勉強時間の確保を緻密に計算していたわけだ。ほんと、最高の彼女だった。
僕は机で、ミコはテーブルで宿題に手を付けていく時間が流れていく。勉強している時の彼女は真面目でお喋りすることもない。それに従って僕も無言のまま宿題を進めていく。前の時間軸と違うところは、学年首席のアドバイスを受けられないことで一部の問題に物凄く手間取ること。でも、去年の夏にやったのとほぼ同じ内容なのである程度のところまでは朧気ながらでも覚えているので全体的には容易。午後5時を迎える頃にはそれなりに進めることができた。
「5時を過ぎたわけだけど。どうする? 夕飯をうちで食べていく?」
同棲している訳でないので、彼女の行動にはお伺いを立てる必要性がある。
「う~ん。帰る。お母さんはもう仕事に出掛けている筈だし、代わりにお手伝いさんが夕飯を作ってくれている筈だから」
聞きようによってはかなりしょっぱい答えが返ってきた。去年の超絶エロ可愛かったミコの見えていなかった裏側を見ている気分になった。
「家まで送ってよ」
「あっ、うん」
ミコに言われて僕も外出の準備をする。彼女との距離感が僕にはどうにも掴めない。
「悪い人と一緒に歩いている方が、悪い子って感じがするもんね」
「まあ、そうだよね……」
ミコ理論はよく分からない。でも、今日は勉強しただけでほとんど喋ることもなかったので一緒に過ごせる時間が増えることは素直に嬉しい。
それから僕は彼女を家の前まで送って行った。僕は元々口数が少ない方で、ミコも相槌を打つぐらいで積極的に喋ったりはしなかった。会話が弾んだとは言えなかったけれど、僕にとっては楽しいひと時だった。
「じゃあ、また明日行くから」
別れ際、ミコは素っ気なく明日の予定を伝えてくれた。
「明日はお父さんがいるから」
「あ、うん。分かった」
ミコはよほど家族と一緒にいることに苦手意識を持っているようだ。
そして僕は思ってしまった。両親が伊井野家にいる時間が増える程に僕がミコと一緒に過ごせる時間が増える。両親にもっと家に居て欲しいと。
ミコと一緒に居たいが為に、ミコにとっては気分の良くないシチュエーションを願ってしまった。
僕とミコの夏休みはこうして始まりを告げたのだった。